鈴ちゃんキャラチェン 作:キラ
ヤマなしオチなしの短編です。
「イメチェンをしようと思うのよ」
まだまだ夏の暑さが残っている9月のとある夜のこと。
ベッドの上に座っているルームメイトのつぶやきに反応して、私――ティナ・ハミルトンはせんべいをくわえたまま視線を動かした。
「ひめふぇん?」
「そう、イメチェン」
凰鈴音。私と同じ1年2組のクラスメイトで、ここ学生寮でも部屋が同じな、互いに気心の知れた存在。
そんな彼女が、いつになく神妙な面持ちを見せている。
ちょっとばかり真面目な話なのかもと思ったので、床に寝転んでいた体を起こして居住まいを正した。
「ほんなはひへなかほひてほーひたの?」
「真剣に聞いてくれるのはうれしいんだけど、とりあえずそのせんべい飲みこんでからにして」
「ほー?」
口いっぱいのせんべいをかみ砕いて、のどの奥に流しこむ。
うん、これで普通に話せるわね。
「で、そんな真面目な顔してどうしたの?」
「その……実はあたし、ちょっと気になる男の子がいて」
「あー織斑くんね。もっとアプローチかけてみようって話?」
「そうそう……って、あたし一夏だなんて一言も」
「時間の無駄だし照れ隠しのやりとりは省略します」
「なー!?」
『がーん』という効果音がよく似合いそうな顔で叫ぶ鈴。
こっちも9時からドラマ見ないといけないから、できるだけ話は手短にすませたいのである。
「まあいいわ。仮にあたしの気になる男が一夏だとしましょう」
「もうツッコまないわよ」
「ツッコまなくていいからっ。まあ今アンタが言ったように、イメチェンしてもう少し攻めてみようと思うわけよ」
「いいんじゃない? 髪型でも変えるの?」
ツインテールは快活な鈴にバッチリ合っている印象だけど、たまには違うくくり方したのも見てみたいかもしれない。
ところが鈴の考えは違ったらしく、人差し指を左右に振ってチッチッと言い始めた。相変わらずリアクションがでかい。アメリカ生まれの私よりよっぽどアメリカンだ。
「髪はそのままよ。今回あたしが変えるのは、ずばり中身」
「中身って、キャラ変えるの? でもそれしんどくないかしら」
大なり小なり演技で性格を作ることになるわけだし、仮にそれで織斑くんの気を惹けたとしても、継続するには演技を続ける必要があるから大変な気がする。
「そこは大丈夫よ。一度均衡を崩せばあとはなし崩し的に市役所まで行けるはずだから」
胸を張って自信満々に答える鈴。
よく言えばポジティブ、悪く言えば多分先のことまで考えてない。
しかし、現在の織斑一夏争奪戦にやきもきしているのも事実なので、彼女が頑張ろうとしているのなら応援くらいはしてあげようと思う。
「それで、どんな性格にイメチェンするつもり?」
「いろいろ考えたんだけどね。漫画とかラノベ読んで」
「参考にするものおかしくない?」
「大丈夫よ。一夏なんて漫画にしかいないような超鈍感だし」
微妙に納得できる回答が返ってきた。でもそれ言ったら鈴も……これ以上は考えないようにしよう。
というか、何気に今思いっきり織斑くんの名前口にしたわよね。最終的に隠す気ゼロになったわね。
「とりあえず、最初に試してみるのは王道キャラに決めたわ」
そこでいったん言葉を切り、鈴はたっぷりタメを作ってからビシッと人差し指を天に掲げた。
「そう、ツンデレよ!」
ドンッ!! なんて文字が思わず見えるくらい、彼女ははっきり言い切った。
「……はぁ?」
「だからツンデレよ。ティナも知ってるでしょ?」
「……もっかい。はぁ?」
いやいやいやいや。
知ってるわよ。ツンデレよく知ってるわよ。
だってすぐ近くに具体例いるもの。ザ・ツンデレがルームメイトだもの。
「普段はなかなか素直になれないけど、時折見せる素の好意ってやつが男子にはよく効くらしいのよ」
「へ、へえー」
「あたしってちょっと素直すぎるくらいだし、ツンデレ参考にしてみるのがいいと思うのよね」
肝心の恋愛面で全然素直になれてないのになぜそんな風に思えるのだろう。
鈴みたいなのも十分ツンデレの範囲に入ると思うんだけど、私間違ってないわよね。
「ねえ鈴。私的にはツンデレはやめた方がいいような気が」
「え、なんで?」
「なんでって……えと」
「試すくらいいいじゃない。駄目なら変えればいいだけだし」
「……そうね」
「とりあえず、別になんとかなんかじゃないんだからね! って言えばいいんでしょ?」
八重歯をちらりとのぞかせながら、能天気に笑うルームメイトさん。
面と向かって指摘する気にはなれず、結局押し切られてしまった。
まあ、不安7割興味3割で見守ってみようかな。
*
「あ、一夏」
「よう鈴。偶然だな」
早速行動開始した鈴は、織斑くんの部屋付近で待ち伏せしておいて、出てきた彼と偶然の出会いを装うことに成功していた。私はというと、少し離れた物陰で2人の様子を見守っている。
鈴の服には集音マイクがとりつけられており、会話の内容は私にもばっちり聞こえるようになっていた。どうしても後で私と反省会がしたいらしく、マイクはわざわざ買ってきたとのこと。果たしてコンソメポテチ何袋分だったのか。
「そ、そうね。偶然ね。……別にうれしくもないけど」
「どこか行く途中だったのか?」
……今の鈴のセリフ、おそらく後半はツンデレ意識してしゃべったみたい。若干声がぎこちなかったし。
でもごめん。ものすっごく普段のあなたが言いそうなセリフだったわ。そりゃ織斑くんも平気でスル―するわよ。
「え、えーと……その、ジュースでも買おうかなって」
「なんだ、俺と同じか。ひょっとしてコーラ買うつもりだったり」
「う、うん」
「おお、ジュースの種類まで俺と一致か。やっぱり鈴とは気が合うな。相性いいのかも」
「………!」
来た、ツンデレチャンス!
相手からの素直な好意に対して、照れながらつんけんするのがツンデレの王道!
しかし、問題なのは演じるのが鈴であるという点。この状況、あの子なら意識せずとも『べ、別にアンタと相性よくてもうれしくなんてないんだから!』という言葉が飛び出すだろう。
そんな彼女がツンデレを意識した場合、いったいどんなセリフを口にするのか。ツンデレにツンデレを重ねがけしたらどうなるのか。一周まわって素直になったりするんだろうか。
……気になる。
見守るこちらとしても緊張に汗を垂らす中、うつむいていた鈴はばっと顔を上げ――
「べ、別に別にアンタと相性よくてもうれしくなんてないんだからなんてないんだから!」
そのまんま重ねてきたー!?
「へ?」
目を点にする織斑くん。当然の反応だと思う。事情知ってる私ですら困惑してるもの。
ひねりにひねってわけわかんなくなっちゃったのね。ひとりで声にエコーかけてるみたいになってるし。なんか声が遅れて聞こえてきてるみたいになってるし。
「だから、べつべつにアンタと相性よくてもうれしくなんてないんだからなんてないくなななななーい?」
言えてないじゃん!
必死の形相なところ悪いけど、全然駄目だと思います。
2回目ですでに噛んでるし、しかもなんで最後ちょっとリズムよくなったのかすごく気になる。
「もうめちゃくちゃね……」
ツンデレうんぬんの問題ではない。
まだ鈴にはキャラ作りというものは早かったのだと思うことにしよう。
……なんて考えていると、右耳に入れたイヤホンから会話の続きが聞こえてきた。
「だから、えと、ベッツに」
「なんかよくわからないけど、俺は鈴と相性いいならうれしいけどなあ」
あ、鈴の顔が真っ赤になった。
*
30分後。
自室に戻った私達は、それぞれのベッドの上に腰を下ろしていたのだが。
「えへへ~」
「………」
「俺は鈴と相性いいならうれしいけど、だって。いや、わかってるのよ? あいつは誰にでもそういうこと言っちゃうやつだって。でもねー、ふ、ふっふっふ」
「鈴。気持ち悪い」
この子、織斑くんがらみでいいことがあるといつもこうなのよね。
その気色の悪い笑い方だけはやめなさいって言ってるのに聞いてくれないし。多分無意識に笑ってるからだと思うけど。
でも、緩みきった表情が可愛らしくはあるから困る。
「というか、部屋に戻ったら反省会するんじゃなかった? もう9時になるからテレビ見たいんだけど」
「そーねー。もうちょっと落ち着いてからにしよっか。ティナはドラマ見てていいわよ」
「はいはい」
こてんと横になって枕を抱きしめる鈴。
その情熱の1割でも織斑くんの前で出せれば、もっと楽になれるのに。
その不器用さが鈴らしいといえばそうなんだけどね。
「ティナー」
「なに?」
「今度はどんなキャラで攻めればいいのかしら」
「そうねえ」
テレビのリモコンを探しながら、鈴の質問への答えを考える。
といっても、私はどちらかといえば演技反対派だし、返せる言葉といえばこれくらいしかないかな。
「この際、素直系幼なじみでいいんじゃない?」
続きはあるのかもしれない。ないのかもしれない。
一応クーデレ編とヤンデレ編のネタは考えてあります。ちゃんと形になったら投稿します。
多分その時もティナさんがツッコミ頑張ります。
息抜き感覚ではありますが、久しぶりに鈴がメインの作品を書きました。正規のツンデレとは若干異なる部分もありますが、彼女もやっぱりツンデレだと僕は思います。鈴ちゃんなう。
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