ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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本日か約1万字の日曜日更新に戻ります。
きつくなったり、気分変えたくなったら5000文字のを実施します。


120:運命

 一辺の長さが30Мほどの広間にて、前代未聞の『偉業(ぐこう)』が行われていた。

 ダンジョンで魔剣を打つという若干頭のネジが飛んだ最高峰の鍛冶師(椿・コルブランド)でも侵さない蛮行だが、そんなことを言っていられる状況ではない。

 ()()()()()()()()のおかげで肉体的に回復した彼らだったが、やはり下層に生息するモンスターの集団を相手しながらダンジョンを降りていくには実力もそうだが、圧倒的に準備が足りなかった。

 さらに言えば、()()()()()()()()()()()によって血や肉の味を覚えたモンスターたちは平時よりも明らかに凶暴化している。そんな『理不尽』を叩きつけられた末に袋小路まで逃げて来たものの、この遠征における生命線であった魔剣──『クロッゾの魔剣』がいよいよ尽きてしまった。

 

 進むも地獄。引くのも地獄。

 しかし、迷っている時間はない。刻一刻と自分たちの命がすり減っていく感覚に、ヴェルフは自らの呪われた血──クロッゾの魔剣で血路を開くことを決めた。

 それも生半可な物ではない。『クロッゾの最高傑作』を今、この場で作りだす必要がある。

 そのためには怪物の坩堝(ダンジョン)の中で自らが無防備になる『鍛冶場』を構成し、己や仲間の命を燃焼材(コークス)として焼べ、燃え滾る情熱(ほのお)を槌と共に鉄にぶつけるしかない。

 ありがたいというべきか、それしか方法が無いというべきか。全員の同意を得られたヴェルフが手早く準備を済ませてから溶岩のように煌々と灯る超硬金属(アダマンタイト)に挑みかかるが、そう話はうまくいくはずがなかった。

 

 そもそも超硬金属(アダマンタイト)とは、希少金属の中でも加工や鍛錬に並々ならぬ技術がいる。それこそ彼が挑んでいる金属は、人工的に軽量化された『加工超硬金属(ディル・アダマンタイト)』や某カジノの偽オーナーが金庫に使った粗悪品とは違って下層から産出された正真正銘の天然物。()()()()()()()完全に支配できるわけがなかった。

 

 それでも、ヴェルフは槌を振る。かつてない時の渦の只中に身を置いたものの、時たま聞こえてくるモンスターの咆哮に『雑念』が生まれる。その雑念はさらなる雑念を生み、やがて不可視の手がヴェルフの顔を()()()()()

 

(ふざ……けろぉ!)

 

 自らへの叱咤と研ぎ澄まされた一打により、赤い不純物と共に己の雑念を追い出す。ヴェルフはリリルカたちの命を預かったが、自身の命も彼女たちに預けている。

 つまりは、彼女たちの死が自分の死。ここで顔を上げたら、それこそ信用していないようなものだ。

 

(言う事を聞きやがれっ!)

 

 かと言って超硬金属(アダマンタイト)が素直に形を変えてくれるはずもなく。魔剣の『ま』の字すら出来ない時間が続く中、リリルカたちも窮地に立たされていた。

 合流したボールスと桜花が持った大楯で広間唯一の出入り口に『門』を拵えたが、モンスターの圧に少しずつ後退を余儀なくされる。それでも何とか持ちこたえるボールスたちの横合いからアイシャと命が切りかかり、カサンドラの弓を借りたダフネと千草が遠距離からダメージを与えることで、ボールスたちが再び出入り口に蓋をする。

 

「カサンドラ!」

 

「うん!」

 

 一瞬の膠着状態を見過ごすことなく、ダフネの指示でカサンドラが全員を癒す。本来ならば春姫の階位昇華(レベルブースト)も出し惜しみをしている余裕はないのだが、()()()()()()()()()()()()。広間までモンスターが入り込まれるという『いざ』という時に備え、彼女には回復薬(ポーション)や矢玉の整理などサポーター業務に従事してもらっていた。

 

 そんな一進一退の攻防を何度か行った頃。唐突に事態が動いた。

 

「なんだ、ありゃ」

 

 顔に『満身創痍』という文字が見え隠れするほどに疲れたボールスの目に、黒い何かが突っ込んで来るのが見えた。

 

***

 

 濁流のように『門』へと押し寄せるモンスターの群れへと躍り込んだ黒い騎馬たちは、蹄鉄の音を轟かせながらそれぞれ手に持った槍と盾をオールにひたすら前へと漕ぎだした。

 

 槍が振るわれる。盾が打ち鳴らされる。馬蹄が鳴る。

 

 闇夜のような真っ黒い槍を胸元に突き入れるごとに魔物が霧散し、爪牙を盾で受け止めながら道をこじ開けていく。

 それでも、凶暴なモンスターという荒波を渡るにはあまりにも無謀であった。

 左右から絶え間なく押し寄せる魔物たちが、騎士たちを呑み込もうとする。それに気付いた1騎が()()()()()()()()()()()盾を掲げ、自らの身体を犠牲に仲間を前へと進ませる。

 まるで最初から存在しなかったかのように霧散していく黒い影。それを見たボールスが『何してんだ』と叫ぶが、騎士は疾走を決して止めない。

 盾で牙を受け止め、槍で肩を穿ち、血飛沫の中を一直線に突き進んでくる。

 

「突っ込んで来るぞ!」

 

「ボールス! あれが来る瞬間に中に入れてやりな! 味方だ!」

 

「わ、分かった!」

 

 正直、いきなりどこの誰かも分からない黒いのがモンスターを蹴散らしながらこちらを助けに来るという『意味不明』が交通渋滞を起こしている心境なのだが、冒険者特有の長い物に巻かれようという考えからボールスは強く頷いた。

 

 そんなやり取りをしている間にも、騎士はモンスターの襲撃を受けながら近づいてくる。

 数十の牙を盾で受け、数十の急所(ませき)を槍で貫き、数十の灰を被りながら数多の咆哮を置き去りにする。その進撃は、一条の流星が夜空を裂くかのようだった。

 

 だが、流星は燃え尽きるものと相場が決まっている。

 

 門前へ辿り着いた瞬間──魔物の爪が騎士の足ごと馬を切断した。

 悲鳴すらなく、馬体が前のめりに崩れる。その勢いで空中へと射出された騎士は、それでも槍を手放すことなくモンスターを見やった。

 まるで品定めするかの如く周囲を見た騎士は、おもむろに1番『門』に近いマーマン目掛けて槍を投擲。刺突武器から矢へと変じた槍は重力の力を借りることでマーマンの外皮を貫通し、内部の魔石を砕く。

 マーマンが灰に変わると同時に宙を舞っていた騎士の身体は盾の間をすり抜けていき、待機していた春姫の腕の中に納まった。

 

「閉めな!」

 

 アイシャの怒号にボールスたちは慌てて入り口を盾で封じる。再びモンスターの勢いに少しずつ後ずさるものの、彼ら──特にボールスの顔は先ほどまでの絶望したような表情から不可思議な展開に困惑したようなものへと変わっていた。

 

【麗傑】(アンティアネイラ)! そいつ、誰なんだ!」

 

「こいつは魔法さ! 術者は知らないけど、こんなところまで追いかけてきたんだ! お人好しの極みってやつだよ!」

 

 アイシャの返答に派閥連合の面々は、たまに竃の館にやって来る春姫が持ちあげても大人しくしている危険度がマイナス方向に振り切れている小型犬。ボールスはたまにリヴィラの街に往診しにきては、いちいち顔役である自分にお伺いをたてに来る道理をわきまえた可愛い後輩の姿を思い浮かべた。

 

 しかし、()()今回の騒動とは関係ない派閥に入っている、それに、いくら首を突っ込もうとしてもあの神と団長が決して許しはしないだろう。

 そんな考えがヴェルフとアイシャ以外の頭に過ぎったが、今はそんな問答をしている場合ではなかった。

 

「んで、そいつは何が出来るんだよぉ!」

 

 広間に入り込もうとするモンスターを必死に抑えるボールスの叫びを余所に、アイシャは冷静に幻影を検分する。本来であればその戦闘力から遊撃に回ってもらうべきだが、無理にモンスターの群れに突っ込んだせいで足が無くなっている。これでは碌に戦えもしないため、彼女は少し前のように自身の指の腹に傷をつけて文字を掻き出した。

 

『治癒魔法を頼むよ。後、ボールスの話では27階層にベル・クラネルが居るらしい。あたしたちは奴を探しながら一旦、28階層を目指す予定だ』

 

 ボールスが語っていた『見たこともないモンスター』の情報やベルが『死亡寄りの生死不明』という情報はあえて書かない。アクスがそんなことを見捨てるような性質ではないが、()()()()がどう思うかは未知数なのだ。

『ベルが死亡したのであれば、捜索は打ち切り』とされたが最期。全員仲良くモンスターの腹の中に納まってしまうため、アイシャはもはやなりふり構ってられなかった。

 

 すると、幻影は首を縦に振る。まるで彼女の思惑など『知ったことか』と一蹴するかのような気安さと頼もしさに、微笑を浮かべたアイシャが幻影を持ち上げながら広間の中心部まで移動した。

 

「よく聞きな! これから治癒魔法をぶっぱなすよ!」

 

「治癒魔法だぁ!? そんなの付け焼刃だろ!」

 

 まるで『もっと気の利いた魔法を使え』と言わんばかりの文句に、アイシャは内心ほくそ笑んだ。

 アンフィス・バエナ戦の最中や後で実感したが、幻影──アクスの治癒魔法はかなりの効果が見込める。傷の治療のみならず、肉体的疲労も元々なかったかのように解消されるため、起死回生の一手にこれほど相応しい魔法はない。

 

「文句は魔法を受けてから言いな!」

 

 直後、広間全体に薄緑の魔法円(マジック・サークル)が灯る。モンスターに治癒が掛かったらそれこそ厄介なので、ボールスが急いで1匹のラミアを押し出す。

 すると、自分の【力】が格段に上がったことに気付いた。それと同時に鉛のように重くなっていた身体がふかふかのベッドで熟睡した後のように軽くなっており、全身の傷も軒並み消えている。

 

「こりゃぁ……」

 

「ボサッとするんじゃないよ! せっかく回復したんだ、トバすよ!」

 

 持ち上げた幻影が霞の如く消えたことを確認したアイシャが、朴刀片手に盾の間を通り抜ける。少し前なら自殺行為だが、治癒魔法によって傷と体力が癒え、ついでにステイタスが強化された今は違う。

 有り余る体力や上がった各種アビリティを発散するかのように暴れたことでモンスターからの圧力を幾分か下げた彼女は、再び盾の間を通る。仕留め損ねたモンスターの迎撃をダフネや命に任せると、彼女は深呼吸をしながらカサンドラの治癒魔法を受けた。

 

 後はそれの繰り返し。そして、そんなパターンが入った状況に終止符を打ったのが『砕けない魔剣』を見事作りおおせたヴェルフだった。

 かくして、少し前まで絶体絶命だった状況がたった1つの治癒魔法によって覆された。

 

***

 

「【ヘスティア・ファミリア】の場所が分かりました!」

 

 幻影の操作を手放したアクスが叫ぶと、周囲の異端児(ゼノス)が騒ぎ出す。その最中、1匹のゴブリン──レットがユーノの背中に姿を現し、自身で確保していた地図を広げだした。

 

「ミスター・アクス、どの辺りですか?」

 

「ここを下って……。こっちの方に走った突き当たりだから……。この広間です!」

 

 幻影を走らせた経路を思い出しつつ、アクスは最終的にリリルカ達がいた広間を指し示す。残念なことにそこは現在地の反対側。距離もかなり遠く、今から向かうとかなりのロスになる。

 それでも、『向かわない』という選択肢は異端児(ゼノス)たちには無かった。

 最前列に居たリドは、レットの連絡を聞いて即座に転身。幻影が辿った道を走っていく最中、アクスは近くを走っていたラーニェに話しかけた。

 

「【フレイヤ・ファミリア】にも伝えてきます!」

 

「分かった、リドを後ろに下がらせておく」

 

 連絡速度を上げるために動き出したラーニェの後姿を見ながらアクスはヘディンと一緒に居る幻影と位置を交換。『遅刻だぞ』と憤る彼に、先ほどの情報を連携し始めた。

 

「【ヘスティア・ファミリア】を発見。他にも報告したいことがあります」

 

「……話せ」

 

 先ほどの怒りはどこへやら。電磁モーターの如く手のひらを返したヘディンの態度はさておき、アクスは【ディアンケヒト・ファミリア】で培った説明能力を遺憾なく発揮する。

 

 【ヘスティア・ファミリア】含めた派閥連合を発見。窮地に陥っていたところを治癒魔法で傷や体力を完全に近いところまで癒したという報告。

 派閥連合の中にリヴィラの街の頭目を張っているボールスが居り、彼の証言からベル・クラネルが27階層に居るらしいという疑惑込みの連絡。

 派閥連合の目標は27階層および28階層でベル・クラネルを見つけることといった認識の共有。

 こうなると下層の中盤以降どころか()()にまで降りている可能性が高いため、今の内にアルフリッグやヘグニを28階層に集めて探した方が良いのではないかと相談。

 

「悪くない。おかげで大幅に時間を短縮できた」

 

 まさに、『報連相』のお手本のような通達の数々。加えて今後の作戦を立てるのに必要な情報が多分に含まれていたため、ヘディンはこれまた珍しくアクスを褒める。

 逆を言えば、それほどまでに【フレイヤ・ファミリア】の情報共有をしようとする能力が欠如しているという訳なのだが……。『女神しゅきしゅき、他は死ね集団』なために致し方ないと言えよう。

 

「だが、アルフリッグとヘグニは引き続き退路の確保をやらせることに変更はない」

 

「なぜですか?」

 

 ヘディンの明晰な頭脳が導き出した作戦にアクスは異を唱える。本当であれば電撃を浴びせて無理矢理黙らせるところだが、かなり効率的に事が運べたことで彼の機嫌は良かった。

 ゆえに、2度目の『講義』が始まる。

 

「仮にベル・クラネルが27階層や28階層で発見できなかった場合。おそらく……いや、確実に【ヘスティア・ファミリア】は28階層で止まらないだろうな」

 

「無理ですよ、道具も武器も魔剣もないんですよ? 引き返すしかないはずです」

 

「愚パルゥム、我々と異端児(ゼノス)たちの他に【ヘスティア・ファミリア】を追っている奴らが居るだろう」

 

 ヘディンの指摘にアクスは『あっ』と声を上げる。

 居るのだ。道具も武器もない【ヘスティア・ファミリア】が下層の終盤や深層まで足を伸ばせる援軍が。

 彼女たちを勘定に入れれば、下層は攻略できる。ただ、()()()()()()()

 

 【ロキ・ファミリア】でもあれだけの大部隊で進軍し、最高到達深度の更新にはサポーターでさえも選りすぐりの冒険者が選ばれる魔境。いくら『モンスターの同士討ち』というお題目を掲げて前線に徹した異端児(ゼノス)たちや、全体を俯瞰しながら高火力を叩きつけるヘディンとアレンが居たとしても『絶対』はない。

 もう少し安全マージンを取らなければならないのではないだろうか──と考えていたアクスだったが、ヘディンは()()()()()()()()()()()()()()()()冷笑する。

 

「貴様の考えは間違っている。【ロキ・ファミリア】は集団戦や連携に秀でた派閥であるからこそ、あれだけの人数を遠征に向かわせているだけだ。牽引できる実力者が複数人居た場合に限るが、下級冒険者や第3級冒険者でも深層に向かえることは貴様も経験済みだろう」

 

「あっ」

 

 実を言うと、【ロキ・ファミリア】がアクスを遠征に連れて行く前に()()()()()()()()()()()

『とある事件』の真相を暴こうとアミッドがヘイズにクエストを出し、満たす煤者達(アンドフリームニル)強靭な勇士(エインヘリヤル)と一緒に深層へ向かったことがある。アクスもついて行こうとしたが、当然ながら門前払いされたために偶然居合わせた『ブロニア・ラツール』の持つ()()()()()()()()()()()()()()()で無理矢理着いて行き──大怪我をした経験はある。

 当然ながらバチクソに怒られた挙句に1か月のおやつや往診抜きという厳しい罰を課せられたが、それはまた別のお話。本題はそこではない。

 

 たしかあの時は──。

 アミッド、ブロニアといった【ディアンケヒト・ファミリア】。ヘイズ、イルデ、ロナといった満たす煤者達(アンドフリームニル)。ヴァン、メルーナ、レミリア、ラスクといった強靭な勇士(エインヘリヤル)。後は戦力外としてアクスとヘルン。総勢11名だが、大半は実力者揃いだった。

 そう考えると、アーニャたち『正規の救出部隊』に加えて異端児(ゼノス)やヘディンたちが合流すれば深層への侵攻は可能。しかし、それでもアクスには懸念があった。

 

「それでも──」

 

「分かっている。回復関係に気を揉んでいるのだろうが、何のための幻影だ」

 

 懸念を先に言われ、その対応策を言われたことでアクスが硬直する。そんな彼にヘディンはアルフリッグたちへの報告と新たに生み出す幻影の1体を寄越すように命令すると、さっさと先へ行ってしまった。

 さらっと報告まで頼むという鬼畜ぶりだが、そこは流石の小型犬。反抗することもなく、アルフリッグたちへの連絡と幻影を戻すことを伝えていく。

 

──────────

 

「かくかくしかじか」

 

「四角い〇ューブか。分かった、幻影も引き払って良いぞ(いいように使われてるなぁ)」

 

──────────

 

「まるまるうまうま」

 

「委細承知。ククッ、我が運命(フェイト)は……あぁっ! 待ってぇ!」

 

──────────

 

 そんな具合にアルフリッグからは憐憫の視線で見送られ、相変わらずのヘグニの返事を完全に耳から追い出したアクスは異端児(ゼノス)たちの元へと戻ってくる。既に道程は半分ほど進んでおり、幻影で見たことがある特徴的な水晶を横目で見つつ、アクスは近くで走っていたリドを呼び寄せた。

 

「アクっち、どうした?」

 

「もしかしたら、27階層や28階層でベルさんの手がかりがなければ【ヘスティア・ファミリア】は深層まで突っ込むかもしれません。戦力的には整っているので」

 

「俺たちは流石にリリっちたちの近くには行けねぇし、【フレイヤ・ファミリア】も話は聞く限りじゃ遠巻きに見守ってるだけだぞ?」

 

「いえ、"もう1部隊居ます"。総勢4人で、内訳は少なくともLV4が1人以上。LV5は確定で1人です」

 

 初めは戦力の乏しさに難色を示していたリドだが、アーニャたちの部隊を派閥連合の直掩にすることを説明すると、『それなら』と納得する。そのままミレシアンを行使することで新たに生み出した幻影を周囲に展開。途中に通り過ぎた27階層へ行くための正規ルートにて1騎をヘディンたちに向かわせる。

 

 そうやってだだっ広い26階層の中を走り回っていると、前方の方から声が聞こえてくる。しかし、それは旧友と出会ったような歓喜の声ではない。思いもよらぬ事態が起こった時に放たれる驚愕の声だった。

 

「なにが起こった!」

 

「リド! あレヲ!」

 

 叫びを聞いたリドとアクスが最前列へ向かい、そこに居たフィアに声をかける。すると彼女は地面に降り、翼を前へと突き出した。

 そこにあったのは、水晶のことごとくが歪な形に歪んでいる真っ黒い空間。鉱物であるはずの水晶が飴細工のように滑らかな曲線を描きながら垂れ下がっており、真っ黒い地面の所々には黒く変色した粉の山が積もっている。

 見るからに異様な光景。ただ、幻影を通じて()()()()()()()()()()を知っていたアクスはユーノから降り、黒い地面の端の方に積もっている灰の中からパルゥムの拳ほど小さな魔石を発掘した。

 

「ヴェルフさんの魔剣ですね。さっき作ってました」

 

「ヴェルっちの!?」

 

「ココハ ダンジョン ダゾ! 鍛冶ヲ シタノカ!?」

 

 アクスからもたらされた情報に方々から『正気か!?』といった疑問の声が上がる。

 言わんとしていることは分かる。18階層や28階層でもない安全地帯以外で鍛冶なぞ、モンスターに自分の居場所を教える大変危険な行動といえる。

 まさに狂人にしか思いつかない手法。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。

 

 だからこそ、ヴェルフは考えたのだろう。リリルカたちもそうならないよう抗ったのだろう。それでも、『ダンジョンの悪意』の方が勝った。

 状況は最悪。それこそ、『狂わなければ命はない』というところまで転がってしまった。

 だからこそ狂気でもって全員を説き伏せ、その狂気に充てられた各々が行動し、愚行を偉業へと昇華させたのだろう。

 幻影越しだったが、押し寄せてくるモンスターの圧やじり貧な状況。そして、そんな絶望的な中でも鍛冶師に命を託す悲壮感溢れる彼らの表情はアクスの記憶に強く残っている。

 

 だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に横に立っていたレットに声をかけた。

 

「レットさん、この先に広間があります。誰も居ないと思いますが、念のためにちょっとだけ見て来てください」

 

「分かりました」

 

 おそらくだが、幻影が消えた後に魔剣が出来上がったことで一丸となって広間を脱出。その勢いで27階層へと下って行ったのだろう。

 だが、魔剣が出来上がる過程で1人でも死亡していれば……。重傷で手の施しようがなければ……。()()()()()()()は、迅速な移動の障害になる。

 ならばこそ、()()()()()()()()()。レットに見てくるように頼んだのはそのためだ。

 

 正体がバレるかもしれないが、そこはもう『ごめんなさい』と素直に謝って許してもらおう。そんな緩い感じにアクスが考えていると、アルルなどを連れて広間へ向かったレットが戻ってきた。

 

「ミスター・アクス。火ヲ使った後や装備の残骸ノみで何もありませんでした」

 

「腕や足もありませんでした?」

 

「ハイ、ありマせんでした」

 

「分かりました。……ちょうど、【フレイヤ・ファミリア】の方々が幻影と合流して27階層への連絡路付近に傷をつけています。僕たちも27階層へ行きましょう」

 

 これで決まった。

 彼らは五体満足で27階層に向かっている。ヘディンたちへの報告やここまでの移動を考えると、そろそろアーニャたちも合流するだろう。ヘディンたちも27階層へ向かっているため、後は異端児(ゼノス)たちが下りれば後はベルだけである。

 

「アクっち、少し移動したところに冒険者たちが知らない縦穴がある。先回りできるかもしれない」

 

「分かりました」

 

 縦穴を使えばショートカットが可能。もしかすると、アーニャたちよりも早く合流できるかもしれない。そんな期待感を胸に岸壁に隠された縦穴にそれぞれが飛び込んでいくと──。

 

 すぐ近くで固いものをぶつけあっている音や怒号が聞こえてきた。

 

「近いですね」

 

「キュー!」

 

「ワフッ!」

 

「スグ横の水路。サキニイキマス」

 

 地面に鼻を近づけたヘルハウンドのヘルガとアルミラージのアルルが先頭を行き、その後ろを勝手知ったるという様子でラミアのラウラが追いかける。

 クノッソスの脱出劇から始まって鬼畜ホワイトエルフに強制労働を強いられるまで散々だったアクスだが、ここに来てようやく運が向いてきたらしい。視線の奥には黒紫色の見るからに固い外殻に守られた魚──『ヴォルティメリア』が冒険者たちに襲い掛かっている。

 

『ウオォォォー!』

 

 一切の猶予もないことに異端児(ゼノス)たちの咆哮が轟く。アクスもユーノを走らせながら戦況を俯瞰し、フィンから託された『スピア・ローラン』を片手に持って投げ放った。

 銀の穂先をもった不壊の槍はカサンドラに襲い掛かるヴォルティメリアを薙ぎ払ったラウラの横を通り、リリルカに向かって突っ込んで来るヴォルティメリアの胴体を地面に縫い留める。

 

「うぇっ!?」

 

 いきなり飛来してきた銀槍にリリルカがその場でへたり込みながら目を剥いていると、幾度となく聞いた馬蹄の音が聞こえてくる。思わず顔を上げると、ユニコーンに跨った()()()が彼女を見下ろしていた。




馬に乗るランサーか、槍を使うライダーか、治癒魔法を使うキャスターか、話を聞かないバーサーカーか。
名前の元ネタ的にキャスターみたいなバーサーカー枠ですな。とりあえず、編成はアクス(バーサーカー)で!

幻影2騎 参陣!
 飛び出したものの、回復して終わった。まぁ、LV3なり立ての幻影に数の暴力が相手だからね、是非もなし。

報連相のあれこれ
 ディアンケヒト・ファミリアの幹部育成メニューがかなり優秀と思いきや、アクスが適当にそこら辺を歩き回ってかき集めた知識や経験が主なので他者は中々真似できないという。
 最低ラインがフィンに勇気を示すことで色々教えてもらえるぐらい気に入ってもらう、と言えば難易度は分かるだろう。

我が運命(フェイト)
 中の人(黒のバーサーカーのマスター)ネタ。
 タイトルを『運命』にした時からちょっと使いたかった。

女騎士を見上げるリリルカ
 リヴェリア様の声が聞こえる構図。またの名を運命の夜ともいう。
 問おう。貴女が私の要救助者か。
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