「人間になりたかった」これを聞いた母は泣き出し、父は半狂乱になって怒った。母はG1を4勝した経歴を持ち、父はそのトレーナーだった。普通の学校に行きたかったのに中央のトレセン学園に進学させられた。勝負服を用意しなければならなかった。せめてこれだけはと思い、趣味の裁縫を駆使して理想の服を仕上げた。しかし、母に「一流デザイナーに依頼してるから余計なことをするな」と服を切り刻まれた。やめて欲しいと泣いて懇願したが父に叩き落とされた。G1を勝利すれば考えが変わるかもと「ホープフルステークス」に出場させられた。8馬身差で勝った。しかし僕の心は空虚なままだった。帰り際に2着のウマ娘に睨まれた。「これが欲しかったんでしょ?あげるよ」と優勝レイを差し出す。思い切り殴られた。その後のことはよく覚えていない。
世界を見れば変わると思ったのだろう。「凱旋門賞を見せてやる」とフランスへ連れていかれた。初めての海外旅行だった。凱旋門賞まで好きにしていいと言われた。郊外の小さな靴屋に入った。店員のおじさんは僕を人間だと思って対応してくれた。嬉しくて泣きそうになった。凱旋門賞前日、下見に向かった両親はテロ組織「神の鞭」の銃撃テロに巻き込まれて死んだ。臨時ニュースを見ながら「これで人間になれるんだ」と手を叩いて喜んだ。嬉々としてパスポートだけを持って空港へ向かった。テロ組織「神の鞭」はまだ街中にいた。彼らに囚われてしまった。人として扱ってもらえることを期待したがそんなことは無いらしい。「ウマ娘だから高く売れる。」そう言われるとシリアの富豪へと売られた。シリアでは労働力としてこき使われた。暴力を振るわれることもあった。しかし、日本で走るために生かされるよりずっと良かった。しばらくして日本の非営利組織の人道支援の名目で保護されることになった。とても優しい人たちだった。さっきまでテロリストと銃撃戦していたとは思えない程だ。僕の境遇に同情して人間として扱ってくれると約束してくれた。
信じられない・・・そう言ってまたウマ娘として高く売り捌くに違いない。「思い通りにはさせない」近くにあった包丁で耳と尻尾を切断した。このままでは繋げて元通りだ。鍋の中に放り込んで火をかけた。シンクに自身の姿が写った。見た目は人間そのものだ。「僕は・・・僕は・・・人間になったんだ!」お湯が沸く音と僕の乾いた笑い声だけが部屋に響いていた。