月のプププランド   作:AmanatuTaruTaru

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かなわぬ きせきを 願っている。信じるんだ…ひとすじの希望を 大団円を!!


氷のアナちゃん

 

 

 

地球が平和となったと言えどもそれは言い換えれば少し前までは平和ではなかったということになります

今では崩壊現象で崩壊獣が暴れるような災害も消えたとはいえ、まだまだその爪痕を残している地域は沢山あります

人も資材も、ついでに不思議な生きものがわにゃわにゃといっぱいいるような土地なら良いでしょう

それだけの流通があるということは場所としての需要もあり、必然的に復興も早くなります

 

しかし人も消え、資材も優先されないような土地であればどうでしょう?

かつては珊瑚島と言われた美しい街並みと海のあった土地は随分と寂れてしまいました

観光地としての需要が高かったのも今は昔

律者が降臨し、街並みが破壊され、更には気候変動でちょっと住みづらくなってしまったようです

暖かな気候ではなく常に寒々とするようになった土地に人は寄り付きません。不思議な生きものだって暖かい日差しが大好きなのです

 

その土地に産まれて、生きて、住んでいた人たちを除けばですが

 

災厄が消えた以上は生まれ育った土地をどうにかしたいと思うのは故郷を愛する心があるからでしょう

天命もまた、そうした人々に細々とながら支援をする形で何とか珊瑚島の人たちは食べていけるようです

 

「……よっと」

 

まだまだガレキだらけでとても安全に人が住める場所ではない中、ひとりの少年が黙々と片付けているようですね

彼は陳くん

秘密結社ヨムルンガンドの幹部で『フクロウ』のコードネームを持つ少年です

秘密結社にコードネーム…カッコいいですね!子供が聞いたら目をキラキラさせそうな経歴です!

 

しかし実情としては天命に敵対に近い立ち位置にいた陳くんはそこまで環境が良いものではありません

なにせ崩壊の災害を阻止する天命と敵対するということは一般の人たちにはあまりよろしくない活動をしているのです…もちろんヨムルンガンドだって崩壊を何とかしないという組織ですがこればっかりは思想の違いですね

崩壊大戦も終わって平和になった後、生き残った陳くんはヨムルンガンドの幹部として裁判にかけられたようですが別に処罰を受ける事無く即日釈放というスピード採決で終わりました

精々ちょっとした監視と奉仕活動を命じられて、珊瑚島での活動もその一環だったのです

 

肉体の大半を機械の身体にしているスーパーサイボーグボディな陳くんですが今となっては疲れ知らずに作業ができるぐらいの恩恵です

かつては崩壊から生き残るため、戦うために求めた体が寂れた土地の復興を行うとは人生わからないものです

 

「おーい坊主!そろそろ休憩の時間だ!」

 

「……いえ、俺はまだやれます」

 

「お前がやれても俺らが休めねぇんだよ!こういう仕事は全員働いて全員休む!そうしなきゃ先走った奴が出ると工程にミスができるんだからよぉ!」

 

疲れ知らずの陳くんですが、普通の人たちはそうではありません

毎日毎日重たいガレキをどかして動かしてどかして動かすのはそれだけで重労働!

何せ海上都市と言える規模なのですから例え重機があっても復興の前段階ですら容易ではないのです

 

「お前が事情持ちってのは天命の嬢ちゃんから聞いてるし深くは聞かねえけどよ。現場にいる時だけは俺の指示に従ってくれや」

 

「…はい、すみませんでした」

 

陳くんにとって地球の復興作業に力を貸すのは奉仕活動であることを抜きにしても自分の意思で行うべき事だと思っています

それこそ機械の身体で無理は効きますし、無理をして壊れててでも活動をするのも辞さない覚悟です

なぜなら陳くんもまた文明の破壊者である律者であり、復興に手を貸す珊瑚島の崩壊を招いたひとりだからです

 

愚かしい真似をしたと痛感する自らの過去に悔むのはもう過ぎ去っています

そんな現地の人たちに何の得にもならない自分の感情よりも、今を生きようとしている人たちに手を貸すのは贖罪の意思そのものでした

 

律者と言ってもすでに力のほとんど失って権能の一つもありません

というよりも自らの権能はもうひとりの律者に全て譲歩したことで元より残っているものはないと言ったのが正しいでしょう

幸い機械の身体はそのままなので肉体業務は普通の人より働けるため、細かなガレキの撤去では大活躍のようです

 

「しっかし何時になったらこの作業も終わるんスかねぇ」

 

「さあな。建て直すどころか道路の再工事もいつになるやら…噂の働き妖精とやらがこっちにも湧けばいいんだが」

 

「あー…ワダルディ…ワドルドゥ?でしたっけ?結構可愛いッスよね。でも働けるんですかねあのちっこいの」

 

「ホムのほうが可愛いがな。まぁ今は猫の手でも借りてえぐらいだわ」

 

休憩所には多くの作業員が寛いでいますが終わりの見えない作業には少々気が参ってるようです

いくら天命の支援があるとはいえ作業用の重機も少なく、故郷の復興のために力を貸してくれる住民もいるとはいえ都市丸ごと一つの復興は気合でどうこうなるものではありません

どうやらこうした寂れた土地には不思議な生きものも出てこないご様子…これでは都市としての機能の回復がいつになるやら分かったものではありません

 

「坊主、休んでるところで悪いがちょっと良いか?」

 

休んでると言っても陳くんの身体に疲れはありません

精々自己のメンテナンス機能で支障がないかをチェックするぐらいで働こうと思えば24時間30日間動き続けることだって出来るでしょう

そんなことをしてしまったらキアナちゃんとカービィですら恐怖のあまりに椅子から転げ落ちるぐらいの労働力の圧に屈することに違いありません

 

「今日の新人なんだが奥の慰霊碑に花を送りたい奴がいてな…まだ俺らが危険だからお前か天命の嬢ちゃんぐらいしか行けないんだが…」

 

「大丈夫です。行きますよ」

 

崩壊現象という災厄の実態が明らかになってるのは最近のことです

それまでは世界でよくある災害の犠牲者に過ぎず、それが崩壊現象によるものだと認知されていませんでした

そうした悲しい犠牲者を慰めるために建てられた慰霊碑があるのですが、現在の珊瑚島では一般人に近寄れない場所にあるのです

 

「悪いな…」

 

「気にしないでください…俺にも気持ち、わかりますから…」

 

崩壊現象は陳くんの全てを奪ったと言っても過言ではありません

肉体の大部分を機械に置き換えないと生きていけない怪我はもちろんのこと、最愛の肉親でもあった妹も失っているのです

それが崩壊という現象であることも知らず、知ってもただの現象に憎むという行為すら出来ないのは悲しくやり場のない感情しか残されません

せめて慰霊碑の犠牲者を尊ぶこと

それだけが生き残った者だけが許される慰めなのです

 

陳くんは慰霊碑に捧げる花束を受け取ると珊瑚島の奥地へと突き進みます

かつては多くの観光客や現地の人たちが賑わい、行き会う街並みだったのに今では何処もガレキだらけで人っ子一人いないのです

建物の多くは倒壊の危機がありますし、人類が数十年費やした文明の象徴はわずか数時間でこの有様なのですから崩壊の恐ろしさが身に染みわたります

 

そうして奥地に行くと珊瑚島を一面に展望台らしき場所に辿り着きます

慰霊碑の周辺には肌寒い中でも自然に咲いた花が広がっているではありませんか

そう、たとえ崩壊によって町が滅ぼされてもそこに生きる命はまた芽吹いていくのだと言わんばかりに

 

慰霊碑の前に祈りを捧げるような女の子がひとり、陳くんより先にいたようです

それはまるで自身の行いと過去を懺悔をするように、それはまるで犠牲になった人たちの安寧ではなく自身の許しを請うように

 

「……陳?」

 

「アナ、来ていたのか」

 

「うん……あなたも今日の新人さんに託されたのかな?私も新しく派遣された子の代わりにね」

 

天命から復興の支援のために派遣された戦乙女にして陳くんの監視隊員でもあるアナちゃんです

戦乙女だけあって雪のように白い肌に見た目は儚げな美少女であっても一部隊の隊長だけあって強さは本物!

サイボーグパワーの陳くんであっても逆にワンパンされてしまうでしょう

 

陳くんが現場の作業員であるならば、アナちゃんは現場監督を行っています

なにせ陳くんはともかく多くの作業員、天命から派遣される子も戦乙女を除けば事務職の一般人ばかりなのです

有事の際に備えてアナちゃんは監督として待機し、多くの一般人のスケジュールと作業工程を指示する役割を担っています

そうした指揮をする立場は今後の隊長職に役立つとスーパーメイドのお偉いさんからも言われてます

 

慰霊碑には多くの名前こそ刻まれていますが、律者が降臨し、珊瑚島の崩壊と共に犠牲になった人たちの名前はまだ刻まれていません

あくまで過去に起きた災害の犠牲者だけのお墓であり、花と祈りを託そうとした人たちが捧げるべき人たちはまだ真の意味で慰められていないのです

それでもいつの日か、生まれ育った町を復興して、失った人たちが次の明日に歩けるという日のための多くの祈りがここにあります

 

そうした祈りが多ければ多いほど、アナちゃんはその重さに押し潰されそうになってしまいます

自分の弱さが招いたことでした

自分が逃げ出そうとしたことが原因でした

そして目の前にいる陳くんこそがアナちゃんにとっての罪の象徴でもありました

 

天命の一部隊を率いる隊長という身分ですらアナちゃんにとっては苦痛の座でもあります

苦しい訓練の日々を過ごしても、崩壊から人類を守るという気高い意思を持ちながら戦場に赴きました

 

ですが現実はかくもつらいもの

倒れる仲間たちと怖くて恐ろしい崩壊獣を目の前に、アナちゃんは人類を守るための戦士でありながら引いてしまったのです

目の前に救うべき命があったのに

目の前に助けを求める命があったのに

そこに救うべき命があるなら自身を散らしてでも戦った仲間のように、アナちゃんは戦えませんでした

 

そうした罪悪感に悩まされていたアナちゃんもまた、陳くんのように同時期に律者に覚醒してしまった子なのです

逃げ出すことでたまたま生き残れて、空いた席に座るように居座れた隊長の座に自己嫌悪しながら、文明を崩壊に導く代弁者となるとはなんと優しくない世界なのでしょうか

それとも、それこそがアナちゃんの受ける罰とでも言うのでしょうか

 

「きっと…この街が立ち直る日が来ても俺もアナも…自分を許せる日が来ないかもしれない…」

 

生きることすら放棄して、理性の無い怪物に変わろうとするアナちゃんを何とか救おうしたのは陳くんでした

陳くんにはかつて、崩壊現象で死にかけた過去を持ちますが救助してくれたのもアナちゃんという偶然があったのです

君は臆病で、戦乙女としても覚悟が追いつかなくても、それでも救われた人がいるのだと伝えるために

 

しかしアナちゃんにはそれは伝わりません。いいえ、伝わってもアナちゃんはそれを受け取る資格がないのです

アナちゃんが覚悟を決めて助けた陳くんですが、その陳くんが守りたかった妹を見捨ててしまったのもアナちゃんなのですから

 

そうした酷い過去をひた隠して、アナちゃんを助けるために律者の力を譲歩した時に融合した記憶と感情に陳くんは真実を知りました

すでにアナちゃんは生きる希望すらないことも、救おうとしていた人が自分の妹を見殺しにしたことも

 

真実を知ったことで恨まない気持ちがないと言いません

それでも助けてくれたことも、今もまだ戦乙女として踏ん張っている事も変わりません

だからこそ、自分勝手にもひとりの人間として陳くんは願ったのです。それでも君には生きてほしいと

 

後悔と自責、贖罪と真実

ふたりの律者は文明を葬り去るよりも先に自身の消滅を願い、戦乙女としての吟味を最後を果たそうとしました

 

「それでも生きていくこと選んだのは私たち…これで引くようならまた叱られちゃう…さすがにもうあのビリビリは御免ね」

 

「ああ…まったくだ」

 

崩壊大戦が終わってからもこうして苦笑をするだけの関係になれたのも平和な時間のお陰かもしれませんね

生きる事を願いながらも死を持って怪物の誕生を終わりにする

それに待ったをかけたのもまた、同じ怪物の力を持った律者だったのです

角を生やした綺麗な女の人は生きる事から逃げ出すなと言わんばかりの鬼気を持って襲い掛かってきますし、逃げようにもワープですぐさま追いかけてくる始末

正直ふたりも今まで生きてきた中で一番怖かったと言える相手です

 

陳くんからすれば当時は人類の敵である律者がヨムルンガンドの同志となったと聞いた時は何の冗談かと思いましたが、今でもあの暴れっぷりはやっぱり冗談か何かかと思っています

散々ビリビリと食らった身からすればもう二度と戦いたくありません

芽衣先輩、今でも恐れられています!

 

「雪だ…」

 

花が咲き誇るほどに春は到来しても、気候の変わっている珊瑚島では季節外れの雪が舞い降りてきます

元々肌寒いと言える中で更に気温下がれば珊瑚島での作業効率は落ちてしまうでしょう

しかしその雪は、決して悪い贈り物ではなかったようです

 

「……雪、だるま…?」

 

「わぁ…もしかしてこの子って…」

 

雪が積もるよりも先に、慰霊碑の周辺から小さな小人のようなものが出現します

それはまるで子供の頃に作った記憶にあるように、帽子のようにバケツをかぶらせた雪だるまそのもので、力強さも感じさせる太いまゆげがあります

平和な世界になってからも珊瑚島に発生しなかった、崩壊獣の代わりのように産まれてくる不思議な生きものでした

 

雪だるまたちは各々に冷気を操ると氷の彫像が次々と産まれていきます

産まれて初めて目にした花畑を模したように、氷の花が慰霊碑の周辺に天から祝福されたように咲き誇っていくのです

 

「人だけじゃない、か…こいつらが増えたらもっと賑やかになるのかな」

 

「そうだね。そうなると、良いね…」

 

きっと雪だるまだけではなく、わにゃわにゃした生きものから空を飛ぶ生きものまで珊瑚島に増えていくでしょう

今はまだ復興の兆しも見えていなくても、そこに生きる命があり続ける限りは希望はあるのです

 

「帰ろう…みんな待ってる」

 

「うん…」

 

いつまでも慰霊碑にいる時間はありません

後悔に塗れた過去を振り返るのではなく先に進むための力にするために

そのために自分たちの足があって、歩き続けることができるのですから

 

そして重たい枷を背負って歩くのもひとりじゃありません。陳くんもアナちゃんも、お互いを支え合って生きていくでしょう

降り積もる雪にふたりの足跡が刻まれ、途中で立ち止まっても足跡の数だけきっと強くなれるはず

だってその後についていくように不思議な生きものたちもついていくのですから真っ暗な中でおっかなびっくり歩くこともないのです

大丈夫

あなたたちの歩く道は決して悪いものになったりしません

そんなわるーいことが起きるようなら、きっとふたりを懲らしめた厳しくとも優しいかみなり様が駆け付けてくれるでしょうからね

 

 

 





チリー
たくましいまゆげの雪だるま
冷気を帯びた体はとっても冷たいけど、きみのためなら例え火の中水の中だって駆け付ける
心は温かいヤツなのは何処の世界も変わらない


陳くん
秘密結社ヨムルンガンドの誇るスーパーサイボーグ少年
でも目からビームも撃てないし、翼を生やして空に飛べたりはしない
真実を知りながらもそれでも生きてほしい事と願った彼の道は険しく厳しい
だけど君はひとりじゃない。いつだって隣には一緒に罪を背負う彼女がいる


アナちゃん
天命の誇るスーパー美少女戦乙女隊長
でも根は臆病で戦うことは怖いし、時に逃げる事だってするとても人間らしい女の子
過去を悔やんでも過去は変えられず、今を生きる事が罰なら受け入れて歩き出すしかない
だけど君はひとりじゃない。いつだって隣には一緒に罪を背負う彼がいる






珊瑚島に降臨するふたりの律者
氷と岩は混ざり合い、罪に意識に耐えきれない孤独な少女は 崩壊の化身になろうとしている
もはや人の心を失った怪物は 怪物として 倒すしかないのか…
いいや、僕らの芽衣先輩はそんなことであきらめるような女の子じゃないぞ!
生きることから逃げ出すようなわるーい子は!星に変わってお仕置きよ!
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