IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏   作:Exnyas

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ちょっと難産でした。


11.起動訓練、後編にて

「さて、これが待機状態の量産ISだ」

 

「着る人がいない、展示状態の鎧甲冑みたいだな」

 

「良い表現だ」

 

各部位の装甲が展開されたまま安置されたその姿は、まさしく展示状態の鎧甲冑だ。

 

「まずは乗り込む」

 

俺は待機状態のオウガに、身を預けるようにして座る。

するとオウガのアーマーがパタパタと閉じ、プシューと空気が抜ける音がして、アーマーがISスーツに密着する。

 

「ちょっと離れてもらえる?」

 

起動状態のISはそれなりの嵩になるため、起動の様子を見ていたみんなを下がらせる。

 

「……よっ、と。さて、起動が完了したらまずはシステムチェックだ」

 

「システムチェック?」

 

「着用しているISの各部に異常や不調が無いかを確かめるんだ……オウガ、システムチェック」

 

そうやって俺がシステムチェックと口にすると、フェイスバイザーを兼ねる【ハイパー・センサー】に回路図のような模様が浮かび上がる。

 

「頭部アーマー及びハイパー・センサー、クリア。胸部メインアーマー、クリア。胴部サブアーマー、クリア。腕部アーマー、クリア。脚部アーマー、クリア。メインスラスター、クリア。セカンドスラスター、クリア。サードスラスター、クリア。肩部武装ラック、クリア。全武装、クリア。全可動部、良好。残存SE(シールド・エネルギー)998、良好。FCS(火器管制システム)、良好。パワーアシスト、良好。PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)、スタンバイモード……システム、オールグリーン」

 

いま読み上げた項目は、ISのシステムチェックの最低限だ。

これが特殊機や専用機ともなれば、読み上げる項目がもうちょい増えるのだが……専用機はともかくとして、特殊機に乗る機会も早々無い。

 

「……ふう、流石は整備科のセンパイたちだな。山田先生との激闘の痕跡が見当たらないぐらい完璧にメンテされてる」

 

声には出さないよう口の中で呟く。

 

「よし、システムチェック完了」

 

「すごーい」

 

「慣れるまではチェック項目を逐一読み上げる事をオススメするよ」

 

「はーい!」

 

「もし各部のチェックでイエローやアラート……クリアや良好以外の表示がされたら、絶対に無理して動かさず、先生や整備科の人に伝える事」

 

そうしないと、最悪は死ぬ。

俺やモモセンパイ、辰姉みたいな超越者(オーバーマン)なら話は別だが。

 

「さあ、みんなもまずはここまでやってみよう」

 

俺の言葉にチームのメンバーが散り、それぞれが各々オウガに乗り込み、おずおずと立ち上がり、直立不動の姿勢で動かなくなる。

 

ハイパー・センサーで周囲の音を拾えば、ハイパー・センサーの視野拡大に戸惑っていたり、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の読み方が分からなかったり、実に初々しい。

 

思わずにこやかな笑みを浮かべそうになるのをグッと堪えていると、オウガを纏った織斑先生が立っている事に気が付いた。

 

「織斑、順調だな」

 

「そうですか?」

 

「見ろ。現段階で既にISに乗り込ませてるのは、まだ織斑のチームだけだ」

 

織斑先生の言葉で、ハイパー・センサーを広範囲視野モードにすると、言われたとおり、ISを起動させているのは、俺のチームだけのようだ。

 

「次はどうするんだ?」

 

「とりあえず歩かせて、それからPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を滑走モードにして、低空スライド走行に入りますかね」

 

「基本中の基本だな。お手並み拝見と行こう」

 

言って織斑先生は、俺たち全員が見える位置に戻って行った。

 

「さあみんな、システムチェックは終わったか?」

 

「はーい!」

 

「オールグリーンじゃなかった人はいないな?」

 

「いませーん!」

 

「よし、じゃあ次は歩いてみよう」

 

ISには基本、歩行は必要無い。

ISはPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)で浮き、そのまま飛行するからだ。

 

ならどうして歩かせるか?

答えはIS装着によって肥大化した四肢を、己の四肢と認識させるためだ。

 

「……はい、ちゃんと太ももを上げて……いち、に。いち、に……」

 

「懐かしい感覚だな。気分はまるで小学校の体育で、初めて行進したあの感覚に近い」

 

「良いセンスだよモモセンパイ。その感覚は大切にしといて。ISを動かす上で欠かせないから」

 

腕を振っていち、に、いち、に。

足を前にいち、に。いち、に。

 

「歩く事に慣れたら、軽くランニングしてみようか」

 

歩き慣れたら走りへ。

リズム良く足を交互に前に。

いち、に、いち、に、いち、に……

 

「慣れたら楽だね」

 

「最初は戸惑ったけどね」

 

「いちくん、私ちゃんと走れてる?」

 

「大丈夫だよ辰姉。きれいなフォームで走れてる」

 

そうしてアリーナの隅を5分ほど走ったあたりで、チームメイトの目が『次は? 次は!?』と訴えているような気がした俺は、ランニングを歩きに変えさせ、乱れた呼吸を整えさせる。

 

「よし、じゃあここからが本番だ。滑走に移るよ」

 

言って俺はISに備わったキモたる機能の1つ【PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)】について軽く説明する。

 

PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)とは、受動慣性消去装置と意訳が可能なとおり、これが搭載された物体から慣性を消去したような状態に出来る装置。

 

これと肩部にある推進翼(すいしんよく)(カスタム・ウィング、ならびにこれに類するスラスター)と、任意で装備可能な小型推進翼を用いて、姿勢制御や加速、停止などの挙動を立体的に行う事が出来る。

 

普段はオートモードだが、任意でマニュアルモードへの切り替えも可能。

ただしその場合は機体操作への思考分配も必要になってくる。

 

余談だが俺は【PIC(ピック)】と呼称している。

 

「……とまあ長々語ったけど、簡単に言えば、イメージで進行方向が変わる飛行装置、という認識でいい」

 

言って俺は装着中のオウガにシステムコマンドを走らせ、PIC(ピック)を、スタンバイから滑走モードに変えた。

 

「わ、織斑くんが浮いた!」

 

初期ロットのISのPIC(ピック)は、オートモードとマニュアルモードしかなかったが、最近のロットのISのPIC(ピック)には、他にもいくつかのモードが追加されている。

 

このオウガに搭載されている滑走モードだと、足の裏が地表から5cmほど離れたあたりで浮く事になる。

 

「すごーい!」

 

「ねーねー、どうやったの?」

 

「さっきISを起動させた直後、システムチェックを入れたのは覚えてる?」

 

「覚えてる覚えてる。たくさん項目があったよね」

 

「その項目の中に『PIC、スタンバイモード』ってあったのは?」

 

「もちろん!」

 

「なら『システムコマンド、パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを滑走モードに』って言ってごらん」

 

俺がそう言うと、チームメイトがオウガにシステムコマンドを走らせ、次々とPIC(ピック)を滑走モードに変更し、俺と同じ状態になった。

 

「……で、ここからがかなり難しいんだけど。PIC(ピック)による姿勢制御や加速、停止などの立体的挙動は、そのISを操縦しているパイロットのイメージが全てなんだ」

 

ちらっと他のチームを見る。

 

山田先生チームはラファールを装着して歩行中だな。

あの動き方からすると、十中八九PIC(ピック)はスタンバイモードだ。

 

ミューゼル先生チームは打鉄をいま起動中のようだな。

見た感じ、四季以外は全員起動済みで、四季だけがまだ起動出来ていないらしい。

 

フォール先生チームはチームメンバー全員が打鉄を装着して棒立ちなあたり、システムチェック中と見た。

 

「イメージ……」

 

「例えば……辰姉。腰にロープをくくりつけられ、それを後ろに引っ張られるイメージをしてほしい」

 

「腰にロープ、後ろに引っ張られる……」

 

言うと辰姉が体をくの字に曲げ、後ろにスイーっとバックしていく。

 

「わ、わわっ!」

 

「あんな感じ。参考書には『頭上を頂点とした円錐』なんて文章があるけど、あんなのイメージの1つでしかないから」

 

辰姉が戻って来た。

 

「……なら私は、こうか……?」

 

言ってモモセンパイはクラウチングスタートの姿勢を取ってから、まるでスケート選手のように滑走を始めた。

 

最初こそスケートシューズで氷を蹴るような足運びをしていたが、それすらもイメージの通過点でしかないと分かったのか、最後にはプロ選手のような連続ジャンプと連続スピンを決め、ドヤ顔で見事なイナバウアーをキメながら、みんなのところに滑走で戻ってきた。

 

「上手い! 上手いよモモセンパイ!」

 

俺はそれを手放しで誉める。

 

流石は武術四天王と呼ばれるだけあって、体を動かすのはお手のものらしいが、それをまだ不慣れなはずのISでやって見せるとは恐れ入った。

 

「そ、そうか?」

 

モモセンパイはイナバウアーをやめて上体を起こし、顔を赤くして照れている。

 

「モモセンパイ。いまのは、アイススケートの選手のイメージですか?」

 

「ああ。滑走滑走と何度も聞かされているうちに、頭の中に生まれたイメージがそれだったんだ。こんな風に、なっ!」

 

言ってモモセンパイはその場で跳躍し、7回転ジャンプを決める。

着地もパーフェクト。

 

「今、何回転したの!?」

 

「今モモちゃんは7回転したね」

 

「7!? 川神さんすごーい!」

 

持て囃されるモモセンパイを見て、各々滑走のイメージが固まったのか、モモセンパイを真似て、アイススケートの選手のように滑走を始めた。

 

辰姉は前後左右に滑るように動き、ダンスじみた挙動を見せている。

 

そんなチームメイトを見ていた俺の元に、織斑先生に連れられて、束姉がやってきた。

 

今日も作業着のジャンパーを羽織ったタンクトップに、作業着のズボンという姿だ。

 

「あはははは。ちーちゃん、すっごいねこの子たち。滑走初日の素人とは思えないよ」

 

「教え手が一夏だ(上手い)からな。それに、川神と板垣という超越者(オーバーマン)だからこそ発揮可能な身体能力ゆえの滑走が、他のメンバーの良い刺激になっている」

 

織斑先生と一緒にチームメイトの滑走を見ていた束姉だったが、ふと真面目な表情になると、モモセンパイに歩み寄った。

 

「百代ちゃん」

 

「あ、束さん。お疲れさまです」

 

「お疲れさま。実はちょっと百代ちゃんに聞きたい事があってさ」

 

「私に聞きたい事、ですか?」

 

自身のイメージで作った仮想敵に滑走で接近、正拳突きや回し蹴りを叩き込んで離脱……再度、滑走で回り込んで一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)をしていたモモセンパイが、その動きを止める。

 

「何でしょう?」

 

「小耳に挟んだ話なんだけど、百代ちゃん。クラス代表になって、交流戦でいっくんと戦いたいんだってね?」

 

「はい」

 

「じゃあさ……欲しくない? 専用機」

 

束姉の爆弾発言に、それまで滑走を楽しんでいたチームメイト全員の動きが止まる。

織斑先生に至っては、額に手を当て、やれやれといった表情だ。

 

「私に専用機、ですか!?」

 

「そうそう。百代ちゃんのポテンシャルを考えると、既存のオウガじゃ、実力が十全に発揮できない気がしたんだよ」

 

「いいなあー川神さん!」

 

「織斑くんも専用機が手に入る予定だし、クラス代表交流戦には、ちょうど良いんじゃない?」

 

「百代ちゃん、どう? 私がイチから作るから、かなりの融通が効くよ?」

 

そんな束姉の言葉に、モモセンパイは有無を言わさず食いついた。

 

「是非ともお願いします!」

 

「じゃあ決まりだね。はいコレ束さんの名刺。次の休みにでも、名刺に書いてある場所に来てよ。百代ちゃんの専用機について、打ち合わせをしよう」

 

束姉のそんな言葉に、モモセンパイは首を振った。

もし専用機が手に入るなら、こんな機体が欲しい、と言う明確なテーマとビジュアルがある、と自分の頭を人差し指で指し示す。

 

「へえ……ちなみにどんな機体?」

 

「近接格闘主体で、攻守走のバランスが取れた機体。少数の銃火器で相手を牽制し、隙が出来たら一気に接近。怒涛の勢いで殴る・蹴るのラッシュを叩き込んで相手を仕留める。もちろん、気功術にも高い適正を示す……そして最終的には、一夏と真正面から殴り合い・蹴り合いが出来る。そんな機体です」

 

「ほうほうほう……なるほどね」

 

言って束姉はやや俯き、指を曲げた右手を口元に当てる。

あれは束姉のスーパー頭脳が、音を立てて全力稼働している時に見られる束姉のクセだ。

 

初日にオウガをあそこまで動かすモモセンパイが、俺との正面戦闘を見据えた専用機に乗るんだ。

……こりゃ、うかうかしてられないな。

 

「何やら重たい話が出てきたな……それに良い時間だ。よし、今回の起動訓練はここまでとする。諸君、使ったISはハンガーに待機状態で乗せて格納するように。織斑、川神、板垣。補佐してやれ」

 

『はい!』

 

クラス代表交流戦か。

クラス代表になる事は興味がなかったが、専用機に乗ったモモセンパイと戦いたい欲はある。

 

楽しみになって来たぜ!

 




原作との主な変更点

1.ISのシステムチェックシーンを具体化


百代に専用機フラグが立ちました。
百代はどんな専用機を手に入れるのか?
対する一夏はどう動くのか?

続きはまたいずれ。
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