ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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【百騎幻槍】(ひゃっきげんそう)2 赤勇の唄

 霧を払うように騎兵隊が一斉に走り出す。馬蹄が地を叩き、生じる地鳴りが荒野を駆け抜けていく。そんな馬の背に乗る彼らはオラリオ侵攻のためにラキア王国が招集した騎士たちで、すべからくアレスという神の眷属である。

 

「我らに勝利を!」

 

『うおぉぉ!』

 

 最前線の指揮官の声に全員は雄たけびを上げるものの、ここまでは俗に言う()()()。そもそもこの戦は以前から何度か行われているが、今の今までオラリオ侵略の『オ』の字すらも未達成の状況ゆえに騎士やそれに追従する兵士たちの気分はすっかり『物見遊山』であった。

 偵察部隊が全員捕虜になるという多大な犠牲は払ったが、1番冗談が通じない相手(フレイヤ・ファミリア)の陣は把握できた。それ以外で怖い存在は多数居るが、前者のように下手な真似をすると命すら危ういという状況は早々起こり得ないと安堵する騎士たちの耳に馬蹄の音が()()()()聞こえた。

 

「オラリオが騎兵を?」

 

 指揮官が首を傾げるのも無理はない。ダンジョンが主戦場である冒険者が馬を使うなど聞いたことがないからだ。

 しかし、聞こえてくるのはたしかに自身も跨っている馬も奏でている馬蹄の音。それも1つや2つではない。

 少なくとも自分たちかそれ以上の騎馬隊から成る大部隊が迫って来る予感に、指揮官は周囲の監視を強めるよう声を張り上げた。

 

 しかし、その指示を出すには少々遅かった。

 

「ぜ、前方に大規模な騎馬隊! こちらへ突撃してきます!」

 

「なんだ、あの黒い騎兵は!」

 

 朝焼けが晴れると共に前方から押し寄せて来る騎兵。数もそうだが、その出で立ちに指揮官は驚愕する。

 武器と防具。そして馬鎧こそ金属で作られたと思わしき鈍色ではあるものの、それらを纏っている人や馬は墨を塗りたくったような漆黒だった。

 当然ながらその正体を見極めようとする指揮官だが、双方がぶつかり合うまであと数十秒。そんな僅かな時間で相手の正体を看破なんかできるはずもなく、慌てながら得体が知れない存在に向かって突撃を指示することしか出来なかった。

 

 そんな時だった。

 相手の馬群が一斉に左右へ割れる。一糸乱れぬ動きで陣形を変更し出す相手に指揮官が慌てつつも、即座に思考を切り替える。ひとまず密集陣形で相手の馬郡を突き抜けてから反転。その後に仕切り直しを行おうと声を出そうとするが、その前に1騎が飛び出してきた。

 

「なぁっ!?」

 

 驚きの声を上げた時には既に指揮官は落馬して地面に激突していた。咄嗟に手綱を手放した彼は両腕で頭を庇い、馬に頭を踏み抜かれないよう必死に主神へ祈りを捧げる。

 その祈りが通じたのか、しばらくすると耳に残るほど騒々しかった馬蹄の音が止む。五体満足で起き上がれた幸運を噛み締めながら後ろを見ると、かなりの数の騎士が落馬していることに気付いた指揮官は痛む身体に顔を顰めながら駆け出した。

 

「お前たち、無事か!」

 

「なんとか……。しかし、とんでもないパルゥムでしたね」

 

「は!? パルゥムだったのか?」

 

 同じくボロボロになった部下が彼に近づくと、未だ黒い騎馬隊に追いかけ回されている騎士団に角笛で撤退の合図を送りながら驚きの事実を告げる。指揮官が見たのは馬から鋭く突き出された槍の穂先。まさかそれを繰り出したのがヒューマンの下位互換と揶揄されるパルゥムとは思いもしなかった彼が驚きの声を上げると、その反応に部下がさらなる事実を告げる。

 

「あれ、もしかして気づかなかったんですか? あの黒い奴ら、全員背が小さかったですよ」

 

「あれが全員パルゥムだってのか?」

 

「魔法かもしれませんがね」

 

『ほら』と部下が単眼鏡を指揮官に手渡すと、彼は逃げ続けている騎士たちの後ろから矢を射掛けている黒い人型を確認する。

 たしかに背丈は大人と言われても一笑に付すほど小さい。そんな黒い人型が馬上という不安定な体勢の中、弓をしっかりと構えて少なくない損害を騎士たちに与えている姿に彼は乾いた笑いしか出なかった。

 

「我々は……伝説と戦っていたのか?」

 

「フィアナ騎士団ですか」

 

 パルゥムが衰退した原因ともされる女神フィアナが率いた伝説の騎士団。『魔物を討つ槍』、あるいは『大陸の守護者』。数々の戦場を渡り歩いては数多の命を救い、馬を駆けて東奔西走。初代と2代目でファン層が分かれるが、どちらも輝かしい功績を残している存在がフィアナ騎士団である。

 

 そんな女神が降臨の際に現れなかったのがパルゥムが落ちぶれる原因となったのだが、今はそんなことよりも──。

 

「……で、どうすっか。正直、もう帰りたい」

 

「自分、もうやる気ないですよ。【ロキ・ファミリア】か【ガネーシャ・ファミリア】に救援頼みましょう。【フレイヤ・ファミリア】は無しでお願いします」

 

「分かっとるわ!」

 

 落馬して未だ動けない騎士たちをこのままにしておけないため、未だ鈍痛の続く身体を引き摺りながらもオラリオの方へ歩き出す。

 オラリオ側の戦力が桁違いのため、このようにやる気を失った騎士や兵士が投降することは珍しくない。こうして1部隊がたった一当てで戦意喪失して【ガネーシャ・ファミリア】に投降。そのまま保護されることとなったが、当の本人たち──アクス・フローレンスと『乗せてくれないかい』と言って無理矢理ついてきたフィン・ディムナは知る由もなかった。

 

***

 

 元々、【ヘスティア・ファミリア】はこの戦争に参加する予定はなかった。

 ただ、先んじて行われた戦争遊戯(ウォーゲーム)にてアクスの魔法が白日の下に晒され、【ヘスティア・ファミリア】の新たなホームの改築作業によって魔法の()()()を知ることになったギルドが目の色を変える。『馬を貸与したんだから、"当然"参加してくれるよな?』とかなり恩着せがましくアクスへ出陣を要請。100人の幻影を50人ずつに分け、サインなどの1件で世話になった【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】にそれぞれ増援として送ることが決まったわけだ。

 

 ちなみにどっちがアクスを連れて行くかでフィンとオッタルによる高レベル冒険者特有の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を何度か続け、最終的にバカらしくなったオッタルが自ら降りたとか何とか。

 

 閑話休題(そんなわけで)。基本的に専守防衛な【ロキ・ファミリア】が50から成る騎馬兵を抱えたアクスを手にしたらどうなるか。

 そうだね、騎馬による蹂躙劇だね。……というわけで、粗方近づいてきた騎馬隊を駆逐し終えたアクスたちは神々が観戦している小高い丘の一角を間借りし、そこでフィンによるアクスの総評を行われていた。

 

「うん、陣形の動かし方はもう僕が教えるまでもないかな。途中の切り込みも見事だった」

 

「ありがとうございます」

 

 中々悪くない評価をいただいたアクスは素直に礼を言うが、そんな彼を見ながらフィンは珍しく()()()()()

 恐怖からではない。これは──そう。自ら強い光を放つ宝石の原石を発掘したような高揚感だ。

 

 陣形を教えたのは決して間違いではない。間違いではないが、それでも子供が飽きてしまわないよう配慮した──端的に言い表すならば、かなり省略した概要すらなっていない説明であった。

 本来であればこれで指揮をするなど到底無理な話なのだが、蓋を開けてみればたった1時間でいくつもの騎馬隊を壊滅に追い込む大戦果。それも陣形を『組む』のではなく、1秒1秒変わっていく戦場に合わせるようにアクスは陣形を『操って』いた。

 一端の指揮官でさえも難しいことをアクスは息をするかのようにこなしたため、彼の中に眠る指揮の素養にフィンは期待感を募らせた。

 

 すると、今度は観戦していたらしい神々が色々茶々を入れてくる。『スカッとした』や『相手の土俵で勝つのは爽快』といった感想がほとんどだが、中には『ロリ巨乳の所を辞めてうちに来い』だの『ショタっ子同士の話し合い最高』だのといった物もある。

 

 すると、そんな非常識な発言を聞いていたロキが立ち上がりながら件の神々に向かって怒鳴りつける。

 

「最低1年は改宗(コンバージョン)出来ないっつールール破るんか、自分らぁ! それにフィンたんはうちのもんや! 誰にも渡さんでぇ!」

 

【勇者】(ブレイバー)に言ってるんじゃねぇよ!」

 

「あ”ぁん? フィンたんがアクスに劣るっちゅーわけか? ぼてくりまわすぞぉ!」

 

「クソ怠いなこいつ!?」

 

 酒を飲んでいるからかダル絡みをしているロキに辟易としつつ、フィンはついでとばかりに小高い丘から現在の戦況を確認する。

 【フレイヤ・ファミリア】は相変わらずオッタルを主軸とした力でねじ伏せる戦い方をすることで既に閑古鳥が鳴いており、【ロキ・ファミリア】は予め分けた部隊によって散発的な奇襲は抑え込んでいる。他のファミリアも割り当てられた戦域を良く守りながら敵の進行を食い止めているし、なによりアクスが面倒くさい騎兵を粗方片づけた。

 

 この分だと本日の侵攻はないだろうとフィンは予測し、そろそろ帰り支度でもしようと提案する前にフレイヤが話しかけてきた。

 

【勇者】(ブレイバー)、今日は侵攻はもうなさそうだけど……。合ってるかしら?」

 

「神フレイヤ。あぁ、合っているよ」

 

 ガレスの1撃が決定打となったのか、ラキア側も兵を引き始めている。今日の分は終わりだとフィンは確信するものの、なぜか指が疼き出した。

 何か見落としでもあったかと戦場を見渡してももとより兵が隠れられそうな場所が少ないため、気のせいかと思っているとーー。

 

「ここは飽きてしまったの。ちょっと送ってもらえないかしら? あ、ついでにラキア軍の本陣を経由してちょうだい」

 

『は?』

 

 とんでもないことを言い出した。

 

***

 

 数十分後。荒野には騒々しい馬蹄の音に混じっていくつかの声が響く。

 

「ひいぃぃ!」

 

「アクス、このまま行けば【フレイヤ・ファミリア】の陣幕だよ!」

 

「あはははは」

 

 涙声で叫ぶパルゥム(アクス)。平然としながら冷静にゴールまでの距離を測るパルゥム(フィン)。そして、心底楽しそうに笑う美の女神(フレイヤ)。そして、その少し後ろから馬で追いかけながら『女神置いてけ』だの『褒賞』だのと欲望に目をぎらつかせた男たちの怒声。

 

 ──そう、アクスたちはラキア王国の騎士たちに追いかけられていた。それもこれも全て絶賛後ろで少女のような天真爛漫さで笑っているフレイヤのせいである。

 何を隠そうこの女神。ラキア軍の本陣を経由して【フレイヤ・ファミリア】の陣幕へと戻るオーダーを出した後、わざわざ『神威』を少し解放してまで命令してきたのだ。

 神威とは、かなり大雑把に言えばこれは人類に『恐れ多い』という感情を抱かせるチート技。もちろんロキが止めに入る前に彼女はすぐにそれを収めたが、その後に『やってくれるわよね?』とニコリとほほ笑む。

 

 都市最強を擁するファミリアの主神 + 神威 + やってくれる? + ガリバー兄弟の件で色々お世話になった。この問題を解けないアクスではない。

 こうしてフレイヤはアクスの後ろに乗せ、ついでに侍女頭であるヘルンを別の幻影に乗せた一団は女神のオーダーに従って比較的警備が薄い所からなだれ込むようにしてラキア軍の本陣が見える場所まで近づいた。

 

 ここまでは良かった──ここまでは。

 

「なっ、フレイヤ!?」

 

「あら、アレス。あなたの子供たちよりもこの子の馬の方が速いわよー」

 

 突然現れたフレイヤにアレスが驚くのも束の間。神々で言うところの『サラマンダーよりはやーい』と似たようなセリフを吐きながら颯爽と去っていくフレイヤたちにアレスは当然激怒した。

 褒賞という飴をチラつかせることで血気盛んな騎士たちは次々と名乗りを上げ、次々とラキア軍の本陣から出て行ったのである。

 なお、この時名乗りを上げたのは今回が初陣である新人のみ。オラリオについて少しでも知っている騎士たちはもちろん止めたが、一向に止まる気配がない騎士たちに『もう知らね』と説得を諦めたとか。

 

 そいういったわけで、アクスたちは大勢の騎馬に追いかけられているわけである。しかしながら、()()()追いかけっこだけでアクスはこんなに疲弊していない。

 

「ぬおぉぉ! 褒章はもら……がぁっ!」

 

「へへっ、パルゥムにやられやぐぅっ!」

 

 後ろは幻影に守らせているが、迂回してまでアクスたちに肉薄してくる騎士が居る。彼らを突いたり薙いだりすることで落馬させるのは非常に骨が折れた。

 なまじ何合か打ち合うこともあったため、フレイヤに傷がつかないか心配する精神的疲労も合わさって彼の中に未だ残っている一般市民の心はすっかり限界を迎えていた。

 

 ただ、そこにようやく【フレイヤ・ファミリア】側の人間が現れる。

 

「フレイヤ様、一体何事ですか」

 

「あら、ヘディン。アレスを挑発してきたの。なんていったかしら……釣り……釣り……」

 

「釣り野伏せですか?」

 

「そう、それ。なかなか上手く出来たと思うのだけど?」

 

 追って来る騎馬の数からみて誘い込みは上々だとどや顔をするフレイヤ。たしかに戦術としての誘い込みであれば完璧だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それでも敬愛すべき主神の残念がる顔は見たくないと、ヘディンは『流石です』とだけ答えるとアクスに直進を命じた。

 

「あとは私と貴様の幻影でやる。そのまま駆け抜けろ」

 

 そう言ったヘディンは立ち止まり、手にしたディザリアという武器で地面を叩く。すると、その音を合図に大楯と長槍を持った30名余りの幻影たちが()()()ヘディンの前まで集まり、密集しながら盾の壁を作った。

 

「構え!」

 

 魔法をラキア軍騎士たちが転進しようとする方向に投げ入れることで退路を潰したヘディンの号令により、それぞれが踏ん張ることで盾の壁をより堅牢にする。そして次の瞬間、魔法によって馬の制御が疎かになった騎馬たちが盾と激突した。

 

「突け!」

 

 盾にかち上げられる形で馬から放り出された騎士たちが地面に転がっていく中、未だ馬上に居る騎士を打ち倒すべくヘディンは号令を下す。号令の後、幻影たちは手に持った長槍を馬や馬上に居る騎士たちに突き出すと、驚いた馬が上体を持ち上げたことで上に乗った騎士たちを振り落とした。

 

***

 

 こうして追ってきたラキア軍の騎馬隊は全滅した。自らの奉ずる女神を追いかけたということで『処刑』が団員たちから上がったが、後々面倒なことになると言うことやフレイヤの鶴の一声によって()()()()()()()()()

 

死ね(ねろ)

 

『ぎゃあああす!』

 

「はーい、回復薬(ポーション)かけますよー」

 

『あばば……』

 

死ね(ねろ)

 

『ぎゃあああす!』

 

「はーい、回復薬(ポーション)かけまーす」

 

 至る所でぽめっとした幻影たちが煮炊きをしたり、槍を片手に団員たちと警備をしたり、コミュ障(ヘグニ)まるで駄目な団長(オッタル)の近くで同じように腕を組みながらじっとしたりと、様々な幻影が混ざりこんでいる【フレイヤ・ファミリア】の陣幕。その隅ではヘディンによる拷問が行われていた。

 わざと出力を落とした電撃殺法(カウルス・ヒルド)で気絶させ、その度にヘイズがナースキャップを被っている幻影たちの持っている救急箱から回復薬(ポーション)を取り出して復活させるという悪魔のフルコースを堪能している絶叫を耳にしたアクスは、とりあえずオーダーを完遂したということで幻影共々そそくさと帰ろうとする。

 それもこれもフレイヤを乗せて帰ってきたということで『戦車』の二つ名を与えられた猫人(キャットピープル)が睨んできているため、一刻も早く帰りたかったがフレイヤはそれを許さなかった。

 

「ふふっ、やっぱりあの子の仲間ね。久しぶりに楽しめたわ、ありがとう」

 

「ご満足いただけて何よりです」

 

「フレイヤ様! 戦車である俺を差し置いてなぜ、こんなチビを!」

 

「え、だってあなた。乗るって言ってもおんぶじゃない。今日は乗り物に乗りたい気分だったの」

 

 気分と言われてしまえば仕方がないのだが、それはそれとして腹が立つのも事実。何かあれば即座に突き殺してきそうな眼力で威圧するアレンを前に情けない悲鳴を上げるアクスであったが、それをフレイヤが止める。

 

「今日は気分じゃなかっただけ。次はあなたを頼らせてもらうわ、アレン」

 

「……はい」

 

「それで、アクス。楽しませてもらったお礼に何か送りたいのだけど」

 

「いえ、お構いなく」

 

 何が何でも帰りたい。こんな魔境にいつまでも居られるか。そんな心境でお礼を断ったものの、『せっかくのフレイヤ様の御寵愛を断るなんて』といった視線が飛んでくるためにアクスは内心泣きながらありがたく頂戴することを宣言する。

 

「オッタル、なにかこの子に贈れるものはあるかしら?」

 

「過ぎた武器は身を滅ぼします。なので魔導書(グリモア)がよろしいかと。たしか、使わずにいた物が数冊あったはずです」

 

「そう、じゃあそれにしましょう。アレン、さっそく頼らせてちょうだい」

 

「……取ってきます」

 

 言うが早いかその場で姿を消したアレンが数分後には戻ってくる。都市最速と呼ばれる所以を見せつけられたアクスは内心『おっかねー』と思いつつ、半ば押し付けられる形で魔導書(グリモア)を託された後にフィンや幻影たちと共に【フレイヤ・ファミリア】の陣幕を離れる。

 主に満たす煤者達(アンドフリームニル)たちから『労働力返してー』と泣かれたものの、初めからヘイズたちの所有物ではないためにアクスは無視して【ロキ・ファミリア】の陣幕を経由し、本日黄昏の館に帰る団員たちを回収した後にオラリオに入るための外門へと歩を進めた。

 

「開門! 【ロキ・ファミリア】、帰還!」

 

「やっと帰れた。あれ、フィンさんどうしました?」

 

「いや、目に土が入ってね。それより今日はご苦労だったね、送るよ」

 

 扉を守っていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちによって固く閉ざされた扉が開けられる。()()()()()()()()()()フィンが指で軽く目頭を押さえるが、すぐに笑みを作るとラウルに後を託した。

 そのまま黄昏の館に帰るラウルたちと別れたフィンとアクスは【ヘスティア・ファミリア】の新たなホームとなった竃の館の玄関を叩くと、ツインテールの女神──ヘスティアが顔を覗かせてくる。

 

「神ヘスティア。預かっていたアクスを連れて帰ってきたよ」

 

「おー、アクス君おかえり。【勇者】(ブレイバー)君もありがとう」

 

「いや、ギルドの要請はいえ僕たちも世話になったんだ。……そこでいくつか報告したいことがあるんだが、お邪魔しても良いだろうか?」

 

「あぁ。ベル君たちは居ないけど、それでも良いなら構わないよ」

 

 二つ返事で許可したヘスティアの案内で応接室へと通されたフィンは、供された茶を飲みながら本日の出来事を報告していく。

 陣形について覚えたてながらも騎馬隊をいくつも壊滅させたこと。フレイヤをラキア王国の本陣経由で【フレイヤ・ファミリア】の陣幕まで送り届けたこと。そのお礼で魔導書(グリモア)をもらったこと。最初の1つは誇らしげに、2つ目は 『フレイヤだからなぁ……』と苦虫をかみつぶしたような表情で聞いていたヘスティアだったが、最後の魔導書(グリモア)については『ちょっと待てぇい』と怒鳴った。

 

魔導書(グリモア)ァ!? なんでそんな物をもらって来てるんだい!」

 

「断ったら殺されそうだったから」

 

「うん、あれは断ったらリンチだろうね。僕が君の立場でも首を縦に振るよ」

 

 状況を鑑みながらしみじみと言うフィンの援護もあってなんとかヘスティアは納得すると、気を取り直してアクスに魔導書(グリモア)を使用するよう勧めた。

 既に1つ魔法があるために『不発』に終わる可能性は高いが、それでも2つ目の魔法というのはロマンがある。特に『未知』を求めて下界に降りてきた神の1人であるヘスティアにとって、この機会は千載一遇のチャンスともいえた。

 

「さてさて、アクス君の2つ目の魔法は何だろうねぇ」

 

「神ヘスティア。僕も見学させてもらっても構わないかい? 試し撃ちも必要だろうし、僕の知見で良ければ助力できると思う。もちろん、口外はしないことは約束する」

 

「うーん、本当は駄目なんだろうけど……。既に君にはアクス君のステイタスを見せちゃってるからなぁ~。良いぜ!」

 

 それで良いのか主神。ロキが聞いたら再び大激怒不可避な程の善神っぷりに、フィンは頭を抑えながら成り行きを見守る。

 その後も眷属である証のステイタスを秘匿もしていないことにベルのことを思い出した彼は、『頼むから友神に頼むなりしてファミリアの何たるかを学んでほしい』とヘスティアに嘆願するといった一幕はあったものの、アクスが魔導書(グリモア)を読み始めて数分もしない内に寝落ちしたかのように意識を失う。

 

【勇者】(ブレイバー)君、大丈夫なのかい?」

 

「さぁ……。魔法のことに関しては多少分かるけど、僕も魔導書(グリモア)を読んだことがないから分からないんだ」

 

 全くもって安心できない言葉にヘスティアが内心、『頼りないなぁ』と思ったのは秘密である。

 

***

 

 声が聞こえる。

 

 ──また野郎ではないか。いや、坊主か? 

 

 まるで値踏みされるような視線が肌に纏わりつく。

 

 ──いや、いやいやいや待て? その姿は……その『魂』は。

 

 その声は驚き、続けて快活に笑う。

 

 ──ふは。フハハハ、あの時は船に乗らなかったやつがようやく乗りおったか! 

 ──気に入った。いや、元より()()()()()()()()。持って行け。

 

 心臓付近に電撃が走ったかのような衝撃を受け、徐々に視界が暗くなってくる。薄らいでいく意識の中、再び声が聞こえてきた。

 

 ──その魔法があれば覗きし放題。坊主、覗きは男のロマンじゃぞ? 

 

***

 

──-──-──-

前へ進め、雷霆の如く(ライトニングボルト)

 付与魔法(エンチャント)

【敏捷】アビリティの超高強化

──-──-──-

 

 意識が戻ったアクスがヘスティアにステイタスを更新してもらうと、新たな魔法が発現していた。その他にも偉業的にランクアップ間近なことや既にランクアップの条件の1つであるアビリティDの項目があることなど、フィンには言えない様々なことが紙に書かれていたために彼女はそれら一切を消し、新しく発現した魔法のみが書かれた紙をフィンへと手渡す。

 

付与魔法(エンチャント)か。文面を見る限り、基本的には速度とかの底上げかな」

 

「基本的にはということは他にあるのかい?」

 

「既にギルドの情報で知ってると思うけど、アイズが良い例だね。付与魔法(エンチャント)だけど、機動力を上げたりと利便性が高い」

 

 またしてもヴァレン某の話題。()()()()()()()()()()()ヘスティアは『ぐぬぬ……』と悔しがっていると、アクスが遠慮がちを見てきた。新しい魔法を試したいといった様子に母性本能が刺激されまくったヘスティアは先ほどまでの態度を一変させ、『しようがないなぁ~』とにやけ面でアクスとフィンを連れて外へ出ていく。

 

 そのまま広い庭先まで歩いたフィンはヘスティアにもう少し離れるように伝えると、近くに落ちていた木の棒を拾ってアクスに手渡す。

 

「じゃあ、魔法を唱えて打ち込んできて欲しい」

 

「え、君は大丈夫なのかい?」

 

「神ヘスティア。これでも僕はLV.6なんだ。LV.1が木の枝を持っていても致命傷にはならないよ」

 

 たしかにそうだ。相手は上級冒険者の上澄み中の上澄みなので、滅多なことは起こらないだろうとヘスティアはすっかり観戦体勢に入る。

 すると、ベルと同じく超短分詠唱を唱えたアクスの全身に紫電が走り、周囲にはパチパチといった放電音を轟かせた。

 

「だ、大丈夫かい!? 感電とか……」

 

「なんとも?」

 

付与魔法(エンチャント)だからね。他に何か変わったこととかあるかな?」

 

 付与魔法(エンチャント)といってもピンからキリまであるため、フィンは身体能力の向上以外に何か変化はないか問いかける。その問いかけにはじめこそ身体を振り回しながら首を傾げていたアクスだが、『むんっ』と気合を多少込めたような声と共に木の枝から黄色い光が伸びた。

 出来たのは両手刃剣のような形の黄色い光刃。実体のないはずの黄色い光は、そこに『重さ』があるかのように確かな存在感を放ち、いつしか控えめだった放電音は空気そのものが悲鳴を上げるかのような轟音へと変わっていた。

 

「ヘスティア様、これは……」

 

「知らない、何それ。怖……」

 

 髪を逆立てながら問いかけるアクスに対し、ヘスティアは見るからにどん引いている。

 それもそうだろう。彼女の知る魔法はベルのファイアボルトぐらいで、付与魔法(エンチャント)の『エ』の字も知らないのだ。

 それがいきなり如何にも『触れたら痺れ(て死ぬ)るぜ』といった具合の剣が出てきたため、ヘスティアはすっかり怯えてしまっていた。

 ただ、子供にとって親(主神だが)に突き放された瞬間というものは地味精神的ダメージが大きい。ちょっと泣きそうになりながらも今は魔法の検証が急務であると、アクスは低く構えた後に思いっきり地面を蹴る。

 

 その瞬間、空気が遅れた。

 

「っ! 速い!」

 

 上級冒険者(LV.6)のフィンでも辛うじて見えるほどの加速。まるで雷そのものが人の形を借りて地を駆けているかのような錯覚を覚えた彼は、起こり得るはずもない()()()()に合わせてアクスを受け止めようと構えた。

 いくら速かろうと、都市最速(アレン)のように目で追えないわけではない。十分に対処可能だと己に言い聞かせながら衝撃に備えていると──。

 

 フィンの目の前でその雷の軌跡は一気に地面へと叩き落とされ、顔面で地面を耕していく。『は?』と彼が理解が追い付かないような声を上げたのも束の間、先ほどまで雷の化身となっていたアクスの方からきゅるるると不可思議な音が聞こえてきた。

 

「お腹減った……」

 

 全力疾走の代償は、スタミナ切れと、無駄に立派な溝だったとか。なかったとか。




さて、本日で1年が終了します。今年の2月から始まりました本作品もそろそろ半分(かも?)と言ったところ。
他にも書きたいお話もたくさんありますので、来年もよろしくお願いします。

アクス
 変な爺ちゃん(と思われる人物)から変な魔法をもらったちみっこ。
 フィンとの模擬戦の後、命がお昼用に握ってくれていたおにぎりをヘスティアの分も食べることでお腹ぽんぽこりんになった。
 対フレイヤファミリア戦ではVSベル追走中のアレンも面白そう

幻影
 馬に乗っても歩兵になっても一定の戦績が約束されるぽめっとした幻影の集団。たった数十人でも冒険者であるため、油断は禁物。
 たとえヘグニと同じく黙って突っ立っていようとも、ヘイズの後をちょこちょこついてこようとも彼らは優秀な指揮官さえ居れば死を恐れない勇猛な戦士たちであることを忘れてはいけない。

フレイヤ
 始めはベルの仲間ということでちょっとからかったつもりだったが、思いのほか楽しかったらしい。
 また、これで自身の株が上がりそうな気配を感じて便宜を図った。(なお、ヘスティアからは訝しがられた模様)

魔導書(グリモア)
 フレイヤ・ファミリアなら魔導書(グリモア)の1冊や2冊あると思うの。
 登場人物? どっかの精霊じゃないですかね。
 覗きは男のルゥゥォオマンじゃぁ!(超巻き舌)

開門の下り
 騎馬と歩兵入り混じったファミリア(きしだん)の帰還。
 ダンメモのナイツ・オブ・フィアナPVを見よう。見よう!

前へ進め、雷霆の如く(ライトニングボルト)
 現状、ベート以上でアレン以下の速度を出すことが出来る。(成長見込みあり)
 ただ、燃費はパルゥム基準でかなり悪い。アニメでベルが豊穣の女主人で食べていたパスタの3分の1が通常時のアクスの食事量だが、魔法使用後は2分の1ぐらい平らげる。
 元ネタは作者が同じ

 とある完璧才女「あれは特定の血筋の魔導士しか扱えない秘伝魔法ではなく、ただの付与魔法(エンチャント)。(お代わり)しかし、あの加速力は私の血統雷伝(オーウェン・シーク)……それも雷翔(アルギス)と同等ともいえるな。(もう1皿)あれで発現したてというのであれば、成長すればあの至高の杖に追従できるやもしれない。(お代わり)ただ、白兵戦を織り交ぜると私のように体力も大幅に消耗する。(もう1つ)燃費には最大限注意し……。わ、私は大食いではない! 本当だ……よ?」


正月あたりにやりたかった全アクスによるレースネタの一幕

 雷へと変じたアクスが他のアクスを抜き去り、そのまま走り去る。その様子にすっかり舞い上がったヘスティアが、隣に座っているフレイヤに話しかけた。
 
「へへーん、どうだい! やっぱり僕のアクス君が最速じゃないか!」

「ねぇ、ヘスティア。知ってる? ドラッグマシーンってね、曲がれないの」

 途端、土煙が上がる。ヘスティア・ファミリア所属のアクスがオラリオの外周を曲がり切れずにそのままコースアウトし、小高い丘にぶつかったのだ。
 その風景に神々から『ランサーが死んだ!』だの『人でなし』というヤジが上がるが、超常的な存在の効き馴染みない言葉に下界の人間は一堂に首を傾げていた。
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