28階層の外周の外れ。冒険者も寄り付かない僻地にて、本来なら決して交わらない者同士の会合が行われていた。
【ヘルメス・ファミリア】、【ヘファイストス・ファミリア】、【フレイヤ・ファミリア】、【ディアンケヒト・ファミリア】。そして
『
いったい、子供に何をやらしてるんだ──という諸兄らが居るかもしれない。ただ、その憤りは一旦横にずらして思い出して欲しい。
アクスの次に情報を持っているのは【フレイヤ・ファミリア】である。用兵に関してまとも枠ではあるが、それ以外はタイパ重視な鬼畜ホワイトエルフに碌な情報交換が出来るだろうか。時短目的で渡す情報を取捨選択しだし、満足な情報がもらえずに混乱した末にアクスがそれとなく補足する未来しか見えない。
端的に言うと、『まともなのは
「では、今さらですがはじめに。皆さんの目的はベル・クラネルさんとリュー・リオンさんの救出。これであってますか?」
しかし、これはいわば前提条件。続いて【フレイヤ・ファミリア】に共有したベルについて今の時点で分かっていることを共有し出した。
カクカクシカジカ四角い●ューブと話し、最終的に深層初っ端のホワイトパレスまで探しに行く可能性を秘めていると彼が締めくくると、アイシャは短く息を吐き出した。
「するってぇと、なんだい? あんたと【フレイヤ・ファミリア】はウラノスの指示で来てっ!?」
随分豪勢な編成で来たものだと驚いたアイシャの喉に突如としてヘディンがディザリアの刃部分を突きつけてくる。思わず黙った彼女は視線を彷徨わせていると、彼は怒気を漲らせながら持っていたディザリアを引いた。
「アマゾネス、低俗な冗談で時間を無駄にするな。ただでさえ、愚猫は連合の監視を勝手に行って非効率極まりない状況だ。今度、余計なことを言ってみろ。"撥ねる"ぞ」
「す、すまなかったね。それで、
「お世話になってるんで、なし崩し的にですがね。それはそれとしてヘディンさん、これを」
そう言って大量の
すると、その質問にアクスが『これから下の階層は、ヘディンさんたちが本格的に動くと思うので』と情報や進攻方針の共有を兼ねた説明を始めた。
29階層からは『密林の峡谷』と呼ばれるほど巨大な樹木が密に生い茂った大密林となっている。その階層ではステイタスの誤魔化しが通用しない巨大かつ非常に狂暴な『恐竜種』のモンスター達が大量に跋扈しており、その中でも『ブラッドサウルス』と呼ばれる固体は他種のモンスターでさえも平然と喰らうため、モンスターの魔石を喰らうことで強化種に変じる可能性が極端に高い。
つまりは、
「今のパーティで強化種や
「正攻法と言ったが、"別のやり方"も検討したか?」
目を閉じながら少しばかり満足げなヘディンはさらに問う。そしてアクスも、その質問内容も考えていたかのように速やかに正攻法に決めた理由を説明し始めた。
『密林の峡谷』を踏破するには3つのルートがある。
1つ目は巨大な幹に沿って駈け下りる方法。これは上の階層へ素早く登るためにも流用できる有名な裏技だが、同時に危険な賭けでもある。
有翼の恐竜種であるゲイルプテラ。それが大量に上空を飛行し回っているため、どうしてもそれに見つかってしまうのだ。
それらを魔導士の魔法や魔剣で対処するとなると、どうしてもヘディンの存在が露見してしまう。なので、このルートは使えない。
2つ目は地下洞窟を抜けること。
無論だが、アクスの手持ちにも他の面々の手持ちにも解毒剤は持っていない。仮に激毒をもらってしまえば、ユーノの角かアクスの治癒魔法による解毒しかないが、後者については本人が『
そのため、こちらも現実的ではない。
なので、3つ目である密林を突っ切る方法が1番安全性が高くて1番確実な方法と言える。
そこまで説明すると、口を手で覆いながら明らかに笑っているような声を上げたヘディンが『教えたのは
「及第点だ。これから先はアレンを壁の破壊や寄ってくるモンスターの対処に当たらせる。私も飛行系モンスターや深層の耐久が高いモンスターの対処に魔法を使うから、巻き込まれないように工夫しろ。それと、【
未だ話し合いが済んでいないのに勝手に話を切り上げるところが実に【フレイヤ・ファミリア】らしいが、そこを指摘するのは野暮──というか、自殺行為と同義である。
そのため、早々に話題をアクスがここに居ることへと移した椿とアイシャ。『なんで居る』や『要点だけキリキリ話しな』とパルゥムの子供に詰め寄る姿は誘拐の現行犯に見えなくもないが、それを指摘する者は居なかった。
「お二人はクノッソスについては?」
「あぁ、あの
「元主神がご執心だったやつだね。まったく、ここでもイシュタルかい」
大前提であるクノッソスについて、2人共情報を持っている。そのことを確認できたアクスは、第1次侵攻のことから話し出した。
【ロキ・ファミリア】を主軸にした数派閥から成る連合が件の人口迷宮内に潜む
それは半分成功。しかし、もう半分──オラリオを破壊しようと目論む邪神を
その際に謎の緑肉がクノッソスを覆い尽くそうとし、自分諸共フィンも巻き込まれそうになったので彼だけでも助け出そうとしたこと。
幸運なことに武装したモンスタ──-
そして、ベル・クラネルが行方不明ということで移動する
「話を聞く限り、たしかに成り行きだな」
「そうですね。【フレイヤ・ファミリア】に至っては、目的が一致しているので共闘してるだけです」
「いや、あの様子は共闘じゃないよ。むしろ、都合の良いように使われてるだけじゃないのかい?」
「まぁ、戦闘力が高い方々なので。大丈夫かなって」
フレイヤの頼みである以上はこちらを裏切ることはない。加えて
そんな打算的なことを考えながらも今後についてのルートは
その手には
『アクス・フローレンス、彼女たちへは我々が話そう』
「あれ、フェルズさん。祈祷の間に居るんですか?」
『神ウラノスに通じる
「分かりました」
そう返事をしたアクスは、再び『フィアナ』の姿となる。未だ慣れないのか苦笑するアイシャたちを余所にユーノに跨ると、地図を持って来たレットと一緒に派閥連合が休憩しているところまで進ぶ。
「あ、フィアナ様。食料、ありがとうございます」
「いえいえ、それよりお話があるんです」
「話?」
火を焚きながら久方ぶりの食事に舌鼓を打っていたリリルカたちに近づくと、聞き馴染みのある馬蹄の音と先ほど出会ったフィアナの姿に彼女たちは快く迎え入れてくれた。しかしながら、フェイスガードを取り去った彼女が『今後のルートで話がある』と伝えると、途端に全員の表情が厳しいものへと変わっていく。
「今後のルートとは、どういうことでしょうか?」
「そちらの方。名のある冒険者と見受けられますが、深層の手前……。密林の峡谷に赴いた経験は?」
「あぁ、馴染みのある冒険者に一通り連れて行ってもらったことはある。……、どれで行くつもりだ?」
冷や汗を流しながらボールスはルートについてフィアナへ尋ねる。死ぬ危険性が高い賭けか、アビリティの差を簡単にひっくりかえせない獰猛なモンスターの間を突っ切るか、激毒に泣き叫びながらの強行軍か。
どれをとっても禄でもない。だが、比較的平穏なルートが望ましいと縋るようにフィアナを見たボールスに、彼は『密林を突っ切ります』と答えた。
その言葉にボールスは安堵したようにへたり込むが、そこで下層の後半について全くの素人なダフネが声を上げた。
「ちょっと待って、他のルートは駄目なの? 私たちの戦力を見て言ってるの?」
「そのちびっ子の言ってることは合ってるニャ。むしろ、それしかないニャ」
「アーニャ?」
「下層のこと知ってるの?」
彼女の意見はもっともだが、それしかない。そう言おうとしたフィアナを遮り、アーニャという予想外の人物が声を上げる。
彼女は驚いた表情で見てくる同僚たちを前に少しばかり躊躇するが、やがて『以前所属していたファミリアの遠征に無理矢理ついて行ったんだニャ』と語り出した。
おバカで通っているアーニャは下へ向かう道について全く覚えていなかったが、獣人特有の並外れた危機察知。そして
律儀に密林を突っ切ろうとする幹部たちを嘲笑しながら幹でのショートカットを図ろうとし、大量の飛行系モンスターにたかられた者。耐久力の高い恐竜系モンスターに嫌気がさし、洞窟に入った後に毒特有のにおいを全身に浴びて絶命した者。
拭いたくても完全に拭えない記憶に目元を両手で覆い隠すアーニャに、フィアナは頭を下げた。
「すみません、嫌なことを思い出させてしまって。この方の言うとおり、他の道は全滅する可能性があります。洞窟部分はこの子の角で何とかなるでしょうけど、解毒に時間がかかれば誰かが死ぬかもしれない。
先ほど言った密林を突っ切るしか道はない。暗にそう言うフィアナの言葉に、全員は頷くしかなかった。
そんな暗くなった空気をフィアナは両手を叩いて切り替える。
「なので、私の方から出来ることはしようかと」
「具体的に、何をなさってくれるのですか?」
「まずは機動力。そちらの方々は戦闘は不得手に見えます。なので……」
ヘディンの傍に居るであろう幻影に『幻影を一旦解く』とメモを残し、フィアナは
「幻影を貸し出します。神々の言う言葉の"乗ってく?"というやつです」
親指でユーノを指差しながら朗らかに笑うフィアナ。そんな俗っぽい仕草に、リリルカは『名前負けしてます』と小さく笑う。
自分にそこまで信仰心があるわけではないが、それでも──なぜか分からないが言いたくなったのである。
さりとて、幻影の強さや速さは体感しているリリルカにとってその申し出はありがたかった。頭の中で少しばかり検討してから『使わせていただきます』と小さく礼をする彼女に、フィアナはレットに合図を送る。気づいたレットが
「こちらがこちらが想定するルートです。先ほど向こうでアイシャさんたちと話をして決めました」
「なにからなにまでありがとうございます」
「いえいえ。私の方も準備をしますので、出発の際は幻影に合図をお願いします。ウィーネ、行きますよ」
レットの反応からウィーネも『う”~』と唸り声のようなものを出しながらユーノに飛び乗ってくる。それを受け止めたフィアナは、元来た道を戻りながら久方ぶりに【ヘスティア・ファミリア】と話をしたことを嬉しそうに話してくるウィーネに相槌を打っていると、アイシャや椿の声が朧げに聞こえてきた。
「そんな……かい」
「手前も……気に……よう」
なにやら気の毒というか、見るに堪えない存在を気遣うような言葉の数々が聞こえてくる。ユーノから降りてゆっくりと近づいていく内に、彼女たちの話が鮮明に聞こえてくる。
端的に言えば、ディアンケヒトが治療院の雰囲気が暗いということを訴えてきているらしい。定時報告用に彼に持たせた
「ディアンケヒト様の無理は"まだイケる"ですから放っておいてください」
「鬼かい、あんた」
「仕事渡せば無理って言いつつもやってくれるんで、まだまだイケるってお姉ちゃんも言ってました」
それは限界突破しているだけではないだろうか。そんな考えが過ぎるが、他派閥のことなので口をつぐむアイシャ。
ちなみに余談だが、その言葉をアクスに聞かせたお姉ちゃんの目は3徹目でバキバキになっていたとか何とか。
そんな裏話はさておき、ウラノスやそれを聞いていたフェルズが言っていた治療院の空気についても、アクスは問題ないと告げる。彼曰く、『
しかし、それを言った瞬間に空気が──凍った。
「……それをファミリアの奴らに言うなよ? 割と本気だぞ?」
「え、"お姉ちゃんが居たら"【ディアンケヒト・ファミリア】は安泰ですよ?」
「アタシとしては、なんで
「いえいえ、今後の作戦はフィンさん抜きでは無理ですよ。だから、"僕かフィンさんで言ったらフィンさん"ですよ?」
駄目だこのパルゥム。早く何とかしないと。一字一句違わぬ文言が2人の脳裏を嗅げ巡る。
自分に自信がないなんてものではない。もはや天然記念物級の自己評価の低さに、椿はたまに会う聖女に教育のイロハについて問い詰めたくなってしまった。
アイシャもアイシャでまさかそんな返しをしてくるとは思わなかったのか、無意識的に
「いやいや、こんなことをしてる場合じゃないね。【
「手前もだ。武器を作ってやるのは早まったかもしれん。【剣姫】の幼き頃より危なっかしいぞ」
どうしてダンジョンで気疲れをしなければならないのか。そんな文句が聞こえそうなぐらい憔悴したアイシャたちがのそのそ戻っていく。その後ろ姿にアクスは『なんで疲れてるんだろ』と疑問に思ったが、彼の小指の先ほどしかない危機察知能力がその言葉を喉から上に出さないように蓋をした。
***
紆余曲折あったが、今後の方針がまとまったことですぐさま進軍が再開される。陣形は変わらないが、リリルカたちに幻影を与えたことで進軍速度は倍近く早くなり、さらに他の冒険者も少ないことから28階層は割とすぐに踏破出来た。
しかし、問題はここから。
よって、アクスは【ロキ・ファミリア】の遠征で経験した陣形を指示する。
「最前列はリドさん、グロスさん、ラーニェさん。その後ろを戦闘が出来る
『ウオォォォ!』
29階層に足を踏み入れた瞬間、
「左からアルマロサウルス! トロルさん!」
「ウ”オ”ォオ!」
左の通路から3つ首の恐竜が接近してくることを察知したアクスは、トロールの
「トロル! そのまま抑えとけ!」
その隙にラーニェが鋼鉄よりも鋭い糸でアルマロサウルスの首を2つほど捩じり切り、リドが残った首を刈り取ることでパワータイプとして有名な1頭の恐竜は忽ち灰へと変じる。鎧袖一触といったところだが、
「グロスさん、足止めをお願いします。フィアさんはこの
「ワカッタ」
「分かリましタ」
「命大事にですよ!」
空からの脅威にグロスを主軸とした飛行可能な
しかし、それはアクスにもよく分かっている。だからこそ後衛に──ヘディンに『支援砲撃』を求めた。
「前方からシャドーラプトルが来ます! リドさんは炎で迎撃。ラーニェさんは網を張ってください。絶対に複数で対処するように!」
その間にも地上では俊敏な動きで迫って来る小型恐竜の群れが
そのまま撃たれるとグロスたちに当たってしまうため、アクスは急いで手に盛った
『飛行中の皆さん、【フレイヤ・ファミリア】の砲撃来ます! 降下! 降下! 降下!』
「アブナカッタゾ!?」
「既に詠唱完了してましたからねぇ」
相変わらずの手の速さに辟易しつつも、アクスはグロスたちを宥める。贅沢を言えばもう少し『連携』をして欲しいものだが、【フレイヤ・ファミリア】にそんなことを言っても待っているのは
ふと、脳内に生息しているイマジナリー
そんなことを考えつつ、アクスたちは密林地帯をひたすら降りて行く。彼らが前進するたびにポテンシャルに物を言わせた恐竜の群れが濁流のように押し寄せてくるが、ポテンシャルに関しては
それでも、ダンジョンの悪意というものは嫉妬深い神のように容赦がないもの。撤退や敗走といった生っちょろさは一切ない、
火炎石を数ダース爆破させてもここまでの被害は出ないだろう。見上げると首が痛くなるほど大きな大樹をマッチ棒のように蹴散らしながら、『イレギュラー』は近くに落ちた雷のような咆哮にリドは慌てだす。
「アクっち、ブラッドサウルスだ! 早めに倒さねぇとやべえ!」
「まだ29階層ですよ!?」
リドやアクスが慌てるのも無理はない。
ブラッドサウルスは、
ゆえにギルドの決めた脅威度は『
それに、先にもある通りブラッドサウルスはその凶暴性から
「まだ数匹だ! 今の内に──」
「チッ。遅ぇぞ、チビ共」
倒してしまえ。リドがそう言い切る前に、舌打ち交じりの暴言が混ざった強風が吹き抜けていく。
誰が……とは言わない。なぜなら、既にブラッドサウルスが四肢を切断された状態でも転がされているからだ。
アレン・フローメル。『都市最速』の名は伊達ではなく、完全に無力化したブラッドサウルスの腹の上に降り立った彼は相変わらず怒気を孕んだ瞳でアクスたちを見据える。
──進みが遅すぎるぞ、三下共が。
そんな声が聞こえてきそうな表情をしたアレンの姿が掻き消える。それと同時に奥の方から恐竜の断末魔や爆発音が連鎖的に聞こえてきた。
「やっぱおっかねぇわ」
リドの言う通りおっかないが、1分1秒を争うこの状況で進軍速度を上げてくれるのは願ったりだ。ブラッドサウルスが暴れ回ってくれたおかげで今のところ周辺にモンスターの気配がないため、一気に駆け抜ける速度を上げる。
その後は特に囲まれたりといったトラブルもなく、アクスたちは速やかに30階層に降りていく。
ただ、忘れてはいけない。
すなわち……。
「なんでもう5匹も集まってるんですかねぇ」
「オレタチ ガ シルカ!」
地獄はまだ始まったばかりである。
捜索に紹介されてた。嬉しい!ありがとうございます。
ドキッ★格上だらけの情報共有
なんで1番レベルが下の子が説明役やってるんですか?
答え:出来る人が年長者に居ないから。
密林の峡谷
ギミックはなく、純粋なアビリティの暴力で殺しに来る場所。
撤退や敗走ではなく、『全滅』が多い区間でもある。
乗ってく?
CVが現在深層に居るリュー・リオン氏の神様。
オシラサマ・ファミリアとかありそう。
アーニャ
捨て猫。ソード・オラトリアの漫画にて、アイズが眷属になった頃には捨てられていた。
アクスの悪い癖がまた出たけど、仕方ないよ。アクスだもの。