鈴ちゃんキャラチェン   作:キラ

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たまには逆を狙ってみよう

「髪、染めてみようかな」

「またいつもの思いつき?」

 

 本格的に冷えこみはじめた11月の夜。

 購買で買ったチョコアイスを食べていると、ベッドでごろごろしていた鈴がそんなことをつぶやいた。

 どうでもいいことだけれど、寒い時期に暖房つけた部屋でアイスクリーム食べるって、なんか贅沢している気分で私は好きだ。

 

「なによー、思いつきとは失礼ねー」

「なら、髪を染めることを考えついたのがいつなのか言ってみてよ」

「……30秒前?」

「立派な思いつきね」

 

 むう、と唸りながらもぞもぞと動く鈴。こちらからはお尻しか見えないけど、反論が思いつかなくて困った顔をしていることだろう。

 

「それで、どうして染めようと思ったの?」

「インパクトのあるイメチェンをしたくて。あと、ツインテールには金髪が定番って情報もあるし」

「それってツンデレ限定じゃなかったかしら」

「そうなの? じゃああたし駄目じゃん」

「えっ」

「えっ」

 

 ……そういえばこの子、ツンデレの自覚がなかったんだった。

 自覚あるツンデレというのも変な気がするけど。

 

「それに、本物のブロンド前にしたら見劣りしちゃうと思うけど」

「うーん、やっぱりそうかしら」

 

 日常的に天然の金髪を見かけるこの学園だとなおさらである。織斑くんの近くにもふたりほどいるし。

 鈴もその光景を想像したのか、あっさりと引き下がった。やっぱり完全な思いつきだったらしい。

 

「もういっこ思いついた案があるんだけど」

「どうぞ」

 

 時計回りに180度回転してこっちを向いた彼女は、テレビの前にいる私をじっと見つめながら口を開いた。

 

「今度は高飛車お嬢様キャラとかどう?」

「……身近にいる人ともろ被りしてない?」

 

 あなたあの子と仲良かったわよね。ちょっと前にこの部屋で彼女に料理を教えた結果、私達の生活スペースが爆破された覚えがあるんだけど。

 あの時は本当に驚いたなー。部屋に戻ったらもくもく煙立ってるんだもの。火加減のミスとかそういう次元ではない何かを味わった。

 

「ああ、セシリア? でもあの子は普段から一夏にデレデレじゃない。あたしが考えてるのは、もっとこう『男なんて汚らわしいです!』みたいなやつなのよ」

「……そっか。鈴は途中編入だから知らないのね」

「え?」

「セシリアって、最初はガチガチの男嫌いだったのよ。いつの間にか織斑くんにメロメロになっていたけど」

 

 私は2組だから詳しくは知らないけど、彼女の変わりよう自体は学年全体で噂になった。

 一時期織斑一夏女の子説まで流れる始末だったが、最終的にはセシリアを最速攻略した織斑くんすげえええ、みたいな感じに収まったのだ。

 

「そういえば一夏が言ってたような気がするわ。最初はセシリアに嫌われてたって。あれ、本当だったんだ」

「というわけで、鈴が思うお嬢様キャラを演じても初期のセシリアと丸被りになるのよ」

「ぐぬぬ。セシリアめ、あたしのサクセスロードを……」

 

 本気で悔しがっている様子の鈴。でもそれって本当にサクセスにつながるロードなのかしら。

 

「ねえ師匠。何かいい案ない?」

「だから師匠はやめなさいって」

 

 助けを求められたので、暇つぶしがてら少し考えてみる。

 私の中での最善策はずっと前から決まっているのだけれど、残念ながら鈴にそれを実行することはできないだろう。

 

「そうね……じゃあ今回は、自分と正反対のキャラを演じてみたらどう?」

「正反対?」

 

 なので、つなぎの案としてひとつの作戦を提示することにした。

 

「そ。気分転換にいいんじゃないかしら」

「気分転換って」

「いつもと違った鈴を見せてアピールするのが目的なんでしょう? だったらこのくらい極端でもいいじゃない」

「……それもそうね」

 

 納得したようにうなずく鈴。

 毎度のことだけど、ここから先は彼女自身が頑張ることになる。

 私はそれを見守るだけ。盗撮盗聴で。

 しかし、最近これが楽しみになっている自分がいる。……ひょっとして、趣味悪い?

 

 

 

 

 

 

 自分がどういったキャラなのか。

 それを正確に判断するのは、実は結構難しい。自己分析がうまくできずに苦労する人というのは、どこにでもたくさんいるものである。

 今回私が正反対キャラを演じるように提案したのは、鈴がどれだけ自分の属性を把握しているのかを知りたいと思ったから。……もっとも、先ほどのやり取りでツンデレ属性をわかっていないことは確認済みなんだけど。

 

『こんばんは。一夏』

『……えっと。鈴、だよな?』

 

 そして彼女が出した結論を、私は今目の当たりにしていた。

 

『どうしたんだ? その恰好……』

『え、なんのこと? 変な一夏だね』

 

 トレードマークのツインテールはポニーテールへ。

 しゃべり方もどことなく柔らかい印象に。

 

『うーん、それにしても肩が凝ってしょうがないよー』

 

 悩ましげに肩を揉む鈴。

 それと同時に、胸の部分で2つの球体らしきものがボインボイン揺れていた。

 

「きょ、巨乳……!?」

 

 パッドなんてちゃちなレベルではない。

 服にゴムまりでも突っこんでるのかしら。そしてそんなものどこから調達してきたのかしら。安心の布仏ブランドなのかしら。

 疑問は尽きないが、とりあえず私も織斑くんもうろたえていることに違いはなかった。

 というかアレ、巨乳を通り越して奇乳の域に達しているような……

 

「ポニテ、巨乳、ねえ」

 

 あくまで想像でしかないが、鈴の考えを推測してみる。

 以前あの子は、篠ノ之箒さんとの幼なじみポジションの被りを憂いていた気がする。セカンド幼なじみって微妙じゃない? とか言っていたのを覚えている。

 つまり鈴はこう言いたいのだ。自分のキャラを正反対にしたら篠ノ之さんに近くなるのだから、本来の自分と彼女はまったくキャラ被りしていないのだと。

 そう、自分自身に対して健気に主張している――と考えると、あんな奇怪な偽乳でも応援したくなるのはなぜだろう。

 

『えっと……それで、なんの用なんだ?』

『ちょっとお話ししたいと思って来たんだけど、駄目かな』

『いや、別にいいけど』

『本当? ありがとう』

 

 性格の方は、普段ガツガツ荒っぽくいくタイプなのを自覚しているからこうなっているのだろう。控えめながらもアプローチはしっかり行う。そしてこの柔和な口調。

 多分だけど、なんだかんだ当たりくじを引くことの多いあの子を参考にしているんだと思う。

 

『明日のお昼なんだけど、一夏のぶんのお弁当作ってきていいかな』

『それはいいな。作ってもらえるんなら、喜んで』

『頑張って作るからね。食べたいおかずとかある?』

『そうだな……』

 

 しかし、演技うまくなったわね。最初の頃と比べると雲泥の差だ。

 前回の姉キャラを演じた時に何かをつかんだらしい。

 ただし、それら全部をボインボインの違和感が台無しにしている。

 

『それでね』

『な、なあ鈴』

『なに?』

『これ、なんの遊びなんだ? ツッコんだ方がいいのか』

 

 ピシリと硬直する鈴。

 ああ、ついに言われちゃった。

 本人は一生懸命やっているだけに、遊びと指摘されると少しかわいそうだった。かといって織斑くんに非があるとはちっとも思えないけど。

 世の中、良いと悪いだけでは語れないものなのである。

 

『一夏、いるか? 少し話したいことが』

『あ、箒』

 

 ちょうどそのタイミングで、本物のボインちゃんが乱入してきた。

 

『あ、ああ』

 

 ショックで震える鈴。その拍子に胸からゴムボールが2つ落ちた。

 まるで、本物の前では偽物は輝けないとあざ笑うかのように。……もともと偽乳はまったく輝いてなかったけど。

 

『うわーーん!!』

『なっ』

『お、おい鈴! どこ行くんだよ!』

 

 入口にいた篠ノ之さんを押しのけ、鈴は部屋から走り去ってしまった。

 

「カメラ、未回収なんだけど……」

 

 参ったわね。織斑くんたちに見つからないことを祈るしかない。

 

「……さて」

 

 ここまでずっと、傍観に徹していたわけだけれど。

 これ以上失敗続きを見せられるのは、さすがにこちらとしても精神衛生上よろしくない。

 なにより、あの子がかわいそうだ。

 

「うまくいく保証はないけど、動いてみようかしら」

 

 




突然ですが、次回で最終回です。
もともといつ終わってもおかしくないようなストーリーでしたが、マンネリが来る前に終わらせることにしました。そもそも長続きするようなネタではないので。

感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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