鈴ちゃんキャラチェン   作:キラ

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クーデレと素直クール

 ツンデレにツンデレを重ねがけすると意味不明になることが証明されてから数日後。

 

「というわけで、第2回イメチェン会議を開催するわよ!」

「わー。どんどんぱふぱふー」

「……無表情抑揚なしで言われるとめっちゃテンション下がるんだけど」

 

 芋けんぴの袋を漁りながら反応してあげたのに文句を言われた。面倒だから次はクラッカーでも用意しておこうかしら。うん、それなら盛り上がりそうね。

 

「だって今日の授業疲れたし。そういう日の夜はテンション抑え目になるものでしょう」

「疲れたって、1時間体育があったくらいで? 若いんだからそんなこと言うんじゃないわよ」

「その体育のバスケであなたに引っ張りまわされたのが原因でしょーが」

「あうっ」

 

 軽く鈴の頭に手刀を入れて反省を促す。

 今日のバスケ、5人1組で鈴と同じチームだったのだが、これがまた大変だった。

 縦横無尽にコートを駆けまわる彼女。しかし当然ひとりではゴールまでたどり着けないので、パスする相手が必要になる。

 他3人がディフェンスしかしなかったせいで私は鈴と一緒に前線に立つ羽目になり、毎度毎度ギリギリのところに飛んでくるパスにひたすら応え続けなければならなかったのである。

 手を抜けとは言わないけれど、もう少しチームメイトの体力に気を遣ってプレーしてほしかった。

 

「ごめんごめん。つい熱が入りすぎちゃって。次から気をつけるから」

「頼んだわよ。じゃあおやすみなさい」

「うん、おやすみ」

 

 もぞもぞとベッドに潜りこむ。

 

「って、ちょっと待ちなさい。イメチェン会議は? どんどんぱふぱふした意味は?」

 

 掛け布団をめくられる。残念、ごまかしきれなかったか。

 

「明日に備えてもう寝るわ」

「まだ8時なのに?」

「たまにはそういう日があってもいいじゃない。体が休息を求めてるのよ」

 

 食い下がる鈴をあしらいながら、もう一度布団をかぶる。

 話に付き合ってあげるのは明日でもいいはずよね。

 

「そう。なら仕方ないけど……食べてすぐ寝ると太るわよ?」

「さ、イメチェン会議始めましょうか」

「切り替え早っ!?」

 

 危ない危ない。私としたことがそんなことも失念していたなんて。

 1日くらいなら大丈夫かもしれないが、注意しておいた方がいいに決まっている。

 

「ティナの場合、間食減らすのが先だと思うんだけど」

「ストレス溜まるから無理」

「試したことあるの?」

「ええ。3日で世界のあらゆる不条理を憎むようになったわ」

「スケールでかいわね」

 

 呆れたような口調で感想を漏らす鈴。

 私はベッドから出て、テーブルのそばに腰を下ろした。

 

「それで、今日はどんなキャラを演じるつもりなの?」

「ふふん、よくぞ聞いてくれたわね」

 

 待ってましたとばかりに鈴は立ち上がり、ツインテールを元気に揺らしながら高らかに議題を宣言した。

 

「今回挑戦するのはクーデレよ」

「クーデレね。まあツンデレの後としては妥当なところかしら」

 

 クーデレとは、クール+デレを表す萌え属性のひとつ。

 普段はクールだけど特定条件下ではデレデレするとか、まあそんな感じだ。

 ツンデレと同じく、普段の様子とデレている時の様子とのギャップに萌える属性である。

 

「すました顔で大胆な発言するのとかいいわよね。あたし漫画で出てくるそういうキャラ好き」

「鈴の言うそれは正確にはクーデレと区別されるらしいけどね」

「え、そうなの?」

 

 きょとんと首をかしげる彼女に説明を加える。

 

「ストレートに恋愛感情を表現するのは素直クールと言われるらしいわ。いわゆるデレの要素が薄いから。でも区別が曖昧だから、普通にクーデレの範囲に入れるって意見も多いけど」

「なるほど、確かに違うといえば違うわね。……というか、アンタ詳しいわね」

「どやっ」

 

 とりあえず胸を張って威張っておいた。詳しすぎると引かれる分野だから、あんまり素直に喜べないけど。

 

「……というか、アンタ最近胸大きくなった?」

「どやあっ!」

 

 今度は素直に喜んだ。

 その後しばらく『よこせよこせ胸よこせ』の呪詛の言葉を聞き流しつつ、クーデレおよび素直クールについて解説した。

 

「というわけで、今日はどのタイプを試してみる?」

「そうね……ギャップ萌え重視でいこうかしら。要所要所でデレていくスタイルで」

 

 ぐっと両拳を握って気合いを入れる鈴。

 

「あんまり力入れすぎるとよくないわよ、あなたの場合」

「わかってるって」

 

 ……本当かしら。

 

 

 

 

 

 

 今回も私は背後で様子をうかがう役回り。

 

「お、鈴じゃないか」

「……ええ。こんばんは」

 

 部屋から出てきた織斑くんにあいさつする鈴。この時点であっちは若干違和感を覚えているっぽい。

 それも当然よね。クール系なんて普段の鈴からもっともかけ離れた性格だし。幼なじみの彼からしたら変だと思うに違いない。

 

「ひょっとして、今日もジュースか」

「……ええ」

「俺もだ。じゃあ一緒に行くか」

 

 こくりと無表情でうなずく鈴を見て、織斑くんは廊下を歩きだした。自動販売機のある場所まで向かうつもりなのだろう。

 

「わりと演技できてるわね」

 

 二言しか話してないけど、雰囲気は出せているような気がする。

 このままいけば、織斑くんに新しい鈴を見せることができるかもしれない。

 

「そういえば、お前にこの前ポカリおごってもらったの返してなかったよな。今日なんかおごろうか」

「……別に」

「そ、そうか」

 

 2人が移動し始めたので私もこっそり後を追う。

 スニーキングミッションみたいでちょっと楽しいかもしれない。

 

「今夜はちょっと冷えるな。ようやく秋到来って感じだ」

「……別に」

「そ、そうか? まだ夏かな、ははは」

 

 ……ちょっと待って。雲行きが怪しい。

 

「なあ、なんかあったのか? 元気ないみたいだけど」

「……別に」

 

 あ、わかった。

 この子、『別に』以外のセリフ思いついてないわ。

 

「本当か? 熱とかないのか」

「……別に」

 

 これクール通り越して冷たすぎると思うんだけど。ずっと下向いたまま『別に』だけとかイメージ絶対悪いよ。

 というかただの根暗だよ!

 

「……鈴」

 

 訝しげに鈴の顔を見ていた織斑くんは、ふと足を止めると彼女の名前を呼んだ。

 

「困ったこととかあったら、いつでも俺に相談しろよ。幼なじみとして、できるだけ力になりたいと思ってるから」

「………っ!」

 

 どうやら鈴の反応を何か悩みがあるためと判断したらしい。

 でも、これはデレを見せる格好のチャンスね。さあ鈴、ここでギャップ萌えを演出できれば――

 

 

「べ、別にそんなこと言われてもうれしくなんてないんだからね!」

 

 あんたはそれしかデレのレパートリーがないんかい!

 

 

 

 

 

 

「やっぱり鈴には演技向いてないわね。意識しすぎ」

「そ、そんなこと……あるかも、だけど。でも練習すればなんとか」

「どーだかねー」

 

 部屋に戻った私達は、通算2度目の反省会を行っていた。

 じとーっと鈴を睨みつけると、苦い表情を浮かべながらそっぽを向かれてしまう。

 

「そ、そうだ。じゃあ今度はティナがやってみなさいよ。参考にするから」

「はあ? なんで私が」

「だって、比較対象がいないとあたしが本当に下手なのかどうかわからないし」

 

 いや比較するまでもないと思うんだけど。

 それでも鈴は納得がいかないらしく、さらに条件を出してきた。

 

「ね? 今度ケーキでもおごるから」

「明日にでも実行するわ」

「相変わらず切り替え早いわね……」

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。

 

「織斑くん。ちょっといいかしら」

「え、俺?」

 

 廊下を歩いていた織斑くんに背後から声をかけ、足を止めさせる。

 鈴が彼を部屋に連れてきた時に顔を合わせてはいるものの、私の方から話しかけるのはこれが初めてだ。

 

「えっと……ハミルトンさんだよな。鈴のルームメイトの」

「ええ。突然だけど、少し頼まれてくれないかしら。先生に資料室から荷物を運ぶよう頼まれたのだけれど、ひとりでは無理そうなの」

「それで俺に?」

「荷物には1組が使う分も入っているそうだし、力仕事は男子に頼んだ方がいいと思ったの」

「そうか。なら手伝うよ」

 

 あっさり快諾してくれた。モテる男の秘訣のひとつね。

 

「こっちよ。ついて来て」

 

 正直演技とか自信ないんだけど、うまくやれてるかしら。とりあえず織斑くんは不審がっていないようだけれど。

 

「ハミルトンさんと2人きりで話すのって、初めてだな」

「そうね」

「夜とか、鈴が迷惑かけてないか? あいついつも元気だから」

「たまに振り回される時はあるけれど、こちらが助けられることもあるからおあいこかしら。基本的に一緒にいると楽しいわ」

「それはよかった」

 

 資料室へ続く道を歩いていると、同級生達の視線が集まっているような気がした。

 私と織斑くんという珍しい組み合わせに驚いているのか、あるいは彼という存在がいつもこのくらいの注目をされているのか。どちらにせよ、なんだか恥ずかしい。

 

「そんなこと聞いてくるなんて、まるであの子の保護者のようね」

「ん? まあ、あいつは見守ってないとなんか不安だしな。妹みたいなものなのかも」

 

 うわー、これ鈴に脈あるのかしら。それなりに応援してる身からしたら不安になってくるんだけど。

 

「でも、IS学園で久しぶりに会ったら結構女の子らしくなっててびっくりしたよ」

「……セーフ」

「ん、何か言ったか?」

「いいえ、何も」

 

 まだ希望はあるようで一安心。頑張れ鈴。

 心の中でエールを送ったところで、ちょうど資料室の前までたどり着いた。

 

「この段ボールね。2つあるから、片方をお願い」

「ああ。……こっちの方が重いな。ハミルトンさんはそっちを頼む」

「あら、意外と気配りできるのね」

 

 ちょっと微笑む感じで表情を作る。こんな上品な笑い方、普段は絶対しない。

 

「このくらい当然だ。じゃ、早いところ運んじゃおうぜ」

「ええ」

 

 織斑くんも微笑み返してくれた。やっぱりイケメンね。

 

「2組の教室まで運んでくれたらいいから」

「了解」

 

 その後も静かな口調を心がけつつ、織斑くんといくつか言葉を交わした。

 疲れたけど、久しぶりに男の子と話せたので楽しかった。

 

「ここに置けばいいか?」

「そうね。そのあたりがよさそう」

 

 教室に入り、教卓の横に段ボール2箱を置く。

 そしてそのまま、回れ右をして再び廊下へ出た。

 

「ありがとう。助かったわ」

「どういたしまして。じゃあ、また」

 

 1組の教室に戻ろうと背を向ける織斑くん。

 

「……待って」

 

 その後ろ姿を呼び止め、もう少しだけ会話を継続させる。

 

「なに?」

「いえ、たいしたことではないのだけれど……また、お話ししましょう」

「え?」

「あなたとの会話、楽しかったから。またね」

 

 最後ににっこり笑って、私は早足で教室に戻った。

 演技を続けるのがしんどくなってきたからだ。

 

「織斑くん、ちょっと照れてた?」

 

 去り際に映った彼の顔は、少しだけ赤くなっているような気がした。

 ……まあ、特に悪いところもなかったし上出来かな。これなら鈴の参考にもなるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 5分後。

 

「なんであんなに演技うまいのよアンタは!」

「まさかの逆ギレ!?」

 

 なぜかプンプン怒っている鈴。

 せっかく人が頑張ってあげたというのに……。

 

「あのくらい頑張ればできない?」

「できないわよ! 誰よあの金髪碧眼の淑女、あたしのティナはどこ行ったの?」

「いつから私は鈴の所有物になったのよ」

 

 そんなにうまかったかしら。ケーキにつられて必要以上に努力した感じは確かにあるけど。

 

「こうなったら弟子入りするしかないわね。これからティナのことは師匠と呼ぶことにするわ」

「やめてよ恥ずかしい」

「じゃあマスター?」

「余計恥ずかしい」

「東方不敗!」

「一気にジャンプアップしすぎ」

 

 私アメリカン。アジアじゃないの。

 

「それはそうと、きちんとケーキはおごってくれるんでしょうね」

「ちゃんと覚えてるから安心していいわよ」

「そ。じゃあ駅前の店で一番高いやつを3つほど――」

「いやしんぼ」

「代表候補生って儲かるんでしょう? たまには景気よく頼むわね」

 

 どの道これからもイメチェン会議に付き合うことになるだろうし、料金前払いってことで。

 




このままだとティナさんが過労死しそうです。
多分ハーメルンで最も彼女の出番の比率が多い作品になりそうです。

最近素直クールのヒロインの魅力にはまりかけています。ツンデレもいいんですけどね。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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