※ダンメモ時空みたいなお遊び展開と思ってください。
昨日の反応でディアンケヒト様呼びが不服な人多くて草。ディアンケヒト様になったらあれですよ、アミッドさんから様付けで呼ばれるし、変なことしなければポメッとしたナマモノが近くに来ますよ?(なお、変なことしたら首置いてけされる模様)
…なりたくないな。
バレンタイン。それはとある胡散臭い神が広めた『流行』であった。
女子から男子にチョコレートを渡すだけの一見すると地味な習慣だが、流行といういう物は凄まじい。
製菓を生業にしているファミリアや原材料の兼ね合いで【デメテル・ファミリア】がかなり儲かっているらしく、その動く金の多さには
これは、そんなバレンタイン当日に【ディアンケヒト・ファミリア】で行われたとあるイベントの記録である。
***
やぁ、俺は【ディアンケヒト・ファミリア】所属のとある団員。名前は……。まぁ、良いか。お前たちも野郎の名前なんて教えてもらっても嬉しくないだろ。
現在のオラリオは雲1つ無い快晴! 澄み切った青い空には鳥が鳴いていて、まるで俺たちを祝福してくれているようだ。
アハハ、小鳥さん。おはよう! 素敵な朝ね!
ウフフ、風がとても心地いいわ! 今日も素敵な1日になりそう!
はぁー、オラリオ壊滅しねぇかなぁ……。
──とまぁ、本気では思ってないがとてつもなくブルーな気分なのも理由がある。それは俺が『チョコレート製作教室の講師』であるためだ。
普通ならば製菓系などを取り扱っている商店や製造系ファミリアが率先してやる……というか、
うちはまぁ……なんだ……。うちは来るもの拒まずだから……その……レベルがね? ちょっと……ちょ~っとだけ他の教室から敬遠されているというか、戦力外というか、居るだけ邪魔になるというか……。
まぁ、ぶっちゃけ『ブラックリスト入り』の奴らも居るわけだ。その分お値段もお高めになっているし、他の教室よりもチョコの使用量が多いのが魅力的なので、我らが主神様は左団扇なのだろうが。正直、俺はあいつを未だに恨んでいる。
だって、この企画を始めた時こそ『儂も手伝うぞ!』と息巻いていたのにあまりにも
教室の開催場所である厨房で別の仕事をしてる
──と、ゲハゲハと魔王の如き笑い声を発している主神の部屋を睨んでいた俺であったが、そこに団長であるアミッド様が声をかけてくれた。
「申し訳ありません。お1人で講師役を任せてしまって……。ですが、こちらも手いっぱいなので、申し訳ありませんが……」
「あー、良いんですよ。慣れてますから」
結婚したい──失礼。心が洗われるようだ、いつもの無表情も良いが申し訳なさそうな表情で謝られるとあのクソ爺のことなんか綺麗さっぱり忘れちまうよ。
それに、今日に限ってはアミッド様を含めた女の団員の方が男共よりも忙しいことは分かっている。
本日がバレンタインということで、あのクソ爺は『モテない男のための商売を思いついたぞ!』と禄でもない企みを数年前からし出したんだよな。最低ポーションを1ダース購入で小さなチョコ1個がおまけとしてついてくる。そこから値段を釣り上げるごとにチョコからクッキー、パウンドケーキと贈呈される品物のグレードが上がっていくのだが、問題はそこではない。
本日、エントランスで接客担当をしているのは【ディアンケヒト・ファミリア】の
『お好きな団員からチョコをもらえる』というギルドの査察に引っ掛かりそうな企みなのだ。いや、もう【ガネーシャ・ファミリア】あたりに通報した方が良いのだろうか。
話を元に戻そう。アミッド様がこのファミリアで美人の頂点であることは揺らぎようのない事実だが、うちの派閥は可愛い団員が結構──というか全員がそうだ。アミッド様のようなクール系や元気一杯なパッション系。愛らしいキュート系など様々なジャンルの子が勢揃いしている。
いや、うち医療系ファミリアだからな?
ゴホンッ、また脱線したな。ともあれ、列の長さの差はあれどチョコがもらえるというイベントに押しかけて来る男たち相手に女団員全員がひーこら言いながらポーションを販売するわけだ。
ちなみに何かしらの用があって男の団員が出て行って女の団員に話しかけた場合、その場に居た客たちに文字通り袋叩きに合う──というか、俺含めて後輩が5人ぐらい被害に
そんなわけで女性団員は接客。男性団員はその穴埋めで調剤や仕入れや贈呈品のラッピングとかを行ってるから、指南役をしている俺とぐらいしか勝手が分からないということで人員が入ってこないんだよな。アクスも居るから何とかなってるけど、困ったもんだぜ。
「あ、見つけた。そろそろ時間ですよ、皆さん既に厨房に集まってます」
「あぁ、すまん。何度も言ってると思うけど…」
「エントランスには顔を出すな──ですね、新人にも厳命しときます」
おっと、時間か。まったく、俺が居ないとあいつらは駄目なんだよなぁ~。カァーッ、ツレェわぁ!
……いや、マジで厨房が駄目になるから俺が行くまで始めるなよ? うちの派閥、【ロキ・ファミリア】とかと違って厨房いくつも持ってないんだからな!?
厨房に向かってひたすら足を動かす俺の脳裏に思い出したくない事件が浮かび上がってくる。
まずは厨房爆発事件。これは映えある第1回目の時に起きた。
初回ということで準備に手間取った俺とディアンケヒト様が急ぎ足で厨房に向かう最中──目的地が爆発した。
初めこそイヴィルス辺りがカチコミに来たのかと【ガネーシャ・ファミリア】を呼んだが、事情聴取を行った
いや、遅れた俺たちも悪いし冒険者と言ったらならず者みたいな感じだけどさ。人の派閥にお邪魔しといて勝手に動くのはルール違反っすよね。なんやかんやも『なんやかんや!』って言われてそのまま納得するしかなかったけど、あれが原因でディアンケヒト様が翌年から俺に任せてきたんだよな。フ●ック。
次は異臭事件。これは俺がちょっと目を離した時に起こった事件だ。
チョコを作っていたはずなのになぜか漆黒のゲルが出来ており、それがまるで下水を煮詰めたような激臭を放ってやがったんだ。
俺はチョコレートを作れと言ったのに、なんでダンジョンのモンスターも逃げ出すようなアイテム作ってるんだろうか。まったく、これが下界の神秘って奴か。HAHAHA!
……んなわけあるか! 専用の業者に1週間清掃頼んでやっと臭い消えたんだぞ!
──と俺の中でヤバいエピソードを語りながら厨房前まで来たわけだが。
爆発音
異臭
時間
全て万全ということで扉を開けると、今年の参加者が集まっていた。
ざっと見た感じだと冒険者が7割で他が一般人。その中には他の教室から匙を投げられた
同僚に関しては参加者を示すバッヂをどや顔で着けてるから金は払ってるし、失言かましたら無理矢理仕事させる形にしよう。
そんな彼女たちの全員の目線が
「皆様、本日はお集まりいただき……」
「あ、すみません」
ようやくこちらに気付いてくれたが、挨拶が終わる前に遮られた。
言いたいことは分からんでもないか──と、俺はすぐ横で生地をこねたりチョコを溶かしたりしている子供を指差す。その反応に声をかけて来た主婦っぽい見た目の人は首を上下に振り、俺が指を差ししていることに気付いた子供が俺とその場に居る全員を何度か見た後にぺこりと会釈をした。
うちの子にしたい──失礼。
「この子はうちで行われているバレンタイン企画の要である座敷童です。無害なのでお気になさらず」
「あ、はい」
訳が分からないといった表情を浮かべながらもとりあえずは納得してくれたらしい。ただ、俺の言ったことは『ガチ』だ。
アクスには一昨日ぐらいから本日まで厨房に泊まり込みでチョコレート菓子を作り続けてもらっている。
労働基準? 家が職場なんだから仕方ないよ。それに数人で作ったら品質がバラけるし、なによりあそこに居る忌引き女みたいに出来そうで壊滅的なやつが混ざったら目も当てられない。
後、菓子が出来上がった端から手に空いた男団員たちが丁寧にラッピングしてるから時間的に無理なんだわ。
え、女の気配がない? そりゃ、当日地獄なのに前日までやらせるのはフェアじゃねぇだろ。
え、女の子の心が籠もってない。詐欺だって? そりゃすまんね。だけど心が籠もってないわけじゃないぞ。
ディアンケヒト様がどこからか仕入れてきた大きく『心』って書かれたシャツ着て作業してるし、ラッピング後のやつにはデメテル様直伝の指ハートをやってるんだ。全員漏れなく死んだ魚のような目をしてるけど、心が籠もってないとは言わさんぞ!
え? 男の願望を踏みにじるなんて汚いって?
──大人ってね、汚いんだよ。
……とまぁ、ちょっと言い訳させてもらったけどここにアクスが居るのは何ら間違ってない。
すると、テキパキと菓子を作っては隣の部屋に持っていく彼の姿に口を手で覆いながら自身の戦闘力の無さを嘆く冒険者が居るものの、色々面倒くさくなった俺は口を開く。
「それでは、講座の方を始めさせていただきます。まずは──」
俺は戸棚から『フィルヴィスさん専用』と書かれた蒸留酒の入ったデカい瓶を取り出し、ドゴンッという音と共に机に置く。はじめはなにより手洗いと消毒である。
あ、別にうちが【ディアンケヒト・ファミリア】だからとかじゃないよ。数年前に冒険者が一般人にチョコ渡して毒殺しかけたから、その対策だよ。
なんでも【耐異常】の発展アビリティ持ってるアマゾネスがダンジョン産の食材を纏わせたチョコを一般人に食べさせたかったけど、パープル・モスの毒鱗粉に気付かないで調理を開始したらしい。発展アビリティ持ってる高レベル冒険者は下級冒険者や一般人と認識が乖離しやすいからな、仕方ない仕方ない。
んで、本来ならば治療院行きは確実なんだが、そこにアクスが歩いてきたらしくてな。毒消しの薬草で峠は越えたわけだ。
『なんで都合よくそこに居る』なんて聞くんじゃねぇぞ?
すると、流石に食中毒辺りの危険性はメシマズでも知っていたのか文句1つ無く全員手洗いと消毒をしてくれた……が、ここから先の行程は山あり谷ありの連続なんだよな。
「えー、まずはいくつか注意をさせてもらいます。毛髪の類や老廃物といった人体の一部を練り込む行為はご遠慮ください」
「えぇー!」
何度か聞いてるはずの常連含めて文句が飛ぶ。『えぇー』じゃねぇよ、不衛生極まりないんだよ! そんなんで特別感出されても逆に引くわ!
「文句は受け付けません。次に、処方箋無く媚薬やら興奮剤やら精力剤の一切はお売りできません。ご了承ください」
「え、何のためにここの教室来たと思ってるの!?」
チョコレートを作るためだろ?
「
いや、この前神に頼まれてミノタウロスの生き血使った精力剤作ってたけどさぁ。あれってクエスト扱いだし、ちゃんと身元確認とかしてるわけよ。うちの団長を薬作っては、処理に困ってチョコレートに混ぜ込むよう仕向ける危険人物みたいに言わんといてもろて。
すると、忌引き女が口を挟んできた。
「え、あんた無味無臭の興奮剤作ろうとしてなかった?」
「この前失敗したっつっただろうが! 後、仕事しろ」
「はぁー!? 私、今日休みじゃん!」
「お前の母ちゃん何回死んでるんだよ! ダンジョンのモンスターから生まれてきたんか、お前は!」
あの時出来た無味だが夏場に放置された吐しゃ物のような吐き気を催す激臭の液体を思い出した俺は口元を抑えながら近くのボタンを押しこむと、厨房の扉が騒々しく開かれる。外から心なしかげっそりしている団長含めた女の団員たちが一斉に厨房へとなだれ込み、忌引き女を捕まえるとそのまま連れ去っていった。
一連の捕縛劇を見た生徒たちが一様に呆然としていたものの、時間は有限。さっさとチョコレート作って帰って欲しい一心で俺は手を叩いて注目を集める。
「それでは、チョコレート作りを始めてください。分からなければ遠慮なくお聞きください」
俺が営業スマイルをしながら一礼をすると勝手知ったる
この教室では全員が揃ってチョコレートを作るような一般的な教室形式にはしていない。各々が好きな量のチョコレートを好きな形にし、満足が行けばそのまま名簿に記入してから退室──というのが一連の流れだ。
これは教室にありがちな『一定時間の拘束』を排除することで都合をつきやすくし、『手軽さ』を演出することで人を呼び込むといった手法らしい。あれ、うちの主神って商売の神じゃないよな?
「あの、なにをして良いのか分からないんですが」
「はい、構いませんよ。まず、渡したい方は甘いのが得意な方でしょうか?」
「甘いのはあまり得意ではなかったと思います。なので、ちょっと苦めなものってありますか?」
「御座いますよ。では、薄力粉や卵などで混ぜ合わせた生地で作ったテリーヌにしてみましょう。レシピもありますが、よろしければお手伝い致しましょうか?」
「あ、私にもそれを教えてくれない?」
ただ、別に放任主義という訳じゃない。『教室』と謳っている癖にそんなことをすれば詐欺だしね。
相談してくる人には丁寧に対応して、要望があれば手伝いをしながら作っていく。中には作っていく内に興味が出てきた人のフォローに回ったりなどをして中々に忙しいが、1人。また1人と出来上がったお菓子を綺麗にラッピングして出て行った。
「あぁ……、焦げちゃった。もうそろそろ約束した時間なのに……」
「差し出がましいようですが、この子の作ったお菓子をお持ちになられますか?」
「良いんですか?」
「もちろんです、お好きな物をお持ちください。失敗した物もご自身のおやつにどうぞ」
上手に出来た人も居ればうまく作れなかった人も当然存在する。後者の場合は失敗作と一緒にアクスの作った菓子をいくつかお土産として持ち帰ってもらうことも提案させてもらっているが、高い金をもらっている以上は当然と言えるんじゃないかな。
そんなことをしていたらメシマズが駈けこんで来るヤベー所であったこの教室も、今では普通の教室のように結構盛況である。その結果からディアンケヒト様やアミッド様から俺がこうしたいっていったら2つ返事で許可と一緒に裁量権をくれたし、今後ともこの方針は変わらないと思う。
さて、話は変わるが大抵の人は既にチョコレートや菓子を手に退出した。本来ならばこれで教室は終わり……なのだが。
相変わらず無法をしようとしている
あ~、気分が重い。
「美味しい!」
「美味いな」
景気付けにアクスがつまみ食いしていたパウンドケーキの端っこを分けてもらい、それを口に入れる。少し硬い食感の後に追いかけて来るチョコレートのほのかな甘みと小麦の素朴な甘さとバターの風味が合わさってしみじみ美味い。真ん中派も居るが、俺は断然端っこ派だな。
とりあえず腹に物を入れたことで元気を得た俺は、丹田に力を込めながら大きな鍋一杯にチョコを溶かしている第1級冒険者に声をかけた。
「あの、
「あら、見て分からない? 私に塗りたくるチョコをとかしてるのよ。お金払ってるんだから、沢山チョコを溶かしても問題ないでしょ?」
問題しかねぇわ!
お前、去年は胸の型取って『パイチョコ』作ろうとしてただろ。なんで断られた案をさらに練り上げた上で進化させてんだよ!
ただ、それを面と向かって言うと
「あの、どうやって帰るんですか?」
「普通に歩いて帰るけど?」
「動くと固まったチョコが剥がれません? 後、体温で溶けるかと」
「……あっ」
マジか、こいつ何も考えてなかったのかよ。
いくら今の時期は寒くても、チョコレートなんて大した加工してなきゃ体温ですぐに溶けるんだぞ。
それに固まったチョコが歩くたびボロボロ崩れて、仮に
は? 『じゃあどうすれば良いのよ?』って?
ただ、そんなことをうっかり返すことも出来ない。なのでどうやったら納得してもらえるかと悩んでいると、何やら戸棚から密閉した容器を取り出してきたアクスが
「ティオネさん、これが良いかと」
「あら、綺麗なドライフルーツ。アミッドの?」
「うん。綺麗でお酒のおつまみになるから、僕が作って寝かせてた」
本格的にお菓子屋に就職しても大丈夫なんじゃないか、こいつ。
そう言えば、アミッド様のおつまみって大抵アクスの作った物なんだよな。あの人、すっかり胃袋を掴まれてる自覚はあるのだろうか。
そんな心配事を余所に
「こうやってクッキーの上にチョコを薄く塗ってから、ドライフルーツを乗せたら綺麗だよ」
「紅茶と合わせたティータイムに出しても良さそうね。お勧めはあるかしら?」
「紅茶は分かんない。だけど、レフィーヤさんの知り合いの人が喫茶店してるから聞けば教えてくれるんじゃない?」
「たしかそんなこと話してたわね。ふふ、良い贈り物が作れそう。ひとまず、これを教えてもらえるかしら?」
とんとん拍子に作るものが決まる。危うく逮捕者が出る大惨事を何とか納められたことに安堵していると、アクスがひたすらこっちに合図を送ってくる。はいはい、分かってるよ。
すかさず俺が
「なに?」
「サービス!」
そう言って両手で差し出したのは2つの人型を模したクッキーが入った袋。アマゾネスの持つ独特な肌色になるぐらいまで焦がした生地の上にはチョコレートや丸くて小さな砂糖菓子などで飾り付けられており、見た目がまんま
その横には少々小さいが、同じく焦がした生地にチョコレートや砂糖菓子で飾り付けられたクッキーが袋に入っている。ありゃ
「私とティオナ?」
「常連さんには優しくしなさいって」
あー、ディアンケヒト様の教えだな。あぁやって無自覚に脳焼くからなぁ、アクス。【ヘルメス・ファミリア】のランキングでも上位層に色々食い込んでるし、そろそろ
「
「テイクアウトで」
「非売品です」
こいつを連れてくなら数億ヴァリスと共に俺たちを全員倒し──あ、すぐさまやりそうで怖いから言わないでおくか。軽く舌打ちをされながらも
右を向けば『粉ってどれ使ったらいいの?』、『男の子だし強い方が良いんじゃない?』など謎の会話をする一般人が2人。
左を向けば『人体じゃないし、老廃物じゃない。良いわよね』と自分の血液を入れようとするヤベー冒険者が1人。
前を向けば『いつも私はやり過ぎてしまう』、『出来た~』と明らかにチョコレートの黒さではない劇物を製作するエルフとヒューマン。
右のはともかく、左のはマジで止めろ! そして前の奴らは飲食店に居るのになんでそんなの作ってんだよぉ!!
結局、『血のバレンタイン』を行おうとした左側の冒険者を実力行使で黙らせてから出禁処理をした後、
チョコレートじゃないことに件のエルフとヒューマンは目を丸くさせていたが、アクスが『ベルさんって甘い物苦手ですよ』と言ったことで納得して帰っていった。お前ら、事前に調査しとけよ……。
***
その後、固まったチョコレートが所々に張り付いた面倒くさい厨房を途中で合流したラッピング班と清掃し、治療院の業務が終わったタイミングで全員揃っての夕食。歓喜をしていたものの、甘ったるい匂いで吐き気を催したが根性で乗り切った俺たちは手早く入浴してから夜勤以外の連中と共に自室へ向かおうとする──が。
「マルタさん、どうしたんすか?」
「しっ、今良い所だから」
家政婦が何か重大なことを発見したような体勢で何かを見つめるマルタさん。奥の柱ではベルナデットさんとその他数人が同じ体勢で何かを見張っている。
どれどれ……。あ、はーん。理解した、理解した。確かに重要だ。
ちなみにだが、マルタさんとベルナデットさんが見張っている2か所だけではない。階段の上や近くの棚の後ろなど、もはやすべての団員が勢揃いしているかのような厳戒態勢の状況で
「アクス、これ。バレンタインだから」
「わーい」
若干恥ずかしがりながらアミッドさんが小さな包みをアクスに手渡す。正直、これだけでご飯3杯イケるのだが、ここで油断してはいけない。あの人はよく怖気づいてポンのコツになる。俺は詳しいんだ。
え、散々アミッドさんに『結婚したい』とかアクスを『息子にしたい』とか言ってたのに舌何枚あるんだよって?
馬鹿野郎、好きな女には幸せになってもらいてぇじゃねぇか! それが俺じゃなくても良いんだよ!
あ、嘘。若干、『ワンチャンねぇかな』と思ってる。ごめんなさい。
「開けて良い?」
「どうぞ」
お、アクスが開けるぞ。
去年はたしかハンカチで、一昨日がモンスターの名前が書いたTシャツだったよな。あれらには団員全員が呆れて、アミッドさんに『教育』したけど……。さてさて?
「なにこれ」
「新しい調合を試した薬。今までよりも効果が高い物よ。アクス、最近調合を頑張って勉強してるから、参考になればって」
なんだろう──この感情は。
例えるならばずっと欲しかった英雄譚を親が買ってきてくれて、喜んで受け取ると文字を1文字別にしたパチモンだったような……。
例えるならば雰囲気が良い喫茶店に入った瞬間、極東の出汁の香りが鼻をくすぐって周囲がそれぞれ豊穣の女主人並の大盛料理を食べていたような……。
そんな──そう。『コレジャナイ感』に俺どころか近くに居たマルタさんの目が何かを射殺すような鋭い物へと変わった。その目に俺の心臓が思わずキュッと悲鳴を上げたのは言うまでもない。
「【ディアンケヒト・ファミリア】のため 粉骨砕身で働くことを お誓いします」
「え? あ……、うん。頑張ってね」
アクスの反応が芳しくないことにアミッド様は首をかしげている。美味しいお菓子とかをもらえると思ったんだろうなぁ、可哀想に。
そのままとぼとぼ歩いていくアクスの後姿が捨てられた子犬のように感じた俺は、近くのマルタさんに目配せしてから彼の回収する。俺の秘蔵のお菓子コレクションで機嫌を直してやるぜぇ!
おっと、寝る前の歯磨きは忘れるんじゃねぇぞ!
「アミッド様、ガッカリです」
「団長は人の心が分からない……」
「少々"教育"が足りなかったみたいですね」
「聖女様、拷問のお時間です」
「熱々の煮物の準備してきます」
「あ、あなたたち! 見てたんですか!」
後ろからアミッド様の慌てた声と彼女を取り囲む団員たちの声が聞こえるが、ぶっちゃけあの対応は俺的にアウトだと思う。
精々人の色恋に熱狂的な団員たちの玩具になって、来年こそはまともな贈り物を贈れるようになって欲しいと俺はアクスを自室に呼びこむと、備蓄していた菓子を振舞った。
「お兄ちゃん、"愛"ってなんだろね」
「ためらわないこと……かなぁ」
モシャモシャと焼き菓子を頬張るアクスが哲学的なことを言い出したが、そんなの俺が知るわけないだろう。
こうしてなんやかんやあったが、治療院を爆破してくる輩や頭のおかしな連中が厨房に殴りこんでくることはなく、平穏にバレンタインを終えることが出来た。
え、平穏のレベルが低い? オラリオでは普通だよ、普通。
今回はとある団員視点で語らせていただきました。
とある団員
勤続年数は長く、チョコレート製作教室という名の貧乏籤を押し付けられたLV2。
『アミッドを嫁。アクスを息子にした派』の1人。基本的に同担拒否なので、同じ派閥の奴には男女平等鉄拳で白黒つけている。
アクス
自己肯定感が低いせいでなんでもどん欲に取り込んいくため、『こいつ、今すぐほっぽり出してもどっかで生きていける』と周囲から思われいる座敷童。
ちなみにそれを行った場合、『自分が不必要な人間』だと暗くなって餓死一歩手前でデメテルあたりに保護されるルートなのは秘密。子供のメンタルは脆いんだぞ!
アミッド
人の心が分からないというか、土壇場でヒヨってプレゼントを変えた人。
ちなみに熱々の鍋物を強制的に食べさせるのは南極条約違反だから止めようね。
なお、『裸リボンこそ正義』や『ポッ●ーゲーム』と神々の入れ知恵が随所に含まれた団員たちからの声にキレた模様。
デメテル直伝の指ハート
書いたら出るって誰かが言ってたから…。嘘つきぃ!
愛ってなんだろ
なんか新しく始まりましたね。
独り言
なんか、休みって宣言したら書きたい物溢れてきたので四方山だったり、執事アクスだったりと片っ端から色々書いてます。(執事アクスはエピソードヘイズでフレイヤ・ファミリアの内情知った後の方がよさそうだなぁと思ってたり)
年齢1桁で学区に密入国して、なし崩し的にバルドルの眷属になった用務員アクスとか面白そう。
段階的に巨大化&硬くなっていく鎧を自分に纏う魔法を使う感じで、鎧以外は【神秘】アビリティと竜の素材で武器とかサポート装備を作るとか。
フリングホルニ(学区)の船首から魔道具でかっとんで行ったり、2台のクレーンを使ってパチンコの要領で無理矢理射出して『私が来た』する巨人(IN パルゥム)…見たい!
本編進めろ? 処女作(ナイツマ二次)でやれ? それはそう。
でも、憧れは止められねぇんだってどっかのモフモフしたのが言ってた。