【祝・追放100回記念】 自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~竜のぬいぐるみ~ 作:高見南純平
第1話
「キミ、追放ね。ノリ悪いもん」
「っえ、そんな……。しかも、ノリって……」
冒険者ララクは唖然とした。
たった今、冒険者パーティー「リズダンス」のリーダーから追放宣言を受けたからだ。
場所は宿屋の客室。4人部屋の広間で、ララクも含めて4名で利用していた。
「ノリノリ~、大事なのはそれだけだから。全然動けてないし。
まぁ、スキルがないんじゃ、仕方ないかもだけど~」
背の高いリーダーには、狐の耳が生えていた。彼女は狐人のカタネハナ。戦いも踊りながら戦う妖艶な剣士だ。
「……確かに、今の僕にはスキルが1つしか、ありませんけど……」
スキル、それは生命に宿る特殊エネルギー〈魔力〉を使用して発動する特殊技能のこと。戦闘、移動、生活、様々な場面で活躍する。そしてそれらを使い、人々の悩みを解決するのが冒険者という存在だ。
そしてララクが現在、持っているスキルが以下である。
名前 ララク・ストリーン
種族 人間
レベル 14
アクションスキル 一覧
【ヒーリング】
まだレベルはルーキー冒険者の範疇なので、1つしかスキルがない事はそこまで異常な事ではない。
だが、この【ヒーリング】というスキルに、少し難があるのだ。
「あんたの【ヒーリング】、かすり傷を治すのにも時間がかかる。
意味ないって、それじゃあ」
両ひざを曲げて屈んでいる別の女性が、ララクの事をしたから睨んでくる。
彼女の名は、カポエラ娘のシバライア。肌の露出が激しい軽装の、小柄の女性。常に下から目線で威圧してくる。
「……その通りですけど。で、でも、これからレベルを上げていけば、きっと違う回復スキルが……」
っと、意を申し立てるララク。だが、カポエラ娘のシバライアはずっと睨み続けている。そしてリーダーの狐ダンサー・カタネハナは、即座に言い返す。
「私、今ノリが悪い奴には興味ないから。
明日、明々後日、キミがどれだけ成長しようとどうでもいいから」
「……そんなぁ……」
きっぱり言い切られてしまい、ララクはそれ以上反論できなかった。きっと、もう何を言っても、自分の評価が覆ることがない事は、空気で察っせれた。
そんな弱小ヒーラー・ララクに、新たに声をかけるものがいた。それが最後のメンバーで、犬の耳と尻尾を垂らしている若い男性冒険者だった。
「……」
彼は最初は何も言わずに、しょぼくれているララクに近づく。そして、ララクの耳に自分の口を近づくと、極小のボリュームで囁く。
「……僕は、のびしろがある……と思っているよ。
……でも、カタネハナは論理よりも感情だから。……ごめんね」
その犬耳の男性は、他の仲間に強く言われたララクをフォローした。基本的に小声の彼は、こうして他人の耳に近づいて話すことが日常なのだ。
「……ゼントツさん……。残念ですが……受け入れるしかないですね」
励まされたことで少しはショックが和らいだかもしれないが、追放される事実は変わらない。っしてその現実が、形となって押し寄せる。
「はいはーい、ということでお引き取りね~。
っと、その前に~」
リーダーのカタネハナは、客室を無駄にステップしたり回転したりして、出入り口の方へと移動していく。毎回ではないが、気分によって踊りながら歩くことがよくある。
カタネハナは扉に近づくと、やり残したことを思い出して自分の右手を、ララクの方に向ける。
「えーと、ララクー、ストリーンだっけ? との、パーティー契約を解除、します!
はい、終わり~。ばいばーい」
彼女とララクの手の甲には、青白い紋章が浮かび上がっている。これは他の仲間たちも有している。
この紋章が、身体のレベルアップやスキルの管理を行っていると言われている。
そして異なる紋章同士を共鳴することで、戦闘で得る経験値を共有する事ができるようになる。経験値は、レベルアップのために必要なデータだ。
これを、パーティー契約という。
そしてたった今、ララクと冒険者パーティー「リズダンス」との契約が破棄された。
リーダーのカタネハナは、すぐさま扉を開ける。そして笑顔で、しかも手を振ってララクを見送ろうとする。悪意のなさそうなその行動が、ララクの心をさらにえぐる。
「……お世話になりました」
ララクは仲間だったメンバーに一瞥すると、重い足取りで部屋を出ていこうとする。
それを見て、カポエラ娘のシバライアは特に表情を崩すことはなかった。部屋には椅子があるというのに、ずっと膝を曲げて腰を下げている。この姿勢が好きなのだろうか。
もう1人のメンバー・犬耳の青年は何か言いたそうにもじもじしている。
だが、ララクはすでに部屋の外を出ている。
リーダーのカタネハナが扉を素早く締めている途中で、突然と彼は叫んだ。
「ララクく~ん!! 僕は応援してるからねぇえええええええええええ!!」
その声は、宿中に消えてしまうほどの騒音だった。宿屋の受付係は部屋の方を不信がり、隣部屋の昼寝をしている翁は跳びあがった。
「あ──、うるさいうるさい。喚くなよ」
カポエラ娘のシバライアは、咄嗟に耳を閉じるが、あまり効果はない。
「うん! 相変わらずいい声だ。ゼントツのは」
狐耳を有するカタネハナだけは、彼の叫び声が聞こえて何故か嬉しそうだった。きっと激しい音楽に慣れているせいで、感覚がおかしくなっているのだろう。
「……ごめん、我慢できなかった」
彼の名は、叫び猫のゼントツ。声に関するスキルをいくつか持っており、そのために普段は喉を温存しているため、小声なのだ。
たまに、感情が高ぶると、今のように叫んでしまうことがある。
当然、この大きさの声は、扉の奥にいたララクにも聞こえた。
「……う、うぅう。ゼントツさん……。が、頑張ります」
彼も耳を塞いでいたが、ララクは特に胸に響いていた。騒音による嫌悪感と、感謝の気持ちが同時に押し寄せたのは初めてだった。
(み、耳が壊れそうだ。いや、そんなことより、問題はクビになったことだ。
……これで、12回目……。不運、いやボクが役立たずなのが悪いんだ……)
実はこの少年は、過去にも別の冒険者パーティーから追放された経験があった。
(はぁ、いつかもっと強力なスキルを得られるといいんだけどな……。
このままじゃ、これからも……)
ララクは自分で最悪の将来を想像して、背筋が凍った。レベルが上がればスキルをいくつか得るのが常識だが、例外もある。
ララクは宿屋の廊下をとぼとぼと歩いていく。
そんな彼の悲哀な予想は、奇しくも当たってしまう。
何故ならララクはこの後、様々なパーティーを転々として、ついに100回目の追放を経験することになるのだから。