【祝・追放100回記念】 自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~竜のぬいぐるみ~   作:高見南純平

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第3話

 飛翔するドラゴン型のぬいぐるみ。滑らかに旋回していくと、住処であろう広場に降り立った。

 地上に立つと、大きく広げられた布の翼を閉じてちょこちょこと歩いていた。

 おもちゃの柔らかくて質感のある水色の布地は、沈む太陽の黄金色の下でかすかに輝き、光の斑点がその縫い目の丁寧な縫い目を照らしている。

 

 周囲の岩場はギザギザで磨り減っており、割れ目には丈夫な草が生え、苔が点在して、厳しい環境を和らげている。近くには、風化した小さな洞窟があり、このおもちゃが選んだ隠れ家であることは察せる。近くに散らばった小石と滑らかで平らな石の上で、ドラゴンのぬいぐるみが穏やかなひとときを満喫しているように見える。

 

「がぁ──お」

 

 ドラゴンはあくびをひとつした。

 そよ風が空気をかき混ぜ、まばらな植物の間をざわめき、まるで生きているかのように、ぬいぐるみの羽が優しく揺れる。無生物であるにもかかわらず、ぬいぐるみは穏やかな存在感を放ち、荒々しい周囲と調和している。

 

 この光景を離れた位置で観察していたララクは、クエスト内容を今一度思い出した。

 

「どうやら、精霊が取り付いているというのは、間違いがなさそうですね」

 

「あんな、でっかいぬいぐるみあるんだ。ちょっとかわいいけど」

 

 ゼマは大きさに驚きつつも、少しだけその見た目に魅了されていた。

 水色と白を基調とした体は、可愛さを表現しつつもどこか洗礼されたオーラを感じさせる。特に角の生えた顔周りは、ギザギザに再現された歯など、迫力は意外にある。

 

「……うーん、しかし困りましたね。小型であれば、ボクの腕でも捕まえられますし、簡単だと思ったんですが。

 あのサイズだと、しっかり作戦を練って捕縛しないと」

 

「捕縛……そりゃそっか、ボロボロにしちゃったら、娘ちゃんが可愛いそうだもんね」

 

 今回のクエストの変わった点は、戦闘が視野に入りつつも、安全にターゲットを捕まえないといけない事。

 モンスターであれば、捕獲の際にもある程度ダメージを入れるのは一般的だが、ぬいぐるみだとそういうわけにもいかない。

 

「……濡れるぐらいだったら、その子も許してくれますかね……」

 

 ララクは顎に手を乗せて、ぬいぐるみの捕獲作戦を考えていた。すでにおおよその手順は考えついていた。あとは、ドラゴンがどういった動きで抵抗してくるかが問題だ。

 

「とりあえず行ってみる?」

 

 ゼマは背負っているアイアンロッドを抜いて、やる気を示した。

 

「ですね。他に外敵がいないので、これ以上観察しても、あまり効果は薄そうですし」

 

 山岳地帯には当然他にもモンスターが存在するが、小動物が多いのか、これといった巨悪な殺気は感じない。が、油断しているといつの間にか大熊と鉢合わせることもあるのが、山の恐ろしいところだ。

 

「じゃあ、速攻で参りましょう~。……ふぅ、【刺突】!」

 

 彼女は、まだ標的とはかなり離れている位置から、スキルを発動した。【刺突】は、槍や棒などを魔力で強化して、突きを放つシンプルなスキルだ。

 リーチの長い棒を装備しているとはいえ、山岳の別エリアに干渉できる物ではない。

 

 のだが、彼女のアイアンロッドには特別なスキルが付与されていた。

 

 ゼマが突きを放つ、その運動力に合わせてアイアンロッドがぐんぐんとその長さを伸ばしていく。研ぎ澄まされた突きの一撃が、住処の方へと勢いよく突き進んでいく。

 

 付与されているスキルは【伸縮自在】。魔力を流し込むことで、自由にその長さを変更すること可能になる。

 

 彼女が狙ったのは、ぬいぐるみではない。住処の両脇に置かれている大岩に、突きを放っていた。

 ごつごつとした岩に、鉄棒の先端が食い込んでいく。そこを中心として亀裂が入ったが、岩自体が壊れるほどではない。

 

 大岩にロッドが刺さったことにより、「ガシン!」と強烈な音が鳴った。

 それに対して、住処で寝そべっていたドラゴンが当然反応する。

 

「がぁああああああ!」

 

 4つの脚で立ち上がり、大翼をばさりと広げる。そして咆哮をあげると、敵襲に備えた。

 

「よっし、いくぞララク」

 

「っえ、っあ、そういう感じですか」

 

 ゼマは片手で、ララクの腕を掴んだ。すると、彼女はアイアインロッドが発動していた【伸縮自在】を解除した。

 これにより、強制的に大岩まで伸びていたアイアンロッドは、元の長さに縮んでいく。そして収縮する起点を、岩場に突き刺さった先端にした。

 

 ゼマはこの力を利用して、大岩の元へとララクと共に直行していく。山岳地帯上部から、崖を強引に下ってのショートカット。

 

 これにはララクも驚いたし、ぬいぐるみも動揺していた。

 

「うっし、現場到着!」

 

 ゼマは大岩にぶつかりそうになると、ロッドを大岩から抜いて、住処へとうまく着地した。

 

「っよ、っと。スリリングな移動ですね」

 

 ララクも直前でゼマから離れた。その際、足の位置を住処の地面に接地させるために、調整として空中で一回転して見せた。サーカス団員のように、華麗な曲芸だった。

 

「ゴオオオオオオオ」

 

 ドラゴンは激しく威嚇した。そしてすぐさま、突撃を開始した。両翼を羽ばたきながら、地面すれすれの高度で、直進してくる。

 

「……近づいてくれるのなら、ありがたい。【アイシクルタッチ】」

 

 ララクの指先がそっとドラゴン型ぬいぐるみの鼻先に触れる。 その瞬間、静寂が張り詰めたように場の空気が変わる。 ぬいぐるみの柔らかな布地に冷たい輝きが広がり始めた。降りるように、白い結晶がゆっくりと布の表面を覆っていく。

 

 ドラゴンの口がわずかに開いたまま、凍結がその形を固定する。牙を模した小さな布の縁や、口の中の影も、瞬く間に透明な氷の層に包まれる。

 

 この【アイシクルタッチ】は、ララクの元・仲間である氷漬けのミシシピが愛用するスキルだ。相手に触れることで、一瞬にして体を凍結することができる。

 

 それでは何故、ララクがこのスキルを使えるのか。

 彼はレベルアップを繰り返しても、一向にスキルが増えることはなかった。

 

 しかしララクが、100回目の追放を経験したことにより、特別な力を得る事になった。

 それが【追放エナジー】である。

 

【追放エナジー】

 

 獲得条件……パーティー契約を100回解除される。故意に自分から解除された場合はノーカウント(通算100回)。

 

 効果……パーティー契約を解除してきた相手、並びにそのパーティーメンバーのスキルを獲得できる。

 同じスキルがある場合、その数だけ効果が上昇する。

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