ショタインズ様異世界珍道中   作:壊れたスプーン

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異世界

 

 とりあえず、<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>で作った鎖でドワーフ達を一纏めに拘束する。それでも不安なので、持続時間を延長した<集団全種族捕縛(マス・ホールド・スピーシーズ)>をかけ直しておいた。

 物理と魔法の二重で拘束をしている間、お前ら落ち着けだとか、あんなのトリックだ、と他のドワーフに声掛けしていた男の前にモモンガは立つ。

 

「お前があの男の次に偉いのか?」

 

 <心臓掌握(グラスプ・ハート)>を受けて死んだ男を指差しながら聞くと、男が唾を飛ばしながら吠えた。

 

「黙れ! このクソったれの劣等種のガキが! 俺は何も喋らんぞ!」

 

 うるさい、汚い、臭い。モモンガは眉をひそめ、素早く魔法を使った。

 

「<全種族魅了(チャーム・スピーシーズ)>。これで会話する気になったか?」

「おう。なんでも聞いてくれよ親友」

 

 男は先ほどまでの態度が嘘のように落ち着いた様子で、親しみのこもった声で言った。男の豹変っぷりに、周りのドワーフ達がざわついている。

 抵抗されるとは思っていなかったが、無事に魔法が効いたことにモモンガは安堵する。そして少し迷ってから、一番気になっていたことを最初に質問することにした。

 

「では、さっきの男が出したやつ、あれを出せるか?」

「ステータスのことか? もちろん出せるぜ」

 

 男がそう言うと、男とモモンガの間に、あの半透明の板が現れた。『それ』には、先ほど見たものとは違うことが書かれている。

 

『名前:ゴウズ 種族:ドワーフ種 レベル:一九七』

 

 

「何だこれは……」

 

 『それ』をまじまじと見つめながら、モモンガは思わず声を漏らしてしまう。そんなモモンガに対し、男は怪訝な顔をした。

 

「こいつで自由にレベルを確認したり、相手に見せつけたりできるなんて、お前よりガキでも知ってることだぜ? まさか忘れちまったのか?」

 

 ステータスなるものの存在は、子供でも知っていて当然の常識らしい。それにしても、自分や他人の、おそらく強さというものをレベルとして数値で把握できるとは、いったいどういうことだ。

 

「あ、ああ。どうやら記憶喪失というやつらしくてな」

「おいおい、そいつは大変だな」

 

 一般常識すら知らないことを適当に誤魔化すと、モモンガは質問を続けた。

 

「次に、ここはどこなのか教えてくれるか。あと、近くに大きな街があるかどうかも」

「ここはエルフ女王国と人種(ヒューマン)王国、ドワーフ王国の国境沿いの森だ。一番近い街っていうと、ドワーフ王国領にあるダンジョン都市ダガスってところだな」

 

 また知らない単語だ。ドワーフの国にダガスなる都市があることも知らないし、エルフの国にはムカつく王がいたためアインズ・ウール・ゴウン総出で殴りに行き、その後は部族単位で土地を治める国になっているはずだ。なんだ女王国って。あと人種(ヒューマン)という呼び方も聞いたことがない。

 

「次は、そうだな……」

 

 顎に手を当てて悩むモモンガ。そうしていると、ふいにタブラ・スマラグディナの顔が浮かんだ。はっとした表情でモモンガは次の質問をした。

 

「一番広く知られていそうな神話について話してくれないか? できるだけ簡単に、そう、三歳くらいの子供に聞かせるようにわかりやすくだ」

「神話? しかも三歳くらいって……まあ、わかった」

 

 男、ゴウズが戸惑いながらも語ったのは、次のような内容だった。

 

 

 

 

 はるか昔、世界にはドロドロとした黒い渦が満ちていた。そこに女神が光を当てると、まず大陸ができ、その後九つの種族が生まれた。獣人種、エルフ種、ダークエルフ種、ドワーフ種、ケンタウロス種、鬼人種、魔人種、竜人種(ドラゴニュート)、そして人種(ヒューマン)

 それと同時に、黒い渦の澱から邪神が生まれる。邪神は女神に恋をし自分のものにしようとしたが、大陸が邪魔で出られなくなっていた。そのため邪神は大陸の隙間から、自身の一部から作り出した魔物を送り込み、魔物を積み上げ女神に手をかけようとした。女神によって生み出された九つの種族達は、女神を守るため魔物と戦うこととなったのだった。

 

 

 

 

 寝物語として親から聞かされた話らしいが、これは創世神話というもので間違いなさそうだ。これも先ほどの国名と同様に、まったく聞いたことのない神話だった。

 

「ふむ……ちなみに劣等種というのはどういう意味だ?」

人種(ヒューマン)のことだよ。あいつらは寿命も短く、身体能力も魔力も低い。九つの種族の中で最も劣った種なんだよ。あ、もちろんお前は例外だぜ親友」

 

 魅了の魔法をかけられた者は、相手のことを親友だと認識する。なぜ自分が劣等種と友人関係なのかという疑問が出てこないのは、流石は魔法ということだ。

 

「そうか、だいたいわかった……。パンドラズ・アクター」

「はっ」

 

 名前を呼べば、猫の姿で周囲の警戒を続けていたパンドラズ・アクターが、すぐさまモモンガの前にやってきた。猫の状態で片膝をつく格好をするのは違和感がすごいからやめてほしいが、今言うことではないので小言は次の機会にする。

 

「まずはお前の見解を聞きたい」

 

 モモンガの言葉に、一瞬の躊躇いを見せた後、パンドラズ・アクターは口を開いた。

 

「……永劫の蛇の指輪(ウロボロス)が使用され、ステータスなるものが表示されるように改変されてから、さらに数千年経過した世界かとも思いましたが……」

 

 そこまで言って目線を伏せ、言い淀む。知恵者として造られたパンドラズ・アクターも、流石に今の状況に戸惑っているようだ。モモンガが黙って続きを待っていると、パンドラズ・アクターは自身の出した結論を口にした。

 

「ここは、我々がいた世界とは異なる世界なのではないかと愚考いたします」

「やはりお前もそう思うか……」

 

 自分だけが突飛な結論を出したわけではなかったことに、モモンガは一先ず胸を撫で下ろした。

 

 永劫の蛇の指輪(ウロボロス)は、二十と呼ばれる強力な使い捨てのワールドアイテムの一つだ。世界を改変することができるそれを使えば、ステータスを表示できるようにすることも可能だろう。しかし、貴重な使い捨てのアイテムをそんなことに使用する理由が不明だ。仮に永劫の蛇の指輪(ウロボロス)が使用されたとしても、創世神話や九つの種族、ナザリックを攻め落としたはずの人間が劣等種と呼ばれるまでに落ちぶれていることについて等、説明ができないことが多すぎる。

 

「これからは、異世界に飛ばされたという前提で話を進めることとする。異論はあるか」

「ございません」

 

 モモンガの宣言に、即座に返答するパンドラズ・アクター。共通認識が確立できたことに、モモンガは満足気に頷く。

 

「よし、ではダガスという街に向かうとしようか」

 

 いつの間にか、木々の隙間から見える空は朱に染まっていた。

 

 あ、と思い出したようにモモンガは声を上げると、拘束されたドワーフ達を見下ろした。

 

「その前に、もう少し魔法の実験をしてからだな」

 

 森は徐々に夜が支配しつつある。そんな薄暗闇の中、モモンガの紅い瞳がぼんやりと輝いていた。

 

 

 ◆◇◆

 

 

 ゴウズは猿轡を噛み締めながら、ガタガタと全身を震わせていた。

 

 カモだと思って近づいたガキは、唯一レベル二百を超えていたリーダーを瞬殺できる魔術師だった。人種(ヒューマン)は魔法の適性が基本的に低い。そんな劣等種の魔術師が自分達よりも強いはずない、何かカラクリがあるに決まっている。それさえわかれば逆転できる。そう信じて最初は仲間を鼓舞したが、魔法の力の前では無力だった。

 

 ゴウズ達は縛られ、猿轡を噛まされた状態で横一列に並ばされている。ガキの強さのカラクリはわからないが、これから何が始まるのかはすぐにわかった。自分達は訓練用の藁人形だった。

 

 不気味な赤目のガキが何か唱える度、氷や雷が仲間に飛来する。そうするとその仲間は倒れ、ただの肉塊となるのだ。

 またガキが何かを唱える。今度は炎で形作られた球体がゴウズの二つ隣の仲間に飛んでいき、くぐもった悲鳴が上がる。肉の焦げる嫌な臭いがし、ドワーフの丸焼きができあがった。

 

「弱いな……難度十にも満たないくらいか」

「そのようですね。二百近いレベルでこれですと、レベル百以下の者は第一位階の魔法でも死亡する可能性がございます」

「そうだな。相手を殺さずに無力化する方法も考えておいたほうがいいな」

 

 ガキと言葉を話す猫が、意味不明なやりとりをしている。

 

 わからない。何もわからなかった。

 このガキ共が何なのか。何故こんな力を持っているのか。何故自分達がこんな目にあっているのか。

 ただ一つわかるのは、自分も仲間達の後を追うのだということだけだ。

 

 視界の端で、焼死体となった仲間に何か黒い何かが纏わりついていくのが見えた。やがて全身が黒いものに覆われたかと思うと、それは漆黒の『死』に変わった。

 

「よかった。この世界でも死の騎士(デス・ナイト)は作れるみたいだ」

 

 ナイト……たしかに騎士と言われればそのような気がする。黒い全身鎧姿の二メートルを超える巨体に、その身体に見合う大きさの盾とフランベルジュ。まさしくそれは、生者を憎み死を撒き散らす騎士だった。

 

 死の騎士は、恐ろしいなんて言葉ではとても表し切れない咆哮をあげ、ゴウズの隣にいた男を斬りつけた。悲鳴も上げられずに首を半分以上切断された男は、何故か倒れることなくそのまま立っていた。まさか生きているのかとも思ったが、落ちかかった頭、その目は生者を憎む赤い光が宿っていた。

 

従者の動死体(スクワイア・ゾンビ)も問題なく生まれていますね」

「そうだな。次は……」

 

 ゆっくりと、赤い瞳が自分に向けられる。

 

 (いやだ、あんなのはいやだ!)

 

 化け物に変えられ、死後も魂と肉体を弄ばれるなんてごめんだ。一か八か、ゴウズが逃げ出そうと身体を反転させた、そのとき。

 

「絶望のオーラⅠ」

 

 ガキの声が聞こえ、それと同時にゴウズは地面にひっくり返った。

 

「むぐぅううううう!!」

 

 猿轡を噛み千切らんばかりの力で噛みしめ、絶叫する。股を生温い何かで濡らしながら、ゴウズはその場でのたうち回った。

 

「うーん……無力化はできるが、これではな」

 

 息絶える直前の虫のようにめちゃくちゃに暴れまわるうちに、猿轡が緩んだようだ。口が自由に動くようになり、喉が潰れるほどに喚き叫ぶ。

 

「た、たす、たすけて! なんでもじまず! ためてきたおがねも、ぜんぶあげます! だからゆるじで、だずげで! だずげで!!」

 

 自分でも何を言っているかわからない。ただひたすらに必死に、大き過ぎる恐怖から逃れようと口を動かした。焦点の定まらない目線を上に向ける。つまらなさそうな顔の子供が、ゴウズを見下ろしていた。

 

「絶望のオーラⅤ」

 

 最期に聞いたのは、そんな短い言葉だった。

 

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