月のプププランド   作:AmanatuTaruTaru

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ダンスレッスンもバトルの くんれんも おこたらない、がんばり屋さん


EX:塩漬け青梅とワンワン巡査

 

 

 

 

 

聖フレイア学園

それは対崩壊、対災害に対抗するための戦乙女を保有する天命に属する戦士の育成機関

 

かつての戦乙女は才能を見出された少女たちに最低限の訓練を施し、実戦に即投入を行う実戦主義を貫いていた

しかし、いくら才能があっても武器を手に取った事のない未熟な者にいきなり戦場に向かわせて戦えるのは多くはない

当然ながら死亡率も相応に多く、捨て駒に等しい悲劇が当たり前のように起こっていた

 

それに待ったをかけたのが聖フレイア学園の創設者にして学園長であるテレサ・アポカリプスである

彼女自身も戦乙女の頂点に属するS級戦乙女でありながらも多くの戦友を失い続け、無意味に命を散らし続ける崩壊への戦いに疑念を抱いていた

 

戦士としての才能があっても命あっても物種である

ただ人に言われて戦わされる兵士ではなく、自ら考えて行動できる者を育成する学園の設立を決意する

 

新時代の戦乙女の育成に尽力する

これこそが学園長テレサの願いであり、これによって戦士としての教育だけではなく、一般人と変わらない学校教育も行われている

 

月日が経ち、崩壊との戦いは終えた地球は平和そのものだ

もはや大型の獣よりも大きく、近代兵器を凌駕するような怪物と戦う事はほとんどないと言っていいだろう

しかし脅威が忘れられたわけではない

仮にも地球に置ける脅威を陰ながら退き続けてきた組織に楽観的思考が許されるはずがない

 

次の脅威に備える

それは力を持つ者としての責務であり、想定されることを考える義務でもある

 

学園内ではそうした次の脅威を想定しての戦士が育成されている

少女たちは訓練と勉学に時間を費やし、合間に同年代の友人を作って青春を謳歌する

この光景こそがテレサが、そして盟友たちと作り上げて見たかった光景なのだ

 

もはやいたずらに若い命を散らす必要はない

人として大事なものを学び続けて、その上で自らの意思で戦う道を選べる時代が来たのだ

 

そのような時代が到来し、学園の一角にひとりの少女が黙々と編み物を行っていた

光に照らされるように輝く銀髪とモデル顔負けの美貌、学生服の上からでも分かる均衡の取れた肉体には同性であっても思わず羨望の声が出てしまうだろう

編み物ひとつで真剣な眼差しと横顔は芸術品のように美しい

学生服から見て分かる通り、彼女もまた聖フレイア学園に通う生徒

名はヘリア。いずれ天命に所属することになる戦乙女候補である

 

本来であれば彼女は生真面目という服を着たような人物であり、戦乙女となるべく血を滲むような訓練を行っている

その端正な顔に青痣を作るのは一度や二度ではない。もはや数えきれないぐらいに地面を舐めてきた

いくら戦乙女の訓練も見直されてるとはいえ、それでも想定されるのは崩壊による災厄

今は存在せずとも戦うべき怪物はそれこそ戦車や戦闘機と言った近代兵器を玩具扱いにする存在なのだ。訓練ひとつでも生半可なものではない

だからこそ、ヘリアは一度たりとも立ち止まらない。止まる暇がない

 

目指す先は遥か頂

崩壊による災害があった時代、それもほんの10年も前の話だ

まだ幼いヘリアが家族と共に見ていたテレビに映っていた史上最年少のS級戦乙女の姿

 

その黄金のような輝き、憧れ、至るべき頂点の道筋

将来はどのような人になるのだろう?

まだ漠然とした道すらなかった幼いヘリアがこう成りたいと思わせた輝きがそこにあったのだ

 

生真面目と頑固さは表裏一体

目指す先が遠ければ遠いほど、手が届かない程にあるならば届くまで努力をし続ける

ヘリアはそのような人間であり、彼女は暇さえあれば訓練と勉学に費やすような生活を送ってる

 

そんなヘリアが訓練もせず、勉学もせず、編み物をしているのは彼女を知る者であれば珍しい光景であった

だからこそ、珍しいものを見て興味を抱く者も存在している

 

「……編み物できるんだという気持ちと編み物をしててそんなギラついた顔をする必要がある?って気持ち。心が二つあるんだよね」

 

「コラリー?……変なこと言わないでよ。これだって必要なことなんだから」

 

編み物で近寄りがたい雰囲気を出しながらもそれに気にせず声をかけるのも学園に通う同じ生徒

白と黒が混ざった髪から犬のような耳を生やしており、更に尻尾もある可愛らしい女の子

付け耳ではない。実際に生えているわけだが彼女もまた人間だ。しかし崩壊という現象は怪物を生み出すだけではなく、時に生きている生物にすら影響を及ぼす事もある

コラリーはその現象を産まれながらに、人ではないものを宿してしまった人間であった

 

「というか、コラリーだって宿題に出たのを知ってるでしょ。あの子たちに贈り物を用意しましょうって」

 

「リタ先生の課題なら覚えてるよ。それで手作りの編み物を選択するあたりに相も変わらず真面目バカだね」

 

コラリーはひとりではない

彼女が抱えている、頭に乗せている、そして足元にはわにゃわにゃと小さい生きものがいる

平和となった地球にもはや崩壊獣と呼ばれた災厄は現れなくなった

 

"わにゃわにゃ"

 

"わにゃにゃ"

 

しかし代わりのように地球に、そして夜には空から照らしてくれる月に不思議な生きものたちが姿を現すようになった

オレンジ色をした小さな丸っこい体に、縦長の目をしたそれは思わず抱きしめたくなるような気持ちを抱かせる

すでにワドルディの名前を知らない者は学園にいない。人懐っこく、ふわふわと暖かく柔らかなボールのような生きものは日々の学園生活を送る少女たちにとっての癒しであった

 

「それであまり人目のないところで編み物をし続けるのもヘリアだよね。ワドルディがまた心配しちゃうよ?」

 

「人のいる場所でやるようなものでもないでしょ…寮でやるよりは集中できるし」

 

「それもそうだ……こうしてここで駄弁ってると思い出すよね、ヘリアの泣き顔を」

 

「泣いてない!変な過去を捏造しないでよ!」

 

「ほらほら、せっかくの手が止まってるよ。これも訓練訓練」

 

「~~っ!もう!!」

 

少女二人は姦しくしながらもヘリアの頭の隅にある記憶が呼び起こされる

そうだ、あの時もこのように犬耳少女からの声かけから関係が始まったのだと

 

 

 

それはまだヘリアが聖フレイア学園に入学してからしばらく経っての頃

世間では崩壊現象という災害の正式公表、陰で起きた崩壊による地球規模での大戦、人知れずに終わった最後の災厄との決着

数百年では終わらない世界の真実に人々の騒動は当然ながら留まる事を知らず、天命の主教も兼任している学園長も世界を飛び回って不在も珍しくない学園の中、ヘリアは人のいない学園の一角に座り込んでいた

 

いつもであれば今日受けた授業の復習の一つや二つはしてたかもしれない

いつもであれば教官に頼み込んで訓練に励んでいただろう

いつもであれば…いつもであれば…いつもであれば…

 

ヘリアには目指す場所があった。叶えたい夢があった

だからこそ学園の門を叩き、血反吐を吐く思いで日常を送っている

 

ヘリアは一言で言えば要領の良い娘であった

幼い頃から何かをやろうと思えばだいたいのことはできるし、賞状やトロフィーも多くを取ってきた

その度に親は褒めてくれたのだ。さすが私の娘、才能のある娘だと

 

そうした過去を今になって誇る気もないが、驕っていた部分があるのは認めざる得ないのだろう

幼いヘリアから今に至るまで何処か高を括る気持ちでいたのだ

あたしが進めば、あたしが努力をすれば結果は必ず付いてくるのだと

 

それは事実である

別にヘリアは1から10を知れる天賦の才はない

しかし1から着実に2に、3に、4に……10に近づけるだけの才能はある

今は届かなくても必ず届く。それこそがヘリアの精神を支える柱であった

 

「……手、隠しきれなくなってきたかな…」

 

しかし、今のヘリアは自身の柱が少しばかり傾いてるように感じていた

努力をすれば目指すべき場所に辿り着けるはずだ

今まで裏切られた事のないはずの事実がそうならない事態に遭遇した時、人は驚くぐらいに脆くなる

 

学園に入学する前の友人から、親からも綺麗だねと褒められた自身の手はいつの間にか傷まみれだ

いくら戦乙女の戦士候補とはいえ、年頃の娘が通うのだから訓練によって傷ついた肌をケアをするための厚生は存在している

しかし苛烈な訓練を行い続ければその限りではない。単なる治療では追いつかなくなった手には今までの努力の証が刻まれている

 

だが、ヘリアにとってそれは努力は実らないと突き立ててくる忌まわしい象徴でもあった

 

S級戦乙女

ビアンカ・「デュランダル」・アタジナ

 

ヘリアの憧れた太陽

ヘリアが目指すべき到達点

そして今後どれだけの努力を重ねても手が届きようがないと思わせた自身も成りたかった夢

 

崩壊の災厄は等しく降り注ぎ、それは幼きヘリアも例外ではなかったが、確かにあの背中に救われた過去があった

憧れにとって自身は多くを助けた内のひとりに過ぎないだろうけど、自身と変わらない年齢で世界を背負って戦うのは守られた子供には眩しすぎた

その背中を見てからも、ヘリアはただ憧れを追いかける日々だ

ヘリアにとって努力は何でも叶えてくれる魔法

この魔法さえあれば、あの背中に追いつけるはずだと無邪気に信じていた

 

十で神童、十五で才子、二十歳過ぎればただの人

 

果たして誰が言った言葉なんだろうか

前に走れば走るほど、視界が高くなれば高くなるほど、人としての道が増える度に何でも叶えてくれた魔法は色褪せていく

 

かつて褒められた才能は平凡になっていく

誰よりも努力を重ねていても真の天賦の才がある者に負けないように勝てないする事しかできない

なら、自分より才能があって、自分よりも努力を重ねた者が目の前にいれば……最後の綴りである努力の魔法すら失ってしまう

だからそんなことは認められない。認めてしまったら、今までの頑張りはなんだったのか

今になって分不相応に願っている事を自覚しながらも、ヘリアはもう止まれない。止まるわけにはいかない

憧れを捨てられない、憧れになりたい、そう願って突き進む自分を嫌いになりたくない

 

みんなに追いつけないなら追いつけるように努力はできる

無理をする努力でもやり続けられるなら大丈夫のはずだ

昨日よりも明日の良い自分になれるなら何だってやれる精神もある

 

それでも現実は非情だ

 

崩壊適正『D』

そんな自分の最後の魔法を嘲笑うかのように、学園で受けた戦乙女の適正に愕然としてしまう

 

戦乙女は崩壊との戦いに向かう戦士ではあるが、当然ながら崩壊現象とはただの人が立ち向かえるものではない

崩壊獣の強さは言うに及ばず、何よりも危険なのは崩壊という現象に対して何処まで耐性があるかが最重要なのだ

 

崩壊現象が発生、崩壊獣が出現するような地域は高密度な崩壊エネルギーが満たされる

この場合、耐性のない生物の大部分はエネルギーの負荷に耐えきれずに死亡して肉体は塵になる

半端に肉体が残る程度の耐性があれば崩壊エネルギーに生かされた文明の破壊者である尖兵となり、死にながら蠢くゾンビと化す

 

ヘリアの適正は本当に最低限の適正であった

間違っても前線に立てるような崩壊適正ではなく、どれだけ良い成績を収めても後方支援や本部勤務が精々と言えるだろう

 

あたしは憧れデュランダル先輩の背中を追う事すら許されないの?

 

例え適正が前線にすら立てないと評価されようとも

例え自らの才能が決して特別なものではないと自覚されながらも

例え毎日傷だらけになってまで訓練を続けようとするのも

 

否定したかったのだ

自分の中で輝き続ける黄金のような憧れに手を伸ばす事すらできない自分自身ヘリア

平凡な才能で、追いかけることもできず、どこにでもいる敗者ヘリアにだけはなりたくなかった

 

しかしいくら頑張り続けられる才能はあっても限度がある

人は頑張ると疲れる生き物なのだ。心身疲弊させ続けてまともに心を保ち続けられるはずがない

 

だからヘリアは学園の隅に座り込んで、自問自答を繰り返すぐらいに疲れていた

これが普通の学園の生徒であれば仲の良い友人に心境を見抜かれて一緒に遊びに連れていかれ、甘い食べ物やショッピングをするなりでリフレッシュできただろう

生憎とヘリアはそのような友人がいない。何せヘリアにとって学園の生徒は同級生であると同時にライバルなのだ。最低限の付き合いやクラスメイトの名前と顔を覚えるぐらいはするが一緒に遊ぶという行為はしない

むしろ訓練もせずに遊び惚ける同級生なんてヘリアからすれば考え付かない行為だ

そして、そういった同級生ほどヘリアにとって喉から手が出るほどの欲しい崩壊適正を持つのだから世の中は理不尽だ

 

自問自答そのものはもはや珍しいものではない

気分が沈むのは頑張り続けてるからであって、いずれは解消されて次の日から変わらずに訓練に打ち込む日々に戻る

 

定期的に訪れる平凡なヘリアの自問自答

いつもの違うのは、誰もいない場所を選んでいたのにヘリアを心配そうに見つめる小さな生きものがいることだろう

 

"わにゃ……"

 

「……えっと…ワドル…ディだっけ?」

 

"わにゃ!!"

 

崩壊による災厄は終止符を打たれ、崩壊獣とそれが伴う災害は地球で起きなくなると天命からの公表は当然ながら学園に通う生徒にも伝えられている

だからと言って別の災厄が現れるとも限らない上、過去の災厄による地球の復興支援などと戦乙女のやることは沢山ある

そのため戦乙女の育成機関としてはそのまま機能していく方針だ

 

そんな中、崩壊獣の代わりのように現れてくる不思議な生きものたち

彼らは人に対しての敵意はなく、のんびり気ままな性質で寄り添う奇妙な隣人となった

 

学園にもまるで柏餅を連想する丸っこい顔のワドルディは当然のように湧き出てきた

新種の崩壊獣と言うには可愛すぎる上に敵意も無ければ無害そのものな性質。何よりもふわふわで人懐っこい生きものは年頃の娘の多い戦乙女候補はすぐに受け入れた。なんなら日夜可愛がられてる

 

ヘリアもそこまでマスコットの類には詳しくないが、まぁ可愛いかそうではないかで言ったら可愛いとは思う

ただあまりに小さく弱そうな見た目で、訓練漬けの毎日を送るあたしが下手に触ると怪我させてしまいそうだなと気後れした気持ちで触れずにいたのだ

そんなワドルディがよちよちをヘリアに近寄ってわにゃわにゃと鳴いている。いったいどういうことなのか

 

「……慰めてるの?」

 

もしかしたら何度も人のいない区画に座り込んで自問自答する自分を見られていたのかもしれない

敵意も悪意もない、無害そのもので何よりもワドルディは小さい。そんな生きものの視線に気づけというのも無理な話だろう

 

そしてこのワドルディはそんなあたしを心配そうにしている。慰めようとしている

こんな小さな生き物に慰められる自分ヘリア……何処までも情けなく感じた

 

「はぁ……おいで……」

 

"わにゃわにゃ"

 

一度沈んだら底まで落ちる

それが自問自答を繰り返す内に学んだヘリアの早期に前に向くための処世術だ

今更ぬいぐるみのような生きものに慰められて情けなく感じる自分以上に情けなくなる自分もいないだろう

なら慰めてくれるワドルディにとことん頼ろうとし、ヘリアはワドルディを抱き上げた

 

かつて、親から買い与えてくれたふわふわのクマのぬいぐるみ

あれも後で知ったが結構なお値段をしていると記憶しているが、そのふわふわに負けず劣らずのワドルディだ

何よりも暖かい。手にジンと伝わる暖かさがぬいぐるみの類ではなく、ちゃんと生きている生きものだと実感させてくれる

 

「あんたはあたしと同じだね…」

 

目の前のワドルディは抱っこされた形で「なあに?」と言いたげな顔をしている

ヘリアも自分で何を言ってるんだかと心で自嘲するが、それにも根拠はあった

 

崩壊の戦いは終止符を打たれたが、その戦いの要となった英雄たちは一部には情報規制はかかっているが聖フレイア学園の生徒である身でも知ろうと思えば知れる

彼女の憧れであるデュランダルは言うに及ばず、学園長である元S級戦乙女テレサや教師として新任してきた元律者の雷電芽衣、天命とは別組織であるがリーゼル・アルベルト・アインシュタイン博士などと錚々たる面子だ

崩壊を掌握する地球の神に至ったキアナ・カスラナなど元B級戦乙女というのだから信じられない話だ

 

その中でも特に信じ難い存在

それはヘリアも学園で何度か目にしたことのある地球外生命体にして星を超えた盟友スターアライズ

 

星のカービィ

 

今では地球で最も有名なお騒がせピンクボールだろう

 

見た目の愛らしさはあれども中身は好きなように食べて気ままに飛んで寝たくなったら眠る幼児そのものだ

悩みのなさそうな顔をしてるなぁとヘリアが思ったことは何度かある

しかしカービィが英雄のひとりに数えられるのはそれだけヘリアが目指したい場所に行き着いた者たちと互角以上に戦えるからだ

 

カービィの情報は規制されてはいない。というよりも規制したくてもカービィが自由気ままに地球を飛び回っているのだからそんなことは不可能だからだ

行く先々で何かしらの騒動を起こす事もあれば解決することだってある

その中で特に目が付くのがカービィの持つ能力だろう

一度吸い込んだものを自身の力にするコピー能力。それこそ剣であればソードカービィ、傘でさえ呑み込めばパラソルカービィと言った変化を起こす

モノだけではない

炎を呑み込めばファイアカービィ

氷を呑み込めばアイスカービィ

カービィからすれば自然現象ですら呑み込んで自分の力にできてしまうのだ

 

しかしそんなカービィでも呑み込んでも力にはならないものは存在している

石すら呑み込めば自身を石像にできるカービィですらコピー能力を発現するのに値しないもの

それらは総じて"スカ"と呼ばれる不名誉に近しい存在だった

 

"わにゃにゃにゃ"

 

「………」

 

ワドルディがそれだ

カービィが呑み込んでコピー能力に至らせる不思議な生きものはいるが、ワドルディのように何も能力を発現させる事もない生きものだっている

その見た目と大人しい性格から現れて間もないというのに人々から受け入れられる愛らしさがあれども、英雄には力添えの一つも出来ない

 

ヘリアにとって、あまり他人事とは思えなかったのだ

ワドルディは決して無力ではない。何かをやらせてみたら意外と器用にこなせるし、回数を重ねるとやれなかった事もやれるようになる成長性を持っている

今はまだやらせても学園の掃除ぐらいだろうが、いずれ食堂の手伝いや学園内の整備もやれるようになるかもしれない

そんな可愛いだけではない、やらせてみれば器用にこなせる小さな隣人でもカービィには力を与えることができないという事実にヘリアの心がチクりと痛んだ

自分よりも遥かな才能と特別な何かを持ち合わせた人はどんどん高みを昇って行き、そうではない凡人は英雄たちの力になることすらできないのか

沈んでいく心は底を突いても更に深い穴に落とされる気分であった

 

「…………スゥー」

 

"わにゃ……"

 

だからきっと、これは気の迷いなのだ

人は疲れていると思考能力が落ち込むし、普段はやらない行動を突発的にやるようになる

世の仕事に疲れた大人はペットを吸って精神を落ち着かせる犬吸いや猫吸いというものがあるとヘリアは知っている

恐らく吸われてるワドルディにも慣れてるのだろう。吸われながらも特にわにゃわにゃと暴れる様子がない上に、なんなら小さなお手々でヘリアの頭をぽんぽん叩いてる

 

最初に感じたのはお日様の香りであった

洗濯ものを干したような、朝日を感じるような爽やかな香り。ワドルディはお日様だったのだ

続けて甘い匂いもしてくる。クッキー、クリーム、果実にチョコ

恐らく学園の生徒がワドルディに餌付けをしているのだろう。口のないワドルディが何処から食べているのか分からないが、お日様と甘い菓子の匂いが入れ混ざっている

 

ああ、確かにこれは落ち着くし魔性の行為だ…ダメになりそう…

 

ヘリアはワドルディを吸い続けているが、だからこそ気づかない

すでに誰もいないはずの区画はヘリアとワドルディだけではなく、三人目の部外者がいることを

 

「……あなたって…ワド吸いをするようなキャラだったんだ…意外……」

 

「…へぁ?」

 

完全に油断していた

こんなところに誰も人が来るはずがないと思い込んでいた

だからこそ普段は絶対にしないであろう、小動物を吸うという行為を行ってしまったのだから

声をかけてきた第三者は犬耳を生やしたような少女であった。同じ学生服を着ているのだから学園の生徒なのも分かる

特徴的な見た目からしてヘリアもその少女の事は分かっていた

かの崩壊大戦の英雄のひとり、アインシュタイン博士の養子にしてすでに戦乙女候補に数えられている天才手の届かない星

 

「コラリー…さん?」

 

「うん。これから天命にも名を轟かせる魔王コラリーさんだよ」

 

ピースをするコラリーを見て、ヘリアは困惑する

なんか思ったより変な人だなと

 

「……待って、今の見てたの…いやなんでここに…」

 

「あなたが吸ってるワドルディ、定期的に何処かに消える時間帯があったんだよね。この学園にちっちゃい子を傷つけるような生徒もいないのは分かってても気になって後を付けてみたら……ってわけ」

 

「うっ…」

 

つまるところ目の前のコラリーはワドルディが心配になって偶然見つけただけのようだ

そうなるとそのワドルディが定期的に消えていたのもヘリアを心配して誰もいない区画までついていったからなのだろう

 

「その……」

 

「ああ。別に弱みとかそういうのは気にしないで良いし言う気もないよ。ワド吸いは良いよね。先生やテスラさんも定期的にやってるぐらい気に入ってるし」

 

ススっと何食わぬ顔でヘリアの横に座ろうとするコラリー

ハンカチを敷いて座るあたりに育ちの良さを伺えるが、何か距離の近さを感じた

 

ヘリアからすれば横にいる犬耳少女は自身のコンプレックスを感じさせる苦手な相手だ

一方的な感情を押し付けるのは悪いと思いながらも努力ではどうにもならないモノを持った相手に対する印象はぬぐい切れない

 

「3分34秒」

 

「えっ?」

 

「気づかなかった?昨日の機甲相手にあなたが保った時間」

 

困惑しかない

なぜ今まで関わりが無かったコラリーが自身の記録を知っているのかと

 

「正直無謀だと思う。訓練に使ってる機甲の設定ランクはB級戦乙女想定、かつ武器有りの状態。対してあなたは武器を持たずに素手でやるのは倒す事を想定できない。3分以上も持つのも奇跡の範疇」

 

「……バカにしてるの?」

 

「ごめん、そういう意味じゃなくて……先々日は3分31秒、先々々日は3分25秒。着実に記録は伸びてるって言いたい」

 

最初は無謀とも取れる訓練に馬鹿にしているのかと思ったヘリアであったが、一日ごとの記録を秒数単位で言い当てるコラリーに少し引いた

 

「な、なんでそこまで知って…」

 

「毎日毎日機甲にボコられ続けてる無謀バカを夕方から夜遅くまで見てると知らないほうがおかしいと思う。別に身の程を超えた訓練を行う生徒も珍しいと言えば珍しいけどいないわけじゃない。その中でもあなたは私が見てきた中で別格。誇って良いよ」

 

その言葉が皮肉か、そうではないのか

コラリーという少女をよく知らないヘリアには分からない

あえて言うなら天才からの言葉は良くも悪くも今の沈んだ気持ちにいるヘリアには届かないのは確かだった

 

「誇れるわけ、ないでしょ……あのぐらい簡単に倒せなきゃ…」

 

「あのぐらいって…B級戦乙女の凄さ分かってる?あれを簡単に倒せるなんてそれこそA級戦乙女でもないと…」

 

「そうじゃないと、あたしの憧れに届かないッ!」

 

そんなことを言われなくてもヘリアには分かっているのだ

自分が無謀に等しい訓練を行っているのも、それを簡単に成せるような事柄ならとっくの昔に候補ではなく戦乙女になれることも

そして、憧れに手が届くことだって

 

しかし現実はそうはならない

無謀は無謀でしかなく、物語の主人公のような奇跡が起きる事だって無い

一つの壁を超えても更に高い壁が立ちふさがり続ける毎日で、叶えたい夢はその形すら見えることができない

それこそ壁を超えれば超えるほど、その憧れが遠ざかる事すら認識できてしまう

 

天才からの声はヘリアの心を苛立ちを起こしてしまう

ワドルディのお陰で落ち着いてた気持ちも荒れ狂う海のように乱れてしまい、思わず怒気のある声に縦長の目をしたワドルディもびっくりしたように丸目になってしまうほどだ

抑えきれない感情は目から水滴を流してしまい、今まで我慢を重ね続けてきたそれは留まることを知らない

───ああ…本当に情けないなあたしヘリアって…

 

叶わないと頭の中で理解しつつも無謀な道を歩み続け、その果てに小さな生き物に慰められ、自身の届かない星々に到達できる天才が事実を突き付けてくる

それがどうしようもなく悔しくて、悲しくて、やるせなくて……自分ヘリアが嫌いになりそうだった

 

「あっ…えっ…えっと…私が言いたいのは…」

 

「……いいよ、コラリーさんが言いたいのは分かってる…ワドルディもごめんね、急に声を大きくして……要するに、あたしの過程含めて階段は昇れてるから焦るなって言いたいんでしょう。意外とお節介な人だね、コラリーさんは」

 

「…なんだ。よく分かってるじゃない」

 

「それでもあたしはこうする道しかない。こうでもしても永遠に追いつける気がしない相手がいる。だから…あたしの人生は失敗ばかりに見えるんだ」

 

「…それはあなたに負けた相手に失礼じゃない?」

 

「そうだね……だけど、この憧れは止められないんだ」

 

涙をぬぐい、すぐに冷静さを取り戻せるのも自問自答を繰り返す内に身に付いたヘリアの心の整理の賜物だ

それでも捨てられないものがある。止まらないものがある

心に黄金のように輝く憧れこそが今のヘリアを形作ったものだ。それを忘れてしまうことは自身の根源を失う事に他ならない

ヘリアとて自分を凡才と見なしながらもヘリアに負けた人もまた多くいる。それを忘れたわけではないが、見据える先が遥か遠くなのだから立ち止まれる暇もない

異常なまでの負けず嫌いで完璧主義者。それこそがエルデシュ・ヘリアという人間なのだ

 

「それで…コラリーさんはわざわざお節介を焼きに来たの?」

 

「コラリーでいいよ。お節介というより…興味本位かな。目指す先はS級戦乙女デュランダル、無謀極まりない宣言をして周囲からも生真面目バカと評されたあなたがどういう人柄なのか気になっただけ」

 

「やっぱりバカにしてる…?」

 

ヘリアはコラリーのことをよく知らないが、コラリーはヘリアのことを陰ながら知っていた

とは言っても毎日の訓練を遠くから見つめる程度であったが

 

最初は凄いバカがいたもんだと驚いた

何せ鉄の塊を素手で殴って倒そうとするのはバカの所業である

自分の身体を痛めつけるだけの訓練とは言えない訓練

仮にも現代兵器を凌駕する崩壊獣との相手を想定したロボット兵器相手に武器を持たずに戦おうとする蛮勇と無謀ぶり

無意味に怪我をするだけで強くなれるわけもない無様な行い

 

その時のコラリーは一言で言うなら不機嫌であった

親代わりであったアインシュタイン博士との大喧嘩

いくら世に謳われる英雄と評されても親の正しい言葉が子に伝わるとは限らない

 

『コラリー、より大切なもののために、僕たちは難しい決断をしなければならない。たとえ、それが誰にとって残酷なことだとしても』

 

可愛がっていた愛犬の死

命の選別と大事な友達の別れ

それは天才と他者に言われようともまだ幼いコラリーには分からない理であった

 

『カービィ!そうだ、あの子にトトを吸わせて吐き出せば!』

 

『それもダメだ。確かにカービィに吐き出された者は生命力の補填こそされるが…定まった寿命を延ばせるものじゃない。そうして伸ばされた時間はより残酷な別れを生み出してしまうだけなんだよ』

 

どうして命を繋げる手段があるのにそれを使わないの?

どうして私は大事な友達を別れを告げないといけないの?

 

きっと先生は…永遠の命を持っているから命の価値が分からなくなっているんだ

限りある命が…私含めて寿命のある存在がどれだけ悲しんでいるのか分からないんだ

 

幼いコラリーは言葉の意味がわからない

義母が伝えようとする真意を理解できない

 

その日の周囲の全てが煩わしく、生死について頭の中でぐるぐると纏まりのない考えが巡っている

せめて静かな場所でひとりでいたかった。そうして学園に彷徨っている内にコラリーは見つけたのだ

一人で黙々と、無謀な訓練を続けるバカヘリアの姿を

 

最初は先客がいることの苛立ち

続けておかしなバカがいたもんだという気分転換

そして無謀、無意味、無駄な事を続ける痛々しい姿に見ていられない焦燥感

 

だけどそんな姿に不思議と目を奪われた

涙を浮かべ、悔しそうな顔をし、負けて当然な行いをし続けるヘリアは抗い続けている

何に抗っている?

そんな姿を見ている自分は何を期待してしまっている?

そうまでなっても自身を曲げられない、そこまで信じ続けられる何かがある?

 

何時しか静かな場所にいたいという目的すら忘れたコラリーは目を奪われてる事に気づいていない

倒され、また立ち上がる

ただそれを繰り返すヘリアは何度も何度も転がり続けてボロボロになる様は永遠と同じことを繰り返すシーシュポスのようで、手の汗を握るようにいつの間にかコラリーも願ってしまった

 

『……ッ!やった!』

 

彼女は成し遂げた

素手で機甲を打ち倒すという無謀な偉業を

ヘリアの勝利を願ったコラリーも思わず感嘆の声を出してしまうがそれはヘリアに届く事はなかったのがコラリーにとっても幸いであった

 

そうした経緯もあってかコラリーからするとヘリアの印象はそこまで悪いものではない

今まで話したこともない『他人』であることも変わりないが、あの日見届けた訓練風景はギクシャクしていた義母との日常を取り戻す切っ掛けとなったのだ

 

「ヘリアさんは…この前新任してきた雷電芽衣先生については知ってるよね?」

 

「うん?知らないほうがおかしいと思うけど…」

 

「だよね。なら同じように養護教諭の信任もいるのも気づいてた?」

 

「ん?…そんなのいたかな…」

 

こうして話してみればコラリーも驚くぐらいに頑固な気質だとヘリアの人間性が分かる

だからこれは単なるお節介

すぐに思い悩む癖に頑固な完璧主義者、自分を卑下する割に負けず嫌いなヘリアの助けになるだろうという、彼女に対する一方的なお礼のようなものだ

 

「正確には保健室の先生じゃなくてメンタルケアが専任になるんだけどね」

 

「それってあたしのメンタルに問題があると言ってるようなもんじゃ…」

 

「ヘリアさんがどう考えてもここで泣きながらワド吸いをしてたのも変わらないでしょ」

 

「泣いてない!変なことを捏造しないでよ!……それと、あたしのこともヘリアでいいよ」

 

まるで付き合いの長い友人の言う冗談を唐突に言い出すコラリーには、ヘリアからすれば距離間の分からない変な人という印象は拭えなかった

それでも冷静になったヘリアも少しばかり分かる事もある。コラリーという少女は彼女なりにヘリアにお節介を焼いてる事ぐらいは

そうした好意を受け取らないほどヘリアも意気地になったりはしない

 

「色んな印象を受ける人だと思うけど相談してもらうのも悪くないよ?きっとヘリアの助けになると思うからさ」

 

「色んな印象?結構複雑な人なのかな」

 

「うーん…まぁ会ってみれば分かるけど…第一印象で言えば…

───ピンクの妖精さんかな」

 

 

 

あれから半年ほども交流もあればお互いの人柄が見えてくるものはある

言葉が足りないとか見えているものが見えてこないとか…まだお酒も飲めない少女たちからすればたった一日でも人の印象というのは更新し続けていくものだ

遠くから見ていても印象というのはその人の分かりやすい長所と欠点しか分からない

その人の抱えている考え方や本当の良い所というのは接する事で初めて分かるもの

 

だからこそ、コラリーはヘリアという頑固者を気に入った

猪突猛進とも取れる無謀な道を歩み続けられる努力家な一面、本人が今はまだ認めなくても立ち上がり続けられるその強さを尊敬している

 

だからこそ、ヘリアはコラリーという隠れた情熱を持つ人を気に入った

普段は不真面目そのもの、何を考えてるのか分からない上に突拍子のないことを言い出すこともあるけれども、自身の憧れと変わらない熱いものを心に宿している事も理解している

 

「ヘリアもたぶん知ってるだろうけど…例の火星探索計画…立候補するんでしょ?」

 

「当然。別に地球が平和である事に不満もないし、喜ばしい事ではあるんだけどね。でも今のままじゃあたしの目的も叶いそうにもないって分かってるし。コラリーも?」

 

「うん。火星の探索そのものはそこまで興味はないけど今のうちに惑星間移動の第一人者になるのも良いと思ってね。論文としても悪くないテーマだろうし」

 

「はぁ…そうやって気軽に参加志望を決めれるのもコラリーらしいよ」

 

戦乙女を目指す内にヘリアは内心の人間性というものを理解しつつある

災厄を経験し、平和を尊ぶという心はある

力無き者を守るという正しき意思を持ち合わせている

その上でヘリアは自分が平和で何もない時間を過ごすのに向いていない、悪く言ってしまえば自身が活躍できる何らかのアクシデントを求めている部分に気づいた

もちろん今の地球は過去の崩壊による復興事業が多く、その中でも戦乙女の助けを求めている声も多いのはヘリアとて分かっている

しかしそれはヘリアではなくても、それこそ戦乙女ではなくても時間をかければ誰でもできるようなことなのだ

彼女が目指す黄金の如き憧れデュランダル先輩…それを辿り着くには誰にも挑戦したことのない困難な道を歩み続ける他ないのだ

 

そしてコラリーもまた、この世にはまだまだ解けない多くの謎を解き明かしたい欲求があった

それは博士である義母の影響かもしれないし、生死について考え続けた自身の悩みに関係しているかもしれない

ならば、多くの未知に向かってあえて足を踏み出せば多くの謎の解決の糸口に繋がるかもしれない

そして解決したところで未知は新たな謎になるだろうけど、少なくともコラリーという人生はその度に暗闇に一歩踏み出す事ができるランタンの灯と成り得るのだ

そうした産まれた暖かな灯が、悩みの全てを照らしてくれる日になることを祈って

 

火星探索計画

それは天命で密かに動き出したプロジェクトであり、火星に生命の痕跡が確認されたために立案された

見つかった経緯はやはりいつものお騒がせピンクのカービィであり、カービィと共に火星に行く事となった民間人の双子の少女と元ネゲントロピーの少女の証言によって明らかになった

 

太陽系文明は地球以外にも文明があったのではないかと推測されているが、そのほとんどが崩壊によって文明は破壊され、消滅していると見なされていた

しかし火星には地球と変わらないレベルの文明と人類種がいるとなれば話は別だ

カービィという地球外生命体こそいるが、それとは別に人類種とは決して孤独な存在ではないと改めて証明できる

 

そのことに湧かない研究者もおらず、どうにか計画を進めようとするが天命でも草案の段階だ

何せ地球は崩壊による災害の復興が始まったばかり。大型都市の中心を除けばまだまだ支援を必要とする地区は多く存在する

更にカービィのワープスターなら一瞬で行けても純粋に人類の技術だけで行こうとするなら専用の宇宙船と長い旅路の時間も必要となるだろう

今はまだ、そのような余裕はない

 

しかしいずれは戦乙女を中心とした調査任務がやってくるのも確信めいたいものを二人は感じ取っていた

調査隊員としての選ばれるために力と可能な限りの実績を持たなければならない

カービィに頼み込んで火星に直接行くのも手だろうが、こういった事業は自らの手で行ってこそ価値があるものだ

何よりいくら星の超えた盟友と言っても都合の良いことをあれこれ言うのも印象がよろしくない

あくまでカービィは遊びに行って偶然火星の文明を見つけただけ。そこから調査をするならそれは地球人類の仕事なのだ

 

「……よし、できた。ワドルディ、おいで」

 

"わにゃ?"

 

会話を続けながら器用に編み棒を動かし続け、ようやくヘリアはひとつの作品を作り上げた

呼ばれたワドルディは過去にヘリアのことを心配し、吸われた事もある個体だった

見た目では見分けのつかない不思議な生きものではあるが、ヘリアも段々とだが学園内の生きものたちぐらいなら見分けが付くようになっている

コラリーの頭から飛び降りてヘリアに近寄ると、毛糸の帽子を被らせてもらった。周りのワドルディはいいないいなとわにゃわにゃと鳴いている

 

「おぉ…ワドルディも可愛いものを貰ったね」

 

「ふふ…それだけじゃないよ。ちょっと後ろを見せてみて」

 

言われた通りに毛糸ワドルディがくるりと回ると一目瞭然だ

オレンジの丸いボールに乗っかかる赤色の帽子と先端にある編まれた緑の葉が一枚

まるでリンゴのような見た目であり、もしもカービィが後ろから見ていれば思わず吸い込んでしまうだろう

 

「へぇ…ヘリアもワドルディの可愛さを高めるセンスがあるんだね。10点満点を上げよう」

 

「どこから目線なのそれ……それと、これ…コラリーの分だから」

 

「えっ?」

 

それはコラリーでも予期できなかったことだった

手作りのマフラー

実親に捨てられ、そういったものとは無縁に生きていたコラリーにとって初めてのプレゼント

 

「寒くなってきたから…コラリーに必要か分からないけどついでに作っておいたんだ」

 

「ふーん…ついで、ついでかぁ…そうだよね、出会って半年のコラリーさんにはついでで十分だよね。ワドルディのついでだもんね」

 

「嫌なら回収するけど」

 

「嫌とは言ってないよ」

 

半年も付き合えばそれが本音ではないことは分かっていても、マフラーを回収しようとすればコラリーはサッと身を翻す

作りとしては何の変哲もないただのマフラーだ。白色を基調としながらも黒の毛糸を使われてるであろう犬のマークが小さく埋め込まれているあたりに器用な出来栄えである

まさか他人からのプレゼントを貰えると思っていなかったコラリーの尻尾が揺れている

感情によって尻尾が揺れ動く事に彼女も気づいているのだろうか?ヘリアも少しばかり苦笑せざる得なかった

 

「それで、コラリーはこの子たちに何を上げるの?」

 

「ん?帽子被りになっちゃうけど私の好きなブランドが出してるキャップをかぶせようかなって」

 

「市販品で済ませる気なの…」

 

「いいんだよ。こういうのは気持ちが籠っていれば良いんだから。私が好きなブランドの帽子をこの子たちがかぶる。それで感謝は無意識に伝わっていくもんだよ」

 

屁理屈だよコラリー

はぁー…これだから生真面目バカは…

口ではそう交わしながらも二人の感情に悪いものはない

季節は変わり目、これから段々と寒くなっていく中でも少女たちは日々変わらずに邁進を続ける

 

平和となった地球

遥か遠くの星を見据えながらも、平和の維持もまた残された人々の大事な役目だ

次なる任務が次の平和に繋がるように、次代の戦士候補は力を蓄え続けていくのだった

 

 

 

 

 




ヘリアちゃん
聖フレイア学園に通う戦乙女候補の学生
憧れは高く、険しく、太陽のような輝きには手が届かないほどの距離がある
それでも挑み続ける事があたしの生き方、それを諦める事は決してできない
だから、見ててねコラリー!


コラリーちゃん
聖フレイア学園に通う戦乙女候補の学生
悩みは多く、未知への恐怖と高揚感はそれを忘れさせてくれる冒険になる
諦めてしまいそうになっても人は立ち上がり続ける事ができると教えてもらったんだ
だから、応援しているよヘリア
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