IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏   作:Exnyas

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23.トラブル、発生にて

その後、モモセンパイと殴る・蹴る・気弾の応酬を繰り広げ、気が付けば互いのSE(シールド・エネルギー)は残り10%ほど……格ゲー風に言えば、体力ゲージが赤く点滅し、超必殺技が撃てるほどにまで減っていた。

 

「はあ、はあ……やるな、モモセンパイ。腕が上がってるのが分かったぜ」

 

「ふう、ふう……一夏こそ。あの時より、はるかに強くなってるじゃないか」

 

戦いを楽しむ事をやめ、最初から全力で仕留めに来るモモセンパイは、やはりと言うかかなりの強敵で、直撃打を何発ももらったが、その分、しっかりとお返しの直撃打を喰らわせてある。

 

もちろん互いに『鎧徹(よろいどお)し』と呼ばれる、いわゆるアーマー貫通打撃の技術を使いまくって攻撃しているため、ISと言う装甲を身に付けていても、互いの攻撃は装甲を貫通し、肉体に直接ダメージを与えている。

 

おかげで互いに全身青アザまみれだ。

 

まあ、互いの(生身の)力量とISの性能が近しいため、直撃打1発あたりのSE(シールド・エネルギー)ダメージは少ないのだが。

 

『凄まじい激戦! 両者、一歩も譲りません! しかし、試合時間は残り5分を切っております!』

 

……アナウンスの声でふと気付く。

試合時間が残り5分を切ってるだって?

俺はフゥと息を吐く。

 

「……やれやれだ。楽しい事に夢中になると、あっという間に時間が過ぎちまう」

 

「全く同感だ。それが実力の拮抗した相手との全力の戦いだと、より強く実感する」

 

言うとモモセンパイはその身に闘気のベールを纏い、全身のあちこちに出来ていた青アザを治療していく。

 

あれは……瞬間回復か。

 

多量の闘気を肉体に注ぎ、全身の細胞を活性化させ、負った怪我全てを即座に全快する、モモセンパイの奥義だ。

 

如何に長く、戦いを楽しむかと言う考えの末に編み出された、と言う経緯を持つ。

 

「……瞬間回復!」

 

当然、弱点はある。

それは怪我こそ全て瞬時に治るものの、それまでの戦いで消耗した体力と、瞬間回復に使った分も含め、失った闘気までは回復しない事。

 

「怪我を治して十全に動けるようにしたって事は、勝負に出る気だな?」

 

「流石に分かるか。まあ実際、グラップラーは各所がレッドでな……マトモに動かせる時間が残り少ないし、闘気の残量も心許ない」

 

「……なるほど。まあ、俺もだが」

 

実際、俺のクッキーも各部位のコンディションはだいたいイエロー、悪くてレッドだ。

状況は似て近しく、ほぼイーブンと判断。

 

互いに鎧徹しで格闘戦をやらかしたんだ。

ISの装甲なんか紙に等しい。

 

「……じゃあ、決着を付けようか!」

 

「ああ!」

 

そう言って互いに身構えた……その時だった。

 

──ズドォォンッ!!──

 

アリーナ中央上空から、凄まじい出力の極太ビームが降り注ぎ、アリーナの地面に着弾……大爆発を引き起こした。

 

「ッ!?」

 

「何だ!?」

 

爆煙が晴れるとそこには人型の、その全身を金属の装甲に包んだナニカが佇んでいた。

 

手にしている、肩に担ぐほど巨大な銃は、その銃口から煙を吐き出しており、アリーナの地面にはクレーターが作られている。

 

「管制室! こちら織斑、応答願う!」

 

『こちら管制室。織斑、どうした? まだ川神と戦っている途中だろう?』

 

「どうしたじゃねぇし、戦いは中断した! アリーナの中に未確認機が来てるんだよ!」

 

『何だと!? こちらのモニターには何も映っていないぞ!?』

 

モニターに何も映っていない?

そんなバカなと思った俺だが、もしやとも思い、こう言う事態に滅法強い人物に連絡をする。

 

《束姉!》

 

《ん、状況は把握したよ。いっくんとモモちゃんの前にいるソレはISだよ》

 

《ISだって!?》

 

この、如何にもロボット然とした見た目の正体不明機(Unknown)が、ISだと?

 

《……データベース上では、コアナンバーは113の、アメリカに割り当てられた初期ロットなんだけど……》

 

《アメリカ?》

 

──バオッ!──

 

「あぶねっ!」

 

束姉と個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)でやり取りをしているが、相手にはそれを待つ理由はなく、その手に携えた巨大銃から、極太ビームをバカスカ撃ってくる。

 

「一夏! 大丈夫か!」

 

「ああ! 大丈夫だ! 威力は高そうだが、セシリアのレーザーほどの弾速があるわけじゃない!」

 

「コイツは何者なんだ!?」

 

「束姉曰く、アメリカに割り当てられたコアが使われているISらしい!」

 

『織斑、束は何と?』

 

「種別はISで、コアナンバー113の、アメリカに割り当てられた初期ロットらしい」

 

「この……私と一夏の戦いを、邪魔、するなっ!」

 

──ドンッ!──

──ガッガッガッ!──

 

異形とは言え、相手がISだと分かった途端、モモセンパイが瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かし、相手の正体不明機(Unknown)が持つビーム砲も恐れずに突撃、拳打のラッシュを浴びせる。

 

《けど、おかしいんだよね。ナンバー113のコアは、アメリカで有名なISの、クエイク型に使われてるはずなんだ》

 

《クエイク型……》

 

アメリカのクエイク型は、大型のサブアームが特徴的なシルエットを持ち、パイロット自身の両手で銃撃を行いつつ距離を詰め、肉薄したところをサブアームの拳打で仕留めるスタンスらしいのだが。

 

《そのISには、クエイク型の特徴と言える、一対のサブアームが無い》

 

確かに。

フォルムだけなら完全に人型だ。

サブアームなんかどこにも見当たらない。

 

《……つまり、登録情報が一致しない?》

 

《……おそらく、アメリカで盗んだコア、あるいは強奪したクエイク型ISに、途方もない改造を施したんじゃないかな》

 

《なるほど》

 

「そらそらそらそらそらぁっ!」

 

モモセンパイが至近距離から、殴る・蹴るのラッシュで、相手の正体不明機(Unknown)をメッタ打ちにする。

……あのモーション、もしかして龍虎乱舞(りゅうこらんぶ)か?

 

『こちら管制室。織斑、聞こえるか?』

 

「織斑です、どうぞ」

 

『織斑が束から得た情報を元に、スコール先生とオータム先生がアメリカの担当者を詰問したところ、核心的な情報が得られた。今から半年前、アメリカでクエイク型を開発・研究しているISメーカーが、テロの被害に遭い、この際、開発中だった試作機2体が強奪されている』

 

「試作機を2体も奪われてんの!? 犯人は!?」

 

『……女性権利団体だ』

 

女性権利団体。

通称は女権団。

 

ISは強大な兵器である。

そんなISは女にしか扱えない以上、男は格下で、上位種である女に管理されるべきとし、意に反するならば、ありとあらゆる意味を含む抹殺をも辞さないと謳う、一種のカルト組織で、文字通り世界中に存在する。

 

俺がISを扱えた件で記者会見を開いたあとから、ちょくちょく、割と陰湿な手で嫌がらせをしてきた、悪趣味な勘違い女の巣窟だ。

 

もういっそ、テロ組織として、一斉摘発をしても良い連中だが、女権団の厭らしい点は、その上位幹部が軒並み、各国の政府や主要大企業、大組織の中枢と繋がりがある事。

 

だから警察は彼女らを逮捕出来ないし、逮捕のための証拠は握りつぶされる。

 

ちなみに日本においてはその限りではなく、日本政府は麻生総理を中心に、内閣構成員全員がバリバリの平等主義者だし、日本の大企業と言えば我らが九鬼財閥で、九鬼財閥は司法にも食い込んでいる。

 

女権団が入り込める政府組織や企業など無い。

 

「……こっ、この小娘が! お前の相手をしている暇は無い! 退けっ!」

 

──ガォンッ!──

──フォン……ドシュッ!──

 

「がはっ!」

 

モモセンパイの連撃に怒りが限界に達した正体不明機(Unknown)のパイロット……女権団団員が、それまで閉ざしていた口を開くや否や、モモセンパイに向かってビーム砲を発射。

避けた直後の隙を見計らい、ビーム砲とは逆の手にナタ状の実体剣を展開(オープン)、モモセンパイを斬り払った。

 

ほぼ完璧に近い不意打ちを、直撃でもらったモモセンパイは、その一撃がトドメとなり、グラップラーが展開限界(リミットダウン)を迎え、アーマーが収納(クローズ)され、絶対防御が発動した。

 

「モモセンパイ!」

 

PICが切れ自由落下を始めたモモセンパイを見た俺は、即座に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かし、モモセンパイに接近。

空中でモモセンパイを抱き留める事に成功する。

モモセンパイに意識はない。

 

「アハハハハハ! 同じ女のくせに、私たちの崇高な使命に賛同せず、使命の執行者であるこの私の邪魔をするからそうなるのよ! さあ……あとは汚らわしい男の分際で、女のためだけに存在するはずのISを駆るアンタを消せば、我らの目的は達せられる!」

 

言ってクレイジー女権団は、ビーム砲の銃口を俺に向け、ビームのチャージを開始する。

 

「次に放つ一撃は最大出力。今までの比じゃない……IS学園ISアリーナの観客席を包むバリアを、軽くブチ抜くだけの威力があるわ!」

 

「何だと?」

 

ハイパーセンサーで周囲を確認すれば、アリーナの観客席には、クレイジー女権団の襲撃でパニックに陥った観客が、我先にと出口に殺到し、ほとんど避難出来ていない事が分かった。

 

「……尤も? アリーナの観客席の出入口は、私の上空200mにいる仲間が、ハッキングで開かないようにしているのだけど!」

 

「このアマ……!」

 

「さあ、選びなさい? 私が放つビームを受けて死ぬか、避けて観客席の連中を殺すか」

 

クレイジー女権団がそう告げた次の瞬間、ハッキングで閉ざされていたはずの出入口ドアが開かれ、観客が次々に観客席から逃げ出して行った。

 

「な、何故アリーナのドアが!?」

 

突然の事態に慌てる女権団団員。

 

「……はあ、やれやれ。まさかこんな手段で、前線に引っ張り出されるとは思ってなかったなぁ」

 

言いながら俺の左隣に、束姉がふわりと舞い降りてきた。

 

「束姉!」

 

その姿は黒のシャツに黒のカーゴ、そして白衣に巨大レンチと一見すると生身。

だが、束姉の事だ……クレイジー女権団には分からないように、自分の専用機を部分展開し、PICで飛んでいるのだろう。

 

「出入口は束姉が?」

 

「そうだよ。あのバカ……バカ1が声高に、出入口は仲間……バカ2がハッキングで閉めているって言ってたじゃん? だから束さんが、バカ2のハッキングに割り込んでシステムを掌握したの。そんで、ドアを開いてあげるついでに、あのバカ1とバカ2の愚行を洗いざらい、関係各所にお知らせしてあげたのさ」

 

『あの程度で束さんに勝とうなど片腹痛いわ』と言って胸を張る束姉。

ドォンと突き出た双球がブルンと震え、俺の士気高揚に一役買う。

 

「流石は束姉」

 

「ついでにそのバカ1が、バカ2の位置も漏らしたじゃん? 上空200mって。だからそっちに今、ちーちゃんが向かってる」

 

束姉がそう言った直後、アリーナの上空から、一条の流星が降り注ぎ、アリーナの地面に着弾……クレイジー女権団──否、バカ1がビーム砲で作ったクレーターを更に広げた。

 

クレーターの底には、おそらくこのバカ1の仲間で、バカ1が言うところのハッキング担当……バカ2が、無惨な姿(ヤムチャしやがって)で地に伏せていた。

 

「……またつまらぬ物を斬ったわ」

 

言って俺の右隣に、見慣れぬデザインのIS……おそらく専用機【瞬刃】を纏った千冬姉が、その右手に大型のISブレードを携えてやってきた。

 

「……織斑先生、流石に殺してませんよね?」

 

「当たり前だ、馬鹿者。私を何だと思っている。当然、手加減はしてある。私が本気で剣を振るえば、ISごとき、一瞬でパイロットごと真っ二つだぞ? その証拠に穴底でのびてる奴を見ろ。血の一滴すら出ていまい?」

 

言われて穴底で失神しているバカ2を見れば、確かに、血の一滴も出ていない。

 

「ああ、束。これを」

 

「ん?」

 

千冬姉が剣を握っていたのとは逆の手に握っていた、見た限り革製のバンドを、束姉に手渡した。

 

「これは……ヘアバンドにしては直径が太いね。レッグバンドかな?」

 

「ああ、お前が言うところのバカ2が纏っていたISの待機状態だ。ヤツが意識を失ったら、ヤツの太ももで顕現したから、むしり取って来た」

 

「おー、ちーちゃんないすー」

 

レッグバンドを受け取った束姉は、目元にゴーグルのような機械を展開(オープン)し、そのレッグバンドを見つめる。

 

「……なるほど、こっちもクエイク型のコアを使った魔改造機で、広域ハッキングが可能な電子戦タイプか……それでパイロットが……ふぅん。女性権利団体団員の【釜瀬(かませ) 犬恵(いぬえ)】だね。出身は日本だよ。10年ほど前までは、政府お抱えのホワイトハッカー集団のメンバーだったみたい……」

 

「ほう? まだ日本で活動している女権団がいたのか」

 

……そう言う千冬姉には同意しかない。

何故なら今から10年ほど前、束姉がISを世に送り出す前後の頃、日本政府と九鬼が結託し、日本から女権団を駆逐した話があったからだ。

 

「みたいだね。それに……あー、コイツは傑作だ。自分のISに、僚機のデータを登録してる」

 

「僚機?」

 

「いまそこで狼狽えてる、ビーム砲持ってるバカのデータ。束さんの見立てどおり、クエイク型のコアを使った魔改造ISで、大口径ビームバズーカとナタ型実体剣を主武装とする近接タイプ。パイロットは同じ日本の女権団団員【久住(くずみ) 香果(こうか)】で、元海上運送業者」

 

「海上運送業者……アメリカで強奪されたISを、秘密裏に日本に運ぶ手配とかやってそうだな」

 

世も末だな。

そんな事を話していると、バカ1がブルブルと震えだした。

 

「──ッ! 黙れ黙れ黙れ! 黙って聞いていれば好き放題! お前たちのような反人道主義者には、我々の崇高な目的など、到底理解など出来まい!」

 

──ガチャ……──

 

「さあ、4人仲良く消し飛べぇ!」

 

バカ1こと久住が、ビームランチャーを構えた……次の瞬間だった。

 

──ズッ、ズズ……──

──……ゴォン──

 

「……え?」

 

久住が構えたビームランチャーが、久住の手元辺りで真っ二つになり、その巨大な銃口がズルリと滑り、アリーナの地面に落ちた。

ちなみに落下地点はバカ2こと釜瀬の程近くだ。

 

「な、何……!? 何が起こった!?」

 

「……気付いていなかったのか?」

 

言って千冬姉が右手の太刀をビュンッと振るい、手元でクルッと回し、腰のスラスターウイングに内臓されている鞘に、その太刀をパチンと納める。

 

──ズッ……ガランガランガラン……──

 

すると久住が手にしているナタ型実体剣が、柄と刀身に分割され、刀身がアリーナの地面に落ちた。

久住の手にある実体剣の柄は、刀身部分が、まるで鋭利な刃物で斬り離されたように、なめらかな断面をさらしていた。

 

「え?」

 

「先ほど釜瀬を斬り伏せ、ここに戻って来る際、背後からすれ違い様に、お前の武装を斬っておいたんだ」

 

「……あの一瞬で!?」

 

「だから言っただろう? またつまらぬものを斬ったわ、と」

 

 

 

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