ショタインズ様異世界珍道中   作:壊れたスプーン

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茶会

 

 エルフ女王国には、戦力として複数の騎士団が存在する。それぞれの騎士団に特徴と序列があるが、その頂点に君臨するのが白の騎士団だ。正規団員は現在六名しかいないにも関わらず、その六名が、他の全騎士団と同等の強さがあるとも噂されるほどの圧倒的戦力。それが白の騎士団だ。

 

 

 そんな白の騎士団の団員が生活する特別宿舎。その中庭で、この日は茶会が開かれていた。これは少ない団員の親睦と団結を深める目的で定期的に行われているもので、マナーや上下関係を気にせず、ただお茶を楽しむための会である。実際、メンバーの半分は無礼講であるかのように楽しんでいる。 

 今回の出席者五名のうちの一人、シャープハットは、ほとんど下着同然の格好をした人種(ヒューマン)女性を膝に乗せていた。

 

「あ〜ソーシャちゃんのおっぱいマジ癒されるっす」

 

 シャープハットは白の騎士団の射撃手であり、長く伸ばした金髪を所々編んだり結んだりしている優男だ。彼に腰を抱かれ、タレ気味の青い目で見つめられれば、どんな女性も顔を赤らめることだろう。

 

「お、お戯れを、シャープハット様」

 

 しかし、ソーシャと呼ばれた女の顔色は悪かった。震える唇で言葉を絞り出し、じっと俯いている。

 

「そーいう控えめなところもカワイイっすね〜」

 

 シャープハットはそんな彼女の様子を気にすることなく、胸や太ももを撫で回していた。 

 

「最初はニアからね」

「じゃあ耳から狙おうか」

「オーケー」

 

 席にすら着かずに遊んでいるのは、ニアとキアの双子の兄弟だ。幼さの残る可愛らしい顔立ちの二人の視線の先には、木に縛りつけられた人種(ヒューマン)男性。猿轡までされた彼は、目に涙を滲ませ震えていた。そんな男に向けて、ニアがナイフを投擲する。キアが指定した通りに、ナイフは男の左耳を切り飛ばした。男がくぐもった悲鳴を上げる。

 

「きゃはは! 当たった当たった!」

 

 苦悶の表情を浮かべる男に対し、ニアは楽しげに声を上げて笑った。

 

「今度はキアの番だね」

「次は膝を狙おう」

 

 二本目のナイフを取り出すキアに、今度はニアが場所を指定する。双子による的あてゲームは、まだ始まったばかりだった。

 そんなシャープハットとニア、キアの双子を苦々しげな顔で見ているのが、白の騎士団の中で最年少のマストだ。よく見ればまだ幼い顔をしているが、眉間に刻まれた深い皺のせいで双子よりも年上に見える。

 

「ミカエル副団長、あれは止めるべきではないでしょうか」

 

 マストは優雅にティーカップを傾けている副団長、ミカエルに進言した。ミカエルはゆっくりとした動作でティーカップを戻し、マストを宥めるように答えた。

 

「いいじゃないか。三人とも、自分の金で買った奴隷で遊んでいるだけなんだから」

「ですが……」

 

 納得がいかない様子のマスト。そんな彼を見て、ミカエルは苦笑しながら眼鏡のブリッジをくいっと押し上げた。

 

「君はたしか、人種(ヒューマン)は絶滅させるべきと主張していたね」

「はい。あんな弱く醜く無価値な種族は、絶滅させたほうが彼らもこれ以上苦しむことはなく、世界のためにもなると考えています」

 

 ミカエルの問いに、マストは力強く返答する。そこに迷いは一切見られない。

 

劣等種(ヒューマン)が弱く醜いことには同意するが、無価値かどうかは君が決めることではないよ」

「きゃはははは!」

 

 双子らしい、ピッタリ重なった笑い声が響く。ナイフ投げの的にされている人種(ヒューマン)奴隷の身体には、既に何本もナイフが突き刺さっていた。悲鳴を上げる体力も尽きたのか、猿轡の隙間からヒューヒューと音を漏らすだけであり、絶命するまで時間の問題だろう。

 嫌でも目に入る、同じ人種(ヒューマン)奴隷の末路に、シャープハットの膝に乗る女は顔を青白くしていた。マストが知る限り、シャープハットの飼う人種(ヒューマン)女奴隷はあれで八人目だ。どの女も、シャープハットが飽きれば、王都近く森に放たれ狩りの獲物の代わりにされ、処分されていた。

 そんな人種(ヒューマン)の扱いを、マストは憐れに思っていた。だからこそ、そもそも人種(ヒューマン)は生まれてくるべきではない、絶滅すべきであるという考えに至ったのだ。以前からこの考えは持っていたが、白の騎士団に入団してからは、より一層確信を強めていた。

 

「それはそうかもしれません。ですが、それでも人種(ヒューマン)は滅びるべきかと思います」

 

 あくまで自分の主張を曲げないマストの頑固さに、ミカエルはお手上げというように両手を軽く上げた。

 

「まあ、今はそれでもいい。そのうち君もわかる日がくるさ」

 

 そんな日がくるとは思えませんが。そうマストが言おうとしたその時、白の騎士団最後の一人が庭へ現れた。

 

「遅くなった」

 

 白の騎士団団長、ハーディである。二メートル近い鍛え抜かれた長身に、威圧感のある鋭い眼光。『静かなるハーディ』の二つ名を持つ、エルフ女王国最強の存在に、場の空気が一気に引き締まった。

 

「お待ちしておりました、団長。今お茶をお淹れします」

 

 マストがすぐさま立ち上がり、お茶の準備をしようとポットに手をかける。それをハーディは片手を上げて制した。

 

「いや。すまないが、茶はまた今度だ」

 

 ハーディは続けて命令をくだす。

 

「ミカエル、シャープハットの二名は会議室に来るように」

 

 ハーディは踵を返し、宿舎の中へと姿を消した。ミカエルはすぐに、シャープハットは膝の上の人種(ヒューマン)女奴隷に部屋に戻るよう指示してから、それぞれ団長の後を追った。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 白の騎士団特別宿舎の会議室は、純白の円卓と椅子があるだけのシンプルな部屋だ。ミカエルとシャープハットが会議室に入ると、ハーディは気難しそうな顔をして立ったまま二人を待っていた。

 

「自分ッチと副団長だけ呼び出して、何かあったんすか?」

 

 団長が座っていないのに、自分達が先に座るわけにはいかない。シャープハットは近くの壁にもたれかかりながら、ハーディに問いかけた。

 

「そうです。ワタシは今日は婚約者と会う予定だったのですよ。それを直前でキャンセルしなくてはいけないほどの用件とは、いったい何でしょう?」

 

 ミカエルは、ハーディが所属する女王派と政治的対立関係にある宰相派に属している。同じ宰相派の名家である娘と婚約関係にあり、家同士の繋がりを強めるのはミカエルの仕事の一つだ。それを邪魔されたことで、他の団員の前では普段通りに振る舞っていたが、ミカエルは今日一日苛立ちを募らせていた。

 そんなミカエルの苛立ちに気づいていないのか、それとも気づいていてあえて無視しているのか。ハーディはいつもと変わらない口調で、逆にミカエルに質問を返した。

 

「ミカエルの婚約者は、マスター候補を殺害したという功績があったな」

「ええ、そうですが。それが何か」

 

 ミカエルの返答に頷き、ハーディは本題に入る。

 

「まず、カイトの尋問結果の裏が取れた」

「あのカイトっすか」

 

 シャープハットが苦虫を噛み潰したような顔をした。白の騎士団に入団を許されておきながら、すぐに成長限界が来たハズレのサブマスターである。その上、自分の弱さを認められず、国宝を盗み出して国外逃亡した大罪人。白の騎士団の恥さらしだ。ダークエルフの男と手を組み、ドワーフ王国のダンジョンで冒険者殺しをしていたところをギルドに捕らえられた。その情報を得たエルフ女王国が、秘密裏に身柄を確保したのが数日前のことだ。

 

劣等種(ヒューマン)の子供にやられたと言っていたそうじゃないですか。それの裏が取れたと?」

 

 エルフ女王国に連れ戻されたカイトは尋問という名の拷問にかけられ、誰にどこまで国家機密を含む重要情報を漏らしたかなどを吐かされることになる。だがカイトの話は要領を得ず、理解しがたい支離滅裂な供述がほとんどだった。そんな供述の中で、黒髪の人種(ヒューマン)の子供が頻繁に登場したらしいが、カイトの妄想か幻覚だと片付けられたはずだ。

 信憑性が著しく低いとされていたその話が事実であるという裏付けが、今更取れたというのか。ミカエルは訝しげな表情を浮かべた。

 それに対し、ハーディは険しい顔で頷く。

 

「そうだ。あのダンジョン都市にいた冒険者の子供が、一人でカイトを倒したのは事実だ」

 

 ハーディの言葉に、ミカエルもシャープハットも目を見開いた。

 

「マジっすか、それ」

 

 シャープハットは信じられず、思わず声を漏らす。ハーディはシャープハットのほうを向き、言い聞かせるように繰り返した。

 

「カイトはレベルの伸び切った三流だが、それでも血を覚醒させたサブマスターだ。それを、たった一人で倒した子供が確かにいる」

 

 シャープハットは息を飲み、ミカエルも動揺を隠すように眼鏡をかけ直す。ハーディは二人の反応を確認し、話を続けた。

 

「上層部はその子供、アインズという冒険者をマスター候補として正式に認定した」

「それでは、そのマスター候補の抹殺が次の任務ですか」

 

 ミカエルの言葉に、ハーディは静かに首を横に振る。

 

「まずは平和的に交渉をして、国に招き入れる。しばらく調査し、本物のマスターであるならば、血を取り入れる方向でことを進めるが――」

「ハズレだったら、油断しきったところを殺すってことっすね」

 

 シャープハットがパチンと指を鳴らしながら言った。他人のセリフの最後をキメ顔で横取りするのは、彼の悪い癖だ。だがハーディは気にせず、その通りだ、と言うにとどめた。

 

「交渉が決裂した場合は、力ずくで連行する必要がある。そのためこの作戦には、ミカエル、シャープハット、そして私の三名、そして予備戦力として、緋色騎士団十四名が参加する」

「緋色も出て来るんすか」

 

 緋色騎士団――エルフ女王国の騎士団の中で、白の騎士団に次ぐ序列二位の騎士団だ。強さだけでなく血筋、家柄も良くなければ入団することはできないとされ、まだ血を覚醒させていないサブマスターの卵も数名入団している。過去には緋色騎士団から白の騎士団に移籍した者も何名か存在した。ただし、家の政治的派閥によって団員同士も対立しているという噂もある。団員と副団長が水面下でせめぎ合っている白の騎士団も他所のことをとやかく言えるわけではないが、政治闘争からは距離を置いているシャープハットからしたら、あまり信用できない味方だった。

 

「過剰戦力、とは言えませんね。今回に限っては」

 

 ミカエルの言葉に、ハーディは頷く。マスター候補の子供一人のためにこれほどの戦力を集めるのには、様々な利害関係の調整に苦労したことだろう。ハーディが茶会に間に合わなかったのも、それが影響していると想像できた。やはり政治や利権というのは恐ろしい。シャープハットは内心で肩をすくめた。

 

「作戦詳細は移動しながら説明する。装備を整え次第、すぐにでも出立するぞ」

「はっ」

「うす」

 

 団長の宣言に、二人はそれぞれ了解の意を示す。それから最短で最高の状態に装備を整えるため、全員が行動を開始した。

 

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