ショタインズ様異世界珍道中   作:壊れたスプーン

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決闘②

 

 初めてアインズを目にしたときから、劣等種とは思えない整った顔立ちをしているとは思っていた。剣を交えてみて、魔術師とは思えない身体能力をしているとも思った。だがそれだけだ。副団長にまでのぼりつめた自分と、エルフ女王国最高の射撃手であるシャープハットの二人がかりでならば、倒せない敵ではない。そう思っていた。あの笑みを見るまでは。

 

「そんな強がっちゃって、痛い思いするだけっすよ」

 

 シャープハットが軽口を叩くが、僅かに声が震えている。おそらく彼も、ミカエルと同じようなことを考えているのだろう。

 

 無意識に盾を持つ手に力がこもる。必ずこの任務を成功させるように、と宰相から託された幻想級(ファンタズマ・クラス)の盾、『祝福と天罰』。受けた攻撃をそのまま相手に返すという能力を持ち、さらには味方のステータスを上昇させることまでできる、まさに国宝級の武具だ。この盾の力が通用することは、アインズが吹き飛んだことで確認できた。

 これがあれば、たとえ多少時間がかかったとしても、確実にアインズを倒すことができる。先ほどまではそう考えていたが、ミカエルのなかで方針が変わった。時間は自分達の味方ではない、早く決着をつけなければならない。

 そう考え直したミカエルが、手ぶらのままのアインズとの距離を詰めようとした、そのとき。

 

「<魔法位階上昇化(ブーステッドマジック)魔法の矢(マジック・アロー)>」

 

 アインズが魔法を唱え、空中に十個の光の球が現れる。

 

「そんなの、また全部撃ち落とすっすよ!」

 

 威勢よく叫ぶシャープハットが、右腕を構えた。

 何も武装をしていないように見える彼だが、無論そんなことはない。彼のメイン武器は秘宝級(アーティファクト・クラス)、『不可視のクロスボウ』。使用者の魔力を矢にして射出する、本体も矢も透明なクロスボウである。魔力を込めるだけで連射が可能で、発射後の矢をある程度コントロールすることもできる魔術武具(マジックウェポン)だ。

 そんなクロスボウから放たれた十本の不可視の矢が、シャープハット目掛けて飛来する十個の光の球とぶつかった。

 

「はっ?」

 

 不可視の矢を認識できるシャープハットの口から、声が漏れる。撃ち落とされたのは、シャープハットが放った矢のほうだった。光の球は消滅することなく、白い残光を引きながらシャープハットに襲いかかる。

 

「ぐぁあ!」

 

 回避する間もなく、十連続のダメージを受けたシャープハットがその場に倒れ込んだ。

 

「くっ!」

 

 ミカエルはシャープハットに一瞥もせず、地面を蹴る。まず一人を倒したと思っている今、畳み掛けなければ不味い。そう考え、一息でアインズとの距離を詰めた。次の瞬間。

 

「<上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)>」

 

 パキン、と左手に持つ盾から嫌な音がした。

 

「まさかっ!?」

 

 見ると、盾を真っ二つにする亀裂が入っている。その亀裂を視認した途端、『祝福と天罰』は輝きを失い、粉々に崩れ落ちた。

 幻想級(ファンタズマ・クラス)の武具が破壊されるという衝撃に、刹那の間身体が硬直してしまう。そんなミカエルの隙を、アインズが見逃すわけはなかった。

 

「<魔法二重位階上昇化(ツインブーステッドマジック)衝撃波(ショック・ウェーブ)>」

 

「ごぉっ」

 

 見えない棍棒でフルスイングされたような打撃を顔面と腹部に受け、ミカエルが後方に吹き飛ぶ。着地するどころか、受け身を取ることもできずに、仰向けに地面に倒れた。

 

「う……ぐ……」

 

 まだ立ち上がろうと藻掻いているミカエルに、アインズが一歩近づく。その瞬間。アインズの側頭部に向けて、黄金に輝く矢が放たれ。

 倒れ伏していたはずのシャープハットが、倒れた姿勢のままクロスボウに魔力を限界まで込めて打ち出したものだった。濃密な魔力によって不可視の矢ではなくなってしまったが、その分威力はこれまでの攻撃の比ではない。シャープハットの撃てる限り最高の一矢が、アインズのこめかみを直撃。同時に眩い光が炸裂した。

 あまりの眩しさに、思わず目を閉じてしまったシャープハットは、閉じた視界の中で確信する。戦線離脱したと思わせ、不意を突いた最強の一撃に、流石のアインズも致命傷を負っていると。瞼の裏に、無様に倒れるアインズの姿を描きながら、目を開いた。

 

 しかし、無傷。

 

 血を流すことも、よろめくこともなく、アインズは平然と立っていた。こちらを向く彼の動きが、スローモーションで目に映る。

 

「<魔法二重化(ツインマジック)魔法の矢(マジック・アロー)>」

 

 そう言って微笑むアインズの背後に、光の球が現れた。二度見た魔法であるが、今度のその数は、約二倍。

 

「ひっ」

 

 喉が引きつる。回避行動も、クロスボウを撃つこともできず、二十の光弾を浴びたシャープハットの意識はそこで途切れることになった。

 

 

 

 

 

 

「あとはお前だけだが、どうする?」

 ウルベルトに対し剣を構えたままのハーディの背中に、アインズは問いかけた。

 

「……まさか、貴殿がこれほどの力を持っていたとは」

 

 ようやく振り返りアインズのほうを向いたハーディが、戦闘不能になった部下二人を見下ろす。まだ息があることを確認し、ゆっくりとアインズに剣を向ける。

 

「そう言いつつ余裕ではないか、団長殿」

 

 三対二という有利な状況から二対一になったというのにも関わらず、ハーディに焦りは見られない。

 

「余裕ではない。が、今の私に慢心はない」

 

 冷静に、そして静かに、敵対者を見据えるハーディ。ここから必ず逆転するという意思を感じる瞳に、アインズは感心しながら口を開いた。

 

「私の悪魔には手は出させない。二人で楽しもうではないか」

 

 アインズの余裕綽々とした態度に、そうか、とハーディは表情を崩すことなく答えた。

 

「では、奥の手を切らせてもらうぞ」

 

 多くのモンスター、多くの人種(ヒューマン)を屠ってきた白の騎士団団長、エルフ女王国最強の男が、淡々とアインズに宣告する。

 それが開戦の合図となった。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 ダラダラと流れていた鼻血は、既に止まっていた。 

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 ひびが入ったのか痛む肋を庇いながら、上体を起こしたミカエルは必死に呼吸を整えようとする。だが、心臓は早鐘を打ち続け、それに合わせ浅い呼吸を繰り返すことしかできなかった。

 

「やはり難度は百から百二十といったところだったな」

 

 ミカエルの視線の先にいるのは、汗一つかかず、傷一つついていない姿のアインズ。そしてそのアインズが見下ろしているのは、足元に転がるハーディだった。

 シャープハットと違い、意識を失わなかったミカエルは見てしまった。勝てる者などいないと言われていたハーディが、奥の手を全て使い切ったうえで、なす術なくボロ雑巾のようにされていく様を。

 

 こんな相手、勝てるわけがない。だがこんな化け物を放置してはエルフ女王国の、いや、世界の危機だ。この化け物の脅威を国に戻って伝えなければ。決して、仲間を見捨てて敵前逃亡するのではない。これが今の自分にとっての最適解なのだ。

 そう自らに言い聞かせたミカエルは、懐から一枚の薄いカードを取り出し、高く掲げた。

 

「『空を駆ける翼』!」

 

 カードの名を叫ぶと、手の中のカードが温度のない青い炎に包まれた。

 マジックアイテム『空を駆ける翼』は、傍系とはいえ王家の血を引くミカエルの家に代々伝わる、貴重な長距離転移アイテムだ。マスターから下賜されたものだとも言い伝えられるそれは、ミカエルを国へと帰還させることが可能なはずだった。しかし、

 

「な、なぜだ……?!」

 

 『空を駆ける翼』が燃え尽きたにも関わらず、ミカエルが転移することはなかった。わけがわからず、痛みを忘れて大きな声を上げてしまった。

 

「転移魔法か?」

 

 一人動揺するミカエルを見て、アインズは首を傾げる。アインズの関心がハーディから自身に移ったことを悟ったミカエルの喉から、ヒュッと異音がした。

 

「お前が<次元封鎖(ディメンショナル・ロック)>をしてくれていたのは正解だったようだな」

 

 アインズがそう悪魔に声をかけると、悪魔は鷹揚にお辞儀をした。それからアインズはミカエルに視線を戻し、尋ねる。

 

「さて、お前の切り札はそれだけか?」

「ま、待って、待ってください! わた、ワタシには、生かしておく価値があります!」

 

 ミカエルは反射的に叫んだ。

 

「ほう?」

 

 ミカエルの咄嗟の叫びに、アインズは予想外にも興味深そうな声をあげた。この機を逃すまいと、ミカエルは声を張りあげる。

 

「そこの団長は女王の実子です! ワタシも王族の血を引いています!」

「ふむ、それで?」

 

 アインズに促され、ミカエルは続ける。

 

「い、命を助けてくださるのならば、国は破格の金額でも用意するはずです! それ以外の要望も通ることでしょう!」

 

 そこまで一息で言うと、溜まった唾を飲み込む。そして痛む身体を無視して体勢を変え、平服した状態でまた叫んだ。

 

「他にもワタシができることは何でもいたします! ですのでどうか! 命だけは!」

 

 恥も外聞も捨てた命乞い。他の団員や国民の目があったらもう少し躊躇ったかもしれないが、今この場には敵と自分しかいない。プライドを捨てて命が助かるのなら安いものだ。額を地面につけるミカエルの頭上から、満足そうな声が降ってきた。

 

「そうかそうか。それを良いことを聞いた」

 

 顔を上げると、にっこりと微笑むアインズがすぐ目の前に立っていた。

 これで助かる、そう安堵しかけたのも束の間。アインズがおもむろに片足を上げた。

 

「では、しばらく眠っていてくれ」

 

 ミカエルが最後に見たのは、眼前に迫るブーツの底裏だった。

 

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