ユメニオチル   作:OrengeST

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第二十七話:南美亜子の秘め事

 どうやって帰宅したのか、三宅は覚えていない。気が付いたら、自室のベッドの中に潜り込んでいた。

 

 身体が芯から冷える心地がして、布団にくるまっていても、震えが止まらなかった。

 これほどまでに、よるべない気持ちになったことはなかった。美亜子の存在を頼りにしていたのだと、三宅は痛感した。

 

 だが、いったい、いつ?

 

 いつ、美亜子は黒い女に接触していたのか。それに、千紗都や鮎川浩司に見られた体調不良はなかったはず……。

 

 三宅は、息を呑んだ。

 美亜子の異変は、生じていたのではないか。ここ数日……いや、つい昨日に。

 

 思えば、彼女は何かがおかしかった。突然、家に泊ると言い出したり、寝る所を相互に監視するなどと言ったり。あれは全て、美亜子が自らを実験体として、黒い女の正体を暴くために、観察させていたのではないか。

 

 だとしたら、いつ、彼女は黒い女の夢を見たのか。

 

 早朝には、夢をシェアして教室の夢を見ていたはずだ。夢から覚めて以降は、美亜子はずっと起きていたと言った。実際その通り、放課後の美亜子は随分と眠そうだった。オカ研の部室では、コーヒーも飲まずにいて……。

 

 ——なぜ、彼女はコーヒーを飲まなかった?

 

 閃光が瞬いた気がした。個々では意味をなさない彼女の行動が、一つの可能性に繋がった。

 

 昨日の放課後、部室の美亜子はコーヒーを絶っていたのに、千紗都の病院から帰る時には、自販機の缶コーヒーを一気飲みしていた。

 あれは、眠る必要が無くなったからに違いない。自分が優香と共に、病室を離れていた僅か三十分。

 その瞬間に、彼女はどうしても眠りにつきたかったのだ。あの時に……。

 

 ——FREAMを、使ったのだ。

 

 昨日、美亜子は、自分にFREAMを持ってこいと言ったくせに、使う気配が無かった。

 そうではなかったのだ。美亜子自身のFREAMと、鞄に入ったままの自らのFREAM。その両者が、昨日使われている。

 

 片方は美亜子が使い……もう片方を、意識不明の千紗都に使わせたに違いない。

 美亜子が何故そんなことをしたのか、今なら分かる。美亜子は、千紗都の夢を共有することで、黒い女に接触しようとしたのだろう。

 

 そこで、彼女は本当に、黒い女と出会ってしまった……。

 

 三宅は、布団の中で拳を握りしめた。顔が、熱を帯びていくのが分かる。湧き上がる感情が、次第に胸を熱くさせた。

 

 どうして、美亜子は一言も、話してくれなかったのだろうか。なぜ、一人で戦おうとしたのか。

 

 昨夜、寒空の下で握った彼女の手が震えていたのを思い出す。あれは、果たして寒さからくる震えだったのか。

 彼女は、孤独な戦いの恐怖に震えていたのではないか。

 

「僕は……頼りないですか。先輩……」

 

 三宅は、布団の中で、押し殺すように呻いた。

 

 そのとき、不意に振動音が聞こえて、三宅は布団から這い出した。ローテーブルに置いた携帯電話が、振動で着信を示していた。

 発信元の電話番号が表示されているものの、登録されていない相手のようで、名前までは分からない。

 

 三宅は、肩を震わせた。再び寒気が襲ってくる。

 

 ゆっくりと手を伸ばし、携帯電話を手に取った。既に、コールは十回を超えているものの、止む気配はない。震える指先で着信ボタンをタップして、電話をそっと耳にあてた。

 

 耳元からは風鳴りが聞こえ、人の声はしない。三宅は動揺を悟られないように、息を殺して相手の言葉を待った。

 同時に、これ以上聞くべきではないという葛藤がみるみる押し寄せ、すぐにでも電話を切りたい気持ちで手が震えた。

 

「もしもし」

 

 それは、若い男の声だった。あまり聞き覚えのない声だ。だが、聞こえてきたのが女の声では無くて、三宅は心底ほっとした。

 

「もしもし。三宅君か」

 

 声の主は、こちらのことを知っているようだった。三宅は、おそるおそる答える。

 

「……はい、そうですが」

「おお、よかった。いや、よくないか。事態は非常に、よくないな」

「あの、どちらさまですか」

「俺だよ、王登だよ。今、病院からかけてる」

 

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