ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

132 / 135
108:神々との契約

 祈祷の間。普段は厳かな雰囲気を醸し出す神聖かつ、静かな場所で──()()()

 ただ、少し前からいささか部屋の趣が異なってしまっている。

 

「じゃから、認めんと言うておろうが!」

 

「や”ー!」

 

 駄々をこねるアクスに頑とした態度で叱りつけるディアンケヒト。主神(おや)眷属(こども)を教育するという健全な親子の営みのように思うが、アクスの駄々は『玩具やお菓子を強請る』や『遊んでもらう』といったそこら辺の子供の望みよりも遥かに重かった。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

「お主、死者蘇生にはお主の寿命を犠牲にするというのを分かっておるのか?」

 

「分かってる。でも、闇派閥(イヴィルス)とかエニュオ? とかいう神様の騒動なんて僕たちに何も関係ないよ!」

 

 アクスが言わんとしていることは、こうだ。

 ダンジョンで命を落とすのは冒険者にとっては当たり前のことではあるものの、今回の騒動は冒険者にとってもらい事故のようなものである。

 例を挙げるならば、【ロキ・ファミリア】のレミリアたちだ。彼女たちは既に過去の存在となった闇派閥(イヴィルス)の手によって殺されている。蘇生には成功したものの、いわば凶悪犯の立てこもった場所に突入した際に返り討ちで殺されたような『致し方ない犠牲』では片づけられない事象である。

 

「ダンジョンで死ぬのは仕方ないって思うよ。そのために往診に行っているわけだし。でも、過去の遺物に殺されるのは駄目だよ。こんなの、今を生きる人の死に方じゃないよ!」

 

「それでも、お主が寿命を削る意味はなかろう!」

 

「お姉ちゃんの"思い"だけじゃ駄目なんだよ! だから、僕はこの"力"を持ったと思ってる!」

 

「ちょいちょいちょい、一旦待ちぃな」

 

 すっかり話が平行線になっている。このままでは無為に時間のみが過ぎてしまうことを危惧したロキは、ひとまず双方のメリットとデメリットから話してもらって妥協点を探ることを提案するが、その提案すらもディアンケヒトの機嫌を損ねるものだった。

 

「ロキ、お主はアクスの案に賛成なのか?」

 

「そんなことは言っとらへん。やけど、妥協点探さな平行線や。このまま時間だけ食うのは得策やない。ちゃうか?」

 

「そうよ、ディアンケヒト。落ち着きなさい。私たちはアクスの考えに賛同したわけじゃないのよ」

 

 いくら犬猿の仲の派閥(フレイヤとロキ)が居ようとも、この場に居るのは子を持つ親たちである。ディアンケヒトがここまで頑なになる理由は痛いほどよく分かる。

 さりとて、ここにいる神々はアクスのことはよく分かっている。それこそ、彼の習性に加えて()()()()()()()()()()()すらも予想できる程に理解出来ていた。

 そのことを指摘しようとするが、そこにタイミング良くゴブニュが戻ってくる。背中に大きな風呂敷を背負って登場した彼は、祈祷の間に広がっている異様な空気に感づいて首を左右に振りながら1番近くに居たロキに向かって『何があった?』と尋ねる。

 

「おー、ゴブニュ。戻ったか。実はな、"かくかくしかじか"でな」

 

「かくかくしかじかだと分かるわけなかろう。具体的に話せ」

 

 省略言語を本当に言うというボケを真っ向から返されたことで『冗談通じんな』とちょっと不機嫌になりつつも、ロキは先ほどのやり取りをゴブニュに伝える。風呂敷の中に詰め込んであった諸々を綺麗に並べながら話を聞いていたゴブニュは、彼女の話が終わると同時にアクスを手招きしてディアンケヒトに視線を向けた。

 

「ディアンケヒト。お主も此奴の性根は分かっていよう。それに、そのように押さえつけたらどのような反動が来るかもな」

 

「そう……だな……」

 

 ゴブニュということはもっともだ。アクスは人助けを趣味と言えるほどのお人好し。それに治療に関してはアミッドに負けない頑固さを見せる。

 さらには子供らしく、押さえつけると猫のように人知れずぬるりと抜け出しては押さえつけられていた反動を往診という形で発散し、保護者たちを困らせることが多々ある。

 

 いつもはそんなワンパク具合に『仕方のない奴』と許してしまいがちだが、今回はそうはいかない。

 今回、アクスが隠れるのはダンジョン。ゼノスの監視があるとはいえ、それも万全ではない環境下で反動が来たらどうなるか。

『アクスを見かけた』という話であればまだ揉み消せるが、いつものようにポテポテと治療を行った拍子に確保されて地上へ帰還する可能性が大いにあり得る。

 

 ただ、それは作戦立案者のフィンやロキが頭を抱える。もしくは、アクスが死んだと確信しているエニュオに彼の生存を叩きつけることで、ゴム人間を前にしたの神のような『白目を剥き、鼻水とよだれを垂らして口を大きく開けた、滑稽な驚愕の表情』を見れないだけなので、()()()()である。

 

「神ディアンケヒト、アクスは自分の身を顧みずに僕を助ける程だ。もちろん僕も彼の寿命を削る行為はとても許容できないけど、せめて話合いをさせてくれないかな?」

 

 アクスは善良性が服を着て歩いていると思われるほどの善性の塊だが、その反面は自己犠牲を何とも思っていない狂気に走った人間である。まさに、『良い人』と『気狂い(あたおか)』の間を反復横跳びしているため、フィンがやられたように他者を助けるために命を落とすか、勝手に死者蘇生を乱発して自滅するか。

 どちらにせよ、『嘘から出た真』になってしまう展開が予想できてしまう。

 

「そう……だな。ただ、これは前から言っているが、お主ら下界の子供たちは話に入って来るな」

 

「死者の蘇生に関して僕たちには重すぎる……。分かっているよ」

 

 複数の神に【勇者】(ブレイバー)と錚々たる面子の説得にディアンケヒトはようやく折れる──が、それでも神としての立場から下界の子供(フィン)たちの立ち入りを禁ずる。相変わらずの善神ぶりと肩を竦めたフィンは、喧々諤々と話し合っている神々を尻目にアクスの魔法についてを検証することにした。

 

 ただ、いくらディアンケヒトがステイタスを見せたと言っても『他派閥』という枷は外れていない。内心、『使い道あり過ぎるから後日来て欲しい』という自分勝手な気持ちを抑えながらも最低限の性能を確認していく。

 

 すると、超長文詠唱なのも納得できるほど『万能』であることが分かった。

 オッタルに()()相手をしてもらって動き方を調べたが、LV3であるアクスと同程度なのは間違いない。興が乗ったのか、力加減を間違えるという不慮の事故で1人ほど塵と化したものの、耐久力的にもオッタルの拳で簡単に塵に還る程度と分かったので良しとしよう。

 

 次にスペルキーによる位置の交換である。これは非常に興味深い結果を確認することが出来た。

 ユーノへ騎乗している状態で位置を交換すると、なんと()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、それ以外──ユーノから降りた状態でユーノに触れても、他人に触れても入れ替わるのはアクスのみという結果に終わる。先ほどの結果的に『騎士(マクール)の単騎駆け』という対象者と騎馬のアビリティを合算し、さらにそれを()()()()スキルの効果が乗っていると推測できるが、確証もなければ検証する時間もない。

 中々に不可思議な結果にフィンは『なんで?』と真顔で聞いてしまうものの、アクスも分からないのか『さぁ?』と首を傾げる。……その結果、『不思議幻影』ということで片が付いた。

 

「乗馬……。馬の獣人(エクウス)だったらどうなるんだろうか」

 

「フィン、真顔で何言うとるんや」

 

 アクスの魔法に関して知的好奇心と共に獣人の学術的な興味が芽生えかけていたフィンをロキが嗜める。ただ、フィンも本気でそんなことを思っておらず、『ただの現実逃避だよ』と取り繕った彼はロキたちの方を見据える。

『私は関係ないわ』と真っ先に言いそうなフレイヤ含めて全員漏れなく歯に物が挟まったような微妙な顔つきなところを見るに、おそらく妥協点を探りに探った末に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

 部屋の温度が少し下がったかと誤解してしまうぐらいの緊張感が祈祷の間に走る中、口火を切ったのはディアンケヒトだった。

 

「アクス。本当に済まない」

 

「おとっつぁん、それは言わないお約束ですよ」

 

「……ヘルメス、後で話がある」

 

「えぇ~……」

 

 せっかくの緊張感が台無しである──が、アクスの一言で重苦しかった空気が少しばかり和らぐ。このことにわざと発言して空気を軽くしたような感覚を覚えたが、どこからともなく『この子(アクス)、そこまで考えていませんよ』という団長(アミッド)の声が聞こえた気がしたディアンケヒトは、『天然じゃなぁ』と呟きながら結論から話した。

 

「すまない、アクス。お主の寿命を儂たちにくれ」

 

「対象は?」

 

 祈祷の間が再び鉛のような重さに塗り替えられていくが、アクスはまるで治療院に新たな患者がやって来たかのように真剣な面持ちで蘇生対象について聞いて来る。

 普通であれば、自身の命の灯を削る行為に忌避感や拒否の気持ちが出て来ても仕方がない。むしろ、ディアンケヒトは()()()()()()()()()()()()とまで思っていた。

 少しでも嫌気な姿勢を見せてくれれば即座にこの話を無かったことにするのに、出てきた返事が『極まり過ぎた覚悟』。つくずく()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を拾って来たものであると、彼はため息交じりで蘇生対象について話す。

 

 ()()()()()()()()()これまでの騒動で死亡した冒険者だ。

 24階層で死亡した【ヘルメス・ファミリア】のポット、ポック、ホセ、キークスの4人とこの騒動が明るみに出た発端である【ガネーシャ・ファミリア】のハシャーナ・ドルリアの合計5人の名前が挙がる。

 探せば他に居るかもしれないが、このパルゥムは加減というものを知らない。『出来らぁ!!』と変な方向に意識をかっ飛ばして変な行動をする恐れがあるため、()()()()を考えると藪蛇は突きたくないというのが神々の総意であった。

 

 ところが、この段階でアクスは『足りない』と指摘する。

 

「【ディオニュソス・ファミリア】の方々が居ないのはなぜですか?」

 

神血(イコル)がない以上、蘇生できんだろう」

 

「嘘ですよね」

 

 ディアンケヒトの理由に対し、アクスは嘘と断じる。【ディオニュソス・ファミリア】の人数が多すぎるという理由と()()()()()()()()()()()()()()()が足りないことから、ロキたちと推敲を重ねて何とか捏ね繰り回した嘘なのだが、それが即座に看破されたことに対して神々は驚きを隠せなかった。

 

 しかし、彼は知っていたのだ。

 神々がたまに体調が悪そうに治療院に来るのを。そして、往診での茶飲み話によって何が行われていたのかを。

 

「神様たちがディアンケヒト様に定期検診や治療を頼んでいるのも、その過程で血を検査しているのは知ってます。神血(イコル)なんて悪用されかねない代物、ディアンケヒト様から厳重に管理してからまとめて廃棄しているはずです」

 

「あやつら……」

 

 舌の滑りが絶好調な神々に対し、ディアンケヒトは青筋を浮かべる。その横ではロキは『やり過ぎやで』と言わんばかりの表情でフィンを睨みつける。

 情報をもたらしたのは間違いなく神々だが、僅かな手がかりからディアンケヒトがやっていそうなことを導き出し、根拠として提示する胆力は()()()()()()()()仕込みであるのが明白だったのだ。

 しかし、どこぞのパルゥム(フィン)としては冒険者が基本的に備わっている『日常の中から異常を感じ取る力』。言い換えるなら()()()()()()()()()()を教え込んだつもりだったのだが、ここまで自分に似た成長をするとは思わなかったのである。

 

 ただ、間違ってもディアンケヒトにこのことを聞かれでもしたら火の粉が飛んでくることは明白。彼に聞こえないよう小声で『パルゥムの血がそうさせてるのかもね』と種族単位の特性がそうさせているような物言いをするフィンを余所に、ディアンケヒトは『ディオニュソスは二日酔いぐらいで検診しておらんから、採血しとらんぞ』とアクスを説得していた。

 

「え、二日酔いでも採血しないの!?」

 

「血中にアルコールを飲ませる真似でもせんかぎり……。いや、この話は帰ってからしてやろうな」

 

「うん!」

 

 当然ながら嘘であるが、神の言っていることと言うことですっかり騙されてしまうアクス。そんな具合に無事に誤魔化せたものの、神々にとって()()()()()()()。格闘技で言うところのジャブである。

 ジャブにしてはボディーによく響く威力ではあったが、ジャブと言えばジャブなのだ。

 

 つまり、()()()()()()()()()()

 

「次に、これは"予約"となるが……。第2次侵攻における死亡者の蘇生を頼みたい」

 

「神ディアンケヒト、それは──」

 

「おっと、アスフィ。それ以上言わないでくれ。"分かってる"」

 

 第2次侵攻は文字通りの総力戦。そして、未だにオラリオを破壊せずに閉じこもっている精霊の分身(デミ・スピリット)の様子から、そこまでしても簡単に勝利を掴むことが出来ないと予想される。

 いったい何人の犠牲者が出るのかは未知数なものの、アクスの寿命が尽きる可能性が大いにある。

 

 しかし、それは『承知の上』だ。

 オラリオは決して無尽蔵に湧く魔石を原料とした製品を売り出す商業都市ではない。

 陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)、そして黒竜。いずれも古代時代にダンジョンから地上に進出した強大な力を持つ3匹の怪物で、その討伐を()()()()()()()()()()()()依頼している。

 

 そのために冒険者たちはダンジョンという命を食らう大穴に飛び込み、中に居る化生を逆に食らうことで自らの器を昇華。やがて『英雄』になることを期待されている。

 

 その最たる例が【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】だ。

 神聖浴場侵入事件や山奥で三日三晩木に吊し上げて「ふたりきりの時間(ハイキングデート)」という重過ぎる行動を始め、主神、眷属共々起こす問題の規模などが大きかったが、彼/彼女たちは間違いなく英雄といえるスペックだった。

 静寂をこよなく愛する超短文詠唱で圧倒的破壊力をもたらす魔導士(?)。食べることで自信を強化する悪食な戦士。さらにはそれらを擁するLV9やLV8。

 既にベヒーモスやリヴァイアサンを討伐した彼らならば、黒竜にも負けない──そう思っていたのだ。

 

 だが……、黒竜には届かなかった。

 

 そんな英雄たちはもうオラリオには居ない。そして、そんな英雄を失ったオラリオにはもう()()()()。厳密に何時だろうとは予想できないが、全知である神々は1から英雄を生み出す時間が無くなりつつあるのをある程度察している。

 そんな中でこのような事件で優秀な上級冒険者の命を差し出すわけにはいかない。ぶっちゃけると、『こんな内乱紛いなことに貴重な英雄候補の命をホイホイ差し出させてたまるか』である。

 さらには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なので、『契約』という名でアクスを縛った方が楽というのが全員の共通認識だった。

 

 そんな思いからロキやヘルメスは、検討に検討を重ね、ひたすら推敲し、時に我慢できなくなったディアンケヒトの癇癪を宥めつつ、ようやく導き出したのが『これ』である。

 もはや、『人身御供』や『アクスを切り捨てる』という罵詈雑言は覚悟の上だと、唇をかみしめたディアンケヒトは再びアクスに要請する。

 

「……やってくれるか?」

 

 規模が凄まじいことから二の足を踏む。もしくはブレイクダンスを決めながら拒否の叫びを上げようものなら、今度こそディアンケヒトは蘇生の話をなかったことにする腹積もりだった。

 それでもアクスはしっかりとした目で。覚悟と勇気という焔を孕んだ目でディアンケヒトを見ながら頷いたことに彼はもう何も言う事が出来ない。

 それもそうだろう。アクスとディアンケヒトはそれこそ数年という人間感覚で長い時間を過ごしてきた間柄だ。これ以上問答をしてもアクスは決して考えを変えないことはよく分かっている。

 つくづく扱いづらい眷属だと力のない毒を吐いたディアンケヒトが後ろに下がると、代わりにロキが今後について話し出す。

 

「ひとまず、アクスのことはこれで終わりやな。話は変わるんやけどフィン、やっぱうちの子らは動かせんか?」

 

 ロキの問いかけにフィンは首を左右に振って否定を示す。

 現在、クノッソス第1侵攻が終わって数時間後。未だに【ディオニュソス・ファミリア】を見捨てて生き残った負い目や後悔に苛まれている真っ只中である。

 暗黒期で耐性がついたらしいラウルが精神的なケアをしてくれているので今は何とかなっているが、ここからさらに動員──ともなれば着いていけない団員たちが出て来て今度こそ【ロキ・ファミリア】の屋台骨を揺るがす事件になりかねない。

 

 ──ともなれば。

 

「ヘルメス、そっちの子らと一緒にちぃっとばかしガサ入れに付き合え」

 

「ガサ入れ? 行先と探して欲しい物を言ってくれれば……」

 

 失せ物探しはヘルメス(の眷属)の得意分野であるため、さっさとオクルスで眷属に連絡を入れて動かしてしまおうと思っていたヘルメス。しかし、ロキから告げられた行先は【ディオニュソス・ファミリア】で、さらには備考としてロキとソーマを連れていくことを言われた途端に彼のポーカーフェイスが崩れる。

 

「ロキ、今更別の神を呼ぶなんてどういうことだ?」

 

「うちもそれは分かっとる。やけど、うちから"酒の神(ソーマ)が作ったやつとは別の神酒(ソーマ)の匂いがする"って言われたんや」

 

 あり得ない。酒の神(ソーマ)以外、地上の誰も神酒(ソーマ)の製造に成功していない。

 そんな()()()神会(デナトゥス)で取り上げないはずはないし、そんなことで市場に流される神酒(ソーマ)の失敗作の流通が途絶えるのを恐れているからだ。

 

 そんな理由からロキの悪ふざけかと思いきや、さらに彼女は酒の神(ソーマ)との会話で『神酒(ソーマ)の種類はワインタイプ』ということを話した途端──。

 

「ワイン……」

 

「んお? どしたん、アクス」

 

 アクスの呟いた独り言にロキは耳聡く反応する。

 しかしながら、今の彼は深く集中することで深い深い思考の湖に身を投じようとしていた。底が見えない程の不快『思考』という名の湖の中心に、神酒(ソーマ)という『きっかけ』が真っ逆さまに落ちていく。そのまま盛大な水しぶきを上げながらそのきっかけは沈んでいき、水面には『記憶』という名の波紋が大きく広がっていく。

 

 ──神酒(ソーマ)だよ。それも出回っている物じゃない()()()()()()さ。試作段階なのか知らないけど、中々強いからね。冒険者でも酔って帰ってこれなくなる。

 

 ──私に眷属なんているわけ……。あー、"結構居た"ねぇ。駄目だね、この歳になると忘れっぽくなって……。あー、ヤダヤダ。

 

 ──簡単よ、魅了を使うの。これなら他者の認識を捻じ曲げることが出来るわ。

 

「魅了だけじゃない……」

 

「は?」

 

「他の人の認識を捻じ曲げることが出来るのは、魅了だけじゃない!」

 

 疎らながらもピースとピースがくっついたことで()()()()()に気付いたアクスは、口を開けながら呆けるロキに先日出会ったペニアのことを話し出した。

 

 ダイダロス通りで出会ったこと。市場には出回っていない()()()()()()神酒(ソーマ)を飲んでいたこと。

 そして……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「フェルズ、今すぐギルドの登記に【ペニア・ファミリア】の名がないかを確認して来てくれ」

 

「分かった」

 

 アクスが居るのでロイマンや他のギルド職員は使えない。ゆえにウラノスはフェルズに指示を出すと、フェルズは上階へ続く通路から祈祷の間を出ていく。そうしている間にも断片ながらも中々に重大(クリティカル)な情報がアクスからもたらされたことで、知恵者2柱(ロキとヘルメス)が再び真犯人を特定するべく話し合いに入った。

 

「たしかに、ソーマ……それも神を酔わせられる代物があれば、ある程度のことは無視できる」

 

「せやな、神でも酔うものを飲ませたら下界の子なんか1発や。認識がおかしなるんは仕方がないで」

 

 酒の神(ソーマ)が地上で作った出来損ないの神酒(ソーマ)もどきでも、一般人どころか冒険者が飲めばたちまち依存してしまう。仮に神ですらも酔わせる代物であれば、それはいくら【耐異常】に秀でた高レベル冒険者でも太刀打ちできない劇物となるだろう。

 

 そこからフレイヤの語った『魅了』を『酩酊』に読み替えてから推理を行う。すると、驚くほどピッタリハマるのだ。

 自身の眷属に神酒(ソーマ)を飲ませ、あたかも未だ【ディオニュソス・ファミリア】の一員だと思わせれば良い。後は適当な神にも同じように神酒(ソーマ)を飲ませた上で改宗(コンバージョン)。いかにも自身が主神であるかのように振舞った上で、ステイタス更新の時だけは主神と適当な神の姿が分からない程度に『酩酊』させれば万事上手くいく。

 

 まさに、神酒(ソーマ)様々。これ1つあれば話は変わって来る、いわゆるところの『銀の弾丸』である。

 それでも、この推理だけでディオニュソスを犯人とするのは、やはり早計。けれどもロキたちの『懐疑』が『邪推』へと変わるのに十分な判断材料であった。

 

「分かった。アスフィ、すぐにルルネに連絡を取って……っ!」

 

「ヘルメス様?」

 

 今まで少々匂っていたのが格段にクサくなったことで、ヘルメスがアスフィ経由でファミリアに【ディオニュソス・ファミリア】へのガサ入れの準備を行わせようとする。ただ、その指示を下す前に彼は目を見開いたまま微動だにしなくなった。

 唐突な反応にアスフィが聞き返すと、その言葉に正気を取り戻したヘルメスが【もしかしたら……】と先ほど気付いた()()を語り出す。

 

「……もしかしたら、エニュオは2柱居るのかもしれない」

 

「ヘルメス、いきなり何言うとるんや?」

 

 神酒(ソーマ)も大概だったが、今度こそ十把一絡げな推測にロキは眉をひそめた。

 それもそうだろう。犯人の数が変わるという前提は、今後何かがあった場合にも適応できる。そのまま『エニュオが3人居た場合、4人居た場合……』といった具合に増えていき、最終的には推理自体が破綻することになりかねないほど()鹿()()()()()()()()

 

 しかし、そんなロキにヘルメスは向かって至極当然のように言い放った。

 

「ロキ、酒には原料が必要だ」

 

「何当たり前のこと言っとんねん。当然やろ」

 

 無から有は作れない。それは下界において絶対の理であり、酒造りにも当たり前に適応される常識である。

 ただ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、当然だ。それで、その原料はどこから調達出来る?」

 

「ワインやろ? やっぱ畑やないんか?」

 

「そうだろうね。ただ、ロキ。"神々を酔わせられるぐらいの酒の原料なんて、どこで手に入るんだい? "」

 

「……おいおいおい、ちょい待ちぃ」

 

 確認するように。だが、1歩ずつ着実に『真実』へ進んでいっていた会話の果てにロキは気付いてしまう。

 

 たしかにディオニュソスはソーマのように酒造り。それもワインという一点においては比類なき力量を持った神である。

 ただ、それは『酒』に置いての話で、『酒の原材料』に関しては他の神々と同じで零能──つまりは門外漢だ。

 

「まさか……」

 

 チャ……プ

 

 遠くから聞こえて来る水滴の音と共にワインの微かな香りがロキの五感に届く。それは推理中にワインのことばかり考えていたことによる()()()()()()()()()()()()、耳障りな音や鼻をくすぐる匂いに『推理に矛盾がないこと』をロキの勘が告げる。

 

「超一流の職人の手に超一流の原材料を渡せる"共犯"が居る」

 

 チャ……ポン

 

 先ほどよりも水滴の音が鮮明になる。ブドウの芳醇な香りと共に鼻の奥から漂うアルコールの匂いに、ロキは濁流の如き記憶の奔流の前に立たされ──やがて手を強く握りしめた。

 

「ヘルメス、予定変更や」

 

「あぁ、分かってる。ガサ入れを行う対象は"2柱のホーム"だ」

 

 淡々と告げながらもロキたちの表情は暗い。

 それもそうだろう。今回容疑者として挙がった()()()()()は計り知れない。今でも『そんなわけない』と何度も否定の言葉が反芻されているのだ。その悲壮感は、とてもではないが計り知れない。

 

「なぁ、アクス。ちょっと聞いても良ぇか?」

 

「はい」

 

 震える声でロキはアクスに──オラリオを駆け回りながら患者と接している関係上、茶飲み話で様々な話を聞いている治療師(ヒーラー)に疑問をぶつける。

 出来るなら何も情報が出てこないで欲しい願いと共に、ロキの口からオラリオを飢えさせないほど広大な農場を市壁の外に保有している豊穣神の名前が告げられた。

 

「"デメテル"に関して何か聞いたことあるか? 例えば……そうやな。変によそよそしいとか」

 

 【ヘルメス・ファミリア】ではなくアクスに聞くことにツッコみが入るかと思いきや、全員は黙ったまま動かない。思いがけない神の名前に全員が息を呑んでいたのだ。

 特に友神であるフレイヤは特に驚いていた──が、対して間を開けることなくアクスは……。

 

「元気がなかったですね。後、団長であるペルセフォネさんをはじめ、収穫が間に合わないほど結構な人がオラリオから一時的に去っています。あ、確か収穫にディオニュソス様も参加していました」

 

「え、なに? いや、なんでそんなに色々知っとるんや? そもそもポンポン都合良すぎひん? ドラ〇もんか? 自分、ド〇えもんなんか?」

 

 こちらの欲しい情報が某青狸のように都合良くアクスから出てきたことで、ロキはひたすら困惑していた。




死神の祝福(ペイルライダー)についてですが、もうこれは宇宙世紀の移民のような感じだと思います。
祈りではなく呪いだった。最初は祝福だった。もしかしたら、忠告なのかもしれない。
ただ、神なので善にもなれば悪にもなる。真実は描写されていないだけで全く違うかもしれない。
まさしく、『神のみぞ知る』というわけで。

なお、死神の祝福(ペイルライダー)ちゃん。おめぇの出番だ!とさっそく使われる模様。
( :◜◡◝ )っ 仕様の穴…抜け道…探し方…検索。

アクス
 なんだかんだで死者蘇生を請け負う覚悟ガンギマリ系パルゥム。
 割とそこら辺ポメポメ歩いているので、割と情報通。
 アクスぅ!内乱もどきのせいで戦力がばったばった死んじゃうよぉ!
 はい、死者蘇生〜。
 アクスぅ!何か情報ない?
 はい、割とクリティカルな情報〜。
 本当に青狸だな、こいつ。

思いだけでも、力だけでも
 え、あのちみっ子が自由に乗るんすか? アミッドがディスラプター承認するんすか?
 舞い降りる剣か、はたまた舞い降りる槍か。

ゴブニュ
 なんであんまり接点のないアクスのこと知ってるのか?
 前に似たような奴でもいたんじゃないですかね。具体的には釣ったのは自分ということで多く食べたことで、喧嘩が勃発したところをどこかの勇者に正座で叱られた仲…みたいな奴とか。

ディアンケヒト
 ブレイクダンスキメながらやだーと言われたらすぐに話を取りやめようとしたため、あまりの躊躇のなさに今後のことを考えた彼の胃は限界を迎えようとしていた。

オーダー!死者蘇生!
 大を生かすために小を切り捨てるーーというと身も蓋もないが、そうしないと後がないのがダンまち世界である。
 むしろ、アクスのおかげで原作よりも優しいまであるんやで。
 なお、アミッド含めたファミリアの心労は考えないこととする。

デメテル
 アクスが誰にも見つけられなかった場合、最終的に行き着く女神。
 多分、鍬持ってヤナト田植唄謡いながら稲作殺法打ち込んで、苗を握りこんで地面に押し付けたら木の槍が生えて来る魔法でも覚えるんじゃないかな。知らんけど。
 ルノアと収穫を手伝いに行った過程で情報がスルっと出てきた。エニュオが聞いてたら(以下略)
 ちなみにフレイヤが居るので今更かもしれないが、デメテルも立場をちょっと変えます。
 助けられるなら、助けないとね--とうちの子が申しております。
 あぁ、お客様困ります。姉と師匠を連れて来ないでください。暴力は何も生みません。

個人事
 先日、『アクス〇そうぜ!』と提案してきた編集長。もとい、友人のところに居るポメを見に行ったんすよ。最近、アクスのことをポメっ子としか見えなくなったんで、ここらで本物を見て格好良いアクスを…と思ったんすよ。
 
 ①もう1匹飼ったらしい初対面の子に向かって握り拳を突き出したら匂い嗅いで5秒で舐めて来るほどの無警戒さ。
  →アクスやん
 ②何考えてるか分からない顔で特に意味もなく爆走
  →アクスやん!
 ③持ち上げてお腹に鼻を近づけたら、そこはかとない良い匂い。これで寝れる。
  →アクスやん!!
 結論:アクスやん!…ということで、今後もアクスはポメっ子になりました。

 ちなみに、死者蘇生をする上で神々の承認として血が必要というのは、こいつのせいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。