ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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諸事情があってちょっと短め


76:協力者(ともだち)

 【ヘスティア・ファミリア】でのお泊まりから数日が経った。モンスターが出たというニュースがオラリオ中に出回り、それについてオクルス越しにフェルズに確認したところによるとウィーネ──というか【ヘスティア・ファミリア】が{やらかした}らしい。

 あれほどウィーネに聞かれないようにアクスが細心の注意を払っていたのにこうなってしまうのは、もはや運命の女神辺りが因果辺りを操作しているのかと邪推するほどではあったものの、その結果として地上に居られないと察したウィーネと【ヘスティア・ファミリア】の認識がようやく一致。そこでフェルズの報告を聞いたウラノスがギルドを動かし、強制力のある強制任務(ミッション)でもってウィーネを異端児(ゼノス)の隠れ里に送り届けたとのことだ。

 

 ちなみにベルたちが隠れ里に向かった時と同じタイミングでヘスティアもウラノスと秘密裏に会い、そこで異端児(ゼノス)のことを知ったらしい。『お主のおかげで話が早く済んだ』と珍しくご機嫌なウラノスに、アクスはただ『さいですか』としかいえなかった。

 

 そんなこんなで再び幾日か経ったある日。アクスは久方ぶりにボールスから冒険者依頼(クエスト)を頼まれ、リヴィラの町へお邪魔していた。

 いつものように中層から命からがら戻ってきた冒険者を優先的に癒し、そのまま地上へ帰還する冒険者に無理を言って護送してもらうといったことを何度か繰り返すという悪徳蔓延る町には似つかわしくない善良性を見せつけてはそこに住む冒険者の罪悪感をチクチク刺激していると、とある事件が起こった。

 

 武装したモンスターの集団──異端児(ゼノス)たちがリヴィラの町に攻め込んできたのである。

 

「リヴィラはもう駄目だ! お前ら、さっさと地上へ向かえ!」

 

「魔導士はリヴィラに一斉砲撃しろ!」

 

「待ってくれ! まだあそこにドロップアイテムがあるんだよ!」

 

 冒険者が粘っているのか、モンスターたちの侵攻が遅い。その隙に次々と街を脱出していく非戦闘員たちを掻き分けつつ、アクスは逃げ遅れた存在が居ないか確認していく。冒険者やこんなところに来る商人などは基本的に自己責任が通例だが、そんな間抜けでもアクスの頭の辞書には{見捨てるという文字はない}。

 人の家屋に無断で入るのは中々勇気がいるものの、次々と残っている人が居ないかを確認していると……。

 

「ミスター。ミスター・フローレンス」

 

「レット、君の群れだったんですか」

 

 つい最近聞いたことのある声に反応すると、建物と建物の隙間にレットが立っていた。

 武装したモンスターという情報から異端児(ゼノス)という集団の中の一派が襲ってきていると推測はしていたが、まさかレットのところとは思ってなかったアクスは目を丸くしながらも若干悲しくなる。

 すると、『せっかく仲良く出来たのに』という落胆の感情を正しく読み取ったレットは申し訳なさそうに謝罪を始めた。

 

「すみマせん、我々にも事情があるのでス。申し訳ありませんが、ついて来ていただけないでしょウカ? 出来るなラバあなたは無事に保護シタイというのが私やリドの願いでス」

 

「分かりました」

 

 話している間にも激しい戦闘音が近づいて来る。ここで押し問答をしている暇もないのだろうとアクスが黙ってついて行くと、その先にはフェルズと蜘蛛の胴体に人間の上半身がくっついたモンスターであるアラクネが待っていた。

 

「あ、どうも。ところでこの騒ぎは何ですか?」

 

「密猟者に異端児(ゼノス)が狙われた。交渉はしたが……、衝突は避けられなかった」

 

「そうハ言うがな、フェルズ。我々モ少なくない被害を負ってイルシ、攫われた者も居ル。その中で下手人以外の命は取らないことは約束しているンダ。コレ以上の譲歩は我々を軽く見る発言と思っテ欲しい」

 

 どうやら異端児(ゼノス)側にかなりの動きがあったらしい。残念そうな声色のフェルズにアラクネがため息交じりで文句を言う中、アクスはと言うと──。

 

「それよりもフェルズ。この人間、やたらと私の足を見て来るのダガ? あいつ等みたいにモンスターに興奮する性質カ?」

 

「いや、おそらく珍しいのだろう。昔……私が人間だった頃に近所の子供が蜘蛛を同じような眼差しで観察していたぞ」

 

 男の子というものはワシャワシャ動く物が格好良く見える時期がある。それが歳を経ていく内に不整地走破性、安定性が高く、さらに一部の脚を失っても移動可能な点や積載性能が高い点などを推した『メカ』に推移していくのだが、それはまた別のお話。

 

「ちょうど良い。このまま拘束させてもらおう」

 

「そうだな」

 

 ただ、男の子のロマンはアラクネや性別不詳のフェルズには分からなかったようだ。アラクネは目を輝かせるアクスの胴体を瞬く間に白い糸でぐるぐる巻きにし、一足飛びにリヴェラの町を離れた。

 

***

 

「分かっていたよ、こうなることは。待っているのは救いか、死か……。いっそどちらが選ばれるか運命に任せてみるか」

 

「フェルズ、何かおかしなことを言っているゾ。間違っテモ傷つけてはいないノだが」

 

「神がたまに言っている悪ふざけの類だろう、あまり気にしないであげて欲しい。それよりもラーニェ、君やオードはアクス・フローレンスに借りがあるだろう? 恩人にそのような真似は止めておいた方が良いのではないか?」

 

「お前の言う通りなら、恩はあル。タダ、私はこいつどころかお前も信用しているわけではないからナ?」

 

 流浪の民のようなことを宣うアクスの身体を蜘蛛の足で軽く叩いていたラーニェと呼ばれるアラクネに、フェルズが若干引きながら止めるよう注意する。

 

 たしかに{アクスがわざとダンジョン内に置いていった}【ディアンケヒト・ファミリア】製の品質の良いポーションなどのおかげでフォモール(フォー)ヒッポグリフ(クリフ)といった決して少なくない犠牲}を出したものの、彼女を含めた数体の異端児(ゼノス)は増援が来るまで持ちこたえることが出来た……が、未だフェルズや目の前で右へ左へと揺れているアクスのことを完全に信用していなかった彼女はフェルズの言うことに難色を示す。

 

「おー、揺れる揺れる」

 

「……はぁ、なンダか私がバカみたいに思えて来たナ」

 

 ただ、モンスターである自分を怖がらずにまるで遊具で遊んでいるかのように喜んでいるパルゥムの態度に段々考えるのがバカらしくなってきたのか、ラーニェはアクスを地面に下ろした。

 すると、舌の根も乾かない内にアクスがリヴィラの町の方向に向かって行ったため、フェルズの横に居たユニコーンが慌ててアクスの服に角を引っ掻けてアクスを宙にぶら下げる。

 

「私たちの話を聞いてイタカ!?」

 

「すみません、身体が勝手に」

 

「フェルズ、地上の人間ハ皆こうなのカ!」

 

『いや、おそらくアクス・フローレンスだけだろう』

 

 仲間意識と言われるとちょっと異なる。『弱い存在を助ける』ことに特化したような思想と行動力にラーニェは地上に居るであろう人間についてちょっと怖くなったが、どうやら目の前で再び『流れに身を任せてみよう』とよく分からない言葉を宣っているパルゥム限定の性質らしい。

 

「良いカ? お前はフェルズや色々便宜を図ってくれたということでここに居ルんダ。戻ってミロ、袋叩きニあうんだからな」

 

「えー、でも傷付いた冒険者を放っておけないし。異端児(ゼノス)の人も放っておけないし……」

 

「なっ……! 私たちを捕まえようとした密猟者以外の冒険者は背中を見せテモ襲わないように決めていル。それにわ、私たちはそんなに柔じゃナい!」

 

 『異端児(ゼノス)の人』。言葉にすれば簡単だが、今まで自他共にモンスターである認識があった異端児(ゼノス)にとってこの言葉や回復させようとする意志は{逆鱗}とは逆で琴線に触れる言葉だった。どこかの武神や医神の施した教育の賜物かは定かではないが、無自覚に言ってのけたアクスにラーニェは少々人間──というか、目の前でぶらぶら揺れているアクスに対して横の骨野郎(フェルズ)よりも信用を高めていった。

 

「あぁ、ならちょうど良い。ラーニェは密猟者に襲われた後だ。ポーションで治したが、万が一ということもある。診てやってくれないか?」

 

「分かりました」

 

 フェルズの頼みにアクスは2つ返事で答えてからユニコーンに下ろしてもらい、ラーニェに治癒魔法を掛ける。冒険者から受ける攻撃魔法ではなく治癒という初めてのジャンルの魔法やモンスターなのにもかかわらず積極的に癒してくれるという存在に、ラーニェは目を丸くさせながらも大人しく治癒魔法に身をゆだねた。

 ここまで安らいだのは初めてのように思えた彼女は目を閉じながら温かな光を浴び、やがて光が納まったと同時に今まで感じていた身体の怠さが一気に抜けたことに驚愕する。

 

「リドの言っていたことハ……間違っていなかったんだナ。あのベル・クラネルという冒険者にも悪いこトヲした」

 

「ベル様に出会ったことが?」

 

「アァ、あの時は人間が信じ切れていなかったからな。あまり会話はしなかっタが……、身の危険も顧みずにウィーネを守ってイタ」

 

 まるで眩しい物を見るかのように目を細めた彼女であったが、ふと先ほどユニコーン──ユーノと簡単に意思疎通が出来ていることに気付く。

 ユーノは人間の言葉が喋れないためにどのような絡繰りがあるのだろうとラーニェが不思議に思っていると、ユーノの背中に乗ったアクスがまたしても何やら話している。

 

「いやー、嬉しいのは分かるんですけど。僕も地上で色々やってるし……。ついて行く? いや、無理でしょ。テイマーの認可受けるのも面倒くさいし……。いや、まぁ角を定期的にもらえるなら一考の余地はあるけど」

 

「アクス・フローレンス。君は一体、何を言っている?」

 

 突然錯乱したかのような独り言を始めるアクスにフェルズが尋ねてみるが、『下のユニコーンさんとお話ししています』と脳内お花畑のようなことを言い出す。何かの状態異常にでもかかったかとフェルズは彼を心配すると、ユーノも首を縦に振りながら蹄で地面を強く叩くのでようやく本当であることが分かった。

 

 そんなユーノの言葉を簡単に訳すと『自分のリクルート』であった。

 始めは何故かは知らないが意思疎通が出来ることに驚きつつも、自分の意思が難なく相手に伝わったことを喜んだ彼はアクスに地上ではなくダンジョンでの生活を提案。しかし、彼は【ディアンケヒト・ファミリア】──ひいては地上で仕事のある人間ということで、今度はユーノ自身が地上に行くと言い出したのだ。

 

「いや、何ヲ言ってるんダ」

 

「僕が知るわけないじゃないですか。あ、"自分の考えが円滑に伝わる相手と一緒に居ることが良いと思う"って言ってますよ」

 

 自分の言いたいことをタイムラグなく伝えれたのが嬉しいのか、満足げに嘶くユーノ。もはや外部翻訳機のような扱いだが、それほどまでに円滑な意思疎通が出来ないというのは苦しいことなのである。

 そんなユーノの突飛染みた提案だが、そううまくいくわけがないことはフェルズもラーニェも予想出来ていた。

 

「落ち着ケ、ユーノ。今の私たちは既にこの町を攻め落とシタ。いくらあの下手人共以外は多少の怪我で帰そうとモ、冒険者を傷つけたことには変わりナい。危険だゾ」

 

「"なら、冒険者に有益なところを見せる"と言ってます。ユーノさんの言うとおり、僕がユニコーンに乗って冒険者を救助したならば即座に殺されることはないのでは?」

 

「それは……そうだガナ」

 

 おそらくだが、モンスターの異常行動ということで【ガネーシャ・ファミリア】が動くだろう。……いや、フェルズがオクルスで何か連絡を取りながら移動の準備をしているため、確定で団長であるシャクティ含めた本隊が動く。

 その前に逃げ遅れた冒険者や非戦闘員を異端児(ゼノス)から離し、治療しながらダンジョンから生まれ落ちてきたモンスターを倒している姿を見せれば多少のお目溢しはしてくれるだろう。

 

 しかし、そこでラーニェが口を挟んでくる。

 

「ユーノ。お前は私たちを裏切るのカ?」

 

「"裏切るとは思っていない。少しでも人間に協力的な土壌を作るだけだ"と言っています。フェルズさん、何のことか分かります?」

 

「すまないが、時間がない。アクス・フローレンスはそのまま翻訳を続けてくれ」

 

 子供ゆえに難しい話題はちんぷんかんぷんなアクスを余所に、ユーノとラーニェの言い合いは白熱する。

 しかし、一方はついさっきまで密猟者に殺されかけるならまだしもその身を汚されそうになった経緯を持つアラクネ。もう一方は最も狙われやすいと班分けを慎重にした結果、そういった経験があんまりないユニコーン。話が平行線になることは致し方ないことと言える。

 

 ただ、ここでとやかくしている時間はもう無い。特にフェルズは速やかにウラノスにこのことを報告し、【ガネーシャ・ファミリア】の出動やその後行われるであろう裏工作の準備などをしないといけない。

 ユーノをテイムモンスターとしてアクスと行動を共にさせ、少しでもウィーネがやらかした多少の負のイメージを払拭させながらオラリオにモンスターが居られるように下地を作らせるべきか。それともラーニェの意見通りにユーノの意見を封殺してダンジョンに押し込めるべきか。

 悩むフェルズに、アクスはユーノから降りるとラーニェに頭を下げた。

 

「お願いします。どうか、ユーノさんと協力させてください」

 

「……協力カ」

 

 冒険者がモンスターを操るテイムとは、『使役』のことを言う。力で屈服させるのが全てで、決して信頼関係が生まれないのが常だ。ラーニェもそれが分かっているからこそユーノの言っていることは夢物語だと突っぱねていたが、命の恩人──それもアラクネという自身の姿に順応して『異端児(ゼノス)の人』とまるで種族が違う{だけ}のように言ってきたアクスに協力と言われてしまったら断れるはずがなかった。

 

「分かっタ、信用シヨう。グロスとリドには私から言ってオく」

 

「話は纏まったな。それでは私は神ウラノスのところへ報告へ行く。冒険者のことはアクスとユーノ。リドたちのことはラーニェ、レット、オードに任せる」

 

 そう言ってフェルズはいつものようにその場からふっと消えてしまう。何度見てもおどろおどろしい退場の仕方にアクスは身震いしながらユーノにまたがると、ラーニェが『また会おウ』とまるで蜘蛛に噛まれたヒーローのごとく糸を射出して飛び去ってしまった。

 

 既に周囲には人やモンスターの気配はない。既に戦闘音も鳴りやんでいることから異端児(ゼノス)の方もひと段落したのだろう。

 下手人が誰かについて連携されていないが、おそらくは異端児(ゼノス)が確保していることだろうとアクスはユーノの腹を軽く叩く。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

 アクスの頭の中に『任せろ』という返事が過ぎり、ユーノは常歩のようなスピードで動き出した。

 

***

 

 今まで何度も全滅の憂き目に立ってきたリヴィラの町。しかし、壊されるたびに不死鳥のごとく蘇るこの町に住む冒険者や商人といった非戦闘員たちにとって町が壊されることは{日常茶飯事}であった。

 

「おい、どうなってるんだよ! ボールス!」

 

「リヴィラは再建できるんだろうな!?」

 

「うるせえ! 良いから周囲を見張りやがれ!」

 

 心配そうに声をかけて来る商人や冒険者をボールスは叫びながら追い払う。

 現在、彼らは上の階へ行くための連絡路の前で簡易的な陣地を張っており、周囲には冒険者を展開させて防衛に当たらせている。本来であればさっさと地上に戻りたいところだが、以前にリヴィラの町を襲った黒いゴライアスの1件もあって細心の注意を払おうと数名の冒険者に上の階の様子を見てもらっている最中である。

 

「くそ、モンスターが町を占領するだと? 何がどうなってやがるんだ」

 

 同種やいくつかの種類のモンスターが大量発生し、それがリヴィラの町に来たことはある。むしろそれを抑えきれずにリヴィラの町が崩壊することは何ら珍しくもない。

 ただ、今回のように{様々な別種}が徒党を組んで街を襲撃し、あまつさえ冒険者を追い出して{占領}するのは長年リヴィラの町を取り仕切っているボールスにとっても初見であった。

 

 しかも、そのモンスターたちは{冒険者の装備で}武装をしていた。噂に聞いていた存在がまさか複数居り、冒険者のように徒党を組んで襲ってくるなど露とも思っていなかったボールスたち。

 だが、彼らは未だ絶体絶命の危機から脱せずにいた。

 

「ボールス、バグベアの大群だ!」

 

「こんな時にっ! 上の奴らはまだ戻ってこねぇのか!」

 

 やりようのない怒りが籠ったボールスの叫びに対し、全員は何も言わない。『逃げた』という可能性も否めないが、彼らにはゴライアスの有無だけではなく周辺に居るモンスターの間引きも頼んで送り出している。そんな短時間で終わるような作業ではないと重々承知しているのだ。

 

 無論、ボールスもそれを承諾して送り出した1人。ならば、そのツケは自分自身で払わなければならない。

 

「……ちっ。平地だが、やるしかねぇ! 盾をありったけ並べろ! 中央は商人でその外に闇医者と魔導士だ!」

 

 戦闘は基本的に上を取った方が有利になるが、この際文句は言っていられない。それにどのみち、この場を凌げなければ全滅は確定している。

 それが分かっているからこそ、全員はボールスの指示に頷いてそれぞれの役割に徹し始めた。1番外周に盾を並べ、力自慢のドワーフや獣人を中心に壁を形成。その後ろでは矢を番えたエルフやパルゥムの射手が向かってくるバグベアーやモンスターに対して先制攻撃を行う。

 そんな彼らの後ろでは魔導士が起死回生の詠唱を始め、治療師(ヒーラー)の面々が後に忙しくなることを予想して手持ちや商人たちを脅……交渉して治療準備を行いだす。

 

 かの【ロキ・ファミリア】までとはいかずとも、ゴライアスを前にしたような連携が出来始める。しかし、奇襲ということもあって碌な準備も出来ずにこの窮地や後々行う地上への帰還は出来るのかとボールスは不安になっていた。

 

 ──その時だった。

 

「おい、何か聞こえねぇか? 馬の嘶きのような」

 

「おいおい、こんな階層にケルピーとか居るわけないだろ……ってユニコーンじゃねぇか!?」

 

 森の中から聞こえて来る馬の嘶き。しかし、馬系統のモンスターといえばもう少し下の階層に居るケルピーぐらいだろうと思っていた冒険者たちの前にユニコーンが現れた。

 穢れを知らない白くも神々しいその出で立ちに冒険者たちは息を詰まらせるが、その背に1人のパルゥム──しかもこの町に来ていた有名人(アクス・フローレンス)が乗っていることに驚愕の声を上げる。

 

「あれ、【小神父】(リトル・プリースト)じゃね?」

 

「居ないと思ったらなんでユニコーンに乗ってんだよ!」

 

「しかも強いぞ!?」

 

 一気にスピードを上げたことで小型のモンスターを轢き潰し、重量級のバグベアーには寸分たがわず心臓付近にブリューナクを突き入れては灰に変えていくアクスに全員は開いた口が塞がらなかった。

 それでも鉄砲水のようにモンスターが押し寄せてくるため、気を取り直した全員が必死に対応していく中でユニコーンが力強く大地を蹴る。

 

「うぉわ、っぶねぇな!」

 

「すみません、治癒魔法を行います」

 

 壁役を容易く乗り越え、全員が避けたことでぽっかりと開いた空間にユニコーンが着地。危うく潰されそうになった冒険者に謝りつつ、アクスは治癒魔法を行使する。

 何事においても先手というものはありがたい物だ。怪我をした瞬間に治療され、なおかつステイタスの向上も見られたことで壁役たちの中にあった『地上に帰れるか分からない不安』が一気に取り除かれ、ダンジョンの理不尽に抗う活力を漲らせた。

 

「すまねぇ、アクス! だが、そのユニコーンは何だ?」

 

「テイムしました」

 

 ボールスの疑問にさらっと嘘をつくアクス。

 だが、仕方ないだろう。ここで馬鹿正直に『友好を結んで協力しています~』と言っても信じてもらえないだろうし、下手をすると余計な軋轢を生む。主に女性への機微やアミッドに関してはクソボケ一直線なアクスでも、流石に【ディアンケヒト・ファミリア】の名声に傷がつくことに至っては適切な考え方が出来る良い子なのだ。

 

「なぁ、ユニコーンって中層に出るっけ?」

 

「レアモンスターだぞ。知るわけねぇだろ」

 

「お前ら、その辺にしとけ。アクス、【ガネーシャ・ファミリア】とギルドにはちゃんと言っとけよ」

 

「ふぇ~い」

 

 それでも懐疑的であったり好奇の視線には晒されるものの、ボールスの言いつけに分かっているのか分かっていないのかよく分からない返事をしたアクスは再び冒険者の輪から脱すると、そのまま向かってくるモンスターたちを鎧袖一触とばかりに蹴散らしながら森の中へ姿を消す。

 あとに残された冒険者たちはまたしてもポカンと口を開いていたが、タイミングよく上の階層から間引きが完了した冒険者たちが戻ってきたことで地上へ帰還し始める。

 

「おい、ボールス。【小神父】(リトル・プリースト)どうすんだよ」

 

「あぁ? ……まぁ、あいつなら何とかなるだろ」

 

 本人の強さもそうだが、ユニコーンもそこらのモンスターに引けを取らない強さだとボールスは感じていた。それにあの機動性なら危なくなっても逃げ出せるし、アクスも決して勝てない勝負を進んでするような脳筋ではない。

 そしてなにより、アクスを待っていたらせっかくの脱出の機会が潰されることを危惧した彼は、『自己責任』という理論武装でもって地上への帰還を宣言した。

 

 ……次の冒険者依頼(クエスト)や地上で会った時は何かしら世話でも焼いてやろうと思ったのは彼だけの秘密だ。

 

***

 

 そうして18階層に蔓延るモンスターの相手をしながら冒険者や非戦闘員の誘導。そして周囲に誰も居ないことを条件にその場で意思疎通が出来るかやユーノに確認してもらった異端児(ゼノス)にリヴィラの町の方向を教えてあげるといったことを秘密裏にしていると、上から1匹のガーゴイルが降りてきた。

 

「オマエガ、ラーニェやリドが言ってイタ……。アクスか」

 

「はい。初めまして」

 

「あ、アァ。ハジメマシテ……」

 

 意思疎通が出来たと思いきや、アクスは即座に頭を下げる。その行動にガーゴイル──グロスは思わず礼を返してしまい、『アイツラノ言ったトオリカ』と独り言ちりながらリヴィラの方を指差した。

 

「まぁ、イイ。お前たちはあの集落には近ヅクナ。今、密猟者に仲間の居場所を吐カセテイル」

 

「分かりました。何度も言いますが、それ以外の方は?」

 

「向かっテキタやつ以外は手を出シテイナイ。……ガ、別の方向に逃げたやつらまで面倒を見キレンゾ」

 

 たしかにそうだ。ラーニェのように未だ人間を憎んでいる異端児(ゼノス)が多い中でこれだけの譲歩をしてくれたことには感謝しかない。

 そう思って再度礼を言おうとすると、にわかに17階層へ続く連絡路が俄かに騒ぎ出す。アクスの予想よりも動きは早いが、そこら辺はフェルズやウラノスがガネーシャと連絡を取ったのだろう。

 

「なンだ、コノ騒ギハ」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】です。レットやアルルといった上層の異端児(ゼノス)の方々は退避させた方が良いかと」

 

「安心シロ、レットハ強い。それにアルルは別件デ深層に行ってモラッテイル……が、心配はアリガタイ」

 

 そう言うや否や、グロスは飛翔する。リヴィラの町の方向に向かう彼を見送ったアクスは、ユーノに合図を送って走り出す。

 ここからがアクスの正念場。目的地は──【ガネーシャ・ファミリア】の元だ。




肺炎で死にかけて1週間何も書けなかったので、どこかでお休みいただきそうです。
メンゴ☆

ユーノ
 原作では本人じゃなくて角が色々お助けアイテムになっている子。ダンジョンに適したウマがない?なら、ダンジョン産の奴に乗れば良いじゃん的なサムシング。
 なお、ヒッポグリフの子と悩んだ。けど、なんか…。
 ・僕は君の剣!
 ・理性蒸発しそう
 ・どこからともなく【強さとか使い勝手とかどうでも良い】と言いながらボディタッチしてくる謎の存在が現れそう
 上記の理由から断念。ピンク髪だから、ヘイズ師匠大興奮しそうだけど。

ラーニェ
 ワシャワシャ動くのがかっこいい多脚型ロ…お姉さん。やっぱり、医神と武神は絶対悪なんじゃないかなって。
 ???「そうですよ! 多脚こそ至高なんです! 大火力を投射しても一切動じない安定性…ふつくしい!」

アクスのお馬さんスキル
 やっぱり、意思疎通は必須。諸々の武芸スキルや指揮官スキルの一時的発現も捨てがたい。
 よし、人馬一体って言うし馬と人のアビリティの統合した値を共有化するか。レベルは流石にやり過ぎだからアビリティだけ。
 ということなので、もうちょいコトコト煮詰めます。
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