ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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106:帰還報告(デブリーフィング)

 『ハハッ、あの状態で生きてるとは、ラッキーボーイだぜぃ☆』と言わんばかりの奇跡の連続により、アクスは何とか生き残ることが出来た。その報告がウラノスとロキにもたらされた次の日、複数の神が眷属を連れてギルドへと顔を出す。

 ロキ、フレイヤ、ディアンケヒト、ヘルメス、ヘファイストス、ゴブニュと錚々たる面子ではあったものの、()()()()()来るタイミングをずらしたことによって周囲には彼/彼女たちがギルドにやって来た要件を詮索する者は居なかった。そのため、ウラノスから指示を下されていたロイマンもまるで別々の要件のように振舞うことで、ファミリア別に別室へと案内。その後、細心の注意を払いながら祈祷の間へと神々やその眷属を誘導した。

 

「眷属付きがうちとフレイヤとヘルメスだけか。ディアンケヒトはしゃあないけどな」

 

「椿なんか来てもねぇ……」

 

「うむ、鍛冶師はただ己の作品と見つめ合うのみ。それにうちのは勇鉄を取りに行って、先ほど帰って来たばかりだ。ゆえに呼ばなかった」

 

 言わんとしていることは分かるので、ロキは特に反論することなく口を閉じてウラノスを見据える。しかし、彼は一向に喋らないので首を傾げていると、隅の方からフェルズが姿を現れた。

 彼は一礼すると、軽い自己紹介と共にウラノスの状況について話し出す。

 

「私の名はフェルズ。訳あって神ウラノスの私兵をやらせてもらっている者だ。神ウラノスは祈祷中ゆえ、私から話をさせてもらう」

 

「彼は直近で騒がせていた喋るモンスタ──彼女のように異端児(ゼノス)を率いていてね。第1次侵攻の時にも力を貸してもらっていた」

 

「お、オ初ニお目に……かかりまス」

 

「うひょー! 蜘蛛脚美女キター!」

 

 フィンがフェルズのことについて補足すると、フェルズはラーニェだけを呼び寄せる。

 こうして『異端児(ゼノス)』という爆弾が神々の目に触れたわけだが、ゴブニュ以外は異端児(ゼノス)のことは多少なりとも知っている。そして、ゴブニュも職人気質であるためか『驚いたな』と本当に驚いているのかよくわからないような反応しか示さない。

 オッタルに関しては……、フレイヤが白と言えば白という気質なので特に何もアクションは起こさなかった。

 

 ラーニェの妖艶な姿にロキが騒がしくなったものの、それ以外に異端児(ゼノス)に対して忌避感や反対意見のようなものが出てこなかったことに少しばかり安堵したフェルズは、続けて神々を呼び出した主旨について語り出す。

 

「今回、ご足労願ったのは"1人の冒険者に会わせるため"だ」

 

「冒険者? 私には関係なさそうだけど、何で呼んだの?」

 

「神フレイヤ、貴女には今から紹介する冒険者を見て欲しい。ただ、祈祷によって話すことが出来ない神ウラノスから伝言がある。"出来る限り神威は抑えて欲しい"……と」

 

「おかしな子ね。そんなポンポン神威なんて解放するわけがないじゃない」

 

 ウラノスからの不思議な伝言に微笑を浮かべるフレイヤ。しかし、彼女の反応にどことなく『フラグ』という言葉が神々の間を駆け巡った。

 そんな神々の嫌な予感など知る由もなく、フェルズは合図を送るとラーニェの後ろから1頭のユニコーンらしきモンスターが姿を現した。

 

「こんどはユニコーンか。……って、もしかしてユーノかな? 驚いた、ずいぶん変わったね」

 

「ほう、ずいぶん……鍛えなおしたな……」

 

「いやいやいや、ユーノってあのアクスが乗ってたユニコーンやろ!? もっとしゅっとしてたやん! 草とか果物好んで食べてそうな見た目やったやん! あの子、肉食いそうな見た目しとるで!? オレサマ オマエ マルカジリって面しとるやん!」

 

 戦ったり、観戦していたからだろう。フィンとオッタルはすぐさま目の前のユニコーンのようなモンスターがアクスと共に居たユーノであることを看破する。

 しかしながら、まるで新人類をデストロイするような形態にワープ進化を果たしたような変わりようなため、ロキはあり得ない存在を見たかのようにツッコんだ。

 

 すると、そんなやり取りをしている間にユーノはアクションを起こす。唐突に前脚を振り上げ、一直線に振り下ろしたのだ。

 豪脚に踏まれた床がひび割れるが、前足が振り下ろされると同時に跳ね上がった後ろ足によって()()()()()()()()()()()()()()が空中に放り出される。唐突のことながらもその存在はまるで分りきっていたかのように叫ばず、空中で膝を抱え込みながら顎を引いて丸まり、そのままくるくると回転しながらも彼は祈祷の間に居る全員の背格好から着地点を見定めた。

 このままでは飛距離が足りないので、履いていた靴の力で()()()()()()()()()ことで最終調整をしてから地上に立つひときわ背の高い人物。その場で静かに佇んでいるオッタルの肩へブッピガァンと納まった。

 

「お久しぶりです。オッタルさん」

 

「アクスか。そろそろ手伝いに来て欲しいとヘイズが言ってるんだが……」

 

 行方不明の連絡を受け取っていないからだろう。アクスの登場に何の疑問も持たないオッタルは、そのまま仕事の話を持ち掛けてきた。

 なんでもヘイズと会話すると、30秒に1回の割合でアクスのことを話す……というか、話題を無理矢理アクス関係に持って行くらしい。それほどまでに人手不足なのをどうして放っておいたのかと問い質したいが、『オッタルなので』と数文字で分かりそうな結論ゆえにアクスは口をつぐむ。

 

 まぁ、そんな『まるで駄目な団長(マダダ)』のことはどうでも良い。ついでに言えばクノッソス第1次侵攻に参戦し、アクスが行方不明になったことを知っているフィンやアスフィがまるで幽霊を見たかの如く彼を見つめているのもどうでも良い。

 

 ただ──。

 

「随分見ない間に"汚れている"わね」

 

 フレイヤがピキッてることだけはどうにもならなかった。

 

 見え方や見える範疇もマチマチだが、神々は下界の子供たちの魂が見える。大半は『下界の子が嘘をついても魂が揺らぐから分かりやすい』と言っている程度だが、特にフレイヤなど力を持った神は魂の美しさからその人物の素質を計ることが出来たりする。

 そんな彼女から見たアクスは、たまに見かければフレイヤの想像しないほど綺麗になったり、光り方を変える色物的存在。言い方は悪いが、『暇潰しでたまに見ると面白い珍獣枠』としての立ち位置であった。

 

 しかし、今の彼の魂は……。かなり酷い状態になっている。

 

「酷く汚れてる。いえ、汚そうと躍起になってるのかしら」

 

 怒りながらも、フレイヤは努めて冷静にアクスの魂を分析し始める。

 まず、なんといっても汚い。まるで石炭を大量に燃やした後に出て来る煙霧のような黒い靄が魂の周囲に纏わりついているため、よくよく目を凝らさないと魂の輝きすらも見えない程だ。

 そんな粘着質なストーカー。もしくは()()()()()()()()()()()()()皿に付着した頑固な油汚れのような取り辛そうな汚れに、フレイヤは品性の欠片もないような神が因縁をつけてきたと推測する。

 

 それでも、彼女は未だ平静を保っていたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 かなり抑えた価格で派閥の雑務を手伝いに来てくれる善良性が服を着て歩いているようなところは気に入っているし、先にも言った通り遠目から見る分には面白い部類に入る子供ではある。

 ただ、あくまでアクスは【ディアンケヒト・ファミリア】。いくら知らない間に魂を汚泥で汚されようとも、魂の所々に罅が入っていようとも、精々『激おこぷんぷん丸』ぐらいの怒り具合が関の山であった。

 

 だが、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ロキ、どういう事かしら?」

 

「フ、フレイヤ。落ち着き?」

 

「逆に聞くけど、貴女も見えるんでしょ? こんなことをされるなんて相当なことよ? ……もう一度言うわ、なにがあったの?」

 

 未だ思考の余地が残っているとはいえ、フレイヤは鋭い眼差しで矢継ぎ早な質問をロキに投げかける。その剣幕に思わずたじろいだ彼女は、ツラツラと当時のことを話し出した。

 話を聞いていく内にフレイヤの身体から神威が解放され、それに気づいたゴブニュやヘルメスに窘められて抑えるという流れを何度か続けるものの、最後の最後でタナトスが自害するためにアクスを利用。大量の神の血(イコル)と至近距離での神の力(アルカナム)に晒されたことを聞いた直後──。

 

 我慢の許容値を振り切れてしまう。

 

「オッタル」

 

「はい」

 

「あなたが死んだら、タナトスを全身全霊で殴り続けなさい。私も後で行くから」

 

「御意」

 

 怒髪天を突くとはこのことだろう。完全に神威を解放したフレイヤの命に、オッタルは珍しく冷や汗を流しながらも臣下の礼を取る。

 魂の時点で手も足も出ない可能性もあるにはあるのだが、なんせ今のオッタルは地上最強。その程度のことはやってくれるであろう。……おそらく。……メイビー。

 

 まぁ、そんな武の境地に立った存在はひとまず置いておく。問題は、絶賛神威を解放する程怒り狂っている存在が()()居ることだ。

 

「タナトスがぁぁあ! ブチ〇したらぁ!」

 

「ディアンケヒト、自分もかい!」

 

 フレイヤほどではなくとも『魂が傷ついている』と分かってはいたものの、そうなった経緯は分からなかった。

 しかし、ロキから詳細が語られたことで、ディアンケヒトの中にあった『何か』が弾ける。ギリギリアウトなことを言いながら暴れ狂う医神の姿に、ロキは『こんな真面目な立場ちゃうのにぃ!』と事態を収拾しようと躍起になる……が。

 

 ()()()()()()便()()()()()()()()()()()()

 

 下界の子を玩具にするような性格の神は多いが、誰も彼も唆すばかりで直接的に害を為す神は見たことがない。それほどまでに憎んでいるのか、はたまた穢しても尚這い上がることを楽しみにしているのか。

 送還されてしまったのでタナトスの思惑は分からないが、未知を楽しみにしている目の前で自分(タナトス)の都合の良い色に塗り替える所業を許しておけるほど神々は寛容ではない。

 ヘルメスやヘファイストス。そしてアクスとはあまり接点のないゴブニュまでもが怒りに打ち震えているのが見て取れ、ロキも『止めれる立場に居ながら止めれなかった』ことに対して不甲斐ない自分に怒っていた。

 もはやウラノスの入念な下準備をしてまで行っていた本気の祈祷すらも破られつつあり、その証拠に高まり過ぎた神威によって『地鳴り』という物理的な現象まで引き起こしていた。

 もはや祈祷で抑え込むのは限界。そう察したウラノスは、今まで言祝いでいた祈祷の言葉から制止の声を上げる。

 

「沈まれ!」

 

 ウラノスらしからぬ声量と口調に怒りという水の中に身を投じていたディアンケヒトたちは、ようやく水面まで浮上する。熱くなり過ぎていたことを反省しつつ周囲を見ると、冒険者たちは軒並み片膝をついて動きを止めており、アクスはすっかり怯えた様子でこの場所で1番の安全地帯であるデカくて最強(でかつよ)の頭に生えている耳を未だに強く握りしめながら涙目で様子を窺っていた。

 

 やり過ぎてしまったのは明白。しかしながら、それについて謝罪をする前に階上の方から祈祷の間に向かって声が響いてきた。

 

「神ウラノス! 何が起こったのですか!」

 

「ロイマンか。問題はない」

 

「じ、地鳴りが起こってギルドの前が混乱しております! せめて説明をお願いします!」

 

 おそらく地鳴りで混乱した民衆や冒険者が詰めかけてきたのだろう。うっかり祈祷の間まで降りてきそうな勢いにフェルズは慌ててアクスたちを隠そうとするが、その前にフレイヤが単身階上へ向かっていく。

 そして、ロイマンの姿が見えるギリギリの位置で立ち止まると彼に向かって声をかけた。

 

「ロイマン、ごめんなさいね。ヘルメスが私にセクハラしてきたから、ちょっときつめにお仕置きしただけなの」

 

「わ、分かりました。ですがフレイヤ様、頼みますからもう少し神威を抑えて……」

 

「仕方ないじゃない、おしりを触られたのよ? ガチセクハラは極刑、そうよね?」

 

「はぁ……」

 

 口を尖らせながら反論するフレイヤに、もはやため息しか出なくなってしまったロイマン。最終的には『承知しました』と胃の辺りを抑えながら去って行くのと同時に、彼女は祈祷の間へと戻ってくる。

 すると、そこには床に手をついて悲しみに暮れているヘルメスが居た。

 

「フレイヤ様、俺を理由にするのは流石に酷くないかい!?」

 

「あら、アクスに色々吹き込んでは楽しんでる遠隔セクハラ男神が何か言ってるわ」

 

「うぐぅっ!」

 

 前科があり過ぎるためにグゥの音も出ない。それでも彼は諦めずに周囲に『フレイヤ様って酷くないかい?』と賛同を求めるが、帰って来たのは『自業自得』や『普段の行いが悪い』という心にも無い言葉。連れてきた眷属(アスフィ)にまでも『今までの積み重ねでは?』と見放されてしまったヘルメスは、それはもう醜く泣きはらした。

 

「それはそうと、アクスはどうするつもり? さっきのロキの話を聞く限りじゃ、この子を地上に帰せないと思うんだけど」

 

「あぁ、うん。僕から連携させてもらうよ」

 

 そんな神々のじゃれ合いがようやく終わったことで、ようやくフィンのターンが回って来る。相変わらずのフリーダムさに若干辟易としながらも、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 不測の事態によって『真』になってしまったアクスの行方不明。さらには生きていたという事実はここ以外の誰も知らないため、仮に情報を流せば市井の人々は直ちに信じ込んでしまうだろう。

 

 それはすなわち、エニュオがより食いつきやすい情報(エサ)を好き勝手に書き換えることで相手の行動を誘引できるというわけだ。

 

「これ、後々儂たちすっごい怒られるぞ?」

 

「ははっ、今回は貴方も"こちら側"だよ」

 

「どうせ放置したらオラリオ吹っ飛ぶんやから、終わった後に沢山怒られよ。……なっ?」

 

 待っているのは『出禁』か。それとも『粛清』か。

 いずれにしてもロキの言うとおり、このままエニュオの正体が掴めずに時間を浪費すればオラリオの明日はない。所謂、『コラテラルダメージ』というやつだ。

 

 アミッドたちのことを思い浮かべながら『気が重い』と呟くディアンケヒトを尻目に、ロキはヘルメスと話していた推理を思い返す。

 

「ディオニュソスを疑っとったんやけどなぁ。送還されてもたしな」

 

「明らかに"タイミングが良すぎた"んだよなぁ」

 

「あら、送還されちゃったの?」

 

「せやで、自分らも2本の柱見たやろ? ディオニュソスとタナトスや」

 

 第1次侵攻に参加していないヘファイストスの疑問に、ロキは送還された2柱の名前を上げる。ただ、その話で1点──ディオニュソスの散り様についてゴブニュとアクスが首を傾げた。

 

「ロキ。送還されたのは本当にディオニュソスか?」

 

「どういう訳や?」

 

「オクルスは僕も使ってたんですが、視野は結構狭いんですよね。なので……」

 

 オッタルから飛び降りたアクスはフェルズから予備のオクルスをもらい、そのままフィンの近くで『ワー、ヤラレター』と棒読みになりながらオクルスを握りこむ。そして、隣に居たフィンを指で突っつくと、意図を理解したのかフィンは何も発さずにその場に倒れ込んだ。

 それを見たロキは初めこそ『お遊戯会か?』とふざけるが、フィンとアクスの真剣な面持ちに冗談と両手を上げる。

 

「替え玉作戦か。やけど、アキたちの話じゃ【ディオニュソス・ファミリア】の全員の動きが鈍ったって言うとったで?」

 

「あぁ、仮に替え玉だったら眷属たちは生き延びていたはず。だよな、アスフィ?」

 

「はい、神の恩恵(ファルナ)を宿している冒険者であれば何とか逃げ切れるぐらいの速度でした」

 

 ディオニュソスの代わりに誰かを送還する。確かにこれならばディオニュソスがエニュオという疑惑が一気に浮上するものの、これは明らかに彼を狙い撃ちしたような無理に繋げた推理だ。

 それに仮に替え玉をしていた場合、【ディオニュソス・ファミリア】が弱体化したという疑問が残る。彼が送還されていないのなら、逆説的に派閥の全員は全てクノッソスから抜け出すことが出来ていたはず。

 

 そうなると、やはり送還されたのはディオニュソスである。ロキとヘルメスがそう結論付けようとするが──。

 

「私ならそのトリック、解決できるわよ」

 

「フレイヤ、そろそろ本題に入らんと時間がないんやけど」

 

「でも、私もオラリオに住んでる1柱よ? その、エニュオとかいう変な神に狙われている以上は口出しする権利はあると思うのだけど?」

 

 言われてみれば正論だが、フレイヤの表情が緩んでいる。嫌な予感がしたロキは本音を話すように言うと、彼女はあっさりと『面白そうだから』と答えた。

 神が神を欺くという天界では日常茶飯事だった謎解き(リドル)。それもロキやヘルメスでさえもお手上げな代物である。悪い癖が出るの(たいくつしのぎ)も仕方がないと言えよう。

 

 ただ、時と場合と場所。それら全てが絶望的に合っていなかった。

 

「面子と現状見て言えや! 阿呆!」

 

「ギャンっ」

 

 スパコーンと景気の良い音とともにロキの手刀がフレイヤの頭にクリーンヒットする。オッタルの前でかなり挑戦的な振る舞いだが、彼は決して動かなかった。

 脳裏に駆け巡るのはオッタルたちに無断で外出し、【ロキ・ファミリア】との抗争1歩手前となった時。あの時も禁断の技(テヘペロ)によってロキの制裁を食らっていたと思い返す。

 『少しは自重して欲しい』とは口が裂けても言えないが、彼も彼で主神と団員たちの間に挟まれる中間管理職。これぐらいは許容の範疇だろう。

 

 そんな武人の葛藤はさておき、フレイヤの推理である。本来であればすぐさま話題をアクスのことへと変えたいが、エニュオの正体について少しでも手掛かりが欲しいことは事実だ。

 そういった思惑があってか、仏頂面のロキに代わってヘルメスが音頭を取り出す。

 

「まぁまぁ、ロキ。ところで、フレイヤ様。貴女ならならどうやって眷属を騙すんだい?」

 

「簡単よ、魅了を使うの。これなら他者の認識を捻じ曲げることが出来るわ」

 

 これまた大小あるが、美の女神には少なからず未了の権能が備わっている。仮にフレイヤが本気で使えば、魅了された相手が下界の子供ならば()()()()()()()()ほど彼女に心酔し、神々であっても認識を捻じ曲げることが可能だ。

 ただ、たしかにそれを使えば『主神がディオニュソスである』と誤解させることは出来るが、ステイタスの更新でそもそもバレてしまう。そこを指摘したゴブニュに、フレイヤは『不勉強よ』と指摘した。

 

「あー、更新薬(ステイタス・スニッチ)かぁ。ご禁制の」

 

「ご明察。これでステイタスの更新は出来るわ」

 

 更新薬(ステイタス・スニッチ)は、他派閥の眷族のステイタスを更新できるマジックアイテムだ。更新できるのは能力値の更新までで、魔法やスキルの発現。ランクアップは不可という条件付きだが、主神にステイタスの更新をしてもらえない眷属を懐柔するのに使うかなりグレーかつ希少な道具である。

 

 ただ、仮にフレイヤの考えの通りであればそれはそれで豪勢な話だ。ゆえにフレイヤの推理は多少の粗があるとロキは指摘する。

 

「フレイヤ、神がそんな大人しく送還されるか? うちもやけど下界の子ならいざ知らず、他の神の手の平で踊るのが嫌いな奴らがほとんどやで」

 

「ロキ、最大派閥の私や貴女を嫌っている神は結構居るのよ? "ロキやフレイヤが気に入らないから困らせてやろう"って提案で動く神は1柱ぐらい居るんじゃないかしら?」

 

 神は全知ながらも結構ノリで動く。かくいうフレイヤも割とノリで都市から抜け出たこともあるため、その言葉は妙な信憑性を持っていた。

 後は適当な所で『今明かされる衝撃の真実ゥ☆』や『楽しかったぜぇぇ! お前との友情ごっこォ!!』とカミングアウトしながら送還すれば、今の状況を簡単に再現できる。

 

 ただ、それでも幾何かの稚拙な部分が拭いきれない。そこを指摘しようとするが、見かねたヘファイストスがうんざりしながら口を開いた。

 

「この話。いつまで続けるの?」

 

「ん? あぁ、確かにそうやな。ファイたんナイス」

 

 このまま行けば神と人の時間間隔がかなりずれていることを忘れた『暇を持て余した神々の会話』がダラダラ続けられることは明白。未だ推理を全て披露しきれておらずにむくれているフレイヤを尻目に、ロキはオッタルに下ろされたアクスを見やる。

 いくら命令されたとはいえ、アクスはタナトスに対して攻撃を行った。そのことから少なからず彼の魂以外にも悪影響があると考えるのが自然ではないだろうか。そんな考えと共に猛烈に嫌な予感が過ぎったロキは、ディアンケヒトの下へ掛けていくアクスの背中を指差しながら警告した。

 

「ディアンケヒト、アクスのステイタスは見といたほうが良ぇかもしれん。嫌な予感がする」

 

「分かっておる。ついでにランクアップもしとかねば。……もう、惜しんで全てを無くしかけるのは沢山だ」

 

 ランクアップを惜しんで眷属が死にかけるという最悪の事態を経験したディアンケヒトは、『やはり、ランクアップの保留は強豪派閥のすることだ』と苦々しい面持ちで、アクスをランクアップさせようと祈祷の間の隅まで移動する。

 一方その頃。彼が反省しながらステイタスを見るついでにランクアップを行おうとする傍ら、ディアンケヒトの言葉を聞いた神々がパルゥムの治療師(ヒーラー)というレベルが非常に上がりにくい存在のランクアップということで先ほどまでの暗い雰囲気を払拭するかのように話を弾ませていた。

 

「アクス、ランクアップするの?」

 

「うちは知っとったけどな。たしか自分とこの【猛者】とかわい子ちゃんに地下水路に来てもろた時やな」

 

「他派閥の子供のランクアップの現場を見れるなんて、中々にレアだね」

 

「ヘルメス、フレイヤも。もうちょっとこっちに来なさい。他の神が別派閥の子のステイタスを見るのは駄目よ。教えてもらえるかは知らないけど」

 

「まぁ、うちは教えてもろたけどな。……ってゴブニュ、どこ行くんや?」

 

 子供たちの可能性という『未知』にロキたちは興味津々な様子でディアンケヒトの動向を眺める──が、その輪からゴブニュが離脱していく。祈祷の間を出ようとする彼にロキが尋ねたところ、すぐ戻って来るとのことらしい。

 しかし、用件も告げずに出ていくのは今のご時世かなり心配。……というか、怪しさすら感じる行動だ。

 

「神ゴブニュ。一応聞くけど、どこに行く気だい?」

 

「先の話で大方の事情は分かった。アクス・フローレンスは死んだことにして、エニュオとかいう神が行動を起こすまで身を隠させるつもりだろう。【勇者】(ブレイバー)、その場合はどこが適切だ?」

 

「……ダンジョンだね。ちょうど、協力者数名がここに居る。"保護"してもらおうと思っているよ」

 

「だが、ダンジョンにも人の目があろう。ちょうど手慰みに作った防具がある。それを取って来るから、後で【万能者】(ペルセウス)にでも姿を変えられる魔道具(マジックアイテム)とかにしてもらえ」

 

 言いたいことだけ言ってさっさと階段を上がっていくゴブニュ。変なところで流れ弾を食らってしまったアスフィが『また……、徹夜』と死んだ魚のような目をしだすのだが、ヘルメスは彼女を一切慰めない。

 

 ──だって、怖いんだもん★

 

「せめて慰めるなりしなさい、このバカぁ!」

 

「ひでぶぅ!」

 

 ただ、身構えた上で対策しても回避することが難しい事象というものはあるわけで。

 そんなこんなで吹き飛んでいったヘルメスはさておき、ロキたちはアクスのLV2最終アビリティぐらいは見せて欲しいとディアンケヒトに懇願する。

 もちろん、スキルや魔法は冒険者に取って最大の守秘義務なのは承知している。そのため、そこだけは切り取って寄越して欲しいと頼んで来るロキたちに、ディアンケヒトはとある条件を提示してきた。

 

「もちろん構わぬぞ。むしろ、ランクアップした全てのステイタスを見て欲しい」

 

「いや、流石にそれはやり過ぎやろ」

 

「そうよ、いくらアクスが派閥関係なく往診してるからってやり過ぎよ」

 

「いやいや、"是非とも"見て欲しい。いや、割と本気で見てくれ。正直、今でもかなりギリギリでな」

 

「魂の様子で分かっていたことだけど、そんなにアクスのステイタスがおかしくなっているのかしら?」

 

 言葉の端々から嫌な単語が聞こえる中、フレイヤは割とぶっこんだことを言う。だが、ディアンケヒトはその質問を()()()無視し、『応じてくれるなら開示しよう』と共通語(コイネー)で書かれたアクスのアビリティを写した紙を見せびらかす。

 

 何度もある通り、外界の神秘。特に子供たちの可能性から生じた未知に関して神々の大好物だが、逆に神々がわざとそうなるかのように仕向けた神秘。所謂マッチポンプの類に関しては大嫌いである。

 また、神の血(イコル)は下界の子供の成長を促すいわば促進剤。加えて開錠薬(ステイタス・シーフ)といった相手のステイタスを見ることが出来る薬の素材でもある。

 それが大量にかかり、なおかつ神の力(アルカナム)の爆心地のすぐ傍に居たとなれば()()()()()()()()()()神々の視点から見ても明らかだ。

 

 このまま回り右でもして帰りたいという気持ちと『有望株ともいえるアクスのステイタス』という未知を楽しむ気持ちがせめぎ合う。そんな二律背反に苦しんでいると、フィンとオッタルが率先して動き出した。

 

「ここで後ろを見せるわけにはいかないからね」

 

「あぁ、見て見ぬ振りをしてもいずれ分かることだ」

 

 そんな第1級冒険者たちの後押しもあり、ロキたちもフィンやオッタルの後にLV2最終段階のアビリティが写された紙を回し読みしていく。

 

────

アクス・フローレンス

 

レベル2

 

 力 F 312

 

 耐久 F 328

 

 器用 E 472

 

 俊敏 D 503

 

 魔力 C 684

 

────

 

 最終的なアビリティとしてはまずまず。いや、治療師(ヒーラー)としては中々の数値だ。

 パルゥムなのに耐久がちょっとだけ伸びていることについては……、フレイヤとオッタルはそっぽを向いて無視を決め込む。

 

 そうして全員が紙を回し読みした直後──。

 

「どうせだから、"良い話"の一部だけでも見せておこうか。アクス、詠唱を頼む」

 

「あい!」

 

 ランクアップを済ませたのか、サービスとばかりにディアンケヒトはアクスに詠唱を指示すると、アクスは高らかに謳いだした。

 

 風よ語れ、彼の地に散りし勇の名を。地よ刻め、踏み躙られし誓約の残滓を。

 我は呼ぶ、古の戦野にて並び立ちし精強なる騎士たちよ。永い時の果てに消え失せし大陸の守護者たちよ。今一度、奮い立て。

 数多の槍を手に、鷹の目に勝るとも劣らない目、そして曲がらぬ勇気を携え、我が前に顕現せよ。

 我らが見し黄昏、我らが流せし血潮、それら全てを"一槍"に込め、此処に栄光を再現せよ。

 歩みは雷鳴、布陣は鉄壁、敵意を悉く阻み、民草を守る礎となれ。

 祝福はなく、見返りもない。ただひとえに──約束の地(ティル・ナ・ノーグ)のため。

 神々よ、ご照覧あれ。これより謳うは小人(われら)が誇り。

 『誓い(ゲッシュ)』は今も此処に在り、『(フィン)』は未だ陰りは見せず。

 ゆえに応えよ、聖女と勇者(フィアナ)の名において。

 

 英勇詩篇(ミレシアン)

 

 やがて、詠唱の終句が落ちた瞬間。どこからともなくカツン──カツンと乾いた鉄の音がいくつも響き渡った。




ランクアップ。長かった…。
けど、次は結構早いです。
だって、『アレ』だもん。LV2の貯金も含めると、そりゃ上がるって。

フレイヤが怒る理由
 そら、たまに引っ張り出して反応を楽しんでいた玩具を『綺麗すぎるし、目障りで腹立つ(超意訳)』という理由で汚泥塗りたくって、よくよく見たら細かな傷つけてリリース。本人はそのまま逃亡…とかしたら、そらキレる。

英勇詩篇(ミレシアン)
 ランクアップによって発現した最後の魔法。タイプとしては幻影魔法である。
 ただ、長文詠唱らしく効果はかなりの物。
 特徴①
  アクスと()()()の力量を持つ幻影を9つ生み出す。
  LV3が一気に9人増えるので同格相手ならばそれだけで勝負がつくものの、これから先は……うん、師匠越えとか頑張れ。

 特徴②
  幻影はアクスのイメージによって決まる。歩兵の時もあれば、馬単体の時や騎馬兵の場合もある。
  ただ、全てにおいてイメージが大事。仮に飛ぶイメージがないのに鳥を生み出した際は、大地をひたすら羽ばたきながら駈ける変なのが生まれる。

 特徴③
  起動鍵(スペルキー)赤勇の唄(フォルトゥナ)】により、幻影と自身の位置を入れ替える。
  そこ、ホワイトゴレイヌとか言わない。飛雷神・二の段とか、飛雷神斬りとか言わない。

 特徴④
  幻影との視界共有と簡単な指示出しが可能
  特徴③での事故が怖いからね、シカタナイネ。攻撃や下がるといった簡単な指示を聞くのみ。具体的なのは混乱するぞ。

 特徴⑤
  アクスの魔法を1つだけストック。任意のタイミングで使うことが出来る。
  幻影1人1人に魔法をかけるという手間はかかるが、救急箱になる。それでも渋滞の場合は【赤勇の唄(フォルトゥナ)】で『病院が来い』出来るので、中々に使える。
  魔力暴発を幻影にストックさせて、そのまま自爆攻撃とかいう卑劣戦法が出来そう。

 最後の魔法なので、ナイツ・オブ・フィアナマシマシで。
 語源はミレー族だが、元ネタは某ゲームのキャラの総称。
 ティルコネイルでぼーっと釣りしたり、卵両手に祝福ポーションもらったり、破壊神に武器壊されたりしてました。キホールは幼女だってあたい、まだ信じてるから。
 え、ダーナ神族(ディアンケヒト)を負かした相手だって? 知らんな!
 
 ぶっちゃけ、やり過ぎたと思ったのは秘密。けど、こんぐらいないとこの先生きのこれないから。
 『二大祭』前にアミッドとのイチャイチャ書くから許して。
 自分が書きたいからだろ? そうともいう。
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