【祝・追放100回記念】 自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~竜のぬいぐるみ~ 作:高見南純平
第1話
「……ララク、キミを追放しないといけないみたい。死神のカードが出ちゃったから」
「……し、死神。……これも、運命ですか……」
冒険者パーティーに所属する若者・ララクは、リーダーから追放宣言を喰らった。
リーダーはタロットカードを宿屋の机の上に広げており、その手には鎌を持った死神の絵が描かれていた。
「きっと本当に、このまま仲間を続ければ、誰かが死ぬんだと思うよ。
ララク、キミの回復スキルは、正直微妙だからね」
このパーティーのリーダー・氷漬けのミシシピは、ララクの方からではその瞳が隠れている。彼女の頭からはウサギの耳が2つ生えており、それが折れ曲がり垂れ下がり、両目のあたりを隠していた。
だが、彼女の視界は問題ないようで、自分の選んだカードが死神ということをしっかりと把握できている。
「ミシシピさんの言う通りです、ね。ボクの【ヒーリング】は、かすり傷程度しか治せませんから……」
この世界の生物には、生まれながらにしてスキルと呼ばれる特殊技能が与えられる。体内の特殊エネルギー・魔力を消費することで、それを発動可能。そして主に戦闘を行うことで身体がレベルアップ→達したレベルに応じて新たなスキルを獲得、というのが基本ルール。
なのだが、ララクの場合はいくらレベルを上げても新しいスキルが増えることはなかった。
これが、現在のララクのステータスである。
名前 ララク・ストリーン
種族 人間
レベル 28
アクションスキル 一覧
【ヒーリング】
このレベル帯ならば、少なくとも5,6個はスキルを所持しているものなのだが、彼の場合はこれだけ。しかも、【ヒーリング】は少量しか傷をいやすことができない。
ララクは回復係のヒーラーとしてここに加入しているので、その仕事が全うできないのならば、クビになってもおかしくはない。
タロット占いで追放するか決めるのは、こことそのリーダーの氷漬けのミシシピぐらいだろうが。
このパーティーの名は「デスティリバー」。
リーダー、ララクを覗いてあと3人、在籍している。
その中の1人が、死神のカードに対してリアクションを起こした。
ターバンを巻いて砂漠にでもいそうな布服を纏った女性は、人差し指から目で捉えるのが難儀なぐらいの繊細な糸を射出する。
これがスキルのであり、スキル名は【スレッドドロー】という。
「ちょっと貸してくれる?」
「っありゃりゃ」
ターバンの女性はその糸をカードに巻き付けると、リーダーのミシシピから半ば強制的に自分の元へと引き寄せた。
糸使いの女性の名は、バクサ。「糸縛り」の異名を持つ、背の高い女性冒険者だ。
「なかなか出ないんじゃない、こんなの。まぁ、死ぬかもしれないなんて、冒険者やり始めた時から覚悟してることだ。
今更こんなのに怖気付く女にはなりたくないけど……、ただのガキが死ぬのは嫌かもね」
糸縛りのバクサが見下ろしているのは、宿屋の中でちょこんと立っているララクだった。彼はもうすぐ成人するが、背も低く幼く見える。まともに叩けもしない彼が、外界の敵・モンスターにむごい殺され方をするのは、心が痛むのかもしれない。
「女とか男とか、関係ないでしょう。誰でも、誰かが目の前で死ぬなんて耐えられませんよ。
マジョも、自分の死は受け入れますけど」
彼、いや彼女、否 この冒険者の言った「マジョ」という一人称は、この人物の名前である。水浸しのマジョルエル。
マジョルエルは筋肉質な体をしているが、それをロングスカートの魔導士用の装備で隠している。
性差を無くそうという信条だが、男とは何か、女とは何か、を考えるあまり、一番ジェンダーというものを気にするというジレンマに陥っている。
「……皆さん、お優しいんですね」
ララクは信じようとしている。自分のことを案じるが故の、追放なんだと。
(だけど、ボクも覚悟している側なんだけど。
それに実際、ボクは役には……)
ララクが冒険者を目指した時の初心を思いだしていると、突然彼の体が持ち上げられた。腹部あたりを大きな腕で抱えられて、そのまま出口のほうへと動かされていく。
この腕の持ち主は、最後のパーティーメンバー。
大猿人という、ゴリラの特徴が混じった人種であり、異様に腕が発達している。
「うるせぇうるせぇ。用なしに用はねぇ。
やっとこいつと離れられて、嬉しい限りだ。今夜は、いい夜になるぞ~!」
この男は、巨腕のヤギグゾク。彼は前々から、弱小ヒーラーに嫌気がさしていた。しかし、占いで物事を決めるリーダーのミシシピに、彼の追放を認めさせるのは難しい。
なので今回、死神という不吉な数字が出て、唯一歓喜していたのは、このヤギグゾクという男だった。
「ちょっとちょっと、乱暴はよくないですよ」
ララクの事をヤギグゾクが持ち上げたのを見て、慌てて制止しようとする水浸しのマジョルエル。老略男女、丁重に扱うのがもっとうなので、大猿人のヤギグゾクは少々荒々しく思えるのだ。
「じゃーま、すんなって。
だったら聞くがよう、全員こいつの追放には賛成なんだろ?
追放は追い出す、って意味なんだぜ」
宿部屋の扉へと歩いていたヤギグゾクは、足を止めて首だけ仲間たちの方へと向ける。彼に迷いはなく、今すぐにでも、ララクを追い出すつもりだった。
「……そうだね、カードには従う。考えるの面倒くさいからね」
リーダーのミシシピは、死神カードを持つ糸縛りのバクサから、それを取り返した。彼女は背がそこまで高くないので、軽く跳んでカードを取り返した。その際に耳が揺れて隠れていた瞳が少し見えたが、ララクにはそれを確認している余裕などなかった。
「……反論が、思いつかないな」
カードを離した糸縛りの砂漠は、部屋の壁にもたれかかった。そしてララクの方を見つめることはなく、窓からのぞく空雲を眺めていた。
「……確かに、マジョたちにララクくんをフォローする資格はないか……」
全員が口を閉じると、巨腕のヤギグソクはニヤリと笑った。この日を待ち望んでいたのは、間違いなさそうだ。
「決定だな。それじゃあ、すぐに……」
ヤギグゾクがドアノブに手をかけると、すたすたとリーダーのミシシピがララクの元へとやってきた。
「おいミシシピ、運命には従うんじゃないのか?」
「ん? 邪魔しきたんじゃないよ。やり残したことあったから」
そう言ってミシシピは利き腕を前に出すと、抱えられたララクの手に自分の拳をぶつける。両者の手には、青白く光る剣のような形をした紋章が刻まれている。
これは基本的にあらゆる生物についており、スキルやレベルアップの管理をしている。そしてパーティーの管理も。
「今日で、ララク・ストリーンとのパーティー契約を解除する。っはい、これで終わり」
「なるほどな。手続きは大事だ」
彼女が宣言をすると、2人の紋章から淡い青い光が飛び出してちりぢりになっていく。紋章同士で登録しあうことで、レベルアップに必要な経験値(主にモンスター討伐で得られるデータ)を共有することができる。
そして、これをパーティー契約といい、当然解約することも可能だ。
「……はぁ。えっと、短い間でしたが、お世話に……う、うわ」
ララクが最後に別れの挨拶をしようとしたが、間髪入れずにヤギグソクは部屋の扉を開けた。
「あばよ、回復もできねぇヒーラー」
そう吐き捨てると、ヤギグゾクは宿屋の廊下へと、ララクを放り投げた。そしてすぐに、扉を閉めて、ララクとの間に壁を作った。
投げられたララクは部屋を追い出されて、しりもちをついていた。すぐには立ち上がらずに、深いため息をついていた。
(これで、たしか、48回目か。占いで追放されたのは、初だけど)
彼が追放されることに異を唱えなかったのは、これが始めたの追放ではないからだ。
彼はその不遇なスキル獲得状態により、なんどもパーティーから戦力外通告を受けていた。そして、ヒーラーという本来は有益な役職故に、様々なパーティーに加入してきた。
「はぁ、もう少しで50回。このままじゃ、3桁になるなんて……」
ララクは不吉な想像をしてしまう。先ほど見た死神の絵柄を思い出す。人の首を過労とする死神。死をつかさどる神様が本当に入るかどうかはララクには分からないが、心臓が冷え込むような感覚が押し寄せた。
「いや、きっと、きっともっとレベルが上がれば……!」
ララクは無理やり立ち上がり、宿屋を後にする。
だが、このあとも彼のスキルが増えることは一向になかった。
占いがこのことを予期していたかどうかは疑問だが、実際にララクの予感はあたった。
死神は、終わりと始まりを表す。
ララクはこの後本当に、100回目の追放を迎えることになるのだった。