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数えきれないほどの夜を超えて、星を数えていた。
ただ一人、深淵の底にうずくまって、星を数えるのだ。
天空を指さし、一つ、二つ、と。
それが唯一、この晦冥《かいめい》で与えられている自由であった。
ここには、よき隣人であり、誰にも親しみを向けることも敵意を向けることもない暗黒のほか、何もなかった。
ひとつが瞬き、ひとつが消える。それは繰り返す、生と死の円環。
胸の奥にあるのは空虚ですらない。
——そこにあるのは、ただの、無。
無間地獄の中で、自らの意志すら消え失せて、ただひたすらに、星を数えていた。意志などと呼べるものが最初からあったのかどうかすら、分からない。
ある夜を超えた時、闇の中で、手の触れそうな距離に何かが現れた。それは弱弱しい燈火《ともしび》のようで、ふいに燃え上がったかと思うと、すぐに消えてしまう。
そんなものが、一つ、二つと増え、次第に視界を覆いつくすまでになった。
それらとて、何ら情動を左右するものでは無かった。
天空にあるか、地にあるか。星と燈火にはそれだけの違いしかなく、ともすればその燈火は、次第に地を赤く染め上げて、天の星の瞬きを隠してしまう程になった。
現れては消える燈火が、次第に憎らしくなった。
これほど近くにありながら、手を触れることもできず、愛おしむ暇すら与えず、わが身を嘲る様に消え失せる。
燃える大地は空を照らし、天を仰ぐこともやめてしまった。もう、星は見えなかった。
その時は突然訪れた。
眩い燈火が明確な形を成したのだ。見る間に、少女の姿を作っていく。
見慣れぬその光景を、無心で眺めていた。微塵の期待も、関心もありはしなかった。それが、言葉を発し、動き出す瞬間までは。
「あなたは、だあれ?」
燈火の少女は、そうして、赦され得ぬ大罪を犯した。少女との時間は、癒えることのない宿痾《しゅくあ》をもたらしたのだ。
それから、また幾つかの夜を超えた。語りつくせぬ夜を、少女と共にした。
少女の燈火は、ある時、漆黒の空へと昇っていく。感慨も無く、その様子を眺めた。
それが何を意味するのかも、知らないままに。
また、数えきれないほどの夜を超え、少女を待った。けれど、少女は現れなかった。
そうしてまた、幾つもの夜を超えてから。
ようやく、少女が永遠に失われてしまったことを知った。
代り映えのない天と地が、再び繰り返された。ただ一つ、新たに芽生えたものを除いて。
それは、少女がこの地に残した、罪。
——その罪の名前は、孤独と言った。
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