ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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84:陰り2

 【ロキ・ファミリア】がダイダロス通りでヴィーヴルが出てきた入口を発見した次の日。【ディアンケヒト・ファミリア】の厨房から甘い匂いが漂っていた。

 団員の殆どが同時に食事ができる大きな食堂にあるテーブルの上にはホカホカと温かな湯気が立っているパンケーキが何段にも重なったボリューミーな皿がいくつも乗せられており、それぞれに団員たちはうっとりとしながら舌鼓を打っていた。

 何をかくそう、今朝の調理担当は我らがファミリアの団長であるアミッド。そんな彼女に憧れを始めとした諸々の感情を持っている団員たちにとって眼の前の何の変哲もないパンケーキはとんでもない大御馳走であった。

 

 そんなご機嫌な朝食に手を付けていたわけだが、テーブルの奥では別の意味で甘い雰囲気が漂っていた。

 

「アクス、美味しい?」

 

 珍しいエプロン姿のアミッドの前には、げっ歯類のようにパンケーキを頬に詰め込んだアクスが笑顔で首を縦に振っている。そんな小動物な弟の姿を慈母のような笑みで見つめるアミッドとなんとも微笑ましいが、そこでアクスは追い打ちをかける行動に出る。

 

「あーん」

 

「……あーん」

 

 あーん。あーんである。本拠(ホーム)の中であってもレア中のレアな出来事に団員たちの脳はすかさず録画モードを起動し、アミッドやアクスに心が奪われている面々は微笑ましさと小指の先ほどの嫉妬の間で反復横跳びする羽目になったのは言うまでもない。

 

***

 

 こうしてご褒美ご飯をお腹いっぱいになるまで食べたアクスは、フィンと約束していたダイダロス通り……ではなくデメテルファミアが運営している大農園へと赴いていた。

 

 それもこれも昨夜。珍しくデメテル自身が直接【ディアンケヒト・ファミリア】を訪問し、収穫の手伝いをお願いしてきたためである。報酬が収穫した野菜や果物を幾分か譲ってもらうということで、少しでも食費という『一定で出ていく出費』を抑えたかったディアンケヒトはアクスやあまり重要な仕事についていない団員たちの派遣を約束したのだ。

 そうなるとクエストとのダブルブッキングになってしまうのだが、そこは天下の守銭奴──もとい、ディアンケヒト。『回復だったら四六時中傍に居らんでも良いじゃろう』とわざわざフィンを呼びつけ、クエストの内容を変えさせるという力技を敢行する。

 これにはフィンも苦笑いを浮かべて少々難色を示すが、アミッドからの『忘れてませんからね?』といった具合の圧に屈するしかなかった。

 ちなみに、収穫メンバーの中にはリーネも入っていたりする。ディアンケヒト曰く『アミッドに師事しとるのじゃから、うちの団員(仮)みたいなもんじゃろ』というとんでも理論によって参加が決まった。

 

 そんなこともあり、【デメテル・ファミリア】の大農場では多くのファミリアから集まった沢山の冒険者が溢れかえっていた。

 中には暇を持て余した神々の姿もあり、『デメテルママー!』だの『ばぶー!』だのといったセリフを吐いては自身の眷属と思われる冒険者にぶっ飛ばされるという光景を横にアクスはひたすら野菜を収穫しては運搬要因として連れてきたユーノが轢く馬車の荷台に放り込んでいく。ユーノがちょっと濁った目でアクスを見ている気がするが、おそらく気のせいだろう。

 

「そのユニコーン、濁った目してない?」

 

「気のせいです。それより、【デメテル・ファミリア】ってこんなに人居ませんでしたっけ?」

 

「もっと居たはず。そもそも、デメテル様たちだけで収穫してたはずだよ」

 

 人手が足りないことをデメテルから直接聞いてすっ飛んできたルノアの言葉に、アクスは大勢いる冒険者()()──【デメテル・ファミリア】の構成員が少ないことを訝しむ。

 

 【デメテル・ファミリア】はオラリオに出荷されている農産物の殆どを生産しているという業務上、ダンジョンに赴く冒険者のように戦闘をこなせる眷属は圧倒的に少ないものの、非戦闘員も合わせればかなりの構成員を有している。

 その数はざっと見積もっても【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】以上。ファミリアを立ち上げて間もないといった事情から食い扶持目当てで手伝いに来るならまだしも、こんな風に大勢のファミリアに呼びかけてまで収穫を手伝ってもらうということ自体に首を傾げていると、タイミング良くデメテルが野菜でいっぱいになったバスケットを片手に通りがかった。

 

「あ、デメテル様ー」

 

「あら、ルノア。今日は本当にありがとう、助かったわ」

 

「それは良いんだけどさ。今日、ファミリアの人たち少なくない? ペルセフォネも居ないし」

 

 ファミリアの団長の名前をルノアが告げた瞬間、デメテルの表情が()()()──ように見えたが、にっこりとほほ笑んだ彼女は『そうなのよ~』と困った風な口調で話し出した。

 なんでも現在、団長であるペルセフォネを始めとした大勢の団員たちがオラリオには居ないらしい。その理由は親の介護や親戚の結婚式。はたまた出産の立ち合いなどとそれぞれだが、オラリオから遠く離れた場所からやってきた眷属も居るために人がまるっきり居なくなる期間が今なのだという。

 

「あー、人が居ない時期かぁ。うちのバカ猫たちと違って、用事なら仕方ないですよね」

 

「そうなのよー。でも、お野菜って収穫しないと痛んじゃうでしょ? だから、駄目になる前に収穫して誰かのお腹を満たしてもらおうかなって」

 

「素晴らしい心意気だね。流石はデメテルといったところかな?」

 

 正に豊穣を司る女神というべき考え方にルノアとアクスが『おー』と手を叩いていると、横からとデュオニソスが首を突っ込んできた。

 紫がかった外套と白を基調とした軽やかなチュニックを纏った伊達男……なのだが、頭にかぶった麦わら帽子がどうもアンバランスな雰囲気を醸し出している。そばに控えているフィルヴィスもいつもの服装に麦わら帽子を被っていることから、不協和音のような違和感を周囲に発していた。

 

 しかし、アクスにとっては()()()()()はどうでも良かった。

 

「ま、待て! 無言で消毒液を持つな! そもそもどこから取り出したんだ!」

 

「僕に消毒液を持つなってことは治療するなと同義なので」

 

「意味が分からないぞ! や、やめろぉ! ジリジリ近づいて来るなぁ!」

 

 再び『穢れている発言(きんしワード)』を発しても良いように準備をするアクスにフィルヴィスは慌てふためく。そんな珍しい光景がおかしかったのか、デュオニソスは快活に笑いだした。

 

「はははっ、あのフィルヴィスも【小神父】(リトル・プリースト)には勝てないとはね。なかなか興味深い」

 

「デュオニソス様!」

 

「すまない、つい珍しくてね」

 

「それよりデュオニソス様はどうしてここに?」

 

 顔を真っ赤にさせながら怒るフィルヴィスをあしらっていたデュオニソスがここに居る理由を問うと、彼は少し考えてから『君は子供だから、酒の原料とか分からないか』と張りのあるブドウを1房手に取って説明を始めた。

 

 ヘファイストスやゴブニュは超人的な鍛冶の腕。ディアンケヒトやミアハは医療技術といった具合に神々は地上に居りて権能を失っても尚、それぞれが司る技術()()は健在である。

 デュオニソスの司るのは『酒』。それもブドウを材料としたワインに特化している。

 いつもは趣味人らしく身の丈に合った金銭でブドウを購入しては酒を仕込んでいたようだが、今回の呼びかけに彼は『ブドウを大量に仕入れてワイン作れるぜ、ひゃっほい』と主にブドウ目当てで勇みながらやってきたのだとか。

 

「私の作るワインはデメテルのブドウがあってこそだからね。でも、本当に良いのかい? 今後のことも考えて、遠慮なく貰おうと思うんだが?」

 

「もちろんよ。でも、その分だけお手伝いはよろしくね」

 

 そう言いながらデメテルはウィンクを1つして去っていく。それを見送ったデュオニソスは『そういう訳だ、フィルヴィス! 私のワインのために頑張ろうではないか!』と元気いっぱいに歩き出し、そのワインに取り付かれたようなキャラ変具合に彼女は少々狼狽えながらもついていく。

 どうやら神に振り回される眷属というのは、思いのほか多いらしい。アミッドやアスフィやヘイズといった『同類』の姿が頭をチラついたものの、オラリオの方から『アクスゥ』だの『あなたも地獄(こっち)に来なさい』だの『バカ弟子、皆で歩けば怖くない』だのと怨嗟の声が聞こえた気がしたためか何も言わずに野菜の収穫を再開する。

 そんな野菜と格闘しているパルゥムを忌々しそうに見つめる神が1柱。しかし、すぐさま口元に手を当てると、すっかり温和そうな顔つきとなった彼は眷属と共に()()()()()()()()()

 

***

 

 農場の手伝いが終わって少しした頃。収穫した野菜を治療院の台所に運んだアクスは、その足でダイダロス通りへとやってきていた。

 収穫したてのニンジンをボリボリと上機嫌に食むユーノに『【ディアンケヒト・ファミリア】に居ればずっとこれ食べれるよ』と悪魔の勧誘を行うが、それでも今日まで続いているオールナイト業務(どブラック)な環境のせいで良い返事を聞けず……。それもこれもクノッソスに潜む闇派閥(イヴィルス)が悪いと憤慨しながらも、【ロキ・ファミリア】の敷設した仮設テントの傍でユーノから降りる。

 すると、通りの奥の方から子供たちがアクスに向かって掛けてきた。

 

「あ、アクスだー」

 

「アクスー、ユーノと遊んでいいー?」

 

 彼らはダイダロス通りにある『マリア孤児院』に住む子供たちで、臨時治療院や負傷者搬送といった具合にアクスと共に活動しているところを見られていたからか、すっかりユーノに慣れてしまったらしい。

 一応、『暴れないように』と念押しするが、返ってきたのはまるで小バカにしたような嘶き。それでも事情も知らない冒険者や額に残った角の欠片やユーノ自身の魔石を目当てとした欲の皮が突っ張った冒険者による襲撃という()()()があってはいけないため、アクスは今日も今日とてテントの前に突っ立っている森の賢者(レフィーヤ)を指差した。

 

「あの森の賢者……もとい、エルフのお姉さんから離れないようにね。なにかあったらあの森の賢者に頼るんだよ。握力で解決してくれるから」

 

「あの、アクス君? 変なこと教えないでくれると嬉しいなって」

 

 森の妖精と比喩されるほど美しい見た目のエルフを捕まえて森の賢者(ゴリラ)などとあんまりな言い方をしたためか、思わずレフィーヤは苦言を呈する。すると、アクスは『忘れたの?』と言わんばかりに自らの側頭部あたりを人差し指で小突いた。

 【ロキ・ファミリア】との今後の付き合いを──もとい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がそこら辺はしっかり反省して欲しい。そんな無言の圧力を感じ取ったのか、『うっ』と呻いたレフィーヤがそのまま何も言わなくなってしまったため、そのままユーノを遊具代わりにする子供たちを横目にアクスはテントの中へ入っていく。

 

「アクス、既にガレスたちが掘削作業に入っている。そろそろ向かって……いや、ちょっと待て」

 

「なんですか?」

 

 出迎えてくれたリヴェリアがアクスを呼び止めた。

 既に彼を護衛するためにアリシアたちも集まっていたし、ガレスたちの昼食や水といった準備も完了している。後はアクスを連れて行くだけの手はずであるが、他に何かあるのだろうか。そう思って()()()()()()()()立ち止まっていると、ちょっとだけ悲しそうにしながらリヴェリアは『心配するな』と言っておもむろにアクスの口元をハンカチで拭った。

 

「もっと身だしなみに気を付けろ。ほら、綺麗になったぞ」

 

 アクスの口元に付いた食べかすを拭ったリヴェリアは微笑む。傍目から見て年長者のエルフにありがちな世話焼きの一環で、ここにロキが居たら『やっぱりママやんか!』と叫ぶ展開がありありと見える。

 しかし、()()()()()がこの場の状況を混乱させた。

 

「り、リヴェリア様! 私にも!」

 

「いいえ、私にも是非!」

 

「アー、クチモトガー。ヨゴレテシマイマシター」

 

 エルフの王族(ハイエルフ)に『仕方のない奴だ』と言われながら口元を拭われる。全てのエルフにとってご褒美でしかない行為にアリシア含めたエルフたちが色めき立つ。もはや収拾がつかないレベルにまで発展した惨状に、一旦アクスだけをキャンプの外に放り出したリヴェリアはご褒美の代わりに雷を落とすのであった。

 

「エルフって面倒くさいね」

 

「うん、帰ってきた冒険者のお兄ちゃんが言ってた。好きになった人が現れたり、王族に関係したりすることについてのエルフは面倒くさいって」

 

「あのー、私の方を見ながら言うのはやめてくれる?」

 

 余談だが、マリア孤児院では大人になった子が次々と冒険者となっている。ただ、冒険者はもともと高い死亡率を誇る危険な職業であるため、()()()()()()()()()彼女の育てた子供たちは『誰1人として』帰ってこなかった。

 しかし、()()()()アクスが居る。彼のダンジョン内外を徘徊しながら何気なく治療して去っていくという変態行為により、孤児院出身の冒険者が命を留めることができたとかなんとか。

 

 閑話休題(そんなこんなで)。絶賛雷警報が発令しているテントとその横で戦々恐々としているレフィーヤを交互に見つつ、アクスは孤児院の子供であるハーフエルフのルゥと話していた。

 ただ、その反応に不服なのかレフィーヤは抗議するが──。

 

『……めんどうくさいね』

 

「うわーん!」

 

 残念ながら、当然のこととして切り捨てられた。

 

***

 

「ユニコーンが子供たちと遊んで……」

 

「モンスターっていったい何なんでしょうね」

 

 こうして、『後で続きをやるぞ』と悪魔の宣告を受けたアリシアたちが解放され、アクスと共にガレスたちの元へと向かう。

 道中の話題はもっぱらキャンプのすぐ横で子供たちと遊ぶユーノの姿。地上に住んでいる個体ならいざ知らず、本来は打倒すべきダンジョンから生まれたモンスターがあそこまで自然と溶け込んでいる姿に潔癖なはずのエルフの心がちょっと揺らいでしまった。

 

 そんな彼女たちが語らっている横を冒険者の一団が通り過ぎる。重苦しい重装備を纏ったヒューマンや外套を羽織っているエルフなどそこら辺に居る冒険者の装いであったが、その中に居た帯のような布で頭を覆っている獣人にアクスは声をついついかけた。

 

「すみません、もしかして頭を負傷しておられますか?」

 

「っ!」

 

 声をかけられたことで獣人たちは酷く驚いたものの、すぐさまアクスの言っていることがよく分からなかったのか首を傾げる。

 すると、今度はアリシアが自身の頭を指で指しながら『ターバン。血が付いてますよ』と指摘した。

 

「あっ、あぁ。これは昔のだよ。万年金欠でね、洗濯しながら騙し騙し使ってるのさ。ありがとう」

 

「何かあれば治療院までお越しください」

 

「そうさせてもらう」

 

 そう言って冒険者の一団はそそくさとダイダロス通りを抜ける路地へ入り込んでいく。彼らを見送ったアクスたちは引き続き歩き、やがてガレスたちが現在掘削作業をしている地下への階段を下りて行った。

 

「ん? おぉ、アクス。ようやく来おったか」

 

「遅くなりました」

 

 遅れたことで迷惑をかけたと謝罪するアクスであったが、オラリオの食糧供給を担う【デメテル・ファミリア】の手伝いという事情は耳に入っていたためにガレスは気にしていないよう言いながら持っていたつるはしを放り投げた。

 白剛石(ヴァルマーズ)という硬い鉱石を用いたつるはしの先端はかけており、他にも柄が折られたり尖った部分が完全に無くなったまさに『つるはしの墓場』と言うべき惨状にアクスたちは思わず唸り声を上げる。

 

 そんなことをしていると、奥から『ガキリ』という形容しがたい音が聞こえると共にティオナが心底疲れたような足取りで歩いてきた。

 

「ガレスー、折れたー。もうあと2本しかないよぉ!」

 

「予備も含めて持ち込んだんじゃがなぁ」

 

 10本ものつるはしが既に8本使い物にならなくなっている現状にガレスは思考を巡らせる。この際、つるはしを調達するための資金についてはフィンから度外視と指示をもらっているために除外するが、こうもポンポン使い物にならなくなることを考えると調達に多大なマンパワーを要するのは明白だ。

 しかし、現在の【ロキ・ファミリア】はこのクノッソスの案件の他にも武装したモンスタ──-異端児(ゼノス)の殲滅も担っている。これは他のファミリアの冒険者も次々参加しているが、クノッソスと密接に繋がっているという関係上は他のファミリアに出し抜かれるわけにはいかない。

 

「致し方ない。鍛冶系のファミリアの力を借りるか」

 

 いかに【ロキ・ファミリア】がかなりの大所帯でも、不本意ながら2方面の作戦を強いられた現状を鑑みるに心もとない。特につるはしといったダンジョンでは素材を切り出すぐらいしか役に立たないものを大量に発注すると、他のファミリアに隠したい腹を探られかねない。

 そこまで考えたガレスは一旦持って来たつるはしを全て使いきるためにアクスに治癒魔法を掛けてもらい、掘削作業を再開させる。

 

「すごーい! サクサク掘れるーってもう折れちゃった……」

 

「やはり、椿たちにも頼むか。……吹っ掛けられそうじゃのぉ」

 

 先ほどまでの道程をものの数分で掘ったガレスたちであったが、つるはしに限界が来たために中断を余儀なくされる。

 今後のつるはしの調達について思考を巡らせるが、馬鹿なパルゥム(フィン)がやらかしたことが尾を引くだろう気配をひしひしと感じたガレスは重たいため息をつきながら一時撤退を宣言。そのままテントに戻るや否や、フィンを呼び出した。

 

「──というわけじゃ。儂はこれから椿たちのところや神ゴブニュのところに頼んで来るが、どう転ぶか分からん。本当に余計なことをしてくれたのぉ」

 

「本当に悪いと思っているよ。でも、君も"熱き戦い"を前に冷静に居られないだろ?」

 

「その"熱き戦い"を所望している儂を差し置いてよくもまぁ言えたものだな」

 

 自身が所望している熱き戦いをちゃっかり体験しておきながらこの言い様。眉間に青筋を立てるガレスであったが、ふと横で魔石灯を用いた光暗号の暗記をしている団員たちの様子を見ていたアクスと目が合った。

 

「儂もアクスと……」

 

「ガレス、それは本当にマズいから止めてくれ。それに、君は2軍の相手を散々しているじゃないか」

 

「たまには別の酒を飲みたいことがあるじゃろうて」

 

 毎回同じ酒(ラウルたち)を飲むと飽きてしまうもの。たまには趣向を変えるのが肝要と説くガレスだが、昨日の今日で同じようなことを起こせば間違いなく『終わる』。そんな悲壮感たっぷりの表情をしたフィンが考え直すように言うと、その顔が非常に滑稽だったのか『分かっとるわ。冗談じゃ』と呆れたガレスはダントから出て行った。

 

 首の皮1枚──というか、これは揶揄われたのだろう。冷や汗をかきながら息を整えていたフィンに、今度はラウルが話しかけてきた。

 

「団長」

 

「あぁ、ラウル。進捗の報告かい?」

 

「それもあるっす。けど、その前にアクス君が気になったことがあると自分とアキに伝えてきたんすけど……」

 

 歯切れが悪そうに報告してきたラウルは、論より証拠とフィンを連れてアクスとアキの元へ向かう。すると、そこにはアキの手を見て何かを考えこむアクスの姿があった。

 

「アキさん。直剣のタコがこれで、ナイフってこのタコですよね?」

 

「そうよ。どこかおかしい?」

 

「うーん、"やっぱり"おかしいなぁ」

 

 アキの手の平に出来た常日頃から武器を持つことで出来る『タコ』を見ながらアクスが首を傾げている。傍から見ても何が何やら分からない彼女は、フィンがやってきたと同時に会話の矛先をフィンへと向けさせた。

 

「アクス、どうしたんだい?」

 

「さっき、冒険者の一団に出会ったんですけど……。直剣を装備している癖にナイフのタコがあったんです」

 

 それは背の低いパルゥムかつ、人体について学んだ治療師(ヒーラー)だからこそ気付けた『疑問』だった。

 冒険者というものは長くダンジョンに潜る上級冒険者やラウルのように自発的に鍛えようとしない限りは1つの武器を使用する。特にLV.1などは複数の武器を購入して整備する金銭的余裕も暇もないため、1つの武器のみを携帯することが多い。

 それなのにあの冒険者──特に頭に帯状の布を巻いた獣人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 もしかしたらナイフから直剣に転向したてなのかもしれない。もしかしたら修理中なのかもしれない。その他にも様々な要因や理由が考えられるものの、アクスの目には『ダンジョン探索に力を入れていない風』にしか見えなかった。

 しかし、これだけではただの言いがかりに過ぎない。フィンも『闇派閥(イヴィルス)が地上に出てきている』という想定はしていたが、この言葉だけではわざわざ構想中の編成を崩してまで再構成を行うには決定打に欠けていた。

 ただ、そこに()()()()()()()()()()()()()()がアクスに続けるように進言してきた。

 

「あの、団長。おそらくですが、闇派閥(イヴィルス)が冒険者の振りをしています」

 

「リーネ、どうしてそう思うんだい?」

 

 農場から直接ダイダロス通りに戻って来ていたリーネは引き続き市民の治療を行いながら人伝てに聞いたところによると、やはり怪しい存在というのが居るようだ。

 なんでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()().()()()()()()()()()()()()()()()()()()()といった明らかにおかしい存在が治療に来た冒険者が語ってくれたらしい。これだけでは冒険者によくある誇張やホラの類と考えてしまうが、ダイダロス通りの住人からも同じ派閥と思われる冒険者のパーティが明らかに廃屋だろう場所に集まっているという話も上がってきているためにリーネはこうして報告しているわけである。

 

 そして、なにより──。

 

「それに、私が殺されそうになった……。あのヴァレッタって人は他の闇派閥(イヴィルス)と違う服装でした」

 

 闇派閥(イヴィルス)の構成員は漏れなく全身を覆い隠した格好をしている。少なくとも、【ロキ・ファミリア】が相対した闇派閥(イヴィルス)たちは須らくそのような服装を纏っていた。

 それはたしかに闇派閥(イヴィルス)を見分ける唯一の手段だ。しかし、そこで()()()()()()()()のは非常にマズい。

 オラリオで1番人口が多い職種は冒険者。彼らに扮されてしまえば鬱陶しい横槍を入れられ、最悪犠牲を出してしまうかもしれない。フィンの考える懸念はそこであった。

 ただ、かと言って本格的に捜索するのは非常に骨が折れる。そこから導き出した彼の対応は──。

 

「アキ、今回の作戦で君には獣人中心のパーティを率いてもらう。鼻でも耳でも使えるものは"何でも"使って、炙り出せ」

 

「分かりました。大まかな配置だけはお願いします」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 アキに投げることであった。

 アナキティ・オータムは非常に優れた冒険者である。獣人という秀でた五感は当然だが、特筆すべきは切り替えの早さと公平性だ。ベートの罵声にも怯まず受け答えをし、団長であるフィンに対しても時と場合によってはっきりと意見を言う。そんな彼女の実力を鑑みれば、今回はフリーハンド。大まかな方針はフィンが舵を取り、細かなところの調整を彼女に任せた方が上手くいくと判断したからだ。

 

「まったく、僕の知らないところで妙に決定的な情報を集めて来るなんてね。アミッドの苦労が窺い知れるよ」

 

「?」

 

 必死に情報を集めている時、散歩に出ていたはずなのにクリティカルな情報をどこからともなく拾ってくる小型犬。おそらくアミッドも似たようなことをされ、さぞ頭を悩ませたのだろうとフィンは苦笑いを浮かべる。

 

 その後、かなり吹っ掛けられたらしいが、【ヘファイストス・ファミリア】や【ゴブニュ・ファミリア】からかなりの掘削道具を調達してきたガレスがティオナ。そして連絡役としてラウルと数人を連れて再度掘削作業に入る。

 夕方までという短い期間ではあったものの、午前以上の成果にガレスは壁の厚さや損耗具合から数日中に開通することを予測。次の日から本格的にアクス頼りの掘削作業が始まり、最終的に2日という短期間で開通することが出来た。

 

 ただ──。

 

***

 

「さぁ、埋めるか」

 

「もぉぉー! フィンがやってよぉぉ!」

 

 分厚い壁を破った先にあった巨大な空間の見聞を済ませた後、ラウルが聞いてきたフィンの指示で再び掘った穴が戻すことを指示されたティアナが憤りを露にする。

 

「でも、ちょうどアクス君が居なくて良かったっすね」

 

「優しいもんねー。フィンとえらい違いだよー」

 

「最近、あやつがフィンと同じ種族なのか疑わしくなるほどじゃからな」

 

 アダマンタイトの壁を積み直しながらこの場に居ないアクスについて雑談に興じる3人。

 

 そんな当の本人は今──。

 

「おうおう、返すもん返してもらおうやないけー、われー! 返せへんのやったらあんたらの可愛い兎さんを数日借りて身体で払ってもらうぞー、われー!」

 

「ちょぉぉっ! いったいどこで習って……いや、その口調はロキだな!」

 

「いえ、ヘルメス様です。ところで、ベル様って1人だと1日ダンジョン潜ったら、いくら稼げるんですかね」

 

「うわぁ……、ピュア過ぎるぅ。ヘルメスのやつ、絶対分かって教えただろ」

 

 少し前に書いた請求書片手に、再び【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)へと来ていた。




さてさて、陰りが表面化してきました。まるで参画したプロジェクトみたいだぁ。
毎週休日出勤求めて来るディアンケヒト(上長)マジゆるさん。

パンケーキ
 フワフワのスフレも良いけど、みっちりとした食べ応えのあるやつも捨てがたい。
 なお、イチャイチャ成分が枯渇したために急遽あーんなどを追加したのは内緒。

デメテル・ファミリア
 そうだね、オラリオには居ないね。

忌々しそうに見つめる神
 愛しき狂乱の宴を邪魔する奴は死あるのみ。

エルフ
 面倒くさい生き物。原作もマスターが言ってたし、多分合ってる。

冒険者に紛れ込む者
 普段なら居ない2人により、推測は確信へと変わる。
 ただ、現状は放置。ここから原作に繋がる。
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