ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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85:なぜなにアクス/ヘスティア

 談話室に招かれたアクスは、さっそくとばかりにヘスティアからヴァリス金貨の詰まった袋を渡される。少なくとも数万ヴァリスは入っていると思うが、金を数えるのが夜中のライフワークとなっているディアンケヒトにでも確認してもらおうと、特に確認することなく彼が袋を握りしめるが──。

 

「あの、離してください」

 

「ち、違うんだ。頭では払おうとしてるんだけど、手が勝手に!」

 

 まるで頭と体が分離したようなことを宣うヘスティア。彼女と同じく極たまーに支払いを渋る客が居るのでその気持ちは分かるが、ここで折れるとちゃんと支払ってくれている他の人たちに申し訳がない。そのため、アクスは懐から刃物を取り出しながら少々過激なことを言い出した。

 

「肉体が寄生されている症例ですかね? 切り落としましょうか、治癒魔法で応急処置をしてから団長に見てもらえば元通りになるので」

 

「怖いよ! 離すから止めてくれぇ!」

 

「ヘスティア様、神父様の前で滅多なことをいうものじゃありませんよ」

 

 慌てて袋から手を離したヘスティアに対し、リリルカが妙に実感の籠った言葉を贈る。アクスも『初めからそうしておけば良いのに……』と呆れながら受け取ったばかりの袋をバックパックに詰めていると、ちょうどそこにヴェルフがいくつかの包みを持って入ってきた。

 

「待たせたな、お前の取り分のユニコーンの角で馬笛を作ってみた」

 

「笛……ですか」

 

 象牙にも似た光沢を放つ掌に収まるほど小さな笛。アクスの取り分的にこれぐらいの小物しか作れないことは分かっていたが、なぜ笛なのかと問うとヴェルフは別の包みを指差す。

 

「あぁ、ナイフでもと思ったんだがこっちの魔剣もあるしな。それならユーノも居るから馬笛にしちまおうってな」

 

「あれ、ユーノもダンジョンに戻る手はずですよ」

 

 思い返せばヴェルフはユーノの角を持って行ってから戻ってきてなかったため、フェルズの話を聞いていないことに気付く。ベルたちもすっかり忘れていたのか、『あっ』という声を出したがもう作ってしまったものは仕方がない。

 試しに1番遠い部屋まで案内してもらったアクスがおもむろに馬笛を吹くと、やや控えめな音にも拘わらず春姫に連れられたユーノが来た。どうやら無事に知覚したようだが、ユーノがダンジョンに帰還するとなれば余計に宝の持ち腐れ感が酷いためにヴェルフは大きなため息をつく。

 

「でも、馬笛なんて精巧な物。よく作れましたね」

 

「ラキア出身だからな。騎馬関係は何でも作れるように教え込まれたんだ」

 

 歯に物が挟まったかのような微妙な表情のヴェルフ。しかし、事情を知っている全員がしんみりした雰囲気を醸し出していたために『お待ちかねの魔剣だ』と無理矢理空気を変え、次の包みに手を伸ばす。

 包みが綺麗に剝がされると、そこには70セルチとベルが以前使っていた『シュワイザーデーゲン』という両刃短剣よりも少々長いショートソードが鞘付きで置かれていた。

 

「ショートソード?」

 

「にしては、短いですね」

 

「パルゥム用だからな。一応握ってくれ。あ、ここで振るなよ? 辺り一面雪景色になる」

 

 魔剣特有の注意事項を伝えたヴェルフに頷いたアクスは、慎重な手つきでショートソードを手に取る。握りもちゃんと保持できる絶妙な具合で、重さや重心も問題ない。

 これなら魔剣という遠距離攻撃武器ではなく敵と切り結ぶ『武器』として使えるほどのクオリティではないかと思えるほどの完成度にアクスがヴェルフを見ると、彼はあまり満足していないのか表情に影を落とす。

 

「たしかにそれは武器として使えることを念頭に入れて作った物だ。ベルや他の奴らの武器づくりの経験を活かしてな。ただ、いくら武器として扱えると言っても、魔剣自体の性質は変わってねぇ。むしろ、使うごとに脆くなっちまう」

 

 悔しげに呟くヴェルフとは対象的にアクスはもらったばかりの魔剣を興味深そうに見つめる。まるで子供ーー実際子供だが、クロッゾの魔剣を前にした大人のギラギラした欲望が灯った瞳とは真逆の瞳にヴェルフは『気に入ったか?』とアクスに感想を求めた。

 

「これで水の心配いらなくなりそうですね」

 

「そーかそーか。……ん?」

 

 このパルゥムは何を言っているのだろうか。魔剣と水のどこに関係があるのか。

 ヴェルフの疑問について察したのか、リリルカがどういうことかと問う。すると、またしても彼は魔剣を別の形で使おうとしていた。

 

「だって氷ですよね? 溶かせば水になるから水筒代わりになるなって」

 

「ヴェルフ様、この魔剣はおいくらでしょう?」

 

「あんまり値段は付けたくないんだが……、ヘファイストス様のところの奴を参考にしても4桁万ヴァリスは絶対行くぞ。そうかぁ、水筒代わりかぁ……」

 

 たしかに氷結系の魔剣は空気中の水分で氷を形成するため、それを溶かせば水になる。水は長いダンジョン探索をする際に必要不可欠な物資だが、量を増やせばその分足が鈍る代表格でもある。中層の下の方へ行けばいくらでも給水できる場所はあるものの、水中に住むモンスターのせいでままならないこともある。

 そんな諸々のことを考えれば氷の魔剣での給水も手段の内に入るが、()()()()それ目的で使おうとするアクスにヴェルフたちは乾いた笑いしか出なかった。

 

「まぁ、お前はそういうやつなのは分かってたよ。だからこそ、その"フォボス"を預けられる」

 

「フォボス?」

 

「あぁ、ラキアで魔剣の創造を強要されそうになった俺をラキアの外へ逃がしてくれた恩神だ。魔剣が決して人を傷つけるものじゃない、人を救うためにも使えることを願って名前を使わせてもらった」

 

 懐かしむように目を細めていたヴェルフだが、『最後はこいつだ』と残った包みに手をかける。そこには青みがかったロングナイフ──の原型が置かれていた。

 

「銘はまだ決まっていないが、第1工程が終わったところだ。これから金属と混ぜたりして強度を上げる工程に入るが、その前に素材の提供者に見せておこうと思ってな」

 

 そう言って笑ったヴェルフは、アクスを背中に乗せたユーノにロングナイフの原型を見せる。自らの一部が武器となったことに忌避感を覚えるかと思いきや、流れ込んできたユーノの気持ちは()()だった。

 

「"私の一部がベル・クラネルや君たちを守る剣になれることを光栄に思う"と言っています」

 

「あぁ、俺も良い素材を譲り受けてもらって感謝している。あんたの好意に恥じない仕事をするつもりだ。よし、じゃあ残りの作業を──」

 

「ちょーいちょいちょい、待つんだヴェルフ君! 君、これから大事な話があるのを忘れてるだろ!」

 

 素材提供者から発破に近い言葉を受け取ったからだろうか。早速作業に入ろうとするヴェルフを引き止めたヘスティアは、持っていた眼晶(オクルス)を起動させて何度か声を出した。

 

「神ヘスティア、よく聞こえる。改めて感謝を」

 

「フェルズ君、感謝は異端児(ゼノス)君たちがダンジョンに帰った後だ。今は神父君に色々話すんだろう?」

 

 『そうだった』と当初の目的を思い出したフェルズ曰く、どうやら現在は拠点を転々と移動しながらはぐれた異端児(ゼノス)たちと合流している最中らしく、数日後あたりで一斉にダンジョンへ帰っていく腹積もりらしい。

 天下の【ロキ・ファミリア】やその他多くの派閥が目を光らせる中で無事に帰れるのかという不安はたしかにあるものの、タイミング的にここ数日が最善かつ最後のチャンスであるとフェルズは力説する。

 たしかに【ロキ・ファミリア】はかなりの案件を抱え込んでいるため、異端児(ゼノス)に目を光らせながらも()()()()()()()しているわけではない。仮にこの機を逃せば一区切りつくことができた【ロキ・ファミリア】の人海戦術によって潜伏場所が一瞬で見つかり、そのまま踏み込まれて全滅──という最悪の結末を迎えることになる。

 

「僕に教えてもよかったんですか?」

 

「逆に教えないとユーノが回収できないじゃないか。それに、あの【勇者】(ブレイバー)のことだ。【ディアンケヒト・ファミリア】にユーノが居ないと分かった途端、我々の行方を追うことに注力するだろう。だからこそ、限界まで君にはユーノを保護してもらいたい」

 

 今回の肝は何よりも速度である。【ロキ・ファミリア】が態勢を整えて網を張るよりも早くはぐれた異端児(ゼノス)たちと合流し、一丸となってクノッソスを経由してダンジョンへと帰る。後は地形が入り組んでいることに加えてお邪魔虫(モンスター)が居るダンジョンを一気に下ってしまえば煙に巻くことが出来るだろう。

 正に机上の空論ともいうべき内容の薄さではあるが、あのフィン・ディムナを前に頭脳戦や心理戦といった小細工はまったく役に立たない。アクスの前だとたまにおかしなことになる変な中年だが、それほどまでにあの【勇者】(ブレイバー)は難敵なのだ。

 

 しかし、アクスはフィン個人よりも()()()()()()()()()()()()を脅威と感じていた。

 フィンが指揮する1つの集団はたしかに脅威だが、あの集団は言わば階層主であるアンフィスバエナのように頭が複数ある1匹の生き物の類だ。

 特にリヴェリアは妖精部隊(フェアリーフォース)というエルフのみで構成された切り札がある。ガレスも壁役を指揮するところを遠征で何度も見たため、別にフィンでなくとも【ロキ・ファミリア】は十全に動き回ることは可能だろう。

 

 そう考えるとかなり異端児(ゼノス)側がかなり不利だ。

 アクスも別に異端児(ゼノス)が憎いわけではない。むしろ無事に帰って欲しいという気持ちでもあるため、『せめてこれぐらいは説明させてください』と今回の作戦において最重要ともいえる【ロキ・ファミリア】の情報を伝えることを決断する。

 『なぜなにアクス』の再来だ。

 

「【ロキ・ファミリア】は1軍と2軍で別れていますが、2軍でもパーティで来られると厳しいです。特にラウル・ノールドには注意してください」

 

「たしか……、【超凡夫】(ハイ・ノービス)。彼はあまり特筆する能力はなかったと思うが、意図的に隠している特記戦力だろうか?」

 

 眼晶(オクルス)越しに聞こえて来るフェルズの疑問にアクスは『ただの人ですよ』とラウルのことを評しながら詳しく説明する。

 ラウル・ノールドはその実直な姿勢などから【ロキ・ファミリア】2軍のまとめ役に位置する立場の冒険者だ。その人と成りはお人好し度を数段和らげた上で人間臭くしたアクスやベルといった具合がしっくりくるだろうか。

 それでも大勢居るゴロツキ紛いな冒険者たちの中では非常に浮くぐらいの善良性なのだが、そこでベルをだました実績を持つリリルカが気楽そうに声を上げる。

 

「では、簡単ではないですか。その【超凡夫】(ハイ・ノービス)様を騙すなりすれば、1軍と2軍の連携がバラバラになるのでは?」

 

「まぁ、そうなんですがね」

 

 何やら歯切れの悪い回答をするアクスは口をモゴつかせながらどのように説明しようか悩むこと数分。ようやく口を開いたアクスは、全員に向かってとある質問をした。

 

「時にヘスティア様。リリルカ様たちも。ベル様が誰かに騙されたり、バカにされたらどうします?」

 

「そりゃ……、怒るな」

 

「私も怒るかと」

 

「怒るか報復? のどちらかでしょうね」

 

「アポロンとやりあった原因の中の小さな1つだしねぇ。……もしかして」

 

 懐かしそうにしていた面々の視線がアクスに集中する中、彼はただ首を縦に動かした。

 戦闘力においてもパッとしない。魔法どころかスキルもない。【ロキ・ファミリア】の1軍どころか2軍の面子と比べても見劣りするほどの凡夫ではあるが、彼の強みは本人の技量や武力()()ではない。むしろ、これが本命とも言える。

 

 ラウルはフィンのように背中を晒して味方を鼓舞する勇気も、リヴェリアのように他者が耳を傾けたくなるほどの正論をこねくり回す教養も、ガレスのように立っているだけで味方を安心させる頑強さも持ち合わせていない彼だが、彼がーー【ロキ・ファミリア】の中で彼だけしか持ち合わせていない素質がある。

 

 それは、人に寄り添って甘えさせる力。少し前の森の賢者……失礼、レフィーヤに対応したアクスのようにただそこに居るだけの力にラウルは長けている。

 しかし、本当に何もしないわけではない。時には拙い励ましの言葉をかけ、時にはアクスのようにその場で話を聞いてあげることが本質である。

 ただ、力と一言で言ってもその塩梅はかなり難しい。下手をすると怒らせる引き金になりかねないのだが、ラウルは無自覚ーー否、自身の経験から最適解を無自覚に導き出して実践する。言うなれば、『周囲』と共に自らを見つめ直すきっかけが彼なのだ。

 

 ゆえに2軍は()()、ラウルを信用している。だからこそ遠慮もしないし、胸の内を曝け出す。フィンたちのような隔絶した実力を持つ者には到底できない芸当と言えるのがそこである、

 長々と語ったが、そんな人物に対してだまし討ちや脅迫といったことをしてしまえばどうなるか。口ではラウルの方を馬鹿にするだろうが、少なからず仕掛けてきたものを要注意人物として認定するだろう。

 特に彼のことを良く知る()()()()()()はかなり気をつけねばならない。

 猫はどこまでも残酷になれる。以前、ラウルのことをバカにしていた下級冒険者を1発でノしたアキがそう言っていたのだから、それは紛れもなく真実だろう。

 

「随分、君もそのラウルって子に入れ込んでるみたいだね」

 

「そりゃそうですよ。目に見える成果が無くても走り続けることが出来るってすごいことなんですよ?」

 

 レベルの話ではなく、スキルや魔法といった点であれば少なくともベルやアクスは()()()()()()で、ラウルは()()()()()だ。

 それを何年もかけてレベルを上げても実らず、かと言って腐らずにここまで走ってきた気概に対してアクスはアキほどではないがラウルのことを尊敬している。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()として取り扱っているのだ。

 

「うん、【ロキ・ファミリア】は末端に至るまで化け物揃いってことが分かったよ。……フェルズ君、日を改めないかい?」

 

「それは無理な相談だ。既に全員準備を進めている。私も根回しをしなければならないから、これで失礼させてもらう。アクス・フローレンス、後ほど眼晶(オクルス)でユーノを回収する日取りを教える。肌身離さず持っていて欲しい」

 

「分かりました」

 

 アクスが返事をすると、すかさず眼晶(オクルス)からの通信が途絶える。すっかり弱虫に取り付かれてしまったヘスティアは唸りながらベルの方を見やるが、彼はしばらく沈黙した後にファミリア全員に聞こえるよう力強く宣言すた。

 

「やろう。異端児(ゼノス)の皆を助けるために」

 

「それでこそベル君だ。皆も、それで良いかい?」

 

「ようやくいつものベルが戻ってきたか。ったく、ファミリアなんだ。もう少し俺たちに寄りかかれ」

 

「そうです。ベル殿は迷惑をかけたと思っているようですが、私や春姫殿も迷惑をかけました。お互い様というやつです」

 

「その通りです。むしろ、ベル様お1人で何でもやられてしまうと寂しゅうございます」

 

「まったく、このファミリアはお人好しが過ぎます! ……ですが、ベル様が誰かを見捨てるところなんてリリは見たくありません」

 

【ヘスティア・ファミリア】全員が異端児(ゼノス)をダンジョンに送り返すという意思で1つとなる。傍から見れば感動的に見えるかもしれないが、この場には似つかわしくない者(アクス)がその光景をやや冷めた目で見つめ──。

 

「あの、一応僕も居るんですけど。僕が居ないところでやってくれません?」

 

「うひぇあっ!? し、神父君、そこは空気を読んでくれると嬉しかったなぁ?」

 

 空気を読むも何も、ヘスティアたちが勝手に盛り上がっただけだろうとは言ってはいけない。出来るパルゥムは違うのだ。

 ひとまず何の謝罪にもなっていない謝罪の言葉を言ってからさっさと席を立とうとすると、何やらヴェルフが声をかけてくる。

 

「なんでしょう? 一応、僕は【ヘスティア・ファミリア】ではないので敵対する可能性が高いですが?」

 

「あぁ、そりゃ別のファミリアだからな。ただ、ちょっと素材を融通してもらえないか?」

 

 言い辛そうにするヴェルフ曰く、武器にはコンセプトと調和が必要らしい。やみくもに高い材料を混ぜ合わせても互いが足を引っ張って最低の出来上がりになることがしばしばあり、今回のようにユニコーンの角を用いた武器を作るには治癒や浄化のイメージが強い物を欲しているみたいだ。

 たしかに治癒と言えば【ディアンケヒト・ファミリア】。加えて調剤作業もあるために素材の備蓄も完ぺきと想像したのだろう。その認識は正しいし、他にも回復作用のあるドロップアイテムは各種取り揃えているのは間違いない。

 ただ、それを横流しするのはまた別問題になる。

 

「売っても良いですが、一応僕たちはオラリオに薬を普及させるという名目でお安く購入させてもらっているので……?」

 

「そうですよね、【ディアンケヒト・ファミリア】はオラリオになくてはならない医療系ファミリアですから。神父様が良いと言っても、そこは正規の値段をお支払いしないと遺恨が残りますよね」

 

「後、横流しするにしても団長や決められた人が持っている鍵を使って素材を持ち出す必要が出てきます。それに僕はそんなことはしたくありません」

 

 守銭奴……失礼、医神であるディアンケヒトが主神を務めるこのファミリアは中々システマティックな調剤を行っている。

 まずは1日の業務が割り当てられ、それを作成するレシピを基にどれだけ作るかによって素材の量を帳簿に書き、上長に確認してもらいながらダブルチェックで素材を引き出して作業。その後は作成した薬品を丁寧に梱包してから帳簿に記載する。やや端折りながらだが、これほどまでに形態化されている。

 これは『杜撰な管理で素材を駄目にしたり、薬が作れない状況になる』ことを恐れたディアンケヒトがアミッドを含めた歴代の団長と試行錯誤した結果であり、その結果をリスペクトしているからこそ団員たちは勝手な判断で在庫を取り出したりはしないという不文律が出来ている。

 

 その『団員たち』の中にはもちろんアクスも含まれており、そういう理由もあって彼はヴェルフの頼みを断った。

 

「まぁ、そんな虫の良い話はないだろうしな。ただ、どんな素材があるかぐらいは教えて欲しい」

 

「構いませんよ」

 

「ディアンが聞けば"授業料取ってこい"っていうんじゃないのかい?」

 

「酒場やギルドで聞けばわかる程度なので、必要ないかと」

 

 この子は本当にディアンケヒトの(以下略)。毎度おなじみの疑問を頭に過らせたヘスティアを余所にアクスはバックパックから色々出しながら治癒効果を持つ素材を列挙していく。

 まずはホワイトセージにブルー・パピリオの翅といった上層で取れるの素材。そして、ここからは実物はないがマーメイドの生き血や大樹の迷宮にある各種薬草といった中層の素材。さらに深い所になると、有名どころと言えば【ロキ・ファミリア】に依頼したカドモスの泉の水やカドモスのドロップアイテムである皮膜。他にも色々あるが、有名どころと言えばこのぐらいだろう。

 深層ともなると【ロキ・ファミリア】の遠征や【フレイヤ・ファミリア】の幹部や上澄みの冒険者パーティ。はたまた多数のファミリアから成る連合で遠征するぐらいしか思い浮かばないが、特にカドモスの皮膜であれば品質次第では700万から1000万ヴァリスはくだらない超高級品である。そんな情報をぱっと出してくるアクスにリリルカは口元を歪ませた。

 

「さらっと深層の情報をお出ししましたよ、この神父様」

 

「どこでそんな情報仕入れたんだい」

 

「え、少し前の【ロキ・ファミリア】の遠征についていったので」

 

 続けて『体液で武器を溶かすモンスターが居て大変でしたよ』と再び聞いたこともない情報がもたらされたことで鍛冶師であるヴェルフが思わず叫んだものの、現状踏み込めるレベルではないので保留にしたのか息を大きく吐きながらアクスに礼を告げる。

 

「すまん、助かった。どうにも治療関係は疎くてな。何とかリリスケと探してみることにする」

 

「値段交渉込みですからねぇ。仕方ないです」

 

 どうしてもドロップアイテムはお高くなってしまう。そのために値段交渉が必要だとため息交じりでリリルカが了承していると、何かを唐突に思い出したアクスはバックパックから2本の小瓶を取り出した。

 1本目は少しだけ濁った液体に何かの毛髪が1本収まった不思議な瓶。2本目は少々黒ずんだ赤い液体が入った瓶。

 2本目は言わずとも血だと分かるが、1本目は皆目見当がつかないとヘスティアが聞くと──。

 

「あ、団長の入った残り湯と髪の毛です」

 

「おバカァ!」

 

 とんでもない品物を見せてきたことに憤慨したリリルカの拳がアクスに炸裂。残念ながらダメージには至らないまでも、年上に怒られたことで精神的にキたのか涙声で『効果あるもん……』と不貞腐れながらこれをバックパックに入れていた理由を話し出す。

 

 クノッソスへの侵攻が近い今、参加メンバーの中で1番危険性が高いのは何を隠そうアクスである。その辺をとっとこ~と歩き、怪我をしている人を見かけたらどこかの朴念仁医神(ミアハ)と同じように手を差し伸べる冒険者というよりも治療師(ヒーラー)というおかしな枠組みの中に居る治療妖怪。そんな善良性の塊ともいえる子供がだまし討ちに遭えば……想像に難くない。

 そのため、最近闇派閥(イヴィルス)が使い出した格上殺しの武器である呪武具(カースウェポン)にだけは対抗させておこうとアミッドは数本の秘薬をアクスのバックパックに入れていた。

 だが、それでも割れてしまったり、他に呪武具(カースウェポン)に刺された患者を優先させてしまったりと考えれば考えるだけイレギュラーは増えていく。それならばと団員たちが半ば無理矢理アミッドの残り湯と髪の毛。後は血を入れ、後はバックパックにある素材によって現場で直接調合が出来るようにしたのだ。

 なお、その案にはアミッドも顔を真っ赤にさせながら拒否したが、『アクス君のためです』という団員総出の一点張りによって屈したとか何とか。

 

 一応、闇派閥(イヴィルス)のあれこれについては【ヘスティア・ファミリア】とは全く関係ない。なので、『【ロキ・ファミリア】と合同で行われている不審者集団の中に治癒効果が阻害される呪詛(カース)を用いる武器を持つ者たちが居た。なので、その対策としてこれらを所持していた』と実際に調合した際の言い訳として団員たちと考えていたカバーストーリーを展開すると、リリルカだけは『異端児(ゼノス)の件とは別の作戦も展開しているとか、【ロキ・ファミリア】怖いです』と恐怖心を露わにしていたが、ベルたちには納得してもらえたようだ。

 

「つ、つつつまりだ。こ、こここの残り湯はあので、ででで【戦場の聖女】(デア・セイント)の?」

 

「ヴェルフ君、ドモりすぎだよ。残り湯のことは分かった。けど、こっちの血は聖女君のどこから採集したんだい?」

 

「手からですけど、部位によって違いがあるんですか?」

 

 『残り湯……残り湯……』と未だ狼狽えるヴェルフとなにかを思い出したのか呆然としているベルを放置したヘスティアは、血の出所についてアクスに尋ねる。

 しかし、血が部位によって効能が異なるなんてアクスにとって初耳。しかも、この話が医神であるディアンケヒトやミアハではなくヘスティアからもたらされたために目を丸くしていた彼に、彼女はその豊かな胸を揺らしながら『説明しようか』と自身の持つ知識を披露し始める。

 

 女性の血。特に処女の血というものは純粋な生命力、未だ穢れぬ力としてそれこそ神々が降臨する前の時代から重宝されてきた。

 ただ、その中で経血は2種類の意味を持つ。『月のもの』と言い替えられるその物質は、血や性に関わるということで『不浄』と忌み嫌われる場合もあれば、逆に子供を孕んで出産するという自然のサイクル的に『命を育む自然の力そのもの』として神聖視されることもあるのだという。

 

「なるほどなぁ」

 

「ちょっと待つんだ。君、何を思い浮かべた?」

 

 嫌な予感が過ぎったヘスティアがアクスに詰め寄るが、なんてことはない。

 

 その時、ふと閃いた! このアイディアは、アミッドの作った秘薬の製造に活かせるかもしれない!

 

 ……と思っただけだ。

 

「止めるんだ! それだけは止めるんだ!」

 

「ヘスティア様ー! 神父様に何教えてるんですかー!」

 

「後生ですから! それだけは止めてください!」

 

 危うく倒錯的なプレイを教えたことで、【ディアンケヒト・ファミリア】から出禁にされる瀬戸際だったことにヘスティアたちは深い息をつく。

 ただ、『呪詛(カース)に効果がある』というアクスの言葉を信じたのか、残り湯と血は1万ヴァリスほどで売買されることとなった。

 

「改めて聞くんだけどね。君のところの団長はあれかい? ヴェルフ君と同じなんやかんやが混ざった類かい?」

 

「ヘスティア様、人間扱いしてくれませんか?」

 

 まるで人間のカテゴリーから外されたような物言いにヴェルフは怒るが、同時に『精霊ならあり得る』と先祖の話をしながら同意した。

 精霊の力の一端を血に宿していればそのような芸当は簡単に出来る。そこから『どうやって』という疑問が噴出するものの、アミッドについてはアクスも出自が分からないために話はそこで終わってしまう。

 

「僕はマーメイドの子供説を推しますけどね」

 

「あぁ、あの昔話だね。アクス君も結構珍しいお話知ってるね」

 

 とある王族とモンスターであるはずのマーメイドの悲恋。モンスターが忌避されている昨今では禁書扱いになっているが、暗黒期ではそういった娯楽については緩かったために両親が誤って購入した物をアクスが読んで覚えてしまったのだ。

 仮にアミッドがマーメイドと血の繋がりを持っていればあり得る話だが、同時に万に一つもあり得ない話でもある。論理が飛躍し過ぎていることに突っ込みながら笑うヴェルフに釣られてアクス共々笑いの渦が巻き起こったのは言うまでもない。

 

 ただ、同時期に治療院で1つのクシャミ。そこから『アクスが良からぬことを言っている気配がします』と断定する某お姉ちゃんの姿があったとか。無かったとか……。




そろそろソード・オラトリア特有の闇の部分を書きたい。
残業や休日出勤といったものが増えると、そういうの出力しやすいよね、ディアンケヒト様!

馬笛
 吹くとユーノが来る(多分)
 ちなみに白笛である。
 今、患者を助けられるなら全部無くしても良い。

フォボス
 氷結系の魔剣。残念ながら氷結系最強ではないし、『少し老ける』でイケメン青年にならない。
 元々はヴェルフがラキアに居た頃に主神となっていた神の名前。アレスの従属神で、魔剣が打てるようになったヴェルフを逃がしたことで送還された。

ロングナイフ
 白幻の原型。おそらくアミッドのあれこれで神聖度がアップするだろう。
 本人の尊厳? 羞恥? 知らんな!

【超凡夫】(ハイ・ノービス)
 スキルも魔法もないLV,4の時点で化け物に気付こう!
 なお、バカにするとどこからともなく猫のなき声が聞こえるとか何とか。

聖女のセンシティブな血
 神聖な物でチャッピー(AI)君やググったらなんか出てきた。
 まぁ、生娘の血が若返りの効果があると信じられた時代とかあるから是非もないよね!(チェイテピラミッド姫路城感

アミッド
 残り湯と血がたった1万ヴァリス(アクスのガバガバ計算のせい)の女。
 売った犯人は『秘薬の素材だから、売ったんだもん』と供述しており、捜査官の激しい追及が約束されております。
 ファミリアクロニクル エピソードアミッド待ってます。
 あの特異性は精霊か、アーディの守人血統みたいな加護系なんじゃないかなぁと予想。大穴でマーメイドとヒューマン当たりの子供とか…ないかぁ
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