ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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115:分身(ひれつ)殺法

 時は少し前にさかのぼる。『騎馬』という機動力が手に入ったものの、彼女たちははじめこそどうするべきか悩んでいた。

 援護に向かおうとも、アンフィス・バエナや突っ込んでいった騎士たちによって足場のほとんどが無くなっている。カサンドラに回復を頼もうにも、水中に沈んだままでは()()()()もあり得る。

 なればこそ、リリルカは目の前の騎士たちの正体について今の内に解消しておこうと判断する。しかしながら、聞くことどころか喋ることも出来ないことを知った騎士たちの言う事を聞かせるのは至難の業。迷いに迷った末、リリルカは『筆談』という苦肉の手段を取り出した。

 

「ひ、筆談ですか?」

 

「苦肉の策です! 未だ足場が安定していない今こそ、状況把握をするべきです!」

 

『あなたは誰ですか? この騎士たちはなんですか?』といった質問を掻いてから目の前の騎士の目元に紙を近づけつつ、リリルカは叫ぶ。耳も聞こえない、声も聞こえないのであれば、後は『視覚』に賭けるしかない。

 すると、いきなりリリルカを乗せた馬が急停止。前につんのめるリリルカを尻目に、騎士は彼女の手から紙と筆記用具を奪い取り、さらさらと何かを書いて見せてきた。

 

 『私は魔法で作られた幻影です。』

 『戦力としてはLV2か3ぐらいで、術者の方である程度の操作が可能です。』

 『また、それぞれの騎士は術者から範囲型の治癒魔法を1つ取り込んでいます。』

 『このまま筆談で指示をください』

 

 速筆ゆえにガッタガタの文字だが、辛うじて読み取れた文章を見たリリルカは思わずガッツポーズ。少なくとも治療師(ヒーラー)の真似事が複数行えるヴェルフや桜花クラスの戦力が9枚増えたのだ。

 それに、やはり魔法で出来た幻影。つまるところ、盾にも使える存在である。

 これを活かさない手はない。

 

 『ありがとうございます。』

 『前衛の4騎は、紅霧(ミスト)には十分注意しながら奴の動きを引き続き封じてください。』

 『私たちの方は手に持った弓矢で狙撃をお願いします』

 

 これまた速筆ゆえのガッタガタな字体で書いた紙を幻影に見せつける。読めない部分があったのか、騎士は少しだけ首を傾げるが、彼女の方に首を向けた騎士は小さく頷くと周囲の騎士たちと共に陸地を駆け回りながら射撃を始めた。

 

「千草様、弓を! カサンドラ様も、マインド節約のために弓での射撃をお願いします!」

 

 この状況で1番マズいのは、治癒魔法のやり過ぎでのマインドダウンである。そう判断したリリルカがカサンドラにも弓矢での援護をするよう指示を出した。

 長年の冒険者としての経験から彼女の言わんとしていることを察したカサンドラは首を縦に振りつつ、リリルカから放り投げられた弓と矢束を受け取り、でたらめに射撃をしていく。揺れる馬上で狙いも禄に着けれないが、アンフィス・バエナは巨大なモンスター。ダメージを与えられているのかは分からないが、次々と矢が刺さっていく。

 

 そんな中、命が助け出された直後。騎士たちは示し合わせたかのように弓を引き絞る。

 狙いはまさに今、焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を口内に貯めている竜頭の目。その眼球はかなり大きいものの、距離もかなりある。そのため、リリルカたちは当たるとは思っていなかった。

 だが、矢をつがえる騎士たちの指先に迷いはない。

 

 アンフィス・バエナの呼気を読み、地面の揺れを聞き、竜頭の動きを見切る。

 困難な前提条件の連続を見事にこなした4本の黒い矢。そして、ついでとばかりに千草が放った1本の矢が竜の片目を打ち抜いた。

 

***

 

 その後の戦いは当初の苦戦がどこへやら。驚くほどにスムーズだった。

 

 直上に焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を放ったことで、この階層に再び大樹の根が降り注いだ。

 迎撃しようにも先ほどのような火力の連発は流石のアンフィス・バエナも厳しかったのか、湖中に身を潜めようとする。すると、そこにヴェルフが前線に上がりながら魔剣を振り抜いた。氷砲が焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の残滓さえ飲み込みながら湖面を走り抜け、魔法からアンフィス・バエナを守っている紅霧(ミスト)とぶつかり合う。

 魔剣による砲撃が油断ならない攻撃と判断したアンフィス・バエナが腰を据えて迎撃態勢に入るが……、その判断は悪手であった。

 

「命ぉ!」

 

「フツノミタマァ!」

 

 紅と蒼の奔流に全員が目を細める中、刻一刻とアンフィス・バエナとの距離を詰めていく()()()()()()()命は重圧魔法を行使した。重力が増したことで一気に加速した数多の瓦礫がアンフィス・バエナの双頭を幾度となく打ち据え、やがて特に大きな瓦礫が焼夷蒼炎(ブルーナパーム)を放つ側の竜頭に落下。その動きが緩慢になった隙に、()()が魔剣によって生えた氷の道から飛び降りた。

 

「行けぇ! 大男ぉ!」

 

「おぉおぉぉ!」

 

 自らの体重以上の重力が掛かったことで一瞬だけ気を失いかけた桜花だが、割れんばかりに歯を食いしばりながらアンフィス・バエナの首を睨みつけた。

 勝負は一瞬。チャンスも1回こっきり。分の悪い賭けだと内心苦笑しながらも、彼は遠征前に主神から賜った『必殺』を準備に入る。

 準備といっても、この技は体つきが人並みはずれてガッチリした桜花が全力で武器を振るうといった単純明快なもの。されど、単純なことだからこそ難しく、その単純を突き詰めた極致にこそ『必殺』は宿るのだ。

 

「気炎! 万丈ぉ!」

 

 重力によって圧迫された肺を持ち前の肺活量で膨らまし、己を鼓舞する怒号と共に気炎(いき)を吐く。そのまま渦を巻くように上体を反転させ、迫り来る竜頭を前に全てを喰らい尽くす虎の顎を解放した。

 

虎喰(こくう)!!」

 

 重圧という心強い味方と共に放たれた『必殺』は、罪人の首を断つ断頭刃(ギロチン)のようにアンフィス・バエナの首を断つ。その威力は数拍遅れて血が噴き出す程に鋭く、すっかり事切れた1本の首が灰へと変じた瞬間──。

 

 獲物を見定めた黒豹が疾走した。

 

「春姫ぇ!」

 

「槌へと至り土へと還り、どうか貴方へ祝福を!」

 

(っ! 自分で!)

 

 氷を踏み抜く勢いで疾走を続けるアイシャの耳に聞こえてきた詠唱に、彼女は目を見開く。散々遠征に連れ回し、道具のようにいちいち声をかけて『使用』していた春姫が、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それも憎んでいるはずの元イシュタルの眷属である自身に向けているであろうことを察した彼女は、僅かに口元を釣り上げてから獰猛な笑みを浮かべた。

 

「いい女になったじゃないか、春姫ぇ!」

 

「ウチデノコヅチ!」

 

 妹分が一端の女になった歓喜の叫びと共にアイシャは文字通り、『金色の矢』と化す。地面に散らばる水晶を踏み砕き、未だ消えぬ焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の燃え残りを消し飛ばしながら駈ける彼女の口から詠唱の声が漏れる。

 1節1節を唱えるごとに高まる濃密な魔力と砲撃の気配。それに気づかない程、アンフィス・バエナはバカではない。すかさず、あらゆる魔法を拡散・無効化させる紅霧(ミスト)を放つ。

 

 いかに階位昇華(レベル・ブースト)を行っても、肝心の魔法が拡散されてはどうにもならない。

 ただ、それは()()()()()()()()()()である。紅霧(ミスト)の問題を解消するための銀の弾丸(シルバーバレット)──否、黒い弾丸(ブラックバレット)が7発。アイシャの後ろから追いかけてきた。

 

(やっぱり来たね!)

 

 詠唱しながら駈けるアイシャを追いかけてくる気配に彼女は笑みを作ると、()()()()()()()()()()()。同時にアイシャの傍を騎士たちが次々と駆け抜けていき、それぞれは広がりつつある紅霧(ミスト)を前に『とある物』を取り出した。

 

「あれって……火炎石ですか!?」

 

 リリルカから発せられた絶叫交じりの解答に答えるかのように、1人の騎士が紅霧(ミスト)に突っ込む。魔法を拡散させる性質が幻影の身体をバラバラに引き裂いていくが、完全に消え去る前にその騎士は火炎石を強く叩いた。

 撃針は無くとも、ランクアップした冒険者の膂力は一般人を遥かに凌駕している。糸がほつれるように霧散していく幻影の中心から紅蓮の華が咲き誇り、その圧倒的な爆風によって立ち込めていた紅霧(ミスト)が多少晴れた。

 

 アンフィス・バエナとは【イシュタル・ファミリア】時代から戦っていたアイシャは、当然として紅霧(ミスト)の性質を知っていた。

 だからこそ、黒い騎士が解れるように消えた様子やその前に自爆するところを見て『便利な()()だね』と感心する──が。

 

【麗傑】(アンティアネイラ)! 何をやってんだ! 止めさせろ!」

 

「アイシャ殿! 自爆を止めさせてください!」

 

(魔法について、もうちょっと勉強しといても罰は当たらないんじゃないかねぇ)

 

 リリルカから情報共有がされていないため、騎士たちを『変わった装備をしている生身の冒険者』として認識していたヴェルフたちはそうはいかなかったらしい。悲痛な声が聞こえてくるものの、詠唱中に加えてアンフィス・バエナの動きを見ながら疾走と集中力を要するしで……。まぁ、ぶっちゃけると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どうしたものかと走りながら考えていると、後ろの方からリリルカの声が聞こえてきた。

 

「皆さん、あの方々は魔法で生み出された幻影です! 術者は別のところに居ます!」

 

「ふざけろ! あの強さで幻影かよ!」

 

「治癒魔法使ってましたよ!?」

 

 リリルカが説明するが、それでも納得できないような声が所々から上がってくる。言わんとしていることはアイシャ自身もよく分かるが、オラリオの上澄み──それこそ【ナインヘル】や【サウザンド】のように名だたる派閥の幹部や幹部候補はそれこそ規格外の魔法を持っていることがざらにある。これぐらいで驚いていたらオラリオではやっていけないのだ。

 

 そうこうしている間に7騎の騎士たちが景気良く自爆していく。もはやよく見ないと紅霧(ミスト)があることさえ気づかない薄さだが、油断は即座に死を招くことはアイシャも良く知るところ。本来ならば、今しがたリリルカを降ろしてからこちらに向かってくる最後の騎士の自爆を見届けてから攻撃を加えるべきだが……。

 

(この戦い方……。いや、"助け方"かい? どっかで……。あぁ、もしかして)

 

 騎士たちの動きを全て見ていないが、要所要所の動きからアイシャの脳裏にとある治療師(ヒーラー)の影がチラついていた。

 確証はないが、せっかく()()が居るのだから聞いてみれば良い。そう考えたアイシャは持っていた朴刀を背負い、後ろから追いついてきた騎士の頭を鷲掴みにする。

 突然のことにじたばたと暴れる騎士から火炎石をぶんどった彼女は騎士をその辺の氷の上に投げ捨て、改めて朴刀を構えてから今まで緩めていた足を解放した。

 

「飢える我が()はヒッポリュテー」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、詠唱のタイミングもピッタリといったところ。すると、最後の悪あがきか竜頭が紅霧(ミスト)を放って来る。

 しかし、彼女は冷静に手の中にある火炎石をアンフィス・バエナの大口目掛けて投げ込んだ(シュート)。レーザービームの如き軌跡を描きながらアンフィス・バエナの口内に消えた火炎石は、数秒後に大爆発を起こした。

 

 そんな『超★エキサイティング』な投球を見せたアイシャは、ようやく魔法の射程圏内に入ると──。

 

「ヘル・カイオス!」

 

 魔法名と共に朴刀を振り下ろす。()()()の膂力で振り下ろされた朴刀の刃はアンフィス・バエナの巨大な身体を難なく切り裂き、魔法によって生じた斬撃波は竜の巨躯の奥の奥──魔石を打ち砕いた。

 

『──────────ッッ!』

 

 核となる魔石を砕かれては、さしもの階層主であってもただでは済まない。耳をつんざくほどの大絶叫の後、アンフィス・バエナの身体は莫大な量の灰へと変じた。

 

 こうして、ベル・クラネルという旗頭の居ない彼女たちの階層主討伐は幕を閉じた。




5000文字投稿。いかがだったでしょうか?
反響とストックと自分の体力次第で10000だったり、5000だったり変動します。
まぁ、ストックっていっても四方山話とかヘスティア・ファミリアや小姓アクスとか色々書いては『コレジャナイ』って消してるんですがね。ヘヘヘ。

アンフィス・バエナ
 原作では死ぬ思いしてやっとこ倒せた下層の階層主だが、どことなくぽめっとしている9騎の騎士の介入でかなり楽になった。
 なお、経験は足りるのかという疑問はあると思いますが、アクスは幻影で回収したので経験値泥棒の割合は全体の0.5%ほど。つまるところ、原作通りというわけです。

幻影
 アクス「分身はぁ! こう使うんだぁぁ!」
 アンフィス・バエナ「知らないよぉ! そんな攻撃ぃ!」

アクス
 即座に別人みたいに振舞えないため、結局アイシャにバレそうになる。シカタナイネ。
 幻影での参戦かつ、治療師(ヒーラー)やサポーター的立ち位置のために偉業的にはしょっぱい。
 ただ、アビリティの上り幅はダンジョンブートキャンプをしているため、モリモリ。

気焔万丈
 皆、カエルで妨害は止めような!

アイシャ
 我らが姉御。
 幻影の術者についてピンときたが、これはアイデアロールを連続でクリったような物なので、仕方がないってやつだ。
 そういえば今更ながら魔法の詠唱がモロヒッポリュテなんすよね、この人。そりゃベル君狙いますわぁ。

カサンドラ
 予知夢に幻影が出てきていないので困惑中。
 ちなみに幻影は真黒いため、本人が分からなかっただけで夢にはちゃんと出てきている。

ヴェルフ他前衛組
 幻影は分かったけど、何も言わずに自爆するのは止めて欲しい。
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