ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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94:ポメっ子行脚

 【フレイヤ・ファミリア】を訪問した次の日。アクスはアイズから渡された手紙を手に、再び黄昏の館へと赴いていた。

 

「うん、たしかに受け取ったよ。ところで、本当にアイズの居場所は話してくれないのかい?」

 

「すみません。話せません」

 

「一応聞くけど、無事なのかい?」

 

「ボロボロになってますけど、無事です」

 

 手紙をひとしきり読んだフィンに疑問を投げかけられたが、アクスは歯に物が詰まったような曖昧な返事を返す。

 まさか『【犬猿の仲である(フレイヤ)ファミリア】にお邪魔して、そこの団長(オッタル)にボコられてます』とは思わないだろう。ただ、そんなアクスの反応にリヴェリアたちはダンジョンに向かったと勘違いしたのか、『アイズなら大丈夫だろう』とフィンは話題を切り替えた。

 

「ところで、昨日の鍵は【フレイヤ・ファミリア】の持ち物で良かったのかい?」

 

「はい。師匠が手に入れたようで、僕に譲ってくれました」

 

「師匠……、【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)か。ちなみに譲ってはくれたりは?」

 

「師匠から"これ以上【ロキ・ファミリア】と仲良さげなアピールは、無理"ということです」

 

 アクスの口から語られたヘイズの言葉の意図を即座に理解したフィンは、やや残念そうにしながらも『だよね』と同意する。【ロキ・ファミリア】にとっても【フレイヤ・ファミリア】は女神の気まぐれで敵にも味方にもなる派閥なので、これ以上厄介事が舞い込むのは御免被りたかった。

 それに、アクスの手に渡った鍵はあくまでもイレギュラーの産物。あれば確かに攻略は楽になるかもしれないが、現状ある複数の鍵だけでもクノッソスの攻略作戦は遂行可能だ。

 そのため、鍵を使っても開かない扉があるといった非常事態にはアクスの持つ鍵の可能性もあるかもしれないことを話すと、彼は快く協力に応じた。

 

「そもそも、鍵は扉を開けるためのもんやしな。あの色ボケもそれが分かった上で子供らに指示出しとるんちゃう?」

 

「それはそうだろうね。まぁ、鍵の件はここまでにしよう。ところでアクス、リーネ本人から秘薬の進捗について聞いてはいるけど……。"リーネの血も秘薬に使えること"は本当なのかい?」

 

 見て来たかのように内情を言い当てたフィンとロキは、再び別の話題──クノッソス攻略において生命線である秘薬について新たに分かったことを話し出す。

 闇派閥(イヴィルス)の使う呪武具(カースウェポン)は上級冒険者でも死に至らしめる威力を誇る。そのため半ば治療院に常駐する形でアミッドから師事を受けていたリーネから頻繁に報告を受けては他に必要な準備の日程などを調整していたのだが、最近になって秘薬の作成に必要不可欠であるアミッドの血は()()()()()()()()()()()()という報告が舞い込んできたのだ。

 

 本当ならば増産速度も上がる福音に近い内容だが、間違いという場合もある。そのため、アクスに真否を問うと彼はあっさりと肯定した。

 

「はい。お姉ちゃん……、団長が確認しているので確実です。ディアンケヒト様が言うには"抗体のようなもの"ということみたいで、リーネさんの治癒魔法にも呪詛(カース)を癒す力が追加されているらしいです」

 

「魔法についてはうちとママが確認しとる。これやから下界はおもろいんや」

 

「ママと言うな。おそらく不治の呪詛(カース)限定の治癒効果だと思う。再現性や汎用派生は期待しない方が良い」

 

 リヴェリア曰く、生死の境を反復横跳びしたことでの『火事場の馬鹿力』らしい。それでもこの戦いにおける切り札が1枚出てきたのは喜ばしいことだ。

 特に血から秘薬が作れるということは、その分だけアミッドの負担が減ることとなる。今までギリギリ間に合うかどうかだったスケジュールだったが、リーネの登場でかなりの余裕を持つことが出来た。

 終始ニッコニコだったアミッドの顔を思い出していたアクスだったが、どこの世も暇になったと分かれば追加作業を押し付けて来る困ったクライアントが居る。

 

 そう……()()()()()()()()()()()()

 

「心苦しんだけど、呪詛(カース)に抵抗出来る装備も作って欲しいんだ。あとで僕も注文書を作ってそっちに行くから、話だけ通して説いてもらえると嬉しいんだけどなぁ」

 

「うちのことを【ヘルメス・ファミリア】(使い走り集団)と思ってませんか?」

 

 突然の追加要望という社会人としての常識を疑うアクスではあったが、フィンの話を聞いていく内に()()()()()()()理にかなっていることを悟る。

 

 これは未だ構想段階だが、クノッソスの攻略は第1次侵攻と第2次侵攻の2段構えで行くらしい──というのも、フェルズにも伝えた通りクノッソスの正確なマッピングが為されていないために初めの第1次侵攻で8割のマッピングを済ませ、続いての第2次侵攻では文字通りオラリオの総力をもって相手の計画を一気に噛み砕くのが作戦の骨子とのことだ。

 

 だが、その点で1つ問題がある。今まで散々話題に上がってきた秘薬の絶対数が足りないのだ。

 いくらリーネが秘薬の材料を供給できるようになったとしても、【ディアンケヒト・ファミリア】の団員の数が増えたわけではない。さらに言えば最終的な製造はアミッド頼りになるため、オラリオの総力ともなれば年単位での時間が必要になるのは目に見えている。

 その対策として、先ほどフィンが言っていた装備だ。装備ならば1回こっきりの秘薬とは違って使い回しが出来るし、途中で割れたりといったアクシデントは無い。それに先ほど『装備を作って欲しい』とフィンがオーダーしたが、実のところは呪詛(カース)対策の素材さえ作ってもらえば後はヘファイストスファミリアの鍛冶師や裁縫師にお任せすれば良いので全てが全てアミッド頼りというわけではない。

 さらには先だって水面下で動いていたという冒険者に扮した闇派閥(イヴィルス)の件もある。『不治の呪武具(カースウェポン)のみ』と思わせといての別の呪詛(カース)による搦め手ということも十分にありうる。考え得ることは全てやっておく必要があるとフィンは力説すると、アクスは即座にNOを言うことが出来なくなってしまう。

 

「どうだろうか、もちろん色々便宜は図るつもりだよ」

 

「話はさせてもらいます。団長がやるかどうかは分かりませんよ」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

 フィンたちにはゼノスに関して手を差し出してくれた恩がある。あちらもあちらで約束を守っただけだと思ってはいるが、それでもゼノスという相容れることが難しい問題に1歩踏み込んでくれたのは確かだ。

 その辺りも加味して『追加要望の頭出し』である。後はタスクや納得出来得る材料が揃っているか。そしてなにより、アミッドの機嫌次第となってしまうが、出来得る限りのことはやるつもりだというアクスにフィンは深々と頭を下げた。

 

「では、僕はこれで」

 

「あぁ、アクス。ちょっと待て」

 

 退出しようと席を立つアクスを呼び止めたリヴェリアは、懐から煙水晶(スモーキークォーツ)のゴーグルを取り出す。イケロスから譲り受けたということでリヴェリアは各方面──それこそダンジョン在住の()()()()()()()にも解析してもらったのだという。

 ただ、結果は白。何の呪詛(カース)も掛かっていないという判定に肩透かしを食らったのとか。

 

「でも、【ディアンケヒト・ファミリア】は被服については煩いですよ?」

 

 ようやくの使用許可ではあるものの、残念ながらアクスは【ディアンケヒト・ファミリア】である。派閥の中には制服を改造している者も居るが、それらは全てアミッドとディアンケヒトのチェックの末に許可をもらっている。

 特に衛生や治療しやすさなどといった観点が厳しいため、見えづらくなるゴーグルは流石に駄目だろうと首を横に振った。

 すると、リヴェリアが持っていたゴーグルをロキが奪い取り、紐の長さを調節したりと弄りながら執務机の上にあった紙に何かを書き出した。

 

「安心しぃ、うちがディアンケヒトに話付けたるさかい。アクスも男の子やから、たまには格好えぇお洒落せんとあかんで」

 

「そういうものですか?」

 

 お洒落について無頓着なアクスが尋ねると、ロキが『そういうもんや』と何かを書き終えた紙を二つ折りにしてアクスに渡す。

 『自分は見たらあかんで、極秘や』と中身を見ないよう念押しした彼女は、ゴーグルを彼に握らせてから強引に退出させる。その有無も言わさない雰囲気にアクスは疑問に思ったものの、【ロキ・ファミリア】は先だっての主戦場であるダイダロス通りの復興もやっているし、彼も彼で()()()()()()()()()()()()()()()()があるために暇ではない。

 なので、やるべきことはやったという認識で素直に黄昏の館を出ていく。そんなアクスの後ろ姿を執務室の窓から覗いていたロキから滲み出る剣呑とした空気を感じ取ったガレスは、ついつい訪ねた。

 

「ロキ、何か悪だくみか?」

 

「なんや、ガレス。うちがそんな邪神みたいに……冗談や」

 

 周囲の『何言ってんだ、お前』という圧に降参したロキが糸目の双眸を少しだけ開ける。その零能の身体から立ち上る神威にも似た並々ならぬ気配に緊張が走る中、彼女の口が開いた。

 

「うちも"お痛"しとった頃があるからな。嫌がらせの引き出しとか仕掛けるタイミングは詳しいんや」

 

「今回のゴーグルもその嫌がらせに当たると?」

 

「だが、様々な術者や職人に見てもらっても呪詛(カース)などは検出されていないぞ」

 

 フィンの言葉を遮るようにリヴェリアが口を挟む。先にもあった通り、あのゴーグルについてはリヴェリアの持てる人脈を総動員して様々な調査を行ってきた。

 その背景には『闇派閥(イヴィルス)だった派閥の頭領が付けていた物をその主神が渡してきた』という、普通に考えても厄ネタとしか言えない状況にある。それでも結果は呪詛(カース)すらない普通の装備品。そんな代物にロキの言う『嫌がらせ』は行えないだろうというのがリヴェリアの考えだが、ロキはそうは思っていないらしい。

 

「甘いで、ママ。嫌がらせにも種類があるんや」

 

「ほう?」

 

 ママ呼びされたことでご立腹だったが、後学のためにも知っておきたい知識欲が勝ったのだろう。ロキの方を睨みつけながら続きを促すと、特にたじろぎもせずにロキは饒舌に語りだす。

 

「あのゴーグル単品やと何の効果もない。ふっつーの装備品や。ただ、普通やからごっつ"匂う"んやわ」

 

「例えばなにがあるんだい?」

 

「せやな。ありきたりな話やと、"こいつがここに居るぞー"ってメッセージやな。あらかじめイケロスが根回ししとる場合とか、あり得るで」

 

 悪戯好きの面目躍如といった具合にイケロスがゴーグルを渡してきた意味を解説するが、いくらロキでもゴーグルの持つ意味を完全に特定するには至らなかった。

 次第に真面目に推察する気も失せたのか、『考えるの飽きたわ』と呟きながらオラリオの町並みを眺め出す。そんな主神に呆れたフィンたちがクノッソス侵攻における障害や目標などといった話し合いを続けるものの、その声を聞きながら彼女は()()()フィンたちに話さなかった一種の可能性について考えを巡らせる。

 

(一応手は打った……が、正直この考えは当たって欲しくはないなぁ)

 

 天界に居た頃は神々を唆して殺し合いまでさせた実績を持つトリックスター(ロキ)の脳裏には、『とある最悪の結果』が過ぎっていた。

 先にもロキが言った通り、ゴーグルには『アクスが居るという目印』という可能性が大いにある。アクスが居ることは、つまるところアミッドやフィン。他には三首領といった【ロキ・ファミリア】にとってウィークポイントになりやすい存在が近くに居ることである。

 

 ただ、()()()()()()()()。仮にこれが何の対策もなく実行に移されれば、【ディアンケヒト・ファミリア】は良くて精神的に戦えなくなる者が続出。もしかしなくとも全滅する可能性も在り得る。

 だからこそ先手としてロキは先ほど策を講じた──が、【ディアンケヒト・ファミリア】だけでなく彼女を含めた【ロキ・ファミリア】にも大きなダメージを負う可能性が大なため、正直言えば当たって欲しくない。

 

 しかし、それと同時に──。

 

(けど、これが決まれば黒幕ははっきりするわ)

 

 先ほどちょいちょいとゴーグルに仕込んだ策。天界きってのトリックスターの名が泣くほどのかなり単純な策だが、仮に黒幕が仕掛けてきた場合はそれが決定打になるとロキは確信していた。

 

 レフィーヤから聞いた話では残党の主神であるタナトスはエニュオではないらしい。

 下界の子供たちは神に嘘をつけないが、アクスの騙されやすさから分かる通りその逆はその限りではない。タナトスが嘘をついている可能性は否めないが、それが()()だった場合。ロキの秘策によって姿も声も分からない不明瞭な黒幕の正体が分かる可能性がある。

 

(けどな、これは"最終手段"や。気張れや、ロキ(うち)。アクスと黒幕のトレードオフ。ましてやアクスの犠牲があっても黒幕分からんなんて、送還されても御免やで)

 

 アクス・フローレンスはまさしく『平和の象徴』だ。あの暗黒期を生き抜いてもなお、()()()()()()()()()他者を思いやる善良性が際立っているのは偏にディアンケヒトたちの手腕であろう。

 建物だけ直し、いくら()()()()()復興しようが人の心までは完全に癒せない。闇に覆われた人々を治療し、笑顔にするという並大抵の人間には出来ない役割を果たせる唯一の存在が彼なのだ。

 そんな存在と闇派閥(イヴィルス)の首魁など、比べるまでもなく前者の方が大事に決まっている。ゆえにロキはおずおずと手を上げながら自らの意見を言い出す。

 

「なぁ、フィン。アクスをクノッソス攻略に参加させるの、止めへん?」

 

「儂も言ったぞ、ロキ」

 

「私もだ」

 

「僕もさ。だけど、仮に僕たちが断ってもあの子は付いて来る。なら、"要請"という形で手綱をしっかり握るのが最善って結論が付いたじゃないか」

 

 ただ、アクスを外すという意見は少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。既に結論が付いていながらも往生際が悪い主神に、フィンは『アクスだからね』とため息をつく。

 どこぞの(フレイヤ)ファミリアのようにアクスはアミッドを信奉しているような節があるため、彼女のいく戦場には何があっても──それこそ手足を折っても即座に回復し、彼女や彼女が選抜した治療師(ヒーラー)たちの中にしれっと混ざりこんでくるだろう。

 そのため、どう足掻いてもアクスの参戦は決まったようなもの。今の彼女に出来ることは、一刻も早く黒幕の正体を探ることであった。

 

***

 

 一方その頃、アクスは元々の予定にあった竈火の館へと赴いていた。

 

「なんであの時止めてくれなかったんですかぁー!」

 

「止めたもん! ちゃんと止めたもん!」

 

 談話室で2人のパルゥムが叫ぶ。

 一方は先だってラウルを害するのはやめたほうが良いと警告したが、もう片方はそれを警告ではなく()()()()()()()()()()()()と受け取ったようで『気をつければ大丈夫』という明らかにリスクマネジメントが欠如した考え方の末にアクスが目撃した大捕り物に発展したらしい。

 

 『冒険者は自己責任』という暗黙のルールがあり、アングラ系のファミリアに所属していたからこそリリルカはそういった危機管理能力が異様に高い。それがこういったポカをやらかしてしまったのは、ひとえに【ヘスティア・ファミリア】での生活が心地よくて『心のぜい肉』がついてしまったのだろう。

 

 しかし、本人すらも気付いていないそんなことを察するのは神々でもっても不可能だ。

 やがて彼女はその場に居たヘスティアやベルといった【ヘスティア・ファミリア】の面々や、ミアハやナァーザやダフネといった【ミアハ・ファミリア】の面々。タケミカヅチや桜花たちといった【タケミカヅチ・ファミリア】の面々が生暖かい視線で見ている光景にハッとしたのか、『本題に進みましょう!』と元気良くヘスティアへバトンタッチする。

 

「その空元気は痛々しいから止めてくれないかい? ……まぁ、良いけどね。神父君を呼んだのは他でもない、遠征先での治療を色々教えて欲しいためなんだ」

 

「遠征に向かわれるので?」

 

「ギルドからのお達しでね。タケやミアハの子供たちと合同で遠征に向かおうと思ってるんだ」

 

 そう言ったところで桜花やダフネたちが同意するように頷く。冒険者の生存性を優先するギルドの方針から、ファミリア間での『連合』を組むのは推奨されている手法である。

 ただ、人数が増えたことで金銭関係や痴情のもつれなどといったことが原因で長続きしないのが通説──というか、『連合は長続きしない』と一種のジンクスにもなっていたりする。

 

「ギルドに言われたからってのもあるけど、僕はこれを"強くなるための試練"だと思っている」

 

「あぁ、ならば仲間が多い方が心強いというもの。万全を期すための連合というわけだ」

 

 タケミカヅチが同意を示し、ミアハもまた首を縦に振る。各派閥の面々も決意を込めた眼差しをアクスを見ているため、『これならば途中で瓦解はしないだろう』と踏んだアクスはバックパックから紙に色々書き出した。

 

「今回は以前にミアハ様たちとお話したこともそうですが、遠征で起こりやすいことや皆さんに気を付けてもらいたいこともお話します。よろしいでしょうか?」

 

「それは良いんだけど、その……その絵と文字は何?」

 

「? 個人的に気分を盛り上げようかと」

 

 紙に書かれているのは『楽しい遠征』とファンシーな色で書かれた文字と二足歩行の変な生き物の絵。気になったベルが尋ねると、どうやら絵の方は『アルミラージ』らしい。

 アクスの意外な一面に全員が何とも言えない空気になりつつも、アミッドやヘイズクラスにも劣らない最高峰の治療師(ヒーラー)ということで彼の治療に関する知識は本物だった。

 

「冒険の途中で骨折した場合、回復薬(ポーション)で効かない場合があります。その場合は普通の骨折と同じように処置をし、速やかにセーフゾーンを作って回復に努めてください。セーフゾーンの作り方は?」

 

「あ、うちが知ってる」

 

「ミアハ様。回復薬(ポーション)はミアハファミリアで調合するとのことですが、成分はどのぐらいでしょう?」

 

「あぁ、これだ。ディアンの所に並べている最高級品よりは劣るが、それでも出来る限りはやらせてもらう」

 

「この薬効なら、患部にかけるより飲ませた方が良いですね。全員に回復薬(ポーション)を収納するホルダーを増設するのが良いかと」

 

「それは俺が準備する」

 

 次々と説明をしたり、有識者に確認してもらいながら提案を述べていくアクス。いつものポメポメした雰囲気とは違って真剣そのものな姿勢にリリルカ以外の【ヘスティア・ファミリア】や【タケミカヅチ・ファミリア】の面々が口を開けていると、それに気づいたアクスが『冒険者の方には退屈でしたね』と話の方向を変えた。

 

「では、ガチガチの前衛や中衛の方に気を付けてもらうことをお話します」

 

「僕たちに?」

 

「はい。治療師(ヒーラー)……というか、治療をする人間にとって恥ずかしがっている人たちは治療の妨げになりかねないので、そこら辺を留意していただけると嬉しいです」

 

 医療者にとって1番厄介なのが『意識のある患者』である。外傷があり、なおかつそれが服の下など目立たない場所の場合は服を除去して診断しなければならないが、意識がある場合は羞恥心から色々ややこしいことになるのだ。

 それに加えて男女で構成されるパーティにおいて、痴情のもつれというのは特に気を付けなければならない。肉体の接触が多い治療師(ヒーラー)だからこその『触った』だの『触られた』だのといったトラブルもパーティ解散や仲たがいの原因になりかねないため、『ちゃんと傷を手当てする必要があるからこその接触』とちゃんと分かってもらわないと治療師(ヒーラー)としても困ってしまうというわけだ。

 

「この場合、治療師(ヒーラー)はカサンドラさんだよね。どういったことに気を付けないといけないの?」

 

「そうですね。ちょっとカサンドラさん、お耳を拝借」

 

 実際にやってもらおうとアクスがカサンドラだけに指示を出そうとするが、背丈の関係で上手くいかない。見かねたダフネがカサンドラを座らせた上でアクスを抱っこすることで2人にのみ聞こえるようにすると、カサンドラが急に顔を真っ赤にして『出来ないよぉ!』と狼狽えだした。

 

「え、僕変なこと言いました?」

 

「あぁ、こいつがただのヘタレなだけ。カサンドラ、そうやってると男メンバーが死ぬんだから腹括りなさい」

 

「だ、ダフネちゃぁん……」

 

 頼みの綱であろうダフネに拒絶されたカサンドラが弱弱しい声を上げるが、ダフネの言っていることも冒険者として分かっているつもりであった彼女は意を決して周囲に居る男たちからベルを選択し──。

 

「ベ、ベルさん。ぬ、ぬぬぬ脱いでください」

 

「うぇぇっ!?」

 

【悲観者】(ミラビリス)! いったい何を!」

 

「ふぇぇん、やっぱりー!」

 

 当然ながらにベル大好きな面々が声を上げ、分かりきっていたことに泣き言を言うカサンドラという惨状が出来上がる。

 しかし、()()()()()()()()()()()ということでアクスは大きく手を叩くと『ベルさんが死にますよ』と冷静かつ残酷なことを言い放った。

 

「ど、どういうつもりだい?」

 

「ミアハ様、ナァーザさんも。治療において恥ずかしがったり、周囲が止めて手遅れになる患者の末路はどうなります?」

 

「分かりきったことを言うな。手遅れになる」

 

「そうだね。アクスの提示した仮定だと、ベルは重傷を負っていた想定でしょ? 1分1秒も無駄に出来ないよ」

 

 ヘスティアの疑問にアクスはミアハとナァーザに問うと、彼らは当然といった様子で『治療中に恥ずかしがったり、邪魔をするなど論外』と断ずる。アクスも同意見で、仮にアクスが担当している患者がそんなことをしていたら間違いなくアミッド式の説教は不可避である。

 

「ついでに聞くけど、君のところではどうやってるんだい?」

 

「それはもう……(これ)ですが」

 

 いわゆる麻酔(物理)である。まさかの力技に唖然とするヘスティアたち。約1名ばかり『【ディアンケヒト・ファミリア】は暴力で人を従わせる』と怪しげな笑みを浮かべる犬人(ナァーザ)が居るのだが、飼い主(ミアハ)の一言によって大人しくなった。

 

 他にも戦闘中といった短時間で可能な応急処置方法などといったことや、綺麗な水の確保の仕方を拠点内や拠点外と分けてなど、有識者の力を借りながらアクスは説明を行っていく。

 

「ただ、水の確保は包丁屋さんに頼んだほうが良いかと」

 

「なんで俺に……。あぁ、魔剣か。だけど、必要か?」

 

「そこら辺についてダフネ様、一言」

 

「うぇっ、うちぃ?」

 

 相変わらずの水筒扱いに疑問を口にしたヴェルフに、アクスは水についての話題をダフネに振る。唐突に槍玉に挙げられた彼女が戸惑うものの、流石は元中堅ファミリア。水関係で全滅仕掛けた話を話してくれた。

 

 突発的なモンスターの大量発生によって物資が破壊されたこと。破壊された中に水が大量に入っていたこと。

 最初は我慢できたが、それでも命の取り合いをしているのだから喉の渇きが酷くなってギスギスし始めたこと。

 ちょうど水が大量に流れている階層だったため、我慢の限界を超えた団員が不用意に水辺に近づいた瞬間。水棲モンスターに引きずり込まれて()()()()()()が浮かんできたこと。

 そして、水を求めて仲間割れ一歩手前までいったこと……。

 

「今回は連合です。たかが水で仲間割れが起こる可能性があります」

 

「1振り……いや、念を入れて2振り作る。これでいいか?」

 

 ダフネのリアル過ぎる話に気圧されたのか、ヴェルフはあっさり魔剣を作る方向に舵を切る。

 魔剣で氷が生成できたら、ひとまず水関係は心配しなくて済むだろう。不承不承といった彼の問いにアクスは頷くと、引き続いて遠征で使うかもしれない知識をベルたちに教えていく。

 

 ダンジョン探索において1番大事なことは 未知を既知に変えることだ。

 自らが経験したことではなかったとしても、知識があればそれを元手に打開策ーー知恵へと変えることができる。そして、その知恵が突破口を作るかもしれないし、何より荷物にならない。

 昔、実家で何処かの勇者にアプローチして見事に袖にされて管を巻いていたパルゥムから教わった言葉の通りにアクスは持てる全てをベルたちに叩き込んだ後、途中で合流してきたヘファイストスから『知識も財産なんだから』というお小言と共に握らされた報酬を持って帰路についた。




うぁぁぁ あ…アクスがオラリオを無警戒に練り歩いてるぅ!
いつものことだな! ヨシッ!

アクス
 メッセンジャーしたり、教師したりと忙しい子。
 なお、ここまで教える立場が板についているのは学区が寄港してきた時限定で治療師(ヒーラー)関係の徐行を1コマ持ってるからとか。もちろん前任者はアミッドで、推薦者は彼女と顕性遺伝持ちの某LV7。

ゴーグル
 はてさて、アクスが分かる目印なのか。それとも別の使い道があるのか。
 答えはどこかのオルギア狂いの頭の中である。

リーネの能力云々
 メモリア・フレーゼあたりから流用。あちらはラキアが襲撃してきた頃は山で療養してたみたいだけど、こちらはそんな余裕はどこにもないのだ!

リリルカ
 幸せなファミリアに入ったおかげで心のお肉が付いちゃった女の子。おそらく、過去の自分がこの光景を見たら『自業自得に加えて責任転嫁』と心底馬鹿にするだろう。


 別の名を麻酔。暴れる奴はこの手に限る。
 なお、この作品を作る前。主人公の性別とか魔法を考えていた際、何をとチ狂ったのかベッドを虚空から射出する魔法を考えたことがあったり、なかったり。
 治す。文句は後だ。(ベッド)
 やだよ。ベッドで相手を無理矢理寝かせたり、盾に射出したベッドを遮蔽物にして難を逃れるバーサーク治療師(ヒーラー)なんて。
 絶対、ベッドもって突撃するじゃん。

水問題
 原作の【アポロン・ファミリア】で実際に起こったらしい水の奪い合いを少々付け足し。あの派閥ならこんなこと起こりそう…起こりそうじゃない?

未知を既知に
 そろそろ剣と魔法のウィストリア2期始まるよね!
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