ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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ちょっと短いです。5000に落とし込むの難しい。


116:右顧左眄(うこさべん)

 アンフィス・バエナが倒れたことにより、先程まで怒号をはじめとした戦闘音の連続ですっかり麻痺していたアイシャの耳に、凄まじい量の水が叩き落ちる轟音が戻ってきた。

 

(上出来。……いや、"上出来過ぎ"だね)

 

 陸地の方でようやく実感を持ったリリルカたちの歓声を聞きつつ、彼女は独りごちる。

 【イシュタル・ファミリア】時代にアンフィス・バエナとの交戦経験がある彼女だが、かのファミリアは団員の数をはじめとした何もかもが【ヘスティア・ファミリア】と比べ物にならない。いくら、第2級や第1級の大魔道士の魔法が放てる鍛冶師や相手の居場所を即座に勘破出来る剣士が居たとしても、 数を減らさずに かつ ここまでスムーズに 討伐するのは出来過ぎといえる。

 

(まぁ、あんたのおかげなんだろうねぇ)

 

 未練がましくアイシャの身を焼こうとする焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の残火を現団長(アスフィ)謹製の消火剤で消しつつ、先ほど放り投げた騎士の元まで歩いていく。すると、なにやら手に持った黒い槍で氷をひたすら引っ掻いているので何を遊んでいるのかと疑問に思ったのも束の間。氷の上に刻まれた『文字』に気付いた彼女はその場にしゃがみこんだ。

 

『筆談ならこちらにも分かります』

 

「難儀だねぇ……っと」

 

 あれだけ自由自在に動けて魔法も使える破格な性能からしてみれば、『筆談しか出来ない』というデメリットはあってないようなもの。しかしながら、アンフィス・バエナというデカブツの相手をしていた今の彼女的に筆談は少々『手間』の方が勝ってしまう。

 それでもアイシャには確かめたいことがある。よって彼女は億劫そうにしながらも朴刀の切っ先で氷に文字を刻んでいく。1文字1文字刻まれていく文字をじっと見ていた騎士だったが、()()()()()が出た途端に石のように固まった。

 

 なんてことはない。『ひとまず助かったよ、アクス』と名前を狙い撃ちで書かれていたからである。さらにはご丁寧に【小神父】(リトル・プリースト)と一旦書いてからそれを消し、本名で書き直すほどの徹底ぶり。間違いなくバレている。

 バラされることを危惧しているのか、挙動不審になりながらも慈悲を求めるようにアイシャに向かって手を合わせる騎士。そんなおまぬけな姿に、彼女は『相変わらずだねぇ』と笑い掛けながら続きの文字を書いていく。

 

『安心しな、あんたには貸しがたんまりある。黙っといてやるけど、あいつらもバカじゃない。回復したらさっさとその魔法を解いちまいな』

 

 優しさに気付き、さりげなく返してあげるのもまた『優しさ』だ。

 先ほどの救援もそうだが、暗殺者の1件で元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)たちの多くはアクスに命を助けられている。その借りをいつまでも返さずに持ち続けるのは、彼女には到底出来なかった。

 そのため、後々のことも踏まえて助け舟を出したのだが……。

 

『借りってなんですか?』

 

「マジかい、こいつ。……まぁ、あんたはそういうやつだったね」

 

 幻影が首を傾げながら書かれている『借り』という文字を叩く。その行動と自分が仕出かした事を一切顧みない疑問文にアイシャは片手で顔を覆いつつ、アクスの人と成りをよくよく思い返して勝手に納得する。

 彼は決して借りを借りだと思っていない。人が困っていたら助けるのは当たり前だし、傷病の類で苦しんでいたら癒そうとする。

 さらにはそれらの奉仕に対して見合っていない報酬を強請る、まさに善性の塊と言っても過言ではない人間性。それこそが【小神父】(リトル・プリースト)アクス・フローレンスなのだ。

 

(これが実力をつけて来たら、あいつらが黙ってないだろうね)

 

 既に戦闘娼婦(バーベラ)の中にはアクスに対して庇護欲というか、母性というか。まぁ早い話……、彼の底知れない優しさに宛てられた者が複数居る。

 冒険者あるあるだが、普段の生活が荒んでいるために無自覚な優しさが干からびた状態で飲む水の如く染みるわけだ。

 ただ、今は暗殺者から戦闘娼婦(バーベラ)たちの命を救ったことを今一度説明する時間もなければ、アクスが実力をつけた瞬間にアマゾネスたちが殺到してくることについてアイシャが懇切丁寧に解説と警告をしてやる義理もない。

 そのため、彼女はとっとと本題を切り出すことにした。

 

『覚えていないなら良いさ。それで、あんたはなんでこんなところに魔法を送り込んだんだい?』

 

 いくら魔法とはいえ、アクスは【ディアンケヒト・ファミリア】の治療師(ヒーラー)。それもまだまだ子供である。そんなやつが突発的な考えでやって来れるほど下層は甘くない。

 ()()()()()調()()()()()()()()()()()()()()。そう考える方が自然だろう。

 

 すると、幻影が少しばかり動きを止めた後にガリガリと長文を掻き出した。

 

(後ろに誰かいることは確定か)

 

 気を張らねば見逃すほど小さな揺らぎ。されど、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことから、アイシャはアクスの後ろに誰か居ると結論付ける。

 問題は誰がアクスという人形の糸を引いているかだが、それを明け透けに言うのは相手を警戒させるだけ。そのため、もう少し筆談をしてから降りを見て切り込んでみようと幻影が刻んでいる文字を右から左に眺めつつ、アイシャも氷を刻み始めた。

 

『インターバルを無視した階層主の出現を含めたダンジョンの調査。それと、【疾風】の嫌疑について調査に来ました』

 

『ご苦労なことだね。ダンジョンの異常は見てのとおりだね。後、【疾風】についてはあたしたちも良く知らないんだ。今、ベル・クラネルを連れたボールスたちが27階層の奥に向かってるはずだよ』

 

『ありがとうございます。ところで、皆さんはこれからどうなさるおつもりで?』

 

(それはあたしも知りたいよ。……まぁ、あいつらは"追いかけるつもり"だろうね)

 

 氷の文字も見ながら悪態をつくアイシャ。その視線はリリルカたちとは違う方角にある下層の連絡路に向いていた。

 この話し合いが終われば、幻影によってすぐさま治癒魔法がかけられるだろう。アクスの治癒魔法の出力を鑑みれば、さらに下へベルを迎えに行こうとする流れが生まれるのは必定といえる。

 しかしながら、アイシャたちは階層主に辛勝した身。体力や傷が回復した()()でさらに下層へ行くなど、自殺行為も甚だしい状況なのだ。

 

 それでも、この連合のメインは【ヘスティア・ファミリア】。そしてベルはそこの団長かつ、この集団の旗頭である。

 アイシャの古巣(【イシュタル・ファミリア】)のように団長との仲が特段悪いわけでもなければ、団長を捜索するのはファミリアにとって当たり前な行動と言えるし、勝手についてきた身分だが依頼者(クライアント)の言うことは絶対だ。

 

 とはいうものの、今は本当にタイミングも悪い。イレギュラー続きのダンジョンを進むのは絶えず『未知』を『既知』に変える必要が出てくるので骨が折れるし、なにより装備や道具がこの戦闘で枯渇している。

 極めつけは治癒魔法によって回復する予定の肉体とは対照的に、()()()()疲弊していること。総合すると、少なくとも18階層にとんぼ返りするべきというのがアイシャの考える『最良』であった。

 

『アンフィス・バエナと戦ってたのに、誰も来ませんでしたね』

 

『下でマズいことが起こってるかもね』

 

 ただ、ベルを救出することを念頭に入れるならば、この状況は決して無視できないのも事実。現にボールスたちが下に降りていってしばらく経つが、幻影が氷に書いた疑問のように階層主とドンパチしているにも拘らず誰も加勢するどころか、様子を見に来る気配すらないのは不自然だ。

 考えられるのは、()()()()()()()()()に出くわしている最中か。()()()()()()()()()()()()。あるいは()()()()()……だ。

 

 仮にベルやボールスがそんな状況に陥っているのであれば、ますますもって18階層で万全な準備をしてから救出に行かねばこちらが危ない。

 ただ、その救出が一体いつになるだろうか。物資が乏しい18階層で奇跡的に補給や休養が出来たとして、武具の整備含めて最低でも数日はかかる。さらにはベルが居ないこのパーティでこの『肉体的に万全な状態』で、再びここに戻って来るまでにこれまた数日はかかるだろう。

 

(腹を……決めるしかないようだね)

 

 諸々を考慮したアイシャは決心する。彼女の本心は未だ『即座に撤退』に傾いてはいるが、撤退した後の話になればそれはそれでややこしくなる。

 それに、お誂え向きに全癒に近い治癒魔法が使える。細い糸を手繰り寄せるような薄い勝機だが、決して勝ち目がない博打ではないとアイシャは陸地から呼びかけてくるリリルカに手を挙げ、朴刀を背負い直してから近くで座り込んでいる騎士を小脇に抱えて歩き出す。

 

「おっと、そうだ」

 

 大人しく運ばれる騎士に『小型の動物(ペット)みたいだね』と悪口を言いつつ、何かを思いついたアイシャは自らの親指の腹を口内に生えた尖った歯で噛み千切ってから騎士を持っていた方の腕に文字を書いていく。

 

『誰の指示であんたはそこに居るんだい?』

 

 彼女も人の子。つまるところ、話せる人と話せない人のラインを見極めておきたいのだ。

 聞くタイミングとしてはここぐらいしかないが、それでもアイシャは無理に聞き出そうとする気はさらさらない。『答えてくれなければそれはそれで構わない』と手の平にでも書こうとしたが、動きを止めていた騎士がアイシャの方を向きながら手を出してきた。

 

「あぁ、"インク"かい? ほら」

 

 騎士がやらんとしていることを察したアイシャが自身の親指を騎士の親指にくっつける。鮮やかな赤い血が黒い指に付着し、それを確認した騎士はアイシャの手の平に文字を書いていく。

 

『ヘルメス様』

 

(まさか、うちの主神とはね)

 

 書類上は【プルートス・ファミリア】所属になってはいるが、アイシャは【ヘルメス・ファミリア】の所属である。まさかピンポイントで所属先と関係しているとは思わなかった彼女は内心ほくそ笑むと、リリルカたちの前で騎士を降ろした。

 

「アイシャ様、なにをお話してたんですか?」

 

「あぁ、筆談なら伝わるってこいつが書いてたからね。術者について聞いてもなーんにも答えてくれなかったんだよ。まぁ、そろそろ魔法が切れるみたいだから最後に治癒魔法をかけてもらって……っと来たね」

 

 約束通り幻影について何も聞いていない風を装って話すアイシャ。若干リリルカが懐疑的な視線を向けてくるが、その前に緑の魔法円(マジック・サークル)が全員を包み込んだ。

 アンフィス・バエナとの戦闘で傷付いた身体やここまでの遠征で蓄積していた疲労が言えていく感覚。治療師(ヒーラー)であるカサンドラもその出力に目を丸くする中、緑の光が納まっていく。

 

「すまない、助かっ……た?」

 

「消えたな」

 

「結局、誰だったんでしょう」

 

「冒険者様にも色々いらっしゃいますからね。ベル様然り、神父様然り。そんな"お人好し"の類でしょう」

 

「この術者、カサンドラよりも冒険者向いていないことだけは分かった」

 

「酷いよ、ダフネちゃ~ん」

 

 全員の傷が癒えたことで余裕が僅かに生まれたからか、全員の視線が消えた騎士が立っていた位置に視線を向けながら話し出す。

 しかし、この後、戦闘の余波によって巨蒼の滝(グレート・フォール)に大量の瓦礫が落下。悠長に話し合いする暇もなく、彼らは()()()()()()()()退()を余儀なくされた。




これにてアンフィス・バエナ戦終了です。
先週から5000文字に挑戦してみましたが、如何でしょうか?10000文字ぐらいに比べて読みやすければ幸いです。
また、アンケートもやってみました。1番下? まぁ、お遊びです。
※お話の都合で10000、5000より少なめとか、多めとかあります。ご注意ください。

右顧左眄(うこさべん)
 周りの状況を気にして、進むか戻るか迷うこと

アスフィの消火剤
 既製品とヘルメス・ファミリアのみに出回っているという際は当然だが、アミッドの作った物は『焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の消火と火傷の治療』。アスフィが作った物は『焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の消火のみ』という違いがある。
 なお、アミッドはその薬を作るためにアンフィス・バエナ戦でも1人で全体を回復させながら焼夷蒼炎(ブルーナパーム)の観察をしてたようです。(出典;エピソード・ヘイズ)
 決して、この姉あってこの末っ子ありって思ってはいけない。

アイシャ
 借りは絶対に返す良い女。アマゾネスの習性的にアクスは対象外だが、アクスより下のレベルのアマゾネスがそろそろ牙をむいてきそうな気配を感じている。
 『まぁ、こいつに何かあったらディアンケヒト・ファミリアとフレイヤ・ファミリアが黙ってないだろうね』

ヘルメス・ファミリア
 超有能な密偵であるフェルズの目からは逃げられない。
 ※とは言ったが、本当はイシュタル・ファミリアは規模的に野放しにすると危ないので、団員の動向を監視していた際に見つけただけ。

ベルの救出
 アクス(幻影)によってかなり余裕は出ているが、それでも下層は過酷であることには変わらない。
 それでも戻って準備をしている間に『手遅れ』になる可能性も大いにある。なので幻影が消えた後に議論するが、結論が決まる前に原作の流れになる。

投稿頻度と文章量について

  • 5000文字(なるべく日/水)
  • 10000文字(なるべく日)
  • どっちでもいいよ、投稿さえしてくれれば
  • 聖女とのイチャイチャをもっと寄越せ
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