しんしゅつきぼつ で やんちゃな カゲ
とんとんとん
ことことこと
そんな軽やかで優しい音が響きます
音の主はどうやら料理の音
包丁を下ろせばとんとんとん。お鍋のおたまを回せばことことこと
手慣れた動きの音は軽やかそのもの。まるで音も食材も楽しく踊っているようです
そんな料理の指揮者さんはどちらさま?
カワサキではないようですね
彼はお月様で神様と女王様のために毎日ラーメンを作っています
お鍋にはエビ、お肉、ネギにキノコの旨味が存分に凝縮されたスープがまるで黄金色の輝きを放っています
その匂いを嗅げばお腹もぐーぐー鳴りやんでくれません。ああ、今すぐ飲み干したい!
そんな気持ちも我慢してどんぶりにスープを注ぎ込んで仕上げとばかりに別の鍋で茹でたばかりの麺を入れれば何処からどう見ても美味しそうなラーメンの出来上がり
と言いますが実はまだ完成していません
餃子に似たワンタンを添える形にして本当に完成
そう、これはラーメンではなくワンタン麺だったのです
用意されたどんぶりは三つ
椅子に座って手を合わせてこれから食べる料理の糧となった食材を、作ってくれた人への感謝を込めてのいただきます
会心の出来だったのでしょう
ワンタン麺を食べる黒い女の子はどんどん食べて満足気。隣にいるピンク玉もぺろりとスープまで飲み干しちゃいます!
ピンク玉のほうはおかわりが欲しい目をしていますね
「久々に朴念仁のワンタン麺を食べましたが相変わらず腕は落ちないもんですね」
"ふか!おかわり!"
「識ちゃんも私の記憶があるなら同じようにできるはずですが…識ちゃんは今後も料理をしたりしないんですか?」
「ふん!そんな面倒なことを識の律者がするはずないでしょう!私がわざわざ作らなくても朴念仁が作れば済みますからね!」
「やれやれ……おかわりはありますから落ち着いて食べましょうカービィ」
「朴念仁!私にも替え玉をお願いしますよ!」
どうやらワンタン麺の指揮者さまはフカさんだったようですね
今日もキリッとした眼鏡の似合う落ち着いた雰囲気のある女の子
そしてそんなフカさんに似てる黒い女の子こと識の律者ですがそれも当然
フカさんが律者として覚醒し、律者としての意識から産まれたのが識の律者なのですから
まるで親子関係みたいですね
「しかしピンク玉もついてくるなんて食い意地もここまで来ると感動的ですね。どこから嗅ぎ付けてくるのやら」
元々は天命の戦乙女、学園の生徒と二足の草鞋をしていたフカさんですが現在では平和になった地球を一人旅をしています
見た目は可愛い女の子でもそこは拳法一つで崩壊獣だって倒せるとっても強い戦乙女!
一人旅でもなんのそのですが旅先にちょくちょくと識の律者やカービィと出会うようです
特にカービィは旅先での美味しいものがあれば本当に偶然なのかな?というぐらいにフカさんと一緒に行動するようですよ
「おーやわらかいやわらかい。この小さいピンク玉の何処にあの食べた量が入るのか宇宙の神秘ですね」
"ふひゃひゃひゃ"
「識ちゃん、カービィを玩具にしちゃダメですよ」
ご飯を食べ終えればのんびりするのは戦乙女でも律者でも、遠い遠い星からやってきた旅人でも変わりません
手持ち無沙汰になった識の律者はカービィを持ち上げたり引っ張ったりぎゅっとしたりしますが成されるがまま
カービィも識の律者なりに構ってるのも分かるので特に何かをしたりしません。びよんびよんと伸ばされていますがカービィの伸縮性のあるボールボディは柔らかくて気持ちいいのです
それに意識の権能を持つ識の律者にとって、カービィはとっても気安い関係です。なにせ心を覗いても食べる、お昼寝する、たのしくあそぶの三拍子しかないのですからこれほど構えるのもバカらしい相手もいないでしょう
「そんな朴念仁も手を伸ばしてカービィを撫でてるじゃないですか…私も撫でてほしいとは言ってないんですよ!!」
「おっと…すみません、どちらも思わず…」
"ぽよ?"
そんな微笑ましい光景にフカさんはどっちも撫でてしまう欲求に勝てないご様子
今はお月様で神様をやってるキアナちゃんとも同じ学校に通っていたスーパー委員長
しかしその中身は5万年の時を生きたすっごいお姉さんでもあるので微笑ましい光景にはつい可愛がってしまうようですね
識ちゃんも一緒に撫でられてぷんぷん顔ですが実はそんなに怒ってないですよ。気になる人に撫でられるのって恥ずかしい気持ちもありますからね
食べるものを食べ終えて、食器も綺麗に片付ければフカさんは再び旅を始めます
今文明より以前、5万年前には前文明と言われた時代の人であるフカさんにとって経験したことのない平和の世は世界はこんなにも綺麗だったんだと思わせてくれます
崩壊により文明の破壊は5万年前に行われ、それは人類の敗北という終焉を終えたのです
多くのお友達、仲間、住んでいた世界を失ったフカさんにとって流されるままに戦い続けて、生きるための理由すら見つけられず、それでも死ぬ勇気も持てずに他人から与えられた崩壊と戦うという使命だけを綴って生きていました
一度は人類が敗北し文明が滅んでも、5万年の時が再び文明を築き上げます
それは次の崩壊を引き寄せ、そして抗う者も産まれてきます
その中でフカさんは使命のために戦い続けてきたのです
いつか来る人類の勝利のために、私達の時代では負けた崩壊を乗り越えられるように
その過程で膨大な記憶と新しい仲間を失い続けても立ち止まることはなかった人生でした
そんな生き方しか出来なかったフカさんが律者となってしまうのも何という皮肉でしょうか
幸いなのはさすがの文明の破壊を招く崩壊の意思すら5万年分の記憶に押し流されてしまい、可愛い識の律者という別人格が誕生してしまったことでしょうか
最初の頃は自分こそが前文明の戦士フカであることを自称していた識の律者も今ではすっかり偉大で素晴らしい識ちゃんです
自らの存在証明に苦しんでいた自分自身とも言える識の律者を流されるままに戦い続けただけのフカさんでは何もできませんでした
お互い何のために生きているのか。何をして生きるのか
そんな難しい答えを出せずに前文明の戦士としても律者としても宙ぶらりん
「はぁ…わざわざ山登りに徒歩だなんて…前に使ってた戦乙女装甲の機構でびゅーんと飛んじゃえばいいじゃないですか」
「急ぐ必要もなければひとつひとつの道中を楽しんでこその風情ですよ。カービィも楽しんでるようじゃないですか」
文明を象徴するようなたかーい建物から遠く離れた自然豊かな山を登れる余裕があるのも平和になった証なのでしょう
カービィもすたこらさっさと走り回りながら風に揺さぶられた木々の音楽を楽しんでいるようです。このままだと楽しさに釣られて一曲歌ってしまうかもしれませんね
そうなれば山はぺんぺん草が一つも生えなくなってしまうから要注意!
お気楽で、悩みの一つも無さそうで、それでも日々の日常を疑うことを知らない星の戦士カービィ
その旅人との出会いが多くの戦乙女を、キアナちゃんの持っていた苦しみを和らげていたのです
まさか相いれないと思われていたキアナちゃんの中に眠る律者が一時的でも協力してフカさんと識の律者を助けようなどと誰が予測できたでしょうか
その日のことは今でもフカさんは思い出せます
使命だけを生きる標にして戦い続けて、それでも自己に悩む孤独な子供すら手を差し伸べることのできないことを
そんな自分と律者の両方に手を無理やりでも掴もうとする、いつの間にか大きく成長していたキアナちゃんの眩しい姿を
「……ん?なんだか増えてませんか!?」
"わあ!"
「おや…ふふ、いいじゃないですか。これも道中の楽しみですよ」
山に住んでいた不思議な生きものたちなのでしょう
山登りをしているフカさんたちを見つけると興味津々で次から次へと後ろについてきたようです
奇妙なわにゃわにゃ大行進となっていますがかつては崩壊獣として命を賭けて戦っていた相手も今では小さく大人しい生きものとして奇妙な隣人となってしまいました
フカさんの前文明の記憶はもうそこまで色濃く残っているものはありません。もはやかつてのお友達の姿も、名前も、声すらもはっきり残っていないんです
それでもとても大事な記憶があります。忘れてはならない過去もあります
遠い星から来訪したピンクの戦士と同じ色をした、崩壊に属するはずでありながら最後まで人の側で有り続けた大事な大事な仲間のひとり
(……エリシア。あなたの言う通りだ。世界はこんなにも残酷で……美しい…)
もう二度と会えることのないかつての仲間たちへの想いを胸に秘めながらもフカさんは歩みを止めることはありません
季節は廻り、歳月は流れ、幾度の別れと出会い、そしてその度に訪れる絶望とはもうお別れ
今日と変わらぬ明日を迎えられる事が何と尊いことでしょう
使命ではなく、ようやく自分の生きる道を歩めることに恥じないようにその足跡は何処までも何処までも続いていくのです
空を見上げればフカさんの心を移すように蒼い蒼い空が広がっています
孤独を思わせる蒼い空であってもフカさんはもうひとりではありません
こんなにも美しい空の下にたくさんの生きものがいるんですから、これからも賑やかに過ごせることは約束されてるでしょう
フカさん
眼鏡の似合うスーパー委員長
その実態は前文明の融合戦士にしてスーパー改造人間
こぶしひとつでどんなものでも粉砕するのは5万年の鍛錬のおかげ
今ではすっかり肩の荷が落ちて各地を放浪する日々
世界はこんなにも美しい…エリシアの言っていたことはこういうことだったんですね
識ちゃん識の律者
偉大、尊大、大喝采
ぼくらの頼れる律者様とは識の律者のことです
過去に存在理由を悩んでいましたが今はそんなことはないですし手を差し伸べたキアナに感謝しないことはないですが私が超偉大であることはお忘れないように!
特に空の律者!私が先にアドバイスしてあげたんですからね!
恩着せがましい
識の律者はフカではない。だけど自分こそがフカだと思い込む識の律者は人知れずに苦しんでいる
助けてほしいなんて口が裂けても言えない。だってワタシこそ、文明の破壊者で、人類の敵なんだから…
ううん、そんなことはないよ。だってあんたは人のために動けて、私たちのために思ってくれたんだから
だから助ける。大切な人たちに助けられた私がいるように、あんたも委員長も、ぜーんぶ助けてあげる!
今こそ上弦のキアナちゃんと下弦の空の律者の共同作業!いがみ合ってた二人が月下にきらめく、弦月と化す!