IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏 作:Exnyas
聞けばモモセンパイと辰姉、オータム先生も、スイーツフリーパスよりは、メニュー1品無料パスが良いらしい。
そこで俺は束姉や箒と結託し、モモセンパイと辰姉、千冬姉とオータム先生も巻き込んで、学園長に談判……クラス代表交流戦で優勝したクラスの希望者には、メニュー1品無料パスを出してもらう約束をした。
それから数日が経ち、クラス代表交流戦の日がやって来た。
「さて、俺の対戦相手はっと……ほうほう」
廊下の掲示板に貼られた対戦者組み合わせ表を見ると、まず俺は初戦で4組の……
「……となると」
見れば案の定、モモセンパイは初戦で3組の代表……あの日、学生寮の端で出会い、少しだけ話をした中国からの転入生、リンと戦う事になっていた。
「なるほどな。で……午前中にモモセンパイ対リンをやって、それの勝者が午後、俺と戦うのか」
俺はガントレットからディスプレイを取り外し、スマホモードを起動し、モモセンパイの連絡先を呼び出した。
数コールして、モモセンパイが電話口に出る。
《もしもし? 川神だ》
「あ、もしもし? モモセンパイ? 俺、一夏です」
《ああ、どうした?》
「モモセンパイ、クラス代表交流戦の対戦表見ました?」
《見たぞ。私は初戦で中国の代表候補と
俺は交流戦開催地であるアリーナには向かわず、整備室へと向かいながら、モモセンパイと雑談に興じる。
「ですです」
《一夏。お前は実質的なシード選手で、私か
「そうですよ。待ってますからね」
《任せておけ。軽く捻ってやる。今日は最初から
「俺、モモセンパイの手の内知りたくないんで、整備室に籠ってますから」
俺が整備室のドアを開くと、中にいた束姉が駆け寄って来たので、抱擁を交わす。
どうやら束姉はオウガの調整をしていたようだ。
「互いに手の内は知らず、全力でやらないとね?」
《ありがたい》
「って事で、勝利報告待ってますね」
言って俺は通話を切った。
******
-_- 百代
《って事で、勝利報告待ってますね》
そう言って一夏は電話を切った。
私は通話が終わったスマホを、同じピットに詰めていた辰子に預ける。
「いちくん、なんて?」
「互いに手の内知らずに全力でやりたいから、整備室に籠る。勝利報告を待ってる、だそうだ」
「なるほどね」
一夏からの言外の声援を受け、私は闘気を滾らせた。
「やっと、やっとだ。やっと、全力の一夏と戦える日が来た」
私は左手に着けている、白いオープンフィンガーのグローブを撫でる。
これがあの日、束さんから受け取った私の専用機……グラップラーの待機形態だ。
「だが、一夏と戦うためには、
相手は中国の代表候補生らしいが……知った事か。
どこのどんな奴が相手だろうと、私と一夏の間に立ちはだかるなら、真っ向から打ち倒すのみ。
その為に、グラップラーを受領したあの日から、毎日2時間早く寝て、2時間早く起き、ジジイに頼んで修行をしていたんだ。
一夏をオカズに自慰行為に耽る事を自粛してな!
いかん……思い出したらムラムラしてきた。
「モモちゃん大丈夫? 息、荒いし……なんなら、目が血走ってるけど」
「なに、専用機を受領してからずっと
私がそう言うと、辰子はカエルが潰れたような音の声を発した。
「え”っ!? 発電してないって……オナ禁してたの!?」
「ああ。それで一夏の事を考えたら、下腹部が疼いてきただけだ」
「……オツユとか大丈夫?」
「……普通のパンティーだとか、以前のIS学園支給品じゃアウトだっただろうな」
ISスーツには優れた吸湿性と速乾性があり、肌触りが良いため、下着がわりに着る者は多い。
だからISスーツを着ているなら、ムラムラして、秘貝から多少の汁を漏らしても問題はない。
だが多少の、それもあくまで一般人だったら、という但し書きが付く。
私や辰子のような、それこそ
ましてや今の私のように、数日間にも渡る自家発電自粛状態の場合だと、ちょっとした事で汁が漏れると、下半身がビショビショになってしまう。
「以前の……って事は、今着てるISスーツは違うの?」
「ああ。あの釈迦堂さんも愛用する、釈迦堂縫製のISスーツをベースに、性能を強化した特別製だ。専用機を受領した際、色違いで5着ほど用立ててもらった」
釈迦堂縫製のISスーツは、いわゆるプラグスーツ型で、川神人向けに特殊な材質で作られており、吸湿性や速乾性は普通のISスーツの十数倍を誇り、例え大雨に降られても冷たさを感じず、濡れた部位は数秒で乾くほどの性能を持つ。
これなら私が自家発電自粛10日目でお漏らししても、やってしまったと感じている間に乾いてしまう。
「へえー」
もちろん柔軟性や耐久性も、普通のISスーツの十数倍を誇り、着たままジジイと組手をしても脱げないし破れないときた。
「あの学長と組手をしても、脱げたり破れたりしないの!?」
「ああ、大したもんだろう?」
何より他のISスーツと異なるのは、釈迦堂縫製のISスーツは、気……闘気に順応しており、着用中の気の運用効率は、着ていない時のそれより、3割ほど高くなる。
「気に適合してるの?」
「釈迦堂さん曰く、着ると気の巡りが3割違うらしい。愛用するだけはある、という事だ」
「ほえー」
私は心頭滅却し、ピンク色に染まりそうになった頭の中をリセットすると、改めて、意識を戦う事に向ける。
「よっ、と」
手足に付けていた、1つ70kgのウェイトリストを外す。
外したウェイトリストはピットの床に落ち、ゴッと音を立てる。
ああ、身軽だ。
「ウェイトリストって……また地味なトレーニングしてたんだね、モモちゃん」
「だが効果はあるぞ。場所も時間も選ばないからな」
「ちなみにそれ、1つ何キロ?」
「これか? 1つ70キロだ」
「つまり全身で280キロかー」
私は1つ50キロが精々かな、と言う辰子に苦笑する。
余談だがワン子は1つ20kgのウェイトリストを四肢に巻き、大和が座る廃タイヤをロープで腰に繋ぎ、多馬川河川敷を毎朝ランニングをしている。
毎朝欠かさずだぞ?
見上げた根性だと思わないか?
その上で将来の夢が『川神院の師範代になって私を支える』だぞ。
可愛すぎる。
……まあ、残念ながらワン子は気の適性が低くて、師範代にはなれないのだが。
……ちなみに、嫌われるのが怖くて言ってない。
そんな事を考えていると、控え室……ピットの壁面上部に据え付けられたスピーカーから、オータム先生の声が聞こえてきた。
『あー、こちら管制室のオータム。Aピット川神、聞こえるか? 聞こえてたらモニター前のマイクに返事しろ』
「モモちゃん、あれじゃない?」
「……これか? はい、川神です」
辰子が指差すマイクに近づき、言われたとおりに返事をする。
『よしよし、聞こえているな。もうじき、クラス代表交流戦が始まるが……準備は出来てるか?』
「専用機を起動して、カタパルトに乗りさえすれば、いつでも」
『オーケー、なら準備しな』
「分かりました。辰子、起動タイムを測ってくれ」
私は左手を握りしめ、目を閉じる。
「……いくぞ?」
道着を着て、半身で身構える自分をイメージする。
刹那、一瞬の浮遊感。
目を開くと、視界が高い。
私はグラップラーを起動して佇んでいた。
「どうだ?」
「タイムは0.63秒だったよ」
「……まだまだだな。目標は0.5秒未満だ」
教わった話によれば、熟練の国家代表ともなれば、起動時間は0.25秒ぐらいが普通らしい。
更なる特訓が必要だ。
「オータム先生、専用機を起動しました。システムに異常はありません」
私はシステムチェックを行い、システムがオールグリーンである事を確認する。
『……よし、カタパルトに乗れ。乗り方は教わってるな?』
「スキー板を履くように、爪先を差し入れてから、かかとを踏み込むんでしたね?」
『ああ、合ってる』
授業で教わったとおり、カタパルトに乗る。
……モロが観ていたアニメのロボット発艦シーンは、実際にはこんな感じなのか。
という事は、今の内に武器を
開始のアナウンスは入るだろうが、アナウンスされてから武器を出すのは、初動が遅いと思われる。
私はグラップラーに
「川神百代、発進準備完了です」
ライフルとショットガンのセーフティーを解除し、オータム先生に準備完了の旨を伝える。
『よし……5カウント後に射出する。発進に備えろ』
そうしてカウントがゼロになり、私はカタパルトで射出され、アリーナの宙に飛び出した。
束さんに頼んで(専用機が九鬼財閥宇宙開発部預りである為)ISで何度か飛ばせてもらったが、束さん曰く、私は
一夏の教えを思い出しながら、アリーナを飛ぶ。
アリーナには先客が……件の、中国の代表候補生だと言うファンが、肩の
「……アンタがアタシの対戦相手?」
互いの距離が20mぐらいにまで近づいたとき、ファンがそう言う。
「ああ、1組代表の川神百代だ」
「3組代表の
『ではこれより! クラス代表交流戦を開始します! ルールは国際IS競技法に則り、試合時間は30分! 時間以内に相手ISの
授業で習った話だが、ISにはパイロットを保護するシールドがあり、これは普段、そのISが持つエネルギー総量の30%で構築されている。
これを
【絶対防御】はパイロットの命を最優先に守るために存在するため、1枚目より防御性能が高い……が、その分、負荷がかかった際のエネルギー消費が速い。
ましてや【絶対防御】起動中は原則的に、そのISは生命維持装置としての機能しかなく、殴ったり、蹴ったり、銃を撃ったりはもちろん、一夏が言うところの【PIC】を使った飛行も最低限……つまり、地表や水面から5cmを浮遊する、いわゆる滑走しか出来ないし、ハイパーセンサーによる視覚補助も行えない。
何が言いたいか?
結論。
【絶対防御】起動中は無防備だし、言うほど絶対じゃない。
……やり方次第では、飽和火力を叩きつければ殺せる。
だからこそ国際IS法という法律があり、その法律で『【絶対防御】起動中のISに対し如何なる害意行為は取ってはならない』と定められている。
とは言え法律だ。
穴はいくつもあるし、ISを犯罪に使う連中なんかは、律儀に守るとは思わんが。
『第1試合! 1年1組川神選手対1年3組
そんなアナウンスが響き、私とファンは、互いに距離を詰めた。