ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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122:裁定者

 ──あの時、命令していなければ。

 ──あの時、一緒に帰っていれば。

 

 何十回、何百回も自問した言葉を反芻させながら、私は形見分けとしてもらったTシャツに顔をうずめる。深く息を吸い込むとあの子との思い出が脳裏を過ぎり、続けて薄くなっていく残り香に心が冷たくなっていく。

 ふと空を見れば、暗い夜空に半月が1つ。見事に割断された月に、私は失ったもう片方の月(アクス・フローレンス)の名を呟く。

 

 あの子はすごかった。

 私と同じ考えを持ちながら、それでも不足と足掻いてモノにしてしまう。それがどんなに苦しく、どんなに難しい道筋なのかは私自身がよく分かっている。

 

 なのに、あの子はその壁に()()()当たっていく。

 それもこれも『私』のためだという。これほど嬉しいことはなかった。

 ただ、同時にこのまま成長すれば、今度は私が置いて行かれる予感もした。

 あの日の夜、淡い恋心と共に『釣り合わなくなる』という焦燥が過ぎったこともよく覚えている。そのためにより一層の研鑽をしよう。そう誓った矢先だった。

 

 もはや、私の心の月はもう2度と満月にはならないのだろう。

 

 ──決まっている。

 

 私が……。アミッド・テアサナーレがそう命じたからだ。

 

***

 

 マリィからもたらされた情報は、即座に『雄叫び』によって共有される。人には分からない()()()()()()()だが、意味は分からずともその『声』は()()()()()。すなわち、アーニャたちを派閥連合の下まで案内した。

 

「いったい、どーなってるニャ!?」

 

「モンスター同士が殺し合ってるだけでしょ?」

 

「ミャーとルノアはこんなところまで滅多に来ないから知らニャいけど、そういうもんじゃニャいのかニャ?」

 

 恐ろしく強い武装したモンスターの集団がヴォルティメリアをなぎ倒していく光景に、アーニャは思わず叫んでしまう。しかし、地上で殺し屋などをしていた都合でアーニャや椿ほどダンジョンのことに精通していないルノアとクロエはダンジョンギミックの1つとして考えていた。

 

 ただ、1人だけ──椿はそのモンスターたちが持っている武器や()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()を見て小さく『そうか』と呟いた後に一気に前へと足を進ませる。

 

「ちっこいの、後ろの奴らに事情を説明してやれ!」

 

「は、はい!」

 

 リリルカとすれ違う刹那に一言だけ依頼をしてからヴォルティメリアを片付けていく椿。LV5の投入というだけで既に大勢は決したに等しいが、リリルカから事情を聴いたアーニャたちLV4数枚の本格的な参戦によって『絶対絶命な窮地』から一転。『残存戦力の掃討』にまで危険度が急降下する。

 

 それでも、ダンジョンは何が起こるか分からない。そのため、椿と話し込んでいるヴェルフ以外の派閥連合はひとまず一塊となり、倒せないまでもヴォルティメリアを弱らせながらリリルカやアイシャの話を聞いて状況の把握を始めた。

 

「そもそも、なんでモンスターが殺し合ってんだ。俺たちは眼中にないって感じだしよ」

 

「あれはテイムモンスターだよ。元主神……イシュタルから破門されたテイマーが躾けてる。今は【デメテル・ファミリア】だったかね」

 

『ていむ~ていむ~』

 

 『テイムモンスター』という言葉に春姫やリリルカの傍に居たフィアやウィーネがアクスに習ったばかりの言葉を呟く。するとその単語が聞こえたのか、他の異端児(ゼノス)たちも揃って『テイムー!』と大合唱を始めた。

 その光景にボールスを始めとした異端児(ゼノス)と関わり合いがない面々は理解が追い付かないのか『ハァ!?』と疑問の声を上げる中、アイシャは内心『あいつ(アクス)、なにやってんだい』とアクスに悪態をつきながらも心配そうに彼女を見つめる春姫にだけ分かるようウィンクする。

 その仕草を正しく受け取った彼女はコクリと頷くと、傍で立っていたウィーネをより一層強く抱きしめた。

 

 そんなことをしていると、あれだけ大量に居たヴォルティメリアの群れがすっかり居なくなる。目下の敵を撃滅した冒険者と異端児(ゼノス)は、お互い相手の出方を観察するかのようにお互いを見合っていた。

 

「集合!」

 

 一度火をつければ燃え広がりそうな気配の中、水路が近くにある広間の隅っこを陣取ったフィアナ……と誤魔化したアクスが槍を掲げながら叫ぶ。その指示に異端児(ゼノス)たちはアーニャたちを刺激しないようゆっくりとアクスの方へと集まっていったため、ここでようやく異端児(ゼノス)のことを知らないアーニャたちは武器を降ろすことが出来た。

 

「リドさん、全員にこれからのことを伝えてください。話をしてきます」

 

「分かった。マリィからもう1度詳しい話を聞いておく」

 

 聞かれないよう小声で頼みごとをしたアクスは、派閥連合の下へユーノを歩かせる。その道程で幻影も集まり出し、その数にボールスが『あの強さであの数かよ』と驚くと同時にアイシャはユーノの背中からアクスを引き離した。

 

「久しぶりじゃないか、"フィアナ"。元気だったかい?」

 

「お陰様で。なにやら大変になってるとかで駆けつけてきましたが、遅かったですか?」

 

「ちょっと遅かったね。だけど、十分過ぎるほどさ。ところで、旅に出る前はあっちの"お仲間"は居なかったじゃないか。どこで連れて来たんだい?」

 

「ダンジョンで仲良くなりまして。そのままテイムしたら受け入れてくれました」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()軽口の応酬。しかし、その気安さに元々余裕がなかったリリルカたちは、『フィアナはアイシャの元同僚である』とすっかり騙されてしまう。

 

 しかしながら、()()()()()()()()()()()戦力であることには変わりない。フィアナや異端児(ゼノス)たち。そして救援に来てくれたアーニャたちのレベルといった情報をリリルカは分析し、そこにレットから伝えられたリドの雄叫び(メッセージ)を混ぜ合わせる。

 そうして出来上がった『方針』を彼女は冒険者全体に共有した。

 

 ベルとリューはワーム・ウェールに呑み込まれ、ここより下の階層に連れて行かれたこと。

 よって、今の状態で一旦28階層の安全階層に向かうこと。

 そこで改めて部隊を編成。その状態で28階層以降でベルを捜索すること。

 

 この3つの方針にボールスたちは唖然とするが、リリルカは『異論は受け付けない』とどこぞの暴君(ヘディン)のように話を取り合わない構えを見せた。

 

 すると、唐突にアイシャの横で成り行きを見守っていたアクス──フィアナが手を挙げる。

 

「すみません。捜索範囲ですが、一旦は38階層の白宮殿(ホワイトパレス)までにしませんか?」

 

「なぜでしょうか?」

 

「皆さんの装備、戦力、情報不足。挙げればきりは無いですが、白宮殿(ホワイトパレス)の下……。39階層は行方不明者や遺体の捜索が絶望的に困難だからです」

 

 39階層。別名、『水雷の丘』は端的に言えば巨大な湿地(ムーア)である。

 沼に沈んでいる存在を見つけて引き上げるだけでも難儀だが、この階層には驚くべきことに『天気』が存在している。

 瀑布の如き水流が噴き出し、雷のように大地に突き刺さり、その余波が豪雨となって冒険者の足を鈍らせる。さらには上から降り注ぐ水流──『水雷』と呼ばれる現象は、まともに食らえば上級冒険者でも全身の骨が粉々になるほどに強力で、降り注げば降り注ぐだけ沼地や水場が広がっていく。

 つまり、出現するモンスターの種類や襲撃タイミングが目まぐるしく変わるのだ。

 

 そんなところに突っ込む? 『無理無茶無謀(無理ゲー)』以外に言葉が見つからない所業。師匠(ヘイズ)の口調を真似れば、『寝言は寝てから言ってくださーい』である。

 

「なので、38階層が限界です。それ以降は申し訳ありませんが、私は去ります」

 

「同感だね。あそこで人探しなんて御免だよ」

 

 最高到達階層が45階層であるアイシャは、フィアナの語った39階層の内容に頷く。探索は後々になるだろうと深層の情報は収集してこなかったリリルカは、残念ながら彼女たちの判断が誤っているといえる材料がなかった。

 ワーム・ウェールの生態も分からないため、『せめて38階層までに見つかって欲しい』とリリルカは強く願う。そんな時、ダフネが声を荒げた。

 

「ねぇ、そもそもだけど私たちの目的は【白兎の脚】(ラビット・フット)の捜索でしょ? ワーム・ウェールに呑まれたって……。生きてるかも死んでるかも分からないじゃない!」

 

「だ、ダフネちゃん! きっとベルさんたちは生きてる! 助けに行かなきゃ!」

 

「~~! 分かったわよ! だけど、私も深層の情報は知らないから【麗傑】(アンティアネイラ)とそっちの子の言うように38階層まで! それ以降は何と言おうとも帰るからね!」

 

 疑問の声を呈するダフネにいつもの自信なさげな姿勢から打って変わり、毅然とした態度とはっきりした口調で『助けにいこう』と説得するカサンドラの姿に自棄気味に了承する。

 

 だが、そこにボールスが異を唱えた。

 彼と派閥連合は、いわば()()()()()()合流したに過ぎない。いくら入り口とは言っても深層という熟練冒険者でさえも判断を誤ればすぐさま死んでしまうような環境を前に、『最後まで付き合う義理はない』と言おうとするものの──。

 

「なに言ってんだい。あんたは貴重なLV3なんだ、精気が出なくなるまで動かすのがアマゾネス流だよ」

 

「ふ、ふざけんなぁ!」

 

 歓楽街であればバッチこいな妖艶なセリフだが、こんな生と死の狭間にあるシチュエーションで言われたことにボールスは怒りの声をあげる……が、悲しいかな。相手はLV4。俗に言う『魔王(かくうえ)からは逃げられない』というやつだ。

 

「き、気が狂ってやがるぞ、おめぇら! 今からでも遅くはねぇから他のファミリアも巻き込もうぜ! 俺が口添えしてや──」

 

 それでも尚、冒険者という諦めの悪い職種のお手本のような存在である彼はゴチャゴチャと何やら訴えかけていると、動かずにじっとしていたフィアナがその小さな口を開く。

 

「──ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ。本当に玉がついてんのか?」

 

『…………は?』

 

 見るからに大人しそうなパルゥムから下品極まりない煽りが聞こえる。その瞬間、『チーン』と抜けた金属音がアイシャと椿以外の頭に反響し、時が止まったかのように動かなくなった。

 その他2名は何やら面白そうな気配に顔をニヤつかせていると、彼女は再び言葉を紡ぐ。

 

「失礼。それともなんですか。そのナリで、汚い股にぶら下がってるのは、パルゥムの槍よりも小さい"小枝"ですかね? ……と、そこのパルゥムの少女が言っておりました」

 

「だ、誰が小枝だ、コラァ!」

 

「ふざけんじゃねぇです! あなた、絶対名前負けしてますよ! 伝説(フィアナ)に謝れー!」

 

 身体的特徴を嘲笑ったことでボールスはキレ、さらっと責任転嫁したことにリリルカは声を大にして叫んだ。

 しかし、そんなリリルカにアイシャは『落ち着きな』と宥め、その流れでボールスの肩を掴む。その行動にぎょっとした彼だが、同時に反対の肩もがしり。目玉だけを動かすと、そこにはハーフドワーフがにこやかに笑いかけていた。

 

「小枝ではないと言うなら証拠を見せてもらおうか」

 

「いやいや、【単眼の巨師】(キュクロプス)。アタシら以外は全員嬢ちゃんだ、小枝であっても刺激が強すぎるってもんさ。それに、別にアタシはこいつの小枝なんて見たくもないね」

 

「ハッハッハ、それもそうだ。よし、では代替案を出すとしようか」

 

 まるでコントのような掛け合いで話を進めていくアイシャたち。そんな彼女たちの声を聴いていたボールスの脳裏には、自らがまな板の上に載っているようなイメージが過ぎっていた。

 ここで『俺は帰らせてもらう』と言ったが最後。リヴィラの顔役をすげかえられることから始まり、最終的に何もかもを失う。……そんな気がする。

 そもそもだが、『水の迷都奥深く(こんなところ)』で1人だけ放り出されても、待っているのは惨たらしい死あるのみ。到底味わいたくない地獄を想像したのか、ボールスの顔色が真っ青になった瞬間にアイシャと椿は畳みかけた。

 

「なぁ、ボールス。男を見せるなら、深層をちょっと見てくるぐらいわけないよな?」

 

「神々がよく言う"先っちょだけ"というやつだ。なーに、ここからリヴィラの街に1人で帰るより、手前たちと一緒に来た方が生存率は高いだろうさ」

 

 格上の女傑2人に諭されるボールス。その姿に()()()()()()()()()()()()()()()、ふと満たす煤者達(アンドフリームニル)のお姉様方を思い出した。

 理由は全くもってわからないが、今のボールスと自分が重なって見えたことに疑問を持っていると、彼はとうとう観念したらしい。『ついて行けば良いんだろ、畜生』と自棄気味に叫んだため、かなりの力技だったが全員の意見が1つとなった。

 

「では、まずは28階層を目指しましょう!」

 

 リリルカの号令に改めて進攻が開始される。

 初めこそぎこちなかったが、前衛の異端児(ゼノス)と派閥連合の周囲に布陣したアーニャたちという役割分担がうまくかみ合いだした途端に進みは段違いになる。特に戦闘面でもそうだが、幻影が時折回復してくれるために全員漏れなく傷知らず、体力知らずとなったことで進みは格段に速くなる。

 

 すると、ようやく落ち着いてきたのだろう。リリルカはフィアナについて興味を持ちだした。

 

「あの人、本当に【イシュタル・ファミリア】なんですか?」

 

「ん? あぁ、そうだよ。春姫と入れ替わりで旅に出ちまったけどね」

 

「ほう……、旅に……ね」

 

 アイシャの回答に椿が疑惑を込めた視線をフィアナに向けながら何やら呟くが、それに気づく者は誰も居なかった。

 

***

 

 勢力を大幅に拡大した派閥連合が再び歩みを始めて数十分。未だ27階層を爆進していたものの、地図上ではそろそろ28階層の連絡路にたどり着くところまで来ていた。

 

「リドさんたちは下がって。グロスさん、お願いします」

 

「ワカッタ」

 

「おうよ!」

 

 それもこれも異端児(ゼノス)の力が大きい。冒険者換算で第3級や第2級に位置する彼らは、生半可な攻撃では決して倒れないポテンシャルを持っている。

 

 それでもここは下層。さらにはモンスターも凶暴化している中を突っ切っていくが、そこはしっかりと対策を立てている。

 リドの班、グロスの班、ラーニェの班と1戦ずつ先鋒を交代していき、多少の傷であっても自動治癒魔法(オート・ヒール)を掛けることで傷を治療していく。本当は治癒魔法を使えば多少の強化も入るのだが、魔法円(マジック・サークル)の出現位置でせっかく幻影で誤魔化していた正体がバレかねないために苦渋の策というやつだ。

 

 こうして、指揮(フィン)治癒(アミッド)。2人の師から培った力によって異端児(ゼノス)たちは即死以外ではたちまち回復してしまう『不死の軍団』に変貌。さらには『恩人(ベル)を助けたい』という共通認識により、異端児(ゼノス)たちの士気は留まることを知らない。並み居るモンスターを打ち倒しつつ、正規ルートを突き進んでいく。

 

「そういえば、【フレイヤ・ファミリア】に連絡しなくても良いのか?」

 

「もう筆談で連絡済みです」

 

 リドの問いかけに、自動治癒魔法(オート・ヒール)を行使していたアクスは自由な方の手で何かを書く仕草をしながら答える。

 

 ──というのも、一定時間ごとにスペルキーを用いて幻影と位置を交換し、報告してから再び戻ってくるというどブラックな報告環境を何度も行っていれば、如何にアクスでも辟易する。そのため、少しでも楽をするために彼は【ディアンケヒト・ファミリア】で行っている『議事録』を参考に筆談で詳細を報告していた。

 

 議事録の極意は話を全て書かずに、ニュアンスをはっきりさせつつも流れを追えるように書くこと。以前にディアンケヒトたちから学んだとおりに先ほどまでの話の要点を書いてしばらく経ったが、未だにアレンを先回りさせるなどの直接的なクレームは来ない。

 どうなっただろうかと幻影の方に意識を集中させると、そこには『念のため』と幻影に持たせていた地図の裏にびっしりと書かれた文字が映っており、その横に綺麗な字で『28階層で異端児(ゼノス)と事情を知っている奴らで話し合いたい。場所を用意しろ』と書かれていた。

 

「【フレイヤ・ファミリア】から返信来ました。リドさん、28階層で冒険者が寄り付かない場所ってあります?」

 

「あぁ、あるぜ。外周のはずれにオレっちたちがよく休憩する場所があるんだ。あそこに行ったら水晶飴(クリスタルドロップ)肉果実(ミルーツ)がいつもかなり生ってるから、冒険者は来てないと思うぜ」

 

「分かりました。28階層に到着したら、リドさんが先導してください」

 

「分かった」

 

 リヴィラの街のような宿場町はなくとも、安全階層(セーフティポイント)となっている28階層にはそこで商売する冒険者が居る。この状態で突撃するとイヴィルス相手に18階層行ったことの二の舞になり、異端児(ゼノス)たちへの悪感情が再燃してしまう。

 そのため、28階層では一旦派閥連合には休息を取ってもらう。その間にアイシャや椿。ヘディンとアレンで話をすれば適度に疲れは取れるだろう。

 

「レットさん、リリルカさんに28階層で一旦休息するように伝令をお願いします」

 

「分かリましタ」

 

「アクス、もうすぐ28階層の連絡路だ」

 

 レットに指示を出してから集合場所のことを筆談でヘディンに連絡していると、アクスの横からラーニェが声をかけてくる。前を向けば下へ続く大きな横穴が小さく口を開けており、このままの速度を維持すれば数分もしない内に28階層にたどり着くだろう。

 

 しかし、その前にやることがある。アクスは周囲の異端児(ゼノス)に聞こえるように指示を出した。

 

「28階層に到着したと同時にグロスさんたちは空から偵察してください」

 

「ウム」

 

 安全階層とは言いつつも、それはモンスターを生み出さないだけで連絡路からモンスターが侵入。そのまま群れを形成することはよくある。

 そのため、グロスたちのような飛行が出来る異端児(ゼノス)に矢や魔法が当たらない高度で偵察してもらい、そのまま外周を伝ってリドの言う目的地に向かうのが最善手だ。

 問題は28階層に踏み入った瞬間に冒険者に会うことだが、その際はお互い運が無かったとして即座に無力化。後でリリルカたちに介抱してもらえば悪いことにはならないだろう。

 

 しかし、幸い──というべきだろうか。28階層の入り口付近に冒険者の姿はなく、そのままグロスたちに空中から偵察してもらいながらリドの先導で無事に異端児(ゼノス)たちが28階層を利用する時によく使う洞穴にたどり着いた。

 傍には天井を穿たんばかりの長大な水晶がいくつか突っ立っており、その周辺には大小様々な水晶が芝生のように群生している。その中には希少な食材や果物が封じられており、水晶の状況から見るにここ数日で人が出入りした形跡もない。リドが『穴場』というのも頷けるというものだ。

 

 ただ、この状態では話をするどころではない。なので水晶を砕いては端に寄せて行き、少しでも話し合いが出来るように全員で場を整えていると、片手間で幻影の様子を見ていたアクスが声を上げた。

 

「ちょうど今、【フレイヤ・ファミリア】が28階層に到着しました。こちらに連れてきます」

 

 自分たちの辿った道程を追跡するよう幻影に指示を出しつつ、その間に派閥連合の方からアイシャと椿を呼んでくるように頼もうとしたが、そこでアクスは()()()()()()ことに気付く。

 人材……この場合は『モンスター材』というべきか。アクス抜きで彼らを他の冒険者が居るであろう所に向かわせるのは元の木阿弥。必然的に彼女たちを呼ぶのは自分の役目……ということになる。

 

 ならば、異端児(ゼノス)たちでもこなせる仕事を割り振る。『適材適所の人材配置は指揮の基本だよ』と脳内でフィンが囁いてくるため、アクスはまとめ役であるリドとグロスを呼びだした。

 

「派閥連合の方から話が分かる人たちを連れてくるんで、リドさんとグロスさんは対応お願いします」

 

「ナゼ オレガ……」

 

「一応オレっちたち、代表みたいなもんだろ。あ、アクっち。そいつらって【ロキ・ファミリア】と比べてどうなんだ?」

 

「話を聞かない。自分たち優先。主神であるフレイヤ様の悪口を言った瞬間に消し炭にする人たちです。それと、エルフなので握手は絶対無理です」

 

 ほとんどは経験した上で導き出した【フレイヤ・ファミリア】の所感だが、おそらくは合っているだろう。後ろの方で『そんなの任せるとか、鬼か!』と文句が聞こえるものの、ぶっちゃけ手が足りないのが悪い。それにヘディンについている幻影に筆談で『話が分かる人を迎えに行ってます』と報告しているのだから、少なくとも鬼と言われる筋合いはない。

 

「先は長いですし、水晶飴(クリスタルドロップ)肉果実(ミルーツ)を派閥連合に持って行きましょうか。ウィーネさん、爪の手入れとローブの留め具をしっかりしたら【ヘスティア・ファミリア】の皆さんのところに行きましょうか」

 

「うん!」

 

「ウィーネには優しいんだね」

 

「まぁ、【ヘスティア・ファミリア】は連合の中心ですからね。精神的に余裕を持ってもらわないと困りますし」

 

 半分は本当で、半分は嘘だ。

 ウィーネはここ最近生まれたこともあり、アクスの目から見ても()()()()()()。それにガチリザードマンのリドやローブから翼が見えるフィアよりも遠目から見たら冒険者と間違えやすい。無いかあればアイシャがフォローを入れてくれるだろうし、万が一でも暴れることもないだろう。

 

 そのため、この状況下なら存分に甘えられるという判断である。

 ……ちょっとした兄貴分みたいな気持ちが芽生えたのは、本人のみの秘密である。

 

「さて、行きますか。爪は大丈夫そうですね」

 

 いくつかの水晶飴(クリスタルドロップ)肉果実(ミルーツ)異端児(ゼノス)たちが持っていたボロボロのバックパックに詰め込んだアクスは、ウィーネの爪が人間らしく丸くなっていることを確認してから彼女をユーノに乗せる。後は自身も騎乗し、『なるべく早く帰ります』と言い残してから幻影と並走する形でユーノを前に進ませた。

 そのまま2~3の注意事項を話していると、大きな水晶の近くで一息ついている派閥連合の面々を発見。馬蹄の音に椿たちが真っ先に気付いたようで、手を大きく振りながらアピールしてくる。

 

「ファアナだったか。モンスターたちはどうした?」

 

「あちらで休ませています。あ、これ採って来たので」

 

「おぉ、すまないな……っ!」

 

 水晶飴(クリスタルドロップ)などが入ったバックパックを受け取ろうと椿が屈んだ瞬間、フィアナは彼女に小さく『状況をお話します』と伝える。その言葉に少しだけ固まった椿だが、すぐさまバックパックの中にある肉果実(ミルーツ)を豪快に齧ってからバックパックを近くで休んでいた千草に渡した。

 

【麗傑】(アンティアネイラ)、一応だがモンスターを見張るべきじゃないか? ここで暴れられても困る」

 

「そうさね。春姫、"その子"はちゃんと見張っときな」

 

「は、はい!」

 

 ついてこさせた幻影に派閥連合全員を回復させ、フィアナは元来た道を戻っていく。先ほどのやり取りからウィーネをもはやモンスターではなく幼子のようだと理解したアイシャは、春姫に彼女の面倒を見させる形で椿と共にフィアナを追う。

 

「ところでフィアナよ、ずいぶん遠くに行くのだな」

 

「当たり前だよ、【単眼の巨師】(キュクロプス)。"まだ役者が足りないだろ?"」

 

「あぁ、【フレイヤ・ファミリア】か。冗談ではなかったかぁ」

 

 来た道を戻る間、ずいぶん遠くまで走らされることに訝しんだ椿。しかし、既に様々なことを知っていたアイシャの一言に水晶で照らされた天井を仰いだ。

 その声に混じるのは諦めという感情に気疲れをブレンドしたようななんともアンニュイな雰囲気。それだけ【フレイヤ・ファミリア】の相手は荷が重いことを物語っていた。

 

「あんたも"こっち側"なんだ。ボールスじゃないが、一蓮托生で頼むよ」

 

「参ったな、とんだ貧乏籤だ。しかも、不壊属性(デュランダル)ときたものだ。"それ"の説明はしてくれるんだろうな?」

 

「当然です。"僕と一緒に作りましたもんね"」

 

 唐突に放り込まれた爆弾。その衝撃といきなり頭の中の疑惑が確信に変わった反動により、椿が『あっ……』と珍しく狼狽えるが、彼女が平静を取り戻す前に異端児(ゼノス)たちの集合地点へとついてしまった。

 既にヘディンたちも到着しており、傍には若干やつれたリドが力なく項垂れている。そんな彼がアクスの姿を見るや否や、『遅ぇよ!』と涙ながらに訴えるもののアクスは聞こえない振りをしながらマジックアイテムの機能を切る。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】所属、アクス・フローレンスです。派閥が異なるどころか冒険者とモンスターという本来は相容れぬ者同士が集まっておりますが、向かう方向は同じだと思っています。それぞれの目的のために……今一度、話し合いを行いましょう」

 

 こうして原作では決して交わらなかった存在たちが、アクス・フローレンスという名の『裁定者』によって無理矢理繋ぎ合わされた。




裁定者 = 型月ジャ●ヌ = 旗 = アクス 証明完了。

アミッド
 絶賛【そうだ、聖女。お前が殺した中】
 『釣り合わなくなる』は中の人(某狂犬)ネタだけど、なんか言いそうだったから。
 つまり、アクスが下履きを信仰して、魔力で動く鎧を着て、泥沼や石砲弾をぶちかますという。ダンジョン探索に向かなさそう。

テイム~
 21巻のことを先取り。ノリが良いというべきか。

伝説(フィアナ)に謝れー!
 詳細はナイツ・オブ・フィアナ参照
 アクスとしては朧げに浮かんできた罵倒を言っただけという

39階層
 エピソードヘイズで登場。一面沼かつステージギミックでモンスターの入れ替わりが激しいので、遺体はまず見つからない。
 ロキ・ファミリアの遠征に行く前のアクスの最高到達深度(非公式)。

指揮と治療
 順調に実っていく♠
 基本的に某ゴブリンをスレイする人のように自身のポケットを弄って、今まで詰め込んだものを取り出しているだけです。ハムスターみたいっすね。

疑似不死の軍団
 即死しなければいくらでも戦線復帰が出来る。満たす煤者達(アンドフリームニル)のお姉様方から学んだ心意気である。
 ちなみに治癒魔法ではないため、聖義巡心(ヴィヤーサ)は乗らない。
 そのため、まだもう1段階変身を残している状態。
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総合評価:12981/評価:8.65/連載:64話/更新日時:2026年02月03日(火) 07:02 小説情報


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