ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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【計画を壊すもの】(ラーズグリーズ)】編 おいでよ、異端児(ゼノス)の里の章
111:異端児たちの医療改革


 敵の首魁がディオニュソス。さらには独自調査を行ったことで、デメテルの眷属たちが人質に取られているという情報をクノッソス第1次侵攻が終わってすぐさまという異例の速さでキャッチしたロキたち。しかし、そんな快挙とは対照的にお通夜状態のファミリアがあった。

 言わずと知れた【ディアンケヒト・ファミリア】である。『アクスが生きている』という情報をディアンケヒトはしっかりと握ってはいるが、アミッド含めた団員たちには『アクスとの繋がりが消えた』と嘘を言っていたからである。

 それもこれも大儀──闇派閥(イヴィルス)の残り滓ともいうべきこの戦いを有利に進めるため。そう決心したはずだが、日増しに重くなっていく雰囲気に彼は『もうバラしてしまいたい』と早くも音を上げ始めていた。

 

***

 

 一方、そんな最悪の空気を作り出した原因である我等が暴走治療師(ヒーラー)のアクスはというと……。

 

「オ前は!」

 

 ──ボン

 

「今ノ立場が!!」

 

 ──ボン

 

「分かっテいるノかァ!!!」

 

 ──ボォン

 

 ダンジョンの奥深く。異端児(ゼノス)と呼ばれる喋るモンスターの隠れ里の中心で、アラクネの怒号が轟く。彼女が声を上げる度に天井から吊るされた白い繭──糸でぐるぐる巻になったアクスを人型の方の腕で殴りつけていた。

 強化種である彼女の打撃は下級冒険者であれば戦闘不能に近いダメージを負うほど鋭かったが、彼女の出した糸の弾性や着込んだ鎧という防具に阻まれたことで全くノーダメージ。さらにはLV3ということで、アクスは特に怖がることもなく繭にしがみ付いているウィーネやアルルと一緒にキャッキャと笑いながら揺れていた。

 

「フェルズ、オレっちの目には遊んでる風にしか見えないんだが」

 

「具体的には母親に遊んでもらっている……だな。昔、近所の遊び場で似たような親子を見た」

 

「そコぉ! 煩イぞ!」

 

 アクスたちの様子を見ながらしみじみ語っていたフェルズたちの会話に割って入った彼女は、一旦落ち着くために息を吐く。ラーニェがこうして怒っているのは、ひとえにアクスの行動が原因であった。

 

 異端児(ゼノス)は基本的に1か所に定住せず、ダンジョン内にある『隠れ里』を転々としなければならない。ゆえに移動が多く、その度に冒険者に見つからないように気を張る必要性があった。

 なのにこのパルゥムは、傷ついた冒険者を見かければ()()()()()()とする。その度にラーニェに捕獲され、ユーノに首根っこを咥えられ、挙句の果てには最年少のウィーネにまで諭される始末。その積み重ねが『今』というわけだ。

 

【戦場の聖女】(デア・セイント)や彼の主神の苦労が分かるな」

 

「あぁ、あいつの言ってたねーちゃんか。確かに苦労してそうだな」

 

 寄り道大好きな小型犬の躾が行き届いていないことに憤るのではなく、むしろ()()()()()()()()()()()()()()()ということに地上に居る【ディアンケヒト・ファミリア】に同情の視線を送るフェルズ。すると、ようやく折檻を終えたのか、ラーニェがアクスに巻き付けていた糸を解いて自由にしだす。

 もはや『遊んでいた感』が否めないのだろう。もう1度、気苦労が籠った息を吐き出したラーニェは『少し休む』と言い残してフラフラと奥へと行ってしまった。

 

 そんな彼女の後姿にアクスが『疲れてるんですかね?』と自覚ゼロな発言をしたことでフェルズをちょっとイラッとさせるものの、それすらも気付かずにユーノの胴体に固定していた荷物を降ろしては中身を検品し始める。

 包帯に消毒液に回復薬(ポーション)といった医療品に、調味料や調理道具といった雑貨品。次々とバックパックから取り出しては目盛りのようなものを付けていく彼の姿に、フェルズは疑問を浮かべた。

 

「アクス・フローレンス。何をしているんだ?」

 

「1回の量の目分量を書いてます。補給もままならないでしょうし」

 

 いくら【ディアンケヒト・ファミリア】所属でもアクスは冒険者。『ダンジョン内に滞在する上で注意すべきこと』に関してはちょっと怪しいものの、一応頭に入っている。

 

 そんな数ある注意の中で1番やってはいけないのは、物資の枯渇だ。

 回復薬(ポーション)は言わずもがなだが、消毒するための蒸留したアルコールや傷口を圧迫するための包帯はあるのとないのとでは怪我の治りは段違いだし、感染症からの合併症を未然に防ぐには無くてはならないものである。

 調理道具や調味料にしてもそうだ。医療品や食料品と違って優先順位は下がるが、これが無ければ適当に火を起こして味付けが薄いか()()()()()()を堪能するしかない。

 どちらにしても集団であれば士気は下がる。個人にしてもやる気という原動力がみるみる減っていくのは火を見るよりも明らかだ。

 

 そんなわけで無駄遣いを避けるため、1回1回の使用量をあらかじめ決めておくことは肝要である。特に遠征でさらに深い階層を潜る者たちにとって、それは文字通り生死を分けることだとラウルやアキが教えてくれた通りにやっているアクスはなんら悪くない。

 

「いや、言ってくれればすぐに取りに行くが?」

 

「まぁ、上手く調達できないこともありますし。一応ということで」

 

 ただ、それは()()()()()()()()()()()()の話。自分とアクスの認識がかなり乖離していることにフェルズは首を傾げた。

 フェルズや異端児(ゼノス)たちにとってアクスは『お客様』である。それも異端児(ゼノス)に対して友好的で、あの【ロキ・ファミリア】の団長に力を示したことで地上からダンジョンに戻る綱渡りのような作戦に『ゆとり』が生み出した、まさに恩人ともいえる存在。

 そんなアクスが『物資が欲しい』と言えば、フェルズなどがあの手この手で引っ張って来る──というか、アクスの性格から無駄な物は強請ってこないと分かっているので『絶対持って来る』。そんな認識を持っていた。

 

 そんな具合に話をしながら調理器具や持ってきた食材などを確認していると、1匹のラミアが近づいて来る。

 

「どうしました?」

 

「地上ノ人、こレはなんですカ?」

 

「折り畳み式のナイフですが、珍しいですか?」

 

 パチンと刃先を展開すると、ラミアが驚きながらも首を何度も振る。話によると異端児(ゼノス)の食べる食べ物はダンジョンに自生している物か、冒険者から奪った保存食や保存を重きに置いた調味料ぐらいしか見たことがないらしい。

 調理器具にしてもそうだ。どれもこれも原始的な物で、なんでも鍛冶に興味を持った異端児(ゼノス)が真似事で作った物らしく、アクスの持って来た物は相当珍しかったようだ。

 なので、手に持っていたものを説明しては荷物整理をしていたのだが、気付けば異端児(ゼノス)たちが続々と集結して来ていた。

 

「地上の人、コの粉ハ何デシょウか?」

 

「アクス殿、コの赤い調味料ハ?」

 

 異端児(ゼノス)は地上に憧憬を抱く者が多く居るが、その『欲』は多種多様だ。

 例えば先ほどのラミア──ラウラは料理や服飾といったことに興味を持っているらしい。他にもハーピィのレイのように歌に興味がある者。知識に目がない者。さらには『地上文化全て』という剛の者さえ居る。

 そんな者たちの前に『故あって行動を共にする地上の人間』を放り出したら……まぁ、()()()()わけだ。

 

「お前たち、そんなに詰め寄ったら驚かれて……」

 

「あぁ、構いませんよ。こっちは小麦という植物を粉にしたもので、地上ではこれに水などを加えて捏ねて焼いた物がよく食べられています。こちらはトマトという果実を潰してから香辛料で味付けした物で、料理の仕上げに使います」

 

 スラスラと質問に答えていくアクス。多種多様なモンスターたちに囲まれるという人類側からしてみれば死を連想するしかない状況にも拘らず、そんな表情が出来ることにフェルズが驚愕する。

 しかし、フェルズは本当の意味でアクスを──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を知らなかった。

 

 オラリオでオギャーと生まれてから幾度となく怪物祭(モンスター・フィリア)を見てきたことから、アクスにはモンスターへの耐性は十分すぎるほどついている。さらに彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に加えて『名誉などそこらの犬に食わせろ』な考えを持っていた。

 よって、『違うところもありますけど、最終的には個人がどう思うかですし、歩み寄ろうとしているのならこっちも近づきますよ』と明らかに冒険者として失格な考えが自然とできてしまうわけだ。

 

 さらには、彼の家族がモンスターではなく闇派閥(イヴィルス)に殺されたことも起因している。

 これがいつの間にか父母が死亡していたリリルカ。または自身の無鉄砲な勇気のツケでモンスターに父母を殺されたフィンと同じような経歴を辿っていたならば、話は違ってくる。

 しかし、()()()()()道を示してくれた聖女のおかげでアクスは()()()()()()()()()()()()()()()()()が、ここまで純粋に育った。

 

 例えるならば、類まれなる腕を持った職人の作った奇跡の一品。それほどまでに稀有で希少な存在がアクスである。

 そんな人物が生まれてくれた奇跡にフェルズが感慨深げな思いでアクスを見つめていると──。

 

「アクっち、この消毒用のアルコールというやつは酒では駄目なのか?」

 

「全く違いますよ。いいですか?」

 

 リドの言葉に超速で反応したアクス。その表情は先ほどまでの朗らかな子供から一変し、熟練の医療者が患者を見るかのように鋭くなっていた。

 こころなしか空気がピリついたことに異端児(ゼノス)たちがどよめく中、彼はアルコールについての講釈を始める。

 

「たしかに、お酒にもアルコールは入っています。ですが、“飲むためのお酒”と“消毒用のアルコール”では目的が違います」

 

「同ジあるこール? トイウ物デハないノか?」

 

 先だっての事件で僅かに人間に興味を持ったらしいグロスが全員の考えていそうなことを代表して質問すると、アクスはバックパックに入っていた琥珀色の蒸留酒を取り出す。これは前日、フェルズの工房にお邪魔した際に見つけた封がされたまま放置されていた上等品なのだが、酒の価値も分からない彼は教材として用いるという暴挙に出ていた。

 

「お酒に含まれているのは主に人体へ入れても害が少ないよう調整されている物。“飲用のアルコール”と呼ばれています。消毒用はそれよりも濃い物を使います」

 

 人が飲めるということは、『微生物を殺しきれない』ということだ。菌を殺しきれるような度数であることを『濃い』と言ったが、異端児(ゼノス)たちは酒やアルコールがどういったプロセスで出来ているのかは知らない。

 なので、アクスは『魔法』で説明を始めた。

 

「LV1のエルフの魔法が飲用のアルコール。LV4のエルフの魔法が消毒用のアルコールみたいな物です。これなら分かりますか?」

 

「あぁ、それなら分かるぜ。LV4の方が痛ぇ」

 

 アクスの解説にリドやグロスは頷く。やはり、身近に食らっているであろう魔法のことになると理解は早かった。

 ただ、人体に有害な成分が入っている工業で用いるアルコールもあるのだが……。これ以上は混乱しそうだし、以前に『試しに飲んでみよう』と言って治療院送りになった神や冒険者も居たため、アクスは嗜好品──飲用のアルコールについての説明に切り替えた。

 

「飲用のアルコールは嗜好品ですからね。僕にはわからないんですが、樽で長年寝かせる過程で香りをつけたり、それを水で割ったり、甘未を付け足したりして飲みやすくしてるみたいです」

 

「わザワざ酒ヲ水で割ルのか?」

 

「飲みやすくするためみたいですよ。氷を入れて味の変化を楽しむやり方もあるんだとか」

 

 主にお姉ちゃん(アミッド)の談である。『飲みやすいの!』と力説しながらもカパカパ飲んだ末にダル絡みしてくるアミッドが脳裏に浮かんだが、アクスはそれを右から左に受け流す。

 酒の味についてトンと分からないアクスからしてみればリドの疑問は尤もではあるものの、一応の知識として話していると、今度はレットが挙手する。

 

「ミスタ・アクス。それデハ、飲む用ノお酒を傷口にカケテも……」

 

「痛いだけですね。下手をすると、他の成分や異物が邪魔をして治りを遅くする可能性もあります」

 

『ウワァ……』

 

 『成分』と言われても口を半開きさせながら放心していた異端児(ゼノス)たちだったが、『異物』という言葉にはうめき声を上げた。

 再度言うが、飲み物としての酒は糖分などといった様々な添加物が含まれている。特に極東の口噛み酒や濁り酒の場合は原材料の米の粒子も傷口にぶちまけることになるため、()()()()に他ならない。

 

 ただ、ダンジョンでもイレギュラーが発生するように、このやり方にも例外という物がある。その最たる例として、アクスは先ほど取り出したフェルズがすっかり忘れてた酒に指を添えた。

 

「それでも、この酒のように高濃度の蒸留酒を応急処置として使う場合はあります。ですが、それは“他に何もない戦場”の話。日常では非推奨なので、真似しないように」

 

「アノ、地上ではお酒を口ニ含んデ傷口ニ吹き出すとイウ行為が流行ってると聞いたのデスガ。そレモ間違いナノですか?」

 

 フィアが質問をした瞬間、アクスは沈黙する。その様子に全員が『あ、マズい』と思ったがもう遅い。

 アクスは眉間を押さえながらなんとか怒らないよう努めると、深々と息を吐きながら笑みを作った。

 

「うぎこさん、誰が言ってたんですか?」

 

「フィアなんデスガ……。あ、言ってイタノはフェルズでス。昔、主神が言ってイタとカ」

 

「この骨っ!」

 

「悲しくなるから率直に言うのは止めてくれ!」

 

 賢者の石を目の前でぶっ壊されても尚、主神の話を鵜呑みにしている悲しき元賢者に全力ストレートの罵倒をお見舞いしたアクス。顔部分を覆いながら心の涙を流す出汁が取れそうな骨(フェルズ)を余所に、彼は先ほどの質問がどれだけ愚かな行動なのかを話し出す。

 

「口の中は基本的に雑菌の集まりです。たしかに酒にはアルコールが含まれていますが、それを口に含んだ瞬間。その液体は"雑菌入りの酒"に早変わり。さて、それを傷口に吹きかけようと思いますか?」

 

 妙に圧力が籠った質問。違えれば最期──な予感に異端児(ゼノス)たちが首を左右に振って否定の意思を表すと、アクスは急にくたびれた表情をしだした。

 

「たまに居るんですよ、口が浄化装置と思っている人が。浄化装置って言うなら虫歯なんか発生しないってディアンケヒト様が言ってるのに、頑なに考えを変えないのは本当に疲れるんですよ。他にも酒を飲むなと言っているのに"口や身体の中を消毒してる"って言う酒飲みも居るんです。飲むなって言ってるのにあの手この手で飲もうとする人を見る度に酒も十分人体へダメージを与えているって……」

 

「あぁ、分かった。すまない」

 

「他にも"余興で三杯酢をお腹で作ろうとした"って言って、酢と醤油と酒を飲んだアホな神様も居ますし。明らかに仕上げてきたような出で立ちで定期検診に来てたのに、帰りにスイーツビュッフェと食べ放題と見たことない梯子してたアマゾネスの方も居ましたし……」

 

「アクス・フローレンス! 私が悪かった! 改めるからそれ以上は言わないでくれ!」

 

「……失礼しました。とりあえず、飲むための酒と、治療のための薬は別物ってことだけは覚えておいてください」

 

 まるでブラック環境に身を置く冒険者(ヘイズ・ベルベット)自身の派閥に居る問題児(オッタル)たちに向けるような呪詛を口から吐くアクス。彼の交友関係も調査済みであるフェルズは内心『そこまで師に似なくても良くないか?』とは思ったが、骨だけとなった口をつぐんで耐えた。

 

 だって……、面倒くさいことになりそうなんだもの……。

 

***

 

 そんなこんなで(主にアクスの暴走で)医療中心の知識を披露したわけだが、対する異端児(ゼノス)の反応は──絶賛だった。

 何度も言うが、数十という少数の群れでダンジョンに引き籠っている彼らの娯楽は無いに等しい。話をすれば数日前どころか昨日のことを再び話題として挙がり、自身の興味のある分野を積極的に取り入れようとも知識や閃きが足りずに頭打ちなのがザラである。

 

 よって──。

 

「地上ニは"バレンタイン"って行事がアルって聞いタノデすガ!」

 

「ありますねー。僕たちが死んだ目になってチョコレートを作るイベントです」

 

「ソノチョコレートを使えバ、地上の方々と仲良ク──」

 

「血の惨劇が起こりますよ?」

 

「なにがどうなってそうなるんだよ。地上こええよ」

 

 血で血を洗う闘争(バレンタイン)をゆるふわなキャッキャウフフイベントだと誤解しているハーピィに対し、以前に獲物(こいびと)を横からかっさらうことで発生した『血のバレンタイン』の末路について語って大いに恐怖させたり──。

 

「これが"シャカパチ"です!」

 

「アクス・フローレンス! 害悪行為を教えてるのは止めてもらおう!」

 

 持って来たトランプを遊ぶ傍らで手札を音を立てて混ぜ、そのまま『パチッ』と鳴らす手癖行為を教えようとしてフェルズに怒られたり──。

 

「私達ガ食べている物……デスカ? ダンジョンに自生している物トカ、オ料理シタ物とか食ベテますよ」

 

「少し前は迷宮豆(ダンジョンカカオ)迷宮草(ダンジョンリコリス)とかで先ほど言ってたチョコレートとか作りましたね」

 

「流石ダンジョン、何でもありですね」

 

 何でもありな植生に改めてダンジョンの未知さを思い知ったり──。

 

「ユーノはテイムモンスターとシテ地上で生活できてズルいです! 私タチもテイムモンスターにナリたいです!」

 

「デモ、テイムモンスターってどうスルンだ? オ客人、ナンか案とかないカ?」

 

「"テイム、テイム"言っとけばいいんじゃないですかね?」

 

『テイムー! テイムー!』

 

『ぐぉぉー! グォー!』

 

 傍から見て一笑に付すぐらいアホな会話をしたりと様々なことをやっていると、なにやら翼で自身の耳をしきりに触っていたフィアが声をかけてくる。

 

「チュン太郎さん、どうしました?」

 

「ですカラ私、フィアナンですが……じゃなクテ。地上のオ方、ゴ相談がアりマシて」

 

 名前を間違えてしまったアクスはさておき、フィア耳に関しての悩みを打ち上げる。なんでも彼女はお洒落のためにピアスを着けているのだが、耳たぶにあけた穴付近にしこりなどが出来てしまっているのだとか。

 なんとかして取り除きたいが、『賢者』と呼ばれたフェルズでも治療行為は専門外ということで治療できずに困り果てていたらしい。

 

「地上ノお方はお医者様と聞イテおります。ドウカ、お願いします」

 

「良いですよ」

 

 治療院でもピアスに関する施術は数日の内に両手以上の数とかなり頻度が多い。そのため、何気にアクスも施術経験があったりする。

 彼が横向きに寝転がるように指示すると、ぱぁっと華やいだ笑顔を浮かべたフィアが寝っ転がった。フィアの耳からピアスを取り外したアクスがそれを器に入れた消毒薬の中に入れてから注意深く耳を診察すると、ピアスを着けていた穴の傍にドーム状に隆起した腫瘍を見つける。

 

 粉瘤だ。

 アテロームとも呼ばれるそれは皮膚に袋状の構造物ができてしまい、その中に角質や皮脂がたまって徐々に大きくなる性質を持つ良性の腫瘍である。

 だが、良性といっても粉瘤は自然に放置しても消えることはほとんどない。それどころか細菌によって患部が赤く腫れ、痛みを生じることがある厄介な存在でもある。

 

「──という状態ですね」

 

「治せるノでスカ?」

 

「処置はしますが、出来やすい環境であることは覚えておいてください」

 

 小指の先よりも小さい刃物で腫瘍を切り裂き、内容物をこれまた小さなスプーンのような物で掻き出していく。傷口から血ではなく白い内容物がにゅるにゅる出てくることに近くで見ていた異端児(ゼノス)が騒ぐが、アクスは真剣な面持ちで施術を続ける。

 

「続けて袋の除去に入ります」

 

 次の行程を話しつつ、アクスはピンセットと切っ先の細い鋏を取り出した。

 明らかに物騒な代物に顔を顰めるリドたちを余所に、彼は鋏の切っ先でフィアの耳を抑えながらピンセットを切開部に突き込む。多少の痛みがあったのか、フィアは小さく呻くがアクスから『動かないで』という注意を受けて目をぎゅっと瞑る。

 傍目から邪教の類と思わせる施術に異端児(ゼノス)たちが固唾をのんで成り行きを見守る中、アクスは鋏やピンセットの位置を細かく動かしながら皮膚の下に潜む『核』を慎重に引きずり出していく。

 

「お、おい、アクっち。そりゃなんだ?」

 

「これが袋です。この中に垢とか毛とかがパンパンに詰まったのが、先ほどのしこりですね」

 

 淡く光る水晶の光の下に晒された白黄色の袋。まるでなにかの臓器のようなそれを金属製の器の上に乗せたアクスは、上体を起こしたフィアに手鏡を向けながら診断結果を告げていく。

 

「ピアスの穴って、見た目以上に“傷跡”なんですよ。綺麗に治ってるように見えても、内部は治り損ねている……なんてことがあります」

 

「傷……跡……」

 

 アクスの説明にフィアは鏡越しに自分の耳を見る。

 小さな穴。お洒落のために開けた、ただそれだけの痕をまるで恐ろしいことを仕出かしたように怖がるフィアに、アクスは今まで顔に貼り付けていた医者然とした表情を和らげながら声をかける。

 

「勘違いしないで欲しいのは、ピアスそのものが悪という話ではないということです。でも、この穴は慢性的に刺激が加わる場所ということを覚えていてください。特につけたり外したりすれば、その分正常な組織が耳の内側に入り込んでこういう袋ができる……と、ディアンケヒト様が言ってました」

 

 神仕込みの医療知識にフェルズは驚嘆の声を上げる。

 日常生活は末っ子気質な小型犬だが、アクスもディアンケヒトから長年教えを受けている治療師(ヒーラー)である。こと、医療においてはファミリアの上位層に組み込まれるほどの知識量だ。

 さらには往診や道端での治療という『実践経験』も加えれば、暗黒期から活躍しているアミッドや古参の横に並び立てるほどの治療妖怪。それがアクスであった。

 

「……これでよし。後は、無暗に触らずに毎日お湯か水で軽く拭ってください」

 

「ハイ、本当にありがとうゴザイました」

 

 綺麗に拭いたピアスを手ずから付けた後、使った器具を丁寧に洗いながら気をつけるべき点を述べるアクスにフィアは目尻に涙を浮かべながら丁寧に頭を下げる。

 ただ、この反応も仕方のないことである。アクスにとっては俗に言う『辻治療』の一環だが、異端児(ゼノス)側から見れば『友好的な人が異端児(ゼノス)を癒そうと治療を施してくれた』という行為。つまりは歴史的快挙のようなものなのだが、アクスは当然ながら理解していなかった。

 

「ア、たしカ地上デハお金を支払うンデすよね……」

 

「あぁ、このぐらいなら100ヴァリスとかそのぐらいですね」

 

 毎度おなじみの治療技術に全く見合っていない価格設定。しかし、物価を知らない異端児(ゼノス)たちは高いのか安いのかよく分からずに話し合っていると、横からフェルズが『もう少し何かないか?』と提案してくる。

 

 ただ、ここはダンジョン。薬の素材は大量にあれど、アクスの調剤技術はファミリアの中で下の嬢といったところだ。

 希少な素材を持って来られても失敗して無駄にするのが関の山。ただ、逆に言えば()()()()()()()調()()()()()()()()()()()()ではある。

 しかしながら、アクスは既にもらうべき報酬は決まっていた。

 

「ちょうど良いから……、やってもらおうかな」

 

「何かあるのか?」

 

 全員の視線が集まる中、アクスはリドやグロスの前に立つと──。

 

「お願いします。僕に稽古をつけてください」

 

 治療師(ヒーラー)にあるまじきことを言いだした。




暗い話ばっかりだったので、ようやく日常会をば。
え、医療話じゃないかって? ほら、医療系ファミリアにとっては日常だから。

治療院の空気
 最悪の一言。別の言葉に言い直すと、【幸せはいつだって失って初めて幸せだったと気付く】。
 詳細は次々回ぐらいを予定だが、色んなところでポメポメしていたせいでこうなっちゃったわけである。
 だ、だって少し前は曇らせ展開とかよくあったし。検索にも曇らせ希望が多いから需要があるのかなって。俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!

 まぁ、私の書く曇らせなんて曇らせ(笑)ですから、へーきへーき。
 ちょっと寿命をオーバーしてせいで、聖女が髪の毛を掻き毟りながら喚き散らした挙句に最愛の人の記憶を失ったり、神々が死の神への憎悪の言葉を叫んだ瞬間に憎悪ごと記憶が綺麗さっぱり消えて()()()()()が戻る描写を考えただけだから。

血のバレンタイン
 迷宮豆(ダンジョンカカオ)迷宮草(ダンジョンリコリス)含め、ダンメモイベント『異端甘友祭』から引用。ダンジョンって何でもありなんだな。
 まぁ、恋人や好きな相手に横から『そぉら、行け! 青き清浄なる世界のために!』ってチョコ配ったらそうなるわなとしか。

粉瘤
 歯石取りや耳垢取りと並ぶ『汚いけど見ちゃうジャンル』。ただ、ちゃんと袋も取らないと再発しやすいゾ。

うぎこ/チュン太郎
 フィアの中の人ネタ。ヘスティア・ファミリアのアクスなら霹靂一閃ぐらいは使えそうである。

エピソードヘイズを見て思ったこと
 箱庭編のアミッドの動き以外で特に改変しなくても良かったと安堵。むしろ、ヘイズに対するアクスの尊敬とかがより特効状態になったのではとヒヤヒヤしてる。
 まぁ、アクスがこうなったのは絶対アミッドのせいだし、ヘイズも似たようなものだし、ヨシッ!
 ただ、原作のヘイズさんがこっちのヘイズさん見たら、環境が良すぎて舌打ちからの杖殴打不可避だと思う。
 後、自分でもオッタルさんひどい扱いだなって思ったんよ。だから、たまにイケオジになる理解者団長の片りん見せたのよ。だけど、原作がそれよりひどいとは思わんやん。
 詳しくは、episode.ヘイズを読もう。読もう!

 ただ、最後に言わせて。86:声援で使ったとある子作りフレーズが出て来て怖い。
 フレイヤ・ファミリアのアクスは『う゛わ゛き゛た゛よ゛!!!!』ってヘラるか、それとも拗らせて面倒くさいことになるか。どっちにしても禄でもねぇな、フレイヤ・ファミリア

投稿頻度と文章量について

  • 5000文字(なるべく日/水)
  • 10000文字(なるべく日)
  • どっちでもいいよ、投稿さえしてくれれば
  • 聖女とのイチャイチャをもっと寄越せ
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