ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

116 / 135
※予約投稿ミスりましたので、1/4の投稿は1/3になりました。

めんご★


インターミッション
92:夜を乗り越えて


 ダイダロス通りやクノッソスへの威力偵察などから幾日か経った早朝。ロキファミリアの大食堂には全団員が集まっていた。

 朝食どころか起床するにはかなり早い時間帯。しかし、彼らは真剣そのもので一切の眠気すら感じられないほど鋭い目つきでフィンに向かって言葉を発している。

 

「どういうことですか!」

 

「モンスターと結託などとは一体!?」

 

 困惑と戸惑い。それどころか団長であるフィンの判断が間違っているかのように糾弾する声すらも出てくる。それだけ今回、フィンたちが投下した『爆弾』──武装したモンスターと結託してクノッソス攻略を行うという方針はかなりの問題発言であった。

 まさに阿鼻叫喚といった様相の大食堂。レフィーヤやエルフィといった特にまだ若い少女などは怒号にも似た団員たちの声に驚き、時たま肩を震わせている

 

 そんな叫喚の嵐の中であっても、フィンはひたすら正面に居る団員たちを見据える。彼らの疑問に逐一答え、回りくどい弁明を一切せずにただひたすらに団員たちの持っている負の感情をひたすら受け止めては飲み下してもらうための材料を提示する。

 決して間違ってはいけないのは、これは『命令』ではなく『提案』であること。仮に彼と同じく清濁併せ呑む気概で参加を表明するのであれば諸手を挙げて歓迎するが、逆に付き合ってられないという団員が居ればフィンは特に止めることもなくファミリアを抜けてもらう気でいた。

 

(何人去るかな……)

 

 2軍の中核たるアキが()()()()()()見極めるような物言いで問いかけ、まるで恭順したかのように振舞う姿にフィンは感謝しつつも『不足』を感じていた。

 アキが言ったようにモンスターに縁者や恋人などを殺された者は多く居る。そんな下界最大の敵を腹の内に納めることがどれだけの人間に出来るだろうか。

 

 だが、決してないがしろに出来ない。例え団員が何人去ろうとも、この問題だけはなぁなぁで済ませると取り返しがつかないことになる。親指の直感を使わずともそんな『最悪』を予想したフィンは、『都市の存亡を賭けた戦いに勝利するため』という大義名分を語る。

 最大限優先される項目を前に今まで忌避感を感じていた団員たちも多少警戒心を下げることが出来たのか、『それなら……』といった空気が広がっていく。

 

「この場はこれで切り上げる。叶うなら、よく考え、よく話し合ってもらいたい」

 

 自分1人で考えられることなどたかが知れている。そのため、出来る限りの人間を巻き込んで話し合ってから決断して欲しいことを伝えたフィンは、脱退の志願者に備えて執務室へと戻っていった。

 

 ただ、そんなフィンの心配はまったくとは言わないが、杞憂で終わる。

 

 なぜならば──。

 

「アキはどうするんすか? 団長とバチバチやり合ってたっすけど」

 

「え、参加するつもりだけど?」

 

 下位団員の不平不満を真剣に聞き過ぎて疲労困憊状態のラウルが先ほどのやり取りを思い出してアキに尋ねると、彼女はあっけらかんと参加を表明する。あの時はまるで無理矢理納得したような反応だったためにラウルは目を丸くさせていると、アキは笑いながら『だって』と話し出す。

 

「あの子たち見てたらねぇ」

 

「たしかにアクス君たち見てたらモンスターに対するあれこれがバカみたいに思えますよね」

 

『あの子たち』と言われて思い出すのは、ダイダロス通りにて復興作業にあたるアクスとユーノの姿や近所の子供たちと遊ぶユーノの姿。何度も言うが、人類にとってモンスターは打ち倒すべき存在でありモンスターは人類を喰らう異形である。

 それでも、あの風景を見てしまった後にフィンの宣言を聞いてしまうと『いけるかも』と一縷の希望を見出すのも仕方のないことといえる。

 

「だが、信用しすぎるのも問題だぞ。モンスターはあくまでモンスター。異端児(ゼノス)……だっけか? 少なくとも不用心は危険だ」

 

「うん、あの黒いミノタウロスと共闘はちょっと無理かも……」

 

 あくまでも一時的な共闘で信用しないスタンスで話すクルスに、ダイダロス通りで食らったハウルの記憶を思い出したのかナルヴィは身震いする。それでも過去からの因縁とも言うべき闇派閥(イヴィルス)に奪われたり奪われかけた命を思い出したのか、最終的にロキファミリアは1人の脱退者も出さずに一致団結を果たした。

 そんなロキファミリアの構成員が一堂に会して話し合いをしていた最中、フィンは執務室に行く前に黄昏の館の門まで『来客』を出迎えに行く。

 

「やぁ、お使いご苦労様」

 

「いえ、僕もちょっとお尋ねしたいことがあったので」

 

 来客として招かれたアクスはそのまま執務室へ通される。そこには既にロキやリヴァリア、ガレスといった主神と首脳陣が待機しており、ようやく部屋の中へ入った着たフィンが執務室の椅子へ座ると同時にロキが『久しぶりやなー』と手を振ってきた。

 

「お使いご苦労さん。しっかし、いくら全員と面識あるっちゅーてもウラノスも人使い荒いなぁ」

 

冒険者依頼(クエスト)なので」

 

 アクスがここに来たのはフェルズ──の裏に居るウラノスからの冒険者依頼(クエスト)である。その内容は現在アクスが持っている眼晶(オクルス)を『フェルズから運搬を依頼された』という体でフィンに渡すことであった。

 アクスが眼晶(オクルス)を持っていると分かれば、今までの彼の言動が一気に胡散臭くなるのは目に見えている。その懸念はいくら『こいつ(アクス)が知らない内に勝手に動いた』とフェルズやウラノスが説明しても決してぬぐえぬものであろう。

 

 ならば、アクスに渡した眼晶(オクルス)をロキファミリアに送り、その使者を異端児(ゼノス)、ギルド、ロキファミリアから満遍なく信頼されている彼に指名してあげれば良い。そうすることで前々からこの件で異端児(ゼノス)と密接に繋がっており、情報を流していたかもしれないという疑惑を向けられる可能性が極力薄まる。

 

 現にアクスが持っていた眼晶(オクルス)()()()()()()()()()()()と思い込んだロキが『これがなぁ~』と眼晶(オクルス)をしげしげと見た後にフィンへと手渡し、そのまま雑談を始めた。

 

「また勝手に動いたらしいなぁ~。えぇ加減にせんと姉ちゃんに叱られるで?」

 

「お説教されながら寝かされました」

 

「おぉう……。それは……おねしょたに入るんか?」

 

「知るか」

 

 ダイダロス通りでのアクスの振る舞いは既に周知の事実となっているため、軽い挨拶のつもりだったが既にドぎつい刑が執行されていたことに彼女はリヴェリアに声をかけるも一言で黙らされる。

 

 あの後、ロキファミリアに監視されながらダンジョンから帰ってきたアクスは、逃げられないよう団員に抱っこされながら治療院へと帰還。そのままアミッドの部屋に監禁された。

 監禁と言ってもどこかの師匠ならいざ知らず。オボコい聖女様なので卑しいことをする気配は微塵もなかったのだが、しかしながら『今度やったら(これ)って言いましたよね?』といった程度に怒っていた。

 当然ながらお優しい聖女様が主神以外にそんな暴力的なことを(愛する)ちみっこにするはずもないのだが、『それはそれ、これはこれ』である。最優先でアミッドは言葉を用いた調教……もといお説教を行おうとすると、それに呼応したのがいつにも増して怒っていた団員たちだ。

 こぞってアミッドの部屋へ押しかけ、そのまま入れ替わり立ち代わりでアクスを散々注意し、怒られ、挙句の果てには布団の中で目を閉じていた時でさえもアミッドが横で子守唄感覚で説教を垂れ流すものだからたまったものではない。

 

 しかし、そんなことを言ってもロキ以外の面々は誰も同情なぞしなかった。

 

「アクス、災難とは言わせないぞ。それだけのことをしたんだ。肝に銘じておけ」

 

「あい……」

 

 周囲の反応もあってか、流石に多少なりとも悪かったと思っているのだろう。リヴェリアの言葉にいつもの分かったような口ぶりではなく、いかにもガチ凹みといった様子でアクスは項垂れる。

 やらかしたことは問題ではあったものの、アクスはまだ子供。多少可哀想に思うも、一夜を経てダイダロス通りの復興に従事していた団員たちから数名の()()を発見したとの報告が上がってきている。

 死体の服装や魔石製品の撃鉄を握りこんでいたことから闇派閥(イヴィルス)であることは間違いない。既に事切れているために真相を聞き出すことは叶わないが、呪武具(カースウェポン)を持っていたことからどうせ禄でもないことでもしようとしていたのだろう。

 

 その禄でもないことの中に『その辺をうろついている癒し妖怪(アクス・フローレンス)の殺害』も当然入っていそうなことは、フィンでなくても予想は出来る。ゆえにリヴェリアは心を鬼にして叱るが、話が進まないのでフィンは彼女を制する。

 

「その辺にしておこうか。じゃあ、さっそく眼晶(オクルス)って物を見せてもらえるかな?」

 

「これです」

 

 未だ反省の色が強く、しょぼくれながらも懐から赤い玉を取り出しアクス。水晶を机の上に置いてしばらくすると、鈍い赤色だった水晶が少しだけ明るくなった。

 

『聞こえるだろうか、【勇者】(ブレイバー)

 

「あ……あぁ。聞こえるよ、フェルズ」

 

 水晶から聞こえて来るのは何日か前に別れた魔術師(メイジ)の声。映し出されている洞窟らしきところを見るに、ダンジョンの中から話して来ているのだろう。

 まさかダンジョンの中から地上に通話出来るとは思っても見なかったフィンが顔を引き攣らせていると、それに気づいたフェルズが声をかけた。

 

【勇者】(ブレイバー)、顔色が優れないようだが?』

 

「いや、大丈夫だ。今まで苦労してきたことが一気に解決できる存在を知って力が抜けただけだろう」

 

「伝令班の編成とか色々頑張っとったからなぁ……」

 

 ついに黙ってしまったフィンを差し置き、リヴェリアが彼がこうなってしまった理由を話し出す。

 

 ダイダロス通りでの戦いはたしかに激戦だったが、1番大変なのは誰かと問われればおそらく裏方の『伝令班』と呼ばれる部隊に配属された冒険者だろう。

 フィンのように絶えず指揮を執っていたわけでもガレスたちのように異端児(ゼノス)闇派閥(イヴィルス)の板挟みになっていた者たちでもない。かなりとげのある言い方をすると『木っ端』の団員たちのどこがそんなに大変だったのか。

 それは『情報伝達のやり方』に他ならなかった。

 

 ダイダロス通りに散らばった部隊と指揮官(フィン)を繋ぐためには双方が見やすい位置まで移動しながら魔石灯を灯し続けなければならず、本陣も各部隊への指示は色で分けられているために間違っても別の舞台当てにしないよう神経をすり減らしていた。

 そんな伝令班の中で特に厳しかったのは、クノッソスの扉付近で闇派閥(イヴィルス)やモンスターを抑え込んでいた班の伝令役である。定時報告のために地上へ行ったかと思えば、本陣からの指示をガレスたちに報告するために地下へ舞い戻るという地獄のシャトルランを敢行していたのだとか……。

 

 ただ、フィンもフィンで魔石灯の調達から色での部隊識別や専用の暗号の制作。さらには部隊を混乱させないよう、予め地図を見ながら配置の予行演習もしていたのだから、この()()()()()()()()()()()()()魔法道具(マジックアイテム)の登場には『これがあれば』と徒労感に打ちひしがれていた。

 

「過ぎたことはもう考えないようにするよ、うん。ひとまず、これで君との連絡手段が出来たことで良いかな?」

 

『あぁ、ついでに信用の証と受け取ってもらっても構わない』

 

「それはお互い様かな」

 

 フェルズにとっては異端児(ゼノス)たちとの連絡手段だが、フィンたちにとってはありふれた見た目から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 こうして汚い大人のやり取りが終わり、そこからは『共にオラリオを守る者たち』としてリヴェリアやガレスも混ざり、それぞれが感じたクノッソスの所感を話し合っていく。

 すると、なにやら話したげなアクスの雰囲気を感じ取ったのかロキが会話に割って入った。

 

「ちょいちょい、フィン。待ってんか」

 

「罠の作動タイミングは完璧だった。つまり、君の眼晶(オクルス)と同じようなマジックアイテムを……。なんだい、ロキ」

 

「アクスが何か言いたげやで。さっきも聞きたいことあるっちゅーとったやん」

 

「あぁ、そう言えばそうだったね」

 

 どうやら眼晶(オクルス)の衝撃があまりにも強かったらしい。話を聞かなかったことを詫びながらフィンが用件を聞き出そうとすると、アクスはバックパックから眼晶(オクルス)とは異なる球体を取り出した。

 特徴的な『D』のマークが彫り込まれた謎のーー否、見覚えがあり過ぎる魔法道具(マジックアイテム)眼晶(オクルス)越しのフェルズも揃って驚愕の声を上げた。

 

「アクス、これをどこで手に入れたんだい?」

 

 無論だが、この魔法道具(マジックアイテム)はそこら辺の商店などで気軽に購入できるものではない。闇派閥(イヴィルス)と接触し、打ち倒した証跡でもあるこの球体の出どころを問うフィンにアクスは『バックパックの底に入ってた』と不可思議なことを言い出した。

 

「嘘は……言っとらんな。マジかいな」

 

「忘れ物かと思って持ってきました」

 

 たしかにフィンの手の平に収まるほどのサイズだし、球体なので落としたらコロコロ転がっていくのは目に見える。ただ、これはこの一連の騒動の文字通り『鍵』である。そんな大切な物をぞんざいに扱う団員は居ないだろうし、アクスのバックパックに入れる理由もない。

 ただ、『確認し忘れ』というポカを防ぐために執務室に保管しているロキファミリアで保有している全ての鍵の個数をチェック。増えても減ってもいない結果に謎は深まるばかりだが、ここでガレスがとっかかりぐらいは掴もうと質問を投げかけた。

 

「アクス、あそこで儂らの派閥以外で誰に会った?」

 

「いろんな人に会ったので分かりかねますが、フレイヤファミリアの人と長く居ました」

 

「確信か間違いか微妙なところ突いてくんなぁ……」

 

 あそこは気分屋のフレイヤが主神をしているからか、どちらとも取れない行動が多い。かと言ってロキファミリア側から鍵のことを指摘すると【猛者】を伴って出てくる可能性も否めないため、ひとまずアクスとフレイヤファミリアの関係性から質問ぐらいには乗ってくれるだろうとちょっと楽観視しつつ、アクスの質問について『ロキファミリア側は知らない』と回答を出した。

 

「じゃあ、聞いてきます」

 

「ちゃんと"たのもー"って言うんやでぇっ!?」

 

「またお前は……。アクスにおかしなことを吹き込むなと何度言ったら分かる」

 

 ゲラゲラ笑うロキの声に被さるように聞こえてきた打撃音。そしてリヴェリアの説教を背にアクスは執務室から出ていく。

 途中、異端児(ゼノス)が人を食わない証拠としてリザードマンに腕を噛み千切らせた所業がバレたことで主に2軍たちから注意はされる一幕はあったが、アクスは黄昏の館を出て繁華街へと歩を進めていると──。

 

「あら、アクスじゃない。昨日はうちの子たちがいきなりごめんなさいね」

 

 ヘルンを連れたフレイヤとエンカウントする。まるでモンスターのような言い様だが、美の女神は少しでも対応を間違えると『やべー奴ら(ヘディンたち)』が出て来るある意味ギミックトラップだ。

 まだ年齢1桁の頃のように『他の神様がフレイヤ様をパイ●ツカイデーって言ってたけど、どんな意味ー?』と言ってオッタルを困らせるような真似は間違っても出来ない。

 出来る(と自分だけ以下略)パルゥムは違うのだ。

 

「フレイヤ様、御無沙汰しております。いえ、師匠にはこちらがお世話になりましたので」

 

「あら、前みたいに私のことをマブいチャンネーって言わないのね」

 

 悪戯を思いついたような視線で尋ねてくるフレイヤ。しかし、それは年齢がギリギリ二桁になった頃の話で近くにヘグニが居た時の話である。

 ただ、そんな話を聞いたことがないヘルンがすごい顔をアクスに向けている。これ以上は彼女経由でヘイズ辺りに話が広がり、『滅っ!』されそうな気配を感じた彼は全力謝罪を敢行した。

 

「神様のお話を鵜呑みにしてしまいました。ご不快なことを言ってしまい、申し訳ありません」

 

「良いのよ、そんな素直なところが気に入ってるんだから。それに、"ちゃんと話を付けておいたし"」

 

 何をどういった話をしたのか見当は付かないが、やはりフレイヤファミリアは恐い。アクスは素直にそう思った。

 

「ところで、なんでこんなところに居るの? うちの近くだけど、もしかしてヘイズに何か御用?」

 

「昨日、僕のバックパックにこれが入ってまして。もしかしたら師匠のかなって」

 

「あら、これは……」

 

 おずおずと差し出されたクノッソスの鍵。すでにフレイヤが持っている物はヘルメスに譲ってしまったためにこんな物がここにあるのが非常に不可解なのだが、詳しい話を聞いていくと『出所が分からない鍵』ということを理解する。

 そう考えるとヘディンやアレンといったアクスにあまり良い印象を持っていないのは除外するとして、怪しいのはオッタルかヘグニかガリバー兄弟となるが、彼らは鍵を奪取すれば真っ先にフレイヤに持って来るはずだ。

 そう考えるとヘイズや満たす煤者達(アンドフリームニル)といった鍵の存在を知らない団員がゴミを押し付けるように放り込んだのだろう──とまで考えが及んだ彼女は『うちのね』と言おうとするが、ここでアクスから鍵をもらっても有効活用できないことに気付く。

 

 ロキファミリアとの交渉に使ってもあちらも鍵を持っているのであまり良い条件は引っ張れそうにない。加えて今のフレイヤは、ロキたちと交渉してやり取りをする気分ではなかった。

 さらに付け加えると、現在自身がご執心の伴侶候補(ベル)も先日の1件でクノッソスとは関係が無くなった。

 ならば、アクスが持っていた方が面白いことになるかもしれないとヘイズを経由して彼に鍵を譲ろうと画策した彼女がアクスを戦いの野(フォールクヴァング)に招待しようとするが──ここで魔が差した。

 

「アクス、今から行っても門前払いされるわよ」

 

「どうしてですか?」

 

「【剣姫】が殴りこんできたの。一応、"強くなりたい"って言ってたからオッタルに任せたけど……。今は厳戒態勢だから入らない方が良いかも」

 

 事実だ。現にアイズが『たのもー』と殴りこんできたし、今もオッタルと()()()()()()()()()に励んでいる。

 

 しかし、そんな()()はどうでも良い。今のフレイヤはとてつもなく退屈なのだ。

 主にオッタルが何を着ても『大変お美しいかと』BOTに成り下がったため、こうなれば彼が反応する新しい服でも見繕うおうかとしていたところにアイズがやってきた。ゆえにヘルンを伴って散策──と思っていた矢先にアクスに出会ったのだ。

 

「アクス、私の服を見てもらえない? そしたら本拠(ホーム)の中へ入れてあげるし、その玉に心当たりがある子を探してあげる」

 

「分かりましたー」

 

 退屈凌ぎにはちょうど良い。そんなフレイヤの思惑など知る由もないアクスは素直に同意する。

 道中、フレイヤやヘルンを事故や引ったくりから守るために道の真ん中付近を率先して歩いたり、着いた店では先にドアを開けて待機したりと件の悪神(ミアハ)たちの日常から学んだことを総動員させたおもてなしを行うアクス。その態度にフレイヤとヘルンは驚いたように目を丸くしたものの、慣れているのか素直に受け入れている。

 

「アクス。それ、ヘイズにもやったの?」

 

「あ、はい。師匠にはお世話になっているので、最大限プランを組んで……」

 

【勇者】(ブレイバー)の力を借りて……ですけどね。【小神父】(リトル・プリースト)もそうやって人を蕩けさせる手練手管は極力しないようにしなさい」

 

「あっ、…………ハイ」

 

 同じ言葉だが、全く趣が違う返事。なぜそこまで貶されなければならないのか疑問に思うアクスだっが、あまりヘルンとは親しくないので思わぬところで不興を買ったのだと相変わらずの自己肯定感の薄さを醸し出しつつもフレイヤを待つ。

 すると、試着室のカーテンが開けられると共に美しくドレスを着こなしたフレイヤが出てきた。

 

「ヘルン、これはどうかしら?」

 

「大変お美しいかと。こちらになさいますか?」

 

「はぁ……。ヘルンもオッタルと同じね」

 

 心底がっかりといった様子のため息を吐いたフレイヤは、ショックを受けているヘルンを無視してアクスへと向き直る。

 所々に金の刺繍が入った白いドレスに、緑のトーガ。高級感を与えつつも柔らかいイメージが落ち追加印象を受けるフレイヤにぴったりだが、欲しい言葉はそれではないとアクスの中にある治療師(ヒーラー)としての勘が告げる。

 しかし、少なくともだがヘグニほど面倒くさくはない。先ほどヘルンと語っていた『美しい』や、『オッタルと同じ』という言葉などから美しいという言葉は聞き飽きているのだろうと予想できる。

 それでも美の女神に対して美しい以外の言葉で褒めれるほどアクスの頭の出来は良くない。

 

 こんなことならミアハやタケミカヅチからもっと色々教えてもらっておけば良かったと後悔しながら、言葉を捻り出そうと努力するアクスとそれを愉快そうに見つめるフレイヤ。そして、女神の期待に応えられなかったと嘆いていたヘルンがようやく正気を取り戻した頃。アクスはフレイヤーーではなく、ヘルンに話しかけた。

 

「ヘルンさん、フレイヤ様のドレスとトーガに似合う色は何色でしょうか?」

 

「? ……そうですね」

 

 質問の意図が分からずに首を傾げるヘルン。しかし、フレイヤのことについて問われたからには答えないわけにはいかない。

『失礼します』と断った後、ヘルンは彼女の服装の配色を検分する。()()()()()()()()()戦力として心もとない彼女でも、侍女としての能力はフレイヤファミリア随一である。即座に似合いそうな色をアクスに伝え、それを聞いた彼は店員にその色で作られた厚手の布で作られた袋を探してもらう。

 

「これはなに?」

 

「失礼ですが、そのお召し物は神会(デナトゥス)で使用するのでしょうか?」

 

「えぇ、ヘルメスが少し前に"天界に居た頃縛り"とか言ってきてね。今夜着る予定よ?」

 

「でしたら、この袋に温めた石をこの袋に入れてご携帯ください。今の時期、その格好は肌寒いと思われますので」

 

 冬や春先などではないものの、女性が肌を露出させて夜中に出歩くには少々堪える。そこに温かい温石があれば、少なくとも外に居る間の温かさは保証されるだろう。

 色合いはヘルンの見立て通りフレイヤが現在来ている服装に合わせており、サイズも野暮ったくないちょうど良いサイズ。なにより、美しい一辺倒の誉め言葉よりもフレイヤの身を案じるという()()()()にフレイヤはかなりご満悦のようだ。

 

「ふふ、心配されるのも中々心地良いわね。気に入ったわ」

 

「フレイヤ様!?」

 

「じゃあ、ヘルン。あなた、美しい以外に言えるの?」

 

「うっ……。う、麗しいです」

 

 あんまりな言い分にヘルンは叫ぶものの、その叫びはフレイヤのジト目で黙らされる。それでも主神の願いを叶えようと詰まりながらも答えるヘルンであったが、結局は美しいと同じような返答に彼女は満足しなかったのか『約束通り、私の招待として連れて行ってあげるわ』と店を出て行ってしまった。

 

「お客さん、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫じゃ……ないです」

 

 無視されたことで打ちひしがれるヘルンに声をかける従業員。その内心は『早く帰って欲しい』という切実な願いだった。

 

***

 

 そんなこんなでフレイヤと一緒に居たことで戦いの野(フォールクヴァング)を顔パスしたアクスは、数十分後──。

 

「お前の力を見せて見ろ」

 

「なんで?」

 

「頑張ろ」

 

「……なんで?」

 

 何故かアイズと一緒にオッタルと対峙していた。




やっと地獄だった仕事場が変わった…が、次も同じだったらどうしようかというのが悩みの種です。あけましておめでとうございます。

ロキ・ファミリアの皆さん
 アクストユーノのせい(おかげ?)で異端児(ゼノス)に関してはやや好感触だが、流石に全てを迎合するわけではない。あくまで共闘するが、信用はしないというスタンス。
 それもこれも子供と遊ぶユニコーンやハイホーハイホーと復興のお手伝いをするパルゥムが悪い。

クノッソスの鍵
 もちろん、ヘイズがゴキャッとした不審者の持っていた物。フィンに連れて行かれる前にそっとバックパックに落としたとか何とか。

眼晶(オクルス)
 『そんな便利な物があるなら教えてくれよ』と某勇者が申しております。

フレイヤの付き添い
 ダンメモの衣装ストーリーを色々混ぜ込みました。
 オッタルって美しいとか麗しいとかしか言わないんやな。まぁ、オッタルだからなぁ…。

温石
 ディアンケヒト・ファミリアでは温石代わりにアクス君が活躍します。ぬくいゾ!(先着1人かつ、アミッド最優先)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。