ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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祝日ということで頑張りました。
剣豪アクス君です。


【一千童子】(いっせんどうじ)

 正義の反対はまた別の正義という考えがある。

 異なった正義同士が戦う悲しい展開もあると、誰かが言った。

 

 ならば、悪とは何ぞ。正義とは何ぞ。

 

 強者が笑い、弱者が泣きを見たあの時代(あんこくき)。善と悪が最も激しく対立した数年前を正義の天秤(アストレア)の下に集った戦乙女たち。その中に居た凛とした雰囲気を纏った女剣士は、家も家族も失った僕にこう言った。

 

 他人に振るう正義を任せるな。己の中に問え、青二才。

 

 そう言った彼女は──愛刀と羽織を遺して時代の流れの中に吞み込まれていった。

 

***

 

 オラリオ。ほとんどの産業がダンジョンに依存している世界の中心と呼び声の高い都市である。

 今日も今日とて命をチップに跋扈するモンスターを切り伏せながら飯の種である資源を持ち帰る冒険者と呼ばれる者たちが危険を冒しに地下へと潜っていき、儲けを出すか、()()()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()といった博打を行っている。

 

 そんなダンジョンがあるバベルの前では、1件の屋台があった。

 

「かけ、熱いところをもらおうか」

 

「こっちはカキアゲ入れてくれ」

 

「大盛りでじゃが丸君」

 

 屋台に向かって幾人の冒険者が矢継ぎ早に己の食いたい品を告げると、屋台の中に居たパルゥムは『へいっ』と威勢の良い声と共に調理を開始する。

 蕎麦という黒に近い灰色の麺をザルに入れ、湯の中に入れる。既に茹でてあるために時間にして30秒。言葉に直すと、『ダルマさんが転んだ。ダルマさんがしゃがんだ。ダルマさんが政治に口を挟んだ』とちょうど言い切った頃合いで湯から引き上げる。

 

「ほいっほいほいっと」

 

 ザルに入った麵を何度か上下させることで湯切りを行い、未だ湯気の立っている麺を器に入れる。そしてこれまた熱々の出汁をたっぷりと入れ、既に用意していたカキアゲやじゃが丸君といったトッピングを上に乗せる。

 

「へい、かけの方は25ヴァリスね。カキアゲの方は30ヴァリス。大盛じゃが丸君は35ヴァリスお願いします」

 

「ほらよ」

 

「おー、来た来た」

 

「やっぱダンジョン行く前にはこれ食わねぇとな」

 

 メレンから仕入れた魚の干物や海藻の干物。後は【デメテル・ファミリア】が試験的に作ってくれた醤油などといった極東の調味料を入れた特性の出汁から漂うなんとも言えない香りに冒険者たちの腹が同時に鳴る。

 すかさずパルゥムに代金を支払った冒険者たちは、我先にと蕎麦にがっついた。ズルズルと麺を啜りこむ者に息を吹きかけながらフォークで不器用に食べる者など様々だが、一様に笑みを浮かべながら食べてくれているためにパルゥム──アクスは満足げにやって来る注文を順番に捌いていった。

 

 そうして数時間後。かなり仕込んでいた麺がすっかり無くなってしまう。

 材料がなければ何も出来ないため、彼はせっかく来てくれた客に謝罪しながら屋台を畳むとメインストリートを西へ向かう。

 

「タケミカヅチ様」

 

「おぉ、アクスか。もう終わったのか?」

 

「材料が無くなったので。手伝いますよ」

 

 汗をかきながらじゃが丸君を揚げている偉丈夫──タケミカヅチから調理を引き継いだアクスは瞬く間にじゃが丸君の衣をつけ、揚げる前の状態へと変えていく。

 しかもじゃが丸君はさまざまなバリエーションがあるため、混ざらないように徹底管理された上である。その路上パフォーマンスともいうべき手際に周囲の人々の視線が集まり、そこで傍から見て男前のタケミカヅチが威勢の良い声を上げて宣伝すれば──後は『大成功』という結果だけが付いてくる。

 

「私、ソース味!」

 

「俺、あずき!」

 

「塩1つお願い」

 

「小豆クリーム味。クリーム多め、あずきマシマシで」

 

 蕎麦の時と同じく五月雨に声をかけて来る客に、アクスは次から次へと揚げては客に渡していく。ただ、最後のお客のはカスタム品なのではじめからじゃが丸君を仕込んでいると、注文者である金髪のヒューマンが物珍しそうに見てきた。

 

「お客さん、クリームこれぐらい?」

 

「もっと」

 

「これぐらい?」

 

「もう1声」

 

 もはやクリーム多めというよりはクリームの暴力というぐらいまで詰め込んだじゃが丸君に衣を纏わせ、揚げていく。甘い物が苦手な人が居たら胸焼けして卒倒しそうなほど甘ったるい匂いが立ち上るが、件の注文者はまるで『これこれ』と言わんばかりに鉄面皮だった表情を崩している。

 

「おまちどおさま!」

 

「ありがとう。これ、お代」

 

「ありがとうございます。またのご来店を!」

 

 代金を受け取ったアクスの挨拶を背に、金髪のヒューマンはご機嫌な様子で去っていく。

 こうしてアクスという人員が増えたことでフリーとなったタケミカヅチはより一層呼び込みに気合を入れ、客を次々と引き入れて行った。……少々女性客が多いのは気のせいだろう。

 

「んなぁっ! あっちの売れ行きがすごいと思ったら、また君かぁ!」

 

「ヘスティア、アクスと連携した俺は……強いぞ?」

 

「分かってるよぉ! うぅ、ベル君も手伝って……いぃや駄目だ駄目だ! 僕の可愛いベル君が火傷でもしたら大変だぁ!」

 

 それは冒険者を舐め過ぎではなかろうか。そう思いながらじゃが丸君を提供していたアクスだったが、もはやじゃが丸君の材料も無くなりかけいることに気付く。

 タケミカヅチにそれとなく客をコントロールしてもらい、残った全ての材料を全てじゃが丸君へと変える。次々と注文が届くが、それら全てを対応しながら衣をつけたじゃが丸君を油の中へ投じ、出来た端から客に渡し──。

 

 やがて、最後の客が帰っていった。

 

***

 

「アクス、今日は助かった。出来れば毎日来て欲しいが……、そうなると俺がクビになりかねんな」

 

「こういうのはたまにが良いんですよ」

 

「そうだな」

 

 快活に笑うタケミカヅチが久方ぶりの酒を飲み干し、息をつく。

 かのファミリアは主神がバイトをしなければならない程に困窮しているものの、アクスの本業である『立ち食い蕎麦』と桜花たちの活躍で数日おきに飲酒が出来るような財政環境となっていた。

 

 桜花たちもどんどん下へと潜っていっているため、このまま行けば極東にある彼らの社への支援も磐石な物になるだろうとタケミカヅチは眩しい物を見たかのように目を細める。

 すると、先ほどから丼に入った飯を掻っ込んでいた偉丈夫が大口を開けて話し出す。

 

「それよりもアクス。そろそろ俺たちのパーティに入ってくれないか?」

 

「いえ、僕はあくまで何かあった時の補助要員と言ったはずです。それに、僕はあまりダンジョンに行っていませんし、ご迷惑になるかと」

 

「迷惑なんてことはないぞ。それに、俺たちは家族なんだ。遠慮なんてするな」

 

「桜花。まだタケミカヅチ様の御許しもないし、もうちょっとアクス君抜きでやってみよ?」

 

 前髪で目を隠した少女の言葉に桜花と呼ばれた偉丈夫が唸り声を上げるが、続けてタケミカヅチの『あまり焦り過ぎるものではないぞ』という言葉に不承不承といった具合に項垂れる。

 

 アクスのレベルは2。それもそろそろ3になるぐらいには経験が溜まっている。

 本来は桜花たちについて行くことこそがファミリアの成長に繋がるのだが、ここまでしてアクスが拒否するのは主に2つの理由があった。

 

 1つは構成メンバーの話だ。極東からオラリオに来たタケミカヅチは、元々暮らしていた()()でパーティを構成している。

 そのため、頭目としての地力が固まっていないと危ないとアクスは判断していた。それにこの心配はタケミカヅチも思っていたことで、『こればっかりは時間が解決することになる』と密かに決めたことでもある。

 ただ、桜花たちがダンジョンに行っている間や寝静まっている間に鍛錬に付き合ってもらったり、ダンジョンに行くのを見送ってもらっていたタケミカヅチがチラリと『嘘吐きめ』という視線を投げかけて来るが、アクスは見えなかった振りで誤魔化した。

 

 2つ目はアクスの元職場である。以前、彼が入っていた派閥は【ウラノス・ファミリア】。きちんとした派閥登録はされていないためにそんなファミリアは存在しないが、言い換えればウラノスの私兵であった。

 ギルド長を務めるロイマンの指示で、闇派閥(イヴィルス)と認定されたファミリア。その派閥に肩入れする商人。挙句の果てには汚職まがいなことをするギルド職員までを『正義』という甘い言葉で【ガネーシャ・ファミリア】と共に摘発と殲滅を行ってきた彼だが、とある冒険者(リュー・リオン)のブラックリスト入りで激しく対立。そのままウラノスに直談判し、ギルドを抜けてしまったのだ。

 

 アクスからしてみれば喧嘩別れした職場に魔石やドロップアイテムの精算を頼むということになるため、『何かしら嫌がらせされるかもしれない』という疑惑から同行を嫌がっているわけである。

 

(いやぁ、流石にギルドはそこまで心は狭くないんじゃないか? ……と言っても、聞かんしなぁ)

 

 ただ、2つ目の理由もアクスから聞いていたタケミカヅチにとっては『あり得ない』と論ずるに値するほどバカらしく思うことだったが、自信の無さからくる彼の心配性は生半可な説得では解消できないことは()()()()である。

 文字通り、『なるようになれ』という気持ちで杯に入れた酒を再び煽った。

 

 やがて夕飯も終わらせた桜花たちは、ダンジョン探索という冒険で酷使した身体を休むために床に就く。その間に離れを使ってタケミカヅチと簡単だが真剣そのものな()()()()()()()をしたアクスは、既に本日となる営業の仕込みを行ってから床に就いた。

 

 明日も似たような毎日。刺激は少ないが、今までが激動だった分だけ自分を見直すには必要な時間だと割り切っていた彼は、今日も己の中にある『正義』を問いかけながら床に就く。

 

 こうして、アクスの穏やかで代わり映えのしない日常が──続くことはなかった。

 

***

 

 とある日の夜中。アクスに割り当てられた1室にて、飾りっ気の無い黒い袴に着替える。ギルドの()()()をしていた頃の名残か手早く着替えることが出来た彼は、続けて立てかけていた刀に手をやった。

 彼岸花。第2等級武装で、ゴジョウノ・輝夜という女傑が生涯を賭けて数多の戦場を渡り歩いては不義理を働いた輩に振るった刀だ。

 大捕り物をしたボーナスで【ヘファイストス・ファミリア】の椿に打ち直してもらい、ギルドからの退職金代わりに再び彼女へ研ぎを頼んだその刃は一点の曇りなく、一気に抜き放つことで鈴を転がしたような綺麗な音が鳴り響く。

 

「……行くか」

 

 所々に装飾のついた茜染めの羽織を羽織ったアクスは部屋から出ると、タケミカヅチに言づけてから合流地点であるバベルへと足を運ぶ。

 

 彼がこうした準備をしているのは、桜花たちが()()()()()をしてしまったことに起因する。

 怪物進呈(パス・パレード)。読んで字のごとくモンスターを他のパーティに擦り付ける行為で、()()()()()()()()()()()()()()()()でも被害にあったパーティから報復されても一切文句は言えない所業である。

 それをあろうことかタケミカヅチの神友である【ヘスティア・ファミリア】の団長にやってしまったのだから、運命というものはよっぽど意地が悪いのだろう。

 

 しかし、【タケミカヅチ・ファミリア】にとって幸運なのが相手が『ヘスティア』ということであった。処女神であり、庇護と慈愛の女神である彼女はとんでもないことを仕出かした桜花たちを許し、重ねて団長であるベル・クラネルの捜索を()()()()()のだ。

 その慈悲深さには当事者ではないアクスも参戦を表明。ベル探索の末席に加わることとなった。

 

 閑話休題。夜の帳がすっかり降りた中央広場にて、アクスは人が疎らに散らばっている光景を眺めていた。

 

「早く来過ぎた」

 

「いえ、こちらも早く来過ぎました」

 

「っ!?」

 

 唐突に聞こえた声にアクスは弾かれるように距離を取り、いつでも抜刀できるように構える。

 上級冒険者に数えられる彼だが、レベルとしては2と上には上が居る状態。気配もなく話しかけられるなど、少なくともレベルは3以上であることは確定だ。

 しかし、まるで小動物のような警戒心を見せるアクスに声をかけてきた存在は()()()()()()()()()会話を始めた。

 

「その刀に羽織。アクス・フローレンスさんで間違いないでしょうか?」

 

「どなたですか?」

 

「リュー・リオン。【アストレア・ファミリア】所属の【疾風】です」

 

 唐突に知り合いの名前を出されたアクスの心臓が高鳴るが、即座に嘘だと見抜いた彼は抜刀する。

 

 彼女の髪は金の長髪だった。それも、こんな夜には妖精(エルフ)の名に恥じない神秘さを兼ね備えた美しさを見せるだろう美しい髪だった。間違ってもフードからちょっと見えている新緑を思わせる綺麗な薄緑ではない。

 

 アクスがそう言い放つと彼の目の前に居るリュー・リオンと自称した存在の顔が朱に染まり、さらに深くフードを被った。

 

「っ! ……あなたはそうやって恥ずかしいことを!」

 

「黙れ。リューお姉ちゃんを……。あの人の好きだった【アストレア・ファミリア】を騙るな」

 

 彼岸花を抜き放ったアクスは叫ぶと同時に謎の存在へと切りかかる。咄嗟に木刀で彼の1撃を受け止めたリューだが、その速さは驚異的だと目を丸くした。

 まるで獣人を相手にしているかのような俊敏性。加えて1撃で仕留められなかったことを悟るや否や、即座に距離を取って機動戦に持ち込む即応性の高さ。いったいどれほどの歳月を戦闘──それも()()に費やせば、これほどの技術が培われるのか。()()()()()()()()()リューは覆面の下に隠した口元を歪ませながらもアクスの攻撃を打ち払っていく。

 

「フローレンスさん、落ち着いてください。私は本当に……」

 

「口では何とも言える」

 

 リューを中心に円の動きで走り回っては、時折切りかかって来るアクス。レベル差があるので目では追えるものの、襲い掛かって来るタイミングが不規則かつ知り合いということで彼女は戦い辛そうに眉間に皺を作る。

 

 それに知り合いであるということを抜きにしても、アクスはリューにとって骨が折れる相手でもあった。

 ダンジョンに度々潜っている関係から、彼女も毎日鍛錬は欠かさず行っている。それでも、たまに組み手に付き合ってくれるのはヒューマン(ルノア)キャットピープル(アーニャたち)なため、パルゥムに対する意識がかなり抜けていた。

 相手の腹部を狙った攻撃はギリギリ。頭部に当たるような攻撃だとパルゥムからしてみれば大外れになってしまう。それを調整しようにも、呼吸を整える隙すら突いて来る攻撃にそれどころではない。

 

 さらにはアクスの戦闘技術も高かった。手や足といった相手の戦闘能力を奪える箇所を執拗に狙い、そこにかまけていれば人体の急所という致命傷を狙った一撃を叩き込もうとするその戦い方はとてつもなく洗練されていた。

 戦いの組み立て方も上手い。自身がパルゥムの子供という力がない存在だと自覚して一撃離脱の戦法を取り、鍔迫り合いや超接近戦といった力が物をいう戦い方を()()()避けている。

 

 しかし、それだけならレベル差で何とでもなる。ただ、アクスの防御……というべきか()()()の技量が卓越していた。

 【耐久】のアビリティが低いため、1発1発が常に致命傷になるというパルゥムの特性に対抗するべく編み出したのだろう。リューの反撃を受ける時の刀の方向から相手の力を分散させる足運びまでが流麗な舞のように淀みなく、気付けば攻撃が空を切っていた──なんてことが度々起こった。

 

「ふっ……ふっ……ふぅー……」

 

 しかし、いくら技量があろうとも冒険者の強さはレベルとアビリティで決まる。機動戦に加えて集中力のいる行動をいくつも続けていれば、待っているのはスタミナ切れであった。

 

「フローレンスさん、落ち着いて。……息を吸ってよく見てください。私です」

 

「信じ……られるかっ!」

 

 刀を鞘に納めたアクスが一瞬の内に距離を詰め、未だフードも取らずに【アストレア・ファミリア】のリュー・リオンだと自分の身分を明かす彼女の手から木刀を払い落とした。

 居合を使った武装解除。輝夜の得意とする技に心を見出されつつも、リューは彼女の遺品である2振りの小太刀を構える。

 

「木刀だけではなく小太刀までも……。渡してください、それを持って良い女神様はオラリオから離れた場所に居ます」

 

「あなたが本当にアストレア様やアリーゼたちを想ってくれたことは嬉しく思う。だけど、私は本当にあなたの言うリオンだ」

 

 ちなみにだが、ここまで彼女は目部下に被ったフードも口元を隠した布も取り去っていない。その状態で『自分はあなたと知合いです』と言われても信じられるわけがないのは火を見るよりも明らかだ。

 いつまでたっても()()()()()()()なリューに、今頃天界では捧腹絶倒であろうことが安易に想像できる。

 

 だが、現在この場はドシリアスの真っただ中。もはや目の前の存在は()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()と判断したアクスは、刀を上段に構えて詠唱を始めた。

 

 ──飛ぶ鳥は何処や。

 ──燕返し。

 

 短い詠唱の後に上段から振り下ろされた斬撃は()()()()()()()。ほぼ同時に襲い掛かって来る攻撃に対して推定リューは目を見開くものの、上級冒険者の目で見れば着弾に()()()()()があることに気付く。

 リューが2振りの小太刀で順番に迎撃し、魔法を無力化したことでアクスは驚く──かと思いきや、2の矢を射掛けるべく再び刀を鞘に納めたアクスが腰を落とした状態で()()()()を行っていた。

 

 ──狂い咲け 竜胆(リンドウ)

 ──花無十日紅(はなにとおかのくれないなし)……満開。

 

 詠唱が完了した刹那、リューの手足に痛みが走った。視線を彷徨わせると魔力による白い斬撃が彼女の手足を切りつけ、そこから出血しているのが見える。

 始めてダメージらしいダメージを食らったリューだが、目には明らかに焦りの色が見えていた。

 

(まずい、"あれ"が来る!)

 

 魔法は初見だったものの、リューはアクスが次に繰り出すであろう攻撃を()()()()()

 居合の要領で繰り出されるゴコウ。そして、動きを封じた相手に叩き込まれる神速の居合。それら1連の動きは輝夜の繰り出す『必殺』である。

 現に目には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が映っていた。

 

 レベル差はあっても致命傷。特に首なんか絶たれてしまえばそれで終わりだ。どうにかしてこの場を脱しようとするが、思いのほか傷が深い。

 そうしている間にも彼女の首目掛けて刀が吸い込まれるように近づき──。

 

「リオン、【一千童子】(いっせんどうじ)。何をしてるのですか」

 

「アンドロメダ!」

 

「アスフィさん、リオンって……。じゃあ、本当にこの方が?」

 

「そうですよ。とはいえ、髪型が……ってリオン! あなた、フードも取らずに自己紹介してたのですか!?」

 

「……あっ!」

 

 短剣で刀を受け止めた女性が理解しがたいような表情を浮かべながら尋ねてくる。

 アスフィ・アンドロメダ。【ペルセウス】の二つ名を持つ【ヘルメス・ファミリア】の団長の姿や話してくる言葉の数々にリューはようやく自分の失態を自覚し、アクスは信じられないと目を見開く。

 ただ、フードを取り去っても今のリューの髪は短くなっており、色も森の中を思わせる薄緑になっている。本当に目の前の女性が【アストレア・ファミリア】所属のリュー・リオンなのかと未だに信じられない気持ちを見透かしたのか、アスフィはポーチからいくつかの薬品を取り出した。

 

「リオン、一時的に髪色を変えます。すぐに戻るので安心してください」

 

「人目に付きそうで嫌なのですが、フローレンスさんに納得してもらうにはそれしかないですね」

 

 本人の許可をもらったアスフィは、薬品を適量ずつかけていく。すると、リューの髪が見る見るうちに薄緑から金髪に変わり、仕上げに馬の尻尾と思われる長い毛を数房取り出してから金色に染めた物を彼女の後頭部にあてがう。

 

「あっ……」

 

 すっかり元通り──とはいかないが、完全に面影が見える風貌となったリューの姿にアクスが声を上げる。

 

 正義の象徴としてオラリオを見守ってくれた【アストレア・ファミリア】の生き残り。アクスもギルドを辞した後に彼女がブラックリストに載ったことは知っていたし、もはや死んだものと思っていたが──生きていた。

 もはやすっかり昔に戻ってしまったアクスは『お姉ちゃん!』とリューに抱き着き、再開を分かち合おうとする。

 

 きっと彼女も昔馴染みでよく世話になっていた食堂の1人息子の姿に『大きくなった』と懐かしむような気持で受け入れてくれるに違いない。傍目で見ていたアスフィといつの間にかやって来ていたヘルメスも『感動の再会』と涙ぐんでいた。

 

 ──そう……思っていた。

 

「私にぃ! 触れるなぁ!」

 

「ごふぅっ!」

 

『ええぇっ!?』

 

 惚れ惚れするような見事な蹴りをアクスに見舞ったリュー。ゴム鞠のようにバウンドしながら装飾用の植え込みに突っ込んだ彼をヘルメスが慌てて回収しに行っている横で、アスフィが彼女の肩を強くつかんで揺さぶっていた。

 

「ちょっとぉ、なにしてるんですか! アクスですよ? 私とかアーディとかアリーゼとか前団長(リディス)と一緒に通っていたあの店に居た子供ですよ!?」

 

「いや……その……。いきなり抱き着いてきたから……反射的に……」

 

「相手は子供ですよ!? 生娘でもそんなことしませんよ!」

 

「おーい、とりあえず回収してきたぜー。とりあえず、あっちも集まってみたいだから行くとしようか」

 

 地面にぶつかったりしたことでコブや擦り傷は多々あれど、()()()()()()()()()()以外は特に酷い外傷がないアクスにヘルメスは感心しながら彼女たちをタケミカヅチやヘスティアに引き合わせる。傍目から見て不審者全開な姿をした冒険者が申し訳なさそうに顔を伏せ、ヘルメスに担がれる形でボロボロ状態のアクスに向かって全員は酷く驚いたものの、ヘルメスの『手違い』ということで一応は納得する。

 

 ただ、『この援軍たちは本当に大丈夫なのだろうか』と不安になったことは言うまでもない。




剣豪アクス君はテクニカルタイプです。今の流行的に言うと、水の呼吸です。

アクス
 二つ名は【一千童子】(いっせんどうじ)。小さき身でありながら、たった一人の娘を守るため千の鬼を討った極東の武士の話。春姫が大好きな英雄譚である。

 立ち食い蕎麦の屋台を引いてる子供。たまにタケミカヅチのところを手伝い、かなりの売り上げに貢献してるとか何とか。
 昼間から夕方にかけて本拠である長屋のあれこれを行い、桜花たちを出迎えた後に夕食。仕込みをしてからダンジョンに行くか、タケミカヅチと真剣を用いた稽古をこなした後に就寝するのが基本的な1日。

 発展アビリティは『閃斬』 スキルは刀を用いた際、【力】アビリティに極補正が掛かるスキルを保有している。
 魔法は1つの斬撃を3つに分裂させる燕返し。指定した位置に魔力の斬撃を放つ花無十日紅(はなにとおかのくれないなし)を用いる。

 ギルドの掃除役やガネーシャ・ファミリアの摘発に参加していたせいか、対人戦闘の経験が豊富でタケミカヅチの指導(他の眷属よりもガチ)で技術面が底上げされている。
 ただ、技術<レベルやアビリティなのがダンまちなので、格上にはどうしても根負けすることが多い。

リュー
 覆面をしながら自己紹介をするポンコツエルフ。おそらく展開では爆笑の渦が展開されているだろう。

輝夜
 保護したアクスのナニをちょん切ってアストレア・ファミリア入りさせようとした張本人。俗にいう気に入った子には悪戯しちゃうタイプでもちろんいつもの可愛がりの類で本気ではない。
 なお、彼女の行動によって『剣豪ルート』か『復讐ルート』に分岐する模様。

 ??「あぁいう成長をするなら唾を付けとけばよかった」
 ????「皆ぁー! 輝夜が若い燕をぱっくんちょしようとしてるわよぉー! 」
 ???「お前に頂かれたら死ぬじゃねぇか!」
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