ショタインズ様異世界珍道中   作:壊れたスプーン

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はじめまして。
好き勝手に書いていたら、独自設定が盛り盛りになりました。
苦手な気配を察知された方は、ブラウザバックをお願いします。
読んでやるか、という方は、どうぞよろしくお願いいたします。




追放

 

 ナザリック地下大墳墓第十階層最奥、玉座の間。墳墓の心臓部たるそことソロモンの小さな鍵(レメゲトン)を隔てる巨大な扉の前に、一人の美しい悪魔が立っていた。

 

「先行部隊らしき者達の第八階層への侵入を確認いたしました」

 

 白いドレス姿ではなく完全武装のアルベドが、沈痛な面持ちで報告した。

 

 報告を受けるのは、至高の四十一人と呼ばれる者達だ。アルベドとは対照的に、彼らの間に流れる空気は軽いものだった。

 

「ついに来たかー」

「第八階層のあれらで全滅してくれる、というのは希望的観測すぎますね」

「ですねー。あーいよいよ終わりかぁ」

 

 

 

 

 現在、ナザリック地下大墳墓は対アインズ・ウール・ゴウン大連合軍によって侵攻を受けていた。

 

 大陸で迫害されていた異形種の互助組織としてアインズ・ウール・ゴウンというギルドが設立したのが約六百年前のこと。シモベ達から至高の存在と呼ばれる彼らの活動は、世界に大きな影響を与えた。異形種迫害の酷い国を滅ぼしたり、自分達にちょっかいを出した裏社会の組織を潰したら、その組織が根を張っていた国の貴族が半壊したり、希少金属の出る鉱山を占領したり等。

 傍若無人、悪逆非道な行いばかりしていたというわけではない。だが結果的に、彼らを共通の敵として多くの種族を団結させることになった。長い年月をかけて強者が育ち、竜王(ドラゴンロード)の協力をも取り付けた対アインズ・ウール・ゴウン大連合は、ナザリック地下大墳墓を包囲。ついに侵攻が開始されてから、一年が経とうとしていた。

 

 

 

 

 来たる最期の時を前に、思い思いの言葉を口にする異形達。そこに絶望はなく、むしろ微かに希望すらあった。

 

「第八階層を突破されたら予定通り、この玉座の間で勇者たちを迎え撃つ。ですよね、モモンガさん」

 

 純白の鎧を纏った聖騎士、たっち・みーが落ち着いた口調でギルド長に話しかける。

 

「はい、最期はみんなで盛大に散りましょう」

 

 たっち・みーの問いかけにそう答えたのは、一人の少年だった。

 

 

 

 

 モモンガは死の支配者(オーバーロード)であった。いや、正確には今でもそうだ。

 

 五十年ほど前、あるダンジョンに挑んだモモンガは複数の呪いを同時に受けてしまった。その結果、姿を人間に変えられてしまったのだ。その時のギルドメンバーとシモベ達の混乱のしようは、筆舌に尽くしがたいほどだった。皆がそれぞれモモンガの呪いを解くために手を尽くしたが、複雑に絡まりあい、効果を打ち消しあったり高めあったりしているその呪いは、下手に解こうとすれば別の問題が発生する恐れがあった。

 様々な実験を経て、幸いなことに死の支配者(オーバーロード)としての能力や特性、上位物理無効化や神聖攻撃に対する脆弱性、飲食不要などが失われていないことが判明。外見が人間に見えるだけで、モモンガの本質はアンデッドのままであるという結論が出た。

 また、月日が経過しても肉体の成長や老化は確認されなかった。老衰で死亡することもないだろうと判断したモモンガは、解呪方法を探すことの優先順位を下げるよう自ら提案した。その頃には、対アインズ・ウール・ゴウン大連合との戦争の足音が聞こえていたからだった。

 

 

 

 

 そんなわけで、モモンガは人間の子供の姿のまま最期の時を迎えようとしていた。

 

「じゃあさ、モモンガさんは玉座に座っててよ! 悪の親玉っぽくさ」

 

 ピンク色のスライム、ぶくぶく茶釜が大袈裟に身体を動かしながら明るい声で提案した。

 

「ええ? 今の俺の姿じゃ違和感ないですか?」

 

 今のモモンガの外見年齢は、アウラやマーレと変わらないくらいに見える。そんな少年が玉座に座っていたらおかしいのではないか、とモモンガは素直に口にした。

 

「大丈夫です! そのギャップがいいんですよ」

「あ、私のセリフ取らないでもらえます?」

 

 ペロロンチーノがこれまた明るく姉の提案を後押しすると、タブラ・スマラグディナが少し拗ねたような声をあげた。

 そのやりとりに、モモンガはくすりと思わず笑みをもらす。

 

「わかりました。じゃあ遠慮なく座らせてもらいますね」

 

 せっかくの一度きりの最期の時だ、皆にすすめられた通りにしよう。十数段の階段を登り、水晶でできた玉座の前まで行くと、神器級(ゴッズ)アイテムのローブを翻す。いつの間にか静かになった皆の視線が自分に集まっていることに違和感を覚えるが、そのまま玉座に腰掛けた。その瞬間。

 

「えっ?!」

 

 玉座を中心に、巨大な魔法陣が展開される。これは、超位魔法? まさか敵の攻撃か? すぐさま立ち上がろうとするが、玉座と身体が一体化してしまったかのように立つことができなかった。

 

「な、なんですかこれ?!」

 

 まともに動くのは首から上くらいだ。必死に身を捩りながら叫ぶが、異形達は安堵の表情を浮かべるばかり。

 

「モモンガさん」

 

 そんな中、一人たっち・みーが階段へと近づき、片膝をつく。

 

「たっちさん」

 

 モモンガがそれ以上言葉を紡ぐよりも先に、たっち・みーは出会ったときと変わらない優しげな声音で言った。

 

「あなたを、アインズ・ウール・ゴウンから追放します」

 

 背後から鈍器で殴られたようなショックがモモンガを襲う。座った瞬間に身体が硬直し、超位魔法らしき魔法陣が展開された以上の衝撃だった。

 声も上げられずにいると、異形達の中にふっと吹き出す者がいた。

 

「あっはははは! みんな見た? モモンガさんの驚いた顔!」

 

 ギルド一番の問題児、るし★ふぁーである。

 

「最後にビックリさせたがっ! 痛い!」

 

 笑いすぎて出た涙を拭うふりをしている彼に、やまいこが無言でゲンコツを落とした。

 

「姉ちゃん俺関係ない! まじで!」

「いや絶対発案したのはお前だろバカ弟!」

「たしかにるし★ふぁーさんの前でポロッと言ったのは軽率だったけどぉ!」

 

 少し視線を動かすと、ぶくぶく茶釜がペロロンチーノの胸ぐらを掴んで絞め上げていた。

 

「わ、私何かとんでもないこと言ってしまいましたか……?」

「何るし★ふぁーさんに簡単に騙されてんだ! この馬鹿たっち!」

 

 片膝をついた姿勢のままオロオロする聖騎士の後頭部を、ウルベルトが引っぱたいた。

 

 ペロロンチーノの先ほどの発言から、たっち・みーの言葉はそのままの意味ではなく、何かネタ的な意味のセリフだった、と解釈はできた。しかし、魔法陣の意味も自分が動けない理由もわからないままだ。

 

「誰か説明してください! なんですかこれは!」

 

 精一杯声を張り上げるモモンガに、二人の異形が近づいてきた。

 

「はい皆さん落ち着いて、モモンガさん戸惑ってますから」

 

 そのうちの一人、タブラは水かきのついた手をパンパンと叩き、未だに混乱したその場を沈める。

 もう一人、ぷにっと萌えが、モモンガに戦術を講義するいつもの調子で話しはじめた。

 

「あの戦力でナザリック内部に侵攻された時点で我々の敗北です。ここで質問。今相手が一番嫌がることは何か、わかりますか?」

 

 少し悩んだ後、モモンガは口を開く。

 

「……俺たちを倒しきれないこと、ですか?」

「その通りですモモンガさん。我々をここで確実に滅ぼすつもりの相手にとって、ギルドを完全崩壊させられないというのは大損失」

 

 モモンガの解答を肯定するぷにっと萌え。それに続いて、タブラの口から衝撃的なことが飛び出した。

 

「勝確の相手に一矢報いる。そのために、モモンガさんにはギルド武器を持って逃げてほしいんです」

「……えっ……?」

 

 逃げる? 自分が? 彼らを置いてナザリックから? そもそもどうやって?

 最後に浮かんだ疑問を見透かしたかのように、タブラは続けて言った。

 

「この魔法は<星に願いを>(ウィッシュ・アポン・ア・スター)をアレンジしたものでして、ナザリックからできる限り遠く離れた土地に転移するようにしています」

 

 アレンジが間に合ってよかった、と呟く大錬金術師。そんなことが可能なのかと思うが、彼の魔法への深い理解と技術があればできるのかもしれない。

 たっち・みーに嫌味を言い終わったらしいウルベルトが、パンと手を叩いた。

 

「パンドラズ・アクター!」

「はっ! 御方々の前に!」

 

 どこに隠れていたのか、最後の嫌がらせに重要なアイテムを宝物殿の見つかりにくい場所に隠す仕事をしていたはずのパンドラズ・アクターが姿を現した。その手にはギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあった。

 

「パンドラズ・アクターにはいくつかのワールドアイテムや厳選したアイテムをたんまり持たせてあります。彼と一緒にここから脱出するんです」

 

 大厄災の魔と呼ばれる彼は、鋭い犬歯を覗かせて笑ってみせた。

 

「そんな……そんなの嫌です! 俺もみなさんと最期までここにいます!」

 

 胸が張り裂けそうな想いでモモンガは叫ぶ。どうにかしてこの魔法陣の外に出なければ。しかし魔法を使おうにも、魔力がうまくコントロールできず低位の魔法さえも不発に終わった。これもこの魔法陣の効果なのだろうか。

 

「これはギルド武器を扱えるモモンガさんにしかできないことです。それに、今のモモンガさんの姿が人間になっていることを、奴らは知らない」

「死体が一つ足りないことに気づいた奴らは、死の支配者(オーバーロード)のモモンガさんを探すでしょうね」

 

 ブレイン・イーターとヴァイン・デスが、子供に言い聞かせるようにモモンガに語りかける。

 

「モモンガさんが呪いで今の姿になったのも、きっとこのためだったんですよ」

 

 追い打ちをかけたのは、モモンガが憧れて止まない純銀の正義の味方だった。

 

「それでも、嫌です。俺だけ逃げるなんて……」

「うちのギルドは多数決を重んじるギルドでしょ? モモンガさんをハブにして決を取ったのは申し訳ないけど、これは四十人分の賛成を得た作戦なんだよ」

 

 なおも反論するモモンガに、やまいこが聞き分けのない生徒に言い含めるように言った。

 

「最後まで反対だったのがコイツですけどね」

「私はモモンガさんを騙し討ちするような作戦に反対だっただけです」

 

 ウルベルトに指をさされた聖騎士は、それでも最終的には無理やりにでもモモンガを逃がすことに賛成したようだ。

 

「モモンガさん、これはあなたの命を助けるためだけじゃないんです。この戦争のほとぼりが冷めた頃に、蘇生アイテムを持ってここに帰ってきてください」

「数人分、いえ一人分でもいいです。モモンガさんと、選ばれた一人とでまた他のメンバー分の蘇生アイテムを集める冒険をしましょう」

「それともモモンガさん、俺たちのために蘇生アイテム集めするの嫌?」

 

 死獣天朱雀、ヘロヘロ、そしてペロロンチーノも次々にモモンガを説得する。

 

「……わかり、ました」

 

 そうモモンガは絞りだし、唇を噛む。この身体になってから、アンデッドなのに涙が出るようになってしまった。ほっとした表情の仲間たちの姿が歪んで見える。

 

「パンドラズ・アクター、モモンガさんを頼んだよ」

「ときどき俺の姿になって、モモンガさんが俺のこと忘れないようにしてね」

 

 やまいこの言葉に、るし★ふぁーが被せるように発言するが、隣にいるやまいこにすぐさまチョップを食らっていた。

 

「お任せください、モモンガ様を必ずやお守りいたします」

 

 いつもの独特なオーバーリアクションではない、モモンガの被造物らしい真面目な態度でパンドラズ・アクターは宣言する。そして魔法陣の中へと入り、モモンガの横に立った。

 

「じゃあモモンガさん、合図お願い」

「乾杯のときのアレです。それを転移魔法発動の合図にしたので」

「はい……絶対、蘇生アイテムを持ってここに帰ってきますから!」

 

 苦しげな表情を浮かべながらも、モモンガは覚悟を決める。

 

「おう、そんなに焦んなくていいからな」

「あんまり気負いすぎんなよギルマス」

 

 武人建御雷、弐式炎雷、そして他のギルドメンバー達も、口々にモモンガを勇気づける言葉をかけていった。その一人一人の姿を、モモンガは目に焼き付ける。

 そして、

 

「アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」

 

 一息に言い切った直後、モモンガの視界は真っ白に染まった。

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