千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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96話:2個目はどうする?

 

「やったか!?」

「これって……」

『はい。私達の勝ちです』

 

 ミサイルが直撃するウトナピシュティムの本船。

 木々に絡めとられて、クッ殺状態になる連邦生徒会長。

 そして、生徒殺しから解放されて、()()()()()()()()()我らがBluetooth銃さん。

 アロナが、その事実にこの勝負は私達の勝ちだと宣言する。

 

 

「──ん、世話の焼ける」

 

 

 だが、そんなフラグを立て過ぎたせいだろうか。

 勝利の余韻を味わう間もなく、状況は移り変わる。

 

「ありがとうございます。シロコ*テラーさん」

「油断しすぎ。一応は協力者なんだから、しっかりして」

 

 ワープして来たシロコ*テラーが、連邦生徒会長の拘束を解く。

 

「あ、大きい方のシロコちゃんだ!」

「………ユメ先輩」

「シロコちゃん、連邦生徒会長ちゃん、ちょっとお話しよ?」

 

 せっかくの拘束が解かれたというのに、ユメは気にせずに笑いかける。

 だって、最初から彼女は2人とお話をしに来ていたのだから。

 

「……話すことなんて何もない」

「そ、そう? でも、シロコちゃんずっと辛そうな顔してるし……」

「…!?」

「そういう時は誰かに話した方が楽になれるって言うよね? そうしたら、また笑えるようになるから。『うへ~』って感じで」

「………先…輩」

 

 ユメの顔とホシノの顔が被る。

 温和な顔で自分に笑いかけて来る、大好きだった先輩。

 他ならぬ自分達がヘイローを破壊した親代わりの人。

 

「シロコ*テラーさん。気をしっかり持ってください。ユメ先輩と話すと、覚悟が揺らぐ気持ちは分かりますが……私達には譲れないものがあります」

「うん…分かってる……」

「そ、そんなこと言わずにお話しようよ? みんなで協力したら、ハッピーエンドが待っているかもしれないよ?」

 

 ユメはバカでアホで、現実を知らない夢見がちな少女だ。

 そのくせ、実力はクソ雑魚ナメクジなので言葉に説得力などない。

 だが、クソガキ時代のホシノが助けなければならないと思って近づいたように、不思議なカリスマがある。

 そして、そのカリスマは幸か不幸か柱間に近い。

 

 つまり、扉間の教えに感銘を受けた生徒には特効が刺さるのだ。

 

「……妙だな」

『どうかされましたか、先生?』

「なぜ、あちらのシロコ()()()ワープで動いて来れたのだ? ワープはウトナピシュティムの本船の能力だと思っていたのだが……」

 

 そんな3人の様子を観察しながら、扉間はあることに気づく。

 ウトナピシュティムの本船の演算機能は一時的に、サンクトゥムタワーからの指示で止まったはず。

 

「仮にアトラ・ハシースの箱舟も同じ能力が使えるのなら、ミサイルも、拘束も全てワープで躱せたはず……なぜ、シロコ()()()ワープ出来たのだ? ウトナピシュティムは無理にしても、仲間の連邦生徒会長程度なら動かせるはずだ」

 

 だというのに、シロコは平然とワープを行ってきた。

 つまり、それが意味することは。

 

「ん、簡単な理由。私と連邦生徒会長は単なる協力者だから。真の仲間じゃない」

「碌に連携を取る気はないということか……」

 

 連邦生徒会長とシロコ*テラーはぶっちゃけ、仲が悪いということだ。

 可哀想な連邦生徒会長。ひとえに、てめえが無駄にシロコ*テラーを煽ったせいだが。

 

「ふぅ……必要なのは全員での結束。私的な争いは後にしろと、お前には教えたはずだがな……シロコ」

「奥の手は最後まで取っておくもの。これも先生から教わったこと」

 

 特に悪びれる様子もなく。教えを守っただけだと告げるシロコ。

 やはり、卑の意志を最も強く受け継いでいるのは、砂狼シロコだったのだ。

 

「それに……アトラ・ハシースの箱舟には別にやることがある。あの虚妄のサンクトゥムはアトラ・ハシースがエネルギーを送っているから」

「あ! そうだ、シロコちゃん! 私に赤い塔のことで嘘をついたよね? ダメだよ、嘘つきは泥棒の始まりなんだから!」

「………遅いよ」

 

 ユメが自分を騙したことではなく、後輩が嘘をついたことを叱る。

 そんな、場違いなお説教にシロコ*テラーは何とも言えぬ表情を見せる。

 アビドスがとっくの昔に強盗団を結成していたことを知ったら、果たしてユメはどんな顔をするだろうか? 

 

『ですが、虚妄のサンクトゥムは既に5つは破壊しています。ここ、ミレニアムからも消えています。後は、D.U.にあるものだけ……チェックメイトです!』

 

 アロナが指摘するように、虚妄のサンクトゥムは既にトリニティ・ゲヘナ・百鬼夜行・アビドス、そしてミレニアムにて破壊されている。残り1つ。D.U.のものを壊せば、虚妄のサンクトゥムの時限爆弾の脅威は終わる。

 

「流石だね、先生」

 

 王手をかけられた状態。

 だというのに、シロコ*テラーの顔に焦りは見られない。

 その理由は単純明快。

 何故なら──

 

 

「それじゃあ──2個目はどうする?」

 

 

 2周目(おかわり)があるからだ。

 

「2個目…だと!?」

「うん、最後の6つ目の虚妄のサンクトゥムは他のサンクトゥムのバックアップ。他が壊されても、もう一度塔は出現する」

『そ、そんな…!』

 

 苦労して壊した虚妄のサンクトゥムの再出現。

 その事実に、アロナは思わずうろたえた声を出してしまう。

 

「ええ!? じゃ、じゃあ、アビドスのも…?」

「ん、特にアビドスはピンチ。人の居ないアビドスなのに、全員でここに来てるから……人が居ないのに…人が居ないのに……」

「ど、どうしよう先生! アビドスは今誰も居ないよ!?」

 

 アビドスには人が居ない。

 重ねて繰り返すが、アビドスにはユメの前の代から人が居ない。

 つまり、一度外に出ると防御できる人間が居ないのだ。

 アビドスを知り尽くしたシロコらしい作戦と言えるだろう。

 何故か、言ってる本人もダメージを受けているようにも見えるが。

 

「今まで2個目を発動させていなかったのは、ワシらを引き付けて距離を離すためか……卑劣な手を考えおるわ」

「ん、卑怯卑劣は誉め言葉」

 

 相手をおびき寄せて縛り、限界まで隠していた兵を出現させる。

 2番目、覆面水着団員の卑劣な策だ。

 

『連邦生徒会長、シロコ*テラーさん。先程のミサイルのダメージを、並行世界のウトナピシュティムとの同期によって回復しました。また、サンクトゥムタワーとの通信の完全な遮断に成功しました』

『黙ったままだと思ったら、いつの間にそんなことを…!』

 

 そして、更に絶望感を煽るようにウトナが復活の宣言をする。

 これで、起死回生の一手が完全に潰されてしまったと、アロナは唇を噛む。

 

「大丈夫そうだね。じゃあ、私は戻るね」

「この状況で押しきらずに戻るだと…?」

 

 ウトナの復活を見届けたシロコ*テラーは役目は終わったとばかりに、ワープを行おうとする。

 そのあまりにも余裕に満ちた行動に、扉間は困惑する。

 弱った相手はしっかりと叩けと教えていたはずなのに、どういうことだ…? 

 

「さっきは2個目って言ったけど……虚妄のサンクトゥムはアトラ・ハシースの動力があれば、いくらでも再生できる」

「じゃ、じゃあ、ずっと壊し続けないといけないの!?」

「つまり……時間をかければかける程、こちらのリソースを割くことに繋がると言う訳か」

「ん、そういうこと。私はそこの連邦生徒会長と違って、先生相手に油断も慢心もしない。抵抗できる芽を時間をかけて、1つずつ摘んでいくから」

 

 穢土転生のみならず、虚妄のサンクトゥムもまた無限リスポーン機能付きだ。

 まあ、流石に即座にとはいかないが、それを教える義理もないのでシロコ*テラーはそれ以上は語らない。

 相手が焦って、ミスをしてくれれば儲けものだ。

 じっくりと時間をかけて、対抗策を全て潰す。

 

「じゃあね、先生。それと一応言っておくけど………先生は別に死ぬ必要はないよ」

「何?」

「先生は神秘を持っていない。()()()()の狙いとは別。キヴォトスの外に逃げてくれれば……」

 

 別に殺さないで済む。

 シロコ*テラーは、そう言外に告げる。

 だが、扉間は考えることすらせずに、あっさりと答える。

 

「馬鹿を言うな。囮役はもちろんワシがやる……()()()はこれからのキヴォトスを担っていく、若きの火の意志達だ」

 

 未来を担っていくのは、自分ではなく、目の前のお前達なのだと。

 そう、敵であるシロコ*テラーに告げるのだった。

 

 

「……そうだね。先生はそういう人……だから──真っ先に犠牲になる」

 

 

 瓦礫に潰され、白い髪が赤く染まり、腹と両腕が潰れ、片足の関節が逆方向に曲がって、顔の半分が潰れた姿になってでも、鉄の仮面をつけて戦い続けた世界を欺く者(プレナパテス)

 その姿を思い出して、シロコ*テラーは寂しそうに笑いながら消えていくのだった。

 

「……帰っちゃいましたね。まったく、シロコ*テラーさんは相変わらずなんですから」

『連邦生徒会長、私達はどういたしましょうか?』

「うーん……このまま戦おうか、戻ってサンクトゥムタワーを奪還しよっか……」

 

 マイペースにワープしていったシロコ*テラーに、ちょっと呆れながら連邦生徒会長は考える。

 このまま攻めるか。それとも、一度サンクトゥムタワーを奪還しに行くか。

 扉間の誕生日をお祝いに来たせいで計画が狂ったので、今度は冷静に動く。

 ガバチャーの修正をオリチャーでやるのが、キヴォトス崩壊RTA走者の腕の見せ所である。

 

「……ねぇ、連邦生徒会長ちゃん」

「どうしましたか? ユメ先輩」

 

 そんな所へ、ユメが声をかける。

 

「輪廻天生の術…? っていうのを、この大人のカードで使いたいんだよね?」

「はい、その通りです。そして、私の世界の先生を蘇らせるのが私の目的です。もちろん、もう一度私に協力してくれれば、ユメ先輩も完全な形で蘇らせてあげますよ? ……まあ、オシリスの神秘である、あなたには不要かもしれませんが」

「? 良く分からないけど、私が言いたいことは──」

 

 とてつもなくシンプルな疑問。

 まるで、幼い子供が親に尋ねるような純粋な質問を行う。

 

「──どうして、直接先生に頼まないの?」

 

 どうして、扉間に直接協力を仰ごうとしないのかと。

 

「こんな酷いことをしなくても、『助けて』って一言言えばいいんじゃないかな?」

「………それは」

「あ、もしかして、もう聞かれてダメって答えてたんですか? 先生」

「特に聞かれてはおらんな。並行世界のワシは知らんがな」

 

 答えに窮する連邦生徒会長に対して、もしかして私の確認不足かなという顔をする、ユメ。

 それに対して、扉間は首を横に振る。

 内心は協力する気がないが、そもそも聞かれてすらいないのも事実だ。

 

「? やる前から諦めてたら、何も変えられないよ? ほら、先生にお願いしようよ。一緒にお願いしてあげるから」

『これは……まさか、ユメさんが寝返ったのですか!?』

「ただのお人よしだろう。どうせ、大して考えておらん」

 

 先輩らしく、後輩を助けてあげようとする、ユメ。

 今まさに敵対して、自分を操っていた相手に実にお人よしである。

 昔のホシノの苦労がしのばれる。

 まるで、兄者に振り回されるワシのようだ……。

 

「ただ、まあ……ユメの言うことにも一理あるな。話し合いで解決できるのなら、それが一番だ」

「っ! 輪廻天生の術を使ってくれるんですか!?」

「いや、使わんが?」

 

 恐ろしく速い、否定。

 オレでないと見逃しちゃうね。

 

「あ、あの、もうちょっと考えてあげても……」

「失った者ばかり見つめて、後ろ向きにしか生きられん者など全盲と変わらん。過去は過去として扱い、前を向いて生きろ」

「あはは……やっぱり、先生はそう言うんですね……」

 

 安定のマジレスに、連邦生徒会長はやっぱりと乾いた笑いを浮かべる。

 

「でも、私はただの後ろ向きじゃありませんよ。地球は丸いんですから、後ろ向きに進み続ければいつかは前に出てきます」

「前向きに一歩でも進めば、それだけでゴールにたどり着くぞ? 時間の無駄だ。もっと建設的な時間の使い方をしろ」

「時間は私にとっては無限に等しいので」

 

 ああ言えば、こう言う。

 まるで、反抗期の娘のようにイヤイヤと抵抗する連邦生徒会長。

 口の回る子供が、大人に嫌われるお手本のような行動である。

 

「はぁ……それでなんだ? ワシが大人のカードで死者蘇生する可能性がまだあると思っているのか?」

「………()()()()()。先生は強い人ですから」

「だったら、さっきのワシの言葉は聞いていただろう? 時間の無駄だ。もっと建設的な時間の使い方をしろ」

「逆にお聞きしたいですけど、どういった状況なら先生は輪廻天生の術を使いますか?」

「ワシがボケた時だろうな。真っ当な思考力を失い、耐え忍ぶことを忘れたのならば、可能性はある」

 

 生き方を忘却でもしない限りは、あり得ないと断言する扉間。

 柱間から学んだ耐え忍ぶ心。それを失うという、扉間にとっての最悪の事態。

 そんな、連邦生徒会長的にも解釈違いな状況にでもならないと、連邦生徒会長の目的は達成されないのだ。

 

「そもそも、たった1人に救われる世界など健全なものではない。神の奇跡に縋るのではなく、他者と手を取り合って歩むことの方が重要だ」

「それは世界が滅ぼされてもですか? 1人の犠牲で全ての人間が救われる……そんな()()()になれるような状況でも何もしないんですか? 神の如き力が、その手の中に握られているというのに」

 

 少し拗ねたように、扉間を非難する連邦生徒会長。

 それは、彼女の在り方そのものを否定されるようなものだったから。

 

「大体、先生だっていつも…いつも…囮役は自分で行くじゃないですか? 一体それと何が違うんですか?」

「そういった状況に追い込んでくる相手に言われてもな。お前が言うなとしか返せんぞ? 言葉とは何を言うかよりも、誰が言うかの方が重要だ。正論で世界は救えんぞ」

「いつもは先生の方が正論しか言わないのに!」

 

 囮役はもちろんオレが行く、と、オレが世界を救う。

 その違いを意地悪く尋ねて来る連邦生徒会長だが、扉間にあっさりとあしらわれてしまう。

 悪人の言葉が正しくても、誰だって反論するのが普通だろうと。

 マダラに争いは醜いとか言われても、『てめえのせいで、戦争が終わらねぇんだろうが!』とキレたくなるようなものだ。

 

「誰も死なないように足掻くのと、終わったことを自然の摂理に反して覆そうとするのは別物だ」

「その自然の摂理に反することを求めて何がいけないんですか? 人も神も戦うことで進化して来た存在です。先生の平和への願いも、自然の摂理に反していると言えますよ」

「そうだな……確かに一理ある。ワシの言葉に正当性はないな」

 

 連邦生徒会長の反論に、確かにそうだなと頷く扉間。

 所詮、人間は平和を求めながら闘争を欲する存在でしかない。

 マダラの言うように矛盾を抱えた生き物だ。おまいう案件だが。

 

「だから、これはワシの個人的な感情論だな。そしてお前の言葉もだ」

「同じ感情論のぶつかり合いなら、辿り着く終着点は同じでしょう? 先生もよくご存じの……終わりのない戦争です」

「ああ、その通りだ。だが、お前の愛する者を蘇らせたいという感情論を聞いた以上は、ワシの感情論も聞いてもらうぞ」

 

 どちらも感情論。

 子供の頃から『ルールを作らない大人はバカ』と言ってきた扉間には珍しいこと。

 否、もっと感情的に叫んでもいいのだと、自らの生徒から学んだことだ。

 

 

「──お前(むすめ)には親の死を乗り越えて、幸せになって欲しい。真っ当に生きて欲しい」

「…ッ」

 

 

 扉間が告げる言葉は愛。

 連邦生徒会長が扉間に向ける(あい)とは別種のもの。

 親から子へと注がれる無償の愛(アガペー)だ。

 

「我が子がこのような道を外れた行いをして……おまけに己まで傷つけて……そんな姿を見たい父が居ると思うか?」

「それ…は……」

 

 連邦生徒会長が初めて揺らぎを見せる。

 無償の愛(アガペー)とは、見返りを求めぬこと。

 それは言い換えれば、恩返しどころか、恨み言すら相手には返せないということだ。

 

 否、届いたとしても相手の心を揺らすことなどできない。

 たとえ、恨まれようとも、ただ抱きしめる。

 それが親から子への無償の愛なのだから。

 

「父として、兄として、先生として、お前に頼む。やめてくれ、これ以上愚かな行為で自分や生徒(かぞく)を傷つけるのは……やめてくれ」

 

 それは嘆願。

 純粋な想いからくるそれに、正論による反論など意味をなさない。

 愛とは、合理性を超越したものを示すことは、他ならぬ彼女自身が証明しているのだから。

 

「………A.R.O.N.Aちゃん。一度引いて態勢を立て直しましょう」

『……了承しました。ウトナピシュティムの本船も、まだ完全な回復には至っていません。一度引いて、万全な状態を整えるのは合理的な選択だと考えます。相手はトビラマ先生。先程のような私達を倒す仕込みを、息を吐くように行っていても何の驚きもありません。そして、立て直しが可能な時に、一時的に撤退することは古くからの戦術で有用性が証明されています。帰りましょう』

 

 扉間から目を逸らして、逃げるようにワープを行う連邦生徒会長。

 ウトナも、そんな連邦生徒会長の指示を無理やり肯定するように、長々と告げながら続く。

 

「それでは、また会いましょう。先生、ユメ先輩、もう1人の私。次に会う時が……私達の最後の戦いになるでしょうから」

「心変わりはないか……諦めが悪いな」

「はい、大好きな人に似たんですよ、きっと。それと、重ね重ねですが──」

 

 内心では、諦めてもいいのではないかという弱音が、鎌首を持ち上げている。

 だとしても、連邦生徒会長は止まらない。

 だって、ここで足を止めるということは──

 

 

「お誕生日、おめでとうございます。これは嘘偽りのない私の本心です」

『遅れましたが、私からもお誕生日おめでとうございます、先生』

 

 

 自らの失恋を受け入れるということなのだから。

 

「……知っておるわ、そのぐらい」

 

 まるで、幻だったかのように、影も形もなく消え去る連邦生徒会長とウトナ。

 その幻影に、扉間はポツリと小さな声を零すのだった。

 

 

 

 

 

「アビドスどうしよう……」

「ミレニアムはこのままの流れで、もう一度赤い塔を破壊すればいいですけど……他の学校は大丈夫ですか、先生?」

 

 連邦生徒会長が消えたので、一先ずユウカ達と合流することにした扉間とユメ。

 因みにネルやアリス達は、現在負傷者の治療の手助けを行っている。

 

「連邦生徒会長との戦いで傷ついた生徒の容体はどうだ?」

「みなさん、命に別状はありません。ただ、しばらく動けそうにないみたいです」

「そうか……ホシノはちゃんとベッドで寝ているか?」

「ホシノさんですか?」

 

 2個目の虚妄のサンクトゥムをどうするか頭を悩ませるが、まずは先程傷ついた生徒の確認が先だ。

 扉間はノアに確認を取る。

 

「アビドスの危機を知れば、あいつはすぐにでも飛び出していきかねんからな」

 

 特に、アビドスのためなら這ってでも戻りそうなホシノを中心に。

 

「うん……ホシノちゃんは頑張り屋さんだからね」

「特にそういった状況にはなっていないと記憶していますが……要注意人物として伝えておきますね」

「ノア、わざわざミレニアムを助けに来てくれた人に失礼よ」

「構わん。目を離せん奴なことに変わりはない」

 

 ユメとの再会で、メンタルが安定したホシノだがそれはそれ、これはこれ。

 本人が強すぎるので『私がちょっと無茶すれば、いけるかな』とナチュラル強者の思考をする。

 なので、目を離すと無茶をやりかねないのは今も昔も変わらない。

 やはり、後輩達に監視させておくべきだろう。

 

「こうなった以上は、致し方ない。ワシが動く!」

「そういう先生もですよ?」

「……どうしたコユキ?」

 

 動けぬ…!? 

 コユキから、咎められるように告げられて、扉間は動きを止める。

 

「はい、先生も一度安静にするべきだと思います」

「先生も、明らかに傷を受けているように見えますが?」

「ダメですよ、無茶をしたら楽しいことも出来なくなっちゃいますよ」

「フゥー……ワシも、もう若くはないからな。少し休むとしよう。連邦生徒会長の落とした、Bluetooth銃の解析もしたいからな」

 

 ユウカ達からの指摘に目を逸らす、扉間。

 扉間とて、寝込んでいるモモイ達と同じ攻撃を受けたことに変わりはない。

 死んでいないとはいえ、無茶を続ければ倒れるのは簡単に予測できる。

 しかも、か弱い生徒の純粋な心配。

 反論の言葉がない。

 

「だが、分身は出す。それなら問題はないだろう」

『そういう所ですよ、先生』

 

 だが、はいそうですかと素直に、安静にしておく男でもない。

 分身なら問題はないだろうと言って、アロナに呆れた目を向けられる。

 

「……話を戻すぞ。2個目の塔だが、守護者とも呼べる穢土転生が追加されん限りは、一時的には現有戦力で対処可能なはずだ……アビドス以外はな」

「ど、どうしよう……他の子はみんな治療中だし、やっぱり私が戻るしか」

 

 トリニティとゲヘナは戦力が充実している。

 百鬼夜行も、戦力が少ないとはいえ単なる雑魚程度なら対処できる。

 そして、ミレニアムは最強戦力のC&Cは無事。

 アビドスだけが壊滅状態なのだ。

 

「………ノア、こっちは頼める? 私がアビドスの助けに行くわ」

「え!? だ、大丈夫なの…?」

「詳しくは知りませんけど、会長がユメさんはミレニアムの危機を救った恩人だと言っていましたし。それに……困ったときはお互い様です」

「ほ、本当!? やっぱり、人助けはするものだよね!」

 

 アバンギャルド君Thousand(サウザンド)を倒した上に、連邦生徒会長の足止め。

 仕事をしまくっているユメに対して、ユウカは今度は自分達が助ける番だと笑う。

 

「私がミレニアムに残るのは構いませんけど……ユウカちゃん以外にも、アビドスへ行く有志を募らないと流石に心許ないですね」

「私は行ってもいいですけど、弱っちいので戦闘だと大して力になれませんよ」

「う……どこかに、都合良く浮いてる戦力とかないかしら」

 

 しかし、ノアが指摘するようにユウカ1人ではどうしようもない。

 焼け石に水だ。

 

「ううん、大丈夫だよ! 今の私には先生の大人のカードがあるから! 道案内とかしてくれるだけでも、大助かりだよ!」

「地元の人を道案内…?」

 

 だとしても、ユメはニッコリと笑う。

 困っている人が居たら助けてあげる。

 そんな、当たり前で一番難しいことを実践している子が、他の学校にも居たんだと嬉しそうに。

 

「いや……待て。浮いている戦力に心当たりがある。おまけにアビドスに近い。そやつらを動かせば、ワシらが動かんでも対処が可能なはずだ」

「え? そんな所ありましたか…?」

 

 ユメがクエスチョンマークを浮かべる中、扉間はコユキの方に向き直る。

 遥か昔のように感じるが、カイザーPMCの基地でコユキと会話した内容を思い出したのだ。

 

 ──ついでに理事さんを見張ってたら襲われてたので、ヒマリ先輩が防火シャッターとかを動かして守ってあげてました! ……これって謝礼とか期待してもいいですかね? 

 

「コユキ、カイザーPMC理事への謝礼の件だが……()()()()はいくらになると思う?」

「ッ! に・は・は・は! それはもちろん──言い値で!!」

 

 こうして、カイザー理事への恐喝(2回目)が決定したのだった。

 

 

 

 

 

「くッ! 我々もプレジデントの逮捕で大忙しだというのに…! だが、ここで千手トビラマに借りを返しておかねば、後でどんな要求をされるか分かった物ではない!」

 

 そしてこちらは、命を助けてやったお礼に戦力を出せと()()()()PMC理事。

 トップが消えたことで、カイザーグループは混乱の真っただ中だが、扉間のお願いを無視はできない。

 

(おまけに、こちらの監視カメラなども簡単にハッキングされている……逃げ場などない!)

 

 そして、ヒマリとコユキのハッキングで監視していたのも合わさり、いつでも消されるかもしれないというプレッシャーが、肩に重くのしかかっているのだ。

 

「理事長。部隊を纏め終わりました」

「すぐに出発しろ! 目標はアビドス砂漠に突如として現れた赤い塔だ!! 壊すだけで構わんそうだ。手段は問わん、ミサイルでも戦車でも、ゴリアテでも好きなだけ使え! 金のことは心配するな!」

 

 部下に指示を飛ばして、虚妄のサンクトゥムの破壊に向かわせる、理事。

 だが、それで安心という訳ではない。

 

(千手トビラマの要求は、アビドス砂漠の塔の破壊と()()()()()のためにカイザーPMCの戦力を貸し出すこと…! 更なる戦力が必要なのは明白!)

 

 事態の収束まで戦力を貸せ。

 つまり、塔の破壊だけでなく各地への派遣なども要求されかねないのだ。

 避難誘導に、市民の護衛。雑魚敵の駆除。やることはいくらでもある。

 だが、断れない。言い値で雇われてしまった傭兵の辛い所である。

 そこらへんは、扉間本人が傭兵(にんじゃ)だったので、ちゃんと契約してない奴には容赦がない。

 

「こうなれば、動かせる人間全員に連絡を送るべきか…!」

 

 そのため、理事は最悪の事態を想定して泣く泣く全傭兵に連絡を飛ばす。

 お金が凄い勢いで溶けていくが、命には代えられないのでしょうがないね? 

 

「理事長! 緊急でのご報告です!」

「どうした?」

「赤い塔に近づくにつれ、隊員に精神の錯乱が確認されています!」

「なに!?」

 

 そして、今まで生徒とアロナガード付きの扉間ぐらいしか塔に近づいていなかったせいで、気づかれていなかった特殊能力がPMC兵士の接近で判明する。

 虚妄のサンクトゥムはアトラ・ハシースの箱舟が出したもの。

 そして、そのアトラ・ハシースには人格と意識に影響を及ぼす“色彩”の力が使われている。

 つまり、ある程度の実力が無いと、その精神攻撃に狂わされてしまうのだ。

 

「生徒への影響は少ないことから、ヘイロー持ちなら無事な可能性が高いかと……」

「くッ…! 生徒をぶつけるしかないのか……だが、今の我が社には生徒の傭兵は居ない、軍事学校の入学予定者を先に使うか? だが、開校前ではド素人も同然」

 

 生徒である必要がある。

 しかし、PMCはわざわざ便利屋に依頼を出すほどに、生徒との関わりは薄い。

 そして、頼みの軍事学校もまだ開校前。

 動かせる人間が居ない。

 

「いや…! 彼女ならば、もしかすれば!」

 

 だが、理事の頭にたった1人ではあるが、生徒が思い浮かぶ。

 実力は十分。だが、あくまでも過去にPMCに所属した生徒。

 しかしながら、そこに賭けなければ扉間から()()()()()判定を食らいかねない。

 

「頼む…繋がってくれ!」

 

 そんな焦りと不安の中で、理事は過去の書類から、とある生徒のデータを引っ張りだす。

 プルルル…プルルル…と無機質なコール音だけが理事の耳に響く。

 やはり、ダメか。

 そう、思った時。

 

『………PMCが私に連絡とはな。縁はとっくの昔に切ったと思っていたが』

 

 電話は繋がった。

 

「ッ! 昔のことは水に流そう! 君の強さを見込んで依頼が…いや! お願いがあるのだ! 報酬なら相場の10倍払う!」

『金に興味はない。そもそも私は今は()()()()()()の人間だ』

「待て! 話だけでも聞いてくれ! 君には──」

 

 だが、相手の口調は本人の不愛想な性格を差し引いても、非常に硬い。

 退職した会社から電話がかかってきて、気が乗らないけどなんか必要な内容かもしれないから、無視をするのもあれだなぁという感じで電話に出ただけだ。

 なので、電話の向こう側の生徒は、適当にあしらって断ろうと考え。

 

 

「──アビドスを救うのに協力して欲しい!!」

『……アビドスを…?』

 

 

 アビドスという地名に、愛憎入り混じった声を零すのだった。

 

 

「──朝霧(あさぎり)スオウ!」

 

 




次回はアル様の再登場回です。
3/7に投稿します。

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