ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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あと1週間! アミッドの安否でこの小説の終わりが決まると言っても過言かな…過言かも…。


79:2回目の奇跡

 それは、有翼の異端児(ゼノス)──ガーゴイルのグロスとハーピィのレイが上空からフェルズ謹製の煙幕を放った頃まで巻き戻る。フィンの指示や【ロキ・ファミリア】の怒号で広場がにわかに騒がしくなっている最中、唐突にアクスの懐に仕舞っていた赤い眼晶(オクルス)が赤く灯った。

 

「アクス。アクス・フローレンス」

 

 獣人の鋭敏な聴覚を警戒しているのか控えめの呼びかけにアクスは気付くと、フィンたちへの伝言を後ろに居た一般人たちに託してから煙幕に乗じてその場を抜け出す。非常に入り組んだ路地や廃屋を通ることで【ロキ・ファミリア】を撒くことしばらく。周囲を観察しながらユーノを歩かせていると、やがて人の視線が無くなる。

 ようやくフェルズと連絡が取れると眼晶(オクルス)を取り出すが、唐突に眼晶(オクルス)がアクスの手の平から消えた。{見慣れた白い糸}が戻っていく方向を見ると、案の定ラーニェが片手を上げている。

 

「アクス、フェルズの元へ案内すル。ツいて来テ欲しイ」

 

「分かりました」

 

「最大限、人間に見つからないようにするガ……。見ツカったら覚悟してオイてくれ」

 

 覚悟する。つまるところ『口封じ』か『偽装』の2つに1つだ。

 それでも、ある程度アクスの事情や思想を考えてくれている{あの}フェルズがこの状況であっても呼び出すということは、かなり切羽詰まっているのだろう。相手は人なのか分からないが、誰かが困っている時に我が身を優先しろとはアミッドから習っていないアクスは頷いてからラーニェの案内で地下水路へ降りていく。

 

「フェルズさん、ラーニェさんの案内で地下水路に降りています」

 

『そのまま私に合流して欲しい。おそらく、ウィーネの命運はここで尽きる。……いや、"終わらせる"」

 

 唐突に伝えられたウィーネに対する死の宣告。しかし、アクスは狼狽えることもなく『やっぱり、どうにもなりませんか』とやや諦めたような口調で答える。

 ウィーネは地上で暴れすぎている。冒険者どころか市民の命を脅かし、建物などの財産も傷つけたツケは払わないといけない。

 

 その対価がたとえ──ウィーネの命であっても。

 

 だが、そんな暴論染みた行いをフェルズが許すはずがないのは今までのやり取りで十分分かっていたため、アクスは眼晶(オクルス)越しに問いかける。

 

「僕はなにをすれば?」

 

「なに、ウィーネに"死者蘇生"をしてくれたら良い」

 

 まるで多少の怪我を負ったぐらいで治癒魔法を強請るかのような気楽さで『死者蘇生』を頼むフェルズに、アクスの心臓は飛び跳ねた。

 いったいどこからバレたのだろうか。【ディアンケヒト・ファミリア】では主神であるディアンケヒトや団長のアミッドぐらいしか知らないし、フィンたち三首領も思慮深いためにそういった情報を軽々しく話さないことはアクスも分かっている。

 そうなると後は実際に蘇生させたり、蘇生する瞬間を見た【ロキ・ファミリア】の団員しかいない。頭の中で【ロキ・ファミリア】に対する抗議の内容を考えていると、水路の奥からフクロウがアクスの横を通り過ぎて行った

 

『申し訳ないが、君が蘇生魔法を使えることは先ほど外へ放った使い魔の視界を通じて見せてもらった。正直、私の魔法スロットの無駄としか思えない魔法と違って有用な君に嫉妬すら覚えるが……。どうか、助けて欲しい』

 

「事情は分かりました。それで、具体的に僕はどうすれば良いですか?」

 

 これからモンスターという人類の敵を蘇生させようとするにはあまりにも早い決断。『これが本当に人工的な思想の持ち主か』と1つ大きなため息をつくと、ようやく作戦──にもならない計画を話し出す。

 

 オラリオの地下にはダンジョンがある。その弊害で上水と下水は非常に入り組んでおり、さらにどこぞの奇人(ダイダロス)が無許可で拡張したせいでアリの巣のようにオラリオ中に{非公式の水路}が張り巡らされていた。

 それを使えば、文字通り{オラリオのどこにでも行ける}。無論、時には水路の壁を壊したりといった荒技も必要だが、その特性を利用して暴走状態のウィーネを地下へ誘導。そのまま異端児(ゼノス)とベル{だけ}で事態を沈静化させるのが目的だ。

 かといって生半可なダメージでは今のウィーネは正気に戻らないのはよく分かっている。なので、{殺害を念頭に置いた対処}をしなければならない。

 そこでフェルズとアクスが待機。いざとなった場合は、蘇生魔法を用いて『紅石が額に収まった状態のウィーネ』に戻そうというのだ。

 

 しかし、その計画の杜撰さにアクスは異を唱える、

 

「待ってください、僕の蘇生は人間にしか試してません。それにそんな簡単に行くでしょうか?」

 

「人間に効くのであれば、モンスターにも効くだろう。どちらにしても、私の成功したためしがない魔法だけでは力不足だ。実績のある君の魔法も当てにさせてもらいたい」

 

 アクスの不安点についてすべて憶測で語って来るフェルズ。死者の蘇生なんて大それたことをポンポン行える土壌ではないのは重々承知はしているが、あまりにも絵に描いた餅のような考えにアクスはフェルズの真剣具合を疑い始める。

 

「真面目……なんですよね?」

 

「たしかにこれは机上の空論が多い博打に近いやり方だ。ただ、伊達や酔狂だけで【ロキ・ファミリア】の近くに居た君をここまで来させるわけがないだろう」

 

 たしかにその通りだが、たまに治療院へやって来る計画性が感じられない新薬のアドバイスや融資といった胡散臭い雰囲気をアクスが感じ取っていると、ようやくフェルズの姿を確認することが出来た。

 使い魔の視界や眼晶(オクルス)を持たされているレイの情報から冒険者が網を張ってウィーネを誘導しているらしく、それをベルが追いかけているようだ。

 

「歓楽街の方だ。近くに私の工房があるから、そこで待機していよう」

 

「分かりました」

 

 今度はフェルズの先導で一行は歓楽街の地下へと足を踏み入れる。ダイダロス通りよりも入り組んでいないために進みやすいが、曲がり角でばったり冒険者に合う可能性もあるのでアクスはかなり慎重にユーノを歩かせていた。

 だが、どうやらダイダロス通り方面の騒ぎが思った以上に大きかったようで、他の冒険者に会うことなくアクスたちはフェルズが作っていた工房に身を寄せた。

 

「こんなところで色々作ってたんですね」

 

「私がそこら辺の邸宅に住んでいるとでも思ったのか? ……いや、廃屋の工房が潰されたばかりだったな」

 

「いえ、スパルトイの異端児(ゼノス)だと思ってました」

 

 時折ローブの端から見える{骨の身体}ということで、アクスはフェルズのことを深層辺りに生息している骸骨。『スパルトイ』の異端児(ゼノス)だと考えていた。

 なので、てっきりダンジョンで魔道具(マジックアイテム)の制作に励んでいる魔術師(メイジ)を自称している変なのと思っていたのだが、それを聞いたフェルズが声にならない呻き声を上げた。

 

「……だ、そうだぞ。スパルトイ」

 

「ラーニェまで止めてくれ。アクス・フローレンス、私は過去に"賢者"と呼ばれた元人間だ。賢者の石……というものは聞いたことはあるか?」

 

 賢者の石の話は昔、アミッドに読み聞かせてもらったことがある。確か永遠の命が手に入るとされる魔道具(マジックアイテム)で、魔法大国と呼ばれるアルテナの賢者が唯一生成に成功したが、生成しただけでその後の実験に失敗。ゆえに永遠の命を望まない方が良いという教訓のおとぎ話だったはずである。

 

「あまり昔は語りたくないが……、せっかく時間が出来たんだ。良ければ聞いてくれ」

 

『もしかしたら、誰かに聞いて欲しかったのかもしれないな』と薄く笑ったフェルズは、自らの過ち──賢者の石を作り出そうとしていた頃を語りだす。

 

 ……とまぁ、それこそ赤裸々に黒歴史を語ったわけなのだが。

 

「いやー、流石に無いですね。人の成果物を目の前で?」

 

「壊して!」

 

「落ち込んでるのを見て?」

 

「笑って!」

 

「無いですねぇ」

 

「無いわね~、それは本当に無いわねえ~」

 

 若干どころかドン引き状態のアクスにややテンション高めのフェルズ。そして、いつしかラーニェも参加しており、それぞれはフェルズが入っていたファミリアの主神についての暴言を吐いていく。

 不注意ならば良いというわけではないが、仮に不注意で壊してしまって誠心誠意謝ってくれるのであれば留飲は下がる。ただ、わざと壊した上でゲラゲラ笑うのは流石に人の心──神なのだが、アスフィあたりから爆薬を購入して爆殺トラップを仕込まれても文句は言えないだろう。

 

 【ディアンケヒト・ファミリア】でも、倒錯した愛情に定評がある主神にアミッドやアクスを始めとした団員たちが何度も被害に合っているものの、その都度制裁や特別ボーナスといったもので帳尻合わせをしているために何とかなっている。

 仮にこれが『釣った魚に餌をやらない』といったように何のフォローもされなければ、おそらくアミッドは戦闘もこなせるスーパーアミッドになって主神共々治療院を崩壊。団員たちを引き攣れて【ミアハ・ファミリア】に改宗(コンバージョン)した後に青の薬舗は【医神の忠犬】(ミーヤル・ハウンド)【戦場の聖女】(デア・セイント)の口喧嘩が絶えず、ミアハとアクスが毎日と言って良い頻度で往診に向かっては叱りつけられる大ファミリアに生まれ変わるだろう。

 

 まぁ、そんな『たられば』は置いておくとして、今はフェルズの話だ。

 

改宗(コンバージョン)とか考えなかったので?」

 

「ファミリアが変わると、今までの研究成果や研究資料を手放さなければならないという固定観念にとらわれて……」

 

「いや、記憶は残るわよね。仮にも賢者だったんでしょ?」

 

「か、返す言葉もない……」

 

 すっかり打ち解けたラーニェによる言葉のナイフにフェルズは『グフゥ』と精神的ダメージを負いつつ、工房の天井を見やる。地上がボンガボンガと騒々しくなりだし、そろそろかとフェルズがレイに持たせていたのと同色の眼晶(オクルス)を取り出す。

 すると、眼晶(オクルス)が淡く光って『フェルズ』という例の声が聞こえてきた。

 

「レイ、今どこにいる」

 

「フェルズが渡してくれた地図でいう……歓楽街です。巨大な広場のところからベルさんとウィーネは落ちて行きました!」

 

 非常に要領を得ない報告。地上が初めての異端児(ゼノス)に現状報告は無理があったと自身を責めたフェルズは、レイが行動不能になった時のサブプランとして飛ばしていた使い魔と視界を共有させる。

 既に歓楽街の上空。未だ廃墟が目立つ場所だが、1か所だけ瓦礫の土煙が新しい所が見えた。

 

「あそこか、ここから近いな」

 

 場所を把握したフェルズの指示で一斉に移動が始まる。時折立ち止まって場所の再確認をするフェルズ曰く、レイやグロスといった有翼の異端児(ゼノス)が周囲に居た冒険者を追い払ってくれているようだ。

 これならばアクスが関与してもバレる確率は下がる。後は死者蘇生がモンスターに効くのかなどの懸念点だが、それはそれでディアンケヒトがたまに言う『高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応』すれば良い。

 

「……っ!」

 

 大きな空間に出ると、先頭を移動していたフェルズがかすれたような声を発する。空間の中央に、{大量の灰}を愛おし気に抱えたベルが1人。そんな彼を上に空いた大穴から差し込まれた光が優しく照らしていた。

 

「まずは私が……。後を頼む」

 

 本当に自信が無いのだろう。フェルズが我先にベルに近づくと詠唱を始めた。

 歩きながらであってもその詠唱は寸分の狂いもなく、詠唱が1節1節紡がれるごとに天へと延びる光の柱が輝きを増していく。

 死者蘇生──下界の理を捻じ曲げるに等しい禁忌だが、それは『見方次第』で正義にも悪にもなるあやふやな物である。ただ、少なくとも黄昏の空へ突き立った光の柱や魔力の高まりを知覚したベルや異端児(ゼノス)は間違いなく、自らの前に垂らされた蜘蛛の糸(きぼう)であることはたしかだった。

 

【ディア・オルフェウス】

 

 やがて1人の愚者が言祝いだ禁忌の魔法が完成する。光の柱が砕かれると同時にベルの足元にあった魔法円(マジック・サークル)から夥しい量の白い光玉が出現し、薄暗い地下を優しく照らす。光玉はらせんと共に何とも荘厳とした音を発し、ベルの胸に掻き抱かれた灰へと収束。ガラスが割れたような音と共に、今度は目を焼かんばかりの青白い光が地下全体を眩く染め直した。

 

 反射的に目を閉じてしまったのも束の間。{慣れ親しんだ重みに}ベルがゆっくり目を開けると、そこには。

 

「あ……。あぁ……、ウィーネ」

 

 龍の翼や醜悪な姿は一切ない。{ちょっと顔色が人間と違うだけ}のウィーネの姿にベルは安堵──。

 

 することはなかった。

 

 冷たい。冷たいのだ。

 いくらに強く抱きしめても鼓動は感じられないもぬけの殻。生物として大事な物が入っていないただの肉の塊に、蘇生が成功した希望から一転、絶望に突き落とされたベルと周囲に居た異端児(ゼノス)たちは慟哭する。

 しかし、フェルズだけは心底安堵したように後ろに居たユニコーンに目を向けていた。

 

「あぁ、本当に"呼んでよかった"」

 

 本来には無かった{2本目の矢}が番えられる。

 ベルにとってよく聞いた詠唱。それでも1節だけ混ぜ込まれた聞いた覚えのない(ししゃそせい)の詠唱と先ほどまで敵対していたアクスという存在に目を丸くした。

 

「フェルズさんと……同じ」

 

 新緑を思わせる魔法円(マジック・サークル)から噴き出た光の帯が黄昏の空を貫き、それでもなお周囲を明るく照らす数多の光玉が徐々に小さな女の子の形へと変じていく。

 

「さぁ、家に帰りましょう。皆が待っています」

 

 そう言いながら光を押し出すように軽く叩く。何の抵抗もなく光がウィーネに吸い込まれ──しばらくすると彼女はゆっくりと目を覚ましたのだった。

 

***

 

 地上にウィーネが進出して数時間後。現場復旧や逃げた異端児(ゼノス)たちの詳細についてまとめていたフィンたちの下にアクスが臨時治療院に戻ってきたという報告が舞い込んでくる。

『動けない人を助けてくるーって、奥の方に向かって行っちゃいました』と伝えてきた市民は何も悪くないために『向かっちゃったかぁ……』と返事はしたものの、内心では『またか』と怒るよりも呆れの感情に支配された。

 そんな献身の心がオラリオに住む人間の数割ぐらいからアクスが好意を持たれている所以なのだろうが、もうちょっとどうにか──厳密に言えばアミッド当たりがちゃんと調教……洗脳……魅了……。何でも良いから言うことを聞かせて欲しい。

 そんなどうにもならなさそうな感情を引っ提げて臨時治療院に向かうと──そこは修羅場だった。

 

「や"あ"ぁ、飼うのぉ!」

 

「駄目! 誰が世話すると思ってるの!」

 

「ちゃんとお世話もするから! 散歩も連れてくからぁ!」

 

「そんなこと言って、どうせ最初の1週間だけで後は俺たちになるんだろ! 知ってるんだからな!」

 

 右を向けば、まるで子供が捨てられた動物を飼う時に言う常套句を宣うアクス。そして、それを常套句で断る団員たちが居る。実体験なのか断り方も堂に入ってはいるが、逆にそれが仇となってアクスはより一層頼み込む声量を強くしていた。

 

 そんなアットホームな雰囲気を匂わせる雰囲気に、頬を引き攣らせたフィンが気を紛らわせるためについつい左の方を向くと──。

 

「ブワッハッハ! まだまだ汲んできた水があるぞ、ウマゴンよ! 良い薬には綺麗な水が必要不可欠! ゆえにジャンジャン角を突っ込むのじゃぁ!」

 

「うむ、うちも清潔な水の確保には難儀しているからな。シュナイダーとアクスには、たまにうちに来てもらうのも悪くないかもしれん」

 

 回復薬(ポーション)などといった薬品には清潔な水は必要不可欠であり、かのモンスターの角にはいかなる毒素──それこそあのポイズン・ウェルミスの毒であっても取り除けると言われるほど強力な浄化力を有している。

 それゆえに井戸水が入った桶を2柱の医神がユニコーンに押し付ける気持ちはすごく分かる。

 ただ、いくらテイム済みとはいえ、その日あったばかりのモンスターをすぐさまブラック環境に組み込むのは如何な物だろうか。好き勝手に名前を言われながら事あるごとに桶に角を突っ込むという仕事に、ややげんなりしているかのようなユニコーンを見ながらフィンは同情的な視線を送る。

 

「はぁ!? ディアンケヒト様、何勝手に名付けてるんすか!」

 

「そうだ、そうだ! 俺の考えた"げろしゃぶ"か"ふーみん"……ったぁ! こいつ噛みやがった!」

 

 もはや我慢の限界だったのだろうか。フィンのセンスから鑑みても酷い名付けをしようとした男性団員の頭を噛んだことで一瞬だけ場が騒然となったが、周囲から『その名前はないわ』と逆に頭から血を流している団員が非難されることとなった。残念ながら当然である。

 

 そんなこんなで再び正面へ視線を戻したフィンは、先ほどからうわ言のように呟いているこの場の責任者に声をかけた。

 

「ところでアミッド、もう大丈夫かい?」

 

「本当に……本当にユニコーンが……。つまり、アクスは純粋な男の娘」

 

「アミッド、言い方おかしくないか!? あぁ、痙攣し出した……。い、医者ぁ!」

 

「私たちでしょうが!」

 

 駄目だこりゃ。早々にアミッドの復帰は叶わないと察したフィンは、率先して事情を聞かなければならない事態に諦めと面倒くささが一緒くたになったような微妙そうなため息をつくと、未だ女性団員にしがみ付いているアクスに話しかけた。

 

「アクス、あのユニコーンとはどこで出会ったんだい?」

 

「18階層……」

 

「どうやってテイムをしたんだい?」

 

「話し合って決まりました」

 

 神ではないが、齢12歳の小僧が話す内容に嘘がないことを見抜けぬ程フィンは耄碌していない。ただ、それでも『話し合った末にテイム』という未知のテイム方法に首を傾げるしかないのも事実。

 具体的にどうやったのか見せられてもきっと理解できないだろうと頭を悩ませていると、横からディアンケヒトが割り込んできた。

 

【勇者】(ブレイバー)よ。もしかすると、スキルかもしれん」

 

「スキル? 神ディアンケヒト、それはもしかして馬関係のかい?」

 

「なんじゃ、知っておったのか」

 

 驚かし甲斐が無くなったことに不満顔のディアンケヒトは、女性団員の手で宙吊りになったアクスを受け取って地面に置く。そのまま背中を小さく露出させ、自身のイコルでステイタス更新をしたついでに紙へと写し込んだ。

 

「そろそろじゃな」

 

「ランクアップかい?」

 

 フィンの質問に必要な情報以外を消していたディアンケヒトは頷く。

 まるでフリー素材のようにアクスの内情が語られるが、彼は未だ保護者(アミッド)たちに手を取ってもらってよちよち歩いている冒険者。それに子供特有の無鉄砲さが合わさっているため、保護者が多ければ多いほどいいに決まっているのだ。

 

「いろんなところで魔法を使ったのじゃろう。そろそろCに届きつつあるが、本題はこっちじゃ」

 

 そう言って必要事項以外を全て消した紙をディアンケヒトから受け取り、一読しただけでフィンの動きが止まる。まるで憧れの人物に出会ったかのように顔に手を当てながら感極まる彼の不可思議な行動を訝しんだリヴェリアは、『どうした?』と件の紙をフィンから奪い取って一瞥する。

 

 騎士(マクール)の単騎駆け

 馬関係のテイム率極大補正

 馬との意思疎通が可能

 乗馬中、対象者と騎馬のアビリティを合算。共有する。

 乗馬継続時間に比例し、【耐久】、【俊敏】、【器用】の高補正。

 周囲に1人しか居ない場合、さらに補正が掛かる。

 乗馬中に発展アビリティ『槍士』が一時的に発現する。補正効果はLV.に依存する。

 乗馬中に発展アビリティ『射手』が一時的に発現する。補正効果はLV.に依存する。

 乗馬中に発展アビリティ『破砕』が一時的に発現する。補正効果はLV.に依存する。

 

 それを見た瞬間、フィンほどにはならずともリヴェリアは立ち眩みを覚えた。

 

 乗馬中という重い制限があるとはいえ、槍士に射手に破砕というラキア王国の騎士辺りが欲しがりそうな発展アビリティの一時的な発現。加えて騎馬と自身のアビリティを合算して共有となると、それはもう1人のアクスが襲い掛かって来るに等しい。

 そこに今回はラキアの軍馬とはわけが違う。ダンジョンで生まれたユニコーンであれば少なくとも上級冒険者ぐらいの能力があるため、さらに厄介で凶悪な存在になったと言える。

 

 しかし、リヴェリアは{そんなことよりも}気になることがあった。

 

 それは──。

 

「アクス、ユニコーンはモンスターだろう? 馬に入るのか?」

 

「でも、テイム出来ちゃったし……」

 

「出来ちゃったかぁ……」

 

 スキルならば仕方がない。本当はユーノが異端児(ゼノス)などという裏事情はあったものの、後に合流してきたシャクティやガネーシャと協議を行った結果としてユニコーンは無事に【ディアンケヒト・ファミリア】の預かりとなる。

 

 ……なぜか、ブラック企業に染まった企業戦士のような眼差しをフィンたちに向けてきたのは目の錯覚だろう。

 

***

 

「アクス、私の部屋に来なさい」

 

 夜。ダイダロス通りのなんやかんやから引き上げた団員たちが治療院の締め作業を行う最中、アミッドの命令がアクスに降りかかる。

 しかし、防災訓練のトラウマから脱却できていないアクスはその命令をすかさず拒否。その返答の速さに近くで聞いていた団員たちはさもありなんとばかりに極力アミッドたちの方を見ずに締め作業をしていると──。

 

「良いから来なさい」

 

「や"ーっ!」

 

 男なんてものはいくら調子に乗っていようが、(色々頭が上がらない程)強い女には敵わない。この世における節理の1つを知ったアクスはそのまま部屋にドナドナされ、アミッドの対面に座らされた。

 

「色々勝手にしてごめんなさい」

 

 退路無し。打つ手なし。そのような状況下でアクスは先手必勝とばかりに謝罪を始めた。

 

 ユニコーンを勝手に連れてきたこと。いくら逃げ遅れが居たとしても、魔剣の有効範囲内に突撃したこと。いくら負傷者の捜索をしていたとしても、フィンたちの了承も得ずに居なくなってしまったこと。

 そこからさらに異端児(ゼノス)のことを含めれば数え役満レベルにヤバいのだが、これだけでもアミッドが十分怒るのは目に見えていた。

 

「なに言ってるの?」

 

 しかし、アミッドは別に怒っていないらしい。確かに彼女としては色々と面を食らうことはあったが、ユニコーンについてはイブリ経由で聞いていた情報を『何をバカな』と一笑に付したのはアミッド自身である。

 魔剣についても手放しに誉められたことではないものの、要救助者である一般人の保護をLV.2冒険者が行ったと考えればアクスのやったことは決して間違いではない。

 捜索に至っては完全にアクスが正しい。言伝のレベルが非常に{アレ}だが、臨時治療院に運び込まれて来る冒険者たちの容態はアミッドたちの予想よりも少々酷かった。後から聞いた話では{とある冒険者}が獲物を誇示したことでそうなったらしいが、冒険者にとってあるあるなことなので非難はしない。

 総合すると、指摘込みの花丸。『もう少し頑張りましょう』といったところだろうか。

 

 しかし、そうなるとどうしてこの場に呼び出されたのだろうか。そう思っていたアクスを既に寝間着に着替えたアミッドは万歳させ、彼女の部屋にも拘らずタンスに仕舞われていた寝巻をアクスに着替えさせてからベッドに連行する。

 どうやら一緒に寝たかったらしい。思わぬところで地雷を踏んでアミッドを怒らせるところだったと安堵したアクスは、ダンジョン内への往診から始まったあれこれに対する疲労や安心感のまま寝入ってしまう。

 

「アクス、ごめんなさい」

 

 すると、すっかり眠ってしまったアクスに向かってアミッドは謝罪の言葉を囁いた。続いてアクスの腰に回した手に少しばかり力を加えてから、彼女はぽつりぽつりと己に巣食った{後悔}を懺悔する。

 

 期待は、諦めとよく似ている。諦めたからこそ相手に対して勝手ながら期待してしまい、自分ではどうしようもなかったからこそ相手に{そうなる}ように仕向けて委ねる。

 それは『人間』だからこそ当たり前に備わっている機能で、【デア・セイント】と言われた1人の少女でも……否、『オラリオの傷付いた人々を救いたい』と願う彼女であるからこそ{決して抗えない}。

 

 オラリオで1番有名なLV.2。【魔導】がなくとも【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)以上の治癒魔法を行使できる。【ディアンケヒト・ファミリア】の団長。

 ヒューマンとしては小柄な彼女だが、治療師(ヒーラー)としての能力や肩書き的にその1歩は非常に大きい。そんなアミッドに憧れて入団した団員たちは初めこそ彼女に追いつこうと必死に頑張るものの、半年もすると住む世界が違うことに悩み……最終的には辞めるか、彼女の負担が増えないようにサポートに回っていくのが通例だ。

 そのサポートの甲斐あり、今までアミッドはたまに酒に呑まれたり、たまにアクス相手に年頃の少女染みた『可愛がり』を発散させたりとあったものの、{精神が壊れてしまう}ことはなかった。

 

 ただ──それでも──。追いかけてくれる存在を熱望していないわけではない。

 そんなところにアクスが芽を伸ばしてきた。パルゥムらしくその1歩は小さいながらも確かな足取りで多くの1歩を重ねていき、今ではアミッドのすぐ後ろにまで迫っている。

 彼女(アミッド)が居るから(アクス)が輝き、(アクス)が居るこそ彼女(アミッド)が輝く。そんな夢想にふけたのも1度や2度ではない。

 

 それでも、彼女は決して『もう1人の自分』を生み出したいわけではない。防災訓練で仕出かしてしまったことは完全に自分の意志の押し通しだ。

 たしかに闇派閥(イヴィルス)のように人の死を喜ぶ人間にはなって欲しくはなかったが、そこは言葉で話し合った末に理解してもらうもの。決してあの時のように脅迫染みた行動で説得することではない。

 

「本当にごめんなさい、アクス。あなたがすっごく頑張ってくれたから私、ちょっと混乱してたみたい」

 

 これからアミッドどころか、ディアンケヒトでさえも予想だに出来ない成長具合を見せるアクスに彼女は改めて謝罪の言葉を口にするが……、当の本人はすっかりお眠な模様。アミッドの二の腕辺りをマッサージするように捏ね繰り回しながらスピスピと寝息を立てるアクスに、アミッドは自身の胸元に彼の頭を抱いてから片手で頭を優しく撫で始めた。

 

【挿絵表示】

 




AIの使い方が分かってきたけど、まだまだレベルが低い…。

ラーニェ
 連絡役が板についたご様子。あんなでっかいナリでよくバレないよなとは思ってはいけない。

フェルズ
 スパルトイ(仮)。決してモモンガでも、鈴木悟でも、呪いで骸骨になった精霊獣連れてる御仁ではない。
 お前のような人工的に植え付けられた意思を持った子供が居るか!と憤慨中。

死者蘇生
 ロキ・ファミリア蘇生に続いてこれがやりたかったパート2。希少中の希少な死者蘇生2連発ですよ、奥さん。

ちゃんと世話するからぁ!
 なお、作者の前作では同じようなセリフを原作主人公の兄共々ロボットに対してしていたという。

騎士(マクール)の単騎駆け
 こうなっちゃった…。なっちゃったからにはもう…ね。(フィンの頭を焼くしかねぇ!)

男なんてものはいくら調子に乗っていようが云々
 過去にオラリオに在住していた【暴食】さんのありがた~いお言葉。
 いや、マジでベルパパ何してるん? ……あ、食われたのか。
 そうなるとベル取り上げたのって、ディアンケヒト or ミアハとかになるのだろうか。
 たまにアクスに振り回される爺さんと朴念仁三銃士の一角、可哀想…。
 
アミッドの1歩とアクスの1歩
 アミッドの1歩はアクスより遠くにいけるが、その間にアクスが何歩も歩くことでアミッドの背中を追いかける。どちらの歩き方も尊く、どちらもすごいのだ。

二の腕を捏ね繰り回す
 猫がやる印象が強いですが、うちの犬がたまにやります。

余談① アズレンコラボ
 リューさん、軽巡洋艦なんだ…。豊穣の女主人行ってくる!

余談② おそらくキチクホワイトエルフのせいで大変な目に合うのが目に見えているヘイズ
 お労しや、ヘイズ師匠。
 そこに 2ひき アクスが いるじゃろう!
 → 神父アクス 小姓アクス

余談③ 祝評価100人
 皆様のおかげでここまで来れました。ありがとうございます。
 執筆時間が少ないですが、様々なアクスの四方山話…あまり期待せずに待っていただけると
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