IS~Ichika Strange~ あるいはこんな織斑一夏 作:Exnyas
その後、教室棟外周を3周するジョギングを終えた俺は、トレーニングジムでサンドバッグを30分ほど蹴り、居住区画に戻って風呂場で汗を流し、制服に着替えてから食堂へ向かった。
食堂には珍しく我が
俺は食券販売機でサンドイッチセット(山盛)を注文すると、受け取ったサンドイッチセットを手に、織斑先生の向かいに座る。
「おはよう千冬ね……おはようございます、織斑先生」
「おはよう一夏。まだ千冬姉で構わないぞ。始業のチャイムは鳴ってないからな」
「……そうか?」
「ああ……で、昨晩はお楽しみだったな?」
席に着いた俺に、千冬姉が有名なゲームの迷セリフをアレンジした言葉を投げかける。
「……誰から聞いたんだ?」
その言葉の意味を知っている俺は、動揺を表情に出さないよう取り繕った。
「山田くんからだ」
「あー、俺からは口止めはしてなかったな」
言って俺はサンドイッチをパクつき、セットで出てきたコーヒーを啜る。
深いコクに確かなキレと強い甘味……ブラックでも飲みやすい、良いブレンドだな。
「今朝、更衣室で会うなり、それはそれは嬉しそうに『昨晩、先輩の弟さんにオンナにしてもらいました。意識が飛ぶまで愛してもらえて、今までコンプレックスだった自分の体に、自信が持てるようになりました』だぞ? 思わず目を見開いて我が耳を疑ったし、何なら空いた口が塞がらんかったわ」
「何か、ごめん」
「山田くんの意識が飛ぶまでヤったそうだが……ちゃんと避妊したんだろうな?」
「そこはもう、エロスとサキュバスで」
「エロスとサキュバス……ああ、束謹製のナノマシンだな。つまり束も混じってたのか?」
「あー……実は箒も一緒だった」
「お前という奴は……この
「返す言葉もない」
俺が
「まあ、下手に性欲を溜めこんで、他の女生徒に手を出される方が問題だ。箒や山田くんで処理が出来るなら、可能な限り処理をしておけ。それと、いざというときは束を頼れ。アイツなら、アイツ単身でお前が気絶するまで搾り取る事が可能だろう。学業に支障をきたさん限り、多少の事には目を瞑るし、学園上層部とは、お前と束を招き入れるための条件として、その辺の話がついている」
「学園上層部まで話が上がってるのか。いや、それでもまずは、ありがとう」
サンドイッチを食べ終えた俺は、千冬姉に頭を下げる。
「……で、その束はどうしたんだ? 朝から外出申請を出していたようだが」
「束姉なら
「……なるほど。レポートはともかく、機材と資材は、お前の
「らしいよ」
言っている間に、千冬姉も朝食が終わったらしい。
「ところで千冬姉、今日の授業の予定は?」
「普通に6コマ全て座学……と言いたいが、そろそろIS実技も始めねばならんのでな……4コマ目でISスーツの必要性を教え、午後の2コマでISの起動訓練だ」
「ISスーツか」
ISスーツはISを効率的に操縦するために使われる専用衣装で、体を動かす時に筋肉から出る電気信号などを増幅し、着用しているISに伝える役割を持つ。
ただし、専用衣装とは言うが、必ずしも必要な訳ではない。
束姉から聞いた話によると、生地が良いために肌触りが良く、吸湿性と速乾性に優れ、体にフィットするため、下着代わりに制服の下に着込むIS操縦者は多いらしい。
まあ、一種のパイロットスーツだ。
耐寒耐熱性能はもちろんの事、ある程度の防弾性も備えているため、ピストルは当然として、
ただし、被弾時の衝撃までは消せないため、被弾数や被弾距離、被弾部位によっては、内出血や打撲、骨折や内臓損傷も起こりうる。
当然、ISスーツとは言っても所詮は布なので、火気と刃物にはめっぽう弱い。
また、IS学園ではISスーツは体操服と同じ扱いで、入学時に3着支給される。
4着目以降は、体形の著しい変化で初期支給の3着が着れなくなったり、授業中・訓練中に破損した場合のみ、申請すると支給される。
なお制服と同じく、常識的な範囲内であれば、オーダーメイドという形で、ある程度の改造が認められている。
なお専用機持ちは、その専用機運用に適した専用ISスーツを持っているのが常識で、もちろん俺も持っている。
「午後のIS起動訓練ってのは?」
「読んで字の如くだな。打鉄かラファール、オウガのいずれかを選んでもらい、起動して着用し、歩行や滑走などの初歩技能の訓練を行う予定だ。一夏には申し訳ないが、束から正式に発表があるまでは量産機で参加してもらう。もちろん、オルコットにもな」
たまには原点に回帰し、量産機でできる事・できない事を把握し、そのデータを専用機にフィードバックするのも重要だ、と千冬姉は語る。
「なら俺はオウガ一択だな。あれほどラグが少ない量産機を他に知らない」
「武術の街、川神で作られたISだ。お前や私のような川神人にはピッタリだろう」
言って千冬姉がコーヒーを啜り、一瞬、眉間に皺を寄せる。
「……キレが足りんな。やはりコーヒーはワンサマー・ブレンドに限る」
そんな事を言う千冬姉に苦笑する。
「部屋にあるだろ?」
「あるにはある……が、残りが心許ない。束に連絡を入れて、ワンサマー・ブレンドを持って来させるとしよう。一夏も受け取っておけ」
言って千冬姉はコーヒーをグイと飲み干し、カップをトレーに置く。
「分かった。ところで千冬姉」
「どうした?」
「俺が山田先生を倒した時のオウガってどうなってる?」
「ああ、あれか。あれなら一夏が施したチューニングをそのままに、入学試験を行ったアリーナ……第4アリーナのISハンガーに置きっぱなしだぞ」
「そのオウガさ、午後の授業で使えるようにできない?」
「可能だ。手配しておこう……っと、そうだ。言い忘れていた」
「何だよ」
「その午後のIS起動訓練だがな。隣の1組と合同だ」
「げえっ!?」
1組と合同授業。
それ即ち、モモセンパイや辰姉と顔を合わせ、一緒に授業を受ける事に他ならない。
……だが俺よ、少し考えろ。
隣のクラスと合同と言う事は、ISスーツ姿のモモセンパイや辰姉を見れると言う事。
……モモセンパイは見てくれは良いんだから、目の保養と言う事にしよう。
辰姉は真面目だし、優しいし、あのスタイルだから、そもそも問題無い。
……リミッターを外さなければ、だが。
「……だが、気功術者が散らばって騒ぎにでもなったら面倒だな……よし。一夏と川神、板垣はセットにして、お前たちを含むチームは私が見てやるとしよう」
「そうしてくれ」
呻く俺に千冬姉は『トレーを頼んだ』と言って、食堂から立ち去る。
時計を見れば時刻は8時20分を過ぎたところだった。
そろそろ職員室では朝礼か。
俺は千冬姉から託されたトレーや皿を、自分のトレーや皿に重ねると、それをカウンター横の洗い場に置き、食堂をあとにして、居住区画へと足を向けたのだった。
……
……
……
教室に入り、挨拶をする。
すると相川さんや
「おはよう織斑くん」
「ああ、おはよう」
「織斑くんにも聞いてみたら?」
「何をだ?」
「ISスーツの話よ」
「いまクラスで、どのメーカーのスーツがいいか、話題になっているのだ~」
言って布仏さんが、四十院さんから受け取った雑誌を、俺に手渡してくる。
雑誌の名前は『コスチューム!』で、表題にISスーツ特集とある。
俺は表紙を捲り、ISスーツを着て撮影された女性たちの写真を流し見る。
「へえ、学園支給品じゃないISスーツって、こんな感じなんだな」
俺はページをパラパラと捲り、掲載されているISスーツの写真を見るのだが、1つ、分かった事がある。
IS操縦者には、グラビアアイドルとしての側面もある事。
……何で分かったかって?
ISスーツを着て写真に写っているのは、もちろん女性ばかりなのだが、その中に数人、見知った顔があったからだ。
一例を挙げるならアメリカのメーカーを担当している女性と、イタリアのメーカーを担当している女性。
「織斑くん的には、どこのメーカーのISスーツが好み?」
「俺の好み? なら……」
俺はパラパラとページを戻し、2ページ目に記載されている日本のメーカー『
「これ」
「釈迦堂縫製? 渋い趣味だね」
「ここのメーカー、ISスーツの見た目は地味だけどさ。着心地と実用性は天下一品なんだ」
まあ、それもそうだろう。
釈迦堂縫製は、川神にその名ありと知られた著名な武術家で、川神院元師範代【釈迦堂
釈迦堂さんはモモセンパイに川神流の基礎を仕込んだ人で、攻撃力も防御力も素早さもタフネスも、常人を凌駕する気功術者。
そんな彼の奥義に、手から自在に動かせるチャクラム状の気功弾を放つ【リング】と言う技があるが、それを何と片手で20発も同時に発射し、その全てをバラバラの軌道で操作し、全弾相手の別々の急所に同時に当てる……その名も【
そんな奥さんが自社製ISスーツを着て、雑誌に載っている。
本人曰く、もう45を過ぎた老婦との事だが、その見た目はどう見ても20代前半で、何なら
美魔女ってやつか。
そして、そんな気功術者が手掛けたISスーツは、当然のように気功術適性が高いし、何より夫……釈迦堂さんが現役時代、道着のインナーとして愛用していた実績があるほど、耐久性と柔軟性に富んでいる。
昔、釈迦堂さん本人に聞いた事があるが、釈迦堂さん曰く『家内のインナー? あァ、アレがあると無いとじゃ、気の巡りが3割はちげぇ』との事だった。
「何で着心地を知ってるの?」
「実際に愛用してる人と知り合いだから」
「……誰? 有名人?」
「まあ有名なんじゃない? そのスーツ着てる人の旦那さん。通称【
「あー、アタシ知ってる。釈迦堂さんってアレでしょ? 川神市名物『豚丼』の老舗『
「そうそう、その釈迦堂さん」
あそこの豚丼、死ぬほど美味いから困るんだよな。
川神学園のメシマスターことクマも認める美味さ。
本人曰く、一時期は梅屋の豚丼(+単品とろろ)にハマり過ぎて、賄いを食いたいがために、梅屋でバイトをしていた経験もあったそうだ。
そんな釈迦堂さんは梅屋好きが高じ、梅屋1号店に、梅屋史上最年長の店長として就職し、今でもバイト時代に培った腕を下地に、名物店長として働いているそうだ。
IS学園に入る直前に連絡をしてきたクマからの話だが。
……川神梅屋1号店の豚丼、食堂でも食えるようにならないだろうか?
「みんなはどこのメーカーのISスーツがいいんだ?」
「私はハヅキ社製がいいなぁ」
言って相川さんが雑誌のページを捲り、ハヅキ社製ISスーツのベーシックモデルを着た女性の写真を指差す。
……際どいな。
もはやビキニタイプの水着だ。
「え? ハヅキってデザインだけって感じしない?」
「そこがいいんじゃん」
「私はミューレイのスムーズモデルかな。性能に惹かれたわ」
四十院さんはそう言って、ハヅキ社製ISスーツを着た女性の、2つ隣に写っている女性の写真を指差す。
競泳水着に長手袋とオーバーニーソックスを合わせたようなデザイン。
この人の双球、なかなか立派なサイズだな。
「あー、ミューレイね。モノはいいけど高いんだよね」
「それがネックなのよね」
そんな話をしていたら、隣に箒が立っている事に気がついた。
「おはよう箒」
「ああ、おはよう一夏。何を見ているんだ?」
「コスチュームって雑誌の、ISスーツ特集っていう特別号」
「なるほど」
箒から仄かに湿布の匂いがする。
腰に貼っているのだろう。
済まんな箒、無理をさせた。
「篠ノ之さん、おはよう」
「おはよう」
「篠ノ之さんはどこのメーカーのISスーツが好き?」
「私か? 私は……」
そんな事を話していると、チャイムが鳴り、真耶……山田先生と千冬姉……織斑先生が教室に入ってきた。
「はーい、皆さん揃ってますねー? SHRを始めますよー」
「ほら、席に着け。不要物はしまって、参考書を出せ」
みんな慌ただしく自分の席に戻り、参考書を机の上に出す。
「今日は昼から、1組と合同でIS起動訓練を予定しています」
「お前たちが読んでいたISスーツの雑誌だが、それを着る事の意味などを4コマ目で教えるつもりだ」
そんなSHRで1日が始まったのだった。
原作との主な変更点
1.釈迦堂さんが結婚してる
2.釈迦堂さんの奥さんはすごく強い
3.釈迦堂さんが働いてる(しかも名物店長)
4.ハヅキ社とミューレイ社のISスーツデザインをオリジナルで文章化
相川さんや四十院さん、鏡さんの口調がわからない。
続きはまたいずれ