ショタインズ様異世界珍道中   作:壊れたスプーン

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オーバーロードで4DXデビューしてきました。
大変楽しかったです。



遭遇

 

 浮遊感を感じたのは、ほんの一瞬だった。重力の感覚が戻り、玉座に座ったままの姿勢だったモモンガは尻もちをついた。地面のひんやりとした冷たさが、身体を支える手のひらから伝わってくる。

 目を開けると、そこは鬱蒼とした森のようだった。太い木々が立ち並び、光源は木漏れ日だけ。昼間だということはわかるが、どうにも薄暗い。

 

「モモンガ様! お怪我はございませんか?!」

 

 そんなセリフとともにモモンガの目の前に飛び出してきたのは、一匹の猫だ。僅かな光を受けて金色に輝く毛並は綺麗だが、その顔には子供の落書きのような黒い穴が三つ空いている。

 

「問題ない……が、お前何故その姿なんだ?」

 

 猫、もといパンドラ・ズアクターにモモンガは問いかけた。あの外装は、たしか昔遊びで作ったものだ。見た目がそれなりに可愛いくできたというだけで、戦闘能力など皆無なはず。その姿に、わざわざ今変身する意味がわからない。

 

「実はこちらの外装、索敵や探知能力などモモンガ様をお導きするための能力を追加していただいております。ウルベルト様やタブラ様など魔法職の御方々を中心に、ビルドを考案していただきました」

 

 パンドラズ・アクターは続けて報告する。

 

「この周辺に魔法的、物理的な監視はございません。敵性モンスターの存在も感知できませんでした」

「そうだったのか……たしかに、前衛なしで活動するなら耳目となる先導役は必要だな」

 

 猫の姿ならば、敵から警戒されることもないだろう。アインズ・ウール・ゴウンが誇る魔法職達が考えてくれたビルドならば、痒いところに手が届くような、どのような状況にも対応可能な構成になっているはずだ。

 

「モモンガ様、お怒りではないでしょうか」

 

 ちょこん、と猫らしく座っているパンドラズ・アクターが、モモンガを見上げながら恐る恐る尋ねた。

 

「何故そんなことを聞く?」

「私が、創造主であるモモンガ様に隠れて計画に加担していたからです」

 

 そう言うと、パンドラズ・アクターは俯いて、自らの神から罰が下るのを待った。

 

「お前にも、他のみんなにも怒ってなどないさ。ただ……」

 

 ただ、なんだろう。パンドラズ・アクターは顔を上げ、主人の言葉の続きを待つ。

 

「自分が情けない。俺が呪いでこんな身体になっていなければ、逃げる役目は他の誰かになっていたかもしれない。占領されたナザリックに単身挑むなら、俺よりも相応しいひとは沢山いたんだ。それなのに……」

 

 ぽたり、ぽたりと、パンドラズ・アクターの眼前を大粒の雫が落ちていく。

 

「モモンガ様……」

 

 パンドラズ・アクターは変身を解き、元の姿に戻った。長い四本の指のついた手を、モモンガの小さな背に当てる。振り払われるかもしれないと思ったが、その気配はない。力加減に細心の注意を払いながら、そっと背中をさすった。恐れ多いどころか、不敬な行動であることはわかっている。だが、これ以外にできることが、かける言葉が見つからなかった。

 

 ドッペルゲンガー故に温もりのない大きな手の感覚が、ローブ越しに伝わる。他のシモベは決してできないであろう行為が、モモンガを苛む巨大な自己嫌悪を少しずつ、ほろほろと崩していく。完全にはなくならないが、それでも心を押し潰すような重さではなくなったころ、モモンガの涙も止まっていた。

 

「見苦しいところを見せた。すまなかったな」

「いえ、そのようなことはございません!」

 

 モモンガは涙の跡の残る頬をパチンと両手で叩き、気持ちを切り替える。

 

「よし、それではこれより行動を開始する。二人で必ずナザリックに帰るぞ」

「我が神のお望みの通りに!」

 

 人間には真似することが難しいオーバーな動きをしながら、パンドラズ・アクターは主人の宣言に答えた。恥ずかしいその決めポーズに小言を言いたくなるモモンガだが、先ほどの行動に免じて今回は許すことにする。

 

「まず必要なのは情報だな……人のいるところ、できれば街に行きたい」

「でしたら、まずはお召し替えを。そちらの装備では目立ちます」

「たしかにそうだな」

 

 モモンガは神器級(ゴッズ)アイテムでほぼ全身を固めている。このままでは、ただの子供のふりをすることは難しいだろう。

 

「こちらにお着替えくださいませ! その間、私は周囲の警戒をしております。決して! モモンガ様のあられもないお姿は誰にも知覚させません!」

 

 パンドラズ・アクターは再び猫の姿になると、右の前足を額に当てた。おそらく敬礼だろう。装備変更中は無防備になるため周囲の警戒は重要だが、この気合いの入りようはなんだろう。

 

「そ、そうか。では頼んだ」

 

 モモンガは渡された装備に手早く着替えていく。清潔な白いシャツに黒のベスト、赤い石のついたループタイと半ズボン。細やかな金糸の刺繍がされた黒いローブと、似たデザインのブーツを履いたら完成だ。終わったぞ、とパンドラズ・アクターの後ろ姿に声をかけると、振り返った彼は前足で器用に拍手をした。何故肉球からパチパチと音がするのか。

 

「やはりよくお似合いです! 流石、ぶくぶく茶釜様が監修された装備一式です!」

「ぶくぶく茶釜さんが?」

「はい! こちら『夜空の魔法少年シリーズ』は、モモンガ様が人間の街で長期間お過ごしになることを想定した装備でございます」

 

 名前を聞いて、なるほどと思った。このローブは、たしかに夜空を写し取ったような静かな美しさがある。〈道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)〉で確認すると、ランクはすべて聖遺物級(レリック)で統一されていて、炎ダメージ軽減や早着替えなどの機能が付与されていた。これなら街を歩いても目立たないだろうし、いざというときも大丈夫そうだ。しかし、

 

「魔法少年……中身は数百歳のアンデッドだぞ?」

「着こなせているなら良いのです!」

 

 パンドラズ・アクターが片目を瞑りながら、右手を突き出してくる。猫の手なのでわかりにくいが、親指を立てているのだろう。

 

「そういうものか……」

 

 モモンガは、自分に言い聞かせるように呟いた。ぶくぶく茶釜さんに散々着せ替え人形にされたことが思い出され、思わず遠い目になってしまう。一緒に着せ替え人形をやっていたマーレは女装仲間ができたことが嬉しかったのか、彼にしては珍しく興奮した様子で可愛い可愛いと連呼していたな。

 

 

 そんなことを考えていると、パンドラズ・アクターの纏う空気が急変した。

 

「モモンガ様、人間種らしき者達が索敵範囲に入りました。武装しているようです」

 

 黒い眼窩で一点を真剣に見つめるパンドラズ・アクター。そちらの方向に感知した者達がいるらしい。

 

「相手の強さはわかるか?」

「私の目を欺けるほどの探知妨害をしていないのであれば、一般的な村人程度かと」

 

 武装した一般人というと、村の自警団とか狩猟班の集団だろうか。

 

「なるほど、であれば接触しよう。平和的に交渉して、情報を得たい」

「かしこまりました」

 

 パンドラズ・アクターは恭しく頷いて、了承の意を示した。

 

 

 

 

 

 相手集団の位置をパンドラズ・アクターが確認しつつ、彼らに見つけてもらいやすいよう移動しはじめてから数分後。モモンガにも、遠くで動く小さな人影が見えた。彼らの進行方向上に移動し、待つことさらに数分。

 

 木々の間から姿を現したのは、十二、三人ほどのドワーフの男達だった。使い込まれた軽装鎧を着込み、ハンマーや両手剣などを腰からさげている。どう見ても、動物を狩りに来た村人ではなさそうだ。

 モモンガの姿を見るなり彼らは、獲物を見つけたような凶悪な笑みを浮かべた。

 

「劣等種のガキが、こんなところで一人か」

「いい服着てんじゃねぇか。痛い思いしたくなきゃ、身ぐるみ置いていきな」

「いや、見ろよあの顔。あれはマニアに高く売れるぜ」

 

 なんだよマニアに高く売れるって。あとさらっと劣等種って言ったか?

 

 隣のパンドラズ・アクターが僅かに殺気を漏らしているが、モモンガが平和的に交渉すると言っていたため、これでも抑えているのだろう。

 だが、相手が人身売買もするような盗賊ならば話は変わってくる。彼らが突然消えたとしても、何の問題もないはずだ。二、三人、いや半分ほど見せしめに殺して情報を引き出すか。それとも、最初から<支配(ドミネイト)>を使ったほうが手っ取り早いか。

 

 モモンガがどうやって盗賊ドワーフ達を全滅させずに情報を得るか考えていると、一番装備の良いドワーフが一人、苛立ちながら一歩前に出た。

 

「おい聞いてんのかガキ! さっきから澄ました顔しやがって! こっちはレベル二百超えてんだぞ!」

 

 男が怒号を上げると、男の目の前に『それ』は現れた。

『それ』というのは、半透明の板のような何かだ。男の身体が、うっすらと透けて見えている。その板のような『それ』には、文字が書かれていた。

 

『名前:ゲルト 種族:ドワーフ種 レベル:二〇八』

 

 

「……は?」

 

 自己紹介カードのような『それ』に、思わず間の抜けた声をモモンガは上げてしまった。マジックアイテムを鑑定したときに脳裏に浮かぶものと比べると、随分と簡潔な情報が表示された『それ』。見えているのは自分だけかと思ったが、パンドラズ・アクターにも、そしてモモンガの反応にニヤリと笑う男にも見えているようだった。

 

『それ』が何なのかはこの際置いておく。問題は、レベル二〇八というのがどの程度の強さなのかだ。この男の自信の持ちようから、決して小さくない数字だということはわかる。

 

 モモンガの身体が強張ったのを見て、男がまた一歩近づいてきた。

 

「今さらビビっても遅いわ!」

 

 そう言うが早いか、男が拳を大きく振り上げた。それに対し、パンドラズ・アクターは自らに与えられた外装の中から最適な外装に変身しながら、モモンガの前に飛び出す。選んだのは至高の存在の中で最も防御力に優れた御方、ぶくぶく茶釜だ。

 突然眼前に現れたピンク色のスライムに、男が一瞬怯む。

 

「モモンガ様! ここは私が」

「囮になるなんて言うな! 俺は一人では逃げない!」

 

 モモンガは叫びながら、右手を前に突き出した。

 この男達がどれ程の強さかなんて関係ない。自分とパンドラズ・アクターを逃がしてくれた仲間達に報いるためにも、こんなところで倒れるわけにはいかない。

 

「<心臓掌握(グラスプ・ハート)>!」

 

 突き出した手を強く握りしめる。手の中で何かが潰れるような感触がし、男が拳を振り下ろすことは永遠になくなった。どさり、と音を立てて、ぶくぶく茶釜の姿をとったパンドラズ・アクターの前に男が崩れ落ちる。

 

 死んだ。魔法が通った。

 

 あの魔法を選んだのは、得意な魔法だからというのもあるが、男を朦朧状態にして時間を稼ぐつもりだったからだ。だが、この魔法で死ぬのであれば、男は即死対策をしていないということになる。

 

 まさか、それほど強くない?

 

 パンドラズ・アクターも、最初村人程度の強さだと言っていた。あの謎のレベル表示を見て混乱したが、本当にパンドラズ・アクターが感知した通りなのではないか。

 

 モモンガは次に使う魔法を決める。これで失敗すれば手番を相手に譲ることになるが、決まれば一気に決着だ。腹をくくり、魔法を唱えた。

 

「<集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)>」

 

 リーダーと思しき男が突然倒れ、どうすべきか迷っていたドワーフ達が、その場で硬直する。

 

「ひっ、ひぃっ……」

 

 運良く魔法の範囲外にいたドワーフが一人、情けない声を上げて腰を抜かしていた。なんとか逃げようとしているが、背中に木が当たってしまって後ずさることもできずにいる。

 

「<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>」

 

 試しに第五位階の魔法を使ってみると、腰を抜かしていた男は全身を白く輝かせた後、絶命した。放たれた電撃は、男の身体を後ろにあった木にまで貫通し、大穴を開ける結果となった。

 

「も、モモンガ様……」

 

 パンドラズ・アクターは<集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)>が決まった段階で、ぶくぶく茶釜の姿から猫の外装に切り替えていた。後詰めを警戒してくれていたのだろう。それでも、自身の行動が正しかったのか不安な様子でモモンガに声をかけてきた。彼が何も言わないということは、周囲には自分達しかいないと判断して良さそうだ。

 

「さて……どうするか」

 

 わからないことが多すぎる。何から尋問したら良いものか。モモンガは一息つきたいのをぐっと堪えながら、硬直したままのドワーフ達をどうするか思考を巡らせた。

 

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