ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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皆、守銭奴扱いは嫌みたいなので頑張りました。
ただ、マジでからっけつなので仮に来週無理でもゆるしてつかぁーさい。みな(アミッド)様。
※その時は情報でお知らせします。

うちの上司、アミッド様みたいだったらやる気出るんだけどな。後、仕事中に膝に乗って来るポメッ子居たら頑張れる。


100:杖と剣

 先程まで混乱の極致であった広間は現在、冒険者たちが奏でる足音と氷像と化したバルカが脱出しようともがくことで生じる小さな亀裂が走る音のみが聞こえていた。

 アクスが放ったクロッゾの魔剣で作られた氷はかなりの強度を有しているらしく、呪詛(カース)によって動けなくなった全員をアミッドの治癒魔法で癒したついでに先ほどまでの戦闘から早くも打倒できる作戦を思いついたフィンが全員に説明しても尚、バルカを拘束している氷が割れる気配はない。

 

「あんな代物、どうやって手に入れたんだい?」

 

「水筒代わりにもらいました」

 

「水……筒?」

 

 改めてクロッゾの魔剣の恐ろしさを再認識しながらも、そんな戦略兵器をオラリオ唯一のクロッゾであるヴェルフからポンと渡された経緯について気になったが故の問いかけ。されど返って来たのは、『君は馬鹿かい?』と思わず言ってしまいそうなぐらいちゃんちゃらおかしい回答だった。

 

 まぁ、今は魔剣の入手方法について追及している時間はない。全員の配置転換が済んだのを皮切りに、フィンはサポーターを兼用している魔導士に手はず通り持って来た魔剣を配るよう説明しながらも、隣できょろきょろして落ち着かない様子のパルゥム(アクス)の手をしっかりと握る。

 

「2回目だからね。そろそろ、大人しくしてほしいかな」

 

「?」

 

「分かってないかぁ……。それとティオネ、すり足でこっちに来ないでくれるかな?」

 

 先だっての狙撃で暴走したのが1回、そして今回の件で2回目なのだが、何のことを言っているのかよく分かっていないらしくポケッとしている。

 ならば『余計なお世話だった』かと問われると、間違いなく『非常に助かった』と言える成果……なのだが。()()()()()()()()()()()である。

 あまりにも行動がフリーダム過ぎるため、あまり勝手に行動しないようにこうしてアクスの手を握ったフィン。そんな彼に音を出さないようにじり寄って来る不審者(ティオネ)の無駄に繊細な無駄な動きに若干引きながらも、バルカが封じ込められた氷の様子を確認する。

 

「彼には悪いけど、この時間を最大限活用させてもらおう」

 

 未だ目をギョロつかせながらも一向に動き出す気配がないバルカに独り言ちたフィンは、出来る限り冒険者(こちら)が有利になる状況を作り出すために移動によって多少疲れた身体を回復させることから始める。

 ただ、呪詛(カース)の治療にはアミッドの治癒魔法が必要不可欠。なので副官であるマルタとベルナデットが彼女の代わりに回復作業を行っていく。

 2人には【魔導】の発展アビリティはないものの、リヴェリアとの訓練によって並行詠唱や高速詠唱といった技術は習得出来ている。瞬く間に作業が終わっていく光景にフィンの胸中にとある欲望が鎌首をもたげたが、これも今は(以下略)というやつだ。

 

 『到達階層の行進は急務だけど、悪い癖になってるね』と頭を振りつつ、フィンは魔剣を前衛に割り振られた冒険者たちに配っていた魔導士に声をかける。

 

「シンシア、魔剣は足りそうかい?」

 

「なんとかですね。残党から奪った物も混ざっているので1~2回で壊れる物もありますが、本当に良いんですか?」

 

「魔剣を使った作戦は一時凌ぎに過ぎないと思ってる。それより全員、聞いてくれ。最終確認をしよう」

 

 ひときわ大きな音とともに先ほどよりも大きな亀裂が氷像に生じるものの、いまだバルカが動かないことを良いことにフィンは目の前の障害を1秒でも早く取り除くための確認を行う。

 

 バルカ・ペルディクス。いや、もはや人の面影もないためにバルカの怪物と呼称しよう。

 そんなバルカの怪物の特徴は大きく分けて2つある。

 1つは先ほど多くの冒険者を混乱の渦の中に沈めた呪詛(カース)を含んだ黒い血の雨。1滴でもかかれば肌を黒く変色させ、全身に耐え難い苦痛を発する。

 さらには血から立ち上る瘴気ともいうべき煙を長く吸い込めば、喀血などといった明らかに身体に悪い影響が出てくるおまけ付き。【対異常】の発展アビリティどころか、レベルすらも関係がないそれらの症状はアミッドが作った秘薬でも効果がなく、彼女の治癒魔法でしか癒せない。

 文字通り、彼女が『生命線』というわけだ。

 

 そうなると全滅するよりも早く相手を駆逐する『超速攻』を行うしかないのだが、そこで第2の特徴である耐久性が問題となって来る。

 アクスがフォボスによって動きを止めるまでの戦いでバルカの怪物は幾度となく()()()()()()()()()。しかもその再生速度は早く、かなりの時間撒き散らしていたにもかかわらず出血多量で死なないことから見るに再生と同時に血液の補充も行っているのは明白。それほど優秀な再生能力を有しているのであれば、『表皮は非常に脆かった』という認識は何のアドバンテージにもならないだろう。

 

 そうなると明確な弱点であるバルカが取り込んだ球体──『宝玉の胎児』を破壊するしかないが、それもまた不可能に近い。黒球となって胸部に露出しているものの、蕾のように変化した硬質な胸皮が外部からの攻撃を全て防いでいる。

 その硬さはフィンの投槍やティオネたちの連携でも歯が立たないため、部隊全員で宝玉を狙って壊すのはナンセンスだ。

 

 話を統合すると──こうである。

 

 『動きは鈍重だが、1滴でも掠れば行動不能に陥るような呪詛(カース)の雨の中を走り回り、耐久特化の敵をなんとか削り倒しましょう』

 

 これがロキならば即座に『無理ゲー』や『害悪モンスターやめぇや!』と叫ぶだろうが、改めてバルカの怪物に対する概要を聞いたそれぞれは()()()()()()()()()

 フィンの頭の中にはそんな無理ゲーを覆す段取りが組み立てられおり、その段取りに全員が納得したのだから。

 

「ここにガレスさんたちが居れば良かったんですけどね」

 

「ガレスたちは神タナトスたちを追い詰めてくれているからね。まったく、もう少しこっちに人手を割けば良かったよ」

 

 片眼を閉じながらおどけたフィンに軽い笑い声が漏れる。ガチガチ過ぎず、緩すぎないといった適度な緊張感になった頃合いで一際大きい音が広間を駆け巡った。

 

「どうやら眠り王子が起きてきたようだね」

 

「誰も口づけしてないのにせっかちな野郎ですね」

 

「ちょっとー、あれにとか死んでも嫌なんだけどー」

 

「違いない」

 

 再び周囲に笑い声が響くが、その弛緩した空気に虫唾が走ったかの如く巨大な亀裂から怨嗟の声が彼らの耳朶を震わせる。その最中、フィンはアクスの方を見て口を開いた。

 

「アクス、もう我儘は無しだよ。アミッドを守るんだ、良いね」

 

「はい!」

 

 いつもの分かっているようで分かっていない返事ではない。意図や役割を理解した眼差しにフィンは笑みを浮かべると、再度アミッドの所へ行くよう促す。ポテポテという足音が聞こえてきそうな軽い足取りの彼の背中を見送ったフィンは、即座に攻撃開始の号令を放ちながら我先にと飛び出した。

 

「敵、動き出します!」

 

「触腕は僕とティオネたちに任せろ! 前衛は背後から止血をしながら攻撃しろ! 後衛(アミッド)たちを雨の範囲内に入れるな!」

 

 声を張り上げたフィンは、向かってくる鞭のような腕を銀の穂先を持つ『スピア・ローラン』で真上に弾く。上にかち上げたと同時にフィンたちの後ろに続いていた前衛たちは縦一列でとなり、彼がこじ開けた隙間からバルカの怪物の懐へと潜り込んでいく。

 

「ニック、先に行く」

 

「分かった、止血は任せろ」

 

 戦闘に立った獣人が後ろを走るヒューマンに声を掛けると、そのままバルカの怪物の足元を深く切り裂く。ぱっくりと開いた傷口から夥しい量の血が噴き出すが、既にその場から走り去っていた獣人にはその血はかからなかった。

 

 すると、そこに獣人の少し後ろを走っていたヒューマンが傷口に向かって魔剣を振り下ろす。

 

「うおぉぉっ!」

 

 傷口を的確に狙った炎は血を蒸発させながらも傷口を炭化させ、これ以上の出血を防ぐ。残念ながら少量の血が掛かってしまったものの、ダメージを与えつつも出血を抑え込む作戦が上手く言ったことにヒューマンは苦悶の表情ながらも笑みを作った。

 

「大丈夫か?」

 

「あぁ、上手くいった」

 

「よし、次は俺が傷口を焼く」

 

 呪詛(カース)の症状を気遣った獣人がヒューマンの後方に回り、先ほどと同じようにバルカの怪物の身体を裂いては魔剣で止血する。周囲も彼らと同じく2人組に別れ、足元や上半身などに裂傷と火傷を負わせていく。

 その順調さに『もしかすると』という気持ちが鎌首をもたげた頃。バルカの怪物の持つ異常な再生能力が一瞬にして彼らの苦労を水泡に帰した。

 新たな皮膚が火傷の上に覆いかぶさり、そこから新たに浮き出た血管を()()()()()()ことによって近くに居る冒険者を振り払うかの如く血の雨がばらまかれる。

 

「盾を構えろぉ!」

 

「呼吸を最小限に! "後衛とは逆方向に"逃げろ!」

 

「急げ!」

 

 それでもフィンの方が1枚上手だった。

 傷口を焼いて塞ぐという戦法は()()()()()()()()()()()()()()()()彼は、血の雨がばらまかれた後のことを全員へ伝達している。それは『耐えること』である。

 『初めから痛むことを分かった上で』血の雨に当たらないよう盾を掲げ、煙を吸い込まないよう迅速に血の雨の範囲内から逃げる。ロジカルもクソもない脳筋的な発想だが、既に不意打ちに近い形で呪詛(カース)の痛みを知っている【ロキ・ファミリア】の前衛たちからすれば()()()()()はやせ我慢できる範疇であった。

 

 それでも完璧な作戦など存在しない。その証拠にーー。

 

「が、あ”ぁぁあ!」

 

「ケビン!」

 

 重い物が倒れた音に混じって悲痛な悲鳴が広間を駆ける。音がした方を向けば、1人のヒューマンが転んだままの状態で絶叫を上げていた。

 

 このままでは呪詛(カース)によって戦闘不能どころか命さえ危うい状態になってしまう。かといって盾しかない前衛たちが行ってもミイラ取りがなんとやらになってしまうのは明白だ。

 それでも悲痛な声を上げていた彼は、フィンから言われていたことを頭の中で反芻させながら深く息を吸い込んでから息を止める。そのまま奥歯が砕けそうな勢いで歯を食いしばることで叫びたい衝動を必死に押し殺して時を待つ。

 

 そうしていると、()()()()()()()がやって来た。

 

「団長、確保しました!」

 

「後衛まで引っ張れ!」

 

 倒れていたヒューマンの元へ、頭の上に掲げた首飾りから大きな薄緑の障壁を顕現させた魔導士がマルタとベルナデットを伴って走り寄ってきた。

 彼女たちは治癒魔法もそこそこにヒューマンの足を掴むと急いで元来た道を戻っていく。途中で触腕が彼女たちを叩き潰そうと襲い掛かるが、ティオネが持っていたハルバードを側面から叩き込むことで吹き飛ばした。

 

「今よ! 駆け抜けなさい!」

 

「イデェ! 痛い!」

 

 道が開けたことで3人は一気に後方に向かってひた走る。ただ、マルタとベルナデットが両手で片足ずつ持って引きずられていたヒューマンは瓦礫に頭をぶつけて呪詛(カース)とは別種の痛みに悶絶しているが、血の雨がかからないように成人男性を成人女性2人が運ぶのは至難の業ゆえの致し方ない犠牲。いわゆるコラテラルダメージというやつだ。

 

 そんな別の意味で悲惨なヒューマンが搬送されている姿にフィンは若干憐れむが、一旦触腕から離れて戦場を俯瞰しだす。

 

(よし、敵は前衛(ぼく)たちの方を向いている。距離も申し分ない。……頃合いだ)

 

 バルカの怪物の位置や視線。そして戦っている内になんとなくわかってきた触腕と血の雨の範囲といった情報を頭の中で算出した結果、フィンは()()()()()を実施する絶好のタイミングだと判断。すぐさま準備に入るよう本命の要(アミッド)の方を見やった。

 

***

 

「っ! アクス、詠唱準備に入りなさい! 皆さん、よろしくお願いします」

 

 フィンの視線に気付いたアミッドはアクスに指示を出すと、自らも長杖(ロッド)を手に周囲の【ヘルメス・ファミリア】に呼びかける。彼らもフィンからの無言のサインに気付いたのか、ファルガーやエリリーを主軸とした壁をアミッドたちの前に展開した。

 

 フィンやアミッドの思惑にある『本命』とは、ずばり()()()()()()()()()()()()()()()である。呪武具(カースウェポン)や血に含まれた呪詛(カース)をアミッドが解呪出来ることから分の悪い駆けではないが、それでもバルカの怪物がアミッドたち後衛を安易に攻撃できない距離まで引き離すために前衛を囮として使っているのでかなり思い切った作戦である。

 

「ケーリュケイオン」

 

 そうこうしている間にアクスの魔法がバルカの怪物を照らす。呪武具(カースウェポン)呪詛(カース)を魔力で無理矢理抑え込んだことから解呪の成功率を上げるために先んじて治癒魔法をかけてもらったのだが、どうやら多少の効果はあったようだ。

 すっかり酸化したようなどす黒い色から()()()()()()()()に冒険者たちが手ごたえを感じる中、アミッドの調べが響く。

 

(まさか、私があのようなことを発案するなんて……)

 

 高まりつつある魔力を制御しながらほんの僅かに残った余裕でアミッドはフィンにこの作戦を提案したことを思い返していた。

 

 ──そう。この本命はフィンの発案ではなく、()()()()()()()だった。

 

 これまで彼女が真摯に治療を施してきた不治を始めとした様々な呪詛(カース)。その知見から『確証はないものの、解呪できる可能性は高い』と言ってのけた彼女の進言から採用に至ったわけだが、あくまでも治療師(ヒーラー)であるアミッドがまさか無力化とはいえ攻勢に参加するとは思わなかったフィンたちが真っ先に行ったのは耳が正常に機能しているかの確認。それほどまでに衝撃的なことだったのだ。

 

 ただ、その発案を本当に驚いていたのは何を隠そう本人(アミッド)である。以前のアミッドであればフィンを始めとした【ロキ・ファミリア】の動きに口を出すなどしなかったのだが……。

 

(あの子のせいですね。本当に困った子)

 

 いつの間にか目の前で仁王立ちするアクス。彼自身はアミッドに追いつこうとしているらしいが、とんでもない。アミッドは既に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 追い越しても尚そのままの速度で走っていく【ディアンケヒト・ファミリア】の光──。

 その背中を全員が追いかけ、それによりファミリアはより一層洗練される。そんな夢のある未来を垣間見たアミッドの胸中は、命のやり取りが行われている戦場に居ながらも晴れやかだった。

 

(団長……。いえ、この話は数年後ぐらいがちょうど良いですね。……"名前とか変わったタイミング"とか)

 

 今が修羅場の真っただ中にも拘らず、少々欲望が漏れてしまうアミッド。このままでは魔力が暴発して大惨事になることを恐れた彼女は、気を引き締めるためにも目の前の異形の存在を再認識する。

 

 バルカ・ベルディクス。異形の存在となってしまった彼こそが、呪武具(カースウェポン)を始めとした様々な呪詛(カース)の生産者であることをアミッドは確信する。

 同時に彼の持つ『神秘』。そしてクノッソスを完成させるために複数のランクアップを果たした妄執に取り付かれた存在を宿主にしていることで、元来モンスターには無縁な呪詛(カース)特化の存在になり果てたのだと同じ【神秘】のアビリティをその身に宿した彼女は理解した。

 

 クロッゾの一族のように血族にのみ反応するスキルがあることはアミッドも知っている。もしかしたらその『血』自体が呪われているのかもしれない。

 ならば、治療師(ヒーラー)として。【戦場の聖女】(デア・セイント)として。なおのこと呪詛(カース)の元であるこの『血の連鎖』だけは今、ここで断ち切らねばならない。

 そんな決意を胸に彼女はさらに魔力を練り始める──が。

 

「あんなところから!?」

 

「アミッド!」

 

 頭部にある無数の白い卵のようなパーツが盛り上がったかと思えば、そこから漆黒の血液が勢いよく噴出する。傷口が小さいのか、圧によってその血液は1本の黒い槍のように空気を裂きながら一直線にアミッドに向かって飛んでいく。

『飛び道具』という予想外の攻撃にティオネとティオナがアミッドの方を見やるが、聖女を守る壁(【ヘルメス・ファミリア】)の堅牢さに少しでも血の量を減らすために安堵の表情を浮かべながら再び暴れ出す。

 

「もう沢山殺しただろうが! もう誰も死なせるか!」

 

 暗黒期(リディス)を乗り越え、24階層の死闘(キースたち)()()()()()()()()()()()()()()()虎人(ワータイガー)の咆哮染みた叫びと共に【ヘルメス・ファミリア】が集結する。徐々に増していく水圧に加えて時折飛来してくる鞭のような触腕の衝撃に少しずつ後ろに下げられつつも、彼らは呪詛(カース)という恐怖の対象を前に1歩も引くことはなかった。

 【ロキ・ファミリア】もバルカの怪物の注意を逸らせずとも、血を大量に流すことで勢いを削ごうと槍などの長物に持ち替えては突撃を行う。

 決して途切れない攻撃と防御。なにより冒険者たちの執念により、【ヘルメス・ファミリア】が総崩れになったちょうどその瞬間──アミッドの魔法(ほんめい)がバルカの怪物の足元を純白に照らす。

 

「どうなの!? 効いたの!?」

 

「バカティオナ、黙ってろ! ……あれは!」

 

 結果を早く知ろうと囃し立てるティオナにがなり立てたティオネの瞳には、苦しみだしたバルカの怪物と()()()()()()()()()()()()()()()が移った。

 

 ──成功だ。

 

「つくづく、規格外だね。"君たちは"」

 

 果たしてそれは誰と誰のことだろうか。その答えが分からぬまま、フィンの呟きが治癒魔法による聖光の奔流にかき消される。

 

「消えなさい、禍々しき呪いの力。治療師(わたし)には……それの存在を許すことは出来ない」

 

 それは拒絶の言葉だった。

 魔導士の放つ砲撃のような出力を持った解呪の力。魔法円(マジック・サークル)から立ち上る純白の光の柱に捕らわれたバルカの怪物を冷徹に見つめながらアミッドはさらに強く解呪を施していく。

 

「もう私は、そうなってしまった今のあなたを救うことは出来ない。謝罪も……、嘆きも……、今のあなたには傲慢に聞こえるでしょう。救うことを諦めてしまった私は偽善者に過ぎないでしょう。──だから、その呪いだけは私が殺す」

 

 その結論に至るまでに様々な葛藤があったのだろう。ただ、アミッドはそう『決意』した。

 

 魂に救済を──。

 そして、その呪われた血脈の呪縛からの解放を──。

 

 治癒魔法の効力を補助する長杖(ロッド)を握りしめながら右腕を突き出し、白銀の長髪を靡かせながら彼女は呪いを断ち切っていく。

 

 ただ、ダイダロスという1つの作品を狂ったように──否、{狂ってまで}連綿受け継いできたバルカの怪物にとって目の前の少女は自身の存在理由を消し去る『敵』にしか見えなかった。

 

「──オ"ォオオォォ」

 

『ふざけるな』と言わんとばかりに咆哮を上げたバルカの怪物。もはやアミッド以外は眼球にないかの如く薄れていく呪詛(カース)を凝縮し、もはや血の成分などどこにもない瘴気で出来た水気を彼女に向かって放つ。

 その怨嗟を受け止めるべくアスフィが防御に回ろうとするものの、掠めただけでも今まで血の雨から身を守ってきたマントは一瞬の内に焼き焦げ、それでもせめてアクスだけはと無理矢理身体をねじ込んだファルガーとエリリーの腕が真っ黒の枯れ枝になって吹き飛ばされた。

 

【戦場の聖女】(デア・セイント)! 避けなさい!」

 

 後ろに居たアクスを巻き込みながら吹っ飛んでいくファルガーたちには目もくれず、アスフィは声を張り上げる──が、彼女は微動だにしない。

 

 その瞬間、白と黒が衝突する。アミッドよりレベルが上の冒険者でも成す術がない呪詛(カース)に少女を守る神聖な法衣はたちどころに焼き焦げ、黒く爛れていく。

 唇の端から血が一筋流れ、突き出された瑞々しい肌の仕立てが老婆のそれのように枯れていく。

 

 しかし、()()()()だ。

 1級冒険者でさえも食らったら全身が黒く変色し、即座に命が絶たれるような高純度の呪詛(カース)。それをアミッドは超高速で解呪という離れ業で見事に対応する。

 それでも解呪しきるのは叶わず、今まで経験したことがない痛みがアミッドを襲う──が、それでも彼女は魔法を解除しない。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 視界がチカチカと明暗するという精神疲弊(マインドダウン)が近い症状を知覚しながらも、アミッドは胸中の思いを全て魔法に費やすかの如く叫ぶ。その咆哮と共に解き放たれた清浄な光は禍々しい瘴気を打ち払い、広間をたちまち白い光と光粒で埋め尽くす。

 後に残されたのは身を守る鎧の如く纏わりついていた漆黒の血管が消え失せた……いや、違う。()()()()()()()バルカの怪物だった。

 

「これでも解呪しきれないなんてね……」

 

 本命が上手くハマった実感があった。しかしながら相手の呪詛がそれを上回った結果に、フィンは焦燥感を覚えながらも全体に向けて慎重に行動するよう指示を下す。

 相手は既に虫の息だが、先ほどの遠距離攻撃の他に何かしてくるかもしれない。追い詰めた時こそ慎重にならざるべきだと自身を含めた1級冒険者を主軸とした包囲で決着を着けようとしたのだ。

 

 ただ、そこに──。

 

***

 

 時は少しばかり遡る。力及ばず解呪が敵わなかったアミッドは、ぐらつく身体に鞭打って再度詠唱を試みようとする。

 だが、既に大量の精神力(マインド)を消費した後。長杖(ロッド)をつっかえ棒にしていたものの、握力が既に限界だったがゆえにその場に倒れ込んでしまう。

 

「まだ呪詛(カース)が……。私が……」

 

 立ち上がろうともがきつつアミッドは息を整えながら治癒魔法の詠唱を開始しようとすると、そこに吹っ飛んでいったはずの()()()の声が聞こえてくる。

 

「お姉ちゃん、"殺す"とか"癒せない"とか言っちゃだめだよ。僕たちは治療師(ヒーラー)なんだから」

 

 その言葉と共に純白の旗が、露わになったアミッドの白い肌を隠すようにかけられる。伏せた状態の中、残った力でたどたどしく横を向くと、アクスは膝立ちで手に持ったブリューナクを彼女の眼前に突き出していた。

 

「アクス?」

 

「僕たちは"救う"んだ。だから、魔法を貸して」

 

 もはや救う手立ての無い怪物を──アミッドが諦めた存在を未だ1人の人間として認識し、さらには『救う』と言い放ったアクスに彼女は目を見開く。『バカなことは止めなさい』といった否定の言葉が頭をよぎるもそれは喉から先へ出ることはなく、代わりにブリューナクを握りながら魔法の詠唱文が口から紡がれていた。

 

 オラリオ中の傷付いた人を救いたいという『願い』をアクスに託したかのように────。

 目の前の人を救いたいという『覚悟』をアミッドが肯定したかのように────。

 

「ディア・フラーテル」

 

 やがて、魔法の蓄積が終わったアミッドは手を放すと、アクスは額に着けていた煙水晶(スモーキークォーツ)のゴーグルを目にかけた。

 

「アク……ス。信じ……て……ま──」

 

「任せて」

 

 精神疲弊(マインドダウン)によってアミッドの意識は徐々に薄れていく。かすれて中々見えない視界の中、彼女は目の前で駆けていくパルゥムをひたすら見つめていた。

 小さな背中。まだ華奢な身体。それなのに恐怖も躊躇も置き去りにしたような走り(ゆうき)に、アミッドの胸の奥に溜まっていた緊張の糸がプッツリと切れる。

 

 もう、立たなくていい。

 

 視界の端が暗く閉じていくと同時に、小さくも大きなその背を思い出したアミッドの顔にはかすかに笑みが浮かべ──。

 

 アミッドの視界は闇へと沈んだ。




槍って短くすると剣になるやん! と某英霊ソシャゲのオケアノス編見ながら思った次第です。
はい、マイフレンドと傷になりたいたわわちゃんはうちのグランドです。 悪いか!

杖と剣
 4月から始まるので、楽しみですね。
 初めはこのためにベートの靴の機構をブリューナクに取り付けてたのは内緒。
 え、魔剣は攻撃だろうって? (治癒)魔(法の)剣だからヘーキヘーキ。

アクス
 目を離すとどこかに行きやすいので、とうとう手を繋がれた子供。幼児かな?
 さらっと旗をお見せ出来ないよ!状態のアミッドに被せるイケメンムーブをしているが、顔は平均的なポメっこである。
 ちなみに、アミッドの魔法を吸った剣でバルカの怪物に突撃を仕掛けるのは『3回目』。後は分かるな?

アミッド
 本命の要。着実にアクスへの信頼感がマシマシになっている。
 名前が変わったら『アミッド・フローレンス』になるのか、『アクス・テアサナーレ』になるのか。それが問題だ。

バルカの怪物
 初見殺しは出来なかったが、原作よりも多少楽になった程度。
 小要塞で考えていた障壁からの浄化コンボ。もしくは、障壁からの浄化させながら自らの血で溺死コンボよりかはマシと信じたい。

──信じてる
──任せて
 最初、『信じて!』とどっかのBT-7274みたいなことを言わせようとしてたけど、掛け合いの方が良いなと思ったので変更。
 ちなみに書きながら思ったネタを一つ。
 聖女「見なよ…わ、私のアクスをっ…!」
 医神の眷属「見なよ…俺(私)たちの末っ子を…」
 勇者「見なよ…僕の推しを…」
 道化師の眷属「見なよ…俺(私)たちの恩人を…」
 黄金の魔女「見なよ…私のお気に入りを…」
 満たす一向「見なよ…私たちの労働力を…」

技名募集
 本当は今話する予定だったが、ちょっと話的に途切れにくかったので次回に持ち越し。
 コメント残してくれた方。ありがとうございます。
 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=336957&uid=293848

ふと思ったこと
 某グランブルーの三羽烏漢唄聞いてたら、ニョルズに拾われたアクスを思いついた。後悔はしてない。
 多分、そこら辺の水棲モンスターテイムして伝説のフィッシャーマンでもしてるんじゃないですかね。(もしくは密輸されてたマーメイド助けたりとか)
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