ディアンケヒト・ファミリアの末っ子   作:マジックテープ財布

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 【ディオニュソス・ファミリア】を犠牲にしたことで悲嘆に暮れていた【ロキ・ファミリア】の団員たちも、ようやく落ち着きを取り戻した頃。フィンはようやく団員たちにクノッソスの第2次侵攻の戦備を整える傍らで、レフィーヤとフィルヴィスが見つけた壁画に描かれていた『ニーズホッグ』というモンスターらしき名前の情報を集めるように指示していた。

 

 ただ、フィンもあらかじめ黄昏の館に収蔵された幾冊もの文献を調べて()()()()()()()()()()()()()()()()()なので、いくら団員を配しても報告内容は既に知っていること。さらには、道行く神に入れ込まれたのか『ネタバレはいけない』や『俺の父親の友人の仲間の祖父の娘の知人がニーズホッグだったなぁ』と頭が痛くなるような情報も舞い込んできたため、遅々として進捗が上がらなかった。

 

「文献についても成果はなしか。それにしても、神々の悪ふざけ(ノイズ)が酷いな」

 

地精霊(ノーム)の大図書館があるじゃろう? そこで調査をするのはどうだ?」

 

「んー、たしかに館の蔵書とか市井の本屋だと限界があるけど……。1人10万ヴァリスか。人数が必要だけど、なるべく経費は抑えたい。リヴェリア、人選を頼めるかい?」

 

「経費もそうだが、大勢で押し掛けるのも他の派閥に怪しまれるな。ティオナを入れた10人ぐらいが適当か」

 

 入館料がかなりイイお値段かつ、大量に出入りすれば余計な混乱を招く。そのことからリヴェリアは英雄譚に詳しいティオナを真っ先に挙げつつ、調べものの役に立ちそうな人員をリストアップしていく。

 ただ、彼女はふと『同盟関係の神』という一手を思いつく。市井をほっつき歩く神は信用ならないが、精霊の分身(デミ・スピリット)やオラリオ崩壊の危機を知っている神々であれば、そういった悪ふざけを言わないのではないだろうか。

 

「神ディアンケヒトなどに聞くのはどうだ?」

 

「それはロキに頼んだけど、駄目だったよ」

 

 リヴェリアの問いに、フィンは首を横に振る。

 実はというと、指揮の草案をまとめるために動けないフィンの代わりにロキは同盟を結んだディアンケヒトやヘファイストスの元まで行って情報収集を行っていた。

 ロキ本神も荒れに荒れていたせいでニーズホッグの出現は知っていても、どのような顛末になったのか一切分からなかったため、『うちが適任やろー』と勇んで飛び出していったものの──失敗した。

 いや、失敗したと言うのは語弊がある。厳密には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 医神のディアンケヒトは前者である。押し寄せてくる患者を癒しまくる日々を過ごしていた関係上、下界のことは数年の1度観測するぐらい。ゆえに、かのモンスターが現れたことすらも他の神々の又聞きぐらいの情報しかなかった。

 

 その一方、ヘファイストスは情報の提供を拒否した。別に『【ロキ・ファミリア】憎し』や『ネタバレ』といった下賤な考えではない。むしろその逆で、『それらの災禍の克服も含めてランクアップは為される』といった神特有の思考原理によるものだ。

 下手に手や口を出したせいで、子供たちの成長が阻害される。神にとってそれはあまり許容できるものではなかったらしい。

 だからこその拒否であり、ロキもロキでそういった考えが理解できるのか、大人しく引き下がったそうだ。

 

 だとしても、下界が滅べば全ては水の泡である。そのことからヘファイストスは、『神らしき介入があったこと』と『歴史に無い理由はもっと簡単』という2つのヒントを出した。

 

「神ではなく、"らしき"か。そうなると神の代弁者のような存在……。過去の宗教についての文献を当たってみるか」

 

「歴史に無いということは、文字が書けなかった可能性もあるな。いや、戦で焼かれたか?」

 

 ヘファイストスからもたらされた情報から改めて議論を展開するが、どれもこれもしっくりこない。

 もとより、相手の意図が全く分からず、無暗に追い詰めれば癇癪を起した子供のようにルールを無視した盤面破壊。そんな神らしい神であるエニュオが誰にもバレないよう緻密に練り上げられた計画が()()だ。

 

 いくら知恵を巡らそうにも、下界の人類であるフィンたちでも全容どころか一端でも知るには膨大な時間がかかる。だからこそ、今は手札──引き続いての情報収集が肝要だとフィンが話を切り上げようとするが……。

 

「アクスが居なくなったのが痛いな」

 

「無駄に顔が広いからな。どこぞに散歩にやったら色々情報持って帰ってきそうだったのに、残念でならんわ」

 

「その話は外でしないでくれよ? 士気に関わる。それに一応言っておくけど、アクスは【ロキ・ファミリア】の団員じゃないよ?」

 

『あの子(あやつ)は身内みたいなもんだ(じゃ)ろ』

 

「いや、往診とか遠征について行ってくれたりとかしてくれてるから、僕も思ってるけどさ? 僕がアミッドたちに嫌味を言われるから、やめてほしいんだけどなぁ!?」

 

 もはや治療師(ヒーラー)というより、そこら辺を適当にほっつき歩いている凄腕の情報屋のよう。しかし、これまでの行いが全てを物語っているため、そのことを理解した上でフィンは苦笑いを浮かべるしかなかった。

 ただ、予想していたことだがリヴェリアやガレスもアクスの喪失に心を乱されている。『一応』と枕詞をつければ(アミッド)が黙ってはいないだろうが、アクスは他派閥の人間と一括りにするには共に過ごした時間は長い。

 

(リヴェリアたちだけにでも話すべきか……。いや、"神"が相手なんだ。少しでも勝率を上げるために、黙っておいた方が良い)

 

 相手は神──すなわち『全能』だ。神々すらも見通せない下界の未知を当てにするのもリスクが高いと、フィンは精神力でアクスが生存している情報を黙秘する。

 

「それにしても、まさか【デメテル・ファミリア】まで被害にあってるとはな。よく調べたな」

 

「あそこの食糧には助けられて居るが、あまり接点はないはずじゃろ?」

 

「市壁に登った時にちょっとね。明らかに人が少ないから、ギルドに確認したんだ」

 

 『【デメテル・ファミリア】の眷属が消えている』という情報は、リヴェリアたちには共有している。はじめこそたちの悪い冗談の類だと思われたものの、ギルド(フェルズ)から取り寄せた外へ出て行った【デメテル・ファミリア】所属の冒険者が載っているリストにある名前が極端に少なかったり、ホームや農場に人の気配が全くしないことを理由に2人は何とか納得したものの、接点があまりない派閥の異常を感じ取る嗅覚にリヴェリアたちはフィンを称賛する。

 

(僕じゃないんだけどなぁ……。でも、それを言うと連鎖的にアクスと連絡できることがバレるからなぁ……。はぁ、胃痛はいつものことだけど、今回は別の個所が痛いや)

 

 ただ、これらの情報は彼女たちの言う散歩をしてたら重大な情報を咥えて持って来る子犬(アクス・フローレンス)が報告し、件の神(デメテル)の友神である美の女神(フレイヤ)が力技で立証した情報であるため、常日頃から痛む箇所とは別の部分が痛み出したフィン。

 さりとて、『現状維持』が今打てる最善手だと自らを律した彼は、近くに掛けてあった豪奢な上着を手に取った。

 

「ひとまず、もう少し情報収集をしてみよう。リヴェリアたちは上がってくる情報の取りまとめを頼む。後、神々の言うことは真に受けないように厳命しておいてもらえると助かるかな」

 

「分かった。それで、お前はどうするんだ?」

 

「なんじゃい、粧し込みおって。こんな時まで伴侶探しか?」

 

「悪い冗談はやめてくれ、ガレス。そろそろ、美の女神をダンスに誘ってくるだけさ」

 

 胸元に命を救ってくれた心優しいハーピィからもらった羽根を飾ったフィンは、まるで遠征に出発するかのような面持ちで執務室を出る。そのまま黄昏の館から出ると、1人でバベルに方向に向けて歩き出した。

 

***

 

 1人も欠けることなく白宮殿(ホワイトパレス)から脱出することが出来た一行は、オアシスで20分という決して長くはない休息を行う。すぐ横を向けば死が『こんにちは★』と陽気な挨拶をしてくる地獄から生還できたということで、桜花たちのような俗に言う『実力が圧倒的に不足している面々』がその場にヘタレこむ最中、フィアナだけはオアシスの外周に隠れていたヘディンと合流する。

 

「それでは、そのように」

 

「あぁ、お前を見殺しにすると(ヘイズ)共が煩いからな。適度にやらせてもらう」

 

 いくつか怪しい話し合いをしながらも、幻影を再度召喚。誰も見ていないために治癒魔法を装填した後に、何食わぬ顔で戻って来たフィアナは全体を纏めてから帰還ルートに沿って走り出す。

 

 なにしろ、ここからは時間との勝負だ。寒夜によって凍らせたベルの腕は溶けないが、腕を氷漬けにしているために早めに抜け出さないと彼の体力が持たない。

 かといってこれより上の階層になる炎天ではせっかく固めたベルの腕が溶けてしまう。完全に溶け切ってしまえば、万能薬(エリクサー)に浸した布の水気も蒸発してしまうため、これまた急いで上がらなければならない。

 

 ただ、事はそう単純ではない。『勝って兜の緒を締めよ』、『行きはよいよい 帰りは怖い』とあるように、何かを成し遂げた後は何かと気を抜いたり、危険に陥ることが多い。

 

「炎天に入ります! 体力の回復を挟みますが、用心してください!」

 

 35階層。真夏の如く照り付ける光に照らされながらも、治癒魔法によって体力を無理矢理回復させた面々が走り続けるものの、彼らは一様に()()()()()。魔法によって肉体的な疲れは取れても、精神的──いわゆる『気疲れ』という物は魔法によって取り除くことは難しい。

 特にこの集団の中枢である【ヘスティア・ファミリア】や【タケミカヅチ・ファミリア】は、元々深層へ向かえるような手練れではない。それらを守りながらベルたちの捜索を行っていた椿たちもまた、僅かながら気苦労を背負い込んでいた。

 

 しかし、そんな冒険者の事情などダンジョンは汲んでくれない。それどころか、より一層悪辣に冒険者たちを狙ってくる。

 呼吸と呼吸の僅かな隙間。糸のようにピンと張った緊張が切れる『隙』と言われる瞬間。知ってか知らずか、モンスターたちはそこを狙ってきた。

 

 ……のだが。

 

「キュー!」

 

 カールの額にある秘晶を媒介にして形成された円蓋(ドーム)型の魔力壁により、ルノアたちの近くまで入り込んできたモンスターの爪牙を弾き飛ばした。

 いきなり九死に一生を得たことで、呆気にとられたルノアたち。弾き飛ばされたモンスターにとどめを刺しながら()()の表情を見たリドは、小さく『"女"だからなぁ』と呆れたような声をあげる。彼の言葉から分かる通り、カールは男が嫌いであった。本人曰く、『女の子が放つ百合のような香りが大好き』なのだとか。

 そんな彼女は、『強化種』にも拘らず繊細かつ臆病なカーバンクルの特性はそのまま持っていた。なので、モンスターの接近に『ヤバッ』と思って出した魔力壁が、結果的にルノア……とその周辺に居る男共を()()()()守ったのだ。

 

 神々の言葉で言うと『チート級の盾』だが、そんな便利な能力があるにも関わらずここまでカールが魔力壁を出さなかったのは何故か。それは彼女の『好き嫌い』が割かしハッキリとしており、さらに言えば行きは異端児(ゼノス)たちの中央に居たことによって『比較的安全』と出し惜しみをしていたのだ。

 

「キュー! ギュー! ペェッ!」

 

「グゥー……。ガァー!」

 

「何だか知らんが、俺たちを見て唾吐いたぞ。あいつ」

 

「すごく罵倒されてることは分かった」

 

 冒険者が近いために鳴き声で会話するカールとリド。されど、主に桜花やヴェルフやボールスといった『THE☆漢』という冒険者に向かって忌避感を示すような態度をとるカールから()()()()()()()()()

 

 そんな一幕はあったものの、カールと彼女の行動で『そういえば、貸してもらってた』とガリバー兄弟謹製のネックレスの存在を思い出したフィアナの活躍で、特に損害なくサンドランドを後にした一行はその勢いで密林の峡谷へと殴りこむ。

 

 ただ、行きとは違ってフィアナは()()()()()。幹を使ったショートカットに進もうとしていた。

 

「待ってください! 幹は危険って!」

 

「救助者を早く地上に帰す方が先決です! それに、すでに手は打っています!」

 

 言葉だけ見れば根拠が全くと言っていいほどない。ただ、ここで仲違いして別の道を選んでも自殺にしかならない。あわせて、フィアナはこの道程で何度もそう言いながら真っ先に先頭を駆け抜け、生き残っている。

 それらの『予想』や『事実』を前に、如何に合理主義なリリルカでも首を縦に振るしかなかった。

 

 他の冒険者たちもそういった考えに至ったのか、次々と幹を足場に上へ上へと昇り始めていく。数十分もしない内に早くも30階層を過ぎ、そろそろ29階層といったところで、ボールスはようやく異変に気付いた。

 

「おかしいぞ、あの翼竜共が襲ってこねぇ」

 

 ゲイルプテラの群れが居ない。いつもは騒がしく空中を舞い、特に遮蔽物の無い幹を登っていれば魔導士でも押し負けるほどの尋常ではない規模で襲い掛かって来るのに、今は1匹たりとも襲い掛かってこない。

 

 それもそのはず。派閥連合より前に登ったのは、()()かつ()()()の魔導士と()()()()()()()戦士である。彼らの手にかかればゲイルプテラの群れなどその辺をゆったり飛んでいる羽虫に過ぎない。

 それでも、彼らは()()()()()()()()()()()()。今まで居なかったのは、道すがらちょっと本気を出して殲滅したに過ぎない。

 

 つまるところ、物見遊山はここまでということだ。

 

「ゲイルプテラ、近づいてきます! 魔剣、および遠距離攻撃準備!」

 

「やはり、そう簡単には行かせてくれんか。【麗傑】(アンティアネイラ)精神力(マインド)の方は?」

 

「フィアナからもらった最後の精神力回復薬(マジック・ポーション)を使えば数回は行けるよ」

 

「分かった、もし無理なら手前が代わろう。ヴェル吉、良いか?」

 

「良いも悪いもねぇ。今更仲間とプライドを秤にかけるつもりもねぇよ。やってくれ」

 

 少しも迷うことなく己が打った魔剣を一時とはいえ、別の鍛冶師に渡すことを了承するヴェルフ。少し前の彼であれば即座に強い拒否を示し、そのまま子供が癇癪を起すように我先にと進んでいただろう。

 雨降って地固まる──というわけではないが、下層から深層までの救出劇はヴェルフにとって精神的に成長する一助になったのであろう。そんなことを考えながらも椿は周囲と同じく千草やリリルカから弓を受け取ると、それをゲイルプテラに向ける。

 

「魔剣の後に射ってください!」

 

 幹の上に居る冒険者(えもの)目掛けて迫ってくるゲイルプテラに、フィアナはリドに向かって手だけで合図を送った後、自らも弓を番えながら指示を出す。その周囲に居た幻影たちもいつの間にか武器が弓へと変じており、影を凝縮したような真っ黒い矢を番えて微動だにしていない。

 

 モンスターとの距離が500М……400М……。やがて、300Мとなったところでアイシャが手にした煌月(かづき)が火を噴いた。

 エルフの森を焼いたと噂されるほどの大火が、まるで見えない床を舐めるように空中へと炎の手を伸ばしていく。高速で飛んでいたゲイルプテラが同じく高速で襲い掛かってくる火の手を回避出来るはずもなく、双方が激突すると同時に轟音と熱波が空中に四散した。

 炎とぶつかったことで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が鬱蒼と広がる密林の中へと消えていく一方、炎範囲から逃れたゲイルプテラが数匹ほど派閥連合へと襲い掛かってくる。

 

「射撃開始!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()を手信号で、()()()()()()()()()()()()()を口頭で指示したアクスは、我先に矢を射掛けた。

 大気の壁を切り裂きながら飛んでいく矢。その後から()()()()()()()()()()矢が何本も打ちあがってくる。

 1本1本が風を切り、互いの隙間を埋めながら飛翔する矢の奔流。それらがのゲイルプテラの群れへ到達した瞬間に──。

 

 蹂躙が始まった。

 

「ギャアアアアアッ!」

 

 眼球を貫かれた存在が高度を落としながら宙を無様に舞い。

 

「ゲェッ!」

 

 翼をもがれた化生は32階層の地面へと真っ逆さまに落ち。

 

「グギャ!」

 

 胴体を抜かれた()()()()()()()()()()は、矢が通り過ぎる風によって四散していく。

 

 だが、奴らは言わば()()。しかし、既に二の矢を番えていたフィアナは全体に向けて第2射を命じた。

 

***

 

 結局のところ、ヘディンたちを先に行かせてゲイルプテラたちをやり過ごすという案は、半ば成功して半ば失敗した。

 初めの内は計画通りいっていたが、やはりダンジョンはどこかおかしい。残り1階層分となった時から、まるで焦るかの如くゲイルプテラの襲撃がひっきりなしにやって来ていた。

 それこそ、始高・煌月(かづき)やこれほどの人数による矢の飽和攻撃。そしてグロスやフィアを始めとした空戦が出来る異端児(ゼノス)たちが居なければ、もしかすると数人死亡していたかのような物量であった。

 

 それでも派閥連合はやり遂げた。砂漠を超え、全滅率の高い密林を駆け抜け、ようやく安全階層である28階層の地を踏むことが出来た。

 真面目なことを言えば、まだ水の迷都や24階層からの大樹の迷宮。他にも17階層からの中層や上層の走破と道半ばだが、ここまで来たら桜花や千草などがようやく戦力としてカウントされる。椿たちも居るため、よほどのことが無ければ無事に帰れるだろう。

 そんなわけで28階層までやって来た派閥連合は、この段階で交代での仮眠を行う。時間にして2時間とたっぷりではあるものの、これにはれっきとした理由がある。

 

 まず、派閥連合はこれまでベルの腕の心配やダンジョンギミックなどの諸事情でまともな休憩を取れていない。そのため、安全階層というモンスターが滅多に現れない()()()、ベルとリューが無事に連れて帰ることが出来る()()()()()()、本格的に休息を取らなければ事故が起こる。

 特にリリルカと春姫は、切った張ったをする他の冒険者と違ってLV1。事が起こった後では遅いため、無理やりにでも休ませる必要があった。

 

 次に、言わずもがなだろうがベルとリューの容態を安定化させるため。いくらおぶられていたとはいえ、砂漠や密林と過酷な環境の中を突っ切って来たのだ。いくら第2級冒険者であっても死にかけの状態なので、ここでマーメイドの生き血や回復薬(ポーション)といった医療品を用い、せめてリヴィラまで行けるように安定化を図る。

 

 ──だが、ここでアクシデントが起こった。

 

「人が居ますね」

 

「ありゃぁ……、リヴィラの奴らだな。俺の死体でも探しに来たか?」

 

 28階層中央の広場に数名の冒険者の姿。本来であれば喜ぶべきところだが、異端児(ゼノス)たちという『人類にとっての敵(モンスター)』が居る。

 いくらテイムしたといっても、ここまで大勢だと色んな尾ひれが付くのは必定。このまま行けば下火になって来た噂が再燃するとリリルカやヴェルフは素直に喜べずにいた。

 

 ただ、彼女たちの思い詰めた表情とは裏腹にフィアナの反応は実に淡白であった。

 

「仕方ないですね。ここで私たちは離れます。なので、こちらの方々の治療とか、あちらの方々の対応はお願いしますね」

 

「あ、あぁ。分かった」

 

 使う手筈だった回復薬(ポーション)などの治療に使えるアイテムをリリルカや春姫に渡しつつ、フィアナは離脱宣言をする。離脱理由が理由なだけに引き留められることはなかったが、多少なりとも世話になった気持ちはあるのかボールスはちょっと言葉を詰まらせたものの、すぐさま了承。そして、まるで自分が手柄を立てたかのように派閥連合の集団を歩きながら『お前らー!』と冒険者たちに話しかけにいった。

 

 彼らならば特に心配はないだろうが、それでも今回の1件で『他者に全て任せると禄でもないことが起こる』という教訓を得たアクスは決して油断しなかった。きっちり数名の異端児(ゼノス)に上空や木陰から事の成り行きを見張ってもらうようリドに頼んでから、変装を解いたアクスは【フレイヤ・ファミリア】に離脱の報告を行おうと幻影と位置の交換を実施する。

 

 たぶんだが、アレンあたりがまた癇癪を起しているだろう。そんなことを思っていたアクスだったが、ヘディンの傍にはアレンの姿がなく、代わりに上で退路を作っていたヘグニとアルフリッグが立っていた。

 

「すみません。他の冒険者が居るので、僕たちは……ってヘグニさんとアルフリッグさん。来てたんですね」

 

「ふ、ふふ……。よくぞ地獄の窯の底から──」

 

「ヘグニ、喋るな。アレンが我慢できなくなったからな。上へ戻るついでにヘグニとアルフリッグを招集しただけだ」

 

「あのシスコン、マジで使えねぇなぁ」

 

 どうやら、アレンの堪忍袋が引き千切れたらしい。アルフリッグが彼の悪口を言ったものの、すぐさま咳払いをしながら中層の状況をアクスに伝えてくる。

 

「アンフィス・バエナの出現で戦力を集めているらしいな、あいつら以外に中層や下層には人は居ない」

 

「戦力ですか? もう倒したのに?」

 

「リヴィラの街の冒険者はアンフィス・バエナが討伐されたことに気づいてないよ。あいつらの会話が聞こえて来たけど、"準備が無駄になった"って。あと、"ボールスがくたばってないか確認しよう"とも言ってた」

 

「早めに帰った方が良い。今度は地上で会おう」

 

 珍しく厨二言葉を無くしたヘグニの報告。そうなると、ボールスたちと話している冒険者たちはアンフィス・バエナの様子を見に来た斥候だろう。

 敵の情報を探るのが目的の斥候よりも先を進む欲の皮が突っ張ったマヌケなぞ、中層以降を進む冒険者としては2流以下である。そういった理由から、アルフリッグはアクスに早く姿を隠すことを勧めた。

 アルフリッグの勧告を聞いたアクスは、すぐさま『今すぐ帰ります』と伝えてから幻影を再度召喚。全てヘディンたちに託してからユーノを走らせ、異端児(ゼノス)たちの方へと戻った直後に連絡路の方角を指差す。

 

「全員、聞いてください! 現在、水の迷都には冒険者が居ないと思われます。なので、縦穴を使って下層から脱出。元の24階層にある隠れ里まで急いで帰りましょう!」

 

「やっぱりな。"フィア、地上に居る奴らと一緒に戻ってこい"」

 

『分かりました』

 

 帰るや否や、撤退指示を出すアクス。すると、そんなことはお見通しだったのかリドたちは眼晶(オクルス)に話しかけた。なんでも、リドやグロスたちが『冒険者が居るならすぐに発った方が良いだろう』と見張り役に眼晶(オクルス)を託し、自分たちは撤退準備に入っていたらしい。

 長年、冒険者や同胞(モンスター)から隠れながら移動してきた勘……というやつなのだろうか。それとも野生の本能なのか。

 どちらにしても話は早い。戻ってきたフィアたちが口々に『何か話し合っていた』と報告してきたため、今こそが脱出の好機とアクスは脱出を宣言。一目散に水の迷都へと駆け上った彼らは、近くで待機していたヘディンたちに見送られながら元来た道や縦穴を駆使し、なんとか隠れ里まで戻ってきた。

 

 こうして、地獄への愉快な遠足。もとい、ベル・クラネルの救助が終わった──のだが。

 

「あぁ、帰って来たか。すまないが、リドたちは緑肉の対処を頼む。それと、アクス・フローレンスは私と共について来て欲しい」

 

『この骨ぇ!』

 

 こちらの苦労など一切考えないブラック上司さながらなフェルズに、全員はあらん限りの罵倒を放った。




最後のフェルズのやり取り。つい先日、似たようなことを上司にやられました。
定退って申請したよなぁ!? 定時ギリギリに言うの止めてくれよぉ!

アクス
 ふらっと深層に行き、なんか知らない内にフレイヤ・ファミリア等々を纏め上げ、ぽめっと要救助者を手当てし、すったかと脱出をやってのける子。(なお、後に聞いたディアンケヒトの心労は考えないものとする)
 逃げる小っちゃい男の子(人を率いる能力あり)。妻を3人ぐらい娶りそう。
 でも、あの人攻撃力無いからなぁ。

ロキ・ファミリア
 とある猫の甘々ラヴビーム(命名:エルミナ)をラウルが食らっているぐらいの時系列。
 アクスが色々やらかしてくれたおかげで、フレイヤ・ファミリアへの共闘要請を早めに行うことが出来た。
 なお、リヴェリアとガレスがちょっと傷心気味。
 「(目の前のパルゥムと違って)素直で良い子だ(じゃ)ったなぁ」

ディアンケヒトとヘファイストス
 医者が下界の様子を暇つぶしに見れるはずないだろ!
 神がそう簡単に全知を披露するわけないだろ!
 上記の2つの理由から、断片的なヒントだけ出した感じになりました。

フレイヤ・ファミリア
 アレンは絶対、途中離脱する(確信)
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