ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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110:告解

 まさか、犯人候補と思っていたデメテルがやってくるとは思わなかった神々であったが、いち早く動揺から復活したロキがおっかなびっくりといった様子で尋ねる。

 

「デメテル、ちょい聞きたいことあるねんけど」

 

「ええ、構わないわよ。"エニュオのこと"……とかね」

 

 こういう時は回りくどく聞いた方が良いと相場が決まっているのだが、彼女は自分から本題を切り出した。

 

 その表情は諦めたような……。いや、むしろホッとしたかのように思える。

 そんな違和感を持ちながらも、ロキは話が早いと矢継ぎ早に質問を行っていく。そのすべての質問に対し、デメテルは決して誤魔化すこと無く答えていくという、推理系の劇であればクライマックスのような怒涛の展開にちょっとついていけなくなったヘルメスはそれとなくフレイヤに近づいた。

 

「フレイヤ様、一体どんな魔法を使ったんだい?」

 

「全知零能の私たちが魔法なんて使えるわけないじゃない」

 

「釣れないこと言わないでくれよ。……で、どうやったんだい?」

 

 昨日のやり取りが相当腹に据えかねたのだろう。そっぽを向くフレイヤを何とか宥めたヘルメスであったが、彼女から聞いた方法に頭痛を覚えた。

 その内容があまりにも力技すぎたからである。

 

 まず、フレイヤは自身のファミリアや信者のネットワークで即座にデメテルの居場所を把握することから始めた。

 すると、ヘルメスたちのガサ入れの様子を遠巻きに眺めていた団員からの報告でデメテルの姿はホームに無いという情報を掴んだ彼女は、即座に【デメテル・ファミリア】が経営する店にまで捜査の網を広げる。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()それとなくデメテルの行方を聞き込み調査をしていると、デメテル本神がやって来たのだ。

 場所は伏せるが、そのまま眷属の部屋に宿泊したことを良いことに朝まで厳戒態勢のままで放置。後はファミリアの知恵者であるヘディンに作戦を立ててもらい、デメテルが1人になった所を見計らってからアレンをけしかけたのだそうだ。

 

「それで、そのままここに来たと?」

 

「いいえ、神聖浴場に行ったわ。ほら、タケミカヅチが言ってたじゃない。話し合いは裸の付き合いが1番だって」

 

「……素敵な考えだね」

 

 ヘルメスの脳内では桃源郷が展開されていたが、事態はそう単純でキャッキャウフフな話では済まされなかった。

 早朝であることに加えてアレンの俊足によって人知れず神聖浴場へとデメテルを移送出来たわけだが、実はフレイヤは『自分だけでゆったり神聖浴場を使いたい』という理由でギルドに浴場の貸し切りを依頼していた。

 それも朝っぱらというには周囲が暗過ぎる時分に申請という無茶ぶり。この暴挙にナイトキャップを被りながら対応したロイマンが非常に嫌そうな表情を浮かべたものの、貸し切り料としてかなりの額が包まれた袋を前に恵比須顔になったとか何とか。

 

 こうして大金やファミリアの力により、フレイヤは神聖浴場を独占することが出来た。

 後は悠々と神聖浴場へ赴き、オッタルや幹部たちに入り口を陣取らせることで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と誤認させ、そのままデメテルと人知れず神聖浴場から脱走。そこからは他の団員の先導で地下水路へ赴き、神聖浴場を借り受けるための申請書類に潜ませた『神聖文字(ヒエログリフ)かつ回りくどい言い回し』通りに待機していたフェルズの手引きで祈祷の間へとやって来た……というわけだ。

 

 再び言うが、これらはかなり力技だ。

 しかしながら、フレイヤは傍若無人に振舞うことが許される力を持った女神でもある。ゆえにヘルメスは内心で『フレイヤ様だしなぁ』と割かし納得していると、デメテルへの聴取が終わったロキが彼女を伴って話に加わって来た。

 

「ロキ、どうなんだい?」

 

「灰色。それも限りなく白に近い。眷属を盾にされたら従うしかないわ」

 

 大半を『無』で塗りつぶされ、感情といえる存在が辛うじて残っている程度の顔をするデメテル。その痛ましい様子を同情的に見つめていたロキは、今回の首謀者──エニュオと呼ばれる神の正体が『ディオニュソス』であると告げた。

 

 デメテルが何よりの失敗したことは、『単独』かつ『深入り』し過ぎたことだった。

 ラキア王国が宣戦布告をしてきた頃。ディオニュソスの様子がおかしいことに気付いたデメテルは、彼を人知れず尾行したりなど探りを入れていた。

 ここで情報戦であれば頼りになる【ヘルメス・ファミリア】や治安維持を担う【ガネーシャ・ファミリア】に通報すれば良かったが、神ゆえの傲慢さから独自で調査をし──不用意な真似をしたことで芋づる式にバレてしまった。

 

 その代償が眷属である。

 神は自らの眷属を認識できる。手元にある誰それの魂なのか、先ほど自分の手から離れて天へ昇ったのは誰なのか。それすらも神は手に取るように把握することが出来る。

 

 ただ、今回に限ってはそれが良くない方向に転がってしまう。

 

「要求を拒んでも、止めてと叫んでも……。"あれ"は眷属を殺し続けたわ。殺して、殺して。私の中で何かが壊れるまで何人も、何人も殺したの」

 

 目を閉じれば鮮明に思い出す真っ赤な記憶。永久に等しい神的に人類は輪廻転生を経ることで何十──何百年という()()()に生まれ変わり、再び出会うことのできる生物だ。

 しかし、それを免罪符に殺戮を許容できるのは一部の邪神のみ。特に慈愛の女神でも知られるデメテルにとって眷属が成す術無く殺戮される光景は、彼女の精神に大きな負荷を与えた。

 

 そうして丹念に──丹念に。反抗の意思が芽生えないよう徹底的に心を破壊したディオニュソスがデメテルと無理矢理交わした契約。それは『黙っていること』だった。

 闇派閥(イヴィルス)のように誰かと戦わなくても、ヴァレッタやアサシンたちのように誰かを殺めずとも良い。

 ただ、口をつぐんでオラリオが崩壊する様を見届けること。それがディオニュソスが求めた条件であった。

 

「連れて来られたのもあるんやけど、そんなペラペラ話して平気なん?」

 

「大丈夫、減ってないわ。一瞬のことだったもの」

 

「アレンのおかげね。後で褒めてあげなきゃ」

 

 オラリオ1の俊足は伊達ではない。おそらくディオニュソスやその傀儡から見れば、デメテルはいきなり消えたに等しいだろう。

 それに、仮にその姿を捉えられたにしても神聖浴場に潜入など出来るわけがない。()()()()()()()()()()()()()()()ならいざ知らず、屈強な強靭な勇士(エインヘリヤル)たちの包囲は鉄壁で盤石だ。

 加えてそこに突っ込んだとしても彼女たちは既に祈祷の間へと移動しているため、全くの無駄骨という訳である。

 

「事情は分かった。今まで辛かったね」

 

「いえ、私も眷属とオラリオを天秤にかけてしまったの。邪神と呼ばれても仕方のないことだわ」

 

「アホ抜かせ。んなので邪神認定されたら、アパテーやアレクトはどうなんねん」

 

「あら、懐かしい名前ね」

 

 大抗争に参加した闇派閥(イヴィルス)の武闘派ファミリア。その主神の名前にフレイヤは反応するが、顔を伏せて泣いているデメテルに深く息を吐く。

 そして、ヘルメスに1言──『アクスの寿命は?』と尋ねると、彼は慌てて数本の小瓶を取り出した。

 

「あぁ、忘れてた。さぁ、アクス君。背中を見せるんだ」

 

「お姉ちゃんから背中は見せるなって言われてるから駄目です」

 

「アクス・フローレンス。ディアンケヒトから既に許可を取ってあるゆえ、心配するな」

 

 ディアンケヒトから連絡を受けていたウラノスの援護射撃により、アクスは大人しく背中を見せる。その小さな背中に刻まれているであろう『残弾』を想像したヘルメスがぐっと息を詰まらせながらも開錠薬(ステイタス・シーフ)を1滴垂らし、複雑な指の動きでアクスにかかったステイタスのロックを外していく。

 

「よし、解けた。さて……」

 

 碑文を髣髴させる文字群が浮かび上がったことを確認したヘルメスは、ステイタスを斜め読みしていくと──あった。

 

──────

 ・代償が寿命よりも大きい場合、術者の魂は消滅。術者に関する記憶も消滅する。

  L後 101.5年

──────

 

 101.5年。昨日見た時より半年は減っている計算だ。

 棺を確認させたが、ハシャーナの遺体が無いことから遺体を再利用したのだろう。それを加味しての減少率なのか、それともデフォルトの減少率なのかについては検証が足りないものの、ヘルメスの所感でこの減少率は多いか低いかではなく『いやらしい』と断じた。

 

 遺体込みで半年と仮定すれば、おおよそ200人分。アクスの善性を考慮すればすぐに寿命は尽きてしまう人数だ。

 そして、蘇った存在が多ければ多い分だけその『半年』の代償が重くのしかかる。『自分が生き返らなければ、目の前の子供が半年生き永らえることが出来た』などといった後悔を胸に、蘇ることで生まれた余生を生きていくのだ。

 これが『いやらしい』と呼ばずしてなんというのか。ヘルメスは歯噛みすると共に、キークスの棺を見やる。

 

(合意は取ったが……。蘇生させるべきか?)

 

 ディアンケヒトの苦々しい顔を思い出したヘルメスは、今更ながらキークスの蘇生に躊躇する。先ほどの事例を参考にすればハシャーナと合わせて1年。アクスの寿命から削られる計算だ。

 神でいう1年など呼吸している間に終わってしまうほど刹那的だが、下界の子供の感覚では短いようで長い絶妙な時間である。

 それを他派閥が使っても良いのか。既に合意を取ったものの、ヘルメスは最終的な意思決定を中々出来ずにいた。

 

 ヘルメスがそんなことを考えていると、彼の目をアクスがじっと見ていることに気付く。

 

「どうしたんだい?」

 

「キークスさんたち生き返らせるよ?」

 

 子供らしいあどけなさで重量級の確認をしてくる治療師(ヒーラー)に、ヘルメスはメレン湖よりも深いため息をつく。本当に寿命の希少性を別っているのだろうか。……いや、『分かっている』いるからこそなのだろう。

 長年の付き合いや言動からアクスの自己肯定感の希薄さはかなりのものだ。その謙虚さはむしろ、『なんで冒険者になった』とツッコみを入れたい程である。

 そんなやつが他者より自分を取るわけがない。そうなることが分かっていたからこそ、首輪代わりに契約を結んだ。

 とはいえ、ヘルメスにだって恩義を感じることも、情を持つこともある。『寿命』という重さを改めて自覚した彼が珍しく怖気づいていると、アクスが何も言わずにキークスの棺に近づいていく。

 

「待ってくれ!」

 

「?」

 

 声を大にしてアクスを制止させたヘルメス。その表情は苦悶という他なかったが、やがて彼は歯を食いしばると──。

 

「キークスとホセ。ポットとポックの蘇生を……頼みたいっ! これは、神である俺からの依頼だ!」

 

 消え入りそうな声でヘルメスは改めて『神として』蘇生を懇願する。強く握りしめた手から、彼が葛藤に葛藤を重ねたことが見て取れる。

 すると、そんな彼らのやり取りを呆然と眺めていたデメテルに、フレイヤは彼女にそっと近づいて『貴女も決めなさい』と助言を送った。

 

「え?」

 

「あの子は眷属を蘇らせることが出来るみたい。理不尽に奪われた貴女の眷属を取り戻せる唯一の手段よ」

 

 フレイヤからもたらされた福音により、デメテルの目に光が灯る。まさに蜘蛛の糸……なのだが、相手が友神であっても『神』。冗談の類で他者を騙すこともあり得るし、なによりヘルメスがあそこまで苦悩するのは見たことがない。

 よって、彼女はしばらく黙った後にフレイヤへ尋ねた。

 

「デメリットがあるはずでしょう?」

 

「そうね。でも、すぐに分かると思うわよ」

 

 論より証拠とフレイヤが指をさす。そこでは既に1人目の蘇生が行われていた。

 ハシャーナの時と同じく光の帯が徐々に人の姿となり、そこに魂が吹き込まれる。そうして光が徐々に弱まっていった後、目を覚ましたキークスは自身の身体を調べながら明らかに動揺していた。

 その後はハシャーナの時と同じ。自身が真っ裸であることに奇声を上げた彼に『性別が逆』と冷静にツッコみを入れたファルガーが大きな布をキークスにかけ、『後で全員に話してやる』と言いながらヘルメスに合図を送る。

 その合図にヘルメスは深く頷くと、精神力回復薬(マジック・ポーション)を飲み干したアクスが子供特有の先走りで次の蘇生を行おうとする所に待ったをかけた。

 

「ちょい待ち。アクス君、ディアンケヒトも言ってただろ? これは検証の意味合いもあるんだぜ」

 

「あい」

 

 分かっていないような返事をしながらアクスは再び背中を見せる。ヘルメスは生唾を飲み込みながら露わになっているステイタスをじっくり見る。

 

──────

 ・代償が寿命よりも大きい場合、術者の魂は消滅。術者に関する記憶も消滅する。

  L後 101年

──────

 

 0.5年。やはり、遺体が存在する場合は半年の寿命が代価となるみたいだ。

 他にも遺体の損傷具合や欠損具合によって寿命の有無を調べたい気持ちはあったものの、それはもはや人体実験よりも悍ましい行為である。ゆえに好奇心をぐっと抑え込んだヘルメスは、続けてホセ──遺体が無い冒険者の蘇生を頼んだ。

 

 蘇生し、背中を見て、また蘇生をする。間に精神力回復薬(マジック・ポーション)を挟みながらそのサイクルを繰り返したことで、多少時間はかかったが全員の蘇生が完了した。

 寿命の推移はそれぞれ100年──99年──98年と1年単位で減っているため、遺体が無い状態での蘇生はその分寿命が必要なのだろうという結論に至ったヘルメスが1人で納得していると、キークスと同じく大きな布を羽織ったポックたちが不思議そうに尋ねて来た。

 

「なぁ、ヘルメス様よ。俺たち、自爆して死んだはずだぜ?」

 

「俺も、あの花みたいなモンスターに食われて……」

 

「俺は……」

 

「すまない、ハシャーナ! お前を腹上死と言ってしまった!」

 

「うぉいっ! ……まぁ、似たようなもんか」

 

「そろそろ説明しよか。実はな──」

 

 契約分の蘇生が完了したことで、ハシャーナを含めた5名にヘルメスやロキからの説明が入る。時折、猥談が混ざったり、それを聞いたアクスが近くにいたフレイヤとデメテルに『腹上死ってなに?』とぶっこんだことで諸悪の根源(ガネーシャ)がシャクティに説教されるといった事態はあったものの、全員がアクスの蘇生魔法で生き返ったことが共有される。

 

 初めこそおとぎ話でも中々ない魔法にハシャーナたちは面食らうが、その代価──寿命のことについて話すと目の色を変えた。

 

「アクス! お前、なんてことしたんだ!」

 

「そうだ! 【剛拳闘士】はまだ良いが、俺たちなんてパルゥムだぞ! 明らかに寿命に見合ってねぇ!」

 

 特に寿命が3桁から2桁まで減ってしまったことが効いたのか、ハシャーナたちが蘇生させたことに文句を言い出す。蘇生してもらった立場で言うのも変なことを言っていることは彼らも分かってはいるが、それでも言わんとしていることは神々もよく分かっていた。

 

 ただ、その怒りに対してアクスだけは()()()

 

「うるさい! 僕は! 神様たちから与えられた物を全て使って、皆を笑顔にしたいんだ!」

 

 いつもの人懐っこい笑みから一変。文句を言ってきたポックたちをかみ殺さんばかりの眼差しと荒っぽい口調に全員が目を見開く中、彼は独白を続ける。

 

 今、この瞬間にオラリオが消し飛んで全てが水の泡になる可能性がある。この寿命を使った蘇生が一気に無に帰してしまう可能性がある。そんな心配や恐怖を胸に秘めている自覚も当然あった。

 しかし、()()()()()()()

 アクスも別に寿命という代価を甘く見ているわけではない。ところが、様々な場所に首を突っ込んだこともあってか状況のマズさは人一倍感じていた。

 

 だからこそ、自らとオラリオを天秤にかけ──()()()()()()()()

 戦力が足りなければ、天から引っ張ってくれば良い。悪だくみする神(ヘルメス)の手が足りなければ、彼の血を分けた眷属を天から引っ張ってくれば良い。

 亡くなって直近の魂以外は霞の中に手を突っ込むかのごとく手応えが無かったのは残念だが、こうして5人の戦力かつ手勢に自身の寿命を使ったことに関してアクスは後悔していない。

 

 それに、蘇生は代償含めて分かった上で選んだ道だ。

 決してこれから選ぶのではない、()()()のだ。いくら賛辞を受けても、罵られても、糾弾されても──。

 アミッドや自分の胸に抱いた『全ての傷を癒す信念(ティル・ナ・ノーグ)』から目を逸らす理由にはならない。

 

「ハシャーナさんはその戦闘力でフィンさんたちを助けてください。【ヘルメス・ファミリア】の皆さんは、裏方に秀でている方々だとヘルメス様やアスフィさんから聞き及んでいます。だから、お願いします。僕じゃ無理なことを代わりにやってください!」

 

「お前の代わりに……か。分かった! 俺は市民を守ることや戦う事しか出来んが、お前の代わりに成し遂げて見せよう」

 

「【剛拳闘士】!」

 

「そんなに叫ぶな。俺個人の主観だが、冒険者にとって大切なことは"いい神に巡り合えること"と”運”だと俺は思っている。言いたいことは色々あるが、それを蘇生された身で言うのも烏滸がましい。今回は運に恵まれた──そう思おうじゃないか」

 

 運が良かった。まさしくその通りで反論の余地もない言葉に全員が何も言えなくなると、今度はフレイヤが話題の中心に上がる。されど、彼女は視線を集めるだけ集めてから横にいたデメテルに『さぁ』と言いながら脇にどいてしまった。

 無理矢理梯子を()()()()()()()()()デメテルは、咄嗟のことに押し黙ってしまう。すると、そこにヘルメスがいやいやながら彼女に最後通告のようなものを叩きつける。

 

「デメテル。君が1番分かっているだろうけど、時間がない。蘇生するかしないかはこの場で決めてほしい」

 

 何度も言うが、デメテルには長居する時間はない。さらに言えば、こうやって神々相手に面と向かって話し合うタイミングもこれが最初で最後であろう。

 されど、下界の子供をこよなく愛する彼女にとってこの選択肢は断腸どころかその身を引き裂くに等しかった。

 

 すると、そこにアクスが立ち上がる。彼はデメテルに近づくと、いつも通りの人懐っこい笑みを浮かべながら蘇生を提案してきた。

 

「でも、あなたが……」

 

「デメテル様、貴女が居てもらわないと困ります」

 

「えっ?」

 

「貴女"たち"が居なければオラリオは飢えて滅ぶ。それに、貴女には泣いているよりも笑っていてもらいたいんです」

 

 何も知らなければ勘違いしてしまいそうなセリフのオンパレード。近くで聞いていた何も知らない勢は『あれ、なんでこいつ口説いてるの?』といった空気が流れ、アクスの裏に潜む天然ジゴロの化生共(ミアハとタケミカヅチ)のことを知っている神々は、『相変わらず教育に悪いわ(ね)』と宇宙の真理を悟った猫のような表情を浮かべた。

 

「……もう、勘違いしちゃうでしょ?」

 

「勘違い? なにか、認識の祖語でも? 僕は言葉通りに言ったつもりですけど」

 

「もう良いわ。ありがとう、おかげで背負う覚悟もディオニュソスと戦う覚悟も出来た。本当に申し訳ないけど、お願いできる?」

 

 アクスの背後に居る唐変木たちの影が強くなった気配にデメテルも内心『心臓に悪い』と思いつつも、先ほどの虚ろな目から一転。決意が籠もった目でアクスに蘇生を依頼する。

 

 その言葉にアクスは頷いて精神力回復薬(マジック・ポーション)を煽っていると、ロキが待ったをかけてくる。どうやらヘルメスが蘇生に関しての情報共有とデメテルの眷属の蘇生についての最終的な許可をオクルス越しだがディアンケヒトに尋ねており、その間に蘇生させた所感を聞きたいらしい。

 

「アクス、蘇生対象は選べるんか?」

 

「選べるとはちょっと違います。神血(イコル)から流れてくる想いに従ってるので」

 

「そうなると、強く願えばその人物が蘇る感じか?」

 

「そうですね。ただ、帯の状態であればある程度動かすことは出来ましたが、それ以上──人の姿に戻すのは不可能そうな気配は多々ありました」

 

 ロキの質問にアクスは丁寧に答えていく。

 先に何度か蘇生魔法を試したことである程度の手ごたえを感じたアクスだが、()()()()()()()──厳密に言えば『この帯はまだイケそう』や『この帯は駄目』という2パターンの異なった手応えを感じていた。

 前者はハシャーナやキークスといった実際に蘇生した面々。後者はガネーシャやシャクティが注目していた青色の帯(アーディ)。そこからフィン仕込みの合理的な判断から察するに、この手ごたえの違いこそがスキルにあった『死して久しい者の蘇生は不可能』という境界線ではないかとアクスは説明する。

 

「なるほどなぁ。けど、1人やと確証には至らんで?」

 

「いいえ、"2人"です。アーディさんの時と同じくリディスさんの魂も感じたのですが、やっぱり無理そうな気配を感じました」

 

「そうですか、あの人は無理でしたか」

 

 暗黒期に散った【ヘルメス・ファミリア】の前団長。LV3である彼女が蘇生されれば心強いと考えていたアスフィは肩を落とすと、それを見かねたファルガーが珍しく彼女の頭を小突く。アスフィ以上に古参だった彼も色々あった上でアスフィを信頼しているため、『団長はお前だろ』といった無言の苦言に彼女は咳ばらいをしながら『失礼しました』と謝罪する。

 

 そんな蘇生魔法についてのやり取りを行っていると、ややげっそりしたヘルメスが戻ってくる。彼が言うには色々言われたらしいが、最終的に3人までの許可を取り付けたらしい。そこにはもちろん『アクスとデメテル双方の合意があれば』という条件はあったが、既に双方共覚悟は決まっているためにすぐさま蘇生が行われた。

 

「デメテル、眷属はクノッソスに閉じ込められているという認識で良いかい?」

 

「そうね。場所は分からないけど、ディオニュソスは律儀に私が何かを起こしたタイミングで1人ずつ殺してる。ロキの話を聞く限り、緑肉が入り込まない場所に隔離してるんじゃないかしら」

 

「なら、直近の子供らはバレる可能性があるな。脅された時に死んだ子供らの内で食われたのを対象に3人……で、どないや?」

 

「ロキ、私からも良いかしら?」

 

 遠い地に死体があった際はそれを用いるかについては分からないが、何事も最悪。今回の場合は『捕らえていた【デメテル・ファミリア】の眷属の死体が勝手に消え、相手に勘付かれる』という事態を防ぐためにロキが蘇生対象について指示を行うと、そこにフレイヤが口を挟んでくる。

 話をあまり聞いていないくせに強引な割り込みにロキが口を尖らせながら話を促すと、フレイヤは()()()()()()()()()()()()と新たな指示を出してきた。

 

「どうして?」

 

「あなたたち、忘れてるでしょ? 【デメテル・ファミリア】の主な眷属は全員捕まっているのよ? それが数人とはいえ外に出たと知ったら……どうなるの?」

 

 フレイヤの言う事はもっともだ。

 【ヘルメス・ファミリア】は元々情報収集が主な裏方だし、【ガネーシャ・ファミリア】はかなりの大所帯であるがゆえに蘇生された事実がバレにくい。ただ、戦闘能力が皆無で退避場所がない【デメテル・ファミリア】はそうはいかない。

 そうなると『蘇生を見送るべき』という選択肢が浮上する……が、それをデメテルに伝える前にフレイヤが『豊穣の女主人に臨時的に雇ってもらいましょう』とロキたちが考えもしなかった選択肢を挙げてくる。

 

「いけるんか?」

 

「神聖浴場に戻らなきゃいけないから、ひとまずガネーシャのところに匿ってもらいたいんだけど。いけそう?」

 

「別に俺のところでも構わんが、本当に受け入れてもらえるのか?」

 

「ミアに話せば協力してくれるわよ。それにあそこ、かなり激務で……。人の手も借りたいって言ってたわよ、たしか」

 

 かなり実感が籠ったような言い方だったが、仮に受け入れてくれるなら渡りに船である。かのミア・グランド(LV6)の居城であれば、滅多なことでは連れ去られるといったことはないだろう。

 そんなこんなでとんとん拍子に心配事はすべてクリアされ、さっさとデメテルの選出した3人の眷属が蘇生される──というのも、本当に時間がないのだ。

 

「デメテル、そろそろ帰らないと怪しまれるわ」

 

「グスッ……、そうね。でも、私はこれから何をしたら良いのかしら?」

 

 眷属たちとの涙ながらの抱擁もそこそこに、フレイヤは神聖浴場に戻ることを提案してくる。

 いくら長風呂でも神聖浴場を抜け出してかなり経ってる。そのため、彼女の提案に同意を示したデメテルであったが、黒幕であるディオニュソスと戦うために何をしたら良いのか見当がついていなかった。

 

 しかしながら、その点に関しては流石はトリックスター。ロキがデメテルに『何もしないこと』を告げる。

 

「なにもしない……。ディオニュソスと同じような指示だけど、それで良いの?」

 

「逆に動いたら眷属殺されるんや。それなら素直に従った振りしといた方が良ぇ」

 

「そうだね。主犯の正体とデメテルが身を隠そうとしている場所。後、気になったことがあればこれで合図を送って欲しい」

 

 そう言ってヘルメスは双翼の魔道具(マジックアイテム)の取り出し、その片翼をデメテルに預ける。作成者のアスフィが言うにはこの魔道具(マジックアイテム)は片翼を砕けばもう片方に光が灯る仕組みのため、秘密で合図を使うのに最適とのこと。合図が出次第、デメテルが身を隠そうとしていたファミリア所有の貯蔵塔に透明になった【ヘルメス・ファミリア】の団員が向かう手はずだ。

 

 散々礼を言いながらデメテル達が元来た道を戻っていき、ガネーシャは一旦ホームへ【デメテル・ファミリア】の眷属を護送するためにシャクティたちと出て行く。

 次にアスフィはアクスに装着者の見た目が変わる鎧を渡すと、ハデス・ヘッドという魔道具(マジックアイテム)を全員に配ってから移動をし始める。

 なんでもこの後、全員で18階層にある酒場で『飲み残し』を頂くらしい。全員が嬉しそうな顔でハデス・ヘッドの効果で透明化。足音のみが遠のいていった。

 そうして最後にアクスとユーノたち異端児(ゼノス)組が別の出入り口から出て行ったことを見届けたヘルメスとロキとウラノスは、ようやく今回集まった用事が全て終わったことに疲労困憊といった様子で重苦しい息を吐く。

 

「あの色ボケもたまには役に立つな。……それよりも、自分。本気でデメテル信用してるんか?」

 

「情報については信用はしているよ。信頼はしてないだけさ。だから、合図が来ても安全マージンを取らせてもらおうかなって」

 

 あれだけ涙ながらに訴えたデメテルの姿を見ても、100%信頼するに値しないというのが何ともヘルメスらしい。ロキはそう思いながらも今後の動きについて纏めていく。

 

 未だ『オラリオを崩壊させる具体的なプラン』が分からない。デメテルも知らないと来れば、後の手がかりは『レフィーヤが見たとされる壁画』のみだ。

 大図書館なり、ギルドの資料なりで情報をかき集めなければ全容もつかめないままゲームオーバーになりかねないため、そこの調査については【ロキ・ファミリア】(自分たち)が担うことに決める。

 

「良いのかい?」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】程やないけど、うちも結構な大所帯や。人海戦術なら任しとき。ウラノス、ギルドの資料とかうちの子らに見せるよう手配しといて」

 

「分かった、ロイマンや職員に伝えておこう」

 

 調査する上でのお膳立てを依頼し、これにて今回の用件が全て終わる。振り返ればかなりの収穫だったことに機嫌よく退散しようとしたが──。

 

「アクス君にどうやって恩を返そうか」

 

「ヘルメス、それはうちも思っとるから言わんといて」

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】の税率を数年ほど抑えるべきか?」

 

『ディアンケヒトだけが喜びそうだから、止めといた方が良いよ(やから、止めといた方が良ぇで)』

 

 なにより、昨日の今日で主犯は明らかになったのは大きい。それもこれもアクスの貢献が大きいので、真面目にそろそろ恩を返しきれなさそうな悪寒がしたロキたちであった。




最近のランキング見てると5000とかが多いから、文字数削減しようと頑張ったのにこれだよ! 
疲れた時に後回しにされやすいって聞くし、せめて8000目標で週2とかでやりたい(ただの願望)。
とりあえず、あとがきの多さ含めて色々試行錯誤してみようと思います。

フレイヤ様のパーフェクトデメテル拉致作戦
 ①眷属や信者にデメテルの居場所探らせて、自分も調査してたらデメテルがのこのこやって来た(デメテルは気付いていない)
 ②助けてヘディえもんした結果、ヘディバンニが1晩で作戦を立ててくれました。
 ※フレイヤが神聖浴場レンタルの申請を出したのもこのタイミング。
 ③早朝も早朝。人知れずオラリオの外へ出て行って少ししたタイミングでアレンがデメテルを拉致。そのままトップスピードで神聖浴場へGO。
 ④オッタルたちを見張らせながら悠々とフレイヤが神聖浴場に赴く。
 ⑤少し話をした後にヴァンたちやヘイズたち、後は信者の店などの協力で地下水路へ。そこからはフェルズの魔道具(マジックアイテム)と手引きで祈祷の間へ。

 力技以外何物でもないが、フレイヤぐらいにしか出来ない芸当。
 なお、見張っていた某片割れ(諸事情でステイタスが低い状態)の目にはいきなりデメテルが消えたが、果実を持ちながら近くの森から出てきたので、『オラリオの外だからまぁえぇやろ』と判断。

アクスの蘇生についての追加情報
 遺体が近くにある場合、それを魔力に還元するために寿命は0.5年据え置き。遺体が無い、もしくは遠方にあった場合は1から肉体を作るので減少する寿命は1年据え置きとなる。
 なお、肉体の損傷率はいちいち考えるのがアレなので、全体の50%以下の場合は1から。それ以上は遺体があった場合と分類する。

ヘルメス・ファミリアの飲み残し
 黄金の穴蔵亭の1幕(酒場(フォアラック))参照。この後、ゲン担ぎとして半分残した状態の酒瓶が空になったとか。

駆け足気味じゃね? 
 実はもう1話予定だったけど、文字数削減の観点やいつまでも祈祷の間というのもダレるという個人的判断で泣く泣く削除。断腸の思いってこういうのを言うんだね!
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