鈴ちゃんキャラチェン   作:キラ

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思った以上の反応がいただけて喜んでいます。
今回も小ネタにお付き合いいただけるとうれしいです。


姉の力は無限大

 怒りとは、人間の感情の主要なもののひとつである。

 殴られて痛い思いをした。馬鹿にされて傷ついた。授業で盛大に失敗した。物事が思い通りに進まない。

 そういった様々なことが引き金となって、人は怒る。

 怒りは時としてマイナスイメージをもって語られ、キリスト教では七つの大罪のひとつとして『憤怒』が挙げられている。

 が、それは決して悪い面だけを持つわけではない。怒りはパワーの源、原動力となりえるからだ。

 なにくそという気持ちが努力へ変換されることもある。場合によっては限界を超えた力を生み出すこともある。

 漫画でも、怒りによる覚醒とかはたくさん例がある。激しい怒りによって金髪の不良に目覚めるキャラもいる。

 つまり、怒りはうまく利用すれば思わぬ役に立つ可能性を秘めているのである。

 

「ぐぬぬぬ……!」

 

 さて。なぜ私がこのようなモノローグを語っているのかというと、さっきから相方が部屋でずっと不機嫌な顔をしているからだ。

 放課後、部屋に戻ってくるなり荷物をベッドに放り投げてからのこれなので、おそらく学園の方で何かあったのだと思われる。

 

「どうしたの、そんなに唸って。ポテチでも食べる?」

「ぎりぎりぎり……」

 

 今度は歯ぎしりし始めた。コンソメじゃなくてうすしおがご所望だったのかしら。

 

「ねえ鈴」

「……なに」

「おこなの?」

「ええ、ええ。そうね、おこね。おこおこね」

 

 ちょっと前に流行った言い回しで尋ねてみると、鈴は声を震わせながら引きつった笑みを浮かべた。それを見て私は、彼女の怒りが『おこ』だの『激おこぷんぷん丸』だのの可愛らしい表現には似つかわしくない代物だと判断した。

 あえて名前をつけるなら、単なる『怒』である。純度100パーセント、添加物なし。

 

「理由、聞いてもいい?」

「……一夏が、女の子を追っかけまわしてるのよ」

 

 拳を握りしめて彼女が語るには、最近織斑くんが4組の更識簪さんにご執心とのこと。今度行われる専用機持ちによるタッグマッチのパートナーにも、その子を選ぶつもりらしい。

 

「へえ。あの織斑くんがね」

「絶対今度の試合で後悔させてやるんだから!」

 

 更識さんか。生徒会長の妹だけど、私も詳しいことはあまり知らない。4組の子の話によれば、あまり他人とコミュニケーションをとるのが好きではないらしい。

 そんな彼女にいきなり織斑くんが接近したとなると、何かしら事情がありそうなものだけれど……やんわり説明したところで今の鈴は聞く耳持たなそうね。

 

「ストレスはお肌によくないわよ」

「知らないわよ」

「自分なりのストレス解消法とかないの? 人の手が必要なら手伝ってあげてもいいけど」

「むしゃくしゃした時は何かを殴ったり蹴ったりするのが好きだけど、力になってくれるの?」

「オーケー。他の案でいきましょう」

 

 凶暴な笑みに曝されてビビる私。今のところ痛みに快感を覚えるという性癖には目覚めていない。

 

「そうだ。ティナ、あたしいいこと思いついたわ」

「な、なにかしら」

「イメチェンよ。今日から暴力系ヒロインに趣旨替えするわ。これで毎日好きな男の子を殴り放題じゃないうふふ」

「それただのイジメ」

 

 甘い物食べるだけでストレスフリーになる私って、実はすごく楽な生き物なのかもしれない。

 とりあえず、これ以上ルームメイトがダークサイドに堕ちないようにフォローしなければ。

 

「イメチェンするにしても、もう少し別のやり方があると思うの」

「なによそれ」

「怒りの発散方法にも変化球が必要ってこと。今回はお姉さんキャラでいきましょう」

「お姉さんキャラぁ?」

「ほら、そんなインネンつけるような態度とらないの。私は鈴の味方よ?」

 

 笑って懐柔を試みると、鈴も少しだけ落ち着いてくれた。

 

「具体的にお姉さんキャラって何するのよ。弟をこき使って偉そうにしてればいいの?」

「どこぞの童話の意地悪な姉みたいなキャラ付けじゃないわ。……そうね、たとえば勉強を優しく教えてあげるとかいいんじゃないかしら」

「はあ。まあそれはわかるけど、ストレス発散が関係ないような」

「よく考えてみて。お姉さんになって弟くんを柔らかく包みこむような感じにすれば、あなたは織斑くんより上の立場になれるのよ?」

「上の立場?」

「そう。『もうお姉ちゃんなしじゃいられないよ』という風にしちゃえば、少しは怒りも収まるんじゃない?」

 

 ハッとした様子の鈴は、私の言葉に感銘を受けたように何度もうなずく。

 

「なるほど……確かに、一夏より優位に立つっていうのは魅力的ね。ティナ、アンタ天才だわ。なでなでしてあげる」

「私のお姉さんになってどうするのよ。でも、そうやってニコニコしながらスキンシップをはかる感じでいいからね」

「よし! 待ってなさいよ一夏、お姉ちゃんが骨抜きにしてやるんだから!」

 

 バッチリやる気を出した彼女は、早速いつもの準備を始めた。

 もはや視聴者が私限定の『演じてみた』企画みたいになっているけど、見てる分にはそこそこ楽しめるので文句はない。

 頑張れ鈴。ポテチ食べながら応援してあげる。

 

 

 

 

 

 

『鈴か。どうしたんだ? ……ひょっとして、まだ怒ってるのか』

『ううん、そういうことじゃないから安心していいわ。ちょっとお勉強でも見てあげようと思って』

『べ、勉強?』

『そう、お勉強。わからないところ、あるんじゃない?』

『ああ、教えてもらえるなら助かるけど。ところでお前、なんで眼鏡かけてるんだ? 視力悪かったっけ』

『気分よ、気分。度は入ってないから』

 

 ふむ、ファーストコンタクトは良好ね。

 柔和な笑顔で織斑くんの部屋を訪ねた鈴は、特にトラブルもなく彼に勉強を教えるところまでこぎ着けることに成功していた。

 

『今日習ったところと……あと、数学でもわかんないまま放置してる問題があるんだ』

『じゃあちゃちゃっと片付けちゃおうか。お姉ちゃんのお話ちゃんと聞いてね』

『お、お姉ちゃん?』

『たまにはこういうのもいいじゃない? ごっこよ、ごっこ』

 

 眼鏡をクイッとしながら優しげに微笑む鈴。

 織斑くんの方も、戸惑いこそあれ拒否するような態度は見受けられない。

 

『ここなんだけど』

『ああ、ここはね――』

 

 そして始まる勉強会。テーブルの前に座って教科書などを広げる織斑くんと、その隣に寄り添うように腰を下ろして指導する鈴。

 勉強を教えられるかどうかに関しては心配していない。鈴は頭いいから。

 

「改めて考えると、あの子って文武両道のお手本よね」

 

 代表候補生になれるだけの知識と、体育で暴れられる運動神経を兼ね備えている。

 なのに私生活は隙だらけというギャップが魅力のひとつなのかも。

 そんなことを私が考えているうちに、カメラからPCに送られてくる映像の中ではまた事態が進展していた。

 

『な、なあ。ちょっと近づきすぎじゃないか』

『ええ? だってこうやってくっつかないとプリントが見えないよ?』

『そ、そうかもしれないけどさ』

『あ、ひょっとして照れてる? お姉ちゃんにくっつかれて、興奮しちゃった? ふふ、かわいいんだー』

 

 つんつんと織斑くんの頬を指でつつく鈴お姉ちゃん。とても幸せそうな顔をしている。

 ……というか、これまでの失敗続きからは想像できないほど演技が自然なのはなぜ?

 まさか、怒りのパワーがあの子の未知なる演技力を目覚めさせたとでもいうのかしら。織斑くんをぎゃふんと言わせたいという強い思いが覚醒を促したとか。

 今日がNEW凰鈴音誕生の記念日になるの?

 

『う……なぜか逆らえない』

『つんつん、つんつん。ほら、この問題はこうやって解くのよ』

『……ありがとう、お姉ちゃん』

『うんうん。頑張れ、弟くん』

 

 ボディータッチを受け入れ、織斑くんは素直にシャーペンを動かしていく。お姉ちゃん呼びは半分やけになってのものだろう。

 顔が赤くなっていることから判断するなら、鈴という女の子を間違いなく意識している。

 いい感じだ。この調子でもうちょっとだけ攻めれば――

 

 コン、コン。

 

「このタイミングで来客? 運が悪いわね」

 

 誰が来たのかしら。篠ノ之さん? セシリア? それとも……

 

『失礼する』

『ああ、織斑先生』

 

 あ、モノホンのお姉ちゃん来ちゃった。

 鈴も嫌な予感がしたのか、ピシリとその身を硬直させる。

 

『久本先生から果物をいただいたのだが、少し量が多くてな。お前にも分けておこうと考えた』

『お、うまそうなリンゴ。ありがとう千冬姉……じゃなくて、ありがとうございます織斑先生』

『今のはセーフにしておこう。私は弟におすそ分けをしに来ただけだからな』

 

 からかうように言ってから、織斑先生は視線を鈴の方へと動かした。

 

『ところで、この部屋からお姉ちゃんがどうとか聞こえたのだが』

『あー、それはその、なんか鈴がお姉ちゃんごっこしたいと言い出したから』

『ほう』

 

 正直に答える織斑くん。意味深な相槌をうつ織斑先生。

 

『お姉ちゃん、か』

『え、えっと』

 

 そして、真顔のモノホンお姉ちゃんに萎縮する偽のお姉ちゃん。

 そういえば、鈴は織斑先生苦手だって言ってたわね。

 

『お姉ちゃん、か……ほう、一夏のお姉ちゃんか』

『ひっ』

 

 マイク越しでもわかるくらいの威圧感あふれる声。

 ……ひょっとして先生、嫉妬してる? 自分以外が織斑くんの姉を名乗ったから?

 なんにせよ、怖いです。

 

『ということは、お前は私の妹に当たるわけだな。妹ならば、多少はこき使っても』

『い、いえそんなことないです! あたしお姉ちゃん引退します! お姉ちゃん舐めてました!』

『ふん。そうか』

 

 なぜか勝ち誇った表情の織斑先生。お姉ちゃん舐めるってなに。

 

『では私は失礼する。勉強、しっかり頑張るように』

『あ、はい』

『ごめんなさい調子乗りました』

 

 去る先生。果物もらえて喜ぶ織斑くん。へなへなと力なく倒れこむ元お姉ちゃん。

 

「やっぱり本物は違うわねー……あ、ポテチもうない」

 

 今日の教訓。

 お姉ちゃんは、なんかすごい。

 すごいので、生半可な気持ちでなろうとしてはいけない。

 明日に役立たない豆知識として、頭の片隅に留めておこう。

 




初めていつもの3人以外のキャラが登場しました。まあ姉キャラ回にこの人を出さない理由はないので。
時系列的には原作7巻あたりですが、細かいことは気にしなくて大丈夫です。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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