「悪いけど、惨劇は見るつもりはないんだ。特に本物の"英雄譚"を見た後ならなおさら……ね」
そんな声と共に待望の増援が現れる。場の流れは一気に【ロキ・ファミリア】や
しかし、それすらも些事だと『怪物』が動く。彼女は上がった士気を再びどん底に落とすための最適解──
「くっ!」
咄嗟に杖で迎撃しようとするものの、魔導士である彼女の方が純粋な戦士であるレヴィスより遅いのは火を見るよりも明らか。吸い込まれるように剣閃がリヴェリアの首を立とうと迫るが──。
そこに1本の槍が飛来する。
「ぐぅっ!」
「よくやった、アクス! ぬぅぅん!」
『槍』という
そして、その横を並走している
「パルゥムの分際でっ!」
「勝手に勘違いしたお主が悪いんじゃろうて!」
謀ったことに怒り心頭なレヴィスに何度も大戦斧を叩き込むガレスであったが、それでも倒れない耐久力についつい弱音を吐いてしまい、それをようやく攻撃に加わったフィンが嘲笑し、リヴェリアがエルフらしく高慢な様子で鼻を鳴らしてはガレスとフィンが揃って怒鳴る。
まるで昔に戻ったかのようなやり取りにはっとした全員が揃って微笑を浮かべた。
ここにあと1人。厳密にはロキの眷属ではないのだが、オラリオまでの道程を共に歩んだ仲間である
「フィン、どうする」
「決まっている、逃げ一択だ。まともにやり合うつもりはない」
「当然じゃな」
「逃がすと思うか?」
ご丁寧に今後の行動を話し出すフィンにレヴィスは
「投擲など……。何だ、この煙は」
「"やっぱり"君の所有物だったか。全員、煙に乗じて元きた道を戻れ! 獣人は分散して先導を努めろ! 決して逸れるな!」
黒い玉を持ったフェルズとアクスを見ながらフィンは撤退を宣言。命令通り獣人が分散するしながら撤退する冒険者たちを案内することで元きた道へ走っていく。
しかし、撤退指示を出したにも関わらずその場に座り込んでいる者が居た。
「団長……」
縋り付くような視線を向けるアリシアの膝には、先程
本来であれば見捨てるのが冒険者にとって『正常』な判断と言える。だが、夢を──時代のフィアナになるのではなく『フィアナを超える存在』となることを決意した強欲な【勇者】はアリシアの様子からすべてを悟った上で決断した。
「そのモンスターも運べ! そこの魔術師やモンスターたち、君たちもだ!」
「分かった。リド、【ロキ・ファミリア】に続くぞ!」
先ほどまでのことも手伝い、フェルズの言葉に疑問を持つ
「逃がすか」
「いいや、逃げさせてもらう。言っただろ、"まともにやり合うつもりはない"って」
冷酷な言葉を投げかけるレヴィスすら見ずにフィンたちはその場からすたこらさっさと逃げ出す。その無防備すぎる背中に今度こそ息の根を止めようと足に力を込めた──その時だった。
「レフィーヤ、やれ!」
フィンの合図と共に先ほどまで【ロキ・ファミリア】が居た大通路に
──レア・ラーヴァテイン!
「逃がさないと言っただろう」
しかし、レヴィスは違う。傷を負っても再生する特性上、獄炎の柱が未だ勢いよく立ち上っている空間を
(……なぜ、追ってこない)
クノッソスは
声を張り上げながら前方を進む団員に警戒するよう指示を出しながらも後方をリヴェリアとガレスに任せたフィンは、長く伸びた隊列の中央でひたすら広範囲での治癒魔法を詠唱し続けていたアクスを追い抜いて最前線へ躍り出る。
「ダンジョンに出たら止まらず、広間まで走り抜ける」
「分かりました」
念には念をと今後の予定を共有するものの、すっかり親指の疼きは止まっていることにフィンは自分が信頼していた親指に疑問を抱いた。
しかし、その証拠とばかりに出てくるのは
やがてクノッソスを脱出して12階層の広間まで到着したフィンは、心配が杞憂に終わった安堵と共に
「全員、武器を解除しろ。それとアクスは……頼むからもうちょっと緊張感を持って欲しいな」
「?」
「いや、もう良いよ」
率先して槍を地面に置いたフィンが全員に武装解除を命じつつ、相変わらず空気が読めない
フィン側の事情など知ったことではないような反応。そしてその光景を見ている団員たちの生暖かい視線に、フィンは早く本題に入ってしまおうとアクスに秘薬の使用を指示した。
「良いんですか?」
「今更だろ? それに僕が言わなくても、その袖口に隠してる秘薬を使おうとしていた。違うかい?」
『あまり大人を舐めないでほしいな』と釘を差してきたフィンに、アクスは頬をかきながら秘薬をレイやトロルに使う。
「ありがとうございます」
「おかっつぁん、それは言わないお約束ですよ」
「おかっっ!? わ、わわわたしはべ、べつにベべルしゃんと」
「うん、話が進まないから勝手に話させてもらうよ」
両翼をばたつかせながら顔を真っ赤にさせるレイに『人間臭いなぁ』と内心思いつつ、フィンはフェルズの方に向き直った。
少し前まで地上で生死をかけた追いかけっこを行っていた被害者と加害者。ゆえに先ほどから受け取っている『善意』になにか裏があると思ったのか、未だ構えを解かない者も居る。
しかし、【ロキ・ファミリア】側は既に武装を解除しているため、フェルズは『対等』という言葉を用いながら
「なぜ、助ける? 君たちにとって我々は滅ぼすべき敵であるはずだ」
「そうだね。だけど、よく思い出して欲しい。ガレスやリヴェリアは君たちを"本気で"仕留めにかかったかい?」
そう尋ねられたフェルズが地上でのことを思い出す。確かに【ロキ・ファミリア】との戦闘では怪我をした者は居ても
そして、フィンは言わずもがな。自身の長年に渡る調査に元にフェルズは何度も今回の行動を振り返るが、ガレスが立ちはだかってきた時点で
「手加減されていた……ということか?」
「いや、僕は本気で君たちを狩りに行ったつもりだよ。だけど、アクスやユーノとの約定もあるからね。"僕からは"この場を作らせてもらったに過ぎない」
「あぁ、儂らも約定に従ったまでだ。まぁ、
「私もだ。貴様に語った言葉は嘘ではない……が、既に"証明の一端"は見ているからな」
団員たちの手前なのか、明確な答えを言わないフィン。そして、それに同調するガレス。さらにはヒントとばかりにユーノとアクスの方を見やったリヴェリア。彼らの反応から少なくともアクスとユーノが裏で何かをしたおかげで強者に見逃され、さらにはこうやって話し合う場が出来たのだとフェルズはようやく理解した。
(何が助けは不要だ。彼に助けられていたんじゃないか)
まさか【ロキ・ファミリア】の三首領にまで色々働きかけていたなぞ、フェルズは思ってもみなかった。そして、そこまでして
謝罪しても『あ、そういうの良いんで』と断られるのは目に見えているため、ダンジョン関係でアクスが窮地に陥った際には何が何でも手助けしようと骨の身なれど強く決心したフェルズ……なのだが。
「君たち、本当いい加減にしないかい?」
「?」
大人たちの難しい話に早々理解することを諦めてしまったお子ちゃまとアルミラージのような小さい
それでも『何かあったら力になろう』と何気なく思いつつ、フィンの口ぶりから何かの目的に
すると、先ほど走ってきた方向を指差しながら彼は本題を話し出した。
「クノッソスの攻略に加わって欲しい」
「クノッソスの?」
「あぁ、とにかく人手が足りない。正直、そこのアルミラージの手も借りたいぐらいだ」
アクスと遊んでいるアルミラージを引き合いに出しながらフィンは説明を続ける。
未だクノッソスのマッピングは
「我々が裏切ると……君たちに刃を突き立てるとは思わないのか?」
「今はそんな可能性が限りなく低い仮定は聞きたくないな。それに、そのつもりなら既に私たちにやっているだろう」
フィンに変わってリヴェリアがため息混じりで答える。彼女の言う通り、後ろから刺すのであれば絶好の機会は何度かあった。その機会を過ぎてもなお、その懸念を議論を通わせるのはナンセンスで時間の無駄だ。
「まぁ、信じられないのは分かるけどね。それでもちゃんと言わせてもらおう。君たちが積極的に人を襲わないと僕は判断した。そして、
チラリとアリシア達の方を見やる。その視線に
既に彼らはアクスとユーノという人間とモンスターが手を取り合う実例を見せられている。それどころか他のモンスターとも接しているため、安全性どころかそれらを傷付ける
そんな中、1匹のリザードマンが手を上げる。
「あぁ……と、そのことなんだがフェルズ。良いか? ちょっと話してぇ」
「分かった。【ブレイバー】、このリザードマンはリド。我ら
ハーピィなどとは違ってまさにモンスターと言える風貌のリザードマンから聞こえてくる流暢な言葉にフィンは面食らうものの、団員たちの前なので努めて冷静に対応する。
「それでリドと言ったかい? どうしたのかな?」
「いや、さっきの武器を向けられないって話なんだがな? むしろ、敵対して欲しいんだ」
「行動と矛盾していないかい?」
少なくともダンジョンまで逃げ帰ろうとしている存在の言葉ではない。しかし、それに気づいたリドは『勘違いさせたか?』とフェルズに聞くと、今度はフェルズがリドの言いたかった意図を話し出す。
ダンジョンは常に死で溢れかえっている。モンスターを殺すことで生じる灰に塗れ、息絶えた冒険者の血と肉が染みついたこの巣窟で一瞬の迷いや優しさは死を一気に引き寄せる原因となり得る。
「ダンジョン内で
「基本的に俺たちは冒険者を発見したら逃げるんだが、どうしようもなく逃げれないと分かったら立ち向かう。それが多くの同胞を助けることに繋がるならなおさらだ」
フェルズの話で意図を読み取ったフィンに、今度はリドが己の覚悟を話す。自らの身を挺してまで仲間を逃す『勇気』にフィンは
「武器を向けれないってのはあんたたちだよな? オレっちたちに気を使ってくれるのは嬉しいが、迷わないでくれ。オレっちの友達にも言ったけどよ、
「同じモンスターが?」
「あぁ、オレっちたちは"異端"だからな」
アリシアの疑問にリドは素直にうなずく。
冒険者も怖いが、ダンジョンで1番恐いのが
ゆえに
「君たちが好戦的ではない存在だということは十分に理解できた。けど、ならばどうして地上のような騒ぎになったんだい?」
それは単純な疑問。尋問をした側なので、【イケロス・ファミリア】とモンスターの関係性はフィンも把握していた。それでも、ここまで好戦的ではない彼らがリヴィラを壊滅させ、地上まで進出してくるのはよっぽどのことである。
言うなれば知的好奇心。あまり褒められた話ではないが、後ろからもソワソワしている気配を感じることからフィン以外にも疑問に思った団員が居るのだろう。
ただ、モンスター側が話したくないと言えばそれまでだ。時間的にもそろそろ地上の混乱も収まっているだろうし、そろそろお暇も視野に入れなければならない──と思っていると、予想外の人物が声を上げた。
「大体は人間側が悪いかと」
「アクスは知ってたのかい?」
「込み入った話は知りませんけど」
そう言って【ロキ・ファミリア】1人1人の顔を見ながら何かを考えこむアクス。今回の1件を分かりやすく説明するとなると、適任者はエルフ。それも王族となるリヴェリアなのだが、いくら学習しない彼でも『エルフは面倒くさい』ということをようやく学んだのかさっそく候補から外す。
そうなると、残ったエルフの中で適当な存在は──。
「そうですね、仮にレフィーヤさんが人攫いに捕まったとします。皆さんはどうしますか?」
「うぇぇっ、私ですか!?」
「助け出すに決まってます」
「下手人を探し出し、燃やします」
「そこからさらに凍らせて、砕きます」
それはもう死んでいるのではないだろうか。中々に苛烈なことを言い出すエルフたちの言動に
「アクス・フローレンスの言っていることを補足させてもらうと、今回だけではない。【イケロス・ファミリア】を始めとした密猟者の手で
「そんな……」
さもありなん──といった空気が伝播する。今回の事を
「オレっちたちはひたすら我慢してきたんだが、オレっちたちも……なんだっけ……1つじゃなくてな」
「一枚岩かな? それで、好戦派がリヴィラの町に仕掛けたと?」
「それについてはすまない。私がちゃんと止められていれば……」
「ふん、そのまま何もしなければこちらが全滅していた。お前たちも経験があるだろう」
申し訳なさそうにするフェルズの横からアラクネ──ラーニェが前に出てくる。先日、【イケロス・ファミリア】の術中にはまったばかりの彼女は彼らの手口やその中で犠牲になった
なまじ他のアラクネと違ってレイのように人外の部分さえ目を瞑ればロキが好きそうな整った顔立ちなだけに【ロキ・ファミリア】の女性陣は憐憫の視線を向けたものの、フィンやガレスは『ならば、どうやって助かった?』と率直に浮かんだ疑問を投げかけた。
「簡単なことだ。そこのアクス経由でもらった道具で治療しただけのこと。それでも救えない命はあったがな」
「また君かぁ……。僕らとモンスターは敵同士なのは理解しているのかい?」
またしてもアクス。その辺をほっつき歩くだけでどれだけの存在に影響を与えるのか真面目に観察したくなってきたが、立場を明確化するために
しかし、返ってくる反応は首を傾げるだけという先ほどのように絶対分かっていないような仕草。
「彼らは──」
「今は人類とは言えないかもしれませんが、隣人になり得る存在だと思います」
そう言ってアクスは今まで自分の感じていたこと。考えていた諸々のことを話し出す。
姿形が違うのであれば獣人には動物のような耳が付いているし、獣に近い姿の者も居る。
エルフはその尖った耳や整った容姿。なにより眷属にならずとも魔法を使えるという特異性を持っている。
他にはパルゥムはその見た目。ドワーフは頑強な身体──といった具合に種族によってこれほど差があるのに、元は人を食らうモンスターであるというだけ……、それも実際に人を食ったところを見ていないにも拘らず
「なら、彼らが本当に人を食わないという証拠はあるのかい? それもまた不可能だろう?」
「では、今から証拠を"作ります"」
そう言うとアクスはリドに片腕を出し、あろうことか『噛みついてください』と言い放つ。突然のことに馬は混乱するのも仕方のないことだし、事前に相談されていない
しかし、『前へ』進もうとするパルゥムを止めることは容易ではない。どのような言葉でも一切躊躇しようとしないアクスの目に、リドは思い切って彼の突き出した腕の肉を少し噛み千切った。
「っ!」
「……マジぃな。これならダンジョンになる果物のが美味ぇ」
再び場が騒然となる一方、リドは微妙な表情を浮かべながら嚙み千切った肉を吐き出して一言。これが証拠になるかは甚だ疑問だが、それを今問い詰めても仕方がない。
むしろ、その証拠を作ろうと自ら犠牲になるほどにモンスターと関わろうとするアクスの博愛性を尊重するべきだとフィンは地上で見たもう
「選択肢は1つではない……か。フェルズ、今だけだ。今だけ、共闘を要請するよ」
「慣れ合うつもりはない……と。分かった、今はそれだけで十分すぎる。それより、早くこの場を離れた方が良い」
「他の冒険者かい?」
フィンの問いかけにフェルズは頷く。
クノッソスから離れてずいぶん時間が経つ。利己的な物が多い冒険者がオラリオの復興を他者に任せてダンジョンに潜ることを考えるならば、そろそろ話を切り上げて戻らなければ【ロキ・ファミリア】やアクスも【ヘスティア・ファミリア】と同じ運命を辿ることになると力説する。
「忠告ありがとう。だけど、心配いらないよ」
「なぜだ、君の悲願も知っている。それに差し障るのかもしれないんだぞ」
「あぁ、でも僕は
肩をすくめながらけろりとそう言い放ったフィンに、ガレスやリヴェリアは笑みを浮かべる。まさに『吹っ切れた』と言わんばかりの回答に、フェルズは次にオートヒールで傷を治していたアクスを見やる。
彼も【ディアンケヒト・ファミリア】という大派閥の1人である。これが露見すれば決して少なくない非難を浴びることになってしまう。ただの恩人どころか『大』がいくつもついてしまうレベルのアクスだけは早々に離脱させないといけないと逸るフェルズの心境とは裏腹に、ラーニェに神々から教わったあやとりを教えていた彼はあっけらかんととんでもないことを言い出した。
「汚れなんて成果で洗い流せますよ。そんな汚点で地に落ちる名声なんて、
「ふふっ、ははは。フェルズ、
「あぁ……、まったく厄介だ」
全く後ろに下がろうともせず、ひたすら前を見定める種族にフェルズはそうつぶやくしかなかった。
ただ、そうは言っても話は出尽くしたので自然に解散の流れとなった──が。
「アクス、そろそろ降りるんだ」
「帰ったら怒られるから……。こっちの子になります」
独断専行をした意識があるのか、この後に待ち受けるお説教を回避したいがためにユーノの背中にぴったりとしがみ付いた小動物をフェルズ含めた数人がかり引き剥がし、『初めての共同戦線がこれかぁ』と何とも言えない表情の【ブレイバー】が居たとか何とか。
今年もそろそろ終わりですね。
アクス
友達と一緒にご飯食べて遊んでたのに怒られた。解せぬ。
フィン
色々脳を焼かれてはいるが、怒る時は怒る。なお、アクスをダンジョンから引っ張り出すのにかなり苦労した。
ロキ・ファミリアの面々
ゼノスの一件で混乱中。
年末年始に関して
仕事なので2本は投降したいなって
31日予定:ヘスティア・ファミリア版アクス
1日予定;アクスは騙されやすいが、他のアクスもそうなのか(四方山話)