IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏 作:Exnyas
-_- other
「ねえ、知ってる? 3組に、転校生が来るんだって」
「転校生? この時期に?」
1年1組の朝、
朝の育乳を終え、授業が始まるまでの間、スマホをいじっていた辰子の耳に、そんな会話が入ってきた。
「中国の代表候補生らしいよ」
「へえ~」
そんな話を聞きながら、辰子は前の席に座る百代の背中をつつく。
「モモちゃんモモちゃん」
「……ん? 何だ?」
「3組に、中国の代表候補生が転入してくるらしいよ」
「……ふむ」
百代はスマホを取り出すと、インターネットで中国代表候補生を検索にかけた。
「中国の代表候補生、ええと……漢字で鳳鈴音と書いて、ファン・リンインというらしい。専用機持ちだそうだ」
「どんな子?」
百代はスマホに表示された、鳳鈴音の写真を辰子に見せる。
「元気そうな子だね。気が強そう。専用機持ちだって?」
「ああ。甲羅の甲に、難しい方の龍で
「
「勝てる……いや、勝つ。私に黒星を付けていい……私を組み敷いていいのは、現状一夏だけだ」
言うと百代はグッと背伸びをして、首をコキコキと鳴らす。
「やー、重いねモモちゃん」
「抜け駆けして一夏にファーストキスを捧げた女がどの口でほざく」
「……反論できない」
「ところで辰子、育乳の経過は?」
「順調だよ。ブラのサイズが1つ上がった」
「奇遇だな、私もだ」
百代は自身の双球を下から掬い上げるように持ち上げ、手を離した。
ぶるんとたわむ百代の双球。
それを見ていた誰かの喉から、ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。
「……代わりに、前まで着れてたシャツが全部着れなくなったんだ」
「……私もだ。デカくなるのは良いんだが、服代下着代が嵩むのが問題だな」
そもそもが日本人離れした体型をしている自負がある百代と辰子は、最近の育乳で胸囲が増えた事により、市販の服や下着では着まわしが難しくなっている。
「あともうちょっと大きくなったら、国内規格の下着が入らなくなるよ」
「だな」
育乳を始める前の段階ですら、国内規格では上から数えた方が早いサイズの下着を着けていた百代と辰子。
「山田先生とか束さんは、どうやって下着を調達してるんだろうな?」
「私たちよりはるかに大きいもんね……海外産かな?」
アメリカ規格であれば、山田先生や束サイズでも簡単に入る下着は存在するだろう。
だが、海外規格の下着は、えてして高い。
百代や辰子のように普通(?)の高校生には、なかなか手が出ない価格設定がされている事が多い。
「かと言ってオーダーメイドなんかすると、それこそ目玉が飛び出るような値段になるだろう?」
「……私、今月おこづかいピンチなんだけど」
辰子曰く、今月は亜巳の仕事がやや不調らしく、食事こそまともに摂れてはいるが、趣味や嗜好品に回せるだけの余裕は無いそうで、オーダーメイドの下着なぞ、到底手が出せないらしい。
「……川神学園時代なら、いくらでもバイトが出来たんだがな」
「モモちゃんと2人、りゅーへーも入れて3人で工事現場アルバイトやったのを思い出したよ」
「あー、やったやった。懐かしいな」
百代は思い出す。
一夏に初めて黒星を付けられたあの日、悔し涙を流しているところを辰子に目撃され、バツが悪くなって逃走。
滅茶苦茶に走り回ったため、親不孝通りに入り込んだ事に気付かず、やがて息切れで力尽き、辰子を撒いたかと顔を上げたら辰子の……板垣家の前で、バイトに行こうとしていた竜兵に遭遇。
同時に辰子に追い付かれた。
やむなく事情を話す事になった百代は、辰子に諭され、焼き肉ならぬヤケ肉の敢行を決定したが、所持金は心許なかった。
そこで竜兵に、なら俺のバイトを手伝え、親方には話を付けてやると言われ、3人で工事現場で働く事に。
竜兵から紹介を受けた親方は、最初こそ百代と辰子を、若い少女と言う事で渋い顔をしていたが、竜兵が百代と辰子は自分より力が強いし、体力も根性も一般人を凌駕すると言われ、ならば試しにと注文を出し、人間重機と呼ぶに相応しい能力を示されて脱帽した。
トラックの荷台に山と積まれた建材を、置場と3往復で荷台を空にする辰子と、それを親方の指示どおりに、安全帯もなしに高所・低所と自在に瞬時に動き、マッハで組み立てる百代。
流石は川神の
これに気を良くした親方は、その場で百代と辰子の雇用を決め、作業員歴の長い竜兵と組ませ、大いに重用した。
その後、板垣家全員と一緒に焼き肉を食い、食う事で初黒星の溜飲を下げた百代は、それからしばしば、金欠の際はこの工事現場でバイトをするようになった。
ちなみに百代と辰子の給料は、手取りで16000円だった。
一般的な見習いの日当2日分もあった。
「……親方のところでバイトしても、数日働いてブラ1枚とかそんなレベルだろ? とてもじゃないが割に合わん」
「どうしようね?」
そんな話をしていると、教室の前ドアが開き、スコールとオータムが入ってきた。
百代と辰子は身なりを正し、前を向く。
「はい、
「オラ、席に着け。出欠を取るぞ」
オータムの言葉に従い、それまでオフモードだった他の生徒が、順次オンモードへと切り替わる。
そんな折、百代はふと、四季百秋がいない事に気が付いた。
「オータム先生」
「おー、どうした川神」
「四季がいないんですが」
「あー、四季か。アイツは今日、倉持技研に行ってるから休みだ」
「倉持技研? 確か、
「そうだ。実は昨日の夕方に、IS委員会から連絡があってな。四季に専用機の貸与が決まった。ヤツはいま受領の手続きに行ってる」
オータムの言葉にクラスがざわめく。
「川神はクラス代表になる前に専用機が貸与されたが、それに対し複数のIS企業から、抗議が入ったんだ。隣のクラスのセカンドマンも専用機を持っているのに、どうしてファーストマンには専用機が無いんだってな」
「だから作らせろ、と?」
「そう言う事だ」
そうやって多数の……九鬼財閥極東本部宇宙開発部を除くIS企業から申し込みがあり、その中から四季は倉持技研を選んだ、とオータムは言う。
「……って事は、これで今年の1年は全クラス専用機持ちが集まった、って事?」
「そのとおりよ」
誰かの問いをスコールが肯定する。
曰く……
1組には百代と四季が。
2組には一夏とオルコットが。
3組には転入してくる鳳が。
4組には四季と同じ倉持技研製の専用機、その名も【
……それぞれ在籍している事になった、と。
「今年のクラス代表交流戦は一波乱ありそうだな」
「ちなみにクラス代表交流戦の優勝者が在籍するクラスには、生徒全員と監督教師に、半年間有効な、食堂のデザート1品無料パスが贈呈されるわ」
オータムの言葉にクラスから歓声が飛ぶ。
だが百代と辰子は苦笑の表情を浮かべ、パチパチと乾いた拍手をするのみだ。
「あら、川神さんと板垣さんは嬉しくなさそうね?」
「デザート1品無料と言われましても……」
「個人的に、デザート限定よりはメニュー1品無料がいいなぁ」
「そうだな。500円の特盛定食にもう1品無料で付けられる方がいい」
百代と辰子のそんな言葉に、2人以外のクラスメイトが信じられないという表情になる。
するとオータムが『良い事言うじゃねぇか』という表情になる。
「アタシもデザートよりは、メニュー1品無料の方が嬉しいな」
「えっ……オータム先生もですか!?」
「デザートですよデザート!」
「甘いものは別腹って言うけどよ、アタシの場合、別腹もメインで満たしたいな」
「同意見です。オータム先生」
「私もです」
クォーターカットのショートケーキよりは、ローストチキンレッグ1本を取ると言い、ハハハと意気投合する百代・辰子・オータムの3人。
「……オータム」
「あん? 何だよスコール」
「いま、
「何かあったか?」
「千冬のクラスでも同じように、デザート1品フリーパスより、メニュー1品無料パスが良いって言う生徒が2人と、教師が1人いるらしいわ」
「……当ててやろうか。生徒は織斑と篠ノ之、教師は千冬だろ」
オータムの言葉に頷くスコールと、流石は同族だと喜ぶ百代と辰子。
それから、とにかく交流戦頑張れとオータムからエールを受けた百代は、静かに闘志を滾らせるのだった。
******
百代と辰子がオータムと意気投合し、一夏と箒、千冬を同族認定している頃、1年3組の教室では……
「……と言う訳で、
「鳳鈴音よ。日本風に言えば鳳が名字なんだけど、名字で呼ばれるのは好きじゃないから、
……中国の代表候補生【鳳 鈴音】が、転入生としてクラスに紹介されていた。
「じゃあ鈴音さんの席は……」
「先生!」
鈴音を着席させようとするクラス担任の言葉を遮り、溌剌とした雰囲気の少女が、声を張り上げて挙手をした。
「どうしたの? 斎藤さん」
「私、鈴音さんにクラス代表譲ります! そして、私に代わってクラス代表交流戦に出てほしい!」
「……クラス代表はなんとなく分かるけど、クラス代表交流戦って?」
「クラス代表交流戦って言うのはね……」
斎藤と呼ばれた少女が、鈴音に説明を行う。
曰く、IS学園の1年生が最初に経験するイベントで、入学時点でのISに対する学習度合いのお披露目と、1年生の4クラスそれぞれですり合わせを行うため、アリーナでISバトルを繰り広げる。
授業の一環ではあるものの、優勝したクラスには半年間有効な、食堂のデザート1品無料パスが授与される。
「なるほど」
「私たち、デザートパスが欲しいの! だからクラス代表を、専用機持ちの鈴音さんに!」
斎藤曰く、今年の1年は専用機持ちが多く、1組には2人、2組にも2人、4組にも1人いるが、3組には専用機持ちがいなかったらしい。
そこへ専用機持ちの鈴音が転入してきた。
ならばこのチャンス、逃すわけにはいかないと考えているらしい。
「ふぅん……
「やったぁ!」
「……じゃあ、1年3組のクラス代表は、今日から鈴音さんとします。本当は一度決まったクラス代表は、1年間変わらないものなんだけど、今回だけ特別よ? 斎藤さん」
「はい!」
「鈴音さん、頑張ってくださいね」
「はい、精一杯頑張ります」
「じゃあ改めて。鈴音さんの席は……あそこね。窓側の列の一番前です」
「はい」
指定された席に向かう鈴音に注がれる、期待の眼差し。
それら全てを一身に受けながら、鈴音はぼうっと思案する。
こんな様子のIS学園に果たして、自分とマトモに戦えるような人間がいるのかと。
だが、鈴音は知らない。
この学園には少なくとも3人、いまの鈴音を容易に下しうる強者がいる事を。
******
※余談※
「……あー、その問題ね。束さんも困った事があるよ。だからいいものあげる。はいこれ」
「これは?」
「束さん謹製の瞬間採寸自動衣服縫製マシン。名付けて【着れるんです】だよ。いくつかのパターンを指定すれば、全70色の中からランダムで、体にピッタリの服を作ってくれるんだ。1着にかかる時間は2分ぐらいかな」
「わ、すごい。スッケスケでエッチな黒パンティーと黒ブラジャーがあっという間に!」
「下着だけじゃなくて、キャミソールやトップス。ボトムスやアウター、ワンピースなんかも作れるよ。束さんの他にも、まーやんとか箒ちゃんも使ってて、好評をもらってる逸品さ」
百代と辰子の服代問題は、かつて同じ道を通った束の手により、解決したのだった。
間隔は開きますがまだ書きます。