IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏 作:Exnyas
その後、モモセンパイと殴る・蹴る・気弾の応酬を繰り広げ、気が付けば互いの
「はあ、はあ……やるな、モモセンパイ。腕が上がってるのが分かったぜ」
「ふう、ふう……一夏こそ。あの時より、はるかに強くなってるじゃないか」
戦いを楽しむ事をやめ、最初から全力で仕留めに来るモモセンパイは、やはりと言うかかなりの強敵で、直撃打を何発ももらったが、その分、しっかりとお返しの直撃打を喰らわせてある。
もちろん互いに『
おかげで互いに全身青アザまみれだ。
まあ、互いの(生身の)力量とISの性能が近しいため、直撃打1発あたりの
『凄まじい激戦! 両者、一歩も譲りません! しかし、試合時間は残り5分を切っております!』
……アナウンスの声でふと気付く。
試合時間が残り5分を切ってるだって?
俺はフゥと息を吐く。
「……やれやれだ。楽しい事に夢中になると、あっという間に時間が過ぎちまう」
「全く同感だ。それが実力の拮抗した相手との全力の戦いだと、より強く実感する」
言うとモモセンパイはその身に闘気のベールを纏い、全身のあちこちに出来ていた青アザを治療していく。
あれは……瞬間回復か。
多量の闘気を肉体に注ぎ、全身の細胞を活性化させ、負った怪我全てを即座に全快する、モモセンパイの奥義だ。
如何に長く、戦いを楽しむかと言う考えの末に編み出された、と言う経緯を持つ。
「……瞬間回復!」
当然、弱点はある。
それは怪我こそ全て瞬時に治るものの、それまでの戦いで消耗した体力と、瞬間回復に使った分も含め、失った闘気までは回復しない事。
「怪我を治して十全に動けるようにしたって事は、勝負に出る気だな?」
「流石に分かるか。まあ実際、グラップラーは各所がレッドでな……マトモに動かせる時間が残り少ないし、闘気の残量も心許ない」
「……なるほど。まあ、俺もだが」
実際、俺のクッキーも各部位のコンディションはだいたいイエロー、悪くてレッドだ。
状況は似て近しく、ほぼイーブンと判断。
互いに鎧徹しで格闘戦をやらかしたんだ。
ISの装甲なんか紙に等しい。
「……じゃあ、決着を付けようか!」
「ああ!」
そう言って互いに身構えた……その時だった。
──ズドォォンッ!!──
アリーナ中央上空から、凄まじい出力の極太ビームが降り注ぎ、アリーナの地面に着弾……大爆発を引き起こした。
「ッ!?」
「何だ!?」
爆煙が晴れるとそこには人型の、その全身を金属の装甲に包んだナニカが佇んでいた。
手にしている、肩に担ぐほど巨大な銃は、その銃口から煙を吐き出しており、アリーナの地面にはクレーターが作られている。
「管制室! こちら織斑、応答願う!」
『こちら管制室。織斑、どうした? まだ川神と戦っている途中だろう?』
「どうしたじゃねぇし、戦いは中断した! アリーナの中に未確認機が来てるんだよ!」
『何だと!? こちらのモニターには何も映っていないぞ!?』
モニターに何も映っていない?
そんなバカなと思った俺だが、もしやとも思い、こう言う事態に滅法強い人物に連絡をする。
《束姉!》
《ん、状況は把握したよ。いっくんとモモちゃんの前にいるソレはISだよ》
《ISだって!?》
この、如何にもロボット然とした見た目の
《……データベース上では、コアナンバーは113の、アメリカに割り当てられた初期ロットなんだけど……》
《アメリカ?》
──バオッ!──
「あぶねっ!」
束姉と
「一夏! 大丈夫か!」
「ああ! 大丈夫だ! 威力は高そうだが、セシリアのレーザーほどの弾速があるわけじゃない!」
「コイツは何者なんだ!?」
「束姉曰く、アメリカに割り当てられたコアが使われているISらしい!」
『織斑、束は何と?』
「種別はISで、コアナンバー113の、アメリカに割り当てられた初期ロットらしい」
「この……私と一夏の戦いを、邪魔、するなっ!」
──ドンッ!──
──ガッガッガッ!──
異形とは言え、相手がISだと分かった途端、モモセンパイが
《けど、おかしいんだよね。ナンバー113のコアは、アメリカで有名なISの、クエイク型に使われてるはずなんだ》
《クエイク型……》
アメリカのクエイク型は、大型のサブアームが特徴的なシルエットを持ち、パイロット自身の両手で銃撃を行いつつ距離を詰め、肉薄したところをサブアームの拳打で仕留めるスタンスらしいのだが。
《そのISには、クエイク型の特徴と言える、一対のサブアームが無い》
確かに。
フォルムだけなら完全に人型だ。
サブアームなんかどこにも見当たらない。
《……つまり、登録情報が一致しない?》
《……おそらく、アメリカで盗んだコア、あるいは強奪したクエイク型ISに、途方もない改造を施したんじゃないかな》
《なるほど》
「そらそらそらそらそらぁっ!」
モモセンパイが至近距離から、殴る・蹴るのラッシュで、相手の
……あのモーション、もしかして
『こちら管制室。織斑、聞こえるか?』
「織斑です、どうぞ」
『織斑が束から得た情報を元に、スコール先生とオータム先生がアメリカの担当者を詰問したところ、核心的な情報が得られた。今から半年前、アメリカでクエイク型を開発・研究しているISメーカーが、テロの被害に遭い、この際、開発中だった試作機2体が強奪されている』
「試作機を2体も奪われてんの!? 犯人は!?」
『……女性権利団体だ』
女性権利団体。
通称は女権団。
ISは強大な兵器である。
そんなISは女にしか扱えない以上、男は格下で、上位種である女に管理されるべきとし、意に反するならば、ありとあらゆる意味を含む抹殺をも辞さないと謳う、一種のカルト組織で、文字通り世界中に存在する。
俺がISを扱えた件で記者会見を開いたあとから、ちょくちょく、割と陰湿な手で嫌がらせをしてきた、悪趣味な勘違い女の巣窟だ。
もういっそ、テロ組織として、一斉摘発をしても良い連中だが、女権団の厭らしい点は、その上位幹部が軒並み、各国の政府や主要大企業、大組織の中枢と繋がりがある事。
だから警察は彼女らを逮捕出来ないし、逮捕のための証拠は握りつぶされる。
ちなみに日本においてはその限りではなく、日本政府は麻生総理を中心に、内閣構成員全員がバリバリの平等主義者だし、日本の大企業と言えば我らが九鬼財閥で、九鬼財閥は司法にも食い込んでいる。
女権団が入り込める政府組織や企業など無い。
「……こっ、この小娘が! お前の相手をしている暇は無い! 退けっ!」
──ガォンッ!──
──フォン……ドシュッ!──
「がはっ!」
モモセンパイの連撃に怒りが限界に達した
避けた直後の隙を見計らい、ビーム砲とは逆の手にナタ状の実体剣を
ほぼ完璧に近い不意打ちを、直撃でもらったモモセンパイは、その一撃がトドメとなり、グラップラーが
「モモセンパイ!」
PICが切れ自由落下を始めたモモセンパイを見た俺は、即座に
空中でモモセンパイを抱き留める事に成功する。
モモセンパイに意識はない。
「アハハハハハ! 同じ女のくせに、私たちの崇高な使命に賛同せず、使命の執行者であるこの私の邪魔をするからそうなるのよ! さあ……あとは汚らわしい男の分際で、女のためだけに存在するはずのISを駆るアンタを消せば、我らの目的は達せられる!」
言ってクレイジー女権団は、ビーム砲の銃口を俺に向け、ビームのチャージを開始する。
「次に放つ一撃は最大出力。今までの比じゃない……IS学園ISアリーナの観客席を包むバリアを、軽くブチ抜くだけの威力があるわ!」
「何だと?」
ハイパーセンサーで周囲を確認すれば、アリーナの観客席には、クレイジー女権団の襲撃でパニックに陥った観客が、我先にと出口に殺到し、ほとんど避難出来ていない事が分かった。
「……尤も? アリーナの観客席の出入口は、私の上空200mにいる仲間が、ハッキングで開かないようにしているのだけど!」
「このアマ……!」
「さあ、選びなさい? 私が放つビームを受けて死ぬか、避けて観客席の連中を殺すか」
クレイジー女権団がそう告げた次の瞬間、ハッキングで閉ざされていたはずの出入口ドアが開かれ、観客が次々に観客席から逃げ出して行った。
「な、何故アリーナのドアが!?」
突然の事態に慌てる女権団団員。
「……はあ、やれやれ。まさかこんな手段で、前線に引っ張り出されるとは思ってなかったなぁ」
言いながら俺の左隣に、束姉がふわりと舞い降りてきた。
「束姉!」
その姿は黒のシャツに黒のカーゴ、そして白衣に巨大レンチと一見すると生身。
だが、束姉の事だ……クレイジー女権団には分からないように、自分の専用機を部分展開し、PICで飛んでいるのだろう。
「出入口は束姉が?」
「そうだよ。あのバカ……バカ1が声高に、出入口は仲間……バカ2がハッキングで閉めているって言ってたじゃん? だから束さんが、バカ2のハッキングに割り込んでシステムを掌握したの。そんで、ドアを開いてあげるついでに、あのバカ1とバカ2の愚行を洗いざらい、関係各所にお知らせしてあげたのさ」
『あの程度で束さんに勝とうなど片腹痛いわ』と言って胸を張る束姉。
ドォンと突き出た双球がブルンと震え、俺の士気高揚に一役買う。
「流石は束姉」
「ついでにそのバカ1が、バカ2の位置も漏らしたじゃん? 上空200mって。だからそっちに今、ちーちゃんが向かってる」
束姉がそう言った直後、アリーナの上空から、一条の流星が降り注ぎ、アリーナの地面に着弾……クレイジー女権団──否、バカ1がビーム砲で作ったクレーターを更に広げた。
クレーターの底には、おそらくこのバカ1の仲間で、バカ1が言うところのハッキング担当……バカ2が、
「……またつまらぬ物を斬ったわ」
言って俺の右隣に、見慣れぬデザインのIS……おそらく専用機【瞬刃】を纏った千冬姉が、その右手に大型のISブレードを携えてやってきた。
「……織斑先生、流石に殺してませんよね?」
「当たり前だ、馬鹿者。私を何だと思っている。当然、手加減はしてある。私が本気で剣を振るえば、ISごとき、一瞬でパイロットごと真っ二つだぞ? その証拠に穴底でのびてる奴を見ろ。血の一滴すら出ていまい?」
言われて穴底で失神しているバカ2を見れば、確かに、血の一滴も出ていない。
「ああ、束。これを」
「ん?」
千冬姉が剣を握っていたのとは逆の手に握っていた、見た限り革製のバンドを、束姉に手渡した。
「これは……ヘアバンドにしては直径が太いね。レッグバンドかな?」
「ああ、お前が言うところのバカ2が纏っていたISの待機状態だ。ヤツが意識を失ったら、ヤツの太ももで顕現したから、むしり取って来た」
「おー、ちーちゃんないすー」
レッグバンドを受け取った束姉は、目元にゴーグルのような機械を
「……なるほど、こっちもクエイク型のコアを使った魔改造機で、広域ハッキングが可能な電子戦タイプか……それでパイロットが……ふぅん。女性権利団体団員の【
「ほう? まだ日本で活動している女権団がいたのか」
……そう言う千冬姉には同意しかない。
何故なら今から10年ほど前、束姉がISを世に送り出す前後の頃、日本政府と九鬼が結託し、日本から女権団を駆逐した話があったからだ。
「みたいだね。それに……あー、コイツは傑作だ。自分のISに、僚機のデータを登録してる」
「僚機?」
「いまそこで狼狽えてる、ビーム砲持ってるバカのデータ。束さんの見立てどおり、クエイク型のコアを使った魔改造ISで、大口径ビームバズーカとナタ型実体剣を主武装とする近接タイプ。パイロットは同じ日本の女権団団員【
「海上運送業者……アメリカで強奪されたISを、秘密裏に日本に運ぶ手配とかやってそうだな」
世も末だな。
そんな事を話していると、バカ1がブルブルと震えだした。
「──ッ! 黙れ黙れ黙れ! 黙って聞いていれば好き放題! お前たちのような反人道主義者には、我々の崇高な目的など、到底理解など出来まい!」
──ガチャ……──
「さあ、4人仲良く消し飛べぇ!」
バカ1こと久住が、ビームランチャーを構えた……次の瞬間だった。
──ズッ、ズズ……──
──……ゴォン──
「……え?」
久住が構えたビームランチャーが、久住の手元辺りで真っ二つになり、その巨大な銃口がズルリと滑り、アリーナの地面に落ちた。
ちなみに落下地点はバカ2こと釜瀬の程近くだ。
「な、何……!? 何が起こった!?」
「……気付いていなかったのか?」
言って千冬姉が右手の太刀をビュンッと振るい、手元でクルッと回し、腰のスラスターウイングに内臓されている鞘に、その太刀をパチンと納める。
──ズッ……ガランガランガラン……──
すると久住が手にしているナタ型実体剣が、柄と刀身に分割され、刀身がアリーナの地面に落ちた。
久住の手にある実体剣の柄は、刀身部分が、まるで鋭利な刃物で斬り離されたように、なめらかな断面をさらしていた。
「え?」
「先ほど釜瀬を斬り伏せ、ここに戻って来る際、背後からすれ違い様に、お前の武装を斬っておいたんだ」
「……あの一瞬で!?」
「だから言っただろう? またつまらぬものを斬ったわ、と」