IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏   作:Exnyas

20 / 25
お待たせしました。


20.激突、1組vs3組にて

聞けばモモセンパイと辰姉、オータム先生も、スイーツフリーパスよりは、メニュー1品無料パスが良いらしい。

 

そこで俺は束姉や箒と結託し、モモセンパイと辰姉、千冬姉とオータム先生も巻き込んで、学園長に談判……クラス代表交流戦で優勝したクラスの希望者には、メニュー1品無料パスを出してもらう約束をした。

 

それから数日が経ち、クラス代表交流戦の日がやって来た。

 

「さて、俺の対戦相手はっと……ほうほう」

 

廊下の掲示板に貼られた対戦者組み合わせ表を見ると、まず俺は初戦で4組の……更識(さらしき)と言う代表と戦う事になっていたが、当の更識が専用機不調に伴い交流戦を辞退しているため、俺は実質的な不戦勝扱いになっていた。

 

「……となると」

 

見れば案の定、モモセンパイは初戦で3組の代表……あの日、学生寮の端で出会い、少しだけ話をした中国からの転入生、リンと戦う事になっていた。

 

「なるほどな。で……午前中にモモセンパイ対リンをやって、それの勝者が午後、俺と戦うのか」

 

俺はガントレットからディスプレイを取り外し、スマホモードを起動し、モモセンパイの連絡先を呼び出した。

 

数コールして、モモセンパイが電話口に出る。

 

《もしもし? 川神だ》

 

「あ、もしもし? モモセンパイ? 俺、一夏です」

 

《ああ、どうした?》

 

「モモセンパイ、クラス代表交流戦の対戦表見ました?」

 

《見たぞ。私は初戦で中国の代表候補と()るんだろう?》

 

俺は交流戦開催地であるアリーナには向かわず、整備室へと向かいながら、モモセンパイと雑談に興じる。

 

「ですです」

 

《一夏。お前は実質的なシード選手で、私か(ファン)か、勝った方と()るんだよな?》

 

「そうですよ。待ってますからね」

 

《任せておけ。軽く捻ってやる。今日は最初から真剣(マジ)だ……戦う事を楽しんだりせず、速攻でキメてやる》

 

「俺、モモセンパイの手の内知りたくないんで、整備室に籠ってますから」

 

俺が整備室のドアを開くと、中にいた束姉が駆け寄って来たので、抱擁を交わす。

どうやら束姉はオウガの調整をしていたようだ。

 

「互いに手の内は知らず、全力でやらないとね?」

 

《ありがたい》

 

「って事で、勝利報告待ってますね」

 

言って俺は通話を切った。

 

 

******

 

 

-_- 百代

 

《って事で、勝利報告待ってますね》

 

そう言って一夏は電話を切った。

私は通話が終わったスマホを、同じピットに詰めていた辰子に預ける。

 

「いちくん、なんて?」

 

「互いに手の内知らずに全力でやりたいから、整備室に籠る。勝利報告を待ってる、だそうだ」

 

「なるほどね」

 

一夏からの言外の声援を受け、私は闘気を滾らせた。

 

「やっと、やっとだ。やっと、全力の一夏と戦える日が来た」

 

私は左手に着けている、白いオープンフィンガーのグローブを撫でる。

これがあの日、束さんから受け取った私の専用機……グラップラーの待機形態だ。

 

「だが、一夏と戦うためには、(ファン)を倒さなければならない」

 

相手は中国の代表候補生らしいが……知った事か。

どこのどんな奴が相手だろうと、私と一夏の間に立ちはだかるなら、真っ向から打ち倒すのみ。

 

その為に、グラップラーを受領したあの日から、毎日2時間早く寝て、2時間早く起き、ジジイに頼んで修行をしていたんだ。

 

一夏をオカズに自慰行為に耽る事を自粛してな!

 

いかん……思い出したらムラムラしてきた。

 

「モモちゃん大丈夫? 息、荒いし……なんなら、目が血走ってるけど」

 

「なに、専用機を受領してからずっと発電(・・)してなくてな」

 

私がそう言うと、辰子はカエルが潰れたような音の声を発した。

 

「え”っ!? 発電してないって……オナ禁してたの!?」

 

「ああ。それで一夏の事を考えたら、下腹部が疼いてきただけだ」

 

「……オツユとか大丈夫?」

 

「……普通のパンティーだとか、以前のIS学園支給品じゃアウトだっただろうな」

 

ISスーツには優れた吸湿性と速乾性があり、肌触りが良いため、下着がわりに着る者は多い。

だからISスーツを着ているなら、ムラムラして、秘貝から多少の汁を漏らしても問題はない。

 

だが多少の、それもあくまで一般人だったら、という但し書きが付く。

 

私や辰子のような、それこそ逸般人(いっぱんじん)の場合は、代謝が一般人のそれとは比較にならないため、普通のISスーツでは、吸湿性や速乾性が間に合わない。

 

ましてや今の私のように、数日間にも渡る自家発電自粛状態の場合だと、ちょっとした事で汁が漏れると、下半身がビショビショになってしまう。

 

「以前の……って事は、今着てるISスーツは違うの?」

 

「ああ。あの釈迦堂さんも愛用する、釈迦堂縫製のISスーツをベースに、性能を強化した特別製だ。専用機を受領した際、色違いで5着ほど用立ててもらった」

 

釈迦堂縫製のISスーツは、いわゆるプラグスーツ型で、川神人向けに特殊な材質で作られており、吸湿性や速乾性は普通のISスーツの十数倍を誇り、例え大雨に降られても冷たさを感じず、濡れた部位は数秒で乾くほどの性能を持つ。

 

これなら私が自家発電自粛10日目でお漏らししても、やってしまったと感じている間に乾いてしまう。

 

「へえー」

 

もちろん柔軟性や耐久性も、普通のISスーツの十数倍を誇り、着たままジジイと組手をしても脱げないし破れないときた。

 

「あの学長と組手をしても、脱げたり破れたりしないの!?」

 

「ああ、大したもんだろう?」

 

何より他のISスーツと異なるのは、釈迦堂縫製のISスーツは、気……闘気に順応しており、着用中の気の運用効率は、着ていない時のそれより、3割ほど高くなる。

 

「気に適合してるの?」

 

「釈迦堂さん曰く、着ると気の巡りが3割違うらしい。愛用するだけはある、という事だ」

 

「ほえー」

 

私は心頭滅却し、ピンク色に染まりそうになった頭の中をリセットすると、改めて、意識を戦う事に向ける。

 

「よっ、と」

 

手足に付けていた、1つ70kgのウェイトリストを外す。

外したウェイトリストはピットの床に落ち、ゴッと音を立てる。

ああ、身軽だ。

 

「ウェイトリストって……また地味なトレーニングしてたんだね、モモちゃん」

 

「だが効果はあるぞ。場所も時間も選ばないからな」

 

「ちなみにそれ、1つ何キロ?」

 

「これか? 1つ70キロだ」

 

「つまり全身で280キロかー」

 

私は1つ50キロが精々かな、と言う辰子に苦笑する。

 

余談だがワン子は1つ20kgのウェイトリストを四肢に巻き、大和が座る廃タイヤをロープで腰に繋ぎ、多馬川河川敷を毎朝ランニングをしている。

 

毎朝欠かさずだぞ?

見上げた根性だと思わないか?

その上で将来の夢が『川神院の師範代になって私を支える』だぞ。

可愛すぎる。

 

……まあ、残念ながらワン子は気の適性が低くて、師範代にはなれないのだが。

……ちなみに、嫌われるのが怖くて言ってない。

 

そんな事を考えていると、控え室……ピットの壁面上部に据え付けられたスピーカーから、オータム先生の声が聞こえてきた。

 

『あー、こちら管制室のオータム。Aピット川神、聞こえるか? 聞こえてたらモニター前のマイクに返事しろ』

 

「モモちゃん、あれじゃない?」

 

「……これか? はい、川神です」

 

辰子が指差すマイクに近づき、言われたとおりに返事をする。

 

『よしよし、聞こえているな。もうじき、クラス代表交流戦が始まるが……準備は出来てるか?』

 

「専用機を起動して、カタパルトに乗りさえすれば、いつでも」

 

『オーケー、なら準備しな』

 

「分かりました。辰子、起動タイムを測ってくれ」

 

私は左手を握りしめ、目を閉じる。

 

「……いくぞ?」

 

道着を着て、半身で身構える自分をイメージする。

刹那、一瞬の浮遊感。

目を開くと、視界が高い。

私はグラップラーを起動して佇んでいた。

 

「どうだ?」

 

「タイムは0.63秒だったよ」

 

「……まだまだだな。目標は0.5秒未満だ」

 

教わった話によれば、熟練の国家代表ともなれば、起動時間は0.25秒ぐらいが普通らしい。

 

更なる特訓が必要だ。

 

「オータム先生、専用機を起動しました。システムに異常はありません」

 

私はシステムチェックを行い、システムがオールグリーンである事を確認する。

 

『……よし、カタパルトに乗れ。乗り方は教わってるな?』

 

「スキー板を履くように、爪先を差し入れてから、かかとを踏み込むんでしたね?」

 

『ああ、合ってる』

 

授業で教わったとおり、カタパルトに乗る。

……モロが観ていたアニメのロボット発艦シーンは、実際にはこんな感じなのか。

 

という事は、今の内に武器を展開(オープン)しておくのが良いだろう。

開始のアナウンスは入るだろうが、アナウンスされてから武器を出すのは、初動が遅いと思われる。

 

私はグラップラーに基本装備(プリセット)として登録されている、じゃじゃ馬アサルトライフルこと『ロデオホース』を右手に、双発型20連装大口径ショットガン『ハンディクレイモア』を左手に、それぞれ展開(オープン)した。

 

「川神百代、発進準備完了です」

 

ライフルとショットガンのセーフティーを解除し、オータム先生に準備完了の旨を伝える。

 

『よし……5カウント後に射出する。発進に備えろ』

 

そうしてカウントがゼロになり、私はカタパルトで射出され、アリーナの宙に飛び出した。

 

束さんに頼んで(専用機が九鬼財閥宇宙開発部預りである為)ISで何度か飛ばせてもらったが、束さん曰く、私は(すじ)がいいらしい。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)が成功するまでにこそ、若干の時間(8時間)はかかったが、逆を言えばそれだけの訓練時間で、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をモノに出来るのは、IS界隈でもごく限られた上澄みだけとの事。

 

一夏の教えを思い出しながら、アリーナを飛ぶ。

 

アリーナには先客が……件の、中国の代表候補生だと言うファンが、肩の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴的なISを纏い、両手にそれぞれ青竜刀と呼ばれる中国様式の剣を携えて佇んでいた。

 

「……アンタがアタシの対戦相手?」

 

互いの距離が20mぐらいにまで近づいたとき、ファンがそう言う。

 

「ああ、1組代表の川神百代だ」

 

「3組代表の凰鈴音(ファン・リンイン)よ」

 

『ではこれより! クラス代表交流戦を開始します! ルールは国際IS競技法に則り、試合時間は30分! 時間以内に相手ISのSE(シールド・エネルギー)を削りきると勝利です! ただし、決着が着いて絶対防御起動中の相手への攻撃は禁止、場合によっては懲罰の対象となります!』

 

授業で習った話だが、ISにはパイロットを保護するシールドがあり、これは普段、そのISが持つエネルギー総量の30%で構築されている。

 

これをSE(シールド・エネルギー)と呼び、これが尽きたり、メインアーマーとサブアーマー(胸アーマーと腹アーマー)が破壊されると、残りのSE(シールド・エネルギー)の70%を利用する【絶対防御】と呼ばれる2枚目のシールドが自動的に起動する。

 

【絶対防御】はパイロットの命を最優先に守るために存在するため、1枚目より防御性能が高い……が、その分、負荷がかかった際のエネルギー消費が速い。

 

ましてや【絶対防御】起動中は原則的に、そのISは生命維持装置としての機能しかなく、殴ったり、蹴ったり、銃を撃ったりはもちろん、一夏が言うところの【PIC】を使った飛行も最低限……つまり、地表や水面から5cmを浮遊する、いわゆる滑走しか出来ないし、ハイパーセンサーによる視覚補助も行えない。

 

何が言いたいか?

結論。

【絶対防御】起動中は無防備だし、言うほど絶対じゃない。

……やり方次第では、飽和火力を叩きつければ殺せる。

 

だからこそ国際IS法という法律があり、その法律で『【絶対防御】起動中のISに対し如何なる害意行為は取ってはならない』と定められている。

 

とは言え法律だ。

穴はいくつもあるし、ISを犯罪に使う連中なんかは、律儀に守るとは思わんが。

 

『第1試合! 1年1組川神選手対1年3組(ファン)選手! 試合開始ぃっ!』

 

そんなアナウンスが響き、私とファンは、互いに距離を詰めた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。