IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏   作:Exnyas

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続きが書けました。
サブタイトルのとおり、百代が専用機を受け取ります。
百代に、一夏の師匠の正体が明らかになる回でもあります。


13.百代、専用機受領にて

-_- other

 

 

日曜日。

その日百代は朝からアパートを空け、九鬼財閥極東本部を訪れた。

 

「ここが九鬼財閥の本部か。流石にデカいな」

 

立ち並ぶビルを見ながら、百代は1人呟く。

 

「そこのキミ、何か用か?」

 

正面ゲートで建物を見上げていた百代に、ゲートの守衛が声をかける。

 

「私はIS学園1年1組の川神百代という。今日はここの……そう、宇宙開発部の篠ノ之博士に呼ばれて来た」

 

「……それを証明するものはあるか?」

 

「物的証拠はないが、篠ノ之博士から名刺をもらっているし、IS学園が休みになったら来いと言われている」

 

「……名刺を見せてもらっても?」

 

「ああ、これだ」

 

百代は守衛に名刺を手渡した。

守衛はその名刺を、腰のポーチから取り出したスキャナーでスキャンし、それから無線機を取り出した。

 

「確認する。これは返そう。ちょっと待っていてくれ」

 

「分かった」

 

守衛が無線機でどこかに連絡を始めて数分。

確認が取れたとの事で、案内係が来るから、それまで待つように言われる。

 

しばらくして現れたのは、金髪の偉丈夫だった。

 

「久しいな、百代」

 

「ヒュームさん」

 

かつて『ルガール・バーンシュタイン』と名乗り、世界中にその名を轟かせた格闘家で、現在は『ヒューム・ヘルシング』を名乗るその男は、不敵な笑みで百代を見る。

 

ルガール……否、ヒュームは、名を変えてからは九鬼家の従者として活動しており、その凄まじい強さから、九鬼家従者部隊の永久欠番ゼロとしてその名を馳せ、現役時代に培った凄まじいキレを持つ蹴りで、立ち塞がる障害の悉くを粉砕してきた。

 

「最近はどうだ?」

 

「百の勝利より、一の敗北が大切な事もある。それを知りました」

 

「……なるほど、ついに負けを知ったか。伸びすぎた天狗の鼻が折られたのだな」

 

「ええ、根本からポッキリ折られました」

 

百代は顎を擦り、思い返した。

得意技【川神流・無双正拳突(むそうせいけんづ)き】を、放ってから見切られ、軽く捌かれ、顎を蹴り抜かれて脳震盪を起こし、負けたあの日の事を。

 

「参考までに、どんな奴に負けた?」

 

「織斑一夏という、学園で1年下の後輩だった男に負けました」

 

「ハハッ! 一夏か! 納得だ。まあ、アイツは俺の愛弟子だからな。お前ぐらいは楽に倒してもらわんと、師匠としての面目が立たん」

 

「一夏がヒュームさんの愛弟子!?」

 

「ああ。これまで数多くの弟子を取ってきたが、俺の足技・蹴り技を初見でほぼ会得し、不完全ながらジェノサイドカッターすら見よう見まねで放って見せたのはアイツだけだ。だからアイツには俺が知る足技・蹴り技の全てを叩き込んだ」

 

「あの難しい技を初見で……なるほど」

 

「……それで、今日は束に会いに来たんだったな?」

 

「ええ。IS学園で博士と会った際、話の流れで、専用機を作ってもらえる事になりまして」

 

「……良いだろう。着いて来い、百代」

 

言って百代に背を向け、九鬼財閥極東本部敷地内に入るヒュームと、その後を追う百代。

 

「財閥社屋内は各所が機密区画だ。俺から離れると、無数の警備員に集られるぞ」

 

「分かりました」

 

ドアをくぐり、エントランスに入り、廊下を歩き、右へ左へ。

無数のドアが並び、多くの人が行き交う廊下をしばらく歩く内に、百代は、九鬼財閥極東本部社屋が、どこかで見た事があるような構造をしている事に気がついた。

 

「ヒュームさん」

 

「どうした」

 

「私、こんな構造の建物を、どこかで見た事がある気がするんですが」

 

「……IS学園だろう」

 

「えっ?」

 

ヒューム曰く、IS学園の建造物は、九鬼財閥極東本部、特に宇宙開発部の建物を模して設計されたとの事。

 

「なるほど、道理で」

 

「納得できて何よりだ……もうすぐ着くぞ。こっちだ」

 

そうして再度、10数枚のドアの前を通り、曲がり角を3つ曲がった時、それまでとは違う雰囲気が漂っている場所に出た。

 

「このエレベーターホールから先が宇宙開発部だ」

 

「……確かに。IS学園のエントランスとそっくりですね」

 

宇宙開発部エリアに入ってからは、それまでスーツ姿だった行き交う人々が、白衣を羽織っていたり、作業着を着ていたり、一貫性がなくなってきた。

 

「エレベーターに乗るぞ」

 

「分かりました」

 

ヒュームが上向き三角ボタンを押し、すぐに開いた扉の1つに入る。

百代が同じエレベーターのカゴに入ると、ヒュームは行き先操作パネルの5……最上階を押した。

 

「最上階?」

 

「九鬼財閥には農林部や水産部、服飾部や医療開発研究部など、実に様々な部署があるが……一番大規模なのが宇宙開発部でな」

 

九鬼財閥が手掛ける事業は実に多彩で、世界各国何かしらの事業に関わっている。

だが一番大規模なのが宇宙開発部……つまり、ISにまつわる事業。

 

宇宙開発部はオウガという名機を作ったに留まらず、オウガのパーツやハードウェア、ソフトウェア、FCS(火器管制システム)などを各国に供給し、日夜、莫大な利益を上げている。

 

そして宇宙開発にまつわる事業なだけあって、宇宙飛行士の育成や、宇宙での活動に必要な物品の生産と流通にも力を入れており、実際NASAで扱われる物品の8割が、九鬼財閥宇宙開発部製の製品だとヒュームは言う。

 

「そうしてIS関連の事業や、宇宙開発関連事業を、こうして別棟を増設してまで纏めたは良いが……最後の最後で部長の……束の執務室が無かった事が発覚してな」

 

「篠ノ之博士の執務室……?」

 

「百代に分かりやすく言うならば……川神学園を作ったは良いが、完成間近で学園長の、鉄心の仕事部屋が無い事に気付いたのに近い」

 

「……ああ、なるほど」

 

「それで唯一空間が残っていた最上階の一角を、束の執務室として仕上げたのだ。最上階なのはそれが理由だ」

 

チンと音が鳴り、エレベーターのドアが開いた。

 

「ん?」

 

「また何か気になったか?」

 

「いえ……1階のエレベーターホールと違って、やけに狭いなと思ったんです」

 

「それか」

 

ヒュームの説明によれば、宇宙開発部棟の最上階は、95%が研究・開発・試運転用の実験区画で、残り5%が部長の執務室らしい。

 

「5%」

 

「ああ、5%だ」

 

そしてその5%でさえ、実験区画内に組み込まれているため、最上階はエレベーターホールが非常に狭く、エレベーターを降りて正面に、実験区画に通じるゲートがあるのみだと言う。

 

「さあ、行くぞ」

 

「はい」

 

ヒュームは百代を連れて実験区画に通じるゲートの前に立つと、スーツの胸ポケットから、1枚のプラスチックカードを取り出し、それをゲート横のセンサーに翳した。

 

開いたゲートの中に入ると、そこは徹底的なまでに計算された、まるで精密部品の生産工場のような場所だった。

 

「こっちだ」

 

立ち並ぶ機材や行き交う人々には目もくれず、ヒュームはゲートをくぐってすぐ隣のドアを指差した。

 

そしてドアの前に立ち、ドア横に付いているインターホンを押す。

すると中から白衣を羽織った束が出てきた。

 

「はーい、どちらさま……ああ、お疲れさまですヒュームさん」

 

「ああ、お疲れさまだ束。お前に客を連れてきた」

 

「お客さん? 誰……って、百代ちゃん? ああ、そっか、今日は日曜日……IS学園はお休みだったね。つまり百代ちゃんは専用機のお話に来たんだね?」

 

「はい」

 

「分かった」

 

「束。俺はエレベーターホールで待っている。話が終わったら、百代をホールまで連れてこい。敷地外まで連れて行かねばならん」

 

「了解」

 

束がそう言うと、ヒュームが立ち去り、束と百代が残された。

 

「じゃあ百代ちゃん、着いてきて」

 

「分かりました」

 

今度は束の後ろを着いて歩く百代。

数分して案内されたのは、小さなドーム状の空間。

 

「篠ノ之博士、ここは?」

 

「ISの機動テスト用ミニアリーナ。小さくて狭いけど、機能面はIS学園のアリーナと同等だよ」

 

百代が周囲を見渡すと、そこは確かにIS学園のアリーナと同じで、小規模ながら観客席もあり、白衣を着た人間で埋めつくされていた。

 

「観客があんなに……」

 

「観客でもあるけど、彼らの本分はデータ取りだよ。百代ちゃんに貸与する機体は、新型機だからね。データを取って、次の研究開発に活かすのが目的さ」

 

言うと束はどこからともなく、手元にノートパソコンを出現させると、手慣れた様子で操作する。

 

するとアリーナの床の中央が円形にせりあがり、さらに中央に穴が開き、中から操縦者不在の……起動待機状態のISがリフトアップされてきた。

 

「これが百代ちゃんに貸与する機体。その名も【グラップラー】だよ」

 

「これが、私の専用機……グラップラー」

 

百代は気がつくとグラップラーを起動・装着し、授業で一夏に教わったとおり、システムチェックを走らせていた。

 

「グラップラー、システムチェック」

 

「あれ? システムチェックが出来るの?」

 

「……ええ、博士に専用機を手配してもらう事になったあの日。起動訓練の授業で、一夏に教わりました。ISは起動したら、必ずシステムチェックをしろ、と」

 

「流石はいっくんだね。ちゃんと教えるべき事をちゃんと教えてて、束さん感心しちゃった。今でもたまにいるんだよ……専用機を貸与された高揚感で、システムチェックを忘れて機体を動かして、機体の不調に気付かず、思い通りに動かない機体にパニックを起こして、大怪我をする人が」

 

言いながら束は、グラップラーの足元から伸びたケーブルを手に取り、手元のノートパソコンに接続した。

 

「じゃあこれから【初期化(フォーマット)】と【最適化(フィッティング)】を始めるから、その場で動かずジッとしてて」

 

「フォーマットとフィッティング?」

 

「初期化と書いてフォーマット。最適化と書いてフィッティング」

 

「なるほど」

 

「どっちも専用機には欠かせない作業でね……前者は、専用機は仕上がるまでに、何人もの開発者が繰り返し起動するから、その人たちのデータが残ってて、システムがそのデータを参照して稼働するのを防ぐために、蓄積されたデータを消す事。後者は蓄積されたデータが無いISが、パイロットのデータを取り込み、以降はそのパイロットが起動させた際にのみ稼働するようにする事」

 

「つまり、先駆者の挙動のクセを消す初期化(フォーマット)と、クセの無いまっさらなこの機体に、私のデータを書き込む最適化(フィッティング)と?」

 

「話が早くて助かるよ。5分ぐらいで終わるからね」

 

言われて百代はグラップラーのシステムチェック項目に目を走らせ、表示されている内容を1つ1つ、座学で習った事と照会しながら、小声で口に出しながら読み上げる。

 

束はそれを見て、また1つ感心した。

 

最近のISパイロットは、カタログスペックを優先するあまり、こうした基本的な所作を疎かにしがちなのだが、百代は違った。

 

おそらくはグラップラーのフェイスバイザーに表示されているであろうチェック項目を、1つ1つ、内容を口に出しながら復習している。

 

これが出来るISパイロットは、決まって将来大成する。

 

それが九鬼財閥極東本部宇宙開発部の中で生まれた、真理の1つだった。

 

やがて束の手で初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が終わり、今日の話の本題に入る。

 

「グラップラーは百代ちゃんのリクエストどおり、少数の銃火器で相手を牽制し、出来た隙に距離を詰め、拳打や脚打のラッシュで相手をボコボコにする機体に仕上げたよ」

 

「ありがとうございます」

 

「と言う事で、殴る・蹴るはオウガの腕部打撃装甲【天上天下】と、脚部打撃装甲【唯我独尊】を……推力まわりもオウガのそれを流用して解決したんだけど、まだ銃火器が積まれてないんだ」

 

「……いまのグラップラーは、殴る・蹴る・スラスター移動が出来るのみで、撃つ銃が無い。私のリクエストは達成されてない、なるほど」

 

百代が頷くのを見た束は、百代がちゃんと話に着いてきていると判断し、ノートパソコンを操作する。

 

するとアリーナの観客席下側の壁がスッと開き、中から無数のIS用銃火器が出てきた。

 

「そこで百代ちゃんには今から、そのグラップラーに積む銃火器を選んでもらうよ」

 

言うと束は、これはオススメの1本として、1丁のIS用アサルトライフルを素手で(・・・)抜き取り、百代に手渡した。

 

「これは?」

 

「銘は【ロデオホース】といって、引き金を引くと、2本並んだ銃身から同時に弾が出るアサルトライフル。弾薬はマガジン供給式で、マガジン1個に800発入ってる。2発同時発射だから、正味400発分だね。威力はお墨付きなんだけど、反動が凄まじく強いじゃじゃ馬。普通のISでフルオート射撃をすると、7割ぐらいは明後日の方向に弾が飛ぶ。だけど、百代ちゃんの身体能力と、それが最適化(フィッティング)・反映されたグラップラーなら、きっと上手く扱える」

 

言って束はノートパソコンを操作し、アリーナ内に人型をした、ダミーターゲットを出現させた。

 

「とりあえずアレを撃ってみようか」

 

「分かった」

 

百代はロデオホースを右手で構えると、銃口をダミーターゲットに向け、引き金を引いた。

 

直後、ドガガガガとけたたましい発射音が響き、ダミーターゲットの頭上に『命中率99.8%』と表示され、周囲の観客(研究者たち)から歓声が上がった。

 

「おお!」

 

「あのじゃじゃ馬ライフルで99.8が、事実上の全弾命中が出せるとは」

 

「それに見てるか? あのじゃじゃ馬、射撃中、銃口が全くブレてないぞ」

 

「反動を筋力とパワーアシスト、FCS(火器管制システム)が抑えてるのもあるけど、パイロットがよほど鍛え込んでないと、ああはならないわ」

 

観客の歓声を聞きながら、百代は1マガジン分の弾薬を撃ちきった。

 

「……なるほど、じゃじゃ馬(ロデオホース)か。納得だ。篠ノ之博士。弾切れだ。マガジンの交換方法を教えてくれ。次は左手で撃ちたい」

 

「分かったよ。じゃあここをこうして……」

 

束からマガジン交換の方法を聞き、そのとおりにロデオホースからマガジンを抜き、束から換えのマガジンを受け取ってロデオホースに挿入……リロードをして、今度は左手でロデオホースを構え、ダミーターゲットを撃った百代。

 

表示された命中率は変わらず99.8%だ。

 

「どうかな?」

 

「初めてIS用ライフルを撃ったが……良い銃だ。気に入った」

 

言うと百代は束からもう1丁ロデオホースを受け取ると、それを両手それぞれで2丁持ちにし、グラップラーのPICを滑走モードに変え、ダミーターゲットの周囲を滑るように移動しながら、ダミーターゲットめがけてロデオホースを発射する。

 

「はああああっ!」

 

左右のロデオホースから同時に放たれた弾丸は、ダミーターゲットに吸い込まれるようにして命中。

命中率はやはり99.8%だ。

 

「旋回滑走しながらの2丁撃ちも全弾命中判定!?」

 

「ブラボー!」

 

「武術四天王は銃火器も抜かりなしか」

 

こうして百代の銃選びは、順調に進んで行ったのだった。

 




グラップラー。
IS学園配備の量産機【オウガ】をベースに、百代のポテンシャルを十全に発揮出来るよう、徹底的にカスタムされた新型機で、百代の専用機。
コアナンバーは104(百四=ひゃくよ=ももよ=百代)で第4世代機に相当する。
【オウガ】に搭載されている腕部打撃装甲【天上天下】と脚部打撃装甲【唯我独尊】をそのまま流用し、各部位の可動性と耐久性、反応性を超強化。
さらにスラスターを6基(メイン2・サブ4)に増設・改良する事で個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)の発動可能を筆頭に、凄まじい機動力も確保した。
アサルトライフル2丁とサブマシンガンを1丁、ショットガンを1丁とバズーカを1丁搭載しているため、ある程度は撃ち合いもこなせる。

素体イメージはヤルダバオトで。
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