鈴ちゃんキャラチェン 作:キラ
「師匠助けて」
「そのネタまだ続いてたんだ」
「あたしにとってはネタじゃないの! 本気で参考にしたいと思ってるんだから」
いつの間にか暑さも去り、涼しさを感じるようになってきた秋の夜。
私達の部屋を会場として、再び例の会議が始まりそうになっていた。
「イメチェン会議、記念すべき第3回を開催するわよ」
「わー」
パーン。
「……なにこれ」
「クラッカー。盛り上がるかと思って鈴のために用意してあげたの」
「自分のテンションが上がらないからって道具に頼り始めたか」
前回思いついて100均で購入しておいたのが活きたわね。
もちろんテープが床に散らない、片付けに困らないタイプのやつである。
「あと4本あるから喜んで」
「いや別にいらないから」
「私をクラッカーだと思って頑張ってね。それじゃおやすみ」
「別に盛り上げ要員が欲しいわけじゃないの! あと逆! アンタをクラッカーだと思ってどうすんのよ」
ベッドに向かう私の服の袖を引っ張る鈴。結構必死の形相だった。
まだ8時半だし、もともと寝るつもりもなかったんだけど。
「なんとかしてよティナえも~ん」
「しょうがないなあ鈴ちゃんは……なんて言わないわよ。キテレツくん見習って自分で発明しなさい」
「……前々から思ってたんだけど、アンタ日本のアニメに詳しくない?」
「兄さんがオタクで、私も小さい頃からDVD見せられてたから」
「へえ、そうなんだ」
ここだけの話、日本語もそれで覚えたし。
「まあいいわ。手伝ってあげる」
「本当!? ありがとう」
一通りからかい終えたので話を聞いてあげることにした。
私だって鬼じゃない。友達の恋をサポートしたいという気持ちくらいはちゃんとある。
「じゃあ早速本題に入るけど……これまでいろいろ頑張ってきたにもかかわらず、あたしはイメチェンによってまともな成果を得られなかったわ」
「まだ2回しかやってない気がするんだけど」
「そこで考えたのよ」
ツッコんでみるも、大真面目に語る鈴には聞こえていないようだった。
「これはもう、禁断の技を使うしかないんじゃないかって」
「禁断の技?」
「そう。これはある意味闇の力よ」
大げさにうなずいてから、鈴は右拳を握りしめて宣言する。
「ヤンデレ。これしかないわ」
「あー、確かに闇ね」
ヤンデレ。
ツンデレやクーデレと言葉の響きは似ているが、ジャンルとしてはまったく違う。
好きな人を想うあまりの愛情の暴走が原因で、異常な執着や独占欲を見せるようになる萌え属性。場合によっては邪魔者の排除とか言って傷害沙汰になる。
「ヤンデレなあたしを見せれば、一夏の心もドキドキしてくれるかもしれないでしょ?」
「………」
想像してみる。
つまりあれよね。織斑くんを部屋に監禁とかしちゃうわけよね。で、逆らおうものなら暴力に訴えてでも――
「確かにドキドキね。心臓ばくばく言うでしょうね」
ISの専用機持ちとか、暴力の度合いがシャレにならない可能性がある。
ある意味末恐ろしいヤンデレが誕生してしまうかもしれない。織斑くんがストレスで禿げてしまう危険すらある。
「鈴。ひとつ忠告があるわ」
「え、なによ」
「わかっていると思うけれど、ヤンデレというのは諸刃の剣。あまりやりすぎるとドン引きされるだけで終わるから、程度は控えめにすること」
「なるほど。胸に刻んでおくわ」
神妙な面持ちで返事をする鈴。控えめなアプローチの仕方でも考えているのだろうか。
とにかく、これで河童頭の織斑くんは見ずに済みそうだ。
「それともうひとつ。3回目なんだし、そろそろ見た目にも気を配ってみたらどうかしら」
「見た目?」
「うん。たとえば髪おろしてみるとか」
「髪をおろすとヤンデレっぽいの?」
「ストレート自体がヤンデレっぽいわけじゃないのよ。ただ、普段元気そうなツインテールがなくなってストレートになることに意味があるの」
「そういうこと。さすが師匠」
私は何を真面目に語っているのだろう、と思わなくもないが、今日は最後までこの子につき合おう。
「よし! 早速一夏の部屋に突撃するわ」
「くれぐれも気合い入れすぎないように。これ言うの2回目よ?」
「わ、わかってるわよ」
しかし、織斑くんの部屋に入るんじゃ覗き見はできないか。
今回は声だけ聞けってことかしら……なんて考えていると、立ち上がった鈴が机の上のパソコンをいじり始めた。
「何してるの?」
「カメラの映像が映るようにね」
答えながら左手に掲げているのは、何やら小さな黒い物体。
「超小型カメラらしいわ」
「それ、まさかわざわざ買ったの?」
「ううん。1組の布仏さんに貸してもらっただけ」
「え」
布仏さんって、あのほわほわした子よね。
なんであの子がそんなもの持ってるの?
「準備完了。それじゃ行ってくるから、ちゃんと見守っておきなさいよ」
同級生に対する印象がぐらぐら揺れている私を置き去りにして、鈴は部屋を出ていってしまった。
「……人ってわからないものよね」
切り替えよう、うん。
冷蔵庫の中の羊羹を引っ張り出し、私はパソコンの前の椅子に腰を下ろした。
「あ、映った」
しばらく待っていると、画面に鈴と織斑くんの姿が映し出された。テーブルを挟んで向き合って座っている。
音はいつものマイクで拾うそうなので、イヤホンを耳につける。
……完全なる盗撮盗聴だけど、ちょっとの間だけだからいいわよね。
というか、外観だけならこんなことしている私の方がよっぽどヤンデレなような。
『なんか用か?』
『別に、用がなくても来ていいでしょ?』
『ああ、それはそうだけど』
細かいことは気にせず、野次馬に徹することに。
さて、今回は少しくらいは手ごたえをつかんでほしい。
『いつもと髪型が違うな』
『うん、ちょっとね。似合う?』
『そうだな。似合ってると思うぞ』
『……どのくらい?』
声のトーンを落としながら、ずずっと織斑くんに近寄る鈴。
おお、ちょっと雰囲気出てるかも。
『どのくらい? ラウラよりも似合ってる?』
『え? うーん、いきなり聞かれても』
『ねえ、どうなの? あたしとラウラ、どっちがいい? ねえ、ねえ』
『ま、待て待て。なんか今日のお前、変じゃないか』
『変? 変って何が?』
意外と様になってるわね……少なくともクーデレよりはずっと演技できている。
練習したのか、それとも鈴自身の適性がそっちにあるのか。
『ねえ一夏。ちゃんと答えて? じゃないと――』
鈴がすっと目を細め、身を乗り出す。
戸惑っている織斑くんにどんな先制パンチを浴びせるのか――
『本棚のノートの配置ばらばらにするから』
しょぼっ!
「誰がそんなところ控えめにしろって言ったのよ!?」
思わず画面に向かってツッコミを入れてしまった。
なんで雰囲気ばっちりにしといてそんな子供のいたずらレベルの脅しになるのよ。控えめすぎてわけわかんないことになってるんだけど。
『それか、監禁して2時間一緒にマリカ漬けだから』
可愛いよ! それもう一緒にゲームやりたいだけじゃん!
『……はは、なんだそりゃ。遊びたいなら遊びたいって素直に言えよな』
ほら、織斑くんも完全に勘違いしちゃってるし。やんちゃな妹を見る目になってるよ。
のんきにテーブルの上のポッキー食べながらしゃべってるよ。
『そ、そうじゃなくて!』
まずい、鈴がテンパり始めた。
もともとアドリブがきかない子だから、こうなると支離滅裂なことを言ってしまう危険性が非常に高い。
『だ、誰にも渡さないんだから……!』
『ん? なんだ、このポッキー欲しいのか。ほら、残りやるよ』
なんか無駄に会話つながった! お菓子に執着してる女の子みたいになってるけど。というかそれただの食い意地が張っただけの子だよね。
『あ、ありがと』
『どういたしまして。なんか様子が変だと思ったけど、やっぱり鈴は鈴だな』
お礼を言う鈴に対して、織斑くんは笑いながら……なんと彼女の頭を軽くなでた。
自然な動作であれができるとは、さすがモテる男は違うわね。
『んにゃっ!? な、何すんのよ』
『あ、悪い。嫌だったか』
『い、嫌じゃないけど……ふにゃあ』
頭なでられて脱力したらしい鈴は、だらしない顔してなんかにゃーにゃー言っていた。
これじゃヤンデレじゃなくてニャンデレね。新たな境地に達してしまってるわね。
「ま、本人喜んでるみたいだからいいか」
おそらく、ここからは演技も忘れて彼との会話を楽しむだろう。
今日のところは、それでいいんじゃないかしら。
「……甘いわねー」
羊羹を口に運びながら、私はしばらく談笑する2人を眺めていた。
日々演技を磨く鈴ちゃん。
日々ツッコミを磨くティナさん。
今日もIS学園は平和です。
感想等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。