IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏   作:Exnyas

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お待たせしました。


12.金曜日、秘密基地にて

-_- other

 

「……モモ先輩、何か、胸が……大きくなった……?」

 

川神市郊外。

市街地から少し離れたところに立つ古いビル……通称【秘密基地】の一室で、紫髪の少女【椎名(しいな) (みやこ)】は、先に来ていて、凄まじい量の寿司を食っている百代にそう問いかけた。

 

「む、そうか?」

 

口に入れていたサーモンの寿司を嚥下し、紙パックの豆乳をグビグビと飲む百代。

 

これはこの古いビルをナワバリとし、秘密基地と名付けた【風間(かざま)ファミリー】という集団が、毎週金曜日に開催する通称【金曜集会】と呼ばれる集まり。

 

ちなみに風間ファミリーは……

 

【風間 翔一(しょういち)】(リーダー)男

直江(なおえ) 大和(やまと)】男

川神(かわかみ) 一子(かずこ)】女

島津(しまづ) 岳人(がくと)】男

師岡(もろおか) 卓也(たくや)】男

【川神 百代】女

【椎名 京】女

【クリスティアーネ・フリードリヒ】女

(まゆずみ) 由紀江(ゆきえ)】女

 

……の9人で構成されている。

クリスティアーネことクリスと由紀江は、最近加入した新顔だ。

 

普段なら金曜集会は全員が集合し、秘密基地で日暮れまで過ごすのだが、メンバーからキャップと呼ばれる、ファミリーのリーダーこと翔一は今日はバイトが激務で来れず。

大和は歯医者に通院してて不在。

一子は百代が住むアパートの冷蔵庫に、食材を補充するための買い物に出ていて不在。

岳人は駅前商店街にナンパをしに行き不在。

卓也は風邪をひいてダウン中。

クリスと由紀江は秘密基地の冷蔵庫に入れる食べ物を買いに行っており不在。

 

故に現状、秘密基地にいるメンバーは百代と京しかいない。

 

「先週の集会で見た時より、トップが3cmは大きい。私は目には自信がある。間違いない」

 

「1週間で3cmか。道はまだ長いな」

 

言って更にサーモンの寿司を頬張る百代。

50貫入る特大トレーから、ヒョイパクヒョイパクと寿司を貪っている。

 

「それでも1週間で3cmアップはすごい。何をしたの?」

 

「(モグモグ……ゴクン)何って、育乳(いくにゅう)とでも言えば良いのか?」

 

「育乳……!?」

 

百代の回答に、京は自分の耳を疑った。

誰よりも戦う事が好きで、自分たちが知りうる中で最強の存在が、まさかの育乳。

 

「──っ、何のために?」

 

「惚れた男のため」

 

言われた京は、警戒レベルを一気に引き上げた。

あの男と夫婦になるにあたり、最大の脅威になるのは、やはりこの百代なのだと。

 

そんな京の様子を見た百代は苦笑し、寿司が入っていたトレーを水で洗ってからゴミ箱に捨てると、手を洗ってタオルで拭き、むくれた表情の京に笑みを向けた。

 

「心配するな京。私が惚れた男と言っても、相手は大和じゃない」

 

「えっ?」

 

「もちろんキャップ(翔一)ガクト(岳人)モロ(卓也)でもないぞ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。ファミリーのみんなには言ってなかったが……実は私にはな、川神学園を辞める前の半年で、19個もの黒星が付いたんだ」

 

「えっ!?」

 

京は強いショックを受けた。

黒星……百代が負けた事はもちろん、その黒星が今日までで19個も付いた事にも。

 

「……前々から公言していたかとは思うが、私は原則的に、自分より弱い男と交際する気はない」

 

「それは、知ってる」

 

「そしてこの『弱い男』だが、あくまで直接戦闘力……腕っぷしの話だ。運気や知力、財力なんかは知らん。最初から度外視だ」

 

「それって……」

 

京には好きな男がいる。

幼少の京を救った、京にとってのヒーロー。

名を直江大和という。

 

武将というよりは軍師タイプで、いざ戦いともなれば、高い知力と豊富な人脈を活かし、後方から味方を支援する事に向く大和。

 

学園で流行っているゲームでさえ、仲間を援護しやすいからと言う理由で、遠距離から敵に状態異常を与えたり、罠で敵の行動を阻害したりといったプレイスタンスを取る。

 

ちなみに百代は高火力の武器を手に最前線に出て、ひたすらに敵を叩き続けてヘイトも稼ぐダメージディーラータイプ。

『当たらなければどうということはない』のスタンスで、防御を捨てている。

実際、敵の攻撃には一切当たらない。

 

「早い話、私と直接戦えて、かつ私を負かす男としか付き合わん」

 

百代は遠回しに『大和(知力)ではダメだ』と言っているのだ。

 

自称風間ファミリーの武力90の岳人でも自分よりはるかに弱いし、非戦闘員の卓也は論外だ。

風間は良くも悪くも子供で、恋愛に興味があるかどうかも怪しい。

 

「……で、話が戻るんだが、私は半年前、生まれて初めて負けた。それまで無敗だった私が、だ。しかも先制で放った無双正拳突きを、撃ってから見切られて、軽く捌かれて、顎に回し蹴りを貰って脳震盪でノックアウトだ」

 

「……あっ」

 

そこまで言われて、京はようやく察した。

百代はその、自らを負かした相手こそ、自らと交際するに相応しいと言っているのだと。

 

だが、それでも疑問は残る。

 

「その、モモ先輩を負かした相手……多分、彼女がいるよね? それも、モモ先輩より数段上のバストサイズの」

 

そうでもないとおかしいのだ。

90というトップバスト数値で一子を沈めた百代が、これ以上の育乳に励むなど、自分より大きい実物でも見ない限りは、あり得ないからだ。

 

「ああ、いるぞ」

 

そんな京の疑問を、百代はあっさり肯定した。

 

「私をマスクメロンとするなら、4L……いや、5Lか。それぐらいのサイズの、おばけスイカみたいな胸の彼女がいる」

 

「モモ先輩がマスクメロンとして、5Lサイズのおばけスイカ!?」

 

「片方だけでも、人間の頭よりデカい胸なんか初めて見たぞ」

 

驚く京を横目に、冷蔵庫から追加の飲み物……今度は野菜ジュースを取り出して飲む百代。

 

「……ちなみに私を倒したヤツだが、京も知ってるヤツだぞ」

 

「えっ? 誰?」

 

「一夏だ、織斑一夏」

 

「あ……」

 

言われて京はようやく納得した。

あの男が持つ驚異の格闘技術を。

 

そしてあの格闘技術なら、百代を真正面から打倒できるだろうと。

 

参考までに言えば、岳人が武力90なら、百代は武力200で、一夏は武力350程度の化け物である。

 

実際、百代以外のファミリーで、百代に近しい実力を持つ由紀江(武力190程度)が放つ、視力に自信がある京(視力4.0)でさえ視認が難しい速さの斬撃を『速いが、姉さんよりは遅い』と言い、足で肩の初動を止めたのだから。

 

「そっか。モモ先輩、一夏に負けたんだ」

 

「ああ」

 

「それで? 一夏に彼女がいるのは本当なの?」

 

「ああ。いる。しかもその彼女本人に聞いた話、ヤる事しっかりヤってる……いや、ヤりまくってる」

 

「わお……私も処女を卒業させてくれる彼氏……大和が欲しいな。あ、つまりモモ先輩は、その彼女さんから一夏を寝盗るの?」

 

言って京は普段、感嘆の意を示す時に使っている『10』と書かれた得点看板を取り出した。

 

「まさか。相手はあの篠ノ之束だぞ? 寝盗りなんて仕掛けようものなら物理的に潰される」

 

「篠ノ之束って……うそ、一夏の彼女さんって、拳打鬼なの!?」

 

川神市において日本九鬼(きゅうき)の名は、百代が持つ武術四天王の肩書きよりはるかに上だと認識されている。

 

「そうさ。蹴撃鬼……一夏に破れた私が、同じ日本九鬼(きゅうき)が1人、拳打鬼に勝てるはずないだろう?」

 

「モモ先輩でも勝てないんだ」

 

「ああ、無理だ。一夏に破れて悟った。日本九鬼と呼ばれる連中は多分、細胞からしてナニカが違う。そんなレベルだ。何が武術四天王だ。私なんかまだまださ。そもそもウチのジジイが気功鬼(きこうき)だぞ? あのジジイめ、普段見せている力なんか、本気の3割にも満たないらしい……ムカつく」

 

食事を終えた百代は、空になった野菜ジュースのパックの内側を水で洗い、ゴミ箱に投げ捨ててから、不意に上半身タンクトップ1枚の姿になると、自らの双球に手を這わせ、マッサージをするようにグニグニと揉む。

 

「モモ先輩。その、やたら卑猥な仕草は?」

 

「卑猥言うな。これも育乳の一環だ。私のような気功術者は、気を体内で循環させて内燃や代謝に回しながら、外部からこうしてマッサージをする事で、より効率的に、より効果的に、育乳が出来るらしい」

 

言って双球を揉みながら、気を胴体を中心に循環させる百代。

 

ワン子(一子)が『最近のお姉さまは変わったわ。食生活が健康的になって、肌がツヤツヤしてきたわ』って言ってたのも?」

 

「ああ。食事のたんぱく質を魚と大豆で摂取し、野菜と乳製品を多めに取るといいらしい。さっき寿司を食っていたり、豆乳や、野菜ジュースを飲んでいたのがそれだ」

 

そう言う百代の手により、グニュグニュと形を変える百代の双球。

 

耳をすませば、百代がごく小さく、喘ぎ声を発しているのが分かる。

それを見ていた京は、百代に自分を投影した。

 

あれが自分で、自分の双球を揉む手が、愛しの大和ならいいな、と。

 

「(今夜は捗りそう)」

 

京は太ももをもじもじと擦り合わせながら、百代に話の続きを促した。

 

 

******

 

 

+_+ 一夏

 

モモ先輩が束姉に専用機を作ってもらう事になった日の放課後、俺は束姉からのメールで、九鬼財閥極東本部宇宙開発部に呼び出された。

 

俺は学園に外出申請を出し、モノレールに乗って、隣の川神市にある人工島……通称【九鬼島】にある九鬼財閥極東本部を訪れ、中に入る。

 

まだ仕事中の従者部隊の人たちに挨拶をしながら、九鬼島の海に面した位置にある宇宙開発部棟に向かい、エレベーターで最上階に上がり、実験区画内の小部屋に入る。

 

「失礼します」

 

部屋の中には束姉の他にも、織斑先生と山田先生の姿もあった。

 

「来たか、一夏」

 

「ご苦労様、一夏くん」

 

織斑先生と山田先生が俺を一夏と呼ぶと言う事は、いまはオフモードなのだろう。

 

「いっくん、とりあえずここに座ってもらえるかな?」

 

束姉に促され、室内の一角にあるソファーに座る。

 

「一夏、まずはこれを受け取れ」

 

千冬姉から差し出されたのは、1枚の紙。

表題は『専用機貸与証明書』とある。

 

「これは……?」

 

「読んで字の如く、お前が専用機持ちになった証明書だ」

 

書面をざっと説明すれば、この書類は国際IS委員会が発行した正規の書類で、九鬼財閥極東本部宇宙開発部が、俺に、専用ISを貸与した旨が記されている。

 

「原本をお前が保管し、複写をIS委員会・九鬼財閥極東本部宇宙開発部・IS学園が、それぞれで保管する事になっている」

 

「失くすととんでもない大事(おおごと)になるので、大切に保管してくださいね」

 

「分かりました」

 

言って証明書を受け取る俺に、束姉が言う。

 

「何なら束さんが預かるよ?」

 

『束さんといっくんの共用ISの拡張領域(保管庫)なら、国際銀行の金庫より安全だし』と言う束姉。

 

「……確かに、束に預けておくのが良いだろうな。お前たちの【保管庫(ストレージ)】に入れてしまえば、束とお前以外からは、物理的に手出しが出来なくなる」

 

千冬姉の言葉に従い、俺は受け取った書類を束姉に渡した。

すると束姉の手の中で証明書が光の粒子と化し、フッと姿を消す。

 

おそらく、束姉主体で、俺にも使える共用IS……その名もまんま【保管庫(ストレージ)】の拡張領域(バススロット)量子変換(インストール)されて、収納(クローズ)されたのだろう。

 

保管庫(ストレージ)】はその名のとおり、拡張領域(バススロット)の容量に注力して束姉が開発した後期型ISで、その容量は超大型物流倉庫10棟分。

基本最低限の機能以外、アーマーや武装の類いが一切無い。

 

束姉は普段この【保管庫(ストレージ)】に、各ISが使う様々な武装や私物を量子変換(インストール)して保有しており、必要に応じて展開(オープン)し、自由に扱っている。

 

束姉と俺が、どこからともなくナニカを取り出す事が可能なのは、この【保管庫(ストレージ)】のおかげだ。

 

ちなみに箒や真耶が自身に注入したナノマシン【エロス】と【サキュバス】の注入キットも、この【保管庫(ストレージ)】の拡張領域(バススロット)から展開(オープン)された物。

 

なお、千冬姉の言葉から分かると思うが、千冬姉も【保管庫(ストレージ)】の存在を知っている。

 

「束さん。今のは量子変換(インストール)収納(クローズ)ですか?」

 

「そうだよまーやん。束さんの専用機の拡張領域(バススロット)にポイッチョしたのだ」

 

「専用機!?」

 

「そりゃ束さんはIS開発者だもの。自分専用ISの3機や4機、いつも持ち歩いてるよん。もちろん、IS委員会には知らせてないけどね」

 

言って束姉はケタケタ笑う。

 

「ところで束、専用機で思い出したが。川神の専用機はどうなっている?」

 

「ん? 百代ちゃんの専用機? 進捗率80%ってとこかな。もう素体は出来上がってるんだ。あとは武装をどうするかを悩み中」

 

「もう素体が出来上がってるんですか!?」

 

「にゃっはははは。束さんってばちょー天才だからね。これぐらいは朝飯前だよ」

 

その夜、俺はテレビに出演する事になり、記者会見で専用機を貸与された事を発表したのだった。

 

 

 




続きはまたいずれ
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