鈴ちゃんキャラチェン 作:キラ
なんとか最終回を書き上げることができました。
元気なく部屋に戻ってきた鈴は、そのままふらふらとベッドに潜りこんでしまった。
かけるべき言葉も見つからなかったので、とりあえず放っておくことを選択。
廊下に出て、私は織斑くんの部屋に向かった。
「恋のキューピッド役とまではいかないけれど」
手の甲でドアを叩くと、部屋の中から彼の返事が聞こえてきた。
「2組のティナ・ハミルトンだけど……今、いいかしら」
「ハミルトンさん?」
ドアを開けた織斑くんは、物珍しそうな顔つきで私を見つめていた。
例のクーデレ演技の際に接触して以来、学校や寮でもちょくちょく話す程度の仲にはなっている。でも、私が彼の部屋を訪ねるのは初めてだ。それも鈴を引き連れずひとりで来たのだから、織斑くんの反応もよく理解できる。
「少し話がしたいんだけど、かまわない?」
「ああ、大丈夫だ。ちょうどひとりで暇だったし」
朗らかな表情で私を招き入れる織斑くん。他に誰もいないというのは、非常に都合がいい。
お互い座布団に座って向かい合う形になったところで、私は部屋に放置されているはずの盗撮用カメラを目線だけ動かして探す。
「……あった」
「ん、何か言った?」
「いいえ、何も」
案外近いところに落ちていたので、さりげなく腕を伸ばして回収成功。これで目的の片方は達成した。
あとはもうひとつ。鈴のことなんだけど……。
「ねえ、織斑くん」
さて、どう話したものか。
なんだか真打登場みたいな雰囲気で出てきたはいいものの、正直言って何をどう言えばいいのかとかまったく自信がない。
だって私恋愛マスターでもなんでもないし。もしそうだったら私が初めに彼氏作ってる。
じゃあお前なんで出てきたのよと言われるかもしれないけれど、ルームメイトのあんな顔見せられたら勢いで来ちゃってもしょうがないじゃない。
……あれ。ひょっとして私、あの子のこと想像以上に好き?
「さっき、鈴がここに来ていたわよね」
「ああ、ついさっきまでいたよ。でもなんか様子が変でさ」
微妙な顔で答える織斑くん。やっぱり鈴の奇怪な言動が気になっているらしい。
「ハミルトンさん、何か知らないか? 鈴のこと」
「えっと、知っているといえば知っているけど」
私の返事に反応して、彼の視線がじっとこちらの両の瞳に固定される。普段のどこかふわふわしたそれとは違い、今はやたらと彼の眼に力強さみたいなものを感じた。……この眼に多くの女の子達が落とされていったのかしら。
「その……」
思わず視線をそらしてしまう。最初の一言が出てこないからだ。
『鈴のこと、どう思ってるの?』とか『アプローチ、気づいてた?』あるいは『というかなんでそんなにモテるの?』。
どれも聞きたいことだけれど、話のとっかかりとしては何かが違う気がする。
あくまでこれは鈴と織斑くんの間の話なのだから、あまり突っ込み過ぎた質問は控えるべきだし、かといって遠まわしにしすぎると意図が伝わらない。
難しい。あまりに難しいので頭がオーバーヒートしそう。私男の子の部屋に上がりこんで何やってるんだろう。
「鈴ってさ」
黙っている私を見て、織斑くんがおもむろに口を開いた。
「俺のこと、どう思ってるんだろうな」
「え……?」
完全に予想外の言葉に、私はあんぐり口を広げてしまう。
「どう思ってるって?」
「いや、なんというか……自惚れかもしれないんだけど、あいつ時々思わせぶりな態度とるんだよ」
「それは、あの子があなたのことを異性として意識しているということ?」
こくんとうなずく織斑くん。私はと言うと、最初こそ驚き桃の木状態だったけれど、よく考えてみれば納得のいく事実だと思えるようになってきた。
「鈴とは付き合い長いから、お互いのことは大抵わかるつもりなんだが……昔から、あいつのそういう行動だけは意図がつかみにくて」
織斑一夏は鈍感だと言われている。そしておそらくこれは事実なんだと思う。だからまあ、出会って数ヶ月の子達や、数年ぶりに出会った幼なじみの好意に気づかないのは仕方ないのかもしれない。
けれど、思春期真っ盛りの時期の大部分を一緒に過ごした異性なら?
そう。いくら鈍いとしても、『おや?』とは感じるのではないだろうか。
「本人に確かめはしたのかしら」
「それが……勘違いだった場合を想定すると、どうにも聞けなくなってさ」
「あー」
頬をかく織斑くんに同意する。
そうよね。もし自分の推測が間違っていて、『何言ってんのキモッ!』とか言われたら死にたくなりそうね。
だから今までだんまりを決め込んでいたけれど、さすがに無視できなくなってきて私に尋ねてみた、と。こんな感じだろうか。
「ひとつ聞きたいんだけど……仮に今鈴があなたに告白したとしたら、どうするの」
「……どうだろう。俺にとっては、鈴は女の子というより仲のいい友達だし」
目を伏せて考え込む様子を見せる織斑くん。ここでいい返事がもらえれば、今すぐ鈴をけしかけていたところなんだけど、まあそううまくはいかないわよね。
「でも」
「でも?」
「鈴が俺を意識しているかもって最初に気づいた時は、ちょっとドキドキした。……これ、鈴には言わないでくれよ?」
……わお。
*
どうにも、私達はちょっとばかり遠回りをしていたのかもしれない。
部屋に戻って鈴をベッドから引きずり出しながら、私はそんなことを考えていた。
「やだやだ今日はもう寝る!」
「ぐちゃぐちゃ言わずに座りなさい。というかなんで私のベッドにいるの」
「……涙とか鼻水でシーツが汚れそうだったからあいたたたた」
「落ちこんでる割には随分と図々しいようね……!」
そんなことに頭が回るのなら意外と心は平気なのだろう。頬を軽くつねりながら確信した。
「今すぐ顔洗って織斑くんのとこに行きなさい。そしてありのままの想いをぶつけてくるの」
「で、できないわよそんなこと!」
「どうして」
返事は予想できているけれど、あえて私は鈴にそう尋ねる。一応、確認というやつだ。
「……恥ずかしいし、何言えばいいのかわからないし。それに、一夏がそれを聞いてどんな反応するかって考えたら不安でしょうがないから」
「なるほど。つまりその辺の要素を取り除ければ鈴は彼のところに行くわけね」
決して恋愛テクニックに詳しいわけではない私だけれど、なんとか友達の背中を押すくらいのことはできるような気がした。なぜなら私には、織斑くんと鈴の両方の気持ちを知っているという大きなアドバンテージがあるからだ。
「まず恥ずかしいという点については簡単ね。今まであなた散々恥かいてるから平気平気」
「ちょっと待って適当過ぎない?」
「事実でしょう。繰り返されたイメチェンの失敗で相当心が鍛えられたと思うんだけど」
お姉さんキャラ演じた時には、かなり大胆な行動までとっていたし。あれらの経験は決して無駄にはならないと思う。
「あと、織斑くんの反応については案外なんとかなると思うわよ? さっき探りを入れてみたらまんざらでもない感じだったし」
「えっ?」
「さて、次に何を言えばいいのかだけど」
「待ちなさい。今さらっとすごく気になること言われたような」
「とりあえず思いついたことを素直に口にしてれば大火傷はないんじゃないかしら」
「って聞きなさいよ!」
結論。
一悶着あったけれど、なんだかんだで最終的に鈴をその気にさせることに成功したのだった。
*
「また盗聴するなら、さっき回収する必要なかったかも」
30分後。
身だしなみを整えた鈴が織斑くんの部屋に突撃。まるで戦地に赴くかのような決意をこめた表情だった。
見守ってほしいと言われたので、私はいつものようにパソコンの前で待機していた。この悪趣味なルーチンワークも、できればこれきりにしてほしいものだ。
『鈴、さっきはどうしたんだよ。急に出ていって』
『あ、うん……ごめん。その話とも関係あるんだけど……伝えたいことがあって』
あぐらをかく織斑くんに対し、鈴はガチガチに固まった正座。
膝の上の両拳をぎゅっと握りしめ、うつむきながらもなんとか言葉を絞り出していた。
……今さらだけど、このカメラめちゃくちゃ画質いいわね。提供者(布仏さん)がどんな目的で所有していたのか非常に気になる。
『長くなるし、途中わけわかんないこと言っちゃうかもしれないけど、聞いてくれる?』
『ああ。ちゃんと聞く』
織斑くんのはっきりとした返事を聞いて、鈴は意を決して顔を上げた。
その勢いにつられて、トレードマークのツインテールが元気に揺れる。
普段の彼女の快活な印象と、ツインテールという髪型は非常にマッチしている。髪おろしバージョンとかも試してみたけど、今の鈴にはやっぱりこれが一番かな。
「うまくいくかしら」
果たして彼は鈴の想いを受け入れてくれるのか。
それをじっくり吟味するために、私は凰鈴音という女の子の魅力について今一度考え始めた。
『あたし達、小学校の頃から一緒にいたじゃない?』
『そうだな。思ったことはちゃんと言ってくれるやつだったから、いろいろ付き合いやすかった。一緒に遊ぶと楽しかったし』
実を言うと、彼女はテンプレのツンデレからはちょっと外れている。以前本人も口にしていたけれど、素直な部分が割と大きいのだ。
たまにツンなしでするりと織斑くんにアプローチ紛いの接触(水着姿で抱き着くとか)を行っているけれど、あれって男からすると意外とぐっとくるのではないだろうか。
『昔の一夏はほんとにやんちゃだったわよね』
『鈴も同じだろ? 木登りの時、パンツ見えても全然気にしてなかったじゃないか』
『……ば、馬鹿っ。恥ずかしいこと、思い出させないでよ』
かと思っていると、不意に照れてあわててぷいっと横を向く。意地の悪い人が見れば『あざとい』なんて評価が来そうな動作だ。
『昔とは違うんだから、今はちゃんと女の子らしくしてるんだからね!』
『はは、わかってるって。……女の子らしいといえば、料理もできるようになったんだよな』
『そうそう。あたしは日々成長してるのよ』
『ま、中華以外ではまだ俺の方が上だけどな』
そういえば、あの子ってば意外と家庭的なのよね。なんだかんだ世話焼きな一面もあるし、その辺パッと見のイメージとのギャップがなかなか大きい。ここもアピールポイントのひとつかしら。
『まあ、そんな感じでさ。あたし達、結構長い間一緒にいるわけだけど』
『おう』
『……一夏は、あたしのことどう思う?』
鈴の率直な問いに、織斑くんは一瞬きょとんとして、それから困ったように笑いながら視線を外した。
『どう思うって、また答えにくい質問だな……』
ここで躊躇なく友達と言い切られるよりはずっといい反応だ。さっき私が感じた通り、彼も彼女を異性としてある程度意識しているのではないかと希望を持てる。
『じゃあ、どんな子だと思う?』
『どんな子、か。それならまあ……明るいとか元気とか、答えようがあるな』
鈴がどんな子か。ちょうど私が今考えていることだ。
彼女の特徴のひとつとして、たまにヤンデレっぽくなるという点があるけれど……まあ、あれも刺激の一種ということで。
あと、体は小さいけどたまーにお姉さんっぽい包容力を見せることがある。
……こうして改めて振り返ると、鈴っていろんな属性持ってるのねー。いちいち演技する必要なんてやっぱりなかったんじゃないかしら。
『あのね、一夏。あたし、ずっとアンタの近くにいて、喧嘩とかしたこともあったけど、それでも最後にはまた元の場所に戻ってきて。それはやっぱり、一夏の横にいるのが一番楽しかったからで』
イメチェンの実験台にされていた織斑くんはどう思っているのだろうか。私と同じく、いつもの鈴が一番だと思ってくれていたらいいんだけど。
『だから、あたし』
鈴の拳の握りが一層強くなる。
『あたし、アンタのことが――』
ギャラリーの私が息を呑む中、彼女は――
*
1ヶ月後。教室にて。
「いちかー、お昼行きましょ」
「ああ。今日はハミルトンさんも一緒か?」
「ええ、よろしくね」
拍子抜けするほどあっさりと、鈴と織斑くんは彼氏彼女の関係になった。もともと、どちらかが一歩踏み出せば簡単にこうなっていたのだろう。
ただ、その一歩がとてつもなく重かったのもまた事実で。
「毎日彼女にお弁当作ってもらえるなんて、彼氏冥利に尽きるんじゃない?」
「本当にな。俺もできた彼女を持ったもんだ」
「はいはい。褒めても何も出ないわよー」
なんでもない風を装いながらも、よく見ると鈴の顔はちょっぴりにやけている。
「よかったわね織斑くん。多分明日の昼食は豪華になるわよ」
「そ、そんなことないわよ! まったく何言ってるんだか」
相変わらず、妙なところで素直じゃない子だ。
でもそこがまた、彼女の魅力のひとつなのかもしれない。
少なくとも、鈴の彼氏さんはそう思っているらしい。以前そんなことを私に語っていた。
「そういえば、この前聞かれた質問の答えだけど。鈴のキャラがどうこうってやつ」
「ああ、答え出たの? それなら教えてほしいんだけど」
先週くらいに尋ねたことなんだけど、どうやら彼なりの結論が出たらしい。
私が期待をもって返事を待っていると、彼は微笑みながらこう答えた。
「鈴はあれだ。リンデレってやつだ。既存の属性じゃ語り尽くせないから」
「……なるほど」
リンデレ。うん、いいわねそれ。私もそれ使いましょう。
「ちょっと、ふたりで何こそこそ話してるのよ」
少し拗ねたような表情でこちらを睨む鈴。その態度がなんだか可愛らしくて、私達は顔を見合わせてお互い笑うのだった。
「あー! 何よその反応、ちゃんと教えないとふたりともお弁当没収だから!」
ぷんぷん怒る鈴にお望み通りリンデレに関する説明をして、顔を真っ赤にする彼女の姿を拝むことになるのは、ここから数分後のお話である。
ちなみに。
イメチェン企画は終わったのだが、結局恋愛絡みの鈴からの相談は続いていた。
正直デートのうまいやり方とか知ったこっちゃないんだけど、なんだかんだ頼られて悪い気分はしない自分がいるというのは、わがルームメイトには秘密だ。
というわけで完結です。もともと一発ネタだったので、終わりもあっさりと強引な感じで締める形になりました。本当なら年内に完結させてしかるべきだったのですが、本当に投稿遅れてすみませんでした。
この作品を通して何が言いたかったかというと、鈴は可愛いということ。これだけです。他に語ること特にないです。
感想や評価等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。