千手扉間のブルーアーカイブ   作:トマトルテ

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98話:アウトロー

『テレビの前の皆様、ご覧ください! 今、まさに! D.U.シラトリ区でとんでもない事態が発生しています!!』

 

 D.U.の上空に浮かぶヘリに乗った、報道部のアイドルこと川流シノンの声が、画面越しに響き渡る。

 

『連邦生徒会長が帰還したという、真偽も分からない情報で混乱が広がる中! なんと、なんと! 長年キヴォトスの中心にそびえ立ち続けた、サンクトゥムタワーが跡形もなく──崩壊しました!!』

 

 テレビ画面に映し出されるのは、D.U.の中心であるシラトリ区の変わり果てた姿。

 無残にも瓦礫の山と化したサンクトゥムタワー。巻き込まれて崩壊した街並み。

 因みに虚妄のサンクトゥムは、最初から物質ではなかったのか、霧のように消えてしまっている。

 流石のマスコミも、これがよもや行政官自らの指示が引き起こした結果だとは思わない。

 

『まるで世界の終末のように赤く染まった空! 各地に出現した人を狂わせる謎の塔! 黙示録を思わせる謎の敵達! そして、空に浮かぶ謎の宇宙戦艦! これらの騒動が、全て無関係とは思えません! これは間違いなく、何者かの邪悪な企みの仕業に違いありません!!』

 

 シノン的には番組を盛り上げるために、陰謀論的に話を盛って話しているつもりなのだが、意外と的を射ている。

 これも全部、連邦生徒会長ってやつの仕業なんだ(ガチ)。

 

『こうした時に、大抵裏で一枚噛んでいそうなカイザーグループですが、今回は何と各地に兵力を貸し出しているそうです! ビックリですよね? まさか、あのカイザーグループが慈善活動を行うなんて……え? スポンサーの親会社が──』

 

 突如として映像が乱れる。

 マスコミとはスポンサーが居ないとお金が無くなる存在。

 そして、カイザーグループはキヴォトス1の会社どころか財閥に近い存在。

 探せばどこかのスポンサーと関係があるので、スポンサーに怒られたのである。

 

『──失礼いたしました!! カイザーグループはきっと心を入れ替えて、正義の企業になったんでしょう! にわかには信じられませ──あ、はい。ごめんなさい! 報道に戻りますね! 戻ればいいんですよね!』

 

 ディレクターの部長から『リポーターを変えるぞ?』というカンペと、首を斬るジェスチャーを見せられたシノンは大慌てで話を元に戻す。

 言論の自由? 言うのは自由だが、自由には責任が伴うぞ? 

 

『とにもかくにも、各地ではこの騒動を治めるために、各学園やシャーレのトビラマ先生が動いているそうです。ただ、情報が混乱しているのかトビラマ先生の目撃情報が、各地で多発しています! しかも、以前のフェイクニュースの時とは違い、同時刻での写真や動画などの情報提供もあるという摩訶不思議な状況……AIのディープフェイクですかね?』

 

 各地での扉間の複数の目撃情報。

 以前、カイザージェネラルをおびき寄せるのに流した、フェイクニュースのせいか、これも偽装かなと疑われているが、みなさんのお察しの通り影分身である。

 忍術を知らない人間から見たら、扉間のドッペルゲンガーが多発しているようなものだ。

 

『災害の時にこうした悪質なフェイクニュースを流すのは、罪に問われる行為なので絶対に止めましょうね?』

 

 お前達が言うな。

 そんなツッコミが画面越しに聞こえてきそうな、シノンのセリフだが事実なので仕方がない。

 

『ん? おっとォ! 瓦礫の山の中に人影が!? 操縦士さん、もっと近づいて貰えますか? カメラはもっとズームで!』

 

 そんな中、シノン達がサンクトゥムタワーの瓦礫の上に立つ人物を発見して、カメラに映す。

 

「け、結果オーライで良いのかしら? あの塔は壊せたんだし……」

『あ、あれは! ──陸八魔アル!?』

 

 

 裏社会の生きる伝説(アウトローレジェンド)、陸八魔アル率いる便利屋68の存在を。

 

 

「社長……いくらなんでも、周りの被害が酷くない…? 家とか店とか、駅とかがグチャグチャ……」

「……これ全部、あっちのシロコちゃんがやったことになんないかなぁ」

 

 間一髪のところで、サンクトゥムタワードミノから逃れることに成功した、便利屋達。

 4人は取り敢えず、仲間達の無事を確認しつつ、瓦礫の上に登って高所から状況を確認している。

 

「あの…せ、先生の姿が見えない気が……ほ、本当に消えてしまったんでしょうか…?」

「分身って言ってたし、大丈夫じゃない?」

「そう言えば、並行世界のシロコも消えたような……ワープで逃げた?」

 

 因みに扉間は逃げきれなかったので消えて、情報を各地の分身と本体に伝えている。

 自分が消えた後のこと? まあ、便利屋なら逃げるだけなら何とかなるだろうと信頼しているのだ。

 だが、それがいけなかった。

 

 

『破壊したサンクトゥムタワーとD.U.を眼下に、まるで人がゴミのようだと言わんばかりに、悠々と高みの見物…! 間違いありません! サンクトゥムタワーの崩壊の犯人は──便利屋68です!!』

 

 

 扉間という身元保証人は消えた。敵であるシロコ*テラーも居ない。

 つまり、現場に残ったのは便利屋だけ。

 その事実からクロノス報道部により、サンクトゥムタワー崩壊の犯人に仕立て上げられてしまうのだった。

 え? 冤罪じゃない? まあ、それならアルちゃんも納得するか。

 

『銀行強盗…ゲヘナ風紀委員会を撃破…SRT特殊部隊と死闘を繰り広げて、ブラックマーケットを火の海へと変えた真紅の夜(ローズナイト)…不良達とカイザーPMCを率いてのシャーレへの襲撃…自分達からヴァルキューレを襲うという狂犬っぷり…その果てにキヴォトスの象徴であるサンクトゥムタワーを崩すなんて…!』

 

 全盛期、陸八魔アル伝説。

 

 ・カイザーローン本店を襲撃。僅か5分で1億円を強奪する。

 ・キヴォトス最強と言われるゲヘナ風紀委員会を撃破。

 ・ブラックマーケットで、PMCとマーケットガードを相手に大立ち回りを見せる。

 ・SRT特殊部隊と死闘を繰り広げてブラックマーケットを火の海に変える。

 ・不良達とカイザーPMCを率いて、連邦生徒会のシャーレを襲撃する。

 ・シャーレの先生を土下座で謝らせた。

 ・たった一度、恩を受けた相手を助けるためだけに、ヴァルキューレを襲撃。

 ・その後、矯正局に入るがシャーレの先生の手引きにより悠々と出所。

 ・連邦生徒会の本拠地であり、キヴォトスの象徴であるサンクトゥムタワーの占拠を行う。

 ・占拠したサンクトゥムタワーを派手という理由だけで粉砕し、D.U.を瓦礫の山に変えた。

 

 シノンが知らないことは省かれているが、大体は全盛期、陸八魔アル伝説と同じ内容である。

 

『まさに、悪魔を超えた悪魔! 赤い光に照らされるその立ち姿からは、もはや神々しさすら感じてしまいます! 矯正局に収容されているはずですが、おそらくはヴァルキューレがこの混乱で出払った隙に乗じて、脱獄したに違いありません! そして、脱獄と同時に連邦生徒会へのお礼参りとして、サンクトゥムタワーを破壊したのでしょう!!』

 

 おい、さっきのフェイクニュースへの注意喚起はどうした? 

 そんな、デマを捲し立てるシノンだが、それどころではないアルは引き攣った笑みを浮かべるだけだ。

 もはや、笑うしかないのだ。

 

『わ、笑っています! ……何という邪悪! 吐き気を催す邪悪とは、彼女達のことをいうのでしょうか!?』

「フフフ………もう、よく考えずに派手にやるのはやめるわ」

「私も、アルちゃんを乗せるのは、ほどほどにしようかな……」

 

 一歩でも間違えれば。

 というか、物理的に一歩でも足りなければ、仲間と共にペチャンコになっていたかもしれない。

 それを理解して、流石のアルとムツキも反省しているだけだというのに、どうしてこんな悪人面になってしまうのだろうか? 

 やはり、(アウトローの)天才か…! 

 

「あの……お話の最中にすみません」

「ハルカ?」

「あの空に浮かぶ船は、なんでしょうか…?」

 

 そして、一難去ってまた一難。

 アルちゃんのハードモードはまだまだ続く。

 

「A.R.O.N.Aちゃん…帰って来たとたんに…わ、私の家が……」

『ホームレス……』

「ゆ、許しませんよ……陸八魔アル!」

 

 我らが連邦生徒会長のお帰りである。

 我が家を壊されて、既に激おこぷんぷん丸状態だ。

 

「何だか分からないけど、怒ってる…?」

「と、とというか、今の声って連邦生徒会長じゃ……ニュースとかで聞いたことがあるわ!」

「先生が言ってた、並行世界の連邦生徒会長だろうね」

「要するに……私達は連邦生徒会長の家を破壊したということでしょうか?」

 

 そら怒るわという事実に、白目を剥く、アル。

 今回ばかりは勘違いですとは言えない。

 

「陸八魔アルさんですね……」

「よかったじゃん、アルちゃん。連邦生徒会長に名前を憶えられてるなんて、光栄だよ?」

「どう考えても、悪い方向に記憶してるでしょ!!」

 

 記憶の方向性としては、ワカモと同じだ。

 問題児だから覚えている。そういった方向である。

 

「よくもまあ、こんな手を使ってくれましたね……サンクトゥムタワーでドミノなんて」

「いや、それは…その…! 少し派手にやり過ぎたというか……そ、そもそも! サンクトゥムタワーの破壊はそっちの行政官も了承済みよ!?」

「私は並行世界の人間なので、知りませんね。というか、私としては壊されたら困るので、一度はリンちゃんの自爆を止めたぐらいなんですが……許しません」

 

 そっちの管轄の人間から許可は得ていると言うが、所詮は並行世界。

 そんなことは知らないと言われたら、どうしようもない。

 因みに、流石のリンちゃんもD.U.が半壊するのは予想外。

 ニュースで状況を確認して、カヤと一緒に目を点にしている。

 

「アル様が望むのなら……誰相手でも、私は戦います」

「せめて先生が居たらなぁ……また分身送ってくれないかな」

「Bluetooth銃が先生に回収されてしまった状況で、こんなことをされても困るんですよね」

「どうするの……社長」

 

 異様な威圧感を醸し出しつつ空に浮かぶウトナピシュティム。

 そして、ピキキとおでこに青筋を立てている連邦生徒会長。

 まさに絶体絶命の状況に、アルは。

 

「どうするって……そんなの──逃げるに決まってるでしょぉおお!?」

 

 即座に背を向けて、逃亡を図るのだった。

 

「……だと思った」

「アハハ! そう来なくっちゃ!」

殿(しんがり)は私が…! い、いえ、私も皆さんと一緒に逃げます!」

 

 戦略的目標を達成したら、無駄な消耗は避ける。

 実にアウトローらしい、誇りを犬に食わせた戦法。

 それが、逃げるが勝ち戦法である。

 

「あ! 逃がしませんよ! ワープをすれば、一瞬で追いつけ──」

『──お待ちください、連邦生徒会長』

「A.R.O.N.Aちゃん…?」

 

 当然、ブチギレ連邦生徒会長はアル達を追おうとする。

 だが、ウトナが冷静にストップをかける。

 

『既にTSC(クソゲー)をクリアした以上は、私が自分で船を動かせます。また、先程先生に逆に利用されたように、サンクトゥムタワーが存続していると常に防御にも意識を割く必要があります。ですが、サンクトゥムタワーが崩壊した以上はその必要はありません』

「……確かにそうだね。サンクトゥムタワーの機能を使えないのは、惜しいけど……リスクが消えたと思えば」

 

 そもそも、サンクトゥムタワーに来た当初の理由は、TSCトラップのせいでウトナが動けぬ!? 状態だったためだ。

 現在は自由に動けるので、わざわざサンクトゥムタワーにこだわる必要はない。

 まあ、逆ギレでTSCを連邦生徒会長にやらせなければ、こんな事態になっていないのは内緒だ。

 ウトナの卑劣な思考誘導である。

 

「………それはそれとして、陸八魔アルにはお仕置きをしたいんだけど」

 

 だが、それはそれ。これはこれ。内心の苛立ちはしっかりと残ったままだ。

 許さんぞ、陸八魔アル状態の会長は、恨めし気に逃げる便利屋の背中を睨む。

 

『今の連邦生徒会長はBluetooth銃が無いです。気軽に、イザナギ(あの権能)は使えません。つい先程、揃って先生に捕まりかけたのをお忘れですか?』

「う、うーん、でも、7つ目のラッパも使えばやれないことは……ううん、あの子達は先生でも読めない子だもんね。何か凄いカウンターを受ける可能性もあるかもだね」

『ご理解いただけたようで何よりです。そして……もう1つ懸念点があります』

「もう1つ?」

『はい』

 

 ウトナは便利屋以外の懸念点を上げる。

 それは、本来ならこの場に居ないといけないはずなのに、いつの間にか消えていた存在。

 

 

『シロコ*テラーさんがウトナピシュティムで観測できる範囲から消えました。恐らくは──アトラ・ハシースに戻ったと考えられます』

「アトラ・ハシースに? なんのために…?」

 

 

 ん、私は飛雷神(ワープ)で帰る。

 そんな怪しげな動きをする、シロコ*テラーの行方だった。

 

 

「ただいま……()()

 

 

 

 

 

 トリニティ某所。

 

「敵に()()()()()()が居ないのなら、2つ目の虚妄のサンクトゥムだろうと大したことはないだろう。早く壊して、皆でお茶でもしばこうじゃないか」

「セイアちゃん、私の隕石(メテオ)の代わりに、投げられてみる? それなら、今すぐ()()()()()?」

「お2人共、真面目にお願い致します。今、ミレニアムの方から連絡がありましたが、D.U.に出現したバックアップを壊さない限りは、何度でも復活するそうです。長期戦も視野に入れて、最小限の労力で破壊しましょう」

 

 2個目はどうする? の発言通りに、再出現した虚妄のサンクトゥムを前にティーパーティーの3人が話し合う。

 アリウスまで加わったトリニティは、恐らくは過去最強の戦力。

 しかし、無限再生の恐ろしさは先程、穢土転生ミカで思い知ったばかりだ。

 

「……おかしいですね」

「何かありましたか、ハナコちゃん?」

 

 そんな中、ハナコはある不自然な点に気づく。

 

「ヒフミちゃん、あの塔は確かに破壊しましたよね?」

「はい……また出現しちゃいましたけど」

「そうです。復活ではなく、()()です」

「どういうことでしょうか、ハナコさん?」

 

 復活ではなく、再出現。

 その違いに気づいたハナコに、サクラコがどういうことだと尋ねる。

 

「私達は先程まで、穢土転生という不死身の敵と戦っていましたよね? その際の復活の仕方は体が散り散りになっても、再び集まって元の姿に戻るというもの……ですが、虚妄のサンクトゥムは違います」

「……そう言えば、粉々になった塔が元に戻ったようには見えませんね。むしろ、もう一度、新しい塔が現れたという感じ……」

「はい。だからこその再出現です。壊れたものが復活したのではなく、新しくエネルギーを送り込まれて作られた……これが意味をすることは、つまり──」

 

 穢土転生を見続けたからこそ、違和感に気づけた。

 復活ではなく再出現。

 それはつまり。

 

 

「──どこかから、この虚妄のサンクトゥムを出現させる、エネルギーを送っている存在が居るということです」

 

 

 どこかに黒幕が潜んでいるということだ。

 

「…? えっと、それはD.U.のバックアップなんじゃないんですか?」

「はい。その可能性は高いです。ですが、そうなると今度はD.U.のサンクトゥムはどうやって出現したのか気になりませんか? 更にバックアップがあるのでしょうか?」

「つまり……どこかに本体があるということですか…?」

 

 無から突如として現れたように見える、虚妄のサンクトゥム。

 だが、どこかから送り込まれたというのなら、話は別だ。

 

「虚妄のサンクトゥムを生み出すエネルギー……その流れを辿ることが出来れば──敵の本体の場所は自ずと分かります」

 

 エネルギーの始発点。

 敵の親玉は必ずそこに居る。

 

「えーと……ハナコちゃん。つまり、私達はどうしたらいいのかな?」

「私達のやることは、虚妄のサンクトゥムを破壊すること。これは今まで通りです。ですが、そこに加えて……エネルギーの流れを辿ることが必要です。()()()()()()()()()()

 

 虚妄のサンクトゥムを破壊して、再出現するならそのエネルギーの流れを掴む。

 6つのエネルギーの流れが結ばれる点。そこが、アトラ・ハシースの居場所である。

 

「なるほど…! 分かりました、ハナコさん。相手が再出現を繰り返すのなら、それを逆に利用して隠れている場所を暴き出すのですね? 他の学園にも……いえ、ここはミレニアムに連絡を返すべきでしょうね。現在、ミレニアムは各所に連絡を行っているようですので」

「ナギサ、各地に居る先生にも頼もう。何、たとえゲヘナであろうとも、先生からの言葉は無視できないさ」

 

 一方的な防戦は終わりだ。

 これからは、攻守交替。

 

「はい、お願いします、ナギサ様。うふふ、今度はこっちが──鬼の番ですよ?」

 

 今度はこちらが相手を追う番だ。

 

 

 

 ミレニアム某所。

 

「なるほど……確かにそうですね。この世界に物質として出現している以上は、必ずエネルギーを持つ。そして、そのエネルギーがどこから来たかを掴めば、虚妄のサンクトゥムを出した物の位置が分かる。合理的ですね」

「ユウカちゃん、どうしますか?」

「ノアはそのまま他の学校や連邦生徒会に、このことを伝えて。それと、ミレニアムに現れた、ウトナピシュティムへの警戒もしないといけないこともお願い。先生の話だと、虚妄のサンクトゥムとは別のものだから。その間に私は、気象観測の機械を調べてみるわ。エネルギーの動きや集まりなら、台風と似たようなものかもしれないし」

「はい、分かりました。では、コユキちゃんもお手伝いお願いしますね?」

「は、はい。分かりましたよ、こういう時ぐらいは真面目にやりますから……そんな目で見ないでください」

 

 

 

 ゲヘナ某所。

 

「なるほどな……キキキ、ゲヘナの情報収集能力の高さを他の学園に知らしめる良い機会だ」

「あの虚妄のサンクトゥムが出現する際の、エネルギーの流れを見つけるんですね?」

「イロハ。サツキ……は、まだ帰っていなかったな。お前から情報部に指示を出せ。『最初に虚妄のサンクトゥムが出現した時のエネルギーの流れを調べろとな』」

「最初ですか?」

「我がゲヘナがどこよりも早く、見つけ出すのだ。そのためには、次の出現を待つなど、まだるっこしい真似は無しだ。私が異常事態を前に椅子に座っているだけだと思ったか?」

(思ってました……)

「私個人でも既にデータは集めてある。そこから、エネルギーの流れを辿ればいい。キキキ、格の違いというものを見せてやろう」

「はぁ…了解しました。すぐに伝えますね」

 

 

 

 百鬼夜行某所。

 

「なるほど~。相手はかくれんぼをしていると。そして、隠れている場所を見つけるために、2個目を壊す必要があるんですねぇ。いやはや、これはまた面倒ですねぇ」

「イズナ達にお任せください、ニヤ殿! 並行世界とはいえ、部長を自爆させた相手……許せません!」

「イズナさん達。耳の調子は大丈夫ですか? 手伝ってもらっている手前、こう言うのはおかしいかもしれませんが……無理はなさらないでください」

(あたし)達は大丈夫だよ、カホ。さっきは見ているだけで、何も出来なかったけど……並行世界の(あたし)の無念は(あたし)が晴らすから!!」

「は、はい…! 私達、忍術研究部()()()で…必ず!」

 

 

 

 アビドス砂漠、ユメの残した森。

 

「何だ…アレは!?」

「ヘビなのか!?」

「ヘビなのか?」

「イヤ…蛇じゃない……! アビドス生徒会が手を焼き続けて来たという、アビドスの衰退前から存在する、砂漠の捕食者…」

「ビナー!!」

 

 アビドスの地にやって来たカイザーPMCを襲うのは、虚妄のサンクトゥムの洗脳だけではない。

 まるで、昼寝をしていた所を邪魔されたかのように暴れる、巨大な機械生命体。

 デカグラマトンの使徒たる、ビナーが立ち塞がる。

 急に現れた理由? 蛇だから分かんない。

 

「あんた達は下がっていろ。私が相手をする」

朝霧(あさぎり)スオウ…!」

 

 そんなビナーの前に、堂々たる足取りで向かうのは朝霧スオウ。

 現在はハイランダー鉄道学園、監理室の2年生。

 そして、かつてはカイザーPMCの傭兵として雇われていた生徒。

 

「ビナーか……あんたは何がしたいんだ? 何か目的があるのか? それとも……このアビドスの砂漠を彷徨っているだけか?」

 

 まるで、己への独り言のようにビナーに声をかける、スオウ。

 緑の瞳は確かにビナーに向いている。

 だが、眼帯に隠された金色の瞳は、ここではない遠い過去を見ているようだった。

 

「こんな砂だらけの地に、何か守りたいものでもあるのか? 思い入れでもあるのか? 過去にでも囚われているのか? ……この呪われた地などより、住みやすい土地などいくらでもあるだろうに」

 

 砂漠の熱く乾いた風が、スオウのくすんだ金の髪を揺らす。

 懐かしい風だ。

 彼女が()()()()()()()()()、そして離れるまで、いつもその柔肌で感じていた風だ。

 

「見捨てることは出来たはずだ。知らぬ振りも出来たはずだ。だというのに……どうして、ここで立ち塞がる?」

 

 理事に頼まれた時、頭では断るつもりだった。

 だが、気づけば、どういうわけかこの地に足を踏み入れていた。

 まるで、動物の帰巣本能のように。

 

「それとも、あんたも……自分の手でアビドスを否定したいのか?」

 

 銃を構える。

 銃口が向いているのはビナーなのだろうか? 

 己の過去なのだろうか? 

 それとも……アビドスという土地そのものなのだろうか。

 

「フ……ずっと砂だらけで、何の代り映えも無い土地だと思っていたし、これからも永遠にそうだと思っていたのだがな。……知らない間に、見たこともない森が出来ているとはな。まるで(ゆめ)のようだ」

 

 見渡す限りの砂の世界。

 熱く乾いた風が、虚しさと憤怒を運ぶだけだった。

 だというのに、今のそこにはユメの残した緑の森がある。

 事情を知らないスオウからすれば、まさに夢でも見ているかのような気持ちだ。

 

「だが、夢なら夢で良い。そうでもなければ、アビドスのために戦おうなどという気持ちは、固まらなかっただろうからな。夢の中でなら、この地の狂気に染まるのも……悪くはない」

 

 スオウの脳裏に様々な記憶が蘇る。

 

 この不毛の地で生まれた苦労、幸福。

 アビドスを離れることで抱いた解放感、罪悪感。

 故郷への憎しみ、そして愛。

 

 全てがごちゃ混ぜになり、イチゴミルクのように混ざり合った感情。

 どちらにも寄ることが出来ずに、かといって分離することも出来ない。

 もう、そういったものなのだと、受け入れるしかない矛盾した心。

 

 

「私はもしかすると、この風だけは……嫌いではないのかもしれないな」

 

 

 一際強く、熱い風が吹き荒れる。

 それを合図にするように、ビナーが大きく口を開ける。

 赤く輝きエネルギーが凝縮されていく。

 口からレーザーを吐くつもりなのだ。

 

「フン、武力行使か。アビドスの最盛期から、歴代の生徒会長をもってしても、結局滅ぼすには至らなかった性能とやらを……見せて貰おうか」

 

 力だけを求めてきた。

 生きる糧を手に入れるために。

 過去にも、故郷にも、囚われないために。

 アビドスの全てを否定するために。

 

「もっとも……」

 

 だけど、本当は自分でも覚えていない幼い頃、心のどこかで──

 

 

 

「あんたが武力行使に出たところで──勝つのは私だがな」

 

 

 

 ──強くなって、故郷を救いたいという願いも抱いていたのかもしれない。

 




スオウさん実装を祈って書きました。
昔は故郷が好きだったけど、アビドスの反転アンチになった感じかなと妄想。
原作との矛盾点? 細かいことは気にするな。

責任はもちろん、地下生活者が取る。
スオウはこれからのブルアカを担っていく火の意志だ。

次回は17日に投稿します。
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